説明

毛髪の永続的成形のための組成物及び方法

ヒト毛髪中の三次構造に影響を及ぼし(ジスルフィドの破壊)、毛髪タンパク質の二次構造での変化をもたらす波長で電磁波放射する物質を含む、毛髪成形用局所用組成物である。放射の強度は、タンパク質構造の変化を引き起こすか又は促進するために制御され、それに十分である。本発明は、そのような局所用組成物の使用方法を含む。試験により、毛髪再成形は永続的であり、化学的処置に特徴的な種の毛髪に対するダメージはないことが示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年2月19日出願の米国特許出願61/153,828の優先権を主張するものであり、その全体を参照により本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、ヘアスタイリングの分野に属する。より詳細には、本発明は、非化学的手段による永続的毛髪成形の分野に属する。
【背景技術】
【0003】
ヒト毛髪
米国特許第5,395,490号は、その全体を参照により本明細書中に援用する。米国特許第5,395,490号の図1、2A、2B、4A及び4Bは、ヒト毛髪繊維の構造、毛髪のタンパク質成分、及びジスルフィド結合のエネルギーレベルを図示している。
【0004】
ヒト毛髪の繊維は、以下の3種類の主要な形態形成成分:毛小皮(キューティクル)、毛皮質(コルテックス)、及び細胞膜複合体を含み、細胞膜複合体は、それ自体がシステインなどのケラチンペプチド鎖のタンパク質マトリックスからなる。毛髄質(メデュラ)も存在する。これらのペプチド鎖は、ジスルフィド結合によって互いに連結している。ヒト毛髪繊維の天然形状及び構造的な完全性は、部分的には、タンパク質鎖同士を連結しているジスルフィド結合の方向に依存する。また、ケラチン繊維の二次構造にも依存する。しかしながら、ジスルフィド結合の変化は、毛髪の形状に長期的な変化をもたらすのに必要、かつ/又は有用であり、したがってジスルフィド結合を再構築させない処置は、毛髪形状に一時的な変化しかもたらさない場合があるか、又は毛髪の長期的な再成形にはあまり有効でないと一般的に考えられている。例えば、毛髪をスタイリングするための熱及び水分の使用は、毛髪の一時的なウェーブをつくり出すことができる。しかしながら、スタイリングされた毛髪は、空気中の水分への曝露又は洗浄の結果、短時間後にその天然形状に戻ってしまうであろう。毛髪をスタイリングするための熱及び水分の使用は、毛髪中の水素結合を破壊し、再形成させるが、ジスルフィド結合は実質的に影響を受けない。水素結合はそれだけでは、十分な時間にわたって毛髪の形状を維持するのに十分ではないと考えられており、これは、より強いジスルフィド結合が、最終的には毛髪を元の形状に戻してしまうからである。したがって、毛髪の形状の永続的な変化は、相当数のジスルフィド結合の切断及び再形成を含むと考えられるが、他の三次構造の変化及び二次構造の変化は除外されない。
【0005】
化学的処置
化学的薬剤で毛髪を処置することによるヘアスタイリング又は毛髪成形(すなわち、直毛化及び巻き毛化)は周知である。これらには、毛髪中のタンパク質分子を連結するジスルフィド結合を破壊しかつ再構築させる試薬を使用する処置が含まれる。そのような試薬としては、メルカプタン、アルカリ、アルデヒド等が挙げられる。これらのスタイリング法は、複数ステップの、時間がかかる、比較的高価な方法である。既存の製品はまた、望ましくない不快な匂い(mal odor)をもたらす。第1に、硫黄剤でジスルフィド結合を還元し、機械的ストレスを付加してジスルフィド結合を再構築させ、次いで酸化剤(すなわち、アルカリ)を作用させることにより新たなジスルフィド結合を構成させる。さらに、化学的処置は、有効ではあるが、ヒトの毛髪及び皮膚に対して苛酷で、ダメージを与えるものであると考えられている。ヘアスタイリングの一部の負の効果としては、乾燥した、傷みやすいか又は弱った毛髪;輝き及び/又は色が失われること;頭皮へのダメージ及びジスルフィド結合以外の毛髪中のタンパク質結合へのダメージが挙げられる。毛皮質外の脂質へのダメージ、毛髪繊維の膨張及び毛皮質の浮き上がりも生じる。さらに、化学的処置は、大ざっぱなやり方で局所的に施され、このことは、影響を受けるジスルフィド結合の数又は位置を制御することが難しいことを意味する。また、還元剤が局所的に施されてしまえば、還元反応をすぐに止めることはできない。酸化剤を施して、プロセスを停止させるのには時間がかかる。
【0006】
光を用いる処置
ヒト毛髪の形状を変化させるための電磁波放射の使用も公知である。毛髪中のタンパク質分子を連結しているジスルフィド結合に直接的に影響を与えるために光を用いる技術があり、ジスルフィド結合の他の操作に対する補助として(すなわち、1以上の化学的プロセスを加速するために)、光を用いる技術がある。つまり、「直接的に影響を与える」又は「直接的な影響」とは、ある物質が、最初にいずれかの他の物質に吸収されることなく、ジスルフィド結合に吸収され、かつこれを励起する、電磁波放射を生じさせることを意味する。
【0007】
米国特許第5,395,490号には、毛髪内のジスルフィド結合を再構築させるために電磁波照射を用いることによる、ヒト毛髪の再成形方法が開示されている。毛髪が電磁エネルギーに曝露されている間、毛髪に応力がかけられる。結果として、ジスルフィド結合が破壊されれば、それぞれのS原子は、いずれかの他の解離したS原子と、別の結合を形成することが可能である。新たな結合の構造は、部分的にはその応力により決定される。
【0008】
遊離したジスルフィド結合をその基底状態から連続体(continuum)に引き上げるのに必要とされるエネルギー(すなわち、解離エネルギー)は、報告では約2.2eVである。連続体に引き上げられる所与の結合(すなわち、結合が切断される)に対して、このエネルギーは、1個の光子から、又は光子の連続から供給することができる。
【0009】
ジスルフィド結合を切断するのに用いることができる一定範囲の光子周波数があるが、最も効率的な方法は、共鳴状態を利用する。米国特許第5,395,490号には、遊離したS2分子のエネルギーレベルは、2×1013〜1×1015Hzの周波数範囲(約0.30〜15μmの波長又は約0.08〜4.13eVに対応する)内に入ることが示唆されている。しかしながら、米国特許第5,395,490号は、毛髪では、ジスルフィド結合に他の力がかかっており、したがって、1×1013〜2×1015Hzの周波数範囲(約0.15〜30μmの波長又は0.04〜8.3eVに対応する)が好ましいことが示唆されている。一定時間にわたって、この共鳴周波数の範囲で毛髪に光子を照射することにより、ジスルフィド結合が、その天然のエネルギー状態(又は振動のモード)と、連続状態に励起された一部の結合との間を移動するであろう。
【0010】
それにもかかわらず、米国特許第5,395,490号には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。この文献には、毛髪に組成物を塗布するステップは開示されていない。この文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。この文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。さらに、米国特許第5,395,490号では、複雑な高・低周波数波形発生器及び補助的な電子機器からジスルフィド結合に放射を当てる。実際に、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。また、米国特許第5,395,490号は、光子エネルギー範囲0.04〜8.3eVを開示しており、これは、S2の解離エネルギーである約2.2eVを含む。このことは、2.2eVで光子を生成することが可能なデバイスは必要なく、好ましくもない本発明とは異なる。
【0011】
WO/1994/010873及びWO/1994/010874には、美容目的で、毛髪、特にヒト頭髪を処置する方法が開示されている。毛髪は、毛髪のタンパク質構造を変化させて所望の美容効果がもたらされるように選択された一定強度及び波長の光に曝露される。
【0012】
WO/1994/010873では、効果は毛髪の成形である。しかしながら、この参考文献には、本発明に記載されている約20μmよりも十分に短い400〜600nm(0.4〜0.6μm)の波長の光を用いることが開示されている。400〜600nmの波長を有する単一光子は、約2.05〜3.0eVのエネルギー(これは、上記の米国特許第5,395,490号の0.04〜8.3eVの範囲内に入る)を「運搬する(carry)」。記載したように、ジスルフィド結合をその基底状態から連続体に引き上げるのに必要なエネルギーは、報告では、約2.2eVである。つまり、WO/1994/010873には、米国特許第5,395,490号よりも狭いが、S2の解離エネルギー付近に集中している周波数範囲を用いることが示唆されている。米国特許第5,395,490号に開示された、より広い周波数範囲の方が、WO/1994/010873に開示された狭い周波数範囲よりも、ジスルフィド結合を切断するのに有効であると予測することは、合理的である。
