説明

気相フッ素化による含フッ素プロペンの製造方法

本発明は、酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒の存在下に、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表されるハロゲン化プロペンを気相において無水フッ化水素と反応させることによる、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、X及びXは上記に同じ) で表される含フッ素プロペンの製造方法を提供するものである。本発明方法は、化学式:CF3CF=CClX(式中、Xは、Cl、H又はFである)で表される含フッ素プロペンを比較的穏和な条件で高収率で提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子である) で表される含フッ素プロペンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学式:CF3CF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子である)で表される含フッ素プロペンの内で、CF3CF=CH2(HFC-1234yf)で表される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、冷媒として有用な化合物である。また、化学式:CF3CF=CClX(式中、Xは、塩素原子、フッ素原子又は水素原子である) で表される含フッ素プロペンは、各種フルオロカーボンの製造に有用な中間体である。
【0003】
上記した化学式:CF3CF=CX1X2で表される含フッ素プロペンを合成する公知方法の一例は、二重結合の炭素原子に結合した少なくとも1つのハロゲン原子を有するプロペンのアリル位の炭素を直接フッ素化する方法である(下記非特許文献1及び2参照)。しかしながら、この方法はフッ素化剤としてSbF3を用いているため、フッ素原子量に基づいて、原料のプロペン1当量に対して1当量を上回るSbF3が必要である。このため、この方法は不経済であり、廃棄物の処理のための付加的なコストが必要となる。更に、この方法は液相反応であるためハンドリングが困難である。また、アリル位に2つ以上の塩素原子が結合する場合には、これらの塩素原子を全てフッ素原子に置換する際には、分解が生じることがあり、収率が60%以下まで大きく低下するため、収率の改善が必要である。更に、この方法の反応は、加圧・加熱下で行う必要があり、処理工程が煩雑となる。
【0004】
CF2ClCF=CFCl(CFC-1214yb)で表される化合物については、フッ素化反応によって 、プロペンのアリル位の塩素ではなく、二重結合の炭素原子に結合した塩素が優先的にフッ素と置換されて、CF2ClCF=CF2(CFC-1215yc)が生成することが報告されている(下記特許文献1参照)。
【0005】
現在、CF3CF=CClX(式中、Xは、Cl、H又はFである) で表される含フッ素プロペンの製造方法については多くの報告がある。先に述べたSbF3によるフッ素化方法以外に、含フッ素プロパンから脱ハロゲン化水素を行う方法、含フッ素プロパンを脱ハロゲン(例えば、脱FCl 又は脱 Cl2)に供する方法、含フッ素プロペンのハロゲンを転位させて目的物へと導く方法などが知られている。例えば、CF3CF=CCl2 (CFC-1214ya)の製造方法としては、CF3CF2CHCl2(HCFC-225ca)の脱フッ化水素による方法 (特許文献2、特許文献3等参照)、CF3CFClCCl3(CFC-214bc)の脱塩素による方法 (非特許文献3参照)、 CF3CCl=CCl2(CFC-1213xa)、CF3CCl=CFCl(CFC-1214xb)、CF3CF=CFCl(CFC-1215yb)などを原料として、ヘキサフルオロプロピレン共存下、酸化クロムを用いて塩素とフッ素を交換させる方法 (非特許文献4参照)などが報告されている。しかしながら、これらの方法では、プロパンを形成した後、脱ハロゲンを行うために、工程が増加し、ハロゲンの利用効率が低下するので好ましくない。しかも、いずれの方法も収率が十分ではない。特に、ハロゲンを転位する工程を含む方法では、反応に関与する成分が多いために複雑な反応系となり、収率が非常に低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO 2008/060612 A2
【特許文献2】WO 2008/060614 A2
【特許文献3】特開平8-169850号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society (1946), Vol. 68 pp496-7
【非特許文献2】Journal of the American Chemical Society (1941), Vol. 63 pp3478-9
【非特許文献3】Bulletin de la Societe Chimique de France, (6), 920-4; 1986
【非特許文献4】Journal of Fluorine Chemistry, 50(1), 77-87; 1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子である) で表される含フッ素プロペンを比較的穏和な条件において高収率で経済的に得ることができる新規な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、下記の方法、すなわち、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表されるハロゲン化プロペンを出発原料として用い、フッ素化触媒としての酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムの存在下に、気相中で無水HFと反応させる方法によれば、目的とする化学式:CF3CF=CX1X2で表される含フッ素プロペンを比較的穏和な条件において高収率で得ることができることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の含フッ素プロペンの製造方法を提供するものである。
