気管支炎症性疾患の治療及び予防のためのシクロデキストリンの使用
本発明は、気管支炎症性疾患、特に喘息の治療又は予防のための薬剤の製造のためのシクロデキストリン化合物の使用を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管支炎症性疾患の治療及び予防のためのシクロデキストリン化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支炎症性疾患の治療及び予防のための化合物は、それらの薬力学的作用に基づいて、発作治療薬とも呼ばれる気管支拡張薬、又は長期管理薬と呼ばれる非気管支拡張薬抗炎症薬として当該技術分野で分類される。短期作用性気管支拡張薬、例えば吸入ベータアゴニスト又は抗コリン作動薬は、発作治療薬と考えられる。コルチコステロイド、クロモリンナトリウム、ネドクロミルナトリウム、徐放性テオフィリン及び長期作用性βアゴニストは、症候の制御をなし、保持するために用いられ、そして長期間毎日用いられるため、長期管理薬と考えられる。
【0003】
発作治療薬の中で、吸入β2−アドレナリン作動性アゴニストは、急性気道閉塞のための症候の軽減のための薬剤である。それらは作用の迅速開始並びに活性の3〜6時間の持続を示す。残念ながら、それらは、長期投与中にしばしば消失(disapear)する頻拍、心悸亢進及び振顫といった副作用を有する。
【0004】
抗コリン作動性薬は、気道平滑筋弛緩を誘起する。それらの活性は、喘息におけるβアゴニストほど有効というわけではないが、しかしより持続性である(6〜8時間)。
【0005】
長期管理薬の中で、糖質副腎皮質ステロイドは抗炎症作用を有する有効な作用物質である。残念ながら、それらの副作用としては、副腎抑制、骨粗鬆症、成長抑制、体重増加、高血圧、糖尿病、皮膚菲薄化、白内障、筋疾患及び精神病性動作が挙げられる。これらの作用は用量関連性であり、そして通常は全身投与に伴って観察される。局所的副作用、例えば口腔カンジダ症及び発声困難は、低用量の吸入糖質コルチコイドで起こるおそれがある。
【0006】
クロモリンナトリウム及びネドクロミルナトリウムも、それらの類似の臨床プロフィールのために、長期管理薬として分類される。それらは、神経媒介性事象により誘発される気管支収縮を抑制する。
【0007】
テオフィリンは一般的に気管支拡張薬とみなされるが、しかし治療用量で弱気管支拡張薬活性を有する。それは抗炎症特性も有し得る。テオフィリンの用量関連副作用は、吐き気、神経過敏、不安及び頻拍である。
【0008】
リポキシゲナーゼ阻害薬及びロイコトリエン受容体アゴニストも、長期管理薬である。それらは、アラキドン酸の5−リポ酸素添加由来のロイコトリエンの病理学的作用を変える。それらは、アレルゲン、運動、乾燥冷気及びアスピリンアレルギーの気管支痙攣作用を抑制し得る。ともに、中等度の喘息患者における4〜6週間の治療中に症候を緩和し、肺機能を改善するのに有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって気管支炎症性疾患の治療又は予防のために用いられ得る改善型化合物に対する必要性が存在する。
【0010】
ここで意外にも、シクロデキストリンは気管支炎症性疾患の治療又は予防のための活性化合物として有用である、ということが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明は、このような治療を必要とするホスト(host)哺乳類における気管支炎症性疾患の治療又は予防のためのシクロデキストリン化合物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
シクロデキストリン化合物とは、シクロデキストリン、並びにそれらの医薬的に許容可能な塩、エナンチオマー形態、ジアステレオマー及びラセミ化合物を意味する。
【0013】
シクロデキストリンとは、“Cyclodextrin Technology, J Szejtli, Kluwer Academic Publishers 1998, pp 1-78”に記載されているようなデンプンの酵素的分解により産生される環状オリゴ糖を意味し、そしてそれらは種々の数の、大部分は6、7又は8のグルコピラノース単位(n)から成る。これらのシクロデキストリンは、それぞれα、β及びγシクロデキストリン(αCD、βCD、γCD)と呼ばれる。
【0014】
【化1】
【0015】
n=6 α−シクロデキストリン
n=7 β−シクロデキストリン
n=8 γ−シクロデキストリン
【0016】
シクロデキストリンは、本明細書中で以後、CDとしても表わされる。
【0017】
本発明によるシクロデキストリン化合物は、シクロデキストリン自体、アルキルシクロデキストリン(R−CD)(ここで、Rはメチル、エチル、プロピル、及びブチルである)、カルボキシアルキル−シクロデキストリン(CR−CD)、エーテル化シクロデキストリン(RO−CD)、スルホアルキル−シクロデキストリン(SR−CD)、ヒドロキシアルキル−シクロデキストリン(HR−CD)、グルコシル−シクロデキストリン、ジグリセリド−シクロデキストリン、トリグリセリド−シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせ、及び25℃で0.5gr/100mlの量で少なくとも水溶性であるこれらの医薬的に許容可能な塩である。
【0018】
本発明で使用されることが好ましい水溶性シクロデキストリン化合物は、少なくともβ−シクロデキストリン(1.85g/100ml)水溶解度を有するシクロデキストリンを示す。このような水溶性のシクロデキストリン化合物の例は、スルホブチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン、及びこれらの塩である。特には、スルホブチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、及びこれらの塩である。
【0019】
本発明による他の好ましいシクロデキストリン化合物は、2−O−メチルβ−シクロデキストリン、ジメチルシクロデキストリン(DIMEB)(好ましくは、2位及び6位で置換される)、トリメチルシクロデキストリン(好ましくは、2位、3位、及び6位で置換される)、「ランダムにメチル化した」シクロデキストリン(RAMEB又はRM)(好ましくは、2位、3位、及び6位でランダムに置換されるが、グルコピラノースユニット(unit glucopyrannose)によって1,7位〜1,9位に多くのメチルを有する)等のメチルシクロデキストリン(シクロデキストリンメチル化産物);ヒドロキシプロピルシクロデキストリン(HPCD)(好ましくは、主に2位及び3位でランダムに置換されるヒドロキシプロピル化シクロデキストリン(HP−βCD、HP−γCD));スルホブチルエーテルシクロデキストリン(SBECD);ヒドロキシエチルシクロデキストリン;カルボキシメチルエチルシクロデキストリン;エチルシクロデキストリン;ヒドロキシル基における炭化水素鎖をグラフト化することによって得られ、ナノ粒子を形成することができるシクロデキストリン両親媒性化合物;コレステロールシクロデキストリン;及び「Critical Review in Therapeutic drug Carrier Systems」(Stephen D. Bruck編)、「Cyclodextrin-Enabling Excipient; their present and future use in Pharmaceuticals」(D. Thomson, Volume 14, Issue 1, p1-114(1997))に記載されているように(スペーサーアーム(spacer arm)で)モノアミノ化したシクロデキストリンをグラフト化することによって得られたトリグリセリド−シクロデキストリンである。
【0020】
最も好ましいシクロデキストリン化合物は、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)、スルホニルブチルエーテル−β−シクロデキストリン(SBEβCD)、ランダムにメチル化したβ−シクロデキストリン(RMβCD)、ジメチル−β−シクロデキストリン(DIMEβCD)、トリメチル−β−シクロデキストリン(TRIMEβCD)、ヒドロキシブチル−β−シクロデキストリン(HBβCD)、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、及び2−O−メチル−β−シクロデキストリン(Crysmeb)等のグルコピラノースユニットでグラフト化した適宜官能基を有するβ−シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせ、及びこれらの医薬的に許容可能な塩である。
【0021】
本発明によるシクロデキストリン化合物は、”Cyclodextrin Technology, J Szejtli, Kluwer Academic Publishers 1998, pp 1-78”に記載されている方法のようなデンプンの既知の酵素的分解と、その後の適切な化学基のグラフト化により産生される。
【0022】
本発明はさらに、気管支炎症性疾患の治療を必要とする患者に対する気管支炎症性疾患の治療又は予防のための薬剤の製造のためのこのようなシクロデキストリン化合物の使用を提供する。
【0023】
