説明

気密扉の気密性試験方法と試験装置

【課題】 気密扉を建物などの出入口に建付けた後から当該扉の気密性の検査や測定をすることができる気密扉の気密性試験方法とそのための装置を提供すること。
【解決手段】 建物や部屋の出入口Exに、その出入口Exの扉受け前面と扉の背面外周の間に気密用のパッキンPaを介在させて建付けられた気密扉Adに対し、当該扉Ad表面との間に適宜空隙を保ってその扉の略全面を気密に覆うことにより扉表面との間に試験用空間3を形成するパネル状の気密カバー体1を配設し、前記扉Adを出入口Exに対して気密閉鎖させた状態で前記試験用空間3に所定量の空気を送り込み、その試験用空間3に送り込んだ空気量又は当該試験用空間3の圧力を測定すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物の出入口などに設置された気密扉の気密性能を試験するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線源を備えた施設や内外で圧力差を付けて調圧した施設を始めとして様々な施設において、部屋や建物の出入口に気密扉を設置した施設は数多く見られる。
【0003】
出入口に設けられる気密扉は、一例としてその扉の内面側の外周部と、この扉を受止める出入口における開口部前面内周部の対向面にパッキンを周設することにより、当該出入口を、扉の内面と外面の間で気密状態を保持できるように形成されている。
【0004】
従来、気密扉の気密性能は、その扉が建物等の出入口に建付けられてしまうと、気密性の検査をしたり測定したりする手立てはないのが実情である。実際には、建付けた気密扉を有する部屋内部の気圧などが所定に維持されないことが後から判明して、当該気密扉の気密性に問題があることを知得しているのが現状である。
【0005】
しかし乍ら、建物や部屋の出入口などに気密扉を建付けた後、つまり、実際の使用状態において、当該気密扉の気密性能の検査や気密度の測定などができれば、上記のような問題や難点は払拭することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明では気密扉を建物などの出入口に建付けた後から当該扉の気密性の検査や測定をすることができる気密扉の気密性試験方法とそのための装置を提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決することを目的としてなされた本発明試験方法の構成は、建物や部屋の出入口に、その出入口の扉受け前面と扉の背面外周の間に気密用のパッキンを介在させて建付けられた気密扉に対し、当該扉表面との間に適宜空隙を保ってその扉の略全面を気密に覆うことにより扉表面との間に試験用空間を形成するパネル状の気密カバー体を配設し、前記扉を出入口に対して気密閉鎖させた状態で前記試験用空間に所定量の空気を送り込み、その試験用空間に送り込んだ空気量又は当該試験用空間の圧力を測定することを特徴とするものである。
本発明において、測定する圧力は、差圧計により前記空間内外の差圧の測定であり、この測定とともに流量計で前記空間内の空気の漏洩の有無及び漏洩量を計測することもある。
【0008】
また、上記試験方法を実施する装置の構成は、建屋又は部屋の出入口に設けその出入口を気密に閉鎖できるようにした気密扉と、該扉と気密に接した扉受けの内周面において、その扉を覆うと共に該扉表面との間に試験用空間を気密状態で形成する外周縁にパッキンを備えたパネル状の気密カバー体と、前記空間内に空気を充填してその空間の内外で差圧を形成する少なくとも流量計とポンプを含む差圧発生手段と、前記空間の内外における差圧を測定するマノメータ(差圧計)を備えて形成されたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明装置の上記構成において、そのパネル状気密カバー体は次の構成を備えたものであることが望ましい。
【0010】
すなわち、パネル状気密カバー体はその外周にパッキンを備えているが、そのパッキンは前記カバー体の小口側(外周端面)に設けることが好ましい。これは、扉枠の開口部の内周面に、前記パッキンの反撥力を利用してカバー体を装着することにより、扉表面と当該パネル体の間に、試験用の気密空間を形成することができるからである。
【0011】
また、上記気密カバー体は、アクリル板のような軽量で強度が十分なパネル材により形成し、パネル状気密カバー体の取扱いや、運搬,保管などを容易にすることが望ましい。ここで、前記気密カバー体外面の少なくとも左右両側には、取手となるハンドルを設けて上記の取扱易さを増強するとよい。また、気密扉外面に出張って配設されている気密ロック用ハンドルなどの設置物と当該カバー体の干渉を避けるため、当該カバー体の外面に突出した干渉回避空間を形成したものもある。
【0012】
さらに、前記気密カバー体を、透明なアクリル板などで形成すると、このカバー体で覆われる扉前面の試験用空間の内部を外から視認できるので、この気密カバー体の装着状況などを外部から確認をすることができ便利である。
【0013】