項1. 酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒の存在下に、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表されるハロゲン化プロペンを気相において無水フッ化水素と反応させる工程を含むことを特徴とする、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、X及びXは上記に同じ) で表される含フッ素プロペンの製造方法。
項2. 化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンが、化学式:CClYZCF=CH2(式中、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物である上記項1に記載の方法。
項3. 化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンが、化学式:CClYZCF=CClX(式中、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物である上記項1に記載の方法。
項4. フッ素化触媒が、組成式:CrO(式中、mは1.5<m<3の範囲である)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムである上記項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 反応温度が、120〜320℃である上記項1〜4のいずれかに記載の方法。
【0011】
本発明では、出発原料としては、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なって、それぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表されるハロゲン化プロペンを用いる。
【0012】
上記化学式で表されるハロゲン化プロペンとしては、例えば、化学式:CClYZCF=CH2(式中、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物;化学式:CClYZCF=CClX(式中、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物等を挙げることができる。
【0013】
これらの含フッ素プロペンの内で、化学式:CClYZCF=CH2で表される含フッ素プロペンの具体例としては、CF2ClCF=CH2(HCFC-1233yf)、CFCl2CF=CH2(HCFC-1232yf)等を例示できる。これらの化合物は、例えば、上記した非特許文献1に記載の方法で合成することができる。これらの内で、HCFC-1233yfについては、例えば、相間移動触媒(例えばAliquat 336(N+(CH3)(n-OC)3 ・Cl-)の存在下に、KOHを用いてCF2ClCF2CH3(HCFC-244cc)を脱フッ化水素させることによって合成することができる。
【0014】
また、化学式:CClYZCF=CClXで表される含フッ素プロペンの具体例としては、CF2ClCF=CCl2(CFC-1213ya)、CFCl2CF=CCl2(CFC-1212ya)、CF2ClCF=CFCl(CFC-1214yb)等を例示できる。これらの化合物の内で、例えば、CF2ClCF=CCl2(CFC-1213ya)及びCF2ClCF=CFCl(CFC-1214yb)については、それぞれCF2ClCF2CHCl2(HCFC-224ca)またはCF2ClCF2CHFCl(HCFC-225cb)を原料として、相間移動触媒(例えばAliquat 336(N+(CH3)(n-OC)3 ・Cl-) の存在下に、KOHを用いてフッ化水素を脱離させる方法によって容易に合成することができる。また、CFCl2CF=CCl2(CFC-1212ya)については、例えば、特開平1−298188号公報、“Phosphorus and Sulfur and the Related Elements, 11(3), pp373-81, 1981”等に記載されている方法によって容易に合成できる。
【0015】
本発明の方法では、酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒の存在下に、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、X、X、Y及びZは上記に同じ)で表されるハロゲン化プロペンを気相において無水フッ化水素と反応させることが必要である。この方法によれば、後述する反応条件を採用することによって、比較的穏和な反応条件で、目的とする化学式:CF3CF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子である) で表される含フッ素プロペンを高収率で得ることができる。
【0016】
本発明で用いるフッ素化触媒の内で、好ましい触媒は、例えば、組成式:CrOにおいて、mの値が、好ましくは1.5<m<3の範囲、より好ましくは1.8≦m≦2.5の範囲、更に好ましくは2.0≦m≦2.3の範囲にある酸化クロムである。
【0017】
該酸化クロムの製造方法の一例は次の通りである。
【0018】
まず、クロム塩の水溶液(硝酸クロム、塩化クロム、クロムみょうばん、硫酸クロム等)をアンモニア水と混合して水酸化クロムの沈殿を形成する。例えば、硝酸クロムの5.7%水溶液に10%のアンモニア水を、硝酸クロム1当量に対して1〜1.2当量程度滴下することによって、水酸化クロムの沈殿を得ることができる。この時の沈殿反応の反応速度を変えることにより水酸化クロムの物性を制御することができる。反応速度は、速いことが好ましく、反応速度を速くすることによって触媒活性を高くすることができる。反応速度は反応溶液温度、アンモニア水混合方法(混合速度)、撹拌状態等により左右されるので、これらの条件を調整することによって反応速度を適切に制御できる。
【0019】
この沈殿を濾過洗浄後、乾燥する。乾燥は、例えば、空気中、70〜200℃程度、好ましくは120℃程度で、1〜100時間程度、好ましくは12時間程度行えばよい。この段階の生成物を水酸化クロムの状態と呼ぶ。
