説明

気化装置及びこの制御方法

本発明は、原料物質を収容する気化ルツボと、前記気化ルツボを加熱して前記原料物質を気化させる気化加熱部と、前記気化ルツボの温度を測定する温度測定部と、前記気化加熱部の印加電源を測定する電源測定部及び前記温度測定部の温度変化値及び前記電源測定部の電源変化値のうちのいずれか一方に基づいて、原料物質の気化量を調節する制御部を備える気化装置及びこの制御方法を提供する。このように、本発明は、原料物質の気化時に温度変化値または電源変化値に基づいて気化量を測定する非接触/電子方式を用いる。従って、接触方式とは異なり、気化量測定手段が原料ガスに直接的に接触しないことから、種々の原料が供給可能であり、しかも、大容量の原料を長時間に亘って供給しても性能が低下することがない。なお、電子方式により気化量を極めて精度よく測定することができるので、より精度よい原料の供給が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は気化装置及びこの制御方法に係り、さらに詳しくは、原料物質をガス状に気化させて供給する気化装置及びこの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常の真空加熱蒸着方式には、原料物質が固相または液状である場合にこれを気化させる過程が伴われ、このために、チャンバーの内部またはチャンバーの外部に原料気化装置が設けられる。この種の原料気化装置は、固相または液状の原料物質を気化(または、蒸発)させるための気化手段の役割に加えて、気化される原料物質の量を測定する役割も果たす。なお、通常、測定された値に基づいて、気化量を所望の目標値に調節するための気化量調節手段をさらに備える。
【0003】
この種の気化量調節手段は、クリスタルセンサーを用いてクリスタルの振動数の変化を測定するか、あるいは、圧力ゲージを用いて気化圧力の変化を測定する。その結果、気化量が所望の目標値よりも高ければ、原料供給量を減らすように、あるいは、加熱温度や印加パワーを下げるように制御する。逆の場合、一般に、前記気化量調節手段は、原料供給量を増やすように、あるいは、加熱温度または印加パワーを上げるように制御する。
【0004】
しかしながら、クリスタルセンサーを用いる場合には、クリスタルセンサーの表面への蒸着量がある程度以上になると、寿命が尽きてそれ以上の精度よい測定が行えなくなる。このため、大量の原料供給が必要とされる場合、または、長時間に亘る連続した工程が必要とされる場合には不向きであり、原料物質がクリスタルセンサーの表面に上手く吸着されない場合には、振動数の変化が蒸発量に比例しないため使用できない。
【0005】
そして、圧力ゲージを用いる場合には、蒸発された原料物質が圧力ゲージの内部部分と化学的反応を引き起こして誤動作を来たす虞がある。そして、ある程度以上に用いると、蒸発された原料物質が圧力ゲージの入口の通路を閉塞して正確な圧力測定が行えない場合がしばしば発生する。なお、圧力ゲージは、大まかな気化圧力の変化を測定することはできるとはいえ、微細な圧力変化に敏感ではないため、精度よい制御が求められる工程には不向きである。
【0006】
このように、従来の気化量調節方式は、異種の膜質形成のための様々な原料供給、大面積基板の使用による大容量原料の供給、量産性確保のための長時間に亘る原料供給及び工程微細化による精度よい原料供給などが求められる最近の工程流れに不向きであるという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、種々の原料供給、大容量原料供給、長時間に亘る原料供給及び精度よい原料供給などに適した気化量制御手段を備える気化装置及びこの制御方法を提供する。
【0008】
また、本発明は、リアルタイムにて原料物質の気化量を確認できる気化量制御手段を備える気化装置及びこの制御方法を提供する。
【0009】
さらに、本発明は、気化器の構造を改善することにより気化速度の向上、気化品質の向上を両立させることのできる気化装置及びこの制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一局面による気化装置は、原料物質を収容する気化ルツボと、前記気化ルツボを加熱して前記原料物質を気化させる気化加熱部と、前記気化ルツボの温度を測定する温度測定部と、前記気化加熱部の印加電源を測定する電源測定部と、前記温度測定部の温度変化値及び前記電源測定部の電源変化値のいずれか一方に基づいて、原料物質の気化量を調節する制御部と、を備える。
【0011】