本発明によれば、シクロデキストリン化合物は、数ヶ月又は数年に亘って(特に予防の場合)、患者に投与されなければならない。シクロデキストリン化合物は、好ましくはエーロゾルとして、ナノモル〜モル濃度の範囲の非毒性用量で投与される。
【0024】
本発明は、医薬的有効量での本発明のシクロデキストリン化合物の利用によるこのような治療を必要とするホスト哺乳類、例えばこのような疾患に罹患している患者における気管支炎症性疾患、好ましくは喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療するために用いられる方法に関する。喘息は、アレルゲン曝露に関連するか又は関連しない気管支紋理の炎症性疾患である。この炎症は、収縮するよう気管支平滑筋を刺激し、粘液分布を増強し、そして疾患の経過に関する悪化因子であると考えられる気管支形態学的変化を誘導することにより、患者における症候を引き起こす。気道応答性亢進は疾患の特徴であり、大部分の症候に関与する。気管支樹は、多数の細胞型(例えば上皮細胞、平滑筋細胞、炎症細胞、神経、粘液産生細胞、繊維芽細胞)を有する非常に複雑な組織であり、そして多数の局面を含む気管支再構築事象は主に気管支壁における細胞外マトリックス構成成分の沈着、平滑筋過形成、並びに粘液産生細胞の過形成から成る。本発明によるシクロデキストリン化合物の使用は、気管支肺胞洗浄液及び気管支周囲組織の区画中の炎症細胞流入を抑制し、そしてメタコリンのような刺激薬に対する異常応答と定義される過剰応答性を抑制する。当該疾患及び最新治療は、例えばGINA Workshop Report, Global Strategy for Asthma Management and Prevention (NIH Publication No. 02-3659)及びFabbri, L.M., and Hurd, S.S., Eur. Respir. J. 22 (2003) 1-2で検討されている。
【0025】
したがって本発明はさらに、治療的有効量で本発明のシクロデキストリン化合物を用いて、このような疾患に罹患している患者における気管支炎症性疾患を治療するための方法に関する。
【0026】
本発明は好ましくはさらに、本発明のシクロデキストリン化合物を用いて、このような疾患に罹患している患者における気腫を治療するための方法に関する。このような疾患において、肺胞壁はタンパク質分解プロセスにより破壊され、そしてこの破壊は血液への酸素の移入を減損する。このような疾患においては、呼吸筋の機能不全を引き起こすことにより換気の異常を生じる誘導過膨張(derived hyperinflation)のため、そして進行段階における心不全をもたらす肺動脈の高血圧のため、生理学的問題も生じる。
【0027】
本発明は好ましくはさらに、本発明のシクロデキストリンを用いて、このような疾患に罹患している患者における慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療するための方法に関する。このような疾患において、小気道の気管支壁は、タンパク質分解プロセスにより再構築され、そしてこの再構築及び繊維増多は、肺活量測定により測定され得る気道閉塞を誘発する。このような疾患においては、肺換気/血流比の異常を引き起こし、そして換気低下及び最終的にはCO2蓄積を引き起こす誘導高度膨張のため、生理学的問題も生じる。
【0028】
本発明によれば、シクロデキストリン化合物は、このような療法を必要とする患者に、数ヶ月又は数年に亘って投与されなければならない。シクロデキストリン化合物は、1kgまた1日当たりマイクロ及びモル濃度の範囲の非毒性用量で、好ましくは液体又は粉末組成物のエーロゾル化により投与される。
【0029】
本発明のさらなる好ましい目的は、シクロデキストリン又はその塩そして好ましくは水溶性シクロデキストリン誘導体(水溶性は、25℃で少なくとも0.5g/水100mlの溶解度と定義される)を含有する、気管支炎症性疾患の治療のための本発明によるシクロデキストリン化合物の医薬組成物、並びにその使用である。
【0030】
医薬組成物は、生理学的適合性を有する水性組成物である。組成物は、シクロデキストリン又はその塩のほかに、補助物質、緩衝剤、防腐剤、溶媒及び/又は粘度調節剤を含む。適切な緩衝系は、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム又はホウ酸ナトリウムを基礎にする。防腐剤は、使用中の医薬組成物の微生物汚染を防止するために必要とされる。適切な防腐剤は、例えば塩化ベンズアルコニウム、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、ソルビン酸である。このような防腐剤は、典型的には0.01〜1重量%/容量の量で用いられる。
【0031】
本発明のシクロデキストリン化合物は、経口投与、非経口投与又は局所投与によりその作用を示し、そしてそれは、好ましくは非経口投与のための組成物、特に注射用組成物、又は局所投与のための組成物、特にエーロゾル組成物に成形される。このようなエーロゾル組成物は、例えば溶液、懸濁液、微粉化粉末混合物等である。組成物は、ネブライザー、計量吸入器又は乾燥粉末吸入器或いはこのような投与のために設計された任意の用具を用いて投与される。製剤(galenic)ガレヌス組成物の例としては、錠剤、カプセル、粉末、顆粒等が挙げられる。これらは、既知の技法により、そして典型的添加剤、例えば賦形剤、滑剤及び結合剤の使用を伴って製造され得る。適切な補助物質及び医薬組成物は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed., 1980, Mack Publishing Co., edited by Oslo et al.に記載されている。典型的には、組成物を等張にさせるために適量の医薬的に許容可能な塩が組成物中に用いられる。医薬的に許容可能な物質の例としては、生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液が挙げられる。溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、さらに好ましくは約7〜約7.5である。
【0032】
霧状化のための好ましい医薬組成物は、シクロデキストリン(CD)、NaCl及び水を含む。溶液は、精製水100ml中にCDを溶解し、NaClを付加して、それらを溶解するために撹拌することにより調製され、200mlの溶液を得るように水で満たされる。好ましくは、溶液が0.22μmのポリプロピレン膜を通した濾過により、又は蒸気滅菌プロセスにより、滅菌される。
【0033】
特に好ましい組成物は、以下の組合せ(200ml溶液用)である:10〜50gのCD、好ましくは20gのCD、好ましくはHPβCD;塩化ナトリウム 1.2〜1.5g、好ましくは1.42g(等張性)、並びに水、好ましくは発熱物質無含有の滅菌性精製水で全体を200mlとする。このような組成物は、気管支炎症性疾患の治療のために有用である。
【0034】
最も好ましい組成物は、2−O−メチルβCDと塩化ナトリウム1.2〜1.5g、好ましくは1.42g(等張性)、並びに水、好ましくは発熱物質無含有の滅菌性精製水(全体で200mlとする量)の組合せである。
【0035】
以下の実施例、参考文献及び図面は、本発明の理解を助けるために提示される。本発明を逸脱しない限り、記述された手法において変更がなされ得る、と理解される。
【実施例1】
【0036】
喘息のマウスモデルにおけるアレルゲン誘導性気道炎症及び気管支過剰応答性の治療のためのHP−β−シクロデキストリンを含有する組成物の使用
材料
HP−β−CD(置換度=0.64)は、Roquette (France)から入手した。α−及びHP−γ−CDは、Wacker Chemie Gmbh (Germany)から入手した。非発熱原性リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)は、Bio-Wittaker (Verviers, Belgium)から購入した。メタコリンは、Sigma-Aldrich (Germany)からであった。他の材料はすべて、分析等級のものであった。注射用の滅菌水を、この試験を通して用いた。滅菌性、非発熱原性及び等張性CD溶液を、HP−β−CD及びα−CDに関しては1、7.5及び50mMで、及びHP−γ−CDに関しては50mMで調製した。カブトガニ血球溶解物(LAL)を用いて、USP XXVIに記載された細菌内毒素検定に従って、シクロデキストリンを試験した。Knauer自動半微量浸透圧計により、すべての溶液のモル浸透圧濃度を測定し、そして適量のNaClの付加により300mOsm/kgの値に調整した。蒸気滅菌プロセスにより、溶液の最終滅菌を実施した。
【0037】
方法
超音波ネブライザーSYSTAMを用いてエーロゾルを製造したが、この振動周波数は2.4MHzであり、可変性振動強度及び換気レベルを有する。振動強度は位置6に固定され、そして換気レベルは25(t1/2)l/分であった。
【0038】
霧状化エーロゾルの特性化
