説明

気道確保装置及びそれに使用する調節器具

【課題】気道確保装置の調節器具に設けられ上顎側装着体及び下顎側装着体に接続される各取着線材を調節器具に対して取り替えることができるようにして調節器具の再利用を可能にする。
【解決手段】気道確保装置(A)は、上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)及び下顎側装着体(2)を進退動させる調節器具(3)を備えている。調節器具(3)は、取着線材(33)で上顎側装着体(1)に取り付けられており調節ねじ(34)を有する基部材(32)と、取着線材(31)で下顎側装着体(2)に取り付けられ、雌ねじ部に調節ねじ(34)を螺合し回転させることで進退動をするスライド部材(30)を備えている。基部材(32)とスライド部材(30)には、各部材に対し各装着体の位置とは反対側方向に抜き取りができるように、かつ差込方向においては所要の位置で止まるように差し込まれる通し部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下顎を顔前方側に引き出して睡眠時の気道を確保する気道確保装置及びそれに使用する調節器具に関するものである。更に詳しくは、調節器具を下顎側装着体及び上顎側装着体から取り外すことによって、繰り返し使用することができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は、夜間、十分な睡眠がとれないため、日中に耐え難い眠気を催したり、集中力の低下を引き起こす原因のひとつとされている。睡眠時無呼吸症候群の対策としては、例えば下顎を正常な噛み合わせ位置より顔前方側へやや引き出すことにより、舌根によって気道が閉塞されることを防止して、睡眠時に無呼吸状態を生じさせないようにする処置が行われている。このための器具としては、例えば本発明者が提案した特許文献1に記載されたものがある。
【0003】
特許文献1に記載された「気道確保装置」は、口腔内の上顎側に装着される上顎側装着体と、上顎側装着体とは別体に設けてあり口腔内の下顎側に装着される下顎側装着体とを備え、下顎側装着体と上顎側装着体は、下顎側装着体を上顎側装着体に対して前後へ進退動させることができる無段階調節装置を介在させて連結された構造であり、患者に適した下顎側装着体の引き出し位置の設定が迅速かつ簡単にできるようにしたものである。
【0004】
また、本発明者は特許文献1に記載されたものにさらに改良を加えて、非特許文献1及び図8に記載された無段階調節装置を採用して、より実用的な気道確保装置を開発している。このタイプの無段階調節装置の基本的な構造の説明は、後述する本発明に係る実施例の説明に譲るが、無段階調節装置は、特許文献1記載のものと基本的な構造は同じでありながら、表面を滑らかな曲面とした金属製の成形部材を使用して、取り扱い性や安全性を高めたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開 WO2006/070805
【0006】
【非特許文献1】インターネット<http://www.med.kurume-u.ac.jp/med/joint/chizai/file/seeds/001_P1-40.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1と基本的に同等の構成を有する図8に記載された無段階調節装置及びそれを採用した気道確保装置には、次のような課題があった。
すなわち、無段階調節装置を構成している成形部材である基部材80及びスライド部材81には、上顎側装着体と下顎側装着体に埋設する取着線材82が固定されている。上顎側装着体及び下顎側装着体と一体化している各取着線材82の他端側は、図8に示すように、基部材80及びスライド部材81の基端面に設けられている差込孔83に差し込まれ、外れないように、ろう付部84により接着されている。
【0008】
このため、基部材80及びスライド部材81に対して取り付けられた各取着線材82は取り替えることができず、一度使用した無段階調節装置は再使用ができないため、例えば特定の患者に対する気道確保装置の使用が終了した後においては、無段階調節装置も上顎側装着体及び下顎側装着体と共に廃棄されていた。
【0009】
しかし、前記無段階調節装置を、例えば金属アレルギーを引き起こしにくいとされるチタン等の高価で希少な金属を使用して製造する場合は、製造コストが高くなってしまうため、資源の無駄な使用を排除し、患者の治療費負担を軽減するためにも、無段階調節装置を繰り返し使用することができるように改善することが望まれていた。
【0010】
(本発明の目的)