【0020】
次いで、この乾燥された生成物を小粒子に解砕する。この際、解砕粉末(例えば、粒径1000μm以下、46〜1000μmの粒径品95%としたもの)の密度が0.6〜1.1g/ml程度、好ましくは0.6〜1.0g/ml程度になるように沈澱反応速度を調整することが好ましい。粉体密度が0.6g/mlよりも小さい場合には、ぺレットの強度が不十分となるので好ましくない。また、粉体密度が1.1g/mlよりも大きいと、触媒の活性が低く、ペレットが割れやすくなる。粉体の比表面積は、200℃、80分の脱気条件で、100m2/g程度以上、より好ましくは120m2/g程度以上であることが望ましい。比表面積の上限は、例えば、220m2/g程度である。尚、本明細書において、比表面積はBET法で測定した値である。
【0021】
この水酸化クロムの粉体に、要すればグラファイトを3重量%程度以下混合し、打錠機によりペレットを形成する。ペレットの大きさは、直径3.0mm程度、高さ3.0mm程度とすればよい。このペレットの圧潰強度(ペレット強度)は210±40kg/cm2程度であることが好ましい。圧潰強度が大きすぎると、ガスの接触効率が低下して触媒活性が低下するとともに、ペレットが割れ易くなる。一方圧潰強度が小さすぎる場合は、ペレットが粉化しやすくなって取扱いが困難になる。
【0022】
成形されたペレットを不活性雰囲気中、例えば窒素気流中で焼成して、非晶質の酸化クロムにする。この焼成温度は360℃以上であることが好ましいが、高温になり過ぎると結晶化するために、これを回避できる範囲内で出来るだけ高温にすることが望まれる。例えば、380〜460℃程度、好ましくは400℃程度で、1〜5時間程度、好ましくは2時間程度焼成すればよい。
【0023】
焼成された酸化クロムの比表面積は、170m2/g程度以上、好ましくは180m2/g程度以上、より好ましくは200m2/g程度以上である。比表面積の上限は、一般的に240m2/g程度、好ましくは220m2/g程度である。240m2/g以上の比表面積では活性は高いが劣化速度が増加し、比表面積が170m2/gよりも小さい場合には、触媒の活性が低くなるので好ましくない。
【0024】
また、フッ素化された酸化クロムについては、特開平5−146680号公報に記載された方法によって調製することができる。例えば、上記した方法で得られる酸化クロムをフッ化水素によりフッ素化(HF処理)することによって得ることができる。フッ素化の温度は、生成する水が凝縮しない温度(例えば、0.1MPaにおいて150℃程度)とすればよく、反応熱により触媒が結晶化しない温度を上限とすればよい。フッ素化時の圧力には制限はないが、触媒反応に供される時の圧力で行なうことが好ましい。フッ素化の温度は、例えば100〜460℃程度である。
【0025】
フッ素化処理により触媒の表面積は低下するが、一般に高比表面積である程活性が高くなる。フッ素化後の触媒の比表面積は、25〜130m2/g程度であることが好ましく、40〜100m2/g程度であることがより好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0026】
酸化クロムのフッ素化反応は、後述するハロゲン化プロペン化合物のフッ素化反応に先立って、酸化クロムを充填した反応器にフッ化水素を供給することによって行ってもよい。この方法で酸化クロムをフッ素化した後、原料とするハロゲン化プロペン化合物を反応器に供給することによって、ハロゲン化プロペン化合物のフッ素化反応を進行させることができる。
【0027】
フッ素化の程度については、特に限定的ではないが、例えば、フッ素含有量が10〜30重量%程度までのフッ素化触媒を好適に用いることができる。
【0028】
更に、特開平11−171806号公報に記載されている非晶質状態にあるクロム系触媒についても、本発明において、酸化クロム触媒又はフッ素化された酸化クロム触媒として用いることができる。この触媒は、インジウム、ガリウム、コバルト、ニッケル、亜鉛及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素が添加された非晶質のクロム化合物を主成分として含み、前記クロム化合物におけるクロムの平均原子価数が+3.5以上、+5.0以下である。
【0029】
上記したフッ素化触媒、即ち、酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムは、アルミナ、活性炭等の担体に担持されていても良い。
【0030】
本発明では、通常、上記したフッ素化触媒を充填した反応器に、原料である化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンと、フッ化水素(HF)を供給することによって、反応を行うことができる。
【0031】
尚、上記した原料は、反応器にそのまま供給してもよく、あるいは、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスで希釈して供給しても良い。
【0032】
また、長時間の触媒活性を維持するために、上記原料に酸素を同伴させて反応器に供給してもよい。この場合、酸素の供給量は、原料として用いるハロゲン化プロペンとフッ化水素の合計供給モル数を基準として、0.1〜20mol%程度とすれば良く、0.1〜5mol%程度とすることが好ましい。
【0033】
化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンとフッ化水素との割合については、該ハロゲン化プロペンにおけるアリル位の炭素原子、即ち、二重結合に隣接する、Y及びZが結合している炭素原子に結合した塩素原子数を基準として決めることができる。即ち、該プロペン化合物のアリル位の炭素原子に結合した塩素原子数を基準として、該ハロゲン化プロペン1当量に対してフッ化水素が1当量以上となるように供給すればよい。通常は、該プロペン化合物のアリル位の炭素原子に結合した塩素原子数を基準として、該ハロゲン化プロペン1当量に対してフッ化水素が1当量〜4当量程度の範囲となるようにフッ化水素を供給すればよい。
【0034】