なお、本発明では前記気密カバー体がパネル状であることに鑑み、当該カバー体の強度を増すためのリブを設けた構造とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、建物や部屋の出入口に、その出入口の扉受け前面と扉の背面外周の間に気密用のパッキンを介在させて建付けられた気密扉に対し、当該扉の外周より外側に位置する出入口の壁にその扉を気密に覆ってしまい、かつ、扉表面との間に試験用空間を形成するパネル状の気密カバー体を配設し、前記扉を出入口に対して気密閉止した状態で前記試験用空間に所定量の空気を送り込んで前記空間に送り込んだ空気量又は当該空間の圧力を測定すること、例えば差圧計によって試験用空間の内外の差圧を検出すると共に、流量計で前記空間内の空気の漏洩を計測することにより、実際の出入口に建付けられた気密扉の気密性を試験することが可能になった。
【0015】
これにより、従来の気密扉では、実際に建付けられた後は、気密性能に不具合があって、例えば部屋内外での所定差圧が保持できないという実際の問題が生じなければその不具合に対処できなかったものを、気密扉を実際に建付けた段階でその気密性能の正確なテストを容易に実施することができるのみならず、既設の気密扉についても適用できることとなり、至って有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に本発明試験装置の実施の形態の一例について、図を参照しながら説明する。図1は本発明試験装置の一例において、パネル状の気密カバー体の外周縁にパッキンを設けない状態の正面図、図2は図1のカバー体の右側面図、図3は図1の気密カバー体の外周縁(小口)に気密用パッキンを装着した正面図、図4は図3の気密カバー体の側面図、図5は図3の気密カバー体の右上隅部の拡大正面図、図6は図3〜図5の気密カバー体の上部と建物(部屋)出入口の扉枠の上部とのパッキンによる気密接触状態を示す拡大側断面図、図7は出入口に建付けた気密扉の気密性能試験を行う状態を模式的に示した側断面図である。
【0017】
図7は本発明方法を適用する気密扉の一例を示す側断面図である。図7の気密扉Adは、建物や部屋Riの出入口Exにヒンジ式で建付けられている。なお、図7において、Riは室内、Roは室外である。この気密扉Adの気密性は、扉Adの裏面外周縁に設けたパッキンPaと前記出入口Exに設けられた扉受け枠Dr(以下、扉枠Drという)のパッキンPaにより発揮されるように造られている。
なお、気密扉Adにおいては、扉枠Drにパッキンが設けられない構造もあるが、本発明はいずれの気密扉Adに対してももちろん適用可能である。
【0018】
本発明は、上記の気密扉Adの気密性、つまり、パッキンPaの気密性能を、この扉Adを出入口Exに建付けた後から試験できるようにしたので、この点について、図1〜図7を参照して以下に説明する。
【0019】
図1〜図4において、1は、図7の出入口Exにおける扉枠Drの内周縁が形成する大きさ,形状にほぼ合致する大きさ,形状を有する気密カバー体である。
【0020】
このカバー体1は、一例として透明アクリル板により形成されている。そして、パネル全体の剛性を高めるために、当該カバー体1の外周に近い内部側に、気密カバー体1と相似形をなす四角形の補強枠リブ1aを設けると共に、この補強枠リブ1aの内側に、全体として梯子状乃至横棧状をなす補強骨リブ1bが設けられている。
【0021】
上記気密カバー体1の外周縁端面(小口)全周には、図3〜図6に例示するように、パッキン2が設けられている。ここでのパッキン2は前記カバー体1の外周端面を跨ぐ形の断面略逆凹状であるが、パッキン2の形態は前記カバー体1の小口にパッキン2を設けることができれば、図6の断面形状に限られない。
【0022】
上記パッキン2を備えたパネル状の気密カバー体1を、出入口Exの室内Ri側から気密扉Adが設けられている扉枠Drの内周面に、前記パッキン2の弾力を利用して嵌合させるように装着することにより、図7に示すように気密扉Adの内面(室内Riの側の面)と気密カバー体1の外面(扉Adの内面への対応面)の間に、気密な試験用空間3が形成される(図7参照)。
【0023】
上記のようにして既に建付けられた気密扉Adに対する気密試験用の気密な空間3は、気密カバー体1を扉枠Drに気密に装着することにより形成されるので、本発明方法は、図7の試験用空間3の内部に、途中に流量計6,バルブ7を備えた配管4(フレキシブルなチューブがよい)を通してポンプ5から適宜容積の空気を送り込んで、この空間3と室内Riとの間に差圧を形成することことにより実施される。因みに、空間3にポンプ5で注入される空気の容積は、室内Riが大気圧であれば、その空間3の内圧が大気圧より大きくなるように、設定される。
【0024】
上記空間3と室内Riに形成された差圧は、前記空間3と室内Riに通じたマノメータ(差圧計)8により測定され、一例として当初に設定した差圧が所定時間維持されれば、気密扉AdのパッキンPaに洩れなどの不具合はないと判断し、差圧の維持ができなければ前記パッキンPaに気密洩れがあると判断して、パッキンPaの不具合箇所を捜すといった態様で気密性テスト(試験)が実施されることになる。
【0025】
上記の態様での気密性能試験をするため、本発明における上記の気密カバー体1には、以下に説明する構成が付与されている。
【0026】
すなわち、気密カバー体1の上半側には、前記配管4とマノメータ8の接続管9を接続するための2つの接続透孔1c,1dが設けられている。