【0013】
WO/1994/010874では、考慮されている美容効果は、ヘアカラーリングの改良である。特に、頭髪の化学的カラーリングの補助のために、約600nm〜1200nmの波長を有する光を用いて、酵素の協働の変化及び/又は酸化還元電位の変化がもたらされるようにする。ヘアカラーリングが改良される、すなわち、光の影響がない場合よりも色がはっきりし、通常のカラーリングよりも少ない着色剤で済むことが報告されている。600〜1200nm(0.6〜1.2μm)は、本発明で用いる約20μmよりも十分に短い。
【0014】
さらに、WO/1994/010873及びWO/1994/010874には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。これらの文献には、毛髪にそのような組成物を塗布するステップは開示されていない。これらの文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。これらの文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。WO/1994/010873及びWO/1994/010874では、電磁エネルギーを、デバイス(例えば、アルゴンレーザー)により供給する。このことは、2.2eVで光子を生成することが可能なデバイスは必要なく、好ましくもない本発明とは異なる。さらに、本発明は、これらの特許に記載されているように、ジスルフィド結合に放射を当てるためにレーザー及び補助的電子機器は必要としない。実際に、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。
【0015】
米国特許第5,858,179号には、哺乳動物又はヒト毛髪などのケラチン系繊維の物理特性を変化させるために用いる化学物質と電磁波放射との組み合わせが開示されている。非刺激性・非反応性のジスルフィド(溶液又はゲルの形態で)を最初に毛髪に接触させる。続いて、電磁波放射を毛髪に当てて、ジスルフィドを光化学的にジチオールに変換する。ジチオールは毛髪中のジスルフィド結合を破壊し、それにより毛髪は永続的に再成形される。
【0016】
米国特許第5,858,179号には、20μm付近の波長範囲で放射することができる物質を含む組成物は開示されていない。この文献には、毛髪にそのような組成物を塗布するステップは開示されていない。この文献には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。この文献には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は記載されていない。米国特許第5,858,179号では、結合を破壊するためにジスルフィド結合に対する直接的な電磁波放射は用いない。むしろ、用いられる放射は、200〜530nm(2.3〜6.2eV)の報告された波長を用いて遊離のジスルフィドをジチオールに変換するために選択される。さらに、本発明は、特定の周波数で電磁波放射をもたらすためのデバイスを必要としない。むしろ、本発明は、ヘアドライヤーより複雑なデバイスは示唆していない。
【0017】
米国特許第3,863,653号には、高周波数電流が供給された共鳴空洞に繊維を封入することにより、繊維を処理するための方法及び装置が開示されており、該空洞の共鳴周波数及びインピーダンスは、その供給源のものに適合している。この方法は、実際には、化学的処置方法の補助である。米国特許第3,863,653号では、毛髪を内側から加熱するために高周波数放射が用いられ、それにより化学反応を加速し、潜在的にダメージがある化学物質に毛髪を曝露しなければならない時間を短縮する。開示されている放射の周波数は、10〜4000MHzであり、本発明での使用には全く好適でない。
【0018】
トルマリン
トルマリンは、四面体六員環を特徴とする偏心菱面体ホウケイ酸塩である。これは半貴石であり、アルミニウム、鉄、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、又はカリウムなどの元素が様々な量で配合された結晶ケイ酸塩である。
【0019】
トルマリンの組成は幅広く、1つの一般的な化学式は、以下のように記載される:
XY3Z6(T6O18)(BO3)3V3W
[式中、
X=Ca、Na、K、空孔;Y=Li、Mg、Fe2+、Mn2+、Zn、Al、Cr3+、V3+、Fe3+、Ti4+;Z=Mg、Al、Fe3+、Cr3+、V3+;T=Si、Al、B;B=B、空孔;V=OH、O;W=OH、F、O(Hawthorne and Henry 1999, Classification of the minerals of the tourmaline group. European Journal of Mineralogy, 11, 201-215)]。
【0020】
14種類の最終的なメンバーが国際鉱物学協会(IMA)により認識されており、Hawthorne及びHenry(1999)がそれらをX位の優勢な占有元素に基づいて3つの主要な群に分類している。これらの群は、アルカリ群、カルシウム群及びX位空孔群である。アップデートされた情報を含む下記の表は、http://www.geol.lsu.edu/henry/Research/tourmaline/TourmalineClassification.htmから再生成されている。
【表1】

【0021】
Hawthorne及びHenry(1999)は、まだ確認されていない少なくとも27種類の他のトルマリンも仮定している。つまり、トルマリンについて説明する場合、種類によってかなりの差異(並びに類似点)がある。トルマリンの一部の報告されている特性としては、以下が挙げられる:比重:2.96〜3.31;屈折率:1.610〜1.735;複屈折:0.016〜0.080;多色性:全ての種で強い;硬度:7.0〜7.5。
【0022】
本発明に関して、ある種類と別の種類とで特性は異なり得る。特に、放射率及び吸収スペクトルは、ある種類と別の種類とで異なり得る。また、放射強度及び活性化エネルギーも、ある種類と別の種類とで異なり得る。本発明の組成物中で粒子状で用いる場合、トルマリンのこれらの特性は、粒径及び濃度にも依存するであろう。
【0023】
トルマリン含有製品
ヘア用製品でのトルマリンの使用は公知である。例えば、Jonathan Product社により販売されているIB Shield Humidity Lock-Out Shineスプレーと称される製品では、「トルマリン&アメジスト:髪の輝き、なめらかさ、扱いやすさを改善することが知られている、荷電イオン性結晶ブレンド」とそのトルマリンの使用を説明している。さらなる説明は、「荷電イオン&遠赤外線エネルギーが、頭皮を活性化し、最適な髪の健康を維持するのを助けます」との文言を含む。
【0024】
Angles BeautyCare Groupにより販売されているHai Flat Iron Fluidはトルマリンを含有し、製造業者は、「美しく整えられた髪のために重さのない潤いと高い吸収性を与え、熱ダメージから髪を保護し、静電気を減らし、カラーを長持ちさせ、素晴らしい輝きをもたらすと言われています」と述べている。
【0025】
これらの製品の説明のいずれにおいても、20μm付近の波長範囲で放射することができるトルマリン(又はいずれかの他の物質)を含む組成物は示唆されておらず、いずれも、20μm付近の波長範囲で放射するようにそのような物質を活性化するステップを示唆していない。トルマリンがこの範囲で放射するとしても、先行技術のいずれも、その強度がヒト頭髪の明らかな永続的再成形を達成するのに十分であることを示唆していない。出願人の知識の限りでは、これらの製品並びにその他の製品では、トルマリンが毛髪再成形という恩恵をもたらすとは報告されていない。毛髪再成形については言及されたことがない。
【0026】
トルマリンヘアドライヤーも公知である。そのようなヘアドライヤーは、トルマリン結晶を含み、それが陰イオン及び遠赤外線熱を与え、報告では、遠赤外線熱は毛髪を内側から乾かす。結果として、毛髪をより速く乾かすことができ、毛髪は最適な扱いやすさを伴って健康で輝きを保つ。毛髪を成形するためのストレートアイロンも、トルマリンを含むことが知られている。典型的には、トルマリンが陰イオンを供給し、これがより柔らかく輝きを持った毛髪をもたらし、赤外線熱が、毛髪の潤い及び艶の改善に関連することが報告されている。トルマリンを含むヘアブラシ及びヘアセット用ローラーが公知である。多くの場合、トルマリンによる恩恵は、イオン効果による縮れの低減である。それらの電化製品のいずれも、20μm付近の波長範囲で、又はヒト頭髪の明らかな永続的再成形を達成するのに十分な強度で、電磁波放射することができる物質を含む組成物を示唆していない。これらの製品には、そのような組成物を毛髪に塗布するステップは開示されていない。それらの製品には、20μm付近の波長範囲で放射するように組成物中の物質を活性化するステップは開示されていない。これらの製品には、本明細書中に開示される毛髪の処置方法は開示されていない。