前記制御部は、前記気化ルツボの温度を一定に制御し、前記電源測定部の電源変化値に基づいて原料物質の気化量を調節することが好ましい。
【0012】
前記制御部は、前記気化加熱部の印加電源を一定に制御し、前記温度測定部の温度変化値に基づいて原料物質の気化量を調節することが好ましい。
【0013】
前記温度測定部は、前記気化ルツボの内部に設けられることが好ましい。
【0014】
前記気化装置は、前記気化ルツボを取り囲む筐体と、前記筐体内部の気化圧力を測定する圧力ゲージと、をさらに備えることが好ましい。または、前記気化装置は、前記気化ルツボ内部の気化圧力を測定する圧力ゲージをさらに備えることが好ましい。
【0015】
前記気化装置は、前記気化ルツボに原料物質を供給する原料供給部をさらに備え、前記原料供給部は、固相の原料物質が貯蔵される液化ルツボと、前記液化ルツボを加熱して原料物質を液化させる液化加熱部と、前記液化ルツボの原料物質を外部に排出する排出手段と、を備えることが好ましい。
【0016】
前記気化ルツボは、前記原料物質が収容される内部空間が形成された胴体部と、前記胴体部に取設されて内部空間に収容された原料物質を排出するための少なくとも一つの排出口が形成された排出板と、を備えることが好ましい。
【0017】
前記排出板は多数設けられて前記胴体部の内部空間を上下に画成することが好ましい。または、前記排出板には気化加熱部が埋設されることが好ましい。
【0018】
前記排出板の外側表面は、中心部と周辺部の高さが異なるように、例えば、電灯のかさ状または漏斗状を呈するように形成されることが好ましい。
【0019】
本発明の他の局面による気化装置は、原料物質を収容する気化ルツボと、前記気化ルツボを加熱する気化加熱部と、を備え、前記気化ルツボは、前記原料物質が収容される内部空間が形成された胴体部と、前記内部空間に収容された原料物質を排出するための少なくとも一つの排出口を有し、前記内部空間を上下に画成するように配設された多数の排出板と、を備える。
【0020】
前記気化加熱部は、前記気化ルツボの外側に配設されてもよく、あるいは、前記多数の排出板のうちの少なくとも1枚に埋設されてもよい。
【0021】
本発明のさらに他の局面による気化装置は、原料物質を収容する気化ルツボと、前記気化ルツボを加熱する気化加熱部と、を備え、前記気化ルツボにおける原料物質が収容される底面は、中心部と周辺部の高さが異なるように形成される。すなわち、前記気化ルツボの底面は、中心部が周辺部よりも高く形成されてもよく、逆に、中心部が周辺部よりも低く形成されてもよい。
【0022】
本発明のさらに他の局面による気化装置の制御方法は、気化ルツボに原料物質を供給するステップと、前記原料物質の気化のために気化加熱部により前記気化ルツボを加熱するステップと、前記気化ルツボの温度変化値及び前記気化加熱部の電源変化値のうちのいずれか一方を測定して、前記原料物質の気化量を計算するステップと、前記気化量に基づいて、前記気化ルツボに供給される原料物質の供給量を制御するステップと、を含む。
【0023】
前記温度変化値は、前記気化加熱部の電源を一定に維持した状態で前記気化ルツボの温度変化値を測定することが好ましい。
【0024】
前記電源変化値は、前記気化ルツボの温度を一定に維持した状態で前記気化加熱部の電源変化値を測定することが好ましい。
【0025】
前記電源変化値は、電力、電圧、電流のうちのいずれか一つの変化値を含むことが好ましい。
【0026】
前記気化量を計算するステップは、前記気化ルツボを取り囲む筐体内部の圧力変化値を測定するステップを含み、前記原料物質の気化量は、前記温度変化値及び電源変化値のうちのいずれか一方と、前記圧力変化値を用いて計算することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の実施形態は、原料物質の気化時に温度変化値または電源変化値に基づいて気化量を測定する非接触/電子方式を用いる。従って、接触方式とは異なり、気化量測定手段が原料ガスに直接的に接触しないことから、種々の原料が供給可能であり、しかも、大容量の原料を長時間に亘って供給しても性能が低下することがない。なお、電子方式により気化量を極めて精度よく測定することができるので、より精度よい原料の供給が可能となる。
【0028】
また、本発明の実施形態は、リアルタイムにて気化量を確認することができるだけではなく、気化速度、気化温度、気化電力など気化過程の様々な情報を取得することができるので、原料物質の特性による最適な気化条件を容易に設計することができる。