CD溶液から揮散されるエーロゾルサイズ分布を、レーザーサイズ分析器マスターサイザー(Malvern, Orsay, France)を用いて確定した。10ミリリットルの各溶液を、レーザー光線中で直接霧状にした。マウスピースをレーザー光線の中心から1cmに保持した。その結果生じたエーロゾルを、光線の反対側に吸引した。環境温度及び相対湿度を一定に、即ち20℃及び40〜45%に維持した。各測定の三重反復実験を実施して、PBSの対照と比較した。結果を、0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴のパーセンテージ及び中央径として表わす。レーザー光線の不明瞭化パーセンテージにより評価される空気中の小滴の濃度は、各実験に関して同じ範囲であった(15〜25%)。MMAD、GSD及びすべてのCD溶液の0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴のパーセンテージと、PBSに関する対応する値との比較は、溶液中のCDの存在がエーロゾル中の小滴サイズ分布に影響を及ぼさないことを実証した。65%に近い0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴の分画を各実験で得た。
【0039】
感作、アレルゲン曝露及び治療プロトコール
気道炎症の調節を試験するために、1と8日目に水酸化アルミニウム(AlumInjet; Perbio, Erembodegem, Belgium)中に乳化したオバルブミン(OVA)(Sigma-Aldrich, Schnelldorf, Germany)10μgの腹腔内注射により、6〜8週齢の雄のBALB/cマウスを感作した。その後、21〜27日目に、超音波ネブライザー(Devilbiss 2000)により発生される30分間の1%OVAのエーロゾルの毎日の吸入により、マウスをアレルゲンに曝露した。マウスにα−CD、HP−β−CD1、7.5、50mM及びHP−γ−CD50mMの30分間の吸入を施した後、OVA吸入を施した。Cataldo他(Am. J. Pathol 2002; 161 (2): 491-498)により、以前に報告されたように、28日目にマウスの屠殺を実施した。
【0040】
気管支肺胞洗浄液(BAL)
気道応答性の評価直後、及び最終アレルゲン曝露後24時間
マウスを屠殺し、Cataldo DD, Tournoy KG, Vermaelen K他(Am J Pathol 2002;161(2): 491-498)により以前に記載されているように、4×1mlのPBS−EDTA0.05mM(Calbiochem, Darmstadt, Germany)を用いて気管支肺胞洗浄を実施した。静かに手動で吸引することにより、細胞を回収した。気管支肺胞液(BALF)の遠心分離(1,200rpmで4℃で10分間)後、タンパク質評価のために上清を−80℃で凍結し、細胞ペレットを1mlのPBS−EDTA0.05mM中に再懸濁した。ディフ・クイック(Dade, Belgium)で染色後、細胞遠心分離調製物(Cytospin)で差次的細胞計数を実施した。
【0041】
肺組織学検査及び組織プロセシング
BAL後、胸郭を開け、左主気管支をクランプした。左肺を切除し、タンパク質及びmRNA抽出のために−80℃で直ちに凍結した。4%パラホルムアルデヒド4mlを右肺に注入し、パラフィン中に包埋して、組織学的検査のために用いた。5μm厚の切片をパラフィンから切断し、ヘマトキシリン−エオシンで染色した。Cataldo DD, Tournoy KG, Vermaelen K他(Am J Pathol 2002;161(2): 491-498)により以前に記載されているように、気管支周囲炎症細胞の定量により算定されるスコアにより、気管支周囲炎症の程度を概算した。炎症が検出可能でなかった場合は値を0と判定し、時々炎症細胞が存在する場合は値を1、ほとんどの気管支が炎症細胞の薄層(1〜5細胞)により取り囲まれる場合は値を2、そしてほとんどの気管支が炎症細胞の厚い層(>5細胞)に取り囲まれる場合は値を3と判定した。1匹のマウス当たり5〜7個の無作為選択組織区分がスコアされたため、炎症スコアは平均値として表わされ、群間で比較され得る。コンゴ・レッド染色後、気道壁中の好酸球浸潤を手動計数により定量し、好酸性炎症性スコアを明らかにする上皮基底膜の周辺視野計に送った。
【0042】
Mikro−Dismembrator(Braun Biotech International, Gmbh Melsungen, Germany)を用いて、左肺を粉砕した。タンパク質抽出のため、2Mの尿素、1MのNaCl及び50mMのトリス(pH7.5)を含有する溶液中で4℃で一晩、粉砕肺組織をインキュベートし、その後、16,000×gで15分間遠心分離した。上清を−80℃で保存した。
【0043】
気管支応答性測定
Hamelmann, E.他(Am. J Respir. Crit. Care Med. 156 (1997) 766-775)により提唱されているように、気圧プレチスモグラフ(Emka technologies, Paris)を用いてPenh(Enhanced Pause)を測定することにより、最終アレルゲン曝露後24時間で、気管支過剰応答性を確定した。基線で、そして漸増用量(25、50、75及び100mM)のメタコリン(Mch)の吸入の5分後に、Penhを測定した。
【0044】
ELISAによるサイトカインの測定
市販のELISA(R & D systems, Abingdon, UK)を用いて、エオタキシン及びIL−13レベルを評価した。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでエオタキシンを測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたエオタキシンに対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【0045】
アレルゲン特異的血清IgEの測定
実験終了時に、OVA特異的血清IgEの測定のために心臓から血液を採取した。マイクロタイタープレートをOVAで被覆した。血清を付加し、その後、ビオチニル化ポリクローナルウサギ抗マウスIgE(S. Florquin, ULB, Brussels, Belgium)を付加した。OVA感作動物からの血清プールを、内部実験室標準として用いた;適宜、1単位をこのプールの1/100希釈と定義した。
【0046】
Bal及び肺タンパク質抽出物中のエオタキシン及びIL−13の測定
タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでIL−13を測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたIL−13に対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【0047】
統計学的分析
BAL細胞計数、肺組織検査、サイトカイン及びmRNAレベルの結果を、平均+/−SEMとして表わし、そして群間の比較をマン・ホイットニー検定を用いて実施した。ウインドウ95用GRAPHPAD INSTATバージョン3.00(GRAPHPAD SOFTWARE, San Diego, CA, USA, WWW.GRAPHPAD.Com.)を用いて、マン・ホイットニー検定を実施した。P値<0.05で有意であるとみなされた。
【0048】
薬理学的結果
BAL中の炎症細胞
アレルゲン曝露後、好酸球数は、50mMの用量でのHP−β−CD及びHP−γ−CDの吸入後に有意に低減された。1、7.5及び50mMのHP−β−CD吸入に関して、BAL好酸球の用量依存性の低減が認められた。プラセボと比較して、HP−β−CD吸入後のBAL中に異なる量では他の炎症細胞は存在しなかった。これに対して、α−CD吸入は、アレルゲン曝露後のBAL中の好酸球の数を増大する傾向をもたらした(図1)。
【0049】
気管支周囲炎症
アレルゲン曝露後、プラセボで処置したマウスは、気管支周囲炎症スコアにより定量されるように、気管支周囲炎症の有意の増大を示した。1、7.5及び50mMのHP−β−CD及び50mMのHP−γ−CDで処置したマウスは、プラセボ処置マウスと比較して、炎症スコアが低減していることが示された。α−CD吸入は、気管支周囲炎症スコアを低減しなかった(図2)。
【0050】
気管支周囲好酸球浸潤
これまでに実証されたように、アレルゲン曝露は、気管支周囲域で検出可能な好酸球の数の有意な増大を誘導しなかった。試験したCDはすべて、この浸潤の低減を誘導し、そしてこの低減は、α−CD、HP−β−CD1、7.5、及びHP−γ−CD50mMに関して統計学的に有意になった(図3)。
【0051】
気管支応答性
50mMのHP−β−CDの吸入は、メタコリン誘導性Penh増大を低減した(図4)。異なるCDに関してメタコリン用量応答曲線の下の面積(A.U.C)を測定した場合、50mMのHP−β−CDは、有意な低減を示す唯一のものであった(図5)。
【0052】
BAL及び肺タンパク質抽出物中のサイトカイン測定
プラセボ曝露マウスと比較して、試験した全用量のHP−β−CDは、肺タンパク質抽出物中のELISAにより測定されるエオタキシンのレベルの低減を誘導した(図7a)。IL−13レベルはHP−β−CD曝露後のBAL中で低減されたが、これに対して、α−CD曝露後は増大された(図7b)。
【0053】
血清中のアレルゲン特異的IgEの測定
血清中でELISAにより測定される同様のレベルのOVA特異的IgEにより評価されるように、アレルゲン感作に関して群間の有意差は認められなかった(図6)。
【実施例2】
【0054】
喘息のマウスモデルにおけるアレルゲン誘導性気道炎症及び気管支過剰応答性の治療のための2−O−メチル−シクロデキストリンを含む組成物の使用
材料