【発明の概要】
【0027】
本発明は、毛髪(三次タンパク質構造の形態)中のジスルフィド(S-S)結合に直接的に影響を与える波長で、電磁波を放射する、又は電磁波放射するように誘導される、1種以上の物質を含む、毛髪成形用局所用組成物である。しかしながら、以下に記載されるように、本発明の組成物及び方法は毛髪タンパク質の二次構造にも影響を与える。利用される光子エネルギーは、基底状態のジスルフィド結合の解離エネルギーよりも十分に低い。放射の強度は、十分量のジスルフィド結合を破壊し、かつ/又は弱めるために制御され、それに十分であり、それにより毛髪の再成形が可能となるか、又は促進される。該処置は、それ自体、又は補助として、有効であり得る。
【0028】
そのような技術は、化学物質を用いない。「化学物質を用いない」(non-chemical)とは、ユーザーが、ジスルフィド結合切断及び再形成に関して試薬又は触媒として作用する分子を用いる必要がないことを意味する。「化学物質を用いない」とはまた、純粋なエネルギーが毛髪中のジスルフィド結合に供給されることを意味する。こうして、化学的処置に伴うダメージの全て又はほとんどを回避することができる。ジスルフィド結合に特異的で、かつ共鳴関係にある電磁波放射を用いることにより、弊害的なダメージが最小限になる。また、電磁波放射を取り除くとすぐに、結合切断のプロセスは停止し、これは、分離することができず、1種以上の試薬が枯渇するまで反応が続く試薬混合物とは異なる。
【0029】
本発明は、再成形が生じた後、毛髪から洗い落とすことができる組成物、及び追加的な又は延長した恩恵のために毛髪に残すことが意図される組成物を含む。本発明は、毛髪中のS-S結合に影響を与える波長で電磁波を放射するか、又は電磁波放射するように誘導される、1種以上の物質を含む局所用組成物の使用方法を含む。試験は、毛髪再成形は永続的であり、化学的処置に特徴的な種類の毛髪に対するダメージはないことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】78℃での赤色トルマリンの放射率を波長に対して示したグラフである。
【図2】78℃での赤色トルマリンの放射輝度を波長に対して示したグラフである。
【図3】様々な量の赤色トルマリンが、所与の数のジスルフィド結合を解離させるために必要な時間を示す図である。
【図4−1】図4a〜4hは、本発明の組成物で直毛化した巻き毛サンプル、及び種々の対照サンプルを示す写真である。
【図4−2】図4a〜4hは、本発明の組成物で直毛化した巻き毛サンプル、及び種々の対照サンプルを示す写真である。
【図5】巻き毛対照サンプル及び本発明の組成物で直毛化した毛髪の2サンプルを示す写真である。
【図6】ヒト毛髪の破壊強度に対する毛髪処置の影響を示す図である。
【図7】ヒト毛髪を直毛化するための種々の毛髪処置の有効性を示す図である。
【図8】種々の方法で処置した毛髪サンプルについての呈色ジスルフィド結合分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、化学物質を用いないジスルフィド結合再構築を介した、ヒト頭髪の永続的再成形を、局所用組成物により供給される電磁的エネルギーを用いて達成することができるという予期せぬ知見に基づく。本発明の文脈では、「局所用」は、毛髪、特にヒト頭髪の表面に塗布されることを意味する。電磁的エネルギーは、米国特許第5,858,179号及び米国特許第3,863,653号でのように、かつ上で記載されたように、ジスルフィド結合の他の操作の補助として用いるのとは対照的に、ジスルフィド結合に直接的に影響を与え、又はこれを励起する。
【0032】
本発明はまた、放射される光子エネルギーが、基底状態のジスルフィド結合の解離エネルギーよりも十分に低いという事実にもかかわらず、一部の物質は、ヒト頭髪の永続的再成形に直接的に影響を与えるのに十分な量で、安定な、商業的に許容できる、局所用毛髪用製品に組み込むことができるという驚くべき知見にも基づく。
【0033】
本明細書を通して、毛髪再成形処置に関して「永続的」との語は、毛髪の形状が、毛髪が抜け落ちるまで維持されることを意味する。好ましくは、処置された毛髪を環境大気条件にのみ曝露した場合、新たな形状が少なくとも1週間、より好ましくは少なくとも1ヵ月、最も好ましくは少なくとも2ヵ月維持される。さらに、処置した毛髪が飽和した場合(すなわち、入浴中)、新規な形状は失われる場合があるが、しかしながら、「永続的」とは、一旦乾燥させれば、飽和した毛髪は、かなりの程度までは、その処置後の形状に戻るであろうことも意味する。
【0034】
本明細書を通して、「含む」は、対象物の集合が、記載されたものに限定される必要がないことを意味する。
【0035】
好適な物質及び組成物のための基準
リーズナブルな価格に留まり、健康上及び規制上の条件を満たす、ヒト毛髪の再成形のために十分なエネルギーを供給する、商業的に許容可能なパーソナルケア用組成物を求めるならば、該組成物に対する必要条件の長いリストが生じる。本明細書中で論じられる基準を、満足に満たすことができることは、驚くべきことである。
【0036】
a. 波長、強度、温度
毛髪の「永続的な」再成形を達成するために、施される電磁波放射は、正しい波長のものでなければならず、十分な強度のものでなければならない。波長がジスルフィド結合の複数のエネルギーレベルの差異に対応しない場合、結合は励起されないであろう。さらに、強度が低すぎる場合、励起された結合が別の光子を吸収する前に低いエネルギーレベルに戻ってしまうので、わずかな数のジスルフィド結合しか連続状態にならないであろう。
【0037】
パーソナルケア用製品において考慮することができるいかなる所与の物質に関しても、温度は波長及び強度の両方に影響する最も重要な因子である。多くの場合、物質の温度が、該物質により発せられる放射の強度及び波長分布を決定する。本発明の組成物は、一般的に、約25℃〜175℃の温度に曝露されるであろう。したがって、好適な物質は、約25℃〜175℃で、ヒト毛髪中の環境内でジスルフィド結合を励起することができる波長範囲で、ヒト毛髪を再成形するのに有用な強度で、電磁波を放射するものである。
【0038】
波長に関して、好適な物質により放射される波長は、ヒト毛髪のジスルフィド結合の複数のエネルギーレベルの差異に対応しなければならない。米国特許第5,395,490号には、約0.15〜30μmの波長範囲が好ましいことが示唆されている。この波長範囲はジスルフィド結合(三次構造)を切断するのに有用であることが知られているが、本発明者らは、毛髪の二次構造の変化も観察している。0.15〜30μmは、近赤外線及び中赤外線のほとんどをカバーする。分類(いくつかある)によっては、この範囲は、約1000μmの波長まで広がっている遠赤外線の小さな一部分(約3%)もカバーする場合がある。一方で、一部の分類では、中赤外線が40μmまで広がっていることが示唆される。本発明の時点では、重要な点は、「近赤外線、中赤外線及び遠赤外線の領域の境界は、見解が一致しておらず、変わり得る」ということである(“CoolCosmos Infrared Astronomy Tutorial: Near, Mid, and Far Infrared” - http://coolcosmos.ipac.caltech.edu/cosmic_classroom/ir_tutorial/irregions.htmlを参照されたい)。
【0039】
上記のように、本発明の好適な物質は、約25℃〜175℃で、ヒト毛髪を再成形するのに有用な強度で、電磁波を放射するものである。処置された毛髪を商業的に許容可能な時間内に再成形することができる場合、強度は、「ヒト毛髪を再成形するのに有用」であるとみなされる。「商業的に許容可能な時間」とは、約1時間未満、より好ましくは約30分未満、さらにより好ましくは約10分未満、最も好ましくは約5分未満を意味する。毛髪を再成形するためのこの時間は、下記のように測定される。本発明の組成物を毛髪の一区画に塗布した後、その毛髪の一区画を再成形するための時間を、その毛髪の一区画に張力がかけられた瞬間から、張力が開放されるまで測定する。
【0040】
したがって、別の点では有用な物質が所望の変化をもたらすために許容できない長時間(例えば、3時間)を要する場合、その物質は、本発明での使用のためにあまり有用でないか、又は全く有用ではなく、これはそのような製品が、低い商業的実用性しか有しないためである。一方で、より大きな強度はより多くの光子を意味し、これはより多くのジスルフィド結合が破壊され、より速く破壊されることを意味する。一般的に、当てられる電磁波放射の強度が強ければ、毛髪再成形の効果はより劇的であり、かつ/又はより短い時間で効果が達成される。
【0041】
