説明

気圧式倍力装置

【課題】大気弁のシール性能の確保と気圧式倍力装置の応答性の向上とを高いレベルでバランスさせる。
【解決手段】プランジャ当接面15をプランジャの軸線L上に曲率中心C1を有する曲率半径Rの球面により形成し、この曲率半径Rが、プランジャ8の揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1を配置したことにより、大気弁9のシール性能の確保と気圧式倍力装置の応答性の向上とを高いレベルでバランスさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気圧式倍力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポペット弁のプランジャ当接面をプランジャの揺動中心を曲率中心とする球面により形成することによりプランジャの傾きに起因する負圧の漏れを防止する気圧式倍力装置については、例えば、特許文献1に開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−128041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の気圧倍力装置では、ポペット弁のプランジャ当接面をプランジャの揺動中心を曲率中心とする球面により形成している。これにより、プランジャが大気弁の軸線に対して傾いた時の大気弁のシール性能を確保して当該大気弁からの負圧漏れを防止している。
【0005】
しかしながら、プランジャ当接面をプランジャの揺動中心を曲率中心とする球面により形成した場合、プランジャの実ストローク(大気弁の軸線方向へのプランジャの移動距離)に対する大気弁の実質的な開弁量が小さくなることから、当該倍力装置の応答性が低下するという課題があった。
【0006】
本発明は、大気弁のシール性能を確保しつつ、応答性を向上させた気圧式倍力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の気圧式倍力装置は、ポペット弁のプランジャ当接面がプランジャの軸線上に曲率中心C1を有する曲率半径Rの球面で形成されるとともに、該曲率中心C1は、曲率半径Rが大気弁の閉弁時におけるプランジャの揺動中心C2からプランジャ当接面上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなる位置に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大気弁のシール性能を確保しつつ、応答性を向上させた気圧式倍力装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態が採用される気圧式倍力装置の全体の軸断面図である。
【図2】図1における要部(プランジャ周辺)を拡大して示す図である。
【図3】プランジャが軸線に対して傾いた時の、シート部の軸線に対する各ずれを示す説明図である。
【図4】R/rと(0.67−tanθ)およびcosθとの関係を示す説明図である。
【図5】大気弁の実開弁量(x)とストローク(s)、すなわち、プランジャの軸線方向への移動距離とを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。図1に、本実施形態が採用される気圧式倍力装置1の全体の軸断面を示す。この気圧式倍力装置1は、フロントシェル22とリアシェル23とにより内部が密閉されたハウジング2(シェル)を有する。ハウジング2内は、センタシェル24により前室と後室とに分画される。前室は、ダイアフラム25aを有するパワーピストン3aにより、前側定圧室4aと前側変圧室5aとに分画される。後室は、ダイアフラム25bを有するパワーピストン3bにより後側定圧室4bと後側変圧室5bとに分画される。前側定圧室4aおよび後側定圧室4bは、エンジンの吸気装置等の負圧源に接続されて常時負圧の状態である。以下、前側定圧室4aおよび後側定圧室4bを適宜、定圧室4と総称すると共に、前側変圧室5aおよび後側変圧室5bを適宜、変圧室5と総称する。
【0011】
気圧式倍力装置1は、プランジャ8、大気弁9、真空弁10ならびにリアクションディスク12を含む。また、パワーピストン3a,3bには、大径筒部26と小径筒部27とを有するバルブボデー6が取り付けられる。大径筒部26は、パワーピストン3a,3bに気密に係合されると共に、センタシェル24に気密且つ摺動可能に係合される。小径筒部27は、リアシェル23に気密且つ摺動可能に係合され、リアシェル23の後方(図1における右方向)へ延びる。また、小径筒部27の開口側(図1における右側)には、サイレンサ機能および空気浄化機能を有するフィルタ28が収納され、このフィルタ28を介して大気がバルブボデー6内部に導入される。
【0012】
バルブボデー6の小径筒部27の大径筒部26寄りの部分には、軸線に沿って延びて一側が大径筒部26の内側に開口すると共に他側が小径筒部27の内側に開口する通路T1が設けられる。また、この部分には、バルブボデー6の径方向(図1における上下方向)へ延びて一側が後側定圧室4bに開口すると共に他側が通路T1に開口する通路T2が設けられる。さらに、小径筒部27には、後側変圧室5bと小径筒部27の内側とを連通する通路T3が設けられる。これにより、大気弁9が開弁されると、通路T3を通して後側変圧室5bに大気が流入する。なお、センタシェル24とパワーピストン3bとの間に配設され、貫通ロッド40が挿通されるスリーブ41には、前側変圧室5aと後側変圧室5bとを連通する通路T4が設けられる。