【0029】
さらに、本発明の実施形態は、様々な気化部の構成を提示することにより、原料物質の特性に応じて最適な気化部の構成を選択して迅速で且つ安定した気化条件を容易に確保することができる。
【0030】
さらに、本発明の実施形態は、大量の原料物質を液化させた後に、所要の少量の原料物質のみを気化させる段階的な気化方式を採用して、原料物質の大容量化による高い生産性を達成することができ、少量気化方式による蒸着速度の調節及び蒸着品質の維持を行うことが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る気化装置を示す模式図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実験例に従い温度を一定に制御した状態で気化過程における電力変化値を測定したグラフである。
【図3】図3は、本発明の第2の実験例に従い電力を一定に制御した状態で気化過程における温度変化値を測定したグラフである。
【図4】図4は、本発明の第1の変形例に係る気化器を示す断面図である。
【図5】図5は、本発明の第1の変形例に係る気化器を示す斜視図である。
【図6】図6は、本発明の第2の変形例に係る気化器を示す断面図である。
【図7】図7は、本発明の第2の変形例に係る気化器を示す斜視図である。
【図8】図8は、本発明の第3の変形例に係る気化器を示す断面図である。
【図9】図9は、本発明の第3の変形例に係る気化器の動作過程を示す断面図である。
【図10】図10は、本発明の第4の変形例に係る気化器を示す断面図である。
【図11】図11は、本発明の第4の変形例に係る気化器の動作過程を示す断面図である。
【図12】図12は、本発明の第2の実施形態に係る気化装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に基づき、本発明を詳述する。しかしながら、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、相異なる形態で実現され、単にこれらの実施形態は本発明の開示を完全たるものとし、通常の知識を持った者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものである。図中、同じ符号は同じ構成要素を示す。
【0033】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る気化装置を示す模式図である。
【0034】
図1を参照すると、上記の気化装置は、固相または液状の原料物質Sを供給する原料供給部100と、前記原料供給部100から供給された原料物質を気化させる原料気化部200(210、220、230、240、250、270)と、前記原料気化部200と連通されて気化された原料物質を所望の目的空間に吹き付けるインジェクター300と、前記原料供給部100から前記原料気化部200へと供給される原料物質の供給量及び前記原料気化部200において気化される原料物質の気化量を制御する制御部500と、を備える。
【0035】
原料供給部100は、固相または液状の原料物質のうちのいずれか一方を供給するように構成される。例えば、本実施形態は、固相の原料物質Sを原料供給部100において液化させた後、液状の原料物質を原料気化部200に供給するように構成される。このために、前記原料供給部100は、原料物質が貯蔵されるシリンダー状の液化ルツボ110と、前記液化ルツボ110を加熱して原料物質を液化させる液化加熱部130と、前記液化ルツボ110の原料物質を排出する排出手段(例えば、前記液化ルツボ110の一方の側に装入されて原料物質を押し付けて排出するピストン部120)と、を備え、前記液化ルツボ110及び前記ピストン部120を収容して真空環境を提供する筐体140をさらに備える。
【0036】
前記液化ルツボ110は、一方の側が開放され、他方の側が閉塞されているシリンダー状に製作されて、内部に原料物質Sが充填される所定の貯蔵空間Aを提供する。このような液化ルツボ110は横断面が円形である場合に限らず、四角形、五角形など多角形に形成されてもよいことはいうまでもない。また、このような液化ルツボ110の胴体には、原料物質Sが投入される少なくとも一つの原料投入口111及び内部の貯蔵された原料物質Sが排出される少なくとも一つの原料排出口112が形成される。例えば、本実施形態は、液化ルツボ110の胴体上部に原料投入口111が形成され、閉塞されている液化ルツボ110の胴体の底面または側面に原料排出口112が形成される。
【0037】