ここで、物質の強度(又は、より良好には、放射輝度)は、単位立体角に向かって、該物質の単位面積から発せられる1秒あたりのエネルギーである。放射輝度は、物質の温度に依存する。したがって、好適な物質を見出すために、種々の物質の放射輝度 対 波長の曲線を観察することから始めて、対象となる温度範囲(すなわち、25℃〜175℃又は40℃〜60℃又は60℃〜80℃など)に加熱した場合に、0.15〜30μmの波長範囲で、より優れた強度を有する物質を見出すことができる。有用な強度はどのようなものかは、試行錯誤によって最もよく決定することができる。候補物質を毛髪用基本組成物に組み込み、商業的に合理的な量で毛髪に塗布することができる。商業的に許容可能な時間で毛髪を効率よくスタイリングすることができれば、強度は有用であるとみなすことができる。
【0042】
本発明において好適な物質を見出すために努力する場合、波長及び強度に加えて、他のパラメータを考慮すべきである。
【0043】
b. 放射率
米国特許第5,395,490号及び他の先行技術では、放射源は、独自の電源を有する、最新式の、複数の周波数の電磁波を発生できる電子機器である。意図的に、供給される電力のほとんどが電磁エネルギーに変換され、所与の波長での放射強度は、適宜、高精度まで制御することができる。このことは本発明とは全く異なり、本発明では、エネルギー源(power source)は好適な物質に供給される熱であり(ヘアドライヤー又はストレートアイロンからのものとして)、この熱はその物質に特徴的な波長-強度スペクトルで再放射される。入力エネルギーは、一般的な消費者向けヘアドライヤー又はストレートアイロンから安全に供給されるものに限定される。つまり、本質的に無限のエネルギー供給を有しないので、強度が有用なものであるように、好適な物質が比較的効率よくエネルギーを再放射し、このエネルギーを吸収することは重要である。つまり、可能性のある好適な物質の放射輝度を観察することに加えて、放射率(物質が吸収したエネルギーを放射する該物質の能力の尺度)も観察すべきである。本発明のために有効でない物質の例は、好適な波長で放射するが、効率よくあるために必要とされる物質の量が商業的及び/又は化粧品として実用不可能な物質である。
【0044】
放射輝度と同様に、物質の放射率も、物質の温度に依存する。つまり、放射輝度 対 波長に加えて、放射率 対 波長の曲線を観察して、対象となる温度範囲(すなわち、25℃〜175℃又は40℃〜60℃又は60℃〜80℃など)で、0.15〜30μmの波長範囲で、高い放射率を有する物質を見出すことができる。好適な物質は、約0.50より大きな放射率を有する。好ましい物質は、約0.80より大きな放射率を有する。最も好ましい物質は、約0.90より大きな放射率を有する。
【0045】
つまり、好適な物質に対する初期条件としては、以下のものが挙げられる:約0.50より大きな放射率を有する物質であって、それにより、25℃〜175℃に加熱された際に、該物質が、0.15〜3.0μmの波長範囲で、商業的に許容可能な時間でヒト毛髪を再成形するのに有用な強度で放射する。
【0046】
c. 商業上の留意事項
好適な物質であるためには、該物質を、有効なままで、化粧用製品での使用のために商業的に合理的な量で用いることができる必要がある。何が「商業的に合理的である」かは、コスト、製造困難性、組成物を安定化する能力、組成物の外観、感触、匂い及び全体的な印象などに依存する。したがって、例えば、他の点では有用な物質が、その中に組み込まれる組成物に不快な匂いをもたらす場合、該物質はあまり好適でないか、又は全く好適でない。あるいは、他の点では有用な物質が、その中に組み込まれる組成物を不安定化する場合、該物質はあまり好適でないか、又は全く好適でない。当業者であれば、許容可能でない消費者品質又は商業的な実用性が低い組成物を特定することができ、したがって、商業的に合理的でない物質を避けることができる。
【0047】
さらに、好適な物質は、化粧用製品に対する全ての関連する制御規制を最低限満たして、安全性の観点から、化粧品調製物での使用のために好適であるものである。したがって、他の点では有用な物質が、全て又は一部の規制当局により禁止されている場合、その物質は、あまり好適でないか、又は全く好適でなく、なぜなら、商業用の製品に達することができないからである。本明細書中で論じられる物理的条件、処方上の条件、及び商業的条件の全てを満たす物質を見出すことができたことは、驚くべきことであった。
【0048】
d. 好適な物質の活性化/不活性化
さらに、好ましい好適な物質は、ヒト毛髪中のジスルフィド結合に有意に影響を与える前に活性化されなければならず、不活性化して該影響を停止することができるものである。そうでなければ、本発明の組成物を毛髪に塗布する(例えば、重力の張力のもと)とすぐに、毛髪は再成形に供され、いくらかの残留物が毛髪に残っている間は継続するであろう。室温であっても、多くの物質が、0.15〜30μmの波長範囲で、いくぶんかの放射をすることがわかっている。しかしながら、「活性化された」とは、好適な物質による放射の強度が、「商業的に許容可能な時間」で、「ヒト毛髪を再成形するのに有用」であることを意味する。つまり、好適な物質が0.15〜30μmの波長範囲で放射しているが、強度が、毛髪の再成形に1時間以上必要であるようなものである場合、該物質は、本明細書中で定義されるように「活性化された」ものではない。
【0049】
活性化及び不活性化の好ましい方法は、消費者の使用に好適なものでなければならず、パーソナルケア製品の市場で商業的に実用的でなければならない。したがって、例えば、他の点では有用な物質が、消費者の立場からは不便な、又は大量のエネルギーを要する活性化/不活性化を必要とする場合、該物質は好適でない場合がある。好ましい活性化方法は、手持ち型のヘアドライヤー又はヘアサロンで典型的に見られる市販のヘアドライヤーのいずれかのヘアドライヤーによる加熱である。消費者が通常の手入れ又は美容上のルーチンを行なうときに、本発明の組成物がヘアドライヤー又は毛髪成形用ツールからの熱に曝されるであろうことは既に予測されているので、この活性化方法は好ましい。したがって、好ましい好適な物質は、該物質が40℃〜60℃まで、より好ましくは80℃より高く、最も好ましくは60℃〜80℃に加熱されるまで、有効な波長及び/又は強度を生成しないものである。最小限の40℃は、該組成物の望ましくない活性化を防ぐのに有用である。80℃より高い温度は、好適な物質を活性化するのに用いることができるが、この温度自体が毛髪に有害な作用を有し始める。したがって、最も好ましい活性化温度は、約60℃〜80℃である。これらの温度は、熱風の発生源が毛髪から数インチであり、熱風流が毛髪の同じ部分に継続的に向いていなくても、手持ち型のヘアドライヤーで達成可能である。好ましくは、活性化は、10分以内のブロー乾燥、より好ましくは5分以内のブロー乾燥、最も好ましくは1分以内のブロー乾燥で達成可能である。ヘアドライヤー以外の機器(例えば、ストレートアイロン)を用いることができることを記載しておく。しかしながら、ストレートアイロンを用いる場合、過剰な熱からのいかなるダメージも限定するように、好適な物質をその最も好ましい温度まで加熱し、それ以上にしないように好ましく用いられる。
【0050】
本発明者らは、放射性物質によっては、活性化が光によって達成可能な場合があることも予測している。この実施形態では、好適な物質への可視光(赤色、青色、緑色など)照射が、好適な物質が0.15〜30μmの波長範囲で放射することを引き起こす。一般に、放射強度は、可視光活性化の発生源の強度に依存する。しかし、本発明者らは、有効かつ商業的な実用性を有する可視光源と好適な放射物質との組み合わせを見出し得ると予測している。不活性化は、可視光発生源を除去することにより達成することができる。この方法による活性化及び不活性化は、基本的に即時的なものであり、なぜなら、好適な物質が加熱されるまで待つことはないからである。
【0051】
e. 補助的処置
さらに、他の毛髪成形処置を本発明の原理と組み合わせることができるが、本発明の好ましい好適な物質及び組成物は、補助的処置を必要とせずに、毛髪をいかなる所望の形状にも再成形するのに十分な電磁波放射を供給するものである。
【0052】
好適な物質としてのトルマリン
予期せぬことに、本発明者らは、トルマリンが本発明の組成物中で非常に有用であることを見い出した。図1を参照すると、この特定の赤色トルマリンは、78℃に加熱されると、本発明者らが問題とする波長範囲で、0.9を十分に超える放射率を有する。20μmの波長では、放射率は約0.93である。示していないが、20μmでのこの物質の放射率は、温度が約44℃まで下がると、約0.75まで低下する。
【0053】
図2を参照すると、78℃まで加熱されたこの特定の赤色トルマリンのエネルギー出力は、約10〜20μmの波長でピークとなる。78℃は、ヘアスタイリングで普通でない温度ではない。
【0054】
正しい波長及び高い放射率を有する物質(赤色トルマリン)を特定したが、残される疑問は、強度が商業的製品を製造するのに十分であるかである。言い換えれば、赤色トルマリンのどれだけの表面積が、商業的に許容可能な時間でヒト毛髪を効率よく再成形するのに十分なエネルギーを発するであろうか?商業的に実用的な製品に組み込むことができるトルマリンの重量で、その表面積は達成することができるか?