フッ素化反応に用いる反応器の形態は特に限定されるものではなく、例えば、触媒を充填した断熱反応器、熱媒体を用いて除熱した多管型反応器等を用いることができる。尚、反応器としては、ハステロイ(HASTALLOY)、インコネル(INCONEL)、モネル(MONEL)等のフッ化水素の腐食作用に抵抗性がある材料によって構成されるものを用いることが好ましい。
【0035】
フッ素化反応の温度は、反応器の中の温度として、120〜320℃程度が好ましく、150〜250℃程度がよりしい。この温度範囲より高温になるとさらにフッ素化の進んだ生成物が増加してCF3CF=CX1X2の選択率が低下し、逆に低温になると原料転化率が低下するので好ましくない。
【0036】
反応時の圧力については、特に限定されるものではなく、大気圧(常圧)又は加圧下に反応を行うことができる。即ち、本発明におけるフッ素化反応は、大気圧(0.1MPa)下で実施することが可能であるが、1.0MPa程度までの加圧下で行ってもよい。
【0037】
反応時間については特に限定的ではないが、反応系に流す原料ガス(即ち、ハロゲン化プロペンとフッ化水素)の全流量Fo(0℃、0.1MPaでの流量:cc/sec)に対する触媒充填量W(g)の比率、即ち、W/Foで表される接触時間が、通常1〜15 g・sec/cc、好ましくは2〜8 g・sec/cc程度となるように選択すればよい。
【0038】
反応器出口では、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、X及びXは上記に同じ)を含む反応生成物を得ることができる。具体的には、出発原料として化学式:CClYZCF=CH2で表される含フッ素プロペンを用いた場合にはCF3CF=CH2(HFC-1234yf)を含む反応生成物を得ることができ、CFCl2CF=CCl2(CFC-1212ya)を用いた場合にはCF3CF=CCl2(CFC-1214ya)を含む反応生成物を得ることができ、CF2ClCF=CCl2(CFC-1213ya)を用いた場合には、CF3CF=CCl2(CFC-1214ya) を含む反応生成物を得ることができ、CF2ClCF=CFCl(CFC-1214yb)を用いた場合には、CF3CF=CFCl(CFC-1215yb) を含む反応生成物を得ることができ、CF2ClCF=CClH(HCFC-1223yd)を用いた場合にはCF3CF=CClH(HCFC-1224yd) 含む反応生成物を得ることができる。
【0039】
反応生成物は、蒸留などによって精製して回収しても良いし、そのまま次の反応工程に用いることも出来る。また、未反応の原料は分離・精製後に反応器に戻して、原料として再使用することができる。この様に未反応の原料をリサイクルできることによって、原料転化率が低い場合であっても、高い生産性を維持できる。
【発明の効果】
【0040】
本発明の製造方法によれば、煩雑な処理工程やフッ素化剤の使用に伴う廃棄物処理などを要することなく、比較的穏和な条件で、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、X及びXは上記に同じ) で表される含フッ素プロペンを高収率で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0042】
実施例1
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒9.0g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を60 cc/min(0℃、0.1MPaでの流量、以下同じ)で反応器に供給して1時間維持した。その後、実質的に純粋なCF2ClCF=CH2(HCFC-1233yf)を30cc/minの速度で供給し、反応器の温度を200℃に変更した。HCFC-1233yfに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。所定の反応温度になってから1時間後の反応器の流出物をガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表1に示す。
各生成物の組成式は以下の通りである;
CF3CF=CH2 (HFC-1234yf)
CF3CF2CH3 (HFC-245cb)
CF3CCl=CH2 (HCFC-1233xf)
【0043】
実施例2
用いる触媒量を12.0gに、供給する無水フッ化水素(HF)の流量を90 cc/minに変更し、反応温度を変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。HCFC-1233yfに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0044】
実施例3
用いる触媒量を12.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。HCFC-1233yfに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は8.0 g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0045】
実施例4
用いる触媒量を6.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例1と同様の条件で実験を行った。HCFC-1233yfに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0046】
比較例1
反応温度を350℃に変更した以外は実施例2と同様の条件で実験を行った。HCFC-1233yfに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。分析結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例5