本発明は、下顎側装着体と上顎側装着体及び下顎側装着体を上顎側装着体に対して進退動させることができる調節器具(無段階調節装置に相当)を備えた気道確保装置において、調節器具を構成する基部材及びスライド部材に取り付けられ、上顎側装着体及び下顎側装着体に接続される各取着線材を、基部材及びスライド部材に対して取り替えることができるようにして、調節器具を繰り返し使用することができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下顎を引き出して強制的に気道を確保する気道確保装置であって、
口腔内の上顎側に装着される上顎側装着体と、上顎側装着体とは別体で口腔内の下顎側に装着される下顎側装着体とを備え、上顎側装着体と下顎側装着体は、上顎側装着体に対して下顎側装着体を進退動させて下顎を動かすことができる調節器具を介在させて連結されており、
調節器具は、基部材及びスライド部材を備え、
基部材及びスライド部材には、それぞれ基端面から基端面を除く他の面にかけて貫通する通し孔が形成されており、他の面側に係止する係止要素を備える取着線材は他の面側から挿入し通し孔を通り基端面側を抜け出て取着線材の基端側は上顎側装着体及び下顎側装着体に埋設されており、基端面側と装着体間の取着線材を切断することにより、他の面側から取着線材を引き抜けるようにした、
気道確保装置である。
【0012】
本発明は、下顎を引き出して強制的に気道を確保する気道確保装置であって、
口腔内の上顎側に装着される上顎側装着体と、上顎側装着体とは別体で口腔内の下顎側に装着される下顎側装着体とを備え、上顎側装着体と下顎側装着体は、上顎側装着体に対して下顎側装着体を進退動させて下顎を動かすことができる調節器具を介在させて連結されており、
調節器具は、
取着線材により上顎側装着体と下顎側装着体のうちの一方の装着体に取り付けられている基部材と、
基部材に対し、軸線方向の定位置で軸周方向へ回転できるようにして取り付けられている調節ねじと、
取着線材により他方の装着体に取り付けられており、調節ねじを螺合する雌ねじ部を有し、雌ねじ部に調節ねじを螺合し回転させることにより基部材に沿って進退動をするスライド部材と、
を備えており、
基部材及びスライド部材には、各取着線材が、各装着体と切り離した状態では、基部材及びスライド部材に対し各装着体の位置とは反対側方向に抜き取りができるように、かつ差込方向においては所要の位置で止まるように差し込まれる通し部が設けられている、
気道確保装置である。
【0013】
本発明は、取着線材が変形性を有し、基部材またはスライド部材に対する上顎側装着体または下顎側装着体の角度または方向の調節ができる、
前記気道確保装置である。
【0014】
本発明は、前記気道確保装置を構成する調節器具であって、
取着線材により上顎側装着体と下顎側装着体のうちの一方の装着体に取り付けられる基部材と、
基部材に対し、軸線方向の定位置で軸周方向へ回転できるようにして取り付けられる調節ねじと、
取着線材により他方の装着体に取り付けられ、調節ねじを螺合する雌ねじ部を有し、雌ねじ部に調節ねじを螺合し回転させることにより基部材に沿って進退動をするスライド部材と、
を備えており、
基部材及びスライド部材には、各取着線材が、各装着体と切り離した状態では、基部材及びスライド部材に対し各装着体の位置とは反対側方向に抜き取りができるように、かつ差込方向においては所要の位置で止まるように差し込まれる通し部が設けられている、
調節器具である。
【0015】
(作用)
本発明に係る気道確保装置の作用を説明する。なお、ここでは、説明で使用する各構成要件に、後述する実施の形態において各部に付与した符号を対応させて付与するが、この符号は、特許請求の範囲の各請求項に記載した符号と同様に、あくまで内容の理解を容易にするためであって、各構成要件の意味を上記各部に限定するものではない。
【0016】
気道確保装置(A)の上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)を、処置を行う仰臥した患者の口腔内に入れ、上顎側装着体(1)を患者の上顎側の歯と歯茎に嵌め込み、下顎側装着体(2)を下顎側の歯と歯茎に嵌め込む。このとき、上顎と下顎の位置関係をできるだけ自然な状態とし、患者が感じる違和感を最小限とするために、必要であれば取着線材(31,33)を変形させて上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)の位置を調節する。
【0017】
調節ねじ(34)を回して、下顎側に嵌め込まれて固定されている下顎側装着体(2)を適当な高さまで引き上げると、患者の舌根部が上がり、気道が確保される。これにより、就寝時のいびきや睡眠時無呼吸症候群の発生を防止することができる。
【0018】
また、特定の患者に対する使用が終了した後においては、気道確保装置(A)を構成している上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)は不要になるので、取着線材(31,33)を切断し、上顎側装着体(1)及び下顎側装着体(2)と、基部材(32)及びスライド部材(30)を分離する。上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)は、所定の規則に則り廃棄される。