頭部全体のヒト毛髪は、30グラム程度であり得る。ヒト毛髪1グラムは、6×1020個程度のジスルフィド結合を含むと見積もられている。1個の結合あたりの解離エネルギー3.52×10-19ジュール(2.2eV)を考えると、1グラムの毛髪は、全てのS-S結合を解離させるために、約211ジュールを必要とする。ここで、美容上の毛髪再成形は、毛髪中の全てのジスルフィド結合が破壊されることを必要としない。実際には、これは毛髪を破壊するであろう。それにもかかわらず、本発明者らは、黒体の所与の総表面積に関して種々の温度で211ジュールのエネルギーを発するために、黒体(すなわち、放射率=1)が必要とする時間を算出した。結果を図3に示す。グラフは、通常のブロードライヤー又はストレートアイロンで達成可能な温度で、高い放射率の物質の商業的に実用可能な表面積が、許容可能な時間で、毛髪を再成形するのに十分な強度を供給することができることを示している。本発明者らは、実用的な温度で90%より高い放射率を有するトルマリンが、これらの黒体についての計算により正確にモデル化されると考えた。
【0055】
つまり、ジスルフィド結合の再構築を介するヒト頭髪の永続的再成形が、赤色トルマリンを含む局所用組成物を用いてジスルフィド結合に直接的に影響を与えることにより達成することができることを、初めて実証する。この処置は、化学物質を用いないとみなされる。「化学物質を用いない」ことによって、本発明者らは、光子吸収ではなく、化学的相互作用を通してジスルフィド結合を破壊する既知の商業的処置と区別する。本発明の組成物を用いれば、他のタイプの処置は必要でなく、好ましくもない。
【0056】
驚くべきことに、安全で、安定かつ商業的に許容可能で、並びに有効な、トルマリン組成物が達成された。トルマリンは、商業的な化粧用製品にとって合理的な量で用いられ、それでも、発せられる光子エネルギーはジスルフィド結合の基底状態の解離エネルギーよりも十分に低いという事実にもかかわらず、トルマリンは、毛髪の永続的再成形を行なうのに十分な電磁エネルギーを供給する。トルマリンは、ヒト毛髪中のジスルフィド結合に明らかに影響を与える前に活性化しなければならず、不活性化してさらなる作用を停止させることができる。
【0057】
別の実施形態では、トルマリンの活性化は、トルマリンに可視光を照射することによって達成される。例えば、赤色トルマリン及びピンク色トルマリンは、458nm及び451nmの吸収線、並びに緑色スペクトル中の広い吸収バンドを有することを記載しておく。青色トルマリン及び緑色トルマリンは、498nmでの強い、狭い吸収バンド及び640nmまでの赤色のほとんど完全な吸収を有する。同様に、これらの物質は、0.15〜30μmの波長範囲での入射光エネルギーの一部分を再放射し、したがって、永続的毛髪再成形を行なうのに有用であり得る。好適な可視光の発生源としては、LED及びレーザーが挙げられる。これらのデバイスを用いれば、光を集中させ、目的物に向かわせることができる。
【0058】
好適な物質及び組成物の性能の定量化
ここで説明する実験によって、物質が商業的に許容可能な時間で毛髪を再成形することができるか否かを決定することが可能である。候補となる好適な物質を含有する組成物の多数の性能パラメータを決定することも可能である。
【0059】
1以上の候補となる好適な物質を、基本組成物に組み込むことができる。毛髪の標準的な区画は、対象となるいずれかの基準のセットに従い特定することができる。基準としては、以下のものが挙げられる:毛髪の区画の質量、色、毛髪形状(直毛又は巻き毛)、民族性、状態(すなわち、もろい又は強い、柔らかい又は張りがある、光沢がない又はある、等)など。毛髪の標準的な区画を規定したら、候補物質を含有する既定量の組成物を毛髪の標準区画に塗布し、張力をかける。張力は、所望の効果のために適切なものである。例えば、毛髪の標準区画が巻き毛である場合、張力は毛髪を直毛化するものであろう。毛髪の標準区画が直毛である場合、張力としては、カーラーの周りに毛髪を巻くことが挙げられる。張力は、所定の時間(すなわち、5分又は10分又は30分又は1時間)にわたって維持されるであろう。その時間の間、毛髪及び組成物は所定の温度まで加熱されるであろう。温度は、所定の時間にわたって維持されるであろう。それは、毛髪に張力をかけるのと同じ長さ又はそれより短い場合がある。熱及び張力を除去した後、再成形の程度を定量化するために測定を行なうことができる。そのような測定は、当技術分野で周知のものであり得る。このようにして、種々の比較を行なうことができる。例えば、1つの候補物質を別のものと比較することができ;又は、候補物質の1種類の濃度を同じ候補物質の別の濃度と比較することができ;又は、特定の基本組成物中の1つの候補を、異なる基本組成物中の同じ候補物質と比較することができ;又は、候補物質を、補助的な毛髪処置(すなわち、水でのすすぎ、シャンプー、ブロー乾燥)と組み合わせた場合のそれ自体と比較することができる。さらに、張力を停止した後すぐに毛髪から組成物を除去する場合に何が起こるかを、張力を停止した後に長時間にわたって毛髪に同じ組成物を残す場合に何が起こるかと比較して知りたい場合がある。鋭い観察者であれば、環境湿度、温度及び光曝露で、毛髪の区画が新たな形状を保持する時間の差異にも注目し得る。
【0060】
概念実証
本発明の概念を実証するために、天然巻き毛及びパーマをかけた毛髪を直毛化しようと試みた。この概念実証試験のために、5重量%の赤色トルマリン粉末を、carbopol 98(20%)、シアバター(10%)、レシチン(2%)及びPVP(3%)の2%溶液(残りは水)に分散させた。トルマリンなしの製剤(基本製剤とも呼ぶ)は対照として機能した。クリームを、根本から自由末端まで、乾燥した毛髪に均等に塗布した。塗布量は、このタイプの毛髪処置に典型的なものであった。毛髪にかける張力は、ブロー乾燥並びに/又はくしで梳かすこと及び付随的な操作を伴うものであった。過剰な張力は用いなかった。以下の試験サンプルを設定し、結果は図4a〜4hに見ることができる:
図4a 対照=民族的毛髪、無処置
図4b 陰性対照=民族的毛髪、水洗、続いてブロー乾燥
図4c 陰性対照=民族的毛髪、基本製剤で処置、続いてブロー乾燥
図4d 陽性対照=民族的毛髪、Mizani(登録商標) Rhelaxerで1回処置、水洗、続いてブロー乾燥
図4e 民族的毛髪、5%赤色トルマリン製剤で処置、続いてブロー乾燥(活性化)
図4f 民族的毛髪、5%赤色トルマリン製剤で処置、続いてブロー乾燥(活性化)、続いて湯洗、続いてブロー乾燥
図4g 民族的毛髪、5%赤色トルマリン製剤で処置、続いて空気乾燥(活性化なし)、温水でシャンプー(過剰なトルマリンを除去)、続いてブロー乾燥;続いてシャンプー及びブロー乾燥を連続で合計5回施した
図4h 陰性対照=白人パーマ毛髪、水洗、続いてブロー乾燥
図4a 白人パーマ毛髪、5%赤色トルマリン製剤で処置、続いてブロー乾燥。
【0061】
図4aでは、民族的な対照毛髪は、完全な巻き毛である。図4bの左側は、洗浄及びブロー乾燥後の同じ毛髪を示す。図4cは、基本製剤で処置した後の毛髪を示す。直毛化が劇的ではあるが、ジスルフィド結合は変化していないので、これは永続的ではない。これらの毛髪サンプルは、短時間で元の形状に戻るであろう。図4dは、市販製品(Mizani(登録商標) Rhelaxer)で直毛化した民族的毛髪である。図4eは、5%赤色トルマリン製剤で処置した民族的毛髪を示し、トルマリンは毛髪をブロー乾燥することにより活性化した。直毛化は、図4dのMizani(登録商標) Rhelaxerと同等である。図4fは、5%赤色トルマリン製剤で処置し、続いてブロー乾燥により活性化し、続いて温水で洗浄し、続いてブロー乾燥した後の民族的毛髪を示す。引き続く洗浄は、非常に劇的な直毛化効果を取り消さなかったことは明らかである。図4gは、5%赤色トルマリン製剤で処置し、続いて空気乾燥し、したがってトルマリンのわずかな活性化しか起こっていないか、又は活性化が起こっておらず、続いて温水でシャンプーし(トルマリンの一部を除去する)、続いてブロー乾燥し(残ったトルマリンを活性化する);続いてシャンプー及びブロー乾燥を連続で合計5回施した民族的毛髪を示す。直毛化の成功は達成されたが、図4e及び4fほどではない。しかしながら、引き続く洗浄が直毛化効果を取り消さなかったことは、ここでも明らかである。おそらく、これは、活性化前にトルマリンの一部が毛髪からすすぎ落されたためである。図4hは2つの部分である。右側は、水洗し、続いてブロー乾燥した白人パーマ毛髪である。毛髪は完全に巻き毛である。左側は、5%赤色トルマリン製剤で処置し、ブロー乾燥により活性化した後の同タイプの毛髪である。直毛化効果は劇的である。明らかに、トルマリン組成物及びブロー乾燥による活性化は、天然の巻き毛又は以前にパーマした毛髪を直毛化することができる。
【0062】
