説明

気密設備・気密容器間の気密構造

【課題】気密性を向上できると共に、被収容物による汚染を容易に除去できること。
【解決手段】グローブボックス10とグローブボックスドア11を密閉するグローブボックス側シール部材16は断面コ字形状に形成され、両脚部がグローブボックスドア11に装着され、一脚部がグローブボックス10に密着可能に設けられると共に、胴部が容器蓋13に密着可能に設けられ、気密容器12と容器蓋とを密閉する容器側シール部材17は断面コ字形状に形成され、両脚部が気密容器12に装着され、一脚部が容器蓋13に密着可能に設けられると共に、胴部がグローブボックス10に密着可能に設けられたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グローブボックスなどの気密設備と、この気密設備内の被収容物を収容する気密容器との間の気密構造を改良した気密設備・気密容器の気密構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、放射性物質や環境への拡散が問題となる物質で汚染された気密設備と、この気密設備から上記物質を被収容物として収容する気密容器とにおいて、これらの気密設備及び気密容器に用いられるリップシール(ガスケット)の材質と、気密設備及び気密容器の寸法精度とを限定した技術が開示されている。
【0003】
上記特許文献1では、図11に示すように、気密設備1の開口が、設備側リップシール(ガスケット)3を装着した設備側ドア2によって密閉される。また、気密容器(コンテナ)4の開口が、この気密容器4に装着された容器側リップシール(ガスケット)6を介して容器蓋(コンテナドア)5により密閉される。更に、気密設備1と気密容器4との接続時には、容器側リップシール6が気密設備1と気密容器4とを密閉し、設備側リップシール3が設備側ドア2と容器蓋5とを密閉している。
【特許文献1】特開2003−294150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気密設備1内の被収容物を気密容器4内に収容するためにこの気密容器4を気密設備1に接続したときには、上述のように、容器側リップシール6によって気密容器4と容器蓋5との密閉、及び気密設備1と気密容器4との密閉が確保され、さらに設備側リップシール3によって気密設備1と設備側ドア2との密閉、及び設備側ドア2と容器蓋5との密閉が確保された状態となっている。これらの設備側リップシール3及び容器側リップシール6は、気密設備1と気密容器4とを接続した後に設備側ドア2と容器蓋5を一体として気密設備1内へ引き上げ、この気密設備1の内部と気密容器4内を連通状態としたとき、それぞれの先端部7及び8が被収容物により汚染されてしまう。
【0005】
ところが、気密設備1と気密容器4を切り離した後に設備側リップシール3と容器側リップシール6の放射能量(汚染量)を測定すべく、スミヤろ紙(不図示)を設備側リップシール3の先端部7、容器側リップシール6の先端部8に押し当ててスミヤ範囲W内で移動させたとき、これらの設備側リップシール3及び容器側リップシール6が断面矢印形状に形成されているため、これらのリップシール3及び6の裏側まで汚染物が侵入してしまう。この設備側リップシール3及び容器側リップシール6の裏側へ侵入した汚染物は、除染用の布または紙を用いても容易に除去することができない。尚、図11中には、容器側リップシール6についてのスミヤ範囲Wを示している。
【0006】
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、気密性を向上できると共に、被収容物における汚染物を容易に除去できる気密設備・気密容器間の気密構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、気密設備と、この気密設備の開口を閉塞する設備側ドアとが、これらに介在される設備側シール部材により密閉され、また、前記気密設備内の被収容物を収容する気密容器と、この気密容器の開口を閉塞する容器蓋とが、これらに介在される容器側シール部材により密閉され、前記気密容器と前記気密設備との接続時に、前記容器側シール部材と前記設備側シール部材の一方が、前記気密容器と前記気密設備を密閉し、他方が、前記容器蓋と前記設備側ドアを密閉する気密設備・気密容器間の気密構造において、前記設備側シール部材は断面コ字形状に形成され、両脚部が前記設備側ドアと前記気密設備の一方に装着され、これらの他方に前記一脚部が密着可能に設けられると共に、胴部が前記容器蓋または前記気密容器に密着可能に設けられ、また、前記容器側シール部材は断面コ字形状に形成され、両脚部が前記気密容器と前記容器蓋の一方に装着され、これらの他方に前記一脚部が密着可能に設けられると共に、胴部が前記気密設備または前記設備側ドアに密着可能に設けられたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、設備側ドアと気密設備の一方に装着される設備側シール部材は、これらの他方に一脚部が密着し、胴部が容器蓋または気密容器に密着し、また、気密容器と容器蓋の一方に装着される容器側シール部材は、これらの他方に一脚部が密着し、胴部が気密設備または設備側ドアに密着する。このため、気密設備と設備側ドアの気密性、気密容器と容器蓋の気密性を向上できると共に、気密設備と気密容器の接続時における気密性も向上させることができる。