【0013】
また、小径筒部27の内側における通路T1の開口部近傍には、押え部材31により支持されるポペット弁30が設けられる。ポペット弁30の先端と入力軸7との間には弁ばね32が設けられる。この弁ばね32のばね力により、ポペット弁30が通路T1の開口側(弁座)へ付勢されて通路T1が閉塞される。なお、真空弁10は、ポペット弁30と通路T1の開口部分(弁座)とにより構成される。また、図2に示されるように、大気弁9は、プランジャ8に形成された環状のシート部(弁座)とポペット弁30の先端(弁ばね32を受ける側の面とは反対側の面)に形成されたプランジャ当接面15とにより構成される。
【0014】
入力軸7は、先端側が小径筒部27に収容され、ブレーキペダルに連動して前後(図1における左右方向)へ移動する。また、入力軸7は、押え部材31との間に設けられる戻しばね33のばね力により後方(図1における右方向)へ付勢される。そして、入力軸7の先端にはプランジャ8が連結される。そして、大径筒部26の底部にはハット形状のばね受け34が設けられる。このばね受け34とフロントシェル22との間に設けられる戻しばね35のばね力により、バルブボデー6が後方(図1における右方向)へ付勢される。また、バルブボデー6に形成された軸孔29には反力受け部材13が挿入される。この反力受け部材13は、基端部がプランジャ8に接続されて入力軸7からの入力をプランジャ8を介して出力軸11へ伝達する。
【0015】
図2は、図1におけるプランジャ8の周辺の拡大図である。なお、図2は、ブレーキペダルが操作されていない状態、すなわち、プランジャ8のシート部14がポペット弁30のプランジャ当接面15に当接して大気弁9が閉弁されている状態を示す。この図に示されるように、プランジャ当接面15は、大気弁9が閉弁している状態で、プランジャ8の軸線L(大気弁9の軸線ひいては当該気圧式倍力装置1の軸線に一致し、以下、単に軸線Lという)上に曲率中心C1を有する曲率半径Rの球面により形成されている。そして、気圧式倍力装置1は、大気弁9が閉弁している状態で、図2における上記曲率半径Rが、プランジャ8と軸孔29とのクリアランスに起因してプランジャ8が揺動する時(傾いた時)の揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1が配置される。なお、揺動中心C2は、プランジャ8が傾いた時の、当該プランジャ8の前端(図2における右側端部)とバルブボデー6との当接位置Pとプランジャ8の後端(図2における左側端部)とバルブボデー6との当接位置Qとを結ぶ線分L3と軸線Lとの交点と言い換えることもできる。
【0016】
ここで、上記係数が1.25〜1.75である理由を説明する。
図2において、曲率中心C1とプランジャ当接位置Aとを結ぶ長さがRの線分L1の軸線Lに対する角度をθ、揺動中心C2とプランジャ当接位置Aとを結ぶ長さがrの線分L2の軸線Lに対する角度をα、および軸線Lとプランジャ当接位置Aとの間の距離をHとすると、次式(1)および(2)が成り立つ。
θ=sin-1(H/R) (1)
α=sin-1(H/r) (2)
【0017】
図3において、プランジャ8が軸線Lに対して傾いた時のシート部14の軸線Lに対する垂直方向(図3における上下方向)へのずれ(移動距離)をΔ、この時のシート部14の軸線L方向(図3における左右方向)へのずれをYおよびプランジャ当接位置Aの軸線L方向へのずれをZとすると、次式(3)および(4)が成り立つ。
Y≒Δtanα (3)
Z≒Δtanθ (4)
【0018】
また、プランジャ8が軸線Lに対して傾いた時に大気弁9に形成される隙間は、YとZとの差(Y−Z)であるから、次式(5)が成り立つ。
Y−Z=Δtanα−Δtanθ (5)
【0019】
そして、ポペット弁30の設定をゴム厚1.5〜3.0mm、ゴム硬度50〜65°、弁ばね32によるポペットばね力1〜2kgfとし、r=18mm、H=10mmおよびΔ≒0.5mmとすると、数式(5)からα=33.75°となり、tanα=0.67となることから、これらを数式(5)に代入することで次式(6)が得られる。
Y−Z=0.5(0.67−tanθ) (6)
【0020】
ここで、上記のような設定のポペット弁30における大気弁9のシール性能を確保する上で、隙間(Y−Z)は0.16mm以下であることが好ましいことから、
0.16≦0.5(0.67−tanθ)となり、その結果、
0.32≦(0.67−tanθ) (7)
となる。
【0021】
そして、図4に示されるR/rと(0.67−tanθ)との関係から上記数式(7)が成り立つ条件は、R/rが1.75以下、すなわち、
R/r≦1.75 (8)
である。したがって、揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに1.75以下の係数を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1を設定することで、大気弁9のシール性を確保して、大気弁9からの負圧漏れを防止することができる。これにより、気圧式倍力装置1の信頼性が向上するという効果を奏する。
【0022】
