説明

殺虫剤、殺虫方法、および殺虫剤噴射装置

【課題】 害虫を効率よく殺傷するとともに、地球環境に対して全く影響を与えず、かつ、人体に対しても全く無害である殺虫剤、殺虫方法、およびこの殺虫剤を安定的に散布できる殺虫剤散布装置を提供する。
【解決手段】 液体空気を貯蔵する液体空気貯蔵部1と、該液体空気貯蔵部1の開口部から延びて液体空気が流通可能である液体空気供給管2と、該液体空気供給管の先端に設けられて液体空気が噴射可能であるノズル3とからなる殺虫剤噴射装置であって、前記ノズルに、圧縮空気が流通可能である圧縮空気供給管6が設けられ、該圧縮空気供給管の一端に、圧縮空気を貯蔵する圧縮空気貯蔵部5が設けられた殺虫剤噴射装置を用いて、液体空気を噴射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫の駆除に用いられる殺虫剤、殺虫方法、殺虫剤噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴキブリ、ダニ、蚤、虱などの害虫を駆除する方法としては、薬物由来の殺虫剤を用いる方法が一般に知られている。しかしながら、このような殺虫剤は人体に対しても、少なからず毒性を示すため、食品や衣類などの人体に直接接するものに対しては、その使用に制限があるという問題があった。
【0003】
このような問題を解決する手段として、ドライアイスによる炭酸ガスを用いて害虫を駆除する殺虫方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この殺虫方法を用いると、高濃度の炭酸ガスによる窒息性と極低温度による冷却刺激とにより、害虫を効率よく殺傷するとともに、人体に対して無害であるとされている。
【特許文献1】特開平5−219872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にかかる殺虫方法にあっては、用いられる炭酸ガスが地球温暖化の主要な原因物質であり、その使用量が増加した場合には、気温上昇などの地球環境変化を引き起こすという問題があった。また、炭酸ガスは窒息性のガスであり、気密した空間において使用すると、空気中の炭酸ガス濃度が高まって、空間内にいる人体を窒息させる危険性があるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、害虫を効率よく殺傷するとともに、地球環境に対して全く影響を与えず、かつ、人体に対しても全く無害である殺虫剤、殺虫方法、およびこの殺虫剤を安定的に噴射できる殺虫剤噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、液体空気を有効成分とする殺虫剤である。
【0007】
請求項2にかかる発明は、液体空気を、殺虫処理を必要とする処理対象物に噴射する殺虫方法である。
【0008】
請求項3にかかる発明は、液体空気を貯蔵する液体空気貯蔵部と、該液体空気貯蔵部の開口部から延びて液体空気が流通可能である液体空気供給管と、該液体空気供給管の先端に設けられて液体空気が噴射可能であるノズルとからなる殺虫剤噴射装置であって、前記ノズルに、圧縮空気が流通可能である圧縮空気供給管が設けられ、該圧縮空気供給管の一端に、圧縮空気を貯蔵する圧縮空気貯蔵部が設けられた殺虫剤噴射装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の殺虫剤および殺虫方法によれば、液体空気の冷却刺激によって害虫を効率よく殺傷することができるとともに、気化した後は通常の空気となるため、地球環境に対して全く影響を与えず、かつ、人体に対しても全く無害である。
また、本発明の殺虫剤噴射装置によれば、極低温の液体空気によりノズル内に発生する可能性がある結氷を、圧縮空気の圧力によって排出することができるため、ノズルが詰まることなく安定的に液体空気を噴射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の殺虫方法に好適な殺虫剤噴射装置の一実施形態を、図1および図2に基づいて説明する。
この例の殺虫剤噴射装置は、液体空気貯蔵部1、液体空気供給管2、ノズル3、圧縮空気貯蔵部5、圧縮空気供給管6から概略構成されている。
【0011】
液体空気貯蔵部1は断熱性および耐圧性を有するボンベなどの容器であり、内部に液体空気が貯蔵される。この液体空気としては、大気中の空気を圧縮、冷却、断熱膨張を繰り返し行って液化したものを用いる。また、得られた液化空気には蒸留などは行わずに、大気中の空気が有する窒素、酸素、希ガスなどの成分を保持したままにする。なお、液体空気の沸点は−191.5℃であるため、液体空気貯蔵部1の内部は、この温度よりも低く保持される。また、液体空気貯蔵部1には圧力・温度メータ1aが設けられている。
液体空気供給管2は、液体空気が流通可能な流路を形成しており、液体貯蔵部1とノズル3とを連結している。この液体空気供給管としては、非凍結性のメタルチューブなどが用いられる。
【0012】
ノズル3は、液体空気をシャワー状に噴射するためのものであり、液体空気供給管2の一端に接続されている。このノズル3には、携帯性を高めるためのグリップ3aとトリガー3bが設けられている。このトリガー3bは、図2に示すように、ノズル3の内部にあって液体空気の流量を調節するための液体空気弁3c、および後述する圧縮空気の流量を調節するための圧縮空気弁3dと連動しており、トリガー3bを引いた際、液体空気弁3cおよび圧縮空気弁3dが開くようになっている。また、液体空気弁3cおよび圧縮空気弁3dの各開度の比率は、図1に示す開度比率調節部3eを操作することにより調節可能である。例えば、液体空気弁3cに対して、圧縮空気弁3dをより広く開きたい場合には、開度比率調節部3eを操作して設定しておくことにより、トリガー3bを引いた際に、圧縮空気弁3dを液体空気弁3cよりも広く開くことができる。