前記液化加熱部130は、液化ルツボ110に貯蔵された固相の原料物質Sを加熱して液化させる熱エネルギーを供給する手段であって、固相の原料物質Sを液化可能な熱エネルギーを供給できる限り、いかなる手段が用いられても構わない。例えば、コアヒーター、板状ヒーター、ランプヒーターなどの抵抗式加熱手段と、高周波コイルなどの高周波加熱手段が使用可能である。本実施形態においてはコアヒーターを用いており、液化ルツボ110の外側領域をコアヒーターが取り囲むように構成している。もちろん、上記の液化加熱部130が必ずしも液化ルツボ110の外側に設けられる必要はない。例えば、前記液化加熱部130は、液化ルツボ110の内側に位置していてもよく、液化ルツボ110の胴体に埋め立てられてもよい。なお、筐体140そのものに加熱手段が設けられて上記の液化加熱部130に置き換えられてもよい。
【0038】
前記ピストン部120は、液化ルツボ110の貯蔵空間Aに充填された原料物質Sを気化部200に漸進的に移送する手段であって、前記液化ルツボ110の内部に備えられて原料物質Sを押し付けて移送するヘッド121と、一方の側が前記ヘッド121に連結され、他方の側が前記液化ルツボ110の外側に延びて前記ヘッド121と一体に移動するロッド122と、前記ロッド122の他方の側に連結されて前記ロッド122を移動させる駆動部123と、を備える。前記駆動部123は、モーターまたは油圧式シリンダーなど前記ロッド122を上下動できる手段である限り、いかなる手段が用いられても構わない。例えば、本実施形態においては、回転運動を直線運動に変換可能であり、しかも、精度よい駆動制御が行える線状モーターを用いている。
【0039】
原料気化部200は、内部に気化空間を提供する筐体210と、前記筐体210の内部に原料物質を投入させ、前記原料物質を気化させる気化器220と、を備える。
【0040】
前記筐体210は、送り管400を介して液化ルツボ110の原料排出口112と連通されて液状の原料物質Sの供給を受け、液状の原料物質Sが気化される所定の空間を提供する。前記送り管400の一方の側は筐体210の内側に挿入されて所定の長さだけ延び、延びた端部には気化空間に原料物質を投入し、投入された液状の原料物質を気化させるための気化器220が連結される。
【0041】
前記気化器220は、筐体210の内部に投入された原料物質を収容する気化ルツボ221と、前記気化ルツボ221を加熱して前記原料物質を気化させる気化加熱部222と、を備える。このような気化ルツボ221及び前記気化加熱部222の構成の詳細については、後述する。
【0042】
前記インジェクター300は、筐体210の一方の側から水平方向に延びて所定の長さを有する棒状に製作される。もちろん、上記のインジェクター300は、工程方向に応じて、垂直方向または斜め方向に延設されてもよい。また、棒状などの線状の噴射方式の代わりに、点状噴射方式または面状噴射方式を採用してもよい。このようなインジェクター300の胴体の内部には、インジェクター300において気化された原料物質Sが流入する連通流路310が形成される。そして、胴体の外面には、前記連通流路310から延びて外側に開口された多数の噴射口320が形成される。このとき、噴射口320の形成位置及び形成本数は、気化された原料物質Sが基板Gの位置する方向にのみ吹き付けられるように制御されることが好ましい。また、図示はしないが、噴射口320は、インジェクター300の胴体から外側に向かって所定の長さだけ突出した噴射ノズル状に形成されてもよい。このため、原料気化部200において気化された原料物質Sは、インジェクター300の連通流路310を通って流動して、インジェクター300の噴射口320を介して目的の方向(例えば、基板上部)に一様に吹き付けられる。
【0043】
制御部500は、原料液化部100と、原料気化部200及びインジェクター300に取り付けられた各種の装置の動作を全般的に制御して、最終的にインジェクター300を介して吹き付けられる原料ガスの噴射量、噴射速度及び気化品質を制御する。このために、原料気化部200には、内部の気化圧力を感知するための圧力ゲージ270が設けられる。前記圧力ゲージ270において測定された気化圧力に基づいて、制御部500がピストン部120の駆動制御を行う。これにより、原料気化部200に供給される液状原料物質の量が制御される。すなわち、気化圧力が目標レベルよりも低ければ、ピストン部120のヘッド121の前進速度を上げて液状原料物質の供給量を増やし、逆に、気化圧力が目標レベルよりも高ければ、ピストン部120のヘッド121の前進速度を下げて液状原料物質の供給量を減らす。
