説明

毛包前駆細胞を皮膚に送達する方法

細胞は、その細胞が所望される領域に創傷を作製し、そしてその創傷上に、その細胞を置くことにより、その細胞の固有の特徴を妨げることなく、表皮に送達され得ることが発見された。本発明は、皮膚に創傷を作製し、そしてその創傷上に、毛包前駆細胞を置く工程を包含する、生える毛幹を形成する方法であり、ここで、生える毛幹は、その毛包前駆細胞から形成される。本発明はまた、皮膚に創傷を作製し、そしてその創傷上に皮膚形成細胞を置く工程を包含する、新しい皮膚を形成する方法であり、ここで、新しい皮膚は、その皮膚形成細胞から形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2005年10月17日に出願された米国仮特許出願第60/727,588号の利益を請求し、米国仮特許出願第60/727,588号は、本明細書中に参考として援用される。
(連邦政府の支援による研究または開発に関する陳述)
適用なし。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
適切な細胞送達技術の開発は、多くの用途に対して重要である。この細胞は、被験体の適切な部分に送達されなければならないだけではなく、この細胞の形態も維持されなければならない。細胞の形態は多くの状況において重要であり得る。細胞の形態は、この細胞の健康状態および細胞の分化状態の両方の観点において、細胞の状態を示す。細胞の形状における変化または形態発生は、細胞の機能、発達、および疾患の中核をなす。細胞における生理学的プロセスはしばしば、細胞形態における変化を伴う。例としては、細胞構成物質(例えば、細胞小器官、高分子クラスター、または細胞骨格)の細胞内の位置、配置および構造における変化、細胞全体の形態(例えば、その形状および面積)における変化、細胞間の間隔および近接性、ならびに多細胞コロニーの特性(例えば、その形状、大きさ、および細胞の位置)における変化が挙げられる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
(発明の要旨)
一つの実施形態において、本発明は、皮膚に創傷を作製し、そしてその創傷上に、毛包前駆細胞を置く工程を包含する、生える(egressing)毛幹を形成する方法であり、ここで、生える毛幹は、その毛包前駆細胞から形成される。本発明はまた、皮膚に創傷を作製し、そしてその創傷上に皮膚形成細胞を置く工程を包含する、新しい皮膚を形成する方法であり、ここで、新しい皮膚は、その皮膚形成細胞から形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0004】
(発明の詳細な説明)
細胞は、その細胞が所望される領域に創傷を作製し、そしてその創傷上に、その細胞を置くことにより、その細胞の固有の特徴を妨げることなく、表皮に送達され得ることが発見された。その細胞は、本発明の方法による、送達の際に、所望の構造を形成するようにそれら自体が適切に適応することが予想される。適切には、その細胞は、その創傷の上の皮膚の表面上に置かれ得るか、またはその創傷自体の中に置かれ得る。
【0005】
本発明の細胞送達方法は、出現毛幹を形成するために用いられ得る。本発明の細胞送達方法はまた、皮膚潰瘍、糖尿病性足部潰瘍、褥瘡、火傷、微生物感染、および瘢痕(例えば、手術、座瘡、または病気(例えば、水痘)に起因する瘢痕)を含む(しかし、それらに限定されない)状態を処置、修復、または改善するための新しい皮膚を形成するために用いられ得る。本発明の方法による適切な細胞の送達はまた、汗腺、爪、眉、睫毛、または他の毛を形成するために、用いられ得る。本発明の方法はまた、遺伝学的に改変された自己細胞、同種異形細胞を用いて、真皮または表皮を形成するために用いられ得る。適切には、本発明の細胞送達方法は、皮膚の真皮層および表皮層の両方を形成するために用いられ得る。あるいは、その真皮層または表皮層のいずれかが、本発明の方法により形成され得る。
【0006】
上記創傷は、上記細胞が所望される領域の外側の表面を破壊する任意の技術(例えば、鋭利な器具(メスの刃または針が挙げられるが、それらに限定されない)を用いて、その領域を、刺すか、切るか、またはひっかく)により、形成され得る。その創傷はまた、針(例えば、微小針または溝付き針)を用いて、その領域を磨耗することで形成され得る。
【0007】