材料は実施例1と同一であるが、但し、シクロデキストリン化合物は、実施例2では2−O−メチル−シクロデキストリン、KLEPTOSE CRYSMEB(登録商標)(Roquette製)である。それは、平均で、1個のネイティブシクロデキストリン分子当たり4個のメチル基を有し、そして平均分子量1,135及び平均モル置換度0.57により特性化される。
【0055】
滅菌性、非発熱原性及び等張性CD溶液を、2−O−メチル−シクロデキストリンに関しては10、20、50及び75mMで調製した。カブトガニ血球溶解物(LAL)を用いて、USP XXVIに記載された細菌内毒素検定に従って、シクロデキストリンを試験した。Knauer自動半微量浸透圧計により、すべての溶液のモル浸透圧濃度を測定し、そして適量のNaClの付加により280〜300mOsm/kgの値に調整した。蒸気滅菌プロセスにより、溶液の最終滅菌を実施した。
【0056】
方法
実施例1と同様の方法を用いるが、本実施例では、7日間、30分/日、標準曝露ボックス(20×30×15cm)中でエーロゾル化CRYSMEB(10、20、50、100又は200mM)にマウスを曝露した。
【0057】
薬理学的結果
BAL中の炎症細胞
気管支肺胞洗浄液の細胞組成は、CRYSMEBへの曝露によっては有意に変化しなかった。特に、好酸球数及び好中球数に関する差は認められなかった(表1を参照のこと)。気管支肺胞洗浄液好酸球増多症は、CRYSMEBにより処置された群において有意に低減された。洗浄液好酸球増多症の低減は、異なる濃度のHP−β−シクロデキストリン又はフルチカゾン(参照療法として用いられる一般的に使用される吸入ステロイド)を用いて得られるものに匹敵した(表2)。
【0058】
気管支周囲炎症
アレルゲン曝露後、プラセボで処置したマウスは、気管支周囲炎症スコアにより定量されて、気管支周囲炎症の有意の増大を示した。20mMのCRYSMEBで処置したマウスは、プラセボ処置マウスと比較して、炎症スコアが低減していることが示された(図9A)。気管支周囲炎症スコアを測定すると、プラセボと比較して、すべての治療群において有意に低減した(図9B)。
【0059】
気管支応答性
10mMのCRYSMEBの吸入は、メタコリン誘導性Penh増大を低減した(図10)。メタコリンに対する応答性はアレルゲン曝露及びプラセボ後に増大され、そしてCRYSMEBによる処置により、フルチカゾン療法で得られるものに匹敵する程度で有意に低減された(図10)。
【0060】
BAL及び肺タンパク質抽出物中のサイトカイン測定
CRYSMEBの薬理学的作用に関与するメカニズムを明らかにするために、本発明者等は気道過剰応答性及び炎症に関与する主要Th2サイトカインであるIL−13を測定した。全肺タンパク質抽出物中でELISAにより測定されるIL−13のレベルは、CRYSMEB、並びにフルチカゾン及び50mMのHP−β−CDへの曝露により有意に低減されることを本発明者等は見出した(図11を参照のこと)。
【実施例3】
【0061】
気管支炎症性疾患のための治療を必要とする患者にエーロゾル中で投与される医薬組成物
75mMのHP−β−CD
溶液モル浸透圧濃度は308mOs/kgである。pHは7.2である。CD化合物の濃度は、要求の機能において変更され得る。NaClの付加により張性を調整するのが好ましい。霧状化のための好ましい組成を以下に示す。
200ml溶液用:
発熱原物質を含有しないHP−β−CD 20.15g(75mM)
塩化ナトリウム 1.42g(等張性)
発熱原無含有の滅菌性精製水 全体を200mlとする量
【0062】
a)発熱原物質を含有しないHP−β−CD20.15gを計量(3.2%H2O、ROQUETTE製)し、それらを精製水100ml中に溶解する。
b)塩化ナトリウム1.42gを計量し溶液(a)にそれらを付加し、それらを溶解するために激しく撹拌する。
c)200mlの溶液を得るように水で満たされる。0.22μmのポリプロピレン膜を通した濾過により滅菌する。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】BAL好酸球パーセンテージに及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。対照は、吸入によりOVAに、そして吸入によりプラセボに曝露されるマウスである(OVA)。
【図2】気管支周囲炎症スコアに及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。対照は、吸入によりOVAに、そして吸入によりプラセボに曝露されるマウスである(OVA)。
【図3】上皮基底膜の数/mmとして本明細書で報告される気管支周囲好酸球に及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。
【図4】気道応答性測定を示す図である。シクロデキストリン又はプラセボの2分吸入後5分間のOVA(OVA)及び漸増用量のメタコリン(Mch)の曝露マウスにおいて、Enhanced Pause(Penh)を測定した。
【図5】ELISAによるサイトカインの測定を示す図である。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでエオタキシンを測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたエオタキシンに対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【図6】血清中のアレルゲン特異的IgEレベルの測定を示す図である。
【図7】Bal及び肺タンパク質抽出物中のエオタキシン及びIL−13の測定を示す図である。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでIL−13を測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたIL−13に対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【図8】気道応答性測定を示す図である。CRYSMEB又はプラセボ処置を受けた後のマウスにおいて、Enhanced Ponse(Penh)を測定した。
【図9】種々のCRYSMEB濃度で処置された場合の組織学検査で測定された気管支周囲炎症スコアと、プラセボとの比較を示す図(9A)、および他のシクロデキストリン及びフルチカゾンの比較を示す図である(9B)。
【図10】気道応答性測定:シクロデキストリン化合物とプラセボ及びフルチカゾンとの比較を示す図である。アレルゲンに7日曝露された、そしてアレルゲン曝露前に30分間吸入療法を受けているマウスにおけるメタコリン誘導性気道応答を測定した。
【図11】肺タンパク質抽出物中のELISAにより測定されたIL−13のレベルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、気管支炎症性疾患の治療及び予防のためのシクロデキストリン化合物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
気管支炎症性疾患の治療及び予防のための化合物は、それらの薬力学的作用に基づいて、発作治療薬とも呼ばれる気管支拡張薬、又は長期管理薬と呼ばれる非気管支拡張薬抗炎症薬として当該技術分野で分類される。短期作用性気管支拡張薬、例えば吸入ベータアゴニスト又は抗コリン作動薬は、発作治療薬と考えられる。コルチコステロイド、クロモリンナトリウム、ネドクロミルナトリウム、徐放性テオフィリン及び長期作用性βアゴニストは、症候の制御をなし、保持するために用いられ、そして長期間毎日用いられるため、長期管理薬と考えられる。
【0003】
発作治療薬の中で、吸入β2−アドレナリン作動性アゴニストは、急性気道閉塞のための症候の軽減のための薬剤である。それらは作用の迅速開始並びに活性の3〜6時間の持続を示す。残念ながら、それらは、長期投与中にしばしば消失(disapear)する頻拍、心悸亢進及び振顫といった副作用を有する。
【0004】
抗コリン作動性薬は、気道平滑筋弛緩を誘起する。それらの活性は、喘息におけるβアゴニストほど有効というわけではないが、しかしより持続性である(6〜8時間)。
【0005】
長期管理薬の中で、糖質副腎皮質ステロイドは抗炎症作用を有する有効な作用物質である。残念ながら、それらの副作用としては、副腎抑制、骨粗鬆症、成長抑制、体重増加、高血圧、糖尿病、皮膚菲薄化、白内障、筋疾患及び精神病性動作が挙げられる。これらの作用は用量関連性であり、そして通常は全身投与に伴って観察される。局所的副作用、例えば口腔カンジダ症及び発声困難は、低用量の吸入糖質コルチコイドで起こるおそれがある。
【0006】
クロモリンナトリウム及びネドクロミルナトリウムも、それらの類似の臨床プロフィールのために、長期管理薬として分類される。それらは、神経媒介性事象により誘発される気管支収縮を抑制する。
【0007】
テオフィリンは一般的に気管支拡張薬とみなされるが、しかし治療用量で弱気管支拡張薬活性を有する。それは抗炎症特性も有し得る。テオフィリンの用量関連副作用は、吐き気、神経過敏、不安及び頻拍である。
【0008】