【0009】
また、設備側シール部材の胴部と容器側シール部材の胴部とは共に平坦形状であるため、これらの一部が気密設備内の被収容物によって汚染されたとしても、拭き取ることで、その汚染物を容易に除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
【0011】
[A]第1の実施の形態(図1〜図7)
図1は、本発明に係る気密設備・気密容器間の気密構造における第1の実施の形態を示すグローブボックス及び気密容器などを示す断面図である。図2は、図1のII部拡大断面図である。
【0012】
気密容器12内に、気密設備としてのグローブボックス10内の被収容物を収容する際に、被収容物が例えば放射性物質の分析用試料であったり、放射性物質により汚染された放射性廃棄物である場合には、グローブボックス10の外面、グローブボックス10の開口14を閉塞する設備側ドアとしてのグローブボックスドア11の外面、気密容器12の外面、及びこの気密容器12の開口15を閉塞する容器蓋13の外面が被収容物により汚染されないよう配慮する必要がある。
【0013】
このために、グローブボックス10とグローブボックスドア11との間に介在される設備側シール部材としてのグローブボックス側シール部材16が、グローブボックス10とグローブボックスドア11を密閉すると共に、グローブボックス10と気密容器12との接続時(図3(B)及び(C);後述)にグローブボックスドア11と容器蓋13を密閉し、またはグローブボックス10と気密容器12とを密閉(本実施の形態ではグローブボックスドア11と容器蓋13とを密閉)している。更に、気密容器12と容器蓋13との間に介在される容器側シール部材17が、気密容器12と容器蓋13を密閉すると共に、グローブボックス10と気密容器12との接続時にグローブボックス10と気密容器12を密閉し、またはグローブボックスドア11と容器蓋13とを密閉(本実施の形態ではグローブボックス10と気密容器12とを密閉)している。
【0014】
グローブボックス側シール部材16は、図2に示すように、外側脚部18と内側脚部19が胴部20にて連設された断面コ字形状に形成され、外側脚部18及び内側脚部19が、グローブボックスドア11またはグローブボックス10(本実施の形態ではグローブボックスドア11)に装着される。つまり、外側脚部18は、グローブボックスドア11に形成された外側の環状溝21の溝幅と同一寸法の厚さに形成され、この外側脚部18の先端部18Aが環状溝21の底面に接触する状態で、この環状溝21に緊密に挿し込まれて嵌装される。
【0015】
また、内側脚部19は、グローブボックスドア11に形成された内側の環状溝22内に挿し込まれ、この内側脚部19に形成された突起19Bが環状溝22の内壁に圧接される。この内側脚部19の先端部19Aは、環状溝22の底面から離間するが、グローブボックス10と気密容器12との接続時にグローブボックス側シール部材16が容器蓋13により押圧されることで、環状溝22の底面側へ移動する。このように内側脚部19は、環状溝22に軸方向に移動可能に嵌装されている。
【0016】
更に、グローブボックス側シール部材16には、このグローブボックス側シール部材16が装着されていないグローブボックス10側またはグローブボックスドア11側(本実施の形態ではグローブボックス10側)の外側脚部18に凸部23が形成される。この凸部23は、グローブボックス10のグローブボックス側シール部材16側に形成された凹部24に密着して係合する。このグローブボックス側シール部材16の凸部23とグローブボックス10の凹部24との係合により、グローブボックス側シール部材16を介してグローブボックス10とグローブボックスドア11とが密閉される。
【0017】
グローブボックス側シール部材16の胴部20の表面20Aは、グローブボックス10側の端部25が最も高くなるように傾斜して形成されている。この端部25は、グローブボックス10と気密容器12が接続され、同時にグローブボックスドア11と容器蓋13とが接続された後(図3(B))、グローブボックスドア11と容器蓋13とが一体となってグローブボックス10内へ引き上げられたときに(図3(C);共に後述)、グローブボックス10内の被収容物により汚染される箇所である。この胴部20の表面20Aにおける傾斜によって、グローブボックスドア11と容器蓋13との接続時に、グローブボックス側シール部材16が容器蓋13または気密容器12(本実施の形態では容器蓋13)に密着して、このグローブボックス側シール部材16によりグローブボックスドア11と容器蓋13とが密閉される。
