説明

気体フィルター材

【課題】 高い捕集効率を持つ内部濾過型の気体フィルター材を提供する。
【解決手段】 この内部濾過型の気体フィルター材は、横断面が井型の合成繊維が集積されてなる繊維集積体からなる。横断面が井型の合成繊維としては、一般的に横断面が井型の熱可塑性合成繊維が用いられる。たとえば、繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面井型のナイロン短繊維が用いられる。繊維集積体としては、見掛け密度が0.05〜0.2g/cm3程度の不織布が用いられる。この気体フィルター材は、粒径が5μm以下の塵埃の捕集性に優れている。また、この気体フィルター材は、濾過速度0.5m/s〜1.75m/sの範囲で良好な塵埃捕集性を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として空気濾過装置に用いられる気体フィルター材に関し、特に微細な塵埃の捕集効率に優れた気体フィルター材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、塵埃を捕集するためのフィルター材としては、各種繊維が集積されてなる不織布に代表される繊維集積体が用いられている。かかるフィルター材の塵埃捕集機構は、表面濾過型、ケーキ濾過型及び内部濾過型が知られている。
【0003】
表面濾過型は、繊維集積体表面で塵埃を捕集するものである。また、ケーキ濾過型は、繊維集積体表面で捕集した塵埃自体が、さらにフィルター材として機能して塵埃を捕集するものである。表面濾過型及びケーキ濾過型は、表面に塵埃が捕集されるため、短期間で圧力損失が高くなって、長期間使用できないという欠点がある。しかしその反面、表面に捕集された塵埃を払い落とせば、再度使用しうるという利点もある。一方、内部濾過型は、繊維集積体を構成している構成繊維表面(すなわち、繊維集積体の内部に存在する構成繊維表面)に塵埃を付着させて捕集するものである。したがって、繊維集積体表面に塵埃が堆積する表面濾過型やケーキ濾過型に比べて、短期間では圧力損失が高くなりにくく、長期間使用しうるという利点がある。しかしながら、繊維集積体内部の構成繊維表面に塵埃が付着しているため、これは払い落とすことができず、また水洗等によって洗浄しても容易に落とすことができない。したがって、再度の使用はできず、基本的に使い捨てのフィルター材となる。
【0004】
従来より、フィルター材として、繊維集積体を構成する繊維の種類や、繊維集積体自体の構造について、各種のものが提案されている。しかしながら、気体フィルター材か液体フィルター材かを明確にし、かつ、表面濾過型、ケーキ濾過型又は内部濾過型であるのかを明確にしたものは少ない。
【0005】
以下に挙げる特許文献1は、特定の構造を持つ複合不織布に関する発明が記載されているものである。ここには、複合不織布を構成する繊維として、横断面が井型である繊維を使用することが、一行記載として説明されている。また、実施例5として、横断面が井形ではないが異形となった繊維を含む複合不織布が、液体フィルター材として好適であると説明されている。しかしながら、特許文献1には、横断面が井型の熱可塑性合成繊維を集積してなる不織布が、内部濾過型の気体フィルター材として好適であることは、全く記載されていないし、示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−158763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、横断面が井型の合成繊維は、空気中に存在する塵埃を、その表面によく付着させるという現象を見出してなされたものである。すなわち、このような現象は、内部濾過型の気体フィルター材として応用可能であり、高い捕集効率を持つ気体フィルター材が得られると考えられるのである。したがって、本発明の課題は、高い捕集効率を持つ内部濾過型の気体フィルター材を提供することにある。
【0008】
そして、横断面が井型の合成繊維よりなる繊維集積体を用いて実験を重ねた結果、高い捕集効率を持つ内部濾過型の気体フィルター材を得ることに成功し、本発明がなされたのである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本発明は、横断面が井型の合成繊維が集積されてなる繊維集積体を具備する内部濾過型の気体フィルター材に関するものである。
【0010】
本発明で使用する横断面が井型の合成繊維は、横断面が略井型となっている。ここで、横断面が略井型とは、図1に示したような形態である。図1では、略井型の横断面の中央部が軸方向に中空となっているが、本発明では、中央部が中実になっているものも用いることができる。合成繊維とは、天然繊維以外のものを意味しており、半合成繊維をも含むものである。本発明では、一般的に熱可塑性合成繊維が用いられる。かかる熱可塑性合成繊維は、溶融した熱可塑性合成樹脂を、略井型(井型の中央部が軸方向に中空になっているものも中実になっているものも含む。)を持つ紡糸孔を用いて紡糸することにより、得られるものである。紡糸に用いる熱可塑性合成樹脂としては、熱溶融性のものであれば、どのようなものでも用いることができる。たとえば、ナイロン、ポリエステル、ポリオレフィン等を用いることができる。なお、横断面が井型の熱可塑性合成繊維は、ユニチカファイバー株式会社から販売されており、容易に入手しうるものである。
【0011】
合成繊維の繊度は、適宜決定されるべき事項であるが、微細な塵埃を捕集するためには、なるべく繊度の細いものが好ましい。具体的には、1〜20デニール程度が好ましく、さらに1〜10デニール程度がより好ましく、1〜7デニール程度が最も好ましい。また、合成繊維の繊維長も、適宜決定されるべき事項である。具体的には、5〜100mm程度の短繊維であってもよいし、繊維長が無限大の連続繊維(長繊維)であってもよい。なお、合成繊維表面はエレクトレット化されていてもよい。
【0012】
合成繊維が集積されてなるものとしては、不織布が代表的である。不織布としては、従来公知の各種製法で得られたものが用いられる。たとえば、バインダーボンド不織布、ファイバーボンド不織布、ニードルパンチ不織布、スパンレース不織布又はスパンボンド不織布等が用いられる。また、不織布ではなく、単に合成繊維が集積されてなる布団綿の如きものであってもよい。さらには、合成繊維を用いてなる編織物も使用可能である。
【0013】
合成繊維の集積体の見掛け密度も、適宜決定されるべき事項である。見掛け密度が高すぎると圧力損失が高くなるし、見掛け密度が低すぎると塵埃の捕集効率が悪くなるので、この点を考慮して適宜決定される。具体的には、0.05〜0.2g/cm3程度である。
【0014】