【0044】
本実施形態における気化装置は、筐体210の内部に気化器220の表面温度(例えば、気化ルツボ221の温度)を測定する温度測定部230が備えられ、気化器220の印加電源(例えば、気化加熱部222)を測定する電源測定部240が備えられて、気化器220の温度変化値及び気化器220の電源変化値がリアルタイムにて制御部500に送信される。ここで、「電源」とは、電力、電圧、電流をいずれも含むものであり、電源測定部240は、必要に応じて、これらのうちいずれか一つを選択して測定することができる。一般に、原料物質の気化過程においては、周辺物体(例えば、気化器220)の温度が変化するといった現象が現れる。このため、制御部500を用いて、気化器220の温度及び気化器220の印加電源のうちのいずれか一方を一定に維持するように制御すると、気化器220の温度変化値または気化器220の電源変化値に基づいて気化量の微細な変化量を計算してリアルタイムにて確認することができる。以下、この過程についてより詳述する。
【0045】
先ず、図2は、本発明の第1の実験例に従い温度を一定に制御した状態で気化過程における電力変化値を測定したグラフである。図1及び図2を参照すると、気化ルツボ221の温度は、工程の開始時点から工程の終了時点まで一定に維持される。原料物質が気化し始めると(Ts)、気化ルツボ221は熱を奪われるため、温度維持のために、気化加熱部222の印加電力が上昇する。逆に、原料物質が気化し終わると(Te)、気化ルツボ221はそれ以上熱を奪われないため、気化加熱部222の印加電力は元のように低くなる。そして、気化量が均一になる時点においては気化加熱部222の印加電力もまた一定に維持されるが、一部の時点において気化量が微細に変化すると(Tp1、Tp2)、これに伴い、気化加熱部222の温度もまた微細に変化する。このため、気化ルツボ221の温度を一定に維持する場合には、気化加熱部222の温度変化値に基づいて気化量を極めて正確に確認することができる。
【0046】
図3は、本発明の第2の実験例に従い電力を一定に制御した状態で気化過程における温度変化値を測定したグラフである。図1及び図3を参照すると、気化加熱部222の電力は、工程の開始時点から工程の終了時点まで一定に維持される。原料物質が気化し始めると(Ts)、気化ルツボ221は熱を奪われるが、印加電力はそのまま維持されるため、気化ルツボ221の温度が下がる。逆に、原料物質が気化し終わると(Te)、気化ルツボ221はそれ以上熱を奪われないため、気化ルツボ221の温度は元のように高くなる。そして、気化量が均一になる時点においては気化ルツボ221の温度もまた一定に維持されるが、一部の時点において気化量が微細に変化すると(Tp1、Tp2)、これに伴い、気化ルツボ221の温度もまた微細に変化する。このため、気化加熱部22の印加電力を一定に維持する場合には、気化ルツボ221の温度変化値に基づいて気化量を極めて正確に確認することができる。
【0047】
このように本実施形態に係る気化装置は、原料物質Sを気化ルツボ221に供給した後に、気化加熱部222において原料物質を気化させる。このとき、圧力ゲージ270において測定された気化量に基づいて、制御部500が原料物質の供給量及び原料物質の気化速度を制御する。また、温度測定部230において測定された気化ルツボ221の温度変化値(または、電力測定部240において測定された気化加熱部222の電源変化値)に基づいてより一層正確に気化量を確認して、制御部500が原料物質の供給量及び原料物質の気化速度をより一層微細に制御する。このため、圧力ゲージ270を備える第1の気化量測定手段と、温度測定部230及び電力測定部240を備える第2の気化量測定手段とを併用することにより、インジェクター300を介して吹き付けられる原料ガスの噴射量、噴射速度及び気化品質を所望の目標範囲に高精細に制御することができる。ここで、前記第1の気化量測定手段と前記第2の気化量測定手段のうちのいずれか一方を主な手段として用い、もう一方を補助手段として用いる相互補完的な使用も可能である。
【0048】
また、本実施形態に係る気化装置は、リアルタイムにて気化量を確認することができるだけではなく、気化速度、気化温度、気化電力など気化過程の様々な情報を取得することができるので、原料物質の特性による最適な気化条件を容易に設計することができる。
【0049】