図5は、直毛化処置及びブロードライヤーで活性化した場合に達成される改善の永続性を示す。左側は、ウェーブヘアの無処置対照サンプルである。右側は、環境温度で(ヘアドライヤーなし)5%赤色トルマリン製剤で処置した毛髪である。中央は、5%赤色トルマリンで処置し、ヘアドライヤーで活性化した毛髪である。右側のサンプルは、対照サンプルよりも明らかに直毛である。中央のサンプルは、さらによい。つまり、トルマリンの温度を上昇させることは、確かに結果を改善する。さらに、図5は、処置が施されてから2ヵ月後の試験サンプルを示している。つまり、処置は、本明細書中で定義される通り、永続的であるとみなされる。
【0063】
呈色的ジスルフィド結合分析
DTTとシステインから誘導された酸化ジチオトレイトール(DTT)(λmax=280nm)の量を測定することにより、毛髪のシステイン含量(ジスルフィド結合含量)を定量化した。以下の試験サンプルを準備した:1. 対照サンプル(シャンプー及び空気乾燥);2. 対照サンプル(シャンプー及びブロー乾燥);3. シャンプー、基本組成物中の2%トルマリンで処置、空気乾燥;4. シャンプー、基本組成物中の5%トルマリンで処置、空気乾燥;5. シャンプー、基本組成物中の2%トルマリンで処置、ブロー乾燥;6. シャンプー、基本組成物中の5%トルマリンで処置、ブロー乾燥;7. シャンプー、Mizani(登録商標) Rhelaxerで処置、ブロー乾燥;8. シャンプー、2%NaOH組成物で処置、ブロー乾燥;9. チオグリコール酸アンモニウムで処置;10. チオグリコール酸アンモニウム及び水で処置;11. 基本製品で処置、ブロー乾燥。結果を図8に示す。結果は、トルマリンで処置した毛髪について、及び化学的処置(すなわち、Mizani(登録商標) Rhelaxer、NaOH、チオグリコール酸アンモニウム)で処置した毛髪についてのジスルフィド結合の減少を示す。呈色的ジスルフィド結合測定は、本研究において、トルマリンが、対照と比較して、酸性pHで毛髪中のS-S結合の約6〜13%を減少させたことを示す。
【0064】
毛髪ダメージ
化学的処置に対する本発明の主要な利点のうちの1つは、化学的処置に伴うダメージの回避である。本発明に従って処置した場合に、毛髪に対して明らかなダメージがないことを実証するために、様々なタイプの直毛化処置の前後での、切れるときの伸張応力を測定した。Instron引張試験機(モデル5542)と、ミニグリップ及び10N負荷セルを用いた。伸張率は、20mm/分であった。サンプルは、4mm長の白人毛髪(処置前巻き毛、処置後直毛化された)であった。全てのサンプルを、同じ条件下で試験した:サンプルは乾燥したもので、環境温度及び湿度はそれぞれ70℃及び20%であった。図6の左から右に向かって、サンプルは以下のものである:
陰性対照:無処置巻き毛毛髪
上記の5%赤色トルマリン製剤で直毛化、洗浄及びブロー乾燥
5%赤色トルマリン製剤で直毛化、洗浄及びブロー乾燥
陽性対照:トルマリンを含まないストレートアイロンで直毛化
陽性対照:トルマリン含有ストレートアイロンで直毛化
陽性対照:水酸化ナトリウム市販製品(Mizani(登録商標) Rhelaxer)で直毛化
陽性対照:チオグリコール酸市販製品で直毛化、シャンプー及びリンス
陽性対照:2%水酸化ナトリウム水溶液で直毛化、クエン酸で中和。
【0065】
処置により引き起こされた毛髪ダメージは、切れるまでの応力の減少として明らかである。図6の結果は、無処置の巻き毛毛髪と比較して、5%赤色トルマリン組成物で直毛化した毛髪は、統計学的に有意な程度まで弱くなっていなかったことを示す。このことは、他のサンプルの全て、特に通常の化学的方法により処置されたものとは異なる。
【0066】
毛髪の伸張特性のより詳細な研究
それぞれ60本の毛髪繊維の4群を、以下のように準備した。1群は対照であり、Bumble and Bumble Alojobaシャンプーで洗浄し、リンスし、ブロー乾燥した。1群は、MIZANI(登録商標) Rhelaxerで処置した(各繊維に0.3mLを塗布)。1群は、クリーム基材中の2%赤色トルマリン(処方1を参照されたい)で処置し(各繊維に0.2mLを塗布)、続いてブロードライヤーで約5分間加熱した。1群は、ゲル基材中の2%赤色トルマリン(処方2を参照されたい)で処置し(各繊維に0.2mLを塗布)、続いてブロードライヤーで約5分間加熱した。
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
続いて、繊維を80%相対湿度に平衡化し、切れるまでDiastron MTT675自動化引張試験機にかけた。引張試験の結果を、以下の表に示す。
【表4】

【0069】
毛髪の研究では、直線領域(フックの法則)及び降伏領域(yield region)での変化は、通常は、繊維の水分含量、及びケラチンがそのらせん形状を維持する能力の変化に関連する。共有結合パラメータ(破壊応力、切れるまでの仕事量、及び降伏後伸張(post yield extension))は、繊維の共有結合(分子)特性の指標をもたらし、これは繊維強度及び繊維ダメージを示す。
【0070】
両方の2%トルマリン組成物での処置は、応力・ひずみ曲線のフック領域及び降伏領域に対する非常に著明な効果を有していた。ヤング係数、15%ひずみでの応力及び15%ひずみでの仕事量は、全て減少した。このことは、トルマリン処置が毛髪の塑性を高め、より柔軟にすると解釈することができる。減少したヤング係数は、より柔軟で、もろさの少ない毛髪を意味する。一方で、共有結合パラメータは、これら2種類のトルマリン処置により大きくは影響されなかった(2%トルマリンゲル処置に伴う破壊伸長での小さな増大は除く)。つまり、毛髪繊維は、いかなるダメージも受けたとは考えられない。
【0071】
対照的に、MIZANI(登録商標) Rhelaxer処置は、ヤング係数での有意な増大を引き起こし、降伏パラメータ(15%ひずみでの応力及び15%ひずみでの仕事量)を減少させた。ヤング係数の増大は、処置の結果、繊維がよりもろくなったことを暗示する。さらに、この処置は、共有結合パラメータ(破壊応力、切れるまでの仕事量、及び降伏後伸長)を有意に減少させ、このことは、分子ダメージによる繊維のタンパク質構造の弱化を示している。
【0072】
毛髪直毛化方法の比較
本発明の組成物の有効性を実証するために、様々なタイプの処置後の巻き毛の直毛化率(%)を測定した。処置後の巻き毛長さを測定し、無処置の巻き毛毛髪と比較し、変化%として表した。全てのサンプルを、同じ条件下で測定した:サンプルは乾燥しており、環境温度及び湿度は、それぞれ70℃及び20%であった。図7の左から右に向かって、サンプルは以下のものである:
陰性対照:無処置巻き毛毛髪
上記の5%赤色トルマリン製剤で直毛化、洗浄及び空気乾燥
陽性対照:トルマリンを含まないストレートアイロンで直毛化
陽性対照:Mizani(登録商標) Rhelaxerで直毛化
陽性対照:トルマリン含有ストレートアイロンで直毛化
5%トルマリン組成物で直毛化、洗浄及びブロー乾燥
陽性対照:チオグリコール酸市販製品で直毛化、シャンプー及びリンス
陽性対照:2%水酸化ナトリウム水溶液で直毛化、クエン酸で中和。
【0073】
図7の結果は、ブロードライヤーで加熱した、5%赤色トルマリン組成物での直毛化は、市販の化学直毛化剤若しくはストレートアイロンよりも、又は同程度に、毛髪を直毛化する。5%トルマリン組成物及び空気乾燥は有効でないことを記載しておく。つまり、活性化のためにトルマリン組成物を加熱することは、本試験では極めて重要であった。しかしながら、興味深いことに、5%トルマリン粉末組成物及びブロー乾燥は、トルマリン含有ストレートアイロンよりも2倍効果があった。このことは、トルマリンストレートアイロンは、5%トルマリン組成物と共に用いたブロードライヤーよりもずっと高い温度を達成できるにもかかわらず、ストレートアイロンに埋め込まれたトルマリンは、毛髪に塗布された5%トルマリン組成物ほどの効果を有しないことを示す。したがって、本発明者らは、トルマリン含有ストレートアイロンは、本発明のトルマリン組成物ほどの効果をもたらさないと結論付ける。トルマリンストレートアイロンは、本発明の組成物又は方法とは捉えられない。
【0074】
タンパク質二次構造に対するトルマリンの効果:X線散乱
広角X線散乱(WAXS)及び小角X線散乱(SAXS)を用いて、種々の処置後の毛髪繊維のタンパク質ケラチン構造を決定した。
【0075】
5種類のサンプルを準備した。対照サンプルは処置しなかった;1種類のサンプルは、基本製剤で処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、基本製剤中の2%トルマリンで処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、2%NaOH(pH=13.45)で処置し、ブロー乾燥した;1種類のサンプルは、基本製剤中の4%尿素(pH=7)で処置し、ブロー乾燥した。
