説明

気密容器とその製造方法

【課題】引張り力に対する接合強度及び気密性を高める。
【解決手段】気密容器11は、互いに対向する第一及び第二の基板2,3と、第一の基板と第二の基板との間を、第一の基板と第二の基板の間に第一の密閉空間7aを規定するように周状に延びる第一のシール部4aと、第一の基板と第二の基板との間を、第一のシール部と間隔を空けて第一のシール部の外側を周状に延び、第一及び第二の基板並びに第一のシール部とともに第二の密閉空間6aを規定する第二のシール部5aと、を有し、第二の密閉空間6aの圧力P2が気密容器11の外側圧力P1よりも低い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気密容器とその製造方法に関し、特に一対の基板の封止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイ(OLED)、フィールドエミッションディスプレイ(FED)、プラズマディスプレイ(PDP)等の、フラットパネルタイプの画像表示装置が公知である。これらの画像表示装置は、内部空間が外部空間に対して仕切られた気密容器(外囲器)を備えている。このような気密容器を製造するには、対向するガラス基板の間に必要に応じて間隔規定部材や局所的なシール材を配置し、周辺部にシール材を周状に配置して、加熱接合を行う。
【0003】
OLED等の画像表示装置においては、内部のデバイスの性能低下を防止するため、水やガスの外部から内部への侵入を抑える必要がある。そのため、気密容器を構成するシール部には、高い接合強度と気密性が求められる。
【0004】
特許文献1には、レーザ接合を用いた、OLEDの外囲器の製造方法が開示されている。第一の基板と第二の基板の間に、周状に延びるフリットシール部が少なくとも二重に設けられている。これらのフリットシール部はそれぞれが第一の基板と第二の基板とを接合しているため、気密性の高い気密容器を得ることができる。
【0005】
特許文献2には、OLEDの外囲器の製造方法が開示されている。有機発光ダイオードを有する第一の基板と第二の基板とが周状のシール部によって接合される。さらに、注入端子によって補強材が基板間に注入される。補強材は両基板と接触するように両基板間に充填され、シール部の外周を覆う。その後補強材を乾燥させて、気密性と接合強度の向上した気密容器を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-218393号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2009/0068917号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
気密容器の気密性と接合強度を向上させるためには、特に2つの基板を引き離す方向にかかる引張り力に対する強度を高めることが重要である。上述のように基板のシール部の外側に別のシール部または補強材を設けた気密容器は、接合領域が広がったことによる効果しか得られない。さらなる性能の向上を求める場合は、シール部の数を増やすか、または補強材の幅を広げるしかない。補強材を追加する構成は、シール材と補強材という2種類の材料が必要であり、コストの面でも不利となる。
【0008】
本発明は、2つの基板を引き離す方向にかかる引張り力に対し高い接合強度と気密性を有し、かつコスト増加の抑えられた気密容器と、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施態様によれば、気密容器は、互いに対向する第一及び第二の基板と、第一の基板と第二の基板との間を、第一の基板と第二の基板の間に第一の密閉空間を規定するように周状に延びる第一のシール部と、第一の基板と第二の基板との間を、第一のシール部と間隔を空けて第一のシール部の外側を周状に延び、第一及び第二の基板並びに第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部と、を有し、第二の密閉空間の圧力が気密容器の外側圧力よりも低い。
【0010】
本発明の他の実施態様に係る気密容器の製造方法は、互いに対向する第一及び第二の基板と、第一の基板と第二の基板との間を周状に延びる第一のシール材と、第一の基板と第二の基板との間を、第一のシール材と間隔を空けて、第一のシール材の外側を周状に延びる第二のシール材と、を有する組立体を作成する工程と、第一のシール材を加熱溶融させて、第一及び第二の基板とともに第一の密閉空間を規定する第一のシール部を形成する工程と、第二のシール材を加熱溶融させて、第一及び第二の基板並びに第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部を形成する工程と、第一及び第二のシール部が形成された後、第二の密閉空間を組立体の外側空間に対し減圧する工程と、を有している。