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒12.5g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を120 cc/minで反応器に供給して1時間維持した。その後、実質的に純粋なCFCl2CF=CH2(HCFC-1232yf)を30 cc/minの速度で供給し、反応器の温度を201℃に変更した。HCFC-1232yfに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。所定の反応温度になってから1時間後の反応器の流出物をガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表2に示す。
各生成物の組成式は以下のとおりである;
CF2ClCF=CH2 HCFC-1233yf)
CF3CF=CH2 (HFC-1234yf)
CF3CF2CH3(HFC-245cb)
CF3CCl=CH2 (HCFC-1233xf)
【0049】
実施例6
用いる触媒量を20.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例5と同様の条件で実験を行った。HCFC-1232yfに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は8.0 g・sec/ccであった。分析結果を表2に示す。
【0050】
実施例7
用いる触媒量を10.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例5と同様の条件で実験を行った。HCFC-1232yfに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/cc秒であった。分析結果を表2に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
実施例8
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒7.5g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を60 cc/minで反応器に供給して1時間維持した。その後、実質的に純粋なCF2ClCF=CCl2(CFC-1213ya)を30cc/minの速度で供給し、反応器の温度を200℃に変更した。CFC-1213yaに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。目的の反応温度になってから1時間後の反応器の流出物をガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表3に示す。
【0053】
各生成物の組成式は以下の通りである;
CF3CF=CCl2(CFC-1214ya)
CF3CHFCFCl2(HCFC-225eb)
CF3CF=CFCl(CFC-1215yb)
CF3CHFCF2Cl (HCFC-226ea)
CF3CHFCF3 (HFC-227ea)
CF3CF=CF2(FC-1216yc)
CF3CF2CFCl2 (CFC-216cb)
CF3CCl=CCl2(CFC-1213xa)
【0054】
実施例9
用いる触媒量を10.0gに、供給する無水フッ化水素(HF)の流量を90 cc/minに変更した以外は実施例8と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0055】
実施例10
用いる触媒量を9.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例8と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0056】
実施例11
用いる触媒量を10.5gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例8と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は7.0 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0057】
実施例12
用いる触媒量を6.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例8と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0058】
実施例13
用いる触媒量を5.0gに、供給する無水フッ化水素(HF)の流量を90 cc/minに変更し、反応温度を変更した以外は実施例8と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は2.5 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0059】
比較例2
反応温度を350℃に変更した以外は実施例9と同様の条件で実験を行った。CFC-1213yaに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。分析結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
実施例14
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒10.0g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を120 cc/minで反応器に供給して1時間維持した。その後、実質的に純粋なCFCl2CF=CCl2(CFC-1212ya)を30 cc/minの速度で供給し、反応器の温度を200℃に変更した。CFC-1212yaに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。目的の反応温度になってから1時間後の反応器の流出物をガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を下記表4に示す。
【0062】
各生成物の組成式は以下の通りである;
CF2ClCF=CCl2(CFC-1213ya)
CF3CF=CCl2(CFC-1214ya)
CF3CHFCFCl2(HCFC-225eb)
CF3CF=CFCl(CFC-1215yb)
CF3CHFCF2Cl (HCFC-226ea)