【0076】
WAXSデータは、毛髪繊維のα、β、α+β等のタンパク質ケラチン二次構造についての情報をもたらし、SAXSデータは、コイルドコイル、不定型、整列した糖タンパク質分子等の1〜100nmの毛髪繊維中の長手距離構造についての情報をもたらす。以下の分析に関して、「強」とは、サンプルの優勢な/シャープなタンパク質構造と定義され、「弱」とは、存在する/ブロードな/はっきりしないタンパク質構造と定義され、「不存在」とは、毛髪繊維中に構造が存在しないことを意味する。「出現」とは、X線がタンパク質構造を測定した空間と定義される。2次元X線散乱画像では、強、弱及び不存在のタンパク質構造をはっきりと区別することができた。これらは、散乱ベクトルqの一定の値で、強、弱又は不存在の反射(円弧/点/環)として現れている。q値を含む結果を、以下の2つの表に列挙する。
【表5】

【0077】
【表6】

【0078】
対照サンプルは、強いαケラチン構造、弱いβ構造、及び弱いα+β構造を有する。これはコイルドコイル構造を有する。WAXSは、このサンプルについて0.40nmで非常に弱いピークを示したが、そのタンパク質構造は明らかになっておらず、不均一な毛髪構造による可能性があることに留意すべきである。SAXSデータは、対照サンプルが6.7nmの子午線反射を有することを示し、これは、コイル-コイルケラチン構造に対応する。
【0079】
基本製剤サンプルは、強いαケラチン構造を有し、広角X線散乱領域での2つの独特の特徴を有する:(1) 1.15nmを中心とするブロードな赤道上のスポット、これは、αヘリックスの軸と軸の間の平均距離又は間隔に対応する、及び(2) 0.58nmでのはっきりした子午線円弧、これは、コイルドコイルの軸に沿ったαヘリックスのピッチの予測に関連し、あまりきちんと並んでいないコイルドコイルの0.57nm付近の広い円弧より大きい。サンプルは、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子を有しない。SAXSデータは、サンプル0について5.8nm及び4.0nmで構造を示したが、これらの形状は明らかになっていない。これは、不均一な毛髪構造による可能性がある。
【0080】
WAXSデータは、2%トルマリンサンプルが、強いα構造、強いβ構造、及び強いα+β構造を有することを示す。SAXSデータは、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子の両方を示す。
【0081】
2%NaOHサンプルは、他のものとは異なる。これはαケラチン構造を有さず、1.58nm付近の子午線円弧を有さず、赤道上のスポットも有しない。弱いベータ構造(0.52nmでの赤道上円弧)及び弱いα+β構造が観察される。WAXSは、サンプル2について0.36nmでの非常に弱いピークを示すが、そのタンパク質構造は明らかになっておらず、不均一な毛髪構造による可能性があることに留意すべきである。SAXSデータは、サンプル2が整列した分子タンパク質構造を有しないことを示す。
【0082】
4%尿素サンプルは、強いα構造、強いβ構造、及び弱いα+β構造を有する。コイルドコイル構造及び2%トルマリンサンプルのものよりも明白な4.7nmピーク(整列した糖タンパク質分子)の両方を有する。
【0083】
WAXSデータに基づけば、2%トルマリン処置の影響は、強いβ構造及び強いα+β構造の形成であるようである。
【0084】
SAXSデータに基づけば、2%トルマリン処置の影響は、コイルドコイル構造及び整列した糖タンパク質分子の形成であるようである。
【0085】
ジスルフィド相互作用は三次構造であるために、ジスルフィド相互作用は三次構造であるため、新たな二次構造の形成を、毛髪中のジスルフィド結合の破壊及び/又は再構築により説明することができないとは考えにくい。しかし、この場合はそうではない。例えば、一部の他の薬剤が二次構造に影響することができるのは、十分な数のジスルフィド結合が破壊された後のみであり得る。いずれにせよ、本発明者らは、活性化されたトルマリンが、非化学的手段により、ジスルフィド結合を切断し、二次構造を強化し、毛髪の永続的な再成形を可能にすることを間違いなく観察している。いかなる理論に拘泥することも望まないが、追加の二次構造の形成は、上記で観察された毛髪再成形の永続的性質の少なくとも一部をうまく説明し得る。ジスルフィド結合の再構築及び追加された二次構造は、一緒に機能して、毛髪を新たな形状に保持する可能性がある。
【0086】
他の好適な物質
これらの概念実証試験によってのみ、赤色トルマリン以外の物質が本発明で有用であると考えられることが明らかになる。例えば、種々の他のトルマリン(すなわち、黒色、緑色、ピンク色、褐色、青色)は、赤色トルマリンと同様に有用であると予想される。近赤外及び中赤外で放射し、本明細書中に記載された実用温度で90%を超える放射率を有する、様々なセラミック及び非金属も、有用であり得る。グラファイト、石こう及びクレイは、有用な非金属の例である。いずれの候補物質も、上述した基準を満たさなくてはならない。
【0087】
組成物
本発明の組成物は、一定の基準を満たさなければならない。例えば、組成物は、化粧品として許容可能であり、かつ商業的に実用的でなければならない。「化粧品として許容可能」及び「商業的に実用的」などは、通常、製造、流通及び消費者の使用の典型的な条件で、組成物が安定であることを意味する。「安定」とは、パーソナルケア用組成物の1以上の特性が、製造後のある最低限の時間内に許容できないレベルまで悪化しないことを意味する。好ましくは、その最低限の時間は、製造から6ヵ月、より好ましくは製造から1年、最も好ましくは製造から2年以上である。
【0088】
本発明の組成物は、合理的な量で用いた場合に有効でなければならない。組成物は、毛髪に塗布される組成物の量が、消費者が合理的であると考えるであろうものである場合にのみ、永続的にヒト毛髪を再成形するのに有効であるとみなされる。例えば、ローション組成物が毛髪を再成形するが、1ガロンの組成物が必要である場合、これは本発明において有効な組成物ではない。パーソナルケア用毛髪用製品の分野の当業者は、消費者が合理的であると考えるであろうものの非常によいアイデアを有する。1回の処置に必要な本発明の組成物の量は、処置される毛髪のタイプ及び量、並びに所望の効果に依存する。しかしながら、経験から、好ましくは約5オンス以下、より好ましくは約2.0オンス以下、最も好ましくは約1.0オンス以下の本発明の組成物が、頭部全体の毛髪の処置を完了するのに有効であることが示唆される。これらの量は、商業的理由及び消費者側の理由に対して好ましいが、本発明は、状況が必要とすれば、より大きな量も想定している。
【0089】
本明細書中で論じるガイドラインの範囲内では、実質的には、ヒト毛髪に対して有益又は安全である、化粧品として許容可能又は商業的に実用的ないかなる組成物でも、基本組成物として機能することができる。一般的には、基本組成物は好適な物質により放射される電磁波をあまり多く吸収してはならず、また、基本組成物は好適な物質の活性化又は不活性化を妨害してはならないと言うことができる。それらの制限を伴って、本発明の組成物は、毛髪に恩恵をもたらすことが知られているいかなる成分、安定な製品をもたらすのに必要ないかなる成分、及び製品をより化粧品として許容可能又は商業的に実用的にするいかなる成分も、含有することができる。例えば、ポリビニルピロリドンベースのフィルム形成剤は、一般的な毛髪用製品成分である。本発明の組成物では、これら又は他のフィルム形成剤が、ジスルフィド結合再構築が起こっている間、毛髪中の張力を維持するのを助ける場合がある。しかしながら、本明細書中で論じた永続的再成形効果を達成するためには、フィルム形成剤は必要ではなく、必須でもない。
【0090】
本発明の組成物は、本明細書中に開示した化学物質を用いないメカニズムに対する補助として、化学パーマ剤を含有することができる。しかしながら、好ましくは、本発明の組成物は、ジスルフィド結合と反応する化学的薬剤又は試薬を有しない。好ましくは、ジスルフィド結合切断の唯一のメカニズムは、組成物中の好適な物質から供給される電磁波放射による直接的励起である。
【0091】
本発明の組成物は、毛髪着色剤を有利に含む場合がある。当技術分野で周知のこのタイプの毛髪着色反応及び本明細書中に記載のジスルフィド結合切断は、相乗効果を示す場合がある。
【0092】
組成物は、処置される毛髪の区画にわたって、かつ根本から先端までのその長さに沿って、組成物を広げることができる限り、実質的にはいかなる形状も(固体又は半固体でさえも)有し得る。
【0093】