【0018】
前記容器側シール部材17も上述のグローブボックス側シール部材16と同様に構成される。つまり、容器側シール部材17は、外側脚部26と内側脚部27とが胴部28にて連設された断面コ字形状に形成され、外側脚部26及び内側脚部27が気密容器12または容器蓋13(本実施の形態では気密容器12)に装着される。内側脚部27は、気密容器12に形成された内側の環状溝30の溝幅と同一寸法の厚さに形成され、この内側脚部27の先端部27Aが環状溝30の底面に接触する状態で、この環状溝30に緊密に挿し込まれて嵌装される。
【0019】
また、外側脚部26は、気密容器12に形成された外側の環状溝29内に挿し込まれ、この外側脚部26に形成された突起26Bが環状溝29の内壁に圧接される。この外側脚部26の先端部26Aは、環状溝29の底面から離間するが、グローブボックス10と気密容器12との接続時に容器側シール部材17がグローブボックス10により押圧されることで、環状溝29の底面側へ移動する。このように外側脚部26は、環状溝29に軸方向に移動可能に嵌装されている。
【0020】
更に容器側シール部材17には、この容器側シール部材17が装着されていない容器蓋13側または気密容器12側(本実施の形態では容器蓋13側)の内側脚部27に凸部31が形成される。この凸部31は、容器蓋13の容器側シール部材17側に形成された凹部32に密着して係合する。この容器側シール部材17の凸部31と容器蓋13の凹部32との係合により、容器側シール部材17を介して気密容器12と容器蓋13とが密閉される。
【0021】
容器側シール部材17の胴部28の表面28Aは、容器蓋13側の端部33が最も高くなるように傾斜して形成されている。この端部33は、グローブボックス10と気密容器12とが接続された後(図3(B))、グローブボックスドア11と容器蓋13とが一体となってグローブボックス10内へ引き上げられたとき(図3(C);後に後述)、グローブボックス10内の被収容物により汚染される箇所である。胴部28の表面28Aにおける上述の傾斜によって、グローブボックス10と気密容器12との接続時に、容器側シール部材17がグローブボックス10またはグローブボックスドア11(本実施の形態ではグローブボックス10)に密着して、この容器側シール部材17によりグローブボックス10と気密容器12とが密閉される。
【0022】
グローブボックス10が、グローブボックスドア11に装着されたグローブボックス側シール部材16を介してグローブボックスドア11により密閉された状態では、グローブボックス側シール部材16の胴部20の表面20A、グローブボックス10の表面10A、グローブボックスドア11の表面11Aの順に高さが低く設定され、グローブボックス側シール部材16の胴部20の表面20Aが最も高く設定される。また、気密容器12が、この気密容器12に装着された容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉された状態では、容器側シール部材17の胴部28の表面28A、容器蓋13の表面13A、気密容器12の表面12Aの順に高さが低く設定され、容器側シール部材17の胴部28の表面28Aが最も高く設定される。
【0023】
これらの結果、グローブボックス10と気密容器12との接続時に、グローブボックス側シール部材16の胴部20が容器蓋13の表面13Aにより確実に押圧され、更に、容器側シール部材17の胴部28がグローブボックス10の表面10Aにより確実に押圧される。
【0024】
また、グローブボックス10がグローブボックス側シール部材16を介してグローブボックスドア11により密閉され、気密容器12が容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉された状態では、グローブボックス側シール部材16の外径Aと、容器蓋13の外径Bとの差が0mm以上、1.0mm以下の範囲に設定される。これは、グローブボックス10、グローブボックスドア11、気密容器12及び容器蓋13の組立時の寸法精度が±0.5mmの公差で設計されることにより実現される。前記外径AとBの差を上述の範囲に設定することで、グローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25が容器蓋13に非接触となる領域(つまり後述の汚染幅)、及び容器側シール部材17の胴部28の端部33がグローブボックス10と非接触となる領域(同じく汚染幅)が最小化される。
【0025】