【0011】
本発明によれば、第二の密閉空間の圧力が気密容器の外側圧力よりも低いため、少なくとも第二のシール部には、これらの圧力の差による圧縮応力が常に発生する。第一の基板と第二の基板を引き離す方向にかかる引張り応力は、この圧縮応力によって打ち消されるため、第二のシール部の接合強度が高まり、気密容器の気密性が向上する。また、同様の構成のシール部を複数個設ければよいため、気密容器の構造も単純であり、コストの増加を抑えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、2つの基板を引き離す方向にかかる引張り力に対し高い接合強度と気密性を有し、かつコスト増加の抑えられた気密容器と、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】組立体の構造とシール材の配置を示す平面図及び断面図である。
【図2】気密容器の製造プロセスを示す平面図及び断面図である。
【図3】従来技術における気密容器の平面図及び断面図である。
【図4】本発明を適用可能な有機EL表示装置の構造を示す概念図である。
【図5】第2の実施例に係る気密容器の構造とシール材の配置を示す平面図及び断面図である。
【図6】第2の実施例に係る気密容器の製造プロセスを示す平面図及び断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の気密容器とその製造方法は、内部空間が外部空間から気密遮断されることが必要なデバイスを有するFED、OLED、PDP等に適用することができる。本発明の気密容器とその製造方法は、従来の気密容器のシール構造と比較して、接合強度と気密性を高く保つことができる。このため、本発明は、特に、外部からの水分やガスの侵入を防ぐために接合強度と気密性を確保することが求められるOLED等の画像表示装置に有効に適用できる。本発明の気密容器とその製造方法は、上述の用途に用いる気密容器に限定されず、対向する基板の周縁部に気密性が要求されるシール部を有する気密容器に広く適用することができる。
【0015】
まず、本発明の気密容器の製造工程について、図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る気密容器となるべき組立体を示す図であり、図1(a)は、組立体の平面図、図1(b)〜(d)は図1(a)のB−B線、C−C線、D−D線から見た側面図または断面図である。図2はレーザ光の照射と排気のプロセスを示す図であり、図2(a)は、組立体の平面図、図2(b),(c),(d)は図2(a)のB−B線、C−C線、D−D線から見た断面図である。レーザ光の照射と排気は別々に行われるが、図2では、これらのプロセスをまとめて示している。
【0016】
まず、第一のガラス基板2を準備する。第一のガラス基板2は、気密容器31を構成する基板対(第一の基板及び第二の基板)の一方であり、他方のガラス基板(第二のガラス基板3)との間に挟持される枠部材が一体化されていてもよい。
【0017】
次に、ガラス基板対(一対のガラス基板)2,3の間に、第一のシール材4を周状に設ける。さらに、第一のシール材4の外側に、第一のシール材4と間隔をあけて、第一のシール材4に沿って第二のシール材5を周状に設ける。具体的には、第一のガラス基板2または第二のガラス基板3の上に、図1(a)に示すように、枠状のシール材(第一及び第二のシール材4,5)を二重に形成する。シール部を形成するシール材の配置は二重に限定されず、三重以上に配置することも可能である。シール材を少なくとも二重に設けることによって、ガラス基板とシール部とで形成される外周空間6(後述)が構成される。
【0018】
第一及び第二のシール材4,5はいずれか一方のガラス基板だけに設ける必要はない。すなわち、第一及び第二のシール材4,5を第一及び第二のガラス基板2,3のいずれか一方に形成し、他方のガラス基板に接触させる方法に限定されない。例えば、第一のガラス基板2の上に第一のシール材4を設け、第二のガラス基板3の上に第二のシール材5を設け、その後に第一及び第二のガラス基板2,3を対向配置することもできる。
【0019】
第一及び第二のシール材4,5は、高温で流動性が得られ、かつ低温で固定機能が得られることが望ましく、粘度が負の温度依存性を有するシール材が適用可能である。粘度が負のシール材には、ガラスフリット及び無機接着材が含まれる。ガラス基板への熱ストレスを抑制するため、第一及び第二のシール材4,5は、局所加熱光9の波長で第一及び第二のガラス基板2,3よりも高い吸収性を有することが好ましい。
【0020】
続いて、第一及び第二のシール材4,5が形成された第一及び第二のガラス基板2,3を仮焼成する。仮焼成とは、シール材の軟化点より低く、かつシール材が分解や結晶化しない温度で、第一及び第二のガラス基板2,3を加熱することを意味する。