さらに、本実施形態に係る気化装置は、固相及び液状の原料物質が両方とも使用可能であることから、原料が自由に選択できる。また、原料液化部100において大量の原料物質を液化させ、これらのうち所要の少量の原料物質のみを原料気化部200において気化させる段階的な加熱方式であるため、原料物質の大容量化による高い生産性を達成することができる。加えて、少量気化方式による蒸着速度の調節及び蒸着品質の維持が容易に行える。なお、大量の原料物質を全て気化させるわけではなく、所要の少量の原料物質のみ気化させることから、熱量の消耗を極力抑えることができる。
【0050】
一方、本実施形態に係る気化装置の気化器は、気化速度及び気化品質の向上を図るために種々に変形可能であり、以下、本発明に適用可能な種々の気化器を例にとって説明する。
【0051】
図4は、本発明の第1の変形例に係る気化器を示す断面図であり、図5は、本発明の第1の変形例に係る気化器を示す斜視図である。
【0052】
図4及び図5を参照すると、前記気化器600は、送り管400に取設され、前記送り管400から供給された原料物質が収容される内部空間が形成された胴体部620と、前記胴体部620に取設され、前記内部空間に収容された原料物質を排出するための少なくとも一つの排出口611が形成された排出板610(610a、610b、610c)を備える気化ルツボと、を備え、前記気化ルツボの外側に気化加熱部630が配設される。このとき、前記気化加熱部630は、気化ルツボ610、620の外周の全体または少なくとも一部を取り囲むように配設されてもよい。
【0053】
前記胴体部620は、一方の側が開放され、他方の側が閉塞されているシリンダー状に製作されて、開放領域に前記排出板610が取設されることにより、シリンダーの内部と前記排出板610との間に内部空間が形成されてもよい。なお、送り管400は、胴体部610の下壁または側壁を貫通するように連結されて、送り管400と胴体部610の内部空間とが互いに連通されていてもよい。
【0054】
前記排出板610は平らな板状に製作されて、表面に少なくとも一つの排出口611が形成される。このとき、原料物質の均一な排出のために、排出口611は多数設けられ、放射状対称構造をなすように配設されることが好ましい。なお、前記排出板610は多数610a〜610c設けられて、胴体部610の内部空間を上下に画成するように設けられてもよい。
【0055】
このような気化器600において、胴体部610の内部空間に上下に隔設された多数の排出板610a〜610cのうちの一部は排出の流れを均一にするバッフル板の役割を果たして、均一性がなお一層向上する。
【0056】
図6は、本発明の第2の変形例に係る気化器を示す断面図であり、図7は、本発明の第2の変形例に係る気化器を示す斜視図である。
【0057】
図6及び図7を参照すると、前記気化器700は、板状に製作された排出板710(710a、710b、710c)の内部に気化加熱部(図示せず)が埋設されるように設けられ、気化加熱部(図示せず)の埋設された排出板710は多数710a〜710c設けられて胴体部720の内部空間を上下に画成する。このような胴体部720は絶縁性素材、例えば、セラミック素材から形成されることが好ましい。
【0058】
このような気化器700は、気化ルツボ710、720と気化加熱部(図示せず)とを一体化させることにより、外観構成を単純化させ、気化加熱部(図示せず)の露出による破損の可能性を極力抑えることができる。なお、多段階排出板710a〜710cは原料物質を段階的に加熱することにより、気化速度及び気化品質をなお一層向上させることができる。
【0059】
図8は、本発明の第3の変形例に係る気化器を示す断面図であり、図9は、本発明の第3の変形例に係る気化器の動作過程を示す断面図である。
【0060】
図8及び図9を参照すると、前記気化器800は、底面812を提供する胴体部810と、底面812の周縁に沿って上方に延びた側壁リング813とが、原料物質Sが収容される気化ルツボを形成し、前記気化ルツボの外側に気化加熱部820が配設される。このとき、気化ルツボ810の底面812の中心部に原料物質を供給する送り管400が貫設される。また、前記気化ルツボ810の底面812は中心部が周辺部よりも高く形成されて、凸状の電灯のかさ状の傾斜面をなす。このため、送り管400を介して供給された液状の原料物質Sは傾斜面に沿って流れつつ四方に広がるため、原料物質の加熱面積が広くなって気化速度が高まる。
【0061】
図10は、本発明の第4の変形例に係る気化器を示す断面図であり、図11は、本発明の第4の変形例に係る気化器の動作過程を示す断面図である。
【0062】