上述のグローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17は、耐放射線性、耐摩耗性、耐候性及びガス透過性に優れたクロルスルフォン化ポリエチレンにて構成される。図4に、アクリルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、クロルスルフォン化ポリエチレンの各物理的性質等を示す。この図4によれば、クロルスルフォン化ポリエチレンは、アクリルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムに比べて、耐放射線性については同程度であり、耐摩耗性及び耐候性については同程度または優れているが、シール部材として最も必要なガス透過性については最も優れていると評価できる。
【0026】
従って、本実施の形態では、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の材質としてクロルスルフォン化ポリエチレンを採用したが、アクリルゴム、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴムであってもよい。その他、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の材質として、耐放射線性に優れたスチレンブタジエン(SBR)または水素化ニトリル(HNBR)を用いてもよい。
【0027】
上述のグローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17は、硬度が40〜80の範囲に設定されて、操作トルク、特にグローブボックス10と気密容器12との接続時及び切り離し時における操作トルクが低減され、且つグローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の不用意な変形が防止される。
【0028】
つまり、図1及び図2に示すように、グローブボックスドア11の嵌合爪34をグローブボックス10の嵌合溝35に嵌合操作させて、グローブボックス側シール部材16を介しグローブボックス10とグローブボックスドア11とを密閉させる場合、または気密容器12の嵌合爪36を容器蓋13の嵌合溝37に嵌合操作させて、容器側シール部材17を介し気密容器12と容器蓋13とを密閉させる場合には、シール部材16、17がそれぞれ1個であるため、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の硬度が上述の範囲にあるときの操作トルクは、10〜20N−m程度となる。
【0029】
これに対し、図1、図3(B)及び(C)に示すように、気密容器12をグローブボックス10に接続させるために、容器蓋13の嵌合爪38をグローブボックスドア11の嵌合溝39に嵌合操作し(ステップ1)、グローブボックス10の嵌合爪40を気密容器12の嵌合溝41に嵌合操作(ステップ2)するときには、グローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25と容器側シール部材17の胴部28の端部33とが接触するので、このとき発生する摩擦力がステップ1及びステップ2の両操作トルクを増大させることになる。図3(B)の状態から図3(A)の状態へと気密容器12をグローブボックス10から切り離し操作する際にも(ステップ3)、グローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25と容器側シール部材17の胴部28の端部33とが接触するため、このときの操作トルクが増大する。
【0030】
例えば、図5に示すように、容器側シール部材17の硬度を65とし、グローブボックス側シール部材16の硬度を45、65、80としたとき、いずれの硬度の組み合わせの場合にも、ステップ1、2、3における各操作トルクは、30〜100N−mの範囲となる。操作トルク100N−mは、工具を用いて人力で操作できるトルク値として評価できるので、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の硬度を80以下とすることで、グローブボックス10と気密容器12との接続時または切り離し時における操作トルクが、人力で操作可能な範囲に低減される。
【0031】
尚、図5では、容器側シール部材17の硬度が65で、グローブボックス側シール部材16の硬度が45のときの操作トルクを実線αで示し、容器側シール部材17の硬度が65で、グローブボックス側シール部材16の硬度が65のときの操作トルクを実線βで示し、容器側シール部材17の硬度が65で、グローブボックス側シール部材16の硬度が80のときの操作トルクを実線γで示している。
【0032】