【0021】
次に、シール材が形成されたガラス基板(ここでは第一のガラス基板2)ともう一方のガラス基板(ここでは第二のガラス基板3)とを対向配置させる。これによって、図1に示す組立体32が得られる。以下の説明では、この状態において、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一及び第二のシール材4,5により規定される空間を外周空間6といい、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一のシール部4aにより規定される空間を内側空間7という。
【0022】
次に、不図示の押圧手段によって、組立体32に荷重をかけ、第一及び第二のシール材4,5を、その厚み方向に圧縮するように押圧する。そして、図2(a),(b)に示すように、第一及び第二のシール材4,5への加圧状態を維持しながら、第一及び第二のシール材4,5に局所加熱光9を、第一及び第二のシール材4,5が周状に延びる方向に沿ってそれぞれ照射する。
【0023】
局所加熱光9の照射により、第一及び第二のシール材4,5が加熱溶融し、第一及び第二のシール部4a,5aが形成され、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とが接合される。第一のシール部4aは、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3との間を周状に延び、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3の間に第一の密閉空間7aを規定する。第二のシール部5aは、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3との間を、第一のシール部4aと間隔を空けて第一のシール部4aの外側を延び、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一のシール部4aとともに第二の密閉空間6aを規定する。第一及び第二のシール部4a,5aが形成されることで、内側空間7は第一の密閉空間7aとなり、外周空間6は第二の密閉空間6aとなる。
【0024】
接合は、ガラス基板に荷重を加えて行われるため、シール材が溶融すると、シール材の幅が広がる。そのため、第一のシール部4aと第二のシール部5aの間隔が、第一のシール材4の広がり量と、第二のシール材5の広がり量の和よりも小さければ、第一のシール部4aと第二のシール部5aが接合し、第二の密閉空間6aが形成されなくなってしまう。逆に、第一のシール部4aと第二のシール部5aの間隔が広いほど、第一のシール部4aと第二のシール部5aとの間のガラス基板に大きな応力が発生する。第一のシール部4aと第二のシール部5aの間隔は、1〜20mm程度が好ましい。
【0025】
第一及び第二のシール部4a,5aの気密性が確保される限り、局所加熱光9の照射順序及び照射開始点は自由に選択することができる。局所加熱光9は第一のシール材4から照射してもよいし、第二のシール材5から照射してもよい。照射開始点は第一及び第二のシール材4,5の4つのコーナーのいずれであってもよく、コーナー間(辺の上)の任意の位置であってもよい。
【0026】
局所加熱光9は、接合領域10の近傍を局所的に加熱可能であればよく、半導体レーザが好適に用いられる。周状に配置された第一及び第二のシール材4,5を局所的に加熱する性能、第一及び第二のガラス基板2,3に対する透過性等の観点から、赤外域に波長を有する加工用半導体レーザが好適に用いられる。
【0027】
局所加熱光9を用いると、加熱領域がシール材の近傍のみに限定されるため、ガラス基板中央部の温度を、加熱領域に対して低く保つことができる。これにより、第一または第二のガラス基板2,3上に設けられたデバイスに対する熱的なダメージを最小限にすることができる。しかしながら、本発明は、より一般に、一対のガラス基板とシール材とにより構成される気密容器に適用できる。ガラス基板上に設けられたデバイスが耐熱性を有する場合は、局所加熱光9に限らず、ヒータによる全体加熱を用いて、シール材を溶融しガラス基板を接合することもできる。
【0028】
接合工程が終了すると、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一及び第二のシール部4a,5aによって、気密容器31が構成される。ここで、図2(c)に示すように、気密容器31(組立体11)を取り囲む外側空間の圧力(気密容器31(組立体11)の外側圧力)をP1、第二の密閉空間6aの圧力をP2、第一の密閉空間7aの圧力をP3とする。本実施形態では、気密容器31を作成した後、P1>P2となるように第二の密閉空間6aを減圧する。以下、その減圧工程について説明する。
【0029】