【0019】
上顎側装着体(1)及び下顎側装着体(2)と分離された基部材(32)の通し部(307,308)及びスライド部材(30)の通し部(327,328)から、残っている取着線材を抜き取る。
基部材(32)の通し部(307,308)及びスライド部材(30)の通し部(327,328)に、抜き取った取着線材の代わりに、新しい取着線材(31,33)を差し込み、先端側へは抜けずに止まるようにして装着する。
【0020】
そして、取着線材(31,33)の先部を別の患者用として作製した上顎側装着体1及び下顎側装着体(2)に取り付けることにより、新たな気道確保装置を作製することができる。
このように、気道確保装置(A)の上顎側装着体(1)及び下顎側装着体(2)から取り外した調節器具(3)を、例えば他の患者用として繰り返し使用することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、下顎側装着体と上顎側装着体及び下顎側装着体を上顎側装着体に対して進退動させることができる調節器具を備えた気道確保装置において、調節器具を構成する基部材及びスライド部材に取り付けられ上顎側装着体及び下顎側装着体に接続される各取着線材を、基部材及びスライド部材に対して取り替えることができる。
したがって、例えば特定の患者に対する使用が終了した後において、気道確保装置の下顎側装着体及び上顎側装着体から取り外した調節器具を、他の患者用として繰り返し使用することができる。これにより、例えば材料としてチタン等の高価で希少な素材を使用する場合、資源の無駄な使用を排除することができると共に、患者の治療費負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る気道確保装置の一実施例を示す斜視図。
【図2】気道確保装置を構成している調節器具の一実施例を示す上面斜視図。
【図3】調節器具の下面斜視図。
【図4】調節器具の構造を示し、(a)は基部材の斜視図、スライド部材の斜視図。
【図5】調節器具の構造を示す縦断面図。
【図6】気道確保装置の使用状態を示す説明図。
【図7】調節器具を再使用する場合の取着線材の取り替えの手順を示す説明図。
【図8】従来の無段階調節装置の構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を図面に示した実施例に基づき詳細に説明する。
【実施例】
【0024】
気道確保装置Aは、上顎側装着体1、下顎側装着体2、調節器具3及びそれらを接続する取着線材31、33を備えている。上顎側装着体1は口腔内の上顎側に装着されるものであり、下顎側装着体2は口腔内の下顎側に装着されるものである(図1、図6参照)。
【0025】
上顎側装着体1と下顎側装着体2はそれぞれ別体に形成されており、実質的に歯や歯茎との間にほぼ隙間がない状態で上顎側や下顎側に嵌った状態で装着できるよう形成されている。上顎側装着体1と下顎側装着体2は、通常、各患者ごとに採取した型に合成樹脂(レジン等)を流し込んで製作される。そして、上顎側装着体1と下顎側装着体2は、それらの前部側に取り付けられている前記調節器具3により連結されている。
【0026】
調節器具3は、基部材32、スライド部材30及び基部材32とスライド部材30をつなぐ調節ねじ34により構成されている。
また、後で説明するように、基部材32は取着線材33により上顎側装着体1に取着され、スライド部材30は取着線材31により下顎側装着体2に取着される。
【0027】
(基部材32)
主に、図4(a)、図5を参照する。
基部材32は、本実施の形態においては合成樹脂で形成されているが、例えば金属アレルギーを引き起こしにくいとされるチタン等、所要の強度を有し安全性に問題がなければ他の材料を採用することもできる。
【0028】
基部材32の外形は、いわば楕円柱形状のものを縦割りにした構造であり、後述するスライド部材30よりやや長く形成されている(図2を合わせて参照)。基部材32の合わせ面側(図4(a)で下面側)の幅方向中央部には、長さ方向に断面半円形状の通し溝321が形成されている。また、通し溝321のやや先端寄りには、調節ねじ34を通す通し孔322を有する円筒形状のねじ装着部323が形成されている。
【0029】
ねじ装着部323の通し孔322には、調節ねじ34が通されている。調節ねじ34は、ねじ部340とヘッド部342で構成されている。ヘッド部342の端面には、六角レンチ用のレンチ孔343が形成されている。また、調節ねじ34は、ヘッド部342を図5に示すようにねじ装着部323に近接させた位置で、その長さ方向に移動しないようにして、軸周方向へ回転自在に装着されている。
【0030】