また、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の硬度が40以上に設定されたことで、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の不用意な変形が防止され、これによるグローブボックスドア11、気密容器12からの脱落が回避される。
【0033】
次に、図3を用いてグローブボックス10と気密容器12との接続、切り離し手順について説明する。
【0034】
図3(A)に示すグローブボックス10と気密容器12との切り離し状態では、グローブボックス10がグローブボックス側シール部材16を介してグローブボックスドア11により密閉され、また、気密容器12が容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉されている。この状態から、容器蓋13の嵌合爪38をグローブボックスドア11の嵌合溝39に嵌合させ、グローブボックス10の嵌合爪40を気密容器12の嵌合溝41に嵌合させて、図3(B)に示すように、気密容器12をグローブボックス10に接続する。
【0035】
この図3(B)に示す状態では、グローブボックス側シール部材16によって、グローブボックス10とグローブボックスドア11とが密閉されて気密状態に保持されると共に、グローブボックスドア11と容器蓋13も密閉されて、これらのグローブボックスドア11と容器蓋13により囲まれた空間Mも気密に保持される。更に容器側シール部材17によって、容器蓋13と気密容器12とが密閉されて気密に保持されると共に、グローブボックス10と気密容器12も密閉されて気密状態に保持される。
【0036】
図3(B)に示す状態からグローブボックスドア11及び容器蓋13を一体に引き上げて、図3(C)に示すように、グローブボックス10の内部と気密容器12内を連通状態とする。このときにもグローブボックスドア11と容器蓋13により囲まれた空間Mがグローブボックス側シール部材16により気密に保持され、グローブボックス10と気密容器12も容器側シール部材17により気密に保持される。グローブボックスドア11及び容器蓋13が引き上げられた状態で、グローブボックス10内の被収容物が気密容器12内へ移送されて収容される。
【0037】
気密容器12内への被収容物の収容後、グローブボックスドア11及び容器蓋13を一体で下降させ、図3(B)に示すように、グローブボックスドア11によりグローブボックス10を密閉し、容器蓋13により気密容器12を密閉する。その後、図3(A)に示すように、グローブボックス10の嵌合爪40と気密容器12の嵌合溝41との嵌合を解除し、容器蓋13の嵌合爪38とグローブボックスドア11の嵌合溝39との嵌合を解除して、気密容器12をグローブボックス10から引き離す。
【0038】
従って、本実施の形態によれば、次の効果(1)〜(6)を奏する。
【0039】
(1)グローブボックスドア11に装着されるグローブボックス側シール部材16は、外側脚部18の凸部23がグローブボックス10の凹部24に密着して係合することで、グローブボックス10とグローブボックスドア11とを密閉すると共に、グローブボックス10と気密容器12との接続時に、胴部20の傾斜した表面20Aが容器蓋13の表面13Aに密着することで、グローブボックスドア11と容器蓋13とを密閉する。更に、気密容器12に装着される容器側シール部材17は、内側脚部27の凸部31が容器蓋13の凹部32に密着して係合することで、気密容器12と容器蓋13とを密閉すると共に、グローブボックス10と気密容器12との接続時に、胴部28の傾斜した表面28Aがグローブボックス10の表面10Aに密着することで、グローブボックス10と気密容器12とを密閉する。これらのことから、グローブボックス10とグローブボックスドア11との気密性、気密容器12と容器蓋13との気密性を向上できると共に、グローブボックス12と気密容器12との接続時における気密性も向上させることができる。
【0040】
(2)グローブボックス10、グローブボックスドア11及びグローブボックス側シール部材16のそれぞれの外面と、気密容器12、容器蓋13及び容器側シール部材17のそれぞれの外面とは、図3(C)に示すグローブボックス10と気密容器12の接続時でグローブボックスドア11と容器蓋13とが一体に引き上げられた際に、グローブボックスドア11と容器蓋13により囲まれた空間Mがグローブボックス側シール部材16により気密状態に保持され、且つグローブボックス10と気密容器12とが容器側シール部材17により気密状態に保持されるので、グローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25と容器側シール部材17の胴部28の端部33以外が、グローブボックス10内の被収容物により汚染されることはない。
【0041】