図1(d)に示すように、第一のガラス基板2または第二のガラス基板3のいずれか一方に、あらかじめ、第二の密閉空間6aを排気するための貫通孔8を設けておく。貫通孔8は第二の密閉空間6a(外周空間6)に配置されており、第二の密閉空間6a内での貫通孔8の位置は、気密容器31の保持手段及び排気装置(ともに不図示)との取り合いにより適宜定めることができる。貫通孔8の形状及びサイズ(径)は、貫通孔8に必要とされる排気コンダクタンス、気密容器31の大きさ、第一のシール部4aと第二のシール部5aの間隔により適宜選択でき、一例では、貫通孔8の径は1〜10mm程度である。
【0030】
次に、図2(b)に示すように、貫通孔8に排気管13の一端をOリング17によって接続し、排気管13の他端を排気装置に接続する。排気管13と貫通孔8との接続には、フリットガラスを用いることもできる。フリットガラスを用いる場合は、加熱手段によりフリットガラスを溶融させ、排気管13を貫通孔8に接合する。排気工程完了後、再度加熱手段によりフリットガラスを加熱溶融し、排気管13を貫通孔8から取り外す。
【0031】
排気完了後、図2(d)に示すように貫通孔8を塞ぎ、第二の密閉空間6aの減圧状態を維持する。具体的にはまず、不図示の蓋押圧手段により、封止蓋14に荷重をかけて、封止蓋14を貫通孔8に押しつける。封止蓋14は、厚さ0.2〜3mm程度の円形金属板である。封止蓋14の厚さや形状は、適宜選択できる。封止蓋14は、その周縁部に例えばガラスフリットからなるシール材が周状に塗布されており、シール部4a,5aと同様、局所加熱光9によってガラス基板2と接合される。封止蓋14とガラス基板2の間のシールのため、ガラス基板表面にメッキや印刷により金属膜を生成してもよい。ガラス基板の接合と同様、封止蓋14をヒータ等で加熱して、シール材の溶融及び封止蓋14の接合を行ってもよい。
【0032】
図3は第二の密閉空間を備えていない気密容器の概念図であり、同図(a)は平面図、同図(b)は図3(a)のA−A線から見た断面図である。図3に示す気密容器131は、第一のシール部4aに相当するシール部しかないため、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3を剥離する向きの引張り力を受けたときに気密容器131の気密性が影響を受けやすい。これに対し本実施形態の気密容器31では、気密容器31の外部から第二の密閉空間6aに向かう押し付け力が常に発生する。第二の密閉空間6aに接するガラス基板面には基板面と垂直に圧縮力が働くため、少なくとも第二のシール材5には圧縮応力がかかる。このため、第一及び第二のシール部4a,5aを基板面と垂直な方向に引き剥がす力が打ち消され、接合強度及び気密性が高まり、接合信頼性が向上する。
【0033】
第一の密閉空間7aは減圧を行っていないため、ほぼ大気圧に等しい。第一の密閉空間7aの圧力は画像表示装置の作動による発熱等によって変動するが、一例では標準大気圧(101325Pa)に対し前後5%以内の圧力である。第二の密閉空間6aの圧力P2は気密容器31の外側圧力P1だけでなく、第一の密閉空間7aの圧力P3よりも低いことが望ましい。これによって、第一のシール材4と第二のシール材5の両方に、より確実に圧縮応力がかかり、気密容器31の気密性が一層高まる。
【実施例】
【0034】
以下、本願発明の具体的な実施例について詳しく説明する。以下の実施例では、上述した気密容器の製造方法を適用し、有機EL表示装置用の外囲器として適用可能な気密容器31を製造した。図4に、有機EL表示装置の構造を示す。有機EL表示装置21はアクティブマトリックス型の表示装置である。
【0035】
(第1の実施例)
気密容器31の構成は図1,2,4に示す通りである。気密容器31は第一のガラス基板2と第二のガラス基板3を有し、一方の基板2に発光部16が、他方の基板3にシール部4a,5aが設けられている。第一のガラス基板2と第二のガラス基板3はシール部4a,5aによって接合されている。第二の密閉空間6aに貫通孔8が設けられており、貫通孔8から第二の密閉空間6aが排気され、封止蓋14で貫通孔8が封止される。
【0036】
まず、第一のガラス基板2を準備した。具体的には、後述する発光部16を設けるのに適したガラス基板を準備した。第一のガラス基板2には、TFT回路15、平坦化膜及びコンタクトホール(不図示)を設けておく。第一のガラス基板2には、第一及び第二のシール部4a,5aに挟まれる位置に直径2mmの貫通孔8が設けられている。
【0037】
[発光部16の形成工程]
次に、発光部16を形成した。発光部16を構成する下部電極、有機EL層、上部電極及び保護層(不図示)は、公知の方法で形成した。
【0038】
[第二のガラス基板3の準備工程]
次に、第二のガラス基板3を準備した。具体的には、後述するガラスフリットからなるシール材を設けるのに適したガラス基板を準備した。
【0039】