リポキシゲナーゼ阻害薬及びロイコトリエン受容体アゴニストも、長期管理薬である。それらは、アラキドン酸の5−リポ酸素添加由来のロイコトリエンの病理学的作用を変える。それらは、アレルゲン、運動、乾燥冷気及びアスピリンアレルギーの気管支痙攣作用を抑制し得る。ともに、中等度の喘息患者における4〜6週間の治療中に症候を緩和し、肺機能を改善するのに有効である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって気管支炎症性疾患の治療又は予防のために用いられ得る改善型化合物に対する必要性が存在する。
【0010】
ここで意外にも、シクロデキストリンは気管支炎症性疾患の治療又は予防のための活性化合物として有用である、ということが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明は、このような治療を必要とするホスト(host)哺乳類における気管支炎症性疾患の治療又は予防のためのシクロデキストリン化合物の使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
シクロデキストリン化合物とは、シクロデキストリン、並びにそれらの医薬的に許容可能な塩、エナンチオマー形態、ジアステレオマー及びラセミ化合物を意味する。
【0013】
シクロデキストリンとは、“Cyclodextrin Technology, J Szejtli, Kluwer Academic Publishers 1998, pp 1-78”に記載されているようなデンプンの酵素的分解により産生される環状オリゴ糖を意味し、そしてそれらは種々の数の、大部分は6、7又は8のグルコピラノース単位(n)から成る。これらのシクロデキストリンは、それぞれα、β及びγシクロデキストリン(αCD、βCD、γCD)と呼ばれる。
【0014】
【化1】
【0015】
n=6 α−シクロデキストリン
n=7 β−シクロデキストリン
n=8 γ−シクロデキストリン
【0016】
シクロデキストリンは、本明細書中で以後、CDとしても表わされる。
【0017】
本発明によるシクロデキストリン化合物は、シクロデキストリン自体、アルキルシクロデキストリン(R−CD)(ここで、Rはメチル、エチル、プロピル、及びブチルである)、カルボキシアルキル−シクロデキストリン(CR−CD)、エーテル化シクロデキストリン(RO−CD)、スルホアルキル−シクロデキストリン(SR−CD)、ヒドロキシアルキル−シクロデキストリン(HR−CD)、グルコシル−シクロデキストリン、ジグリセリド−シクロデキストリン、トリグリセリド−シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせ、及び25℃で0.5gr/100mlの量で少なくとも水溶性であるこれらの医薬的に許容可能な塩である。
【0018】
本発明で使用されることが好ましい水溶性シクロデキストリン化合物は、少なくともβ−シクロデキストリン(1.85g/100ml)水溶解度を有するシクロデキストリンを示す。このような水溶性のシクロデキストリン化合物の例は、スルホブチルシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルシクロデキストリン、マルトシルシクロデキストリン、及びこれらの塩である。特には、スルホブチル−β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、及びこれらの塩である。
【0019】
本発明による他の好ましいシクロデキストリン化合物は、2−O−メチルβ−シクロデキストリン、ジメチルシクロデキストリン(DIMEB)(好ましくは、2位及び6位で置換される)、トリメチルシクロデキストリン(好ましくは、2位、3位、及び6位で置換される)、「ランダムにメチル化した」シクロデキストリン(RAMEB又はRM)(好ましくは、2位、3位、及び6位でランダムに置換されるが、グルコピラノースユニット(unit glucopyrannose)によって1,7位〜1,9位に多くのメチルを有する)等のメチルシクロデキストリン(シクロデキストリンメチル化産物);ヒドロキシプロピルシクロデキストリン(HPCD)(好ましくは、主に2位及び3位でランダムに置換されるヒドロキシプロピル化シクロデキストリン(HP−βCD、HP−γCD));スルホブチルエーテルシクロデキストリン(SBECD);ヒドロキシエチルシクロデキストリン;カルボキシメチルエチルシクロデキストリン;エチルシクロデキストリン;ヒドロキシル基における炭化水素鎖をグラフト化することによって得られ、ナノ粒子を形成することができるシクロデキストリン両親媒性化合物;コレステロールシクロデキストリン;及び「Critical Review in Therapeutic drug Carrier Systems」(Stephen D. Bruck編)、「Cyclodextrin-Enabling Excipient; their present and future use in Pharmaceuticals」(D. Thomson, Volume 14, Issue 1, p1-114(1997))に記載されているように(スペーサーアーム(spacer arm)で)モノアミノ化したシクロデキストリンをグラフト化することによって得られたトリグリセリド−シクロデキストリンである。
【0020】
最も好ましいシクロデキストリン化合物は、ヒドロキシプロピル−β−シクロデキストリン(HPβCD)、スルホニルブチルエーテル−β−シクロデキストリン(SBEβCD)、ランダムにメチル化したβ−シクロデキストリン(RMβCD)、ジメチル−β−シクロデキストリン(DIMEβCD)、トリメチル−β−シクロデキストリン(TRIMEβCD)、ヒドロキシブチル−β−シクロデキストリン(HBβCD)、グルコシル−β−シクロデキストリン、マルトシル−β−シクロデキストリン、及び2−O−メチル−β−シクロデキストリン(Crysmeb)等のグルコピラノースユニットでグラフト化した適宜官能基を有するβ−シクロデキストリン、又はこれらの組み合わせ、及びこれらの医薬的に許容可能な塩である。
【0021】
本発明によるシクロデキストリン化合物は、”Cyclodextrin Technology, J Szejtli, Kluwer Academic Publishers 1998, pp 1-78”に記載されている方法のようなデンプンの既知の酵素的分解と、その後の適切な化学基のグラフト化により産生される。
【0022】
本発明はさらに、気管支炎症性疾患の治療を必要とする患者に対する気管支炎症性疾患の治療又は予防のための薬剤の製造のためのこのようなシクロデキストリン化合物の使用を提供する。
【0023】
本発明によれば、シクロデキストリン化合物は、数ヶ月又は数年に亘って(特に予防の場合)、患者に投与されなければならない。シクロデキストリン化合物は、好ましくはエーロゾルとして、ナノモル〜モル濃度の範囲の非毒性用量で投与される。
【0024】
本発明は、医薬的有効量での本発明のシクロデキストリン化合物の利用によるこのような治療を必要とするホスト哺乳類、例えばこのような疾患に罹患している患者における気管支炎症性疾患、好ましくは喘息及び慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療するために用いられる方法に関する。喘息は、アレルゲン曝露に関連するか又は関連しない気管支紋理の炎症性疾患である。この炎症は、収縮するよう気管支平滑筋を刺激し、粘液分布を増強し、そして疾患の経過に関する悪化因子であると考えられる気管支形態学的変化を誘導することにより、患者における症候を引き起こす。気道応答性亢進は疾患の特徴であり、大部分の症候に関与する。気管支樹は、多数の細胞型(例えば上皮細胞、平滑筋細胞、炎症細胞、神経、粘液産生細胞、繊維芽細胞)を有する非常に複雑な組織であり、そして多数の局面を含む気管支再構築事象は主に気管支壁における細胞外マトリックス構成成分の沈着、平滑筋過形成、並びに粘液産生細胞の過形成から成る。本発明によるシクロデキストリン化合物の使用は、気管支肺胞洗浄液及び気管支周囲組織の区画中の炎症細胞流入を抑制し、そしてメタコリンのような刺激薬に対する異常応答と定義される過剰応答性を抑制する。当該疾患及び最新治療は、例えばGINA Workshop Report, Global Strategy for Asthma Management and Prevention (NIH Publication No. 02-3659)及びFabbri, L.M., and Hurd, S.S., Eur. Respir. J. 22 (2003) 1-2で検討されている。
【0025】
したがって本発明はさらに、治療的有効量で本発明のシクロデキストリン化合物を用いて、このような疾患に罹患している患者における気管支炎症性疾患を治療するための方法に関する。
【0026】
本発明は好ましくはさらに、本発明のシクロデキストリン化合物を用いて、このような疾患に罹患している患者における気腫を治療するための方法に関する。このような疾患において、肺胞壁はタンパク質分解プロセスにより破壊され、そしてこの破壊は血液への酸素の移入を減損する。このような疾患においては、呼吸筋の機能不全を引き起こすことにより換気の異常を生じる誘導過膨張(derived hyperinflation)のため、そして進行段階における心不全をもたらす肺動脈の高血圧のため、生理学的問題も生じる。
【0027】