本発明に係る気体フィルター材は、内部濾過型である。本発明は、横断面井型の合成繊維表面が、塵埃付着性に優れているという利点を利用したものであるから、内部濾過型に限定されているのである。横断面井型の合成繊維よりなる集積体を、表面濾過型やケーキ濾過型のフィルター材として使用しても、繊維表面自体の塵埃付着性に優れているという利点を利用することはできない。
【0015】
本発明に係るフィルター材は、気体用である。本発明は、横断面井型の合成繊維表面が、空気中の塵埃を付着しやすいという利点を使用したものであるから、気体用に限定されているのである。横断面井型の合成繊維よりなる集積体を、液体用フィルター材として使用しても、繊維表面が空気中の塵埃を付着しやすいという利点を利用することはできない。
【0016】
本発明に係る気体フィルター材は、ビルや自動車等に用いる空気調和機等のフィルター材として用いられる。特に、中性能用空気調和機のフィルター材として、最適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る気体フィルター材は、横断面が井型の合成繊維が集積されてなるものである。そして、横断面が井型の合成繊維は、下記の実施例から実証されているとおり、その表面に空気中の塵埃を付着しやすいものである。したがって、本発明に係る気体フィルター材を用いれば、内部濾過による塵埃捕集効率に優れたものが得られるという効果を奏する。なお、横断面井型の合成繊維表面が空気中の塵埃をよく付着させ、しかも付着した塵埃が再飛散しにくく塵埃付着性に優れている原理は、ファンデルワールス力によるものとと井型凹部への塵埃の閉じ込め性によるものと、本発明者は考えている。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明で用いる横断面井型の合成繊維の一例を示した写真である。
【図2】参考例で使用した装置の概略図である。
【図3】参考例1で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図4】参考例1で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図5】参考例2で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図6】参考例2で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図7】参考例3で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図8】参考例3で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図9】参考例4で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図10】参考例4で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図11】参考例5で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図12】参考例5で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図13】参考例6で濾過実験を行った後の繊維集積体の一部を観察したSEM写真である。
【図14】参考例6で濾過実験を行った後の繊維集積体の他部を観察したSEM写真である。
【図15】実施例及び比較例で使用した装置の概略図である。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本発明は、横断面井型の合成繊維表面は、空気中の塵埃を付着しやすいという現象の発見に基づくものとしては、解釈されるべきである。
【0020】
参考例1
まず、図2に示した装置を準備した。そして、繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面井型(図1に示したような形態)のナイロン短繊維0.5gと、繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面円形のナイロン短繊維0.5gを混合集積し、繊維集積体として、図2に示す装置に装着した。なお、繊維集積体の見掛け密度は約0.14g/cm3とした。
【0021】
一方、試験塵埃として関東ローム粉(JIS−11種)を準備した。そして、図2に示したアンダーセンエアサンプラーによって5μm以上の粒子をカットして、装置内に関東ローム粉を導入した。導入された関東ローム粉を空気と共に、濾過速度0.5m/sで15分間、繊維集積体に通過させて、濾過を行った。
【0022】
濾過後の繊維集積体の二カ所をSEM写真で観察すると、図3及び図4のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0023】
参考例2
濾過速度0.5m/sを濾過速度1.0m/sに変更した他は、参考例1と同一の条件で濾過を行った。そして、参考例1の場合と同様にしてSEM写真で観察すると、図5及び図6のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0024】
参考例3
濾過速度0.5m/sを濾過速度1.75m/sに変更した他は、参考例1と同一の条件で濾過を行った。そして、参考例1の場合と同様にしてSEM写真で観察すると、図7及び図8のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0025】
参考例4
図2に示したアンダーセンエアサンプラーによって5μm以上の粒子をカットするのに代えて、2μm以上の粒子をカットした他は、参考例1と同一の条件で濾過を行った。そして、参考例1の場合と同様にしてSEM写真で観察すると、図9及び図10のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0026】
参考例5
図2に示したアンダーセンエアサンプラーによって5μm以上の粒子をカットするのに代えて、2μm以上の粒子をカットした他は、参考例2と同一の条件で濾過を行った。そして、参考例1の場合と同様にしてSEM写真で観察すると、図11及び図12のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0027】
参考例6
図2に示したアンダーセンエアサンプラーによって5μm以上の粒子をカットするのに代えて、2μm以上の粒子をカットした他は、参考例3と同一の条件で濾過を行った。そして、参考例1の場合と同様にしてSEM写真で観察すると、図13及び図14のとおりであり、横断面井型の短繊維は、横断面円形の短繊維に比べて、その表面に多数の試験塵埃が付着しており、試験塵埃の捕集率が高いことが分かる。