グローブボックス10と気密容器12との切り離し時に(図3(A))、被収容物により汚染されたグローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25と容器側シール部材17の胴部28の端部33にスミヤろ紙(不図示)を押し当て、図2に示すスミヤ範囲Xにおいて移動させることで、このスミヤろ紙を用いてグローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の放射能量が測定される。この際に、グローブボックス側シール部材16の胴部20と容器側シール部材17の胴部28が平坦形状であるので、スミヤろ紙が破れることを防止できる。尚、前記スミヤ範囲Xは容器側シール部材17の場合を示す。
【0042】
また、スミヤろ紙を移動させたときに、グローブボックス側シール部材16の胴部20の表面20Aと容器側シール部材17の胴部28の表面28Aに汚染が拡がったとしても、グローブボックス側シール部材16の胴部20と容器側シール部材17の胴部28とが平坦形状であることから、この拡がった汚染が胴部20、28の裏側へ廻り込むことがない。この結果、この拡がった汚染を、除染用の布または紙を用いて容易に拭き取って除去することができる。このため、自動スミヤロボットなどによる自動化への適用も可能となる。
【0043】
(3)グローブボックス10がグローブボックス側シール部材16を介してグローブボックスドア11により密閉され、気密容器12が容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉された状態で、グローブボックス側シール部材16の胴部20の表面20A、グローブボックス10の表面10A、グローブボックスドア11の表面11Aの順に高さが低く設定され、また、容器側シール部材17の胴部28の表面28A、容器蓋13の表面13A、気密容器12の表面12Aの順に高さが低く設定されている。更に、上述の状態において、グローブボックス10、グローブボックスドア11、気密容器12及び容器蓋13の組立時の寸法精度が±0.5mm以下に設定されて、グローブボックス側シール部材16の外形Aと容器蓋13の外形Bとの差が0mm以上、1.0mm以下の範囲に設定されている。これらの結果、グローブボックス10と気密容器12との接続時におけるグローブボックス10と気密容器12の漏れ率を、グローブボックス10とグローブボックスドア11、気密容器12と容器蓋13のそれぞれの漏れ率の場合と同様に低減できる。
【0044】
例えば、グローブボックス10、グローブボックスドア11、気密容器12及び容器蓋13の組立時の寸法精度が±0.5mm以下のとき、JIS Z4820「グローブボックス気密試験方法」の計算式によって漏れ率を算出した結果を図6に示す。グローブボックス10と気密容器12(容器+G.B.)の漏れ率Pは、気密容器12と容器蓋13(容器+容器蓋)の漏れ率Q、グローブボックス10とグローブボックスドア11(G.B.+G.B.ドア)の漏れ率Rと同様に0.1vol%以下を示し、グローブボックスに要求される基準を十分に満足できるものとなっている。
【0045】
(4)グローブボックス10がグローブボックス側シール部材16を介してグローブボックスドア11により密閉され、気密容器12が容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉された状態で、グローブボックス側シール部材16の外形Aと容器蓋13の外形Bとの差が0mm以上、1.0mm以下の範囲に設定されている。この結果、グローブボックス側シール部材16の胴部20の端部25と、容器側シール部材17の胴部28の端部33とのそれぞれにおける汚染幅及び汚染面積を低減することができる。
【0046】
例えば、被収容物を放射線物質などに代えて蛍光粉末等の模擬汚染物質としたとき、本実施の形態と従来(背景)技術のそれぞれについて、シール部材の汚染幅、汚染面積を比較した結果を図7に示す。図3(C)の接続状態から図3(A)の切り離し状態にしたとき、本実施の形態のグローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の汚染幅及び汚染面積は、従来の設備側リップシール3、容器側リップシール6(共に図11)に比べて半分程度に低減されている。
【0047】
これは、従来の設備側リップシール3、容器側リップシール6が片持ち状態であり、気密容器4を気密設備1に接続したとき、設備側リップシール3と容器側リップシール6とが接触して、摩擦力の作用で互いに引き出されてしまうために、汚染量が増大してしまうと考えられる。これに対し、本実施の形態では、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17は両端支持状態であり、しかも、グローブボックス側シール部材16の外形Aと容器蓋13の外形Bとの差が上述の範囲に設定されているため、引き出されることがなく、汚染量が低減されるのである。