好適な物質は、基本組成物に添加することができるし、あるいは、状況が必要とするか又は許し得るいずれの様式でも、基本組成物の製造中に添加することができる。一部の好適な物質は、簡単な混合により組成物に組み込むことができ、他のものは前処理を必要とする場合がある。組成物は、数例を挙げると、混合物、懸濁物、エマルジョン、固体、液体、エアロゾル、ゲル、又はムースであり得る。組成物は、シャンプー又はコンディショナーの形態であり得る。組成物は、含水性であるか、又は実質的に無水であり得る。「実質的に無水」とは、約10%未満の総含水量を意味する。
【0094】
トルマリンは、約1%ほども低い濃度で有用であると予測される。上限に関して、一般的には、好適な物質の濃度に対する実際的な上限がある。結局のところ、特定のヘアスタイルに到達するためには、限られた数のジスルフィド結合しか再構築する必要がない。しかしながら、いずれの特定の好適な物質の実際的な上限は多くの因子に依存し、そのうちの重要なものは、ある結果を得ることを予期して、消費者がどれだけの量の製品を塗布するかである。つまり、市販製品では、試行錯誤又は消費者使用試験が、好適な物質の濃度を決定するための最良の方法である。管理された試行錯誤実験の例は、漸増濃度の好適な物質を含む既定量の組成物を用いて毛髪をスタイリングし、かつ追加的な恩恵がもたらされない濃度を観察することであり得る。既定量は、所与の量及びタイプの毛髪に対して、どれだけの量の製品を消費者がよく使うかについての市場知識に基づくべきである。有用な組成物は、約1%までの1種以上のトルマリン、好ましくは約2%までの1種以上のトルマリン、より好ましくは約5%までの1種以上のトルマリンを含有するであろう。トルマリンは、組成物の少なくとも約10%までの濃度で有用であると予測されるが、組成物の正確な性質、温度、スタイリングされる毛髪の量、用いる製品の量等に依存して、その後に収穫逓減効果が生じる場合がある。他のより効率のよい放射性物質(より高い放射率)は1%よりもずっと低い濃度で有用であり得、効率の低い物質(より低い放射率)はより高い濃度(例えば、約5%超、又は例えば、約10%超でさえ)でのみ有用であり得る。
【0095】
表1は、5%トルマリンを含有する、化粧品として許容可能、商業的に実用的な、有効な本発明の組成物の例である。
【0096】

【0097】
方法
本発明は、本明細書中に記載される組成物の使用方法を含む。基本的な方法は、本発明の組成物を準備するステップ;光子を発するように該組成物を活性化するステップ;及び光子を毛髪中のジスルフィド結合により直接的に吸収させるステップを含む。より詳細な方法は、毛髪の一区画に本発明の組成物の一定量を塗布するステップ;所望の形状になるように該毛髪の一区画に張力をかけるステップ;該組成物の一定量を活性化するステップ;該組成物の一定量を不活性化するステップ;及びかけている張力を開放するステップを含む。組成物の一定量は、好ましくは約5オンス以下、より好ましくは約2オンス以下、最も好ましくは約1オンス以下である。組成物を塗布するステップは、処置される毛髪の区画にわたって、根本から先端までのその長さに沿って、組成物を広げるステップを含む。活性化ステップは、組成物を活性化し、かつ/又は毛髪を再成形するのに十分な時間にわたり、毛髪の区画に温風流を向けるステップを含むことができる。あるいは、活性化ステップは、LED又はレーザーなどからの可視光を、毛髪の一区画に照射するステップを含むことができる。方法は、処置の前又は後に毛髪を洗浄するステップを含むことができる。方法は、毛髪の同じ区画への塗布を繰り返すステップ又は毛髪の同じ区画に補助的処置を用いるステップを含むことができる。
【0098】
電磁波放射を介して毛髪を再成形する、商業的に実用的で、局所的に塗布される、安全かつ安定な組成物の概念は、新規であり、かつ自明ではない。達成された結果は、予測されたものではなく、先行技術のいずれとも似ていなかった。毛髪は、きつい化学物質に曝露されず、いやな匂いは生じない。新規性及び非自明性は、以下の事実によっても一部分実証される:この課題が明らかになったのはこれが初めてであり;本明細書が該課題に対する解決手段が満たすべき基準のリストの最初の開示であり;それらの基準を満たす組成物が開示されたのはこれが初めてである。言い換えれば、本発明者らは、課題を明らかにし、いくつかの解決手段を見出し、さらに該課題に対する全ての他の解決手段に対する基準を定義した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛髪中の三次及び/又は二次タンパク質構造を変化させるのに有効な強度及び波長範囲で光子を発するか又は発するように誘導される、局所用毛髪再成形組成物。
【請求項2】
光子のエネルギーが、基底状態のジスルフィド結合の解離エネルギー未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
波長範囲が0.15〜30μmである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
40℃〜80℃に加熱された際に、0.15〜30μmの波長範囲で、少なくとも0.80の放射率を有する物質を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記物質がトルマリンである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
1%〜10%トルマリンを含む、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
化学的相互作用は必要なく、光子吸収のみにより毛髪中のジスルフィド結合を破壊する、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
毛髪タンパク質の二次構造を変化させる、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
消費者の観点から、安全、安定かつ商業的に実用的である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
1種以上のフィルム形成剤をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項11】
1種以上のポリビニルピロリドンベースのフィルム形成剤を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
以下のステップ:
請求項1に記載の組成物を準備するステップ;
光子を発するように該組成物を活性化するステップ;及び
光子を毛髪中のジスルフィド結合により直接的に吸収させるステップ
を含む、ヒト毛髪を再成形する方法。
【請求項13】
以下のステップ:
毛髪の一区画に請求項4に記載の組成物の一定量を塗布するステップ;
所望の形状になるように、該毛髪の一区画に張力をかけるステップ;
光子を発するように、該組成物の一定量を活性化するステップ;
該組成物の一定量を不活性化するステップ;及び
かけていた張力を開放するステップ
を含む、ヒト毛髪を永続的に再成形する方法。
【請求項14】
前記組成物の一定量が、約2オンス以下である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
活性化ステップが、前記毛髪の一区画に塗布された前記組成物の一定量を少なくとも40℃に加熱するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
活性化ステップが、前記組成物の一定量を少なくとも60℃に加熱するステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
加熱ステップが、前記組成物を活性化して、毛髪中の三次及び/又は二次タンパク質構造を変化させるのに十分な時間にわたり、前記毛髪の一区画に温風流を向けるステップを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
温風流がヘアドライヤーにより供給される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
張力をかけるステップと張力を開放するステップの間の、それらのステップを含むステップが、約30分未満で完了する、請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−518642(P2012−518642A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−551227(P2011−551227)
【出願日】平成22年2月19日(2010.2.19)
【国際出願番号】PCT/US2010/024641
【国際公開番号】WO2010/096598
【国際公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(598100128)イーエルシー マネージメント エルエルシー (112)
【Fターム(参考)】