本発明は好ましくはさらに、本発明のシクロデキストリンを用いて、このような疾患に罹患している患者における慢性閉塞性肺疾患(COPD)を治療するための方法に関する。このような疾患において、小気道の気管支壁は、タンパク質分解プロセスにより再構築され、そしてこの再構築及び繊維増多は、肺活量測定により測定され得る気道閉塞を誘発する。このような疾患においては、肺換気/血流比の異常を引き起こし、そして換気低下及び最終的にはCO2蓄積を引き起こす誘導高度膨張のため、生理学的問題も生じる。
【0028】
本発明によれば、シクロデキストリン化合物は、このような療法を必要とする患者に、数ヶ月又は数年に亘って投与されなければならない。シクロデキストリン化合物は、1kgまた1日当たりマイクロ及びモル濃度の範囲の非毒性用量で、好ましくは液体又は粉末組成物のエーロゾル化により投与される。
【0029】
本発明のさらなる好ましい目的は、シクロデキストリン又はその塩そして好ましくは水溶性シクロデキストリン誘導体(水溶性は、25℃で少なくとも0.5g/水100mlの溶解度と定義される)を含有する、気管支炎症性疾患の治療のための本発明によるシクロデキストリン化合物の医薬組成物、並びにその使用である。
【0030】
医薬組成物は、生理学的適合性を有する水性組成物である。組成物は、シクロデキストリン又はその塩のほかに、補助物質、緩衝剤、防腐剤、溶媒及び/又は粘度調節剤を含む。適切な緩衝系は、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム又はホウ酸ナトリウムを基礎にする。防腐剤は、使用中の医薬組成物の微生物汚染を防止するために必要とされる。適切な防腐剤は、例えば塩化ベンズアルコニウム、クロロブタノール、メチルパラベン、プロピルパラベン、フェニルエチルアルコール、ソルビン酸である。このような防腐剤は、典型的には0.01〜1重量%/容量の量で用いられる。
【0031】
本発明のシクロデキストリン化合物は、経口投与、非経口投与又は局所投与によりその作用を示し、そしてそれは、好ましくは非経口投与のための組成物、特に注射用組成物、又は局所投与のための組成物、特にエーロゾル組成物に成形される。このようなエーロゾル組成物は、例えば溶液、懸濁液、微粉化粉末混合物等である。組成物は、ネブライザー、計量吸入器又は乾燥粉末吸入器或いはこのような投与のために設計された任意の用具を用いて投与される。製剤(galenic)ガレヌス組成物の例としては、錠剤、カプセル、粉末、顆粒等が挙げられる。これらは、既知の技法により、そして典型的添加剤、例えば賦形剤、滑剤及び結合剤の使用を伴って製造され得る。適切な補助物質及び医薬組成物は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th ed., 1980, Mack Publishing Co., edited by Oslo et al.に記載されている。典型的には、組成物を等張にさせるために適量の医薬的に許容可能な塩が組成物中に用いられる。医薬的に許容可能な物質の例としては、生理食塩水、リンガー溶液及びデキストロース溶液が挙げられる。溶液のpHは、好ましくは約5〜約8、さらに好ましくは約7〜約7.5である。
【0032】
霧状化のための好ましい医薬組成物は、シクロデキストリン(CD)、NaCl及び水を含む。溶液は、精製水100ml中にCDを溶解し、NaClを付加して、それらを溶解するために撹拌することにより調製され、200mlの溶液を得るように水で満たされる。好ましくは、溶液が0.22μmのポリプロピレン膜を通した濾過により、又は蒸気滅菌プロセスにより、滅菌される。
【0033】
特に好ましい組成物は、以下の組合せ(200ml溶液用)である:10〜50gのCD、好ましくは20gのCD、好ましくはHPβCD;塩化ナトリウム 1.2〜1.5g、好ましくは1.42g(等張性)、並びに水、好ましくは発熱物質無含有の滅菌性精製水で全体を200mlとする。このような組成物は、気管支炎症性疾患の治療のために有用である。
【0034】
最も好ましい組成物は、2−O−メチルβCDと塩化ナトリウム1.2〜1.5g、好ましくは1.42g(等張性)、並びに水、好ましくは発熱物質無含有の滅菌性精製水(全体で200mlとする量)の組合せである。
【0035】
以下の実施例、参考文献及び図面は、本発明の理解を助けるために提示される。本発明を逸脱しない限り、記述された手法において変更がなされ得る、と理解される。
【実施例1】
【0036】
喘息のマウスモデルにおけるアレルゲン誘導性気道炎症及び気管支過剰応答性の治療のためのHP−β−シクロデキストリンを含有する組成物の使用
材料
HP−β−CD(置換度=0.64)は、Roquette (France)から入手した。α−及びHP−γ−CDは、Wacker Chemie Gmbh (Germany)から入手した。非発熱原性リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)は、Bio-Wittaker (Verviers, Belgium)から購入した。メタコリンは、Sigma-Aldrich (Germany)からであった。他の材料はすべて、分析等級のものであった。注射用の滅菌水を、この試験を通して用いた。滅菌性、非発熱原性及び等張性CD溶液を、HP−β−CD及びα−CDに関しては1、7.5及び50mMで、及びHP−γ−CDに関しては50mMで調製した。カブトガニ血球溶解物(LAL)を用いて、USP XXVIに記載された細菌内毒素検定に従って、シクロデキストリンを試験した。Knauer自動半微量浸透圧計により、すべての溶液のモル浸透圧濃度を測定し、そして適量のNaClの付加により300mOsm/kgの値に調整した。蒸気滅菌プロセスにより、溶液の最終滅菌を実施した。
【0037】
方法
超音波ネブライザーSYSTAMを用いてエーロゾルを製造したが、この振動周波数は2.4MHzであり、可変性振動強度及び換気レベルを有する。振動強度は位置6に固定され、そして換気レベルは25(t1/2)l/分であった。
【0038】
霧状化エーロゾルの特性化
CD溶液から揮散されるエーロゾルサイズ分布を、レーザーサイズ分析器マスターサイザー(Malvern, Orsay, France)を用いて確定した。10ミリリットルの各溶液を、レーザー光線中で直接霧状にした。マウスピースをレーザー光線の中心から1cmに保持した。その結果生じたエーロゾルを、光線の反対側に吸引した。環境温度及び相対湿度を一定に、即ち20℃及び40〜45%に維持した。各測定の三重反復実験を実施して、PBSの対照と比較した。結果を、0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴のパーセンテージ及び中央径として表わす。レーザー光線の不明瞭化パーセンテージにより評価される空気中の小滴の濃度は、各実験に関して同じ範囲であった(15〜25%)。MMAD、GSD及びすべてのCD溶液の0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴のパーセンテージと、PBSに関する対応する値との比較は、溶液中のCDの存在がエーロゾル中の小滴サイズ分布に影響を及ぼさないことを実証した。65%に近い0.5〜5.79μmの範囲に含まれる小滴の分画を各実験で得た。
【0039】
感作、アレルゲン曝露及び治療プロトコール
気道炎症の調節を試験するために、1と8日目に水酸化アルミニウム(AlumInjet; Perbio, Erembodegem, Belgium)中に乳化したオバルブミン(OVA)(Sigma-Aldrich, Schnelldorf, Germany)10μgの腹腔内注射により、6〜8週齢の雄のBALB/cマウスを感作した。その後、21〜27日目に、超音波ネブライザー(Devilbiss 2000)により発生される30分間の1%OVAのエーロゾルの毎日の吸入により、マウスをアレルゲンに曝露した。マウスにα−CD、HP−β−CD1、7.5、50mM及びHP−γ−CD50mMの30分間の吸入を施した後、OVA吸入を施した。Cataldo他(Am. J. Pathol 2002; 161 (2): 491-498)により、以前に報告されたように、28日目にマウスの屠殺を実施した。
【0040】
気管支肺胞洗浄液(BAL)
気道応答性の評価直後、及び最終アレルゲン曝露後24時間
マウスを屠殺し、Cataldo DD, Tournoy KG, Vermaelen K他(Am J Pathol 2002;161(2): 491-498)により以前に記載されているように、4×1mlのPBS−EDTA0.05mM(Calbiochem, Darmstadt, Germany)を用いて気管支肺胞洗浄を実施した。静かに手動で吸引することにより、細胞を回収した。気管支肺胞液(BALF)の遠心分離(1,200rpmで4℃で10分間)後、タンパク質評価のために上清を−80℃で凍結し、細胞ペレットを1mlのPBS−EDTA0.05mM中に再懸濁した。ディフ・クイック(Dade, Belgium)で染色後、細胞遠心分離調製物(Cytospin)で差次的細胞計数を実施した。
【0041】
肺組織学検査及び組織プロセシング