詳しくは、調節ねじ34のヘッド部342側の端部にねじ山のない径小部341(図5参照)が設けられており、また、ねじ装着部323の通し孔322内部に内ねじ管322aが埋め込まれており、調節ねじ34を内ねじ管322aにねじ込んで通し孔322を貫通し、径小部341を内ねじ管322a内に位置させた構造である。
【0031】
これにより、ねじ部340と内ねじ管322aが再び螺合しない限り、調節ねじ34は長さ方向に移動することなく軸左右方向へ回転することができる。
なお、調節ねじ34をねじ装着部323に装着した状態では、ヘッド部342の先端面は基部材32の先端面325とほぼ同じ位置になるようにしてある。
【0032】
基部材32には、先端面325と基端面326を貫通して、通し孔327、328が平行に形成されている。なお、通し孔327、328(後述する通し孔307、308も同様)は、基端面326と、基端面326を除く他の面(例えば後述する外周面324等)を貫通して設けることもできる。
また、先端面325側には、通し孔327、328の各口部をつなぐ収容凹部329が形成されている。収容凹部329には、後述するように取着線材33の曲げ部330を収めることができる。
【0033】
さらに、先端面325側には、収容凹部329と外周面324間を貫通して先端面325に通る補助溝329aが形成されている。
また、外周面324には、「上」の文字324aが表示されており、この基部材32が上顎側装着体1に取着される側であることを示している。
【0034】
このように、基部材32には「上」の文字324aが、後述するスライド部材30には「下」の文字304aが表されていることにより、後で説明するように調節器具3を再使用するときに、上顎側装着体1または下顎側装着体2に対する取り付け間違いを防止することができる。
【0035】
また、外周面324の幅方向の一端部(図4(a)で左側端部)には、後述する指標300と位置が重なる目盛り320が長さ方向に表示されている。基部材32側の目盛り320に対するスライド部材30側の指標300の位置を確認しておくことで、例えば気道確保装置Aを洗浄した後で再度患者に装着する場合等、スライド部材30と基部材32の位置関係を洗浄前の状態に簡単に復帰させることができる。
【0036】
基部材32の通し孔327、328には、U字形状に曲げられた金属製(鋼線、ワイヤ等)の取着線材33が収容凹部329側から差し込まれて装着されている。取着線材33の曲げ部330は、収容凹部329内に収まり、先端面325からは突出しないようにしてある。また、曲げ部330は収容凹部329の奥端部(符号省略)に掛かって止まり、取着線材33は上顎側装着体1側へ抜け外れることはない。
【0037】
取着線材33の二本に分かれた各先端側は、図1に示すように上顎側装着体1の前部側に埋設するようにして固定されている。なお、取着線材33は、やや強い力で変形させると、その後もその形状を維持する塑性変形をするようになっており、これにより基部材32と上顎側装着体1との角度または方向(向き)を所要の範囲内で任意に調節することができる。
【0038】
また、取着線材33は各通し孔327、328から出た部分で外側へ曲げられており、取着線材33に荷重がかかったときに取着線材33が収容凹部329側へ動かないように止めている。なお、後述するスライド部材30は、使用において取着線材31に対して収容凹部309側へ抜ける方向の荷重は実質的に作用しないので、取着線材31に取着線材33のような曲げ加工は施されていない。
【0039】
(スライド部材30)
主に、図4(b)、図5を参照する。
スライド部材30は、後述する雌ねじ体302を除いて合成樹脂で形成されている。スライド部材30の外形は、前記基部材32と同様に楕円柱形状のものを縦割りにした構造であり、合わせ面側(図4(b)で上面側)の幅方向中央部には、長さ方向に断面半円形状の通し溝301が形成されている。また、通し溝301の中間部には、調節ねじ34を螺合する雌ねじ体302がインサートされたほぼ円筒形状のねじ螺合部303が形成されている。
【0040】
スライド部材30の幅方向中央部かつ外周面304と通し溝301の間には、先端面305と基端面306間を長さ方向に貫通した通し孔307、308が平行に形成されている。先端面305側には、通し孔307、308の各口部をつなぐ収容凹部309が形成されている。収容凹部309には、取着線材31の曲げ部310を収めることができる。
【0041】
また、先端面305側には、収容凹部309と外周面304間を貫通して先端面305に通る補助溝309aが形成されている。外周面304には、「下」の文字304aが表示されており、このスライド部材30が下顎側装着体2に取着される側であることを示している。外周面304の幅方向の一端部(図4(b)で左側端部)には、長さ方向の所要位置に三角形の指標300が表示されている。
【0042】