[第一及び第二のシール材4,5の形成工程]
次に、ガラスフリットからなる薄膜(第一及び第二のシール材4,5)を第二のガラス基板3上に形成した。具体的には、まずガラスフリットに液体物質を混合してフリットペーストを調製した。次に、調製したフリットペーストを、発光部16を取り囲むように第二のガラス基板3上に塗布して薄膜を形成した。これによって、第一のシール材4が形成された。続いて、第一のシール材4の外側に3mmの間隔をあけて、フリットペーストを塗布して、第二のシール材5を形成した。フリットペーストは、スクリーン印刷法によって塗布した。フリットペーストからなる薄膜は塗布後、460℃で30分、仮焼成した。
【0040】
[第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを対向配置する工程]
次に、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを対向配置した。具体的には、第一のガラス基板2に設けられている複数の発光部16が、第二のガラス基板3と、第二のガラス基板3上に設けられている第一のシール部4aとで取り囲まれるように、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3との位置合わせを行った。この状態で、第一のガラス基板2と、ガラスフリットからなる第一及び第二のシール材4,5と、を接触させた。これにより、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3との間にガラスフリットからなるシール材が介在する組立体32が形成された。不図示の加圧機構により、第一及び第二のシール材4,5の圧縮応力が約60kPaとなる荷重で、第二のガラス基板3を押圧した。
【0041】
[組立体32の接合工程]
次に、第一及び第二のガラス基板2,3と第一及び第二のシール材4,5からなる組立体32に、レーザ光を照射し、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを接合した。図2に示すように、レーザ照射装置25は第二のガラス基板3の上方に設置し、第二のガラス基板3の上方からレーザ光を照射した。第一のシール材4の1つのコーナー部から照射を開始し、時計回りに周状にレーザ光を照射することで、第一のシール材4を加熱溶融し、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを接合する第一のシール部4aを形成した。続いて、第二のシール材5にも同様にレーザ光の照射を行い、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを接合する第二のシール部5aを接合した。これによって、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一のシール部4aによって第一の密閉空間7aが規定され、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一及び第二のシール部4a,5aによって第二の密閉空間6aが規定された。レーザ光のピーク波長は940nm、レーザ光のスポット径は1.6mm、レーザ照射装置25の移動速度は10mm/秒とした。
【0042】
[シール部の排気工程]
次に、第二の密閉空間6aの排気を行った。第一のガラス基板2に設けられた貫通孔8を囲むように、Oリング17を介して排気管13を接続し、排気管13の他端に、スクロールポンプとターボ分子ポンプからなる排気装置(不図示)を接続した。排気管13内には、厚さ0.5mm、直径5mmのシリコン製の円形板からなる封止蓋14を設置しておいた。封止蓋14の周縁部には、あらかじめフリットガラスを塗布しておいた。第二の密閉空間6aと排気管13の圧力が4×104Paになるまで排気し、排気が完了した後、排気管13内に置かれた封止蓋14を、不図示の昇降機構により貫通孔8を覆うように押しつけた。その後、封止蓋14に塗布されたフリットガラスに第二のガラス基板3側からレーザ光を照射し、封止蓋14をガラス基板2に接合し、貫通孔8を封止した。接合完了後、排気装置を停止し、排気管13内の圧力を徐々に大気圧に戻し、排気管13をガラス基板より取り外して、気密容器31を完成させた。
【0043】
以上のようにして気密容器31を製造し、さらに通常の方法に従って、駆動回路等を実装して、上述の気密容器31を備えた有機EL表示装置を完成させた。完成した有機EL表示装置を動作させたところ、長時間安定した発光が可能であり、有機EL表示装置に適用可能な程度の安定した接合信頼性を気密容器31が確保されていることが確認された。
【0044】
(第2の実施例)