他方、応答性については、図5において、実開弁量(x)がストローク(s)、すなわち、プランジャ8の軸線L方向への移動距離に対して90%以上(θ=0°でcosθ=1.0の時を100%とした場合の比率)である時、すなわち、cosθ≧0.9の時に向上を図ることができる。したがって、応答性が向上する条件は、図4に示されるR/rとcosθとの関係から次式(9)が成り立つときである。
1.25≦R/r (9)
【0023】
したがって、揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに1.25以上の係数を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1を設定することで、プランジャ8の軸線L方向への移動距離に対して90%以上の実開弁量(x)を確保することができる。これにより、気圧式倍力装置1の応答性が向上するという効果を奏する。
【0024】
以上のことより、上記数式(8)、(9)から、大気弁9のシール性能の確保と応答性の向上とを両立することができる条件は、
1.25≦R/r≦1.75 (10)
である。
【0025】
上記数式(10)を変形すると、
1.25r≦R≦1.75r (11)
となる。
【0026】
したがって、曲率半径Rが、プランジャ8の揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1を配置することにより、大気弁9のシール性能の確保と気圧式倍力装置1の応答性の向上とを両立することが可能となる。
【0027】
次に、本実施形態の気圧式倍力装置1の作用を説明する。車体への取付状態でブレーキペダルが踏み込まれると、入力軸7が前進してプランジャ8が前進し、プランジャ8のシート部14(弁座)がポペット弁30のプランジャ当接面15から離間して大気弁9が開弁される。これにより、フィルタ28を通してバルブボデー6内に大気が流入し、この大気は、通路T3,T4を経て変圧室5に導入される。その結果、負圧が導入されている各定圧室4a,4bと各変圧室5a,5bとの間に差圧が発生し、この差圧によりパワーピストン3a,3bが推進し、その推力がバルブボデー6からリアクションディスク12および出力軸11を経てマスタシリンダに出力される。この時、出力軸11からの出力反力の一部がリアクションディスク12、反力受け部材13およびプランジャ8を介して入力軸7に伝達され、これによりブレーキペダルの踏力(入力)に比例した所定のブースタ出力が得られる。
【0028】
一方、ブレーキペダルに対する踏力が解放されると、戻しばね33のばね力により入力軸7が後退する。これに伴い、プランジャ8も後退し、当該プランジャ8のシート部14がポペット弁30のプランジャ当接面15に当接して大気弁9が閉弁される一方で、真空弁10が開弁する。これにより各変圧室5a,5bにT1,T3およびT4を通じて各定圧室4a,4b内の負圧が導入され、上記した差圧が解消される。その後は、前側定圧室4a内の戻しばね35のばね力によりバルブボデー6およびパワーピストン3a,3bが後退し、ストップキー16がリヤシェル23内の段部17に当接する原位置にバルブボデー6が復帰し、これと同時にプランジャ8も原位置に復帰して真空弁10が閉弁する。
【0029】
そして、本実施形態が採用された気圧式倍力装置1によれば、プランジャ当接面15をプランジャの軸線L上に曲率中心C1を有する曲率半径Rの球面により形成し、この曲率半径Rが、プランジャ8の揺動中心C2からプランジャ当接面15上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなるように、曲率中心C1を配置したことにより、大気弁9のシール性能の確保と気圧式倍力装置1の応答性の向上とを高いレベルでバランスさせることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 気圧式倍力装置、3 パワーピストン、4 定圧室、5 変圧室、6 バルブボデー、7 入力軸、8 プランジャ、9 大気弁、30 ポペット弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル内を定圧室と変圧室とに分画するパワーピストンと、前記シェル内を移動可能設けられて前記パワーピストンに接続され中空のバルブボデーと、該バルブボデーの内側に設けられるポペット弁と、前記バルブボデーの内側に入力軸に連動して移動可能に設けられて前記ポペット弁に対して当接/離隔することにより大気弁を閉弁/開弁するプランジャとを有し、前記プランジャが前記ポペット弁に対して離隔して前記大気弁が開弁することにより前記定圧室と前記変圧室との間に生じる差圧で前記パワーピストンが推進される気圧式倍力装置であって、
前記ポペット弁のプランジャ当接面が前記プランジャの軸線上に曲率中心C1を有する曲率半径Rの球面で形成されるとともに、該曲率中心C1は、前記曲率半径Rが前記大気弁の閉弁時における前記プランジャの揺動中心C2から前記プランジャ当接面上のプランジャ当接位置Aまでの距離rに係数1.25〜1.75を乗じた距離に等しくなる位置に配置されることを特徴とする気圧式倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254219(P2010−254219A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109148(P2009−109148)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】