【0048】
(5)グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17が耐放射線性、耐摩耗性、耐候性及びガス透過性に優れたクロルスルフォン化ポリエチレンにて構成されたので、放射能による劣化が抑制され、更に作動に伴う切削損傷も低減されるため、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17を長期間に亘り安定して使用することができる。
【0049】
(6)グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の硬度が40〜80の範囲に設定されたので、硬度が過大(80を超えた値)に設定されないことによって、グローブボックス10と気密容器12との接続または切り離し操作時の操作トルクを、手動操作可能な範囲(例えば100N−m以下)に低減できる。また、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の硬度が過小(40未満)になっていないので、グローブボックス側シール部材16及び容器側シール部材17の変形を防止でき、グローブボックスドア11、気密容器12からの脱落を未然に回避できる。
【0050】
[B]第2の実施の形態(図8〜図10)
図8は、本発明に係る気密設備・気密容器間の気密構造における第2の実施の形態の気密容器を示す断面図である。この第2の実施の形態において、前記第1の実施の形態と同様な部分については、同一の符号を付すことにより説明を簡略化し、または省略する。
【0051】
本実施の形態の気密設備・気密容器の気密構造が前記第1の実施の形態と異なる点は、容器蓋13と気密容器12との少なくとも一方(本実施の形態では容器蓋13)に、容器側シール部材17を取り除いた後に気密容器12と容器蓋13とを溶接するための溶接開先50が形成され、この溶接開先50の上方空間が凹部32となって、この凹部32に容器側シール部材17の凸部31が密着して係合される点である。
【0052】
つまり、被収容物(例えば放射性廃棄物)が収容された気密容器12は、図8に示すように、当初、気密容器12の環状溝29及び30に装着された容器側シール部材17を介して容器蓋13により密閉されている。この状態では、容器蓋13の気密容器12側壁面に形成された溶接開先50が気密容器12に接触し、溶接開先50上方の凹部32に容器側シール部材17の凸部31が密着して係合して、気密容器12が容器蓋13及び容器側シール部材17により気密状態に保持される。
【0053】
図8の状態から工具や治具を用いて容器側シール部材17を引き抜き(図9)、その後、容器蓋13の溶接開先50と気密容器12とを溶接する。この溶接により、気密容器12が容器蓋13により再び気密状態に保持される。図10中の符号51が、溶接開先50と気密容器12との溶接部を示す。
【0054】
従って、本実施の形態によれば、前記第1の実施の形態の効果(1)〜(6)と同様な効果を奏する他、次の効果(7)を奏する。
【0055】
(7)一般に、放射性廃棄物などの被収容物が収容された気密容器12及び容器蓋13を埋設処分する場合、有機物である容器側シール部材17が長期間の埋設によって分解したり、この分解により発生するガスが埋設場所に悪影響を与えることから、有機物の使用は禁止されている。本実施の形態では、放射性廃棄物などの被収容物が収容された気密容器12及び容器蓋13を埋設処分する場合に、容器側シール部材17を取り除き、溶接開先50を用いた溶接によって気密容器12と容器蓋13を気密状態に保持して、これを埋設処分するので、溶接場所に上述のような悪影響を与えることを防止できる。
【0056】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、上述の両実施形態においては、被収容物が放射性物質、または放射性物質により汚染された物質の場合を述べたが、環境への拡散を回避すべき物質(例えば細菌など)を被収容物とした場合にも本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係る気密設備・気密容器間の気密構造における第1の実施の形態を示すグローブボックス及び気密容器などを示す断面図。
【図2】図1のII部拡大断面図。
【図3】(A)〜(C)は図1のグローブボックスと気密容器との接続手順などを各々示す説明図。
【図4】図1のシール部材の物理的性質等を比較して示す図表。
【図5】図1のシール部材の硬度と操作トルクとの関係を示すグラフ。
【図6】図1のグローブボックス、気密容器などの漏れ率を示すグラフ。
【図7】図1と図11のシール部材による汚染幅などを比較して示す図表。
【図8】本発明に係る気密設備・気密容器間の気密構造における第2の実施の形態の気密容器を示す断面図。