図5は、本発明の第2の実施例に係る気密容器31の構造及びシール材の配置を示す、図1と同様の図である。図6は、気密容器31の製造プロセスを示す平面図である。本実施例では、図5に示すように、第二の密閉空間6aを真空排気するための貫通孔8が、第一のガラス基板2にも第二のガラス基板3にも設けられていない。
【0045】
まず、第1の実施例と同様の方法により、第一及び第二のガラス基板2,3を準備した。次に、図5(b)〜(d)と図6(a)に示すように、真空チャンバー11内で、第一及び第二のガラス基板2,3を対向配置した。具体的には、第一のガラス基板2に設けられている複数の発光部16が、第二のガラス基板3と、第二のガラス基板3上に設けられた第一のシール材4とで取り囲まれるように、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3の位置合わせを行った。この状態で第一のガラス基板2とガラスフリットからなる第一及び第二のシール材4,5とを接触させた。これによって、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3との間にガラスフリットからなるシール材が介在した組立体32が形成された。不図示の加圧機構により、第一及び第二のシール材4,5の圧縮応力が約60kPaとなる荷重で、第二のガラス基板3を押圧した。
【0046】
その後、真空チャンバー11内の圧力を大気圧としたままで、図6(a)に示すように、第1の実施例と同様の方法でレーザ光を照射し、第一のシール材4を加熱溶融して、第一のシール部4aを形成した。
【0047】
次に、真空チャンバー11に接続したスクロールポンプとターボ分子ポンプからなる排気装置を始動し、真空チャンバー11内の圧力が4×104Paとなるまで排気を行った。排気完了後、第二のシール材5にレーザ光を照射し、第二のシール材5を加熱溶融して、第二のシール部5aを形成した。その後真空排気装置を停止して減圧を解除し、真空チャンバー11内の圧力を徐々に大気圧に戻した。その後真空チャンバー11から組立体32を取り出し、気密容器31を完成させた。
【0048】
以上のようにして気密容器31を製造し、さらに通常の方法に従って、駆動回路等を実装して、上述の気密容器31を備えた有機EL表示装置を完成させた。完成した有機EL表示装置を動作させたところ、長時間安定した発光が可能であり、有機EL表示装置に適用可能な程度の安定した接合信頼性を気密容器31が確保されていることが確認された。
【0049】
(第3の実施例)
第3の実施例では、組立体32の外側と外周空間6との間に圧力差を発生させた状態で局所加熱光9によるガラス基板対の接合を行った。このため、本実施例ではガラス基板に対し機械的な押圧を行うことなく、良好な接合を実現することができる。
【0050】
まず、第1の実施例と同様の方法で、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを対向配置する工程までを行った。次に、第一のガラス基板2に設けられた貫通孔8に、Oリング17を介して排気管13の一端を接続し、排気管13の他端に、不図示の排気装置を接続した。外周空間6と排気管13を圧力が6×104Paになるまで排気した。このとき第一及び第二のシール材4,5には、約60kPaの圧縮応力が発生した。
【0051】
排気による圧縮応力が第一及び第二のシール材4,5に掛っている状態で、図2(a),(b)に示すように第一及び第二のシール材4,5にレーザ光を照射し、第一及び第二のシール材4,5を加熱溶融した。レーザ光は、第1の実施例と同様の方法で照射した。これによって、第一のガラス基板2と第二のガラス基板3とを接合する第一及び第二のシール部4a,5aが形成された。第一及び第二のシール部4a,5aの形成後、排気装置により、第一及び第二のガラス基板2,3並びに第一及び第二のシール部4a,5aにより形成される第二の密閉空間6aと排気管13を、圧力が4×104Paになるまで排気した。排気が完了した後、第1の実施例と同様の方法により、貫通孔8の封止を行った。封止完了後、真空排気装置を停止して、排気管13内の圧力を徐々に大気圧に戻し、排気管13をガラス基板より取り外して、気密容器31を完成させた。
【0052】
以上のようにして気密容器31を製造し、さらに通常の方法に従って、駆動回路等を実装して、上述の気密容器31を備えた有機EL表示装置を完成させた。完成した有機EL表示装置を動作させたところ、長時間安定した発光が可能であり、有機EL表示装置に適用可能な程度の安定した接合信頼性を気密容器31が確保されていることが確認された。
【符号の説明】
【0053】
2,3 第一及び第二のガラス基板
4,5 第一及び第二のシール材
4a,5a 第一及び第二のシール部
6a 第二の密閉空間
31 気密容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する第一及び第二の基板と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間を、前記第一の基板と前記第二の基板の間に第一の密閉空間を規定するように周状に延びる第一のシール部と、