特定の実施形態において、上記鋭利な器具は、測定された深さを有する創傷を形成するように改変され得る。例えば、その創傷は、少なくとも約10μmの深さ、少なくとも約200μmの深さ、約500μm未満の深さ、または約250μm未満の深さであり得る。その創傷は、約10μm〜約500μmの深さであり得る。その創傷は、最大長が無制限であり得る。本発明の特定の実施形態において、その創傷の深さは、表皮下、真皮乳頭層、上方の真皮網状層または先端の皮膚(掌または足の裏の皮膚)の爪床と同じレベルにその細胞を送達するために調節され得る。適切には、その創傷は、上記被験体が出血しないほど十分に浅い。その創傷は適切には、瘢痕を形成することなく治癒する。
【0008】
上記細胞が、上記創傷の上に置かれた後、その創傷は、帯具または包帯;例えば、非接着性包帯、または透明なプラスチックの包帯(例えば、Tegaderm(登録商標)(3M、St.Paul,MN))またはゲル性の熱傷包帯(burn dressing)で覆われ得る。ワセリンなどもまた、その創傷に加えられ得る。その包帯は、約3日〜約7日間、その場所に置かれ得る。適切には、その包帯は、実質的に水非透過性であり得る。
【0009】
上記細胞は、真皮細胞、表皮細胞、表皮幹細胞、基底細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、またはそれらの組み合わせを含み得る。その細胞は、濾胞源、エクリン源または爪の源に由来し得る。適切には、その細胞は、皮膚形成細胞または毛包前駆細胞である。本発明の特定の実施形態において、表皮細胞と真皮細胞の比は、適切には、約10:1〜約1:10である。適切には、その比は、約1:1〜約5:1である。
【0010】
上記細胞は、生理学的に受容可能なキャリア(例えば、滅菌生理食塩水溶液)中の懸濁液中に提供され得る。さらなる成分もまた、この細胞懸濁液に加えられ得る。適切なさらなる成分としては、成長因子、栄養分子、または安定化分子が挙げられる。
【0011】
以下の実施例は、本発明のさらなる理解を補助するために提供される。用いられる具体的な物質および方法は、本発明の例示であると考えられ、特許請求の範囲を制限することを意味されない。
【実施例】
【0012】
(実施例1.マウスの皮膚の表面上の皮相切断部に投与される濾胞誘発性細胞からの髪の外側への成長(outgrowth))
胸腺欠損ヌード(nu/nu)マウス(Charles River,Inc)に麻酔をかけ、そして表面の切断部のグリッドを、Number11のメスの刃を用いて、背面の皮膚上に作製した。その切断部は、出血しないほど十分に浅かった。新たに単離された新しく生まれたブラックマウスの皮膚細胞(これらは、100,000個の表皮細胞および200,000個の真皮細胞を含む)を、以下のように調製した。体幹の皮膚を新しく生まれたマウスから取り出し、Ca2+およびMg2+を含まないPBS中で洗浄した。その皮膚を、Dispase(2.5mg/ml、Invitrogen,Calsbad,CA)を含むPBS中に、4℃で一晩中、または37℃で2時間、平らに寝かした。誘発性真皮細胞および表皮細胞を、Weinberg et al.,J.Invest.Dermatol.,100:229−236(1993)(本明細書中に参考として援用される)に記載されるように、単離した。2マイクロリットルの滅菌生理食塩水溶液中の、細胞の懸濁液を、ピペットにより切断部のグリッドに送達した。その皮膚を、数秒間の間ゆるやかに引き、流体をグリッドの至るところに運んだ。非接着性の疎水性の包帯(ワセリンで被覆されたガーゼ)を、その創傷に適用し、そしてそのマウスを弾性のラップでさらに包帯をし、麻酔からの回復の際に上記包帯がとれてしまうことを防止した。その包帯を10日後に取り除いた。2週間後に、髪の成長が、主にグリッドパターン内に観察された(図1、挿入)。次にそのマウスを安楽死させ、そして皮膚をゆっくりと取り出した。皮膚の下側の観察により、内側に成長する髪がほぼ全くないこと、および皮膚の表面に見られる目に見える髪に対応する濾胞球の存在が示された。
【0013】
(実施例2.マウスの皮膚の表面上の皮相刺創に投与される濾胞誘発性細胞からの髪の外側への成長)
胸腺欠損ヌード(nu/nu)マウス(Charles River,Inc)に麻酔をかけ、そして皮膚の表面に対して低い角度で保持したNumber11のメスの刃の先端で突き刺すことで、刺創を作製した(図2)。新たに単離された新しく生まれたブラックマウスの皮膚細胞(これらは、100,000個の表皮細胞および200,000個の真皮細胞を含む)を、上に記載されるように調製した。2マイクロリットルの滅菌生理食塩水溶液中の、細胞の懸濁液を、ピペットにより切断部に滴注した。非接着性の疎水性の包帯(ワセリンで被覆されたガーゼ)を、その創傷に適用し、そしてそのマウスを弾性のラップでさらに包帯をし、麻酔からの回復の際に上記包帯がとれてしまうことを防止した。その包帯を10日後に取り除いた。2週間後に、髪の成長が、ちょうど刺創の部位に観察された(図2、挿入)。次いで、そのマウスを安楽死させ、そして皮膚をゆるやかに取り出した。皮膚の下側の観察により、内側に成長する髪がほぼ全くないこと、および皮膚の表面に見られる目に見える髪に対応する濾胞球の存在が示された。