BAL後、胸郭を開け、左主気管支をクランプした。左肺を切除し、タンパク質及びmRNA抽出のために−80℃で直ちに凍結した。4%パラホルムアルデヒド4mlを右肺に注入し、パラフィン中に包埋して、組織学的検査のために用いた。5μm厚の切片をパラフィンから切断し、ヘマトキシリン−エオシンで染色した。Cataldo DD, Tournoy KG, Vermaelen K他(Am J Pathol 2002;161(2): 491-498)により以前に記載されているように、気管支周囲炎症細胞の定量により算定されるスコアにより、気管支周囲炎症の程度を概算した。炎症が検出可能でなかった場合は値を0と判定し、時々炎症細胞が存在する場合は値を1、ほとんどの気管支が炎症細胞の薄層(1〜5細胞)により取り囲まれる場合は値を2、そしてほとんどの気管支が炎症細胞の厚い層(>5細胞)に取り囲まれる場合は値を3と判定した。1匹のマウス当たり5〜7個の無作為選択組織区分がスコアされたため、炎症スコアは平均値として表わされ、群間で比較され得る。コンゴ・レッド染色後、気道壁中の好酸球浸潤を手動計数により定量し、好酸性炎症性スコアを明らかにする上皮基底膜の周辺視野計に送った。
【0042】
Mikro−Dismembrator(Braun Biotech International, Gmbh Melsungen, Germany)を用いて、左肺を粉砕した。タンパク質抽出のため、2Mの尿素、1MのNaCl及び50mMのトリス(pH7.5)を含有する溶液中で4℃で一晩、粉砕肺組織をインキュベートし、その後、16,000×gで15分間遠心分離した。上清を−80℃で保存した。
【0043】
気管支応答性測定
Hamelmann, E.他(Am. J Respir. Crit. Care Med. 156 (1997) 766-775)により提唱されているように、気圧プレチスモグラフ(Emka technologies, Paris)を用いてPenh(Enhanced Pause)を測定することにより、最終アレルゲン曝露後24時間で、気管支過剰応答性を確定した。基線で、そして漸増用量(25、50、75及び100mM)のメタコリン(Mch)の吸入の5分後に、Penhを測定した。
【0044】
ELISAによるサイトカインの測定
市販のELISA(R & D systems, Abingdon, UK)を用いて、エオタキシン及びIL−13レベルを評価した。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでエオタキシンを測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたエオタキシンに対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【0045】
アレルゲン特異的血清IgEの測定
実験終了時に、OVA特異的血清IgEの測定のために心臓から血液を採取した。マイクロタイタープレートをOVAで被覆した。血清を付加し、その後、ビオチニル化ポリクローナルウサギ抗マウスIgE(S. Florquin, ULB, Brussels, Belgium)を付加した。OVA感作動物からの血清プールを、内部実験室標準として用いた;適宜、1単位をこのプールの1/100希釈と定義した。
【0046】
Bal及び肺タンパク質抽出物中のエオタキシン及びIL−13の測定
タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでIL−13を測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたIL−13に対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【0047】
統計学的分析
BAL細胞計数、肺組織検査、サイトカイン及びmRNAレベルの結果を、平均+/−SEMとして表わし、そして群間の比較をマン・ホイットニー検定を用いて実施した。ウインドウ95用GRAPHPAD INSTATバージョン3.00(GRAPHPAD SOFTWARE, San Diego, CA, USA, WWW.GRAPHPAD.Com.)を用いて、マン・ホイットニー検定を実施した。P値<0.05で有意であるとみなされた。
【0048】
薬理学的結果
BAL中の炎症細胞
アレルゲン曝露後、好酸球数は、50mMの用量でのHP−β−CD及びHP−γ−CDの吸入後に有意に低減された。1、7.5及び50mMのHP−β−CD吸入に関して、BAL好酸球の用量依存性の低減が認められた。プラセボと比較して、HP−β−CD吸入後のBAL中に異なる量では他の炎症細胞は存在しなかった。これに対して、α−CD吸入は、アレルゲン曝露後のBAL中の好酸球の数を増大する傾向をもたらした(図1)。
【0049】
気管支周囲炎症
アレルゲン曝露後、プラセボで処置したマウスは、気管支周囲炎症スコアにより定量されるように、気管支周囲炎症の有意の増大を示した。1、7.5及び50mMのHP−β−CD及び50mMのHP−γ−CDで処置したマウスは、プラセボ処置マウスと比較して、炎症スコアが低減していることが示された。α−CD吸入は、気管支周囲炎症スコアを低減しなかった(図2)。
【0050】
気管支周囲好酸球浸潤
これまでに実証されたように、アレルゲン曝露は、気管支周囲域で検出可能な好酸球の数の有意な増大を誘導しなかった。試験したCDはすべて、この浸潤の低減を誘導し、そしてこの低減は、α−CD、HP−β−CD1、7.5、及びHP−γ−CD50mMに関して統計学的に有意になった(図3)。
【0051】
気管支応答性
50mMのHP−β−CDの吸入は、メタコリン誘導性Penh増大を低減した(図4)。異なるCDに関してメタコリン用量応答曲線の下の面積(A.U.C)を測定した場合、50mMのHP−β−CDは、有意な低減を示す唯一のものであった(図5)。
【0052】
BAL及び肺タンパク質抽出物中のサイトカイン測定
プラセボ曝露マウスと比較して、試験した全用量のHP−β−CDは、肺タンパク質抽出物中のELISAにより測定されるエオタキシンのレベルの低減を誘導した(図7a)。IL−13レベルはHP−β−CD曝露後のBAL中で低減されたが、これに対して、α−CD曝露後は増大された(図7b)。
【0053】
血清中のアレルゲン特異的IgEの測定
血清中でELISAにより測定される同様のレベルのOVA特異的IgEにより評価されるように、アレルゲン感作に関して群間の有意差は認められなかった(図6)。
【実施例2】
【0054】
喘息のマウスモデルにおけるアレルゲン誘導性気道炎症及び気管支過剰応答性の治療のための2−O−メチル−シクロデキストリンを含む組成物の使用
材料
材料は実施例1と同一であるが、但し、シクロデキストリン化合物は、実施例2では2−O−メチル−シクロデキストリン、KLEPTOSE CRYSMEB(登録商標)(Roquette製)である。それは、平均で、1個のネイティブシクロデキストリン分子当たり4個のメチル基を有し、そして平均分子量1,135及び平均モル置換度0.57により特性化される。
【0055】
滅菌性、非発熱原性及び等張性CD溶液を、2−O−メチル−シクロデキストリンに関しては10、20、50及び75mMで調製した。カブトガニ血球溶解物(LAL)を用いて、USP XXVIに記載された細菌内毒素検定に従って、シクロデキストリンを試験した。Knauer自動半微量浸透圧計により、すべての溶液のモル浸透圧濃度を測定し、そして適量のNaClの付加により280〜300mOsm/kgの値に調整した。蒸気滅菌プロセスにより、溶液の最終滅菌を実施した。
【0056】
方法
実施例1と同様の方法を用いるが、本実施例では、7日間、30分/日、標準曝露ボックス(20×30×15cm)中でエーロゾル化CRYSMEB(10、20、50、100又は200mM)にマウスを曝露した。
【0057】
薬理学的結果
BAL中の炎症細胞
気管支肺胞洗浄液の細胞組成は、CRYSMEBへの曝露によっては有意に変化しなかった。特に、好酸球数及び好中球数に関する差は認められなかった(表1を参照のこと)。気管支肺胞洗浄液好酸球増多症は、CRYSMEBにより処置された群において有意に低減された。洗浄液好酸球増多症の低減は、異なる濃度のHP−β−シクロデキストリン又はフルチカゾン(参照療法として用いられる一般的に使用される吸入ステロイド)を用いて得られるものに匹敵した(表2)。
【0058】
気管支周囲炎症
アレルゲン曝露後、プラセボで処置したマウスは、気管支周囲炎症スコアにより定量されて、気管支周囲炎症の有意の増大を示した。20mMのCRYSMEBで処置したマウスは、プラセボ処置マウスと比較して、炎症スコアが低減していることが示された(図9A)。気管支周囲炎症スコアを測定すると、プラセボと比較して、すべての治療群において有意に低減した(図9B)。
【0059】
気管支応答性
10mMのCRYSMEBの吸入は、メタコリン誘導性Penh増大を低減した(図10)。メタコリンに対する応答性はアレルゲン曝露及びプラセボ後に増大され、そしてCRYSMEBによる処置により、フルチカゾン療法で得られるものに匹敵する程度で有意に低減された(図10)。
【0060】
BAL及び肺タンパク質抽出物中のサイトカイン測定
CRYSMEBの薬理学的作用に関与するメカニズムを明らかにするために、本発明者等は気道過剰応答性及び炎症に関与する主要Th2サイトカインであるIL−13を測定した。全肺タンパク質抽出物中でELISAにより測定されるIL−13のレベルは、CRYSMEB、並びにフルチカゾン及び50mMのHP−β−CDへの曝露により有意に低減されることを本発明者等は見出した(図11を参照のこと)。
【実施例3】
【0061】
気管支炎症性疾患のための治療を必要とする患者にエーロゾル中で投与される医薬組成物
75mMのHP−β−CD
溶液モル浸透圧濃度は308mOs/kgである。pHは7.2である。CD化合物の濃度は、要求の機能において変更され得る。NaClの付加により張性を調整するのが好ましい。霧状化のための好ましい組成を以下に示す。