前記第一の基板と前記第二の基板との間を、前記第一のシール部と間隔を空けて前記第一のシール部の外側を周状に延び、前記第一及び第二の基板並びに前記第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部と、
を有する気密容器であって、
前記第二の密閉空間の圧力が前記気密容器の外側圧力よりも低い、気密容器。
【請求項2】
前記第二の密閉空間の圧力が前記第一の密閉空間の圧力よりも低い、請求項1に記載の気密容器。
【請求項3】
前記第一の密閉空間の圧力は標準大気圧に対し5%以内の圧力である、請求項1または2に記載の気密容器。
【請求項4】
互いに対向する第一及び第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を周状に延びる第一のシール材と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を、前記第一のシール材と間隔を空けて、前記第一のシール材の外側を周状に延びる第二のシール材と、を有する組立体を作成する工程と、
前記第一のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板とともに第一の密閉空間を規定する第一のシール部を形成する工程と、
前記第二のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板並びに前記第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部を形成する工程と、
前記第一及び第二のシール部が形成された後、前記第二の密閉空間を前記組立体の外側空間に対し減圧する工程と、
を有する、気密容器の製造方法。
【請求項5】
互いに対向する第一及び第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を周状に延びる第一のシール材と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を、前記第一のシール材と間隔を空けて、前記第一のシール材の外側を周状に延びる第二のシール材と、を有する組立体を作成する工程と、
前記第一のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板とともに第一の密閉空間を規定する第一のシール部を形成する工程と、
前記第一のシール部が形成された後、前記第一及び第二の基板並びに前記第一及び第二のシール材で形成される空間と、前記組立体の外側空間と、を減圧する工程と、
前記減圧する工程の後、前記第二のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板並びに前記第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部を形成する工程と、
前記第二のシール部が形成された後、前記組立体の外側空間の減圧を解除する工程と、
を有する、気密容器の製造方法。
【請求項6】
互いに対向する第一及び第二の基板と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を周状に延びる第一のシール材と、前記第一の基板と前記第二の基板との間を、前記第一のシール材と間隔を空けて、前記第一のシール材の外側を周状に延びる第二のシール材と、を有する組立体を作成する工程と、
前記第一及び第二の基板並びに前記第一及び第二のシール材で形成される空間を、前記組立体の外側空間に対して減圧しながら、前記第一のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板とともに第一の密閉空間を規定する第一のシール部を形成し、前記第二のシール材を加熱溶融させて、前記第一及び第二の基板並びに前記第一のシール部とともに第二の密閉空間を規定する第二のシール部を形成する工程と、
を有する、気密容器の製造方法。
【請求項7】
前記第一及び第二のシール部は、前記第一及び第二のシール材に局所加熱光を照射し前記第一及び第二のシール材を加熱溶融することによって形成される、請求項4から6のいずれか1項に記載の気密容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−204465(P2012−204465A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−65851(P2011−65851)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】