スライド部材30の通し孔307、308には、U字形状に曲げられた取着線材31が収容凹部309側から差し込まれて装着されている。取着線材31の曲げ部310は、先端面305から突出しないように収容凹部309に収めることができる。また、曲げ部310は収容凹部309の奥端部(符号省略)に掛かって止まり、取着線材31は下顎側装着体2側へ抜け外れることはない。
【0043】
取着線材31の二本に分かれた各先端側は、図1に示すように下顎側装着体2の前部側に埋設するようにして固定されている。なお、取着線材31は、前記取着線材33と同様に塑性変形をするので、スライド部材30と下顎側装着体2との角度または方向(向き)を所要の範囲内で任意に調節することができる。
【0044】
気道確保装置Aは、前記上顎側装着体1に基部材32を取り付けたものと、下顎側装着体2にスライド部材30を取り付けたものを組み合わせて使用される。すなわち、図1ないし図3及び図5に示すように基部材32とスライド部材30を向かい合わせ、基部材32側の調節ねじ34をスライド部材30側の雌ねじ体302に螺合する。そして、調節ねじ34を回せば、スライド部材30と基部材32を調節ねじ34の軸線方向に相対的にスライドさせることができる。
【0045】
(作用)
図1ないし図5及び図6、図7を参照して気道確保装置Aの作用を説明する。
気道確保装置Aは、図1に示すように組み上げておく。基部材32とスライド部材30の位置関係は、例えば図5に示すように標準的な位置に設定しておいてもよいが、患者個人に合うように、図5とは異なる位置関係になるように適宜調節しておくこともできる。
【0046】
そして、図6に示すように、気道確保装置Aの上顎側装着体1と下顎側装着体2を、処置を行う仰臥した患者の口腔内に入れ、上顎側装着体1を患者の上顎側の歯と歯茎に嵌め込み、下顎側装着体2を下顎側の歯と歯茎に嵌め込む。このとき、上顎と下顎の位置関係をできるだけ自然な状態とし、患者が感じる違和感を最小限とするために、必要であれば取着線材31、33を変形させて上顎側装着体1と下顎側装着体2の位置を調節する。
【0047】
この状態で調節ねじ34を回して、下顎側に嵌め込まれて固定されている下顎側装着体2を適当な高さまで引き上げる。なお、調節ねじ34を回すと基部材32とスライド部材30は相対的にスライドするが、上顎側装着体1が嵌め込まれて固定されている上顎側は実質的に動かない固定側となるので、調節ねじ34を回すとスライド部材30に取着されている下顎側装着体2が上下に移動する。すなわち、調節ねじ34を回すことにより、患者の下顎側を出入り方向(患者が仰臥している場合では上下方向)へ移動させることができる。
【0048】
前記したように下顎側装着体2を適当な高さまで引き上げることにより、患者の舌根部4が上がり、気道5が確保される。これにより、就寝時のいびきや睡眠時無呼吸症候群の発生を防止することができる。
【0049】
また、特定の患者に対する使用が終了した後においては、気道確保装置Aを構成している上顎側装着体1と下顎側装着体2は不要になるので、図7に示すように取着線材31、33を切断し、上顎側装着体1及び下顎側装着体2と、基部材32及びスライド部材30を分離する(図7:上図参照)。上顎側装着体1と下顎側装着体2は、所定の規則に則り廃棄される。
【0050】
上顎側装着体1及び下顎側装着体2と分離された基部材32の通し孔327、328及びスライド部材30の通し孔307、308から、残っている取着線材33a、31aを抜き取る(図7:中図参照)。このとき、基部材32及びスライド部材30のそれぞれの補助溝329a、309aにピン等を差し込み、取着線材33a、31aの曲げ部330、310に引っ掛けるようにすると抜き取りがしやすい。
【0051】
取着線材33a、31aを抜き取った基部材32及びスライド部材30は、再度使用することができる。すなわち、基部材32の通し孔327、328及びスライド部材30の通し孔307、308に、前記抜き取った取着線材33a、31aの代わりに、新しい取着線材33、31を差し込み、各曲げ部330、310が収容凹部329、309内で止まるようにして装着し(図7:下図参照)、取着線材33、31の先部を別の患者用として作製した上顎側装着体1及び下顎側装着体2に取り付けることにより、新たな気道確保装置Aを作製することができる。
【0052】
このように、気道確保装置Aの上顎側装着体1及び下顎側装着体2から取り外した調節器具3を、例えば他の患者用として繰り返し使用することができる。
また、調節器具3の材料をチタンとした場合であれば、高価で希少な資源の無駄な使用を排除することができると共に、患者の治療費負担を軽減することができる。
【0053】
なお、本明細書で使用している用語と表現は、あくまでも説明上のものであって、なんら限定的なものではなく、本明細書に記述された特徴およびその一部と等価の用語や表現を除外する意図はない。また、本発明の技術思想の範囲内で、種々の変形態様が可能であるということは言うまでもない。