200ml溶液用:
発熱原物質を含有しないHP−β−CD 20.15g(75mM)
塩化ナトリウム 1.42g(等張性)
発熱原無含有の滅菌性精製水 全体を200mlとする量
【0062】
a)発熱原物質を含有しないHP−β−CD20.15gを計量(3.2%H2O、ROQUETTE製)し、それらを精製水100ml中に溶解する。
b)塩化ナトリウム1.42gを計量し溶液(a)にそれらを付加し、それらを溶解するために激しく撹拌する。
c)200mlの溶液を得るように水で満たされる。0.22μmのポリプロピレン膜を通した濾過により滅菌する。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】BAL好酸球パーセンテージに及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。対照は、吸入によりOVAに、そして吸入によりプラセボに曝露されるマウスである(OVA)。
【図2】気管支周囲炎症スコアに及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。対照は、吸入によりOVAに、そして吸入によりプラセボに曝露されるマウスである(OVA)。
【図3】上皮基底膜の数/mmとして本明細書で報告される気管支周囲好酸球に及ぼすシクロデキストリン化合物の吸入の作用を示す図である。
【図4】気道応答性測定を示す図である。シクロデキストリン又はプラセボの2分吸入後5分間のOVA(OVA)及び漸増用量のメタコリン(Mch)の曝露マウスにおいて、Enhanced Pause(Penh)を測定した。
【図5】ELISAによるサイトカインの測定を示す図である。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでエオタキシンを測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたエオタキシンに対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【図6】血清中のアレルゲン特異的IgEレベルの測定を示す図である。
【図7】Bal及び肺タンパク質抽出物中のエオタキシン及びIL−13の測定を示す図である。タンパク質の認識に特異的に向けられる一次抗体で被覆されたホイール中でインキュベートすることでIL−13を測定し、そしてすすいだ後、ホースラディッシュペルオキシダーゼと結合されたIL−13に対する二次抗体を用いて、溶液中のエオタキシンの量を定量した。
【図8】気道応答性測定を示す図である。CRYSMEB又はプラセボ処置を受けた後のマウスにおいて、Enhanced Ponse(Penh)を測定した。
【図9】種々のCRYSMEB濃度で処置された場合の組織学検査で測定された気管支周囲炎症スコアと、プラセボとの比較を示す図(9A)、および他のシクロデキストリン及びフルチカゾンの比較を示す図である(9B)。
【図10】気道応答性測定:シクロデキストリン化合物とプラセボ及びフルチカゾンとの比較を示す図である。アレルゲンに7日曝露された、そしてアレルゲン曝露前に30分間吸入療法を受けているマウスにおけるメタコリン誘導性気道応答を測定した。
【図11】肺タンパク質抽出物中のELISAにより測定されたIL−13のレベルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気管支炎症性疾患の治療を必要とするホスト哺乳類における気管支炎症性疾患の治療のための薬剤の製造のためのシクロデキストリン化合物の使用。
【請求項2】
気管支炎症性疾患の治療を必要とするホスト哺乳類における気管支炎症性疾患の予防のための薬剤の製造のためのシクロデキストリン化合物の使用。
【請求項3】
前記シクロデキストリン化合物が少なくとも1.85g/100mlの水溶解度を有する、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記シクロデキストリン化合物がβシクロデキストリン化合物である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項5】
前記シクロデキストリン化合物が、以下の:
β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−βシクロデキストリン、スルホブチルエーテル−βシクロデキストリン、ランダムメチル化−βシクロデキストリン、ジメチル−βシクロデキストリン、トリメチル−βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン、ヒドロキシブチルβシクロデキストリン、グルコシル−βシクロデキストリン、マルトシル−βシクロデキストリン、2−O−メチル−βシクロデキストリン又はその組合せ及び医薬的に許容可能な塩
から成る群から選択される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項6】
前記シクロデキストリン化合物がヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項7】
前記シクロデキストリン化合物が2−O−メチル−シクロデキストリンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項8】
前記気管支炎症性疾患が喘息である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項9】
気管支炎症性疾患の予防方法であって、このような治療を必要とする患者への有効用量のシクロデキストリン化合物の投与を含む、気管支炎症性疾患の予防方法。
【請求項10】
気管支炎症性疾患の治療方法であって、このような治療を必要とする患者への有効用量のシクロデキストリン化合物の治療を含む、気管支炎症性疾患の治療方法。
【請求項1】
気管支炎症性疾患の治療を必要とするホスト哺乳類における気管支炎症性疾患の治療のための薬剤の製造のためのシクロデキストリン化合物の使用。
【請求項2】
気管支炎症性疾患の治療を必要とするホスト哺乳類における気管支炎症性疾患の予防のための薬剤の製造のためのシクロデキストリン化合物の使用。
【請求項3】
前記シクロデキストリン化合物が少なくとも1.85g/100mlの水溶解度を有する、請求項1又は2記載の使用。
【請求項4】
前記シクロデキストリン化合物がβシクロデキストリン化合物である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項5】
前記シクロデキストリン化合物が、以下の:
β−シクロデキストリン、ヒドロキシプロピル−βシクロデキストリン、スルホブチルエーテル−βシクロデキストリン、ランダムメチル化−βシクロデキストリン、ジメチル−βシクロデキストリン、トリメチル−βシクロデキストリン、ヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリン、ヒドロキシブチルβシクロデキストリン、グルコシル−βシクロデキストリン、マルトシル−βシクロデキストリン、2−O−メチル−βシクロデキストリン又はその組合せ及び医薬的に許容可能な塩
から成る群から選択される、請求項1又は2記載の使用。
【請求項6】
前記シクロデキストリン化合物がヒドロキシプロピルβ−シクロデキストリンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項7】
前記シクロデキストリン化合物が2−O−メチル−シクロデキストリンである、請求項1又は2記載の使用。
【請求項8】
前記気管支炎症性疾患が喘息である、請求項1又は2記載の使用。
【請求項9】
気管支炎症性疾患の予防方法であって、このような治療を必要とする患者への有効用量のシクロデキストリン化合物の投与を含む、気管支炎症性疾患の予防方法。
【請求項10】
気管支炎症性疾患の治療方法であって、このような治療を必要とする患者への有効用量のシクロデキストリン化合物の治療を含む、気管支炎症性疾患の治療方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公表番号】特表2008−515847(P2008−515847A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535148(P2007−535148)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054966
【国際公開番号】WO2006/037769
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/054966
【国際公開番号】WO2006/037769
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(500029925)ユニベルシテ・ド・リエージュ (18)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE LIEGE
【住所又は居所原語表記】Avenue Pre−Aily,4,B−4031 Angleur,Belgium
【Fターム(参考)】
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