図10及び図11を参照すると、前記気化器900もまた、底面912を提供する胴体部910と、底面912の周縁に沿って上方に延びた側壁リング913とが、原料物質Sが収容される気化ルツボ910を形成し、前記気化ルツボの外側に気化加熱部920が配設される。但し、前記気化ルツボ910の底面912は中心部が周辺部よりも低く形成されて、凹状の漏斗状の傾斜面をなす。このため、送り管400を介して供給された液状の原料物質Sは、底部、すなわち、気化ルツボ910の底面912の中心部から満たされて同じ水平高さをなすため、同じ水平高さに相当する領域において原料物質が気化され、その結果、気化速度が揺れることなく安定的に維持される。
【0063】
このように、本発明の気化部は種々に変形可能であるため、原料物質の特性に応じて最適な気化部を選択して迅速で且つ安定した気化条件を容易に確保することができる。
【0064】
図12は、本発明の第2の実施形態に係る気化装置を示す模式図である。
【0065】
図12を参照すると、上記の気化装置は、原料物質Sを供給する原料供給部100と、前記原料供給部100から供給された原料物質を気化させる原料気化部1200(1220、1230、1240、1250)と、前記原料気化部1200と連通されて気化された原料物質を所望の目的空間に吹き付けるインジェクター300と、前記原料供給部100から前記原料気化部1200へと供給される原料物質の供給量及び前記原料気化部1200において気化される原料物質の気化量を制御する制御部500と、を備える。
【0066】
前記原料気化部1200は、気化空間を提供し、気化空間の内部に投入された原料物質を収容する気化ルツボ1221と、前記気化ルツボ1221を加熱して前記原料物質を気化させる気化加熱部1222と、を備える。
【0067】
また、上記の気化装置は、気化ルツボ1221の内部温度(例えば、底面の温度)を測定する温度測定部1230及び気化加熱部1222の電源を測定する電源測定部1240を備え、気化ルツボ1221の内部の気化圧力を感知する圧力ゲージ1270をさらに備える。これにより、制御部は、気化ルツボ1221の温度変化値、気化加熱部1222の電源変化値、気化ルツボ1221の圧力変化値をリアルタイムにて受け取って原料物質の気化量を極めて正確に計算することができる。
【0068】
このような構成を有する本発明の第2の実施形態に係る気化装置は、気化ルツボ1221そのものが筐体(図1における210)の役割を果たすため、コストが削減可能である。
【0069】
一方、上述した第1及び第2の実施形態に係る気化装置は、固相または液状の原料物質を気化させた後、これをチャンバーの内部に供給することにより、基板上に所定の薄膜を形成する種々の薄膜蒸着装置、例えば、PECVD装置、MOCVD装置などに適用可能であるということはいうまでもない。
【0070】
以上、本発明について上述した実施形態及び添付図面を参照して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によって限定される。よって、この技術分野における通常の知識を持った者であれば、特許請求の範囲の技術的思想から逸脱しない範囲内において本発明が種々に変形及び修正できるということが理解できるであろう。
【符号の説明】
【0071】
100:原料液化部
110:液化ルツボ
120:ピストン部
130:液化加熱部
200:原料気化部
210:筐体
220:気化器
221:気化ルツボ
222:気化加熱部
230:温度測定部
240:電源測定部
300:インジェクター
400:送り管
500:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料物質を収容する気化ルツボと、
前記気化ルツボを加熱して前記原料物質を気化させる気化加熱部と、
前記気化ルツボの温度を測定する温度測定部と、
前記気化加熱部の印加電源を測定する電源測定部と、
前記温度測定部の温度変化値及び前記電源測定部の電源変化値のいずれか一方に基づいて、原料物質の気化量を調節する制御部と、
を備える気化装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記気化ルツボの温度を一定に制御し、前記電源測定部の電源変化値に基づいて原料物質の気化量を調節する請求項1に記載の気化装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記気化加熱部の印加電源を一定に制御し、前記温度測定部の温度変化値に基づいて原料物質の気化量を調節する請求項1に記載の気化装置。