【図9】図8の気密容器から容器側シール部材を取り除いた状態を示す断面図。
【図10】図9の気密容器の溶接状態を示す断面図。
【図11】従来のグローブボックス・気密容器間の気密構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0058】
10 グローブボックス(気密設備)
11 グローブボックスドア(設備側ドア)
12 気密容器
13 容器蓋
14、15 開口
16 グローブボックス側シール部材(設備側シール部材)
17 容器側シール部材
18 外側脚部
19 内側脚部
20 胴部
23 凸部
24 凹部
25 端部
26 外側脚部
27 内側脚部
28 胴部
31 凸部
32 凹部
33 端部
50 溶接開先
51 溶接部
A グローブボックス側シール部材の外径
B 容器蓋の外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気密設備と、この気密設備の開口を閉塞する設備側ドアとが、これらに介在される設備側シール部材により密閉され、また、前記気密設備内の被収容物を収容する気密容器と、この気密容器の開口を閉塞する容器蓋とが、これらに介在される容器側シール部材により密閉され、
前記気密容器と前記気密設備との接続時に、前記容器側シール部材と前記設備側シール部材の一方が、前記気密容器と前記気密設備を密閉し、他方が、前記容器蓋と前記設備側ドアを密閉する気密設備・気密容器間の気密構造において、
前記設備側シール部材は断面コ字形状に形成され、両脚部が前記設備側ドアと前記気密設備の一方に装着され、これらの他方に前記一脚部が密着可能に設けられると共に、胴部が前記容器蓋または前記気密容器に密着可能に設けられ、
また、前記容器側シール部材は断面コ字形状に形成され、両脚部が前記気密容器と前記容器蓋の一方に装着され、これらの他方に前記一脚部が密着可能に設けられると共に、胴部が前記気密設備または前記設備側ドアに密着可能に設けられたことを特徴とする気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項2】
前記設備側シール部材と前記容器側シール部材のそれぞれの胴部表面は、被収容物により汚染される側が高くなるように傾斜して形成されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項3】
前記設備側シール部材の一脚部には、気密設備または気密側ドアに形成された凹部に係合する凸部が形成され、前記容器側シール部材の一脚部には、容器蓋または気密容器に形成された凹部に係合する凸部が形成されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項4】
前記設備側シール部材及び前記容器側シール部材は、クロルスルフォン化ポリエチレンにて構成されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項5】
前記設備側シール部材及び前記容器側シール部材は、硬度が40〜80の範囲に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項6】
前記気密設備が、設備側ドアに装着された設備側シール部材を介して前記設備側ドアにより密閉され、気密容器が、この気密容器に装着された容器側シール部材を介して容器蓋により密閉された状態で、前記設備側シール部材の胴部表面、前記気密設備表面、前記設備側ドア表面の順に高さが低く設定され、また、前記容器側シール部材の胴部表面、前記容器蓋表面、前記気密容器表面の順に高さが低く設定されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項7】
前記気密設備が、設備側ドアに装着された設備側シール部材を介して前記設備側ドアにより密閉され、気密容器が、この気密容器に装着された容器側シール部材を介して容器蓋により密閉された状態で、前記設備側シール部材の外径と前記容器蓋の外径との差が、0mm以上、1.0mm以下に設定されたことを特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。
【請求項8】
前記容器蓋と気密容器の少なくとも一方には、容器側シール部材を取り除いた後に前記気密容器と前記容器蓋とを溶接するための溶接開先が形成されたこと特徴とする請求項1に記載の気密設備・気密容器間の気密構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−25161(P2010−25161A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−184616(P2008−184616)
【出願日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】