【0013】
なお、ノズル3には、ホーン4が設けられており、液体空気および圧縮空気が噴射する際に発生する騒音を軽減するようになっている。またノズル3およびホーン4は、操作者の手が直接触れる部位であるため、ウレタンなどの断熱材料によってコーティングされていることが好ましい。
【0014】
圧縮空気貯蔵部5および圧縮空気供給管6は、それぞれ液体空気貯蔵部1および液体空気供給管2と同様な構造を有しており、ノズル3内に圧縮空気を供給するようになっている。圧縮空気は、トリガー3b操作により圧縮空気弁3dを開くことにより、ノズル3内に導入され、液体空気とともにホーン4を介して外部へ噴出する。
なお、圧縮空気貯蔵部5には圧力・温度メータ5aが設けられている。
【0015】
このように、この例の殺虫剤噴射装置にあっては、極低温の液体空気により結氷が発生し、ノズル3が詰まったとしても、圧縮空気貯蔵部5、圧縮空気供給管6から供給される圧縮空気の圧力によって、この結氷を取り除くことができる。従って、安定的に液体空気を噴射することができる。また、液体空気は、圧縮空気とともに噴射されるため、この圧縮空気の圧力によって短時間で遠方に噴射されることが可能となる。従って、液体空気の有効射程範囲、すなわち液体空気が液体のまま処理対象物に到達する距離を延ばすことができる。
【0016】
以上の構成を有する殺虫剤噴射装置を用いた殺虫方法の一実施形態を、以下に説明する。
先ず、上記殺虫剤噴射装置のノズル3の噴射口を、殺虫処理を必要とする処理対象物に向ける。この処理対象物は、本発明において特に限定されず、殺虫処理を必要とするとともに極低温にあっても問題のないものであれば、全て上記処理対象物に該当する。また、殺虫処理により駆除される害虫は、本発明において特に限定されず、例えば、蚊、ハエなどの飛翔性昆虫、ゴキブリ、ダニ、蚤、虱、アリなどの家屋害虫、コクゾウムシ、コクヌストなどの貯穀害虫などが上記害虫に該当し、さらに、病原性細菌、病原性ウィルスなどの微生物、ねずみなどの小動物も上記害虫に該当する。
【0017】
ついで、ノズル3のトリガー3bを引いて、液体空気および圧縮空気を液体空気貯蔵部1および圧縮空気貯蔵部5からそれぞれ取り出し、ノズル3を介して処理対象物に噴射する。処理対象物に生息する害虫は、この液体空気を浴びて急激に冷却されることにより死亡する。また、液体空気を直接浴びなかった場合においても、害虫は液体空気から気化した極低温の空気と接触することにより死亡する。
【0018】
液体空気を噴射した後は、処理対象物は害虫とともに極低温に冷却されている。この極低温の処理対象物に手を触れることが危険であることは言うまでもない。従って、処理対象物には手を触れずに、そのまま静置して常温に戻るのを待つ。常温に戻った後は、処理対象物を掃除機などで清掃することにより、害虫の死骸を除去する。
【0019】
このように、液体空気はその冷却刺激によって殺虫効果を発揮することができる。また、液体空気は、気化した後、暖められて通常の空気に戻るため、処理対象物に何ら害を与えないことは勿論のこと、操作者や近隣の人々の人体に対しても全く無害である。さらに、液体空気を殺虫剤として大量に使用しても、地球上の大気組成を変化させることがないので、地球環境に対して全く影響を与えない。
【実施例】
【0020】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明は、下記実施例に何ら制限されるものではない。
【0021】
[実施例1]
実施例1では、本発明の殺虫方法により害虫の殺虫を試みた。以下に具体的な手順を説明する。
【0022】
害虫としては、チャバネゴキブリを10ないし20匹用い、これら害虫を、固定部材で倒れないように固定されたガラス容器内に入れた。ついで、このガラス容器内に本発明の殺虫剤である液体空気を、上記殺虫剤噴射装置を用いて噴射した。なお、噴射時間は約30秒であった。
結果、全ての害虫が凍結して死亡したことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態にかかる殺虫剤噴射装置の一例を示す概略側面図である。
【図2】本発明の実施形態にかかる殺虫剤噴射装置のノズルの一例を示す概略断面図図である。
【符号の説明】
【0024】
1・・・液体空気貯蔵部、2・・・液体空気供給管、3・・・ノズル、5・・・圧縮空気貯蔵部、6・・・圧縮空気供給管


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体空気を有効成分とする殺虫剤。
【請求項2】
液体空気を、殺虫処理を必要とする処理対象物に噴射する殺虫方法。
【請求項3】
液体空気を貯蔵する液体空気貯蔵部と、該液体空気貯蔵部の開口部から延びて液体空気が流通可能である液体空気供給管と、該液体空気供給管の先端に設けられて液体空気が噴射可能であるノズルとからなる殺虫剤噴射装置であって、
前記ノズルに、圧縮空気が流通可能である圧縮空気供給管が設けられ、該圧縮空気供給管の一端に、圧縮空気を貯蔵する圧縮空気貯蔵部が設けられた殺虫剤噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−83099(P2006−83099A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−269767(P2004−269767)
【出願日】平成16年9月16日(2004.9.16)
【出願人】(000101938)イカリ消毒株式会社 (33)
【Fターム(参考)】