また、この気密カバー体1の持運びや扉枠Drに設置する際に有用な左右のハンドル11L,11Rが、高さ方向中間部位の左右側に設けられている。さらに図示した例では、気密扉Adの室内Ri側に出張って配備された前記扉Ad用のハンドル等の操作部(図示せず)と当該カバー体1の干渉を避けるために、室内Ri側にパネル面を適宜面積と高さで凸出させた形態の干渉回避部12が設けられている。
【0027】
本発明における上記気密カバー体1は、建付けられた気密扉Adの大きさ、或は、その扉枠Drの大きさに合せて、一例として大,中,小と3種類のサイズ(外形)のカバー体を予め準備しておけば、特殊サイズ,形状の気密扉を除いて殆んどすべての既設の気密扉、或は、これから設置される気密扉に対して、それらの気密性能試験に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は以上の通りであって、建付けられた気密扉に対する気密性能試験をするため、建物や部屋の出入口に、その出入口の扉受け前面と扉の背面外周の間に気密用のパッキンを介在させて建付けられた気密扉に対し、当該扉表面との間に適宜空隙を保ってその扉の略全面を気密に覆うことにより扉表面との間に試験用空間を形成するパネル状の気密カバー体を配設し、前記扉を出入口に対して気密閉鎖させた状態で前記試験用空間に所定量の空気を送り込み、前記試験用空間に送り込んだ空気量又は当該試験用空間の圧力を測定するようにしたので、従来は建付けられた後には、気密性の試験や測定を実施することが事実上不可能であったものを、扉の建付け後に実施できるようにしたので、気密扉の気密性能の測定や判断をする分野においてきわめて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明試験装置の一例において、パネル状の気密カバー体の外周縁にパッキンを設けない状態の正面図。
【図2】図1のカバー体の右側面図。
【図3】図1の気密カバー体の外周縁(小口)に気密用パッキンを装着した正面図。
【図4】図3の気密カバー体の側面図。
【図5】図3の気密カバー体の右上隅部の拡大正面図。
【図6】図3〜図5の気密カバー体の上部と建物(部屋)出入口の扉枠の上部とのパッキンによる気密接触状態を示す拡大側断面図。
【図7】出入口に建付けた気密扉の気密性能試験を行う状態を模式的に示した側断面図。
【符号の説明】
【0030】
Ex 出入口
Ad 気密扉
Pa 気密扉Adのパッキン
Dr 扉枠
Ri 室内
Ro 室外
1 パネル状の気密カバー体
2 カバー体1のパッキン
3 試験用空間
4,9 配管
5 ポンプ
6 流量計
7 バルブ
8 マノメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物や部屋の出入口に、その出入口の扉受け前面と扉の背面外周の間に気密用のパッキンを介在させて建付けられた気密扉に対し、当該扉表面との間に適宜空隙を保ってその扉の略全面を気密に覆うことにより扉表面との間に試験用空間を形成するパネル状の気密カバー体を配設し、前記扉を出入口に対して気密閉鎖させた状態で前記試験用空間に所定量の空気を送り込み、その試験用空間に送り込んだ空気量又は当該試験用空間の圧力を測定することを特徴とする気密扉の気密性試験方法。
【請求項2】
測定する圧力は、差圧計により前記試験用空間内外の差圧である請求項1の試験方法。
【請求項3】
前記圧力の測定とともに流量計で前記空間内の空気の漏洩を計測する請求項1又は2の試験方法。
【請求項4】
建屋又は部屋の出入口に設けその出入口を気密に閉鎖できるようにした気密扉と、該扉と気密に接した扉枠の内周面において、その扉を覆うと共に該扉表面との間に試験用空間を気密状態で形成する外周縁にパッキンを備えたパネル状の気密カバー体と、前記空間内に空気を充填してその空間の内外で差圧を形成する少なくとも流量計とポンプを含む差圧発生手段と、前記空間の内外における差圧を測定するマノメータ(差圧計)を備えて形成されたことを特徴とする気密扉の気密性試験装置。
【請求項5】
パネル状気密カバー体の外周にはその小口側又は外周端面にパッキンを取付け、出入口の扉枠に、前記パッキンの反撥力を利用して装着することにより、扉表面と当該パネル体の間に試験用の気密空間を形成するようにした請求項4試験装置。
【請求項6】
気密カバー体は、アクリル板のような軽量で強度が十分なパネル材により形成した請求項4又は5の試験装置。
【請求項7】
気密カバー体は、補強リブを備えた請求項4〜6のいずれかの試験装置。
【請求項8】
気密カバー体外面の少なくとも左右両側には、取手となるハンドルを設けた請求項4〜7のいずれかの試験装置。
【請求項9】
気密カバー体は、透明なパネル材により形成した請求項4〜8のいずれかの試験装置。
【請求項10】
扉外面に出張って設けられている気密ロック用のハンドルなどの設置物と気密カバー体の干渉を避けるため、気密カバー体の外面側に突出した回避空間を形成した請求項4〜9のいずれかの試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−216434(P2009−216434A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−57859(P2008−57859)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000139780)株式会社イトーキ (833)
【Fターム(参考)】