【0028】
実施例1
まず、図15に示した装置を準備した。そして、繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面井型のナイロン短繊維2gを集積し、繊維集積体として、図15に示す装置に装着した。なお、繊維集積体の見掛け密度は約0.14g/cm3とした。
【0029】
一方、試験塵埃として粒径0.814μmの単分散ポリスチレンラテックス粒子を準備し、これを図15に示す装置内に導入した。導入された粒子を空気と共に、濾過速度0.5m/sで繊維集積体に通過させて、濾過を行い、図15の装置を使用して捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0030】
比較例1
繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面井型のナイロン短繊維に代えて、繊度約5デニールで繊維長約50mmの横断面円形のナイロン短繊維を用いる他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0031】
実施例2
濾過速度0.5m/sを0.75m/sに変更する他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0032】
比較例2
濾過速度0.5m/sを0.75m/sに変更する他は、比較例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0033】
実施例3
濾過速度0.5m/sを1m/sに変更する他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0034】
比較例3
濾過速度0.5m/sを1m/sに変更する他は、比較例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0035】
実施例4
濾過速度0.5m/sを1.25m/sに変更する他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0036】
比較例4
濾過速度0.5m/sを1.25m/sに変更する他は、比較例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0037】
実施例5
濾過速度0.5m/sを1.5m/sに変更する他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0038】
比較例5
濾過速度0.5m/sを1.5m/sに変更する他は、比較例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0039】
実施例6
濾過速度0.5m/sを1.68m/sに変更する他は、実施例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0040】
比較例6
濾過速度0.5m/sを1.68m/sに変更する他は、比較例1と同一の条件で、捕集効率及び圧力損失を測定した。
【0041】
実施例1〜6及び比較例1〜6で測定した捕集効率及び圧力損失を表1に示した。また、表1にはq値(1/Pa)も示した。なお、q値とは、以下の式で算出されるものであり、q値が大きいほど濾過特性が優れていることを示すものである。
q値(1/Pa)=[−ln(1−捕集効率/100)]/圧力損失
【0042】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
捕集効率(%) 圧力損失(Pa) q値(1/Pa)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例1 15.09 352 4.65×e-4
比較例1 4.45 159 2.87×e-4
────────────────────────────────────
実施例2 27.48 567 5.67×e-4
比較例2 9.16 262 3.67×e-4
────────────────────────────────────
実施例3 46.51 819 7.64×e-4
比較例3 20.98 386 6.09×e-4
────────────────────────────────────
実施例4 65.11 1081 9.74×e-4
比較例4 33.06 521 7.70×e-4
────────────────────────────────────
実施例5 75.06 1263 1.10×e-3
比較例5 41.04 621 8.51×e-4
────────────────────────────────────
実施例6 80.38 1394 1.17×e-3
比較例6 44.62 690 8.57×e-4
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0043】
実施例1〜6と比較例1〜6の結果を対比すると、同一の濾過条件を採用した場合、捕集効率及びq値のいずれも、実施例の方が優れていることが分かる。したがって、横断面井型の合成繊維よりなる繊維集積体を具備した気体フィルター材は、フィルター特定に優れているという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横断面が井型の合成繊維が集積されてなる繊維集積体を具備する内部濾過型の気体フィルター材。
【請求項2】
合成繊維が熱可塑性合成繊維である請求項1記載の気体フィルター材。
【請求項3】
熱可塑性合成繊維がナイロン繊維である請求項2記載の気体フィルター材。
【請求項4】
繊維集積体が不織布である請求項1記載の気体フィルター材。
【請求項5】
粒径5μm以下の塵埃を除去するための請求項1記載の気体フィルター材。
【請求項6】
請求項1記載の気体フィルター材を用いて、濾過速度0.5m/s〜1.75m/sで空気を濾過する濾過方法。

【図2】
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【図15】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−214232(P2010−214232A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60921(P2009−60921)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】