CF3CHFCF3 (HFC-227ea)
CF3CF=CF2(FC-1216yc)
CF3CF2CFCl2 (CFC-216cb)
CF3CCl=CCl2(CFC-1213xa)
【0063】
実施例15
用いる触媒量を14.0gに、供給する無水フッ化水素(HF)の流量を180 cc/minに変更した以外は実施例14と同様の条件で実験を行った。CFC-1212yaに対するHFのモル比は6であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。分析結果を表4に示す。
【0064】
実施例16
用いる触媒量を15.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例14と同様の条件で実験を行った。CFC-1212yaに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は6.0 g・sec/ccであった。分析結果を表4に示す。
【0065】
実施例17
用いる触媒量を7.5gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例14と同様の条件で実験を行った。CFC-1212yaに対するHFのモル比は4であり、接触時間(W/F0)は3.0 g・sec/ccであった。分析結果を表4に示す。
【0066】
比較例3
反応温度を349℃に変更した以外は実施例15と同様の条件で実験を行った。CFC-1212yaに対するHFのモル比は6であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。分析結果を表4に示す。
【0067】
【表4】

【0068】
実施例18
CrO2.0の組成からなる酸化クロムにフッ素化処理を施して得られた触媒7.5g (フッ素含有量約15.0重量%)を、内径15mm、長さ1mの管状ハステロイ製反応器に充填した。この反応管を大気圧(0.1MPa)および250℃に維持し、無水フッ化水素(HF)を60 cc/minで反応器に供給して1時間維持した。その後、実質的に純粋なCF2ClCF=CFCl(CFC-1214yb)を30 cc/minの速度で供給し、反応器の温度を200℃に変更した。CFC-1214ybに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。目的の反応温度になってから1時間後の反応器の流出物をガスクロマトグラフを使用して分析した。結果を表5に示す。
【0069】
各生成物の組成式は以下のとおりである;
CF3CF=CFCl(CFC-1215yb)
CF3CHFCF2Cl (HCFC-226ea)
CF3CF=CF2(FC-1216yc)
CF3CHFCF3 (HFC-227ea)
CF3CCl=CFCl(CFC-1214xb)
【0070】
実施例19
用いる触媒量を10.0gに、供給する無水フッ化水素(HF)の流量を90 cc/minに変更した以外は実施例18と同様の条件で実験を行った。CFC-1214ybに対するHFのモル比は3であり、接触時間(W/F0)は5.0 g・sec/ccであった。分析結果を表5に示す。
【0071】
実施例20
用いる触媒量を10.5gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例18と同様の条件で実験を行った。CFC-1214ybに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は7.0 g・sec/ccであった。分析結果を表5に示す。
【0072】
実施例21
用いる触媒量を6.0gに変更し、反応温度を変更した以外は実施例18と同様の条件で実験を行った。CFC-1214ybに対するHFのモル比は2であり、接触時間(W/F0)は4.0 g・sec/ccであった。分析結果を表5に示す。
【0073】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化クロム又はフッ素化された酸化クロムからなるフッ素化触媒の存在下に、化学式:CClYZCF=CX1X2(式中、Xは水素原子又は塩素原子であり、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表されるハロゲン化プロペンを気相において無水フッ化水素と反応させる工程を含むことを特徴とする、化学式:CF3CF=CX1X2(式中、X及びXは上記に同じ) で表される含フッ素プロペンの製造方法。
【請求項2】
化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンが、化学式:CClYZCF=CH2(式中、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
化学式:CClYZCF=CX1X2で表されるハロゲン化プロペンが、化学式:CClYZCF=CClX(式中、Xはフッ素原子、塩素原子又は水素原子であり、Y及びZは、同一または異なってそれぞれフッ素原子又は塩素原子である)で表される化合物である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
フッ素化触媒が、組成式:CrO(式中、mは1.5<m<3の範囲である)で表される酸化クロム又は該酸化クロムをフッ素化して得られるフッ素化酸化クロムである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
反応温度が、120〜320℃である請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2011−529447(P2011−529447A)
【公表日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504256(P2011−504256)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際出願番号】PCT/JP2009/062072
【国際公開番号】WO2010/013577
【国際公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】