【0014】
(実施例3.異なる創傷包帯材料の使用)
表1に示される、異なる型の創傷包帯材料を用いて、実施例1および実施例2を繰り返した。
【0015】
【表1】

(実施例4.自己細胞の皮相切開部への添加による、はげた頭皮における新しい髪の成長)
皮相創傷を、外科用刃またはメスを用いて、グリッド、多数交差、平行線、または髪の成長のための所望の美的効果を達成するための類似のパターンとして、ヒト被験体の頭部の上に作る。次に、懸濁液中の自己ヒト発毛性真皮細胞および表皮細胞(これらは、髪の色素沈着を回復させる必要がある場合、毛包メラノサイトと必要に応じて混合される)を、ピペットチップまたはシリンジで、皮相切断部の上に広げ、そしてその創傷を、皮膚に取り込まれる前にその細胞が乾燥するのを防止するため、2〜3日間覆う。次いで、生える毛包が形成される。
【0016】
(実施例5.表皮細胞の皮相切開部への添加による、はげた頭皮における新しい髪の成長)
創傷を、外科的刃またはメスを用いて、グリッド、多数交差、平行線、または髪の成長のための所望の美的効果を達成するための類似のパターンとして、ヒト被験体の頭部の上に作る。次に、懸濁液中のヒト発毛性真皮細胞(これは、髪の色素沈着を回復させる必要がある場合、毛包メラノサイトと必要に応じて混合される)のみを、ピペットチップまたはシリンジで、皮相切断部の上に広げ、そしてその創傷を、皮膚に取り込まれる前にその細胞が乾燥するのを防止するため、2〜3日間覆う。次いで、生える毛包が形成される。
【0017】
(実施例6.糖尿病性足部潰瘍を有する被験体を処置するための新しい皮膚の形成)
糖尿病性足部潰瘍を有する被験体に、局所麻酔または全身麻酔の形で麻酔をかけ、その潰瘍に、一連の皮相切断部を作製する。その切断部は、出血しないほど十分に浅い。2マイクロリットルの滅菌生理食塩水溶液中の、基底細胞の懸濁液を、ピペットにより切断部に送達する。その皮膚を、数秒間の間ゆるやかに引き、流体をグリッドの至るところに運ぶ。非接着性の疎水性の包帯(ワセリンで被覆されたガーゼ)を、その創傷に適用する。その包帯を10日後に取り除く。新しい皮膚が形成し、そしてその潰瘍は治癒される。
【0018】
(実施例7.褥瘡を有する被験体を処置するための新しい皮膚の形成)
褥瘡を有する被験体に、局所麻酔または全身麻酔の形で麻酔をかけ、その潰瘍に、一連の皮相切断部を作製する。その切断部は、出血しないほど十分に浅い。2マイクロリットルの滅菌生理食塩水溶液中の、基底細胞の懸濁液を、ピペットにより切断部に送達する。その皮膚を、数秒間の間ゆるやかに引き、流体をグリッドの至るところに運ぶ。非接着性の疎水性の包帯(ワセリンで被覆されたガーゼ)を、その創傷に適用する。その包帯を10日後に取り除く。新しい皮膚が形成し、そしてその褥瘡は治癒される。
【0019】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる場合、単数の表現形式「a」、「an」、および「the」は、文脈がそうでないことを明確に示さない限り、複数の指示対象を包含する。用語「または」は、文脈が他に明確に示さない限り、「および/または」を含む意味で一般的に用いられることにもまた注意されるべきである。すべての刊行物、特許、および特許出願は、それぞれ個々の刊行物または特許出願が、明確に、そして個々に参考として示される程度に、本明細書中に参考として明確に援用される。本開示と、援用される特許、刊行物、および参考文献との間に矛盾がある場合、本開示が支配するべきである。
【0020】
本明細書中に引用される任意の数字の範囲は、より小さい値からより大きい値までのすべての数を含むことが明確に理解され、すなわち、最も小さい値と最も大きい値との間の、数値のすべての可能な組み合わせが、本出願において明示的に述べられると考えられる。例えば、濃度の範囲が、1%〜50%と述べられる場合、2%〜40%、10%〜30%、または1%〜3%などのような値は、本明細書中に明示的に列挙される。濃度の範囲が、「少なくとも約5%」である場合、100%までの、そして100%を含むすべての百分率の値もまた、明示的に列挙される。これらは、具体的に意図されるものの例にすぎない。
【0021】