【請求項4】
前記温度測定部は、前記気化ルツボの内部に設けられる請求項1に記載の気化装置。
【請求項5】
前記気化ルツボを取り囲む筐体と、
前記筐体内部の気化圧力を測定する圧力ゲージと、
をさらに備える請求項1に記載の気化装置。
【請求項6】
前記気化ルツボ内部の気化圧力を測定する圧力ゲージをさらに備える請求項1に記載の気化装置。
【請求項7】
前記気化ルツボに原料物質を供給する原料供給部をさらに備え、
前記原料供給部は、
固相の原料物質が貯蔵される液化ルツボと、
前記液化ルツボを加熱して原料物質を液化させる液化加熱部と、
前記液化ルツボの原料物質を外部に排出する排出手段と、
を備える請求項1に記載の気化装置。
【請求項8】
前記気化ルツボは、
前記原料物質が収容される内部空間が形成された胴体部と、
前記胴体部に取設されて内部空間に収容された原料物質を排出するための少なくとも一つの排出口が形成された排出板と、
を備える請求項1に記載の気化装置。
【請求項9】
前記排出板は多数設けられて前記胴体部の内部空間を上下に画成する請求項8に記載の気化装置。
【請求項10】
前記排出板には気化加熱部が埋設される請求項8に記載の気化装置。
【請求項11】
前記排出板の外側表面は、中心部と周辺部の高さが異なるように形成された請求項8に記載の気化装置。
【請求項12】
前記排出板の外側表面は、電灯のかさ状または漏斗状を呈する請求項11に記載の気化装置。
【請求項13】
原料物質を収容する気化ルツボと、
前記気化ルツボを加熱する気化加熱部と、
を備え、
前記気化ルツボは、
前記原料物質が収容される内部空間が形成された胴体部と、
前記内部空間に収容された原料物質を排出するための少なくとも一つの排出口を有し、前記内部空間を上下に画成するように配設された多数の排出板と、
を備える気化装置。
【請求項14】
前記気化加熱部は、前記気化ルツボの外側に配設される請求項13に記載の気化装置。
【請求項15】
前記気化加熱部は、前記多数の排出板のうちの少なくとも1枚に埋設される請求項13に記載の気化装置。
【請求項16】
原料物質を収容する気化ルツボと、
前記気化ルツボを加熱する気化加熱部と、
を備え、
前記気化ルツボにおける原料物質が収容される底面は、中心部と周辺部の高さが異なるように形成された気化装置。
【請求項17】
前記気化ルツボの底面は、中心部が周辺部よりも高く形成された請求項16に記載の気化装置。
【請求項18】
前記気化ルツボの底面は、中心部が周辺部よりも低く形成された請求項16に記載の気化装置。
【請求項19】
気化ルツボに原料物質を供給するステップと、
前記原料物質の気化のために気化加熱部により前記気化ルツボを加熱するステップと、
前記気化ルツボの温度変化値及び前記気化加熱部の電源変化値のうちのいずれか一方を測定して、前記原料物質の気化量を計算するステップと、
前記気化量に基づいて、前記気化ルツボに供給される原料物質の供給量を制御するステップと、
を含む気化装置の制御方法。
【請求項20】
前記温度変化値は、
前記気化加熱部の電源を一定に維持した状態で前記気化ルツボの温度変化値を測定する請求項19に記載の気化装置の制御方法。
【請求項21】
前記電源変化値は、
前記気化ルツボの温度を一定に維持した状態で前記気化加熱部の電源変化値を測定する請求項19に記載の気化装置の制御方法。
【請求項22】
前記電源変化値は、電力、電圧、電流のうちのいずれか一つの変化値を含む請求項21に記載の気化装置の制御方法。
【請求項23】
前記気化量を計算するステップは、
前記気化ルツボを取り囲む筐体内部の圧力変化値を測定するステップを含み、
前記原料物質の気化量は、
前記温度変化値及び電源変化値のうちのいずれか一方と、前記圧力変化値を用いて計算する請求項19に記載の気化装置の制御方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公表番号】特表2013−515862(P2013−515862A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547002(P2012−547002)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009316
【国際公開番号】WO2011/081368
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(509221283)エスエヌユー プレシジョン カンパニー リミテッド (3)
【Fターム(参考)】