本発明は、種々の具体的な実施形態および技術を参照して記載されたものである。しかしながら、多くの変化および改変は、本発明の趣旨および範囲内にとどまりながら、行われることが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、投与の二週間後に、ブラックマウスの皮膚細胞で観察された、ヌードマウスの皮膚の表面上の皮相切断図のグリッドおよび髪の生成(挿入)を示す。
【図2】図2は、新しく生まれたブラックマウスの皮膚細胞の、創傷への投与の二週間後に、ヌードマウスの皮膚の表面上の皮相刺創を作製するために用いられるメスの刃および、髪の生成(挿入)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に創傷を作製する工程、および該創傷上に、毛包前駆細胞を置く工程を包含する、生える毛幹を形成する方法であって、ここで、生える毛幹が形成される、方法。
【請求項2】
前記細胞が、真皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が、表皮細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、表皮下皮膚に置かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞が、真皮乳頭層皮膚に置かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が、上方の真皮網状層皮膚に置かれる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記創傷が、少なくとも約10μmの深さである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記創傷が、少なくとも約200μmの深さである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記創傷が、約500μm未満の深さである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記創傷が、約250μm未満の深さである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
創傷包帯で、毛包前駆細胞を含む前記創傷を覆う工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
新しい皮膚を必要とする領域に創傷を作製する工程、および該創傷上に皮膚形成細胞を置く工程を包含する、新しい皮膚を形成する方法であって、ここで、新しい皮膚が形成される、方法。
【請求項13】
前記細胞が、基底細胞を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、表皮下皮膚に置かれる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、真皮乳頭層皮膚に置かれる、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、上方の真皮網状層皮膚に置かれる、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記創傷が、少なくとも約10μmの深さである、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
前記創傷が、少なくとも約200μmの深さである、請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記創傷が、約500μm未満の深さである、請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記創傷が、約250μm未満の深さである、請求項12に記載の方法。
【請求項21】
創傷包帯で、前記毛包前駆細胞を含む前記創傷を覆う工程をさらに包含する、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−511234(P2009−511234A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536744(P2008−536744)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/040608
【国際公開番号】WO2007/047707
【国際公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【出願人】(503159380)アデランス リサーチ インスティテュート インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】