【符号の説明】
【0054】
A 気道確保装置
1 上顎側装着体
2 下顎側装着体
3 調節器具
32 基部材
320 目盛り
321 通し溝
322 通し孔
322a 内ねじ管
323 ねじ装着部
324 外周面
324a 「上」の文字
325 先端面
326 基端面
327、328 通し孔
329 収容凹部
329a 補助溝
33 取着線材
330 曲げ部
33a 取着線材
30 スライド部材
300 指標
301 通し溝
302 雌ねじ体
303 ねじ螺合部
304 外周面
304a 「下」の文字
305 先端面
306 基端面
307、308 通し孔
309 収容凹部
309a 補助溝
31 取着線材
310 曲げ部
31a 取着線材
34 調節ねじ
340 ねじ部
341 径小部
342 ヘッド部
343 レンチ孔
4 舌根
5 気道

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下顎を引き出して強制的に気道を確保する気道確保装置であって、
口腔内の上顎側に装着される上顎側装着体(1)と、上顎側装着体(1)とは別体で口腔内の下顎側に装着される下顎側装着体(2)とを備え、上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)は、上顎側装着体(1)に対して下顎側装着体(2)を進退動させて下顎を動かすことができる調節器具(3)を介在させて連結されており、
調節器具(3)は、基部材(32)及びスライド部材(30)を備え、
基部材(32)及びスライド部材(30)には、それぞれ基端面(326,306)から基端面(326,306)を除く他の面(325,305)にかけて貫通する通し孔(327,328)(307,308)が形成されており、他の面(325,305)側に係止する係止要素を備える取着線材(33,31)は他の面(325,305)側から挿入し通し孔(327,328)(307,308)を通り基端面(326,306)側を抜け出て取着線材(33,31)の基端側は上顎側装着体(1)及び下顎側装着体(2)に埋設されており、基端面(326,306)側と装着体(1,2)間の取着線材(33,31)を切断することにより、他の面(325,305)側から取着線材(33,31)を引き抜けるようにした、
気道確保装置。
【請求項2】
下顎を引き出して強制的に気道を確保する気道確保装置であって、
口腔内の上顎側に装着される上顎側装着体(1)と、上顎側装着体(1)とは別体で口腔内の下顎側に装着される下顎側装着体(2)とを備え、上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)は、上顎側装着体(1)に対して下顎側装着体(2)を進退動させて下顎を動かすことができる調節器具(3)を介在させて連結されており、
調節器具(3)は、
取着線材(31)により上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)のうちの一方の装着体に取り付けられている基部材(32)と、
基部材(32)に対し、軸線方向の定位置で軸周方向へ回転できるようにして取り付けられている調節ねじ(34)と、
取着線材(33)により他方の装着体に取り付けられており、調節ねじ(34)を螺合する雌ねじ部(302)を有し、雌ねじ部(302)に調節ねじ(34)を螺合し回転させることにより基部材(32)に沿って進退動をするスライド部材(30)と、
を備えており、
基部材(32)及びスライド部材(30)には、各取着線材(31,33)が、各装着体と切り離した状態では、基部材(32)及びスライド部材(30)に対し各装着体の位置とは反対側方向に抜き取りができるように、かつ差込方向においては所要の位置で止まるように差し込まれる通し部(307,308)(327,328)が設けられている、
気道確保装置。
【請求項3】
取着線材(31,33)が変形性を有し、基部材(32)またはスライド部材(30)に対する上顎側装着体(1)または下顎側装着体(2)の角度または方向の調節ができる、
請求項1または2のいずれかに記載の気道確保装置。
【請求項4】
請求項2または3のいずれかに記載の気道確保装置を構成する調節器具(3)であって、
取着線材(31,33)により上顎側装着体(1)と下顎側装着体(2)のうちの一方の装着体に取り付けられる基部材(32)と、
基部材(32)に対し、軸線方向の定位置で軸周方向へ回転できるようにして取り付けられる調節ねじ(34)と、
取着線材(31,33)により他方の装着体に取り付けられ、調節ねじ(34)を螺合する雌ねじ部(302)を有し、雌ねじ部(302)に調節ねじ(34)を螺合し回転させることにより基部材(32)に沿って進退動をするスライド部材(30)と、
を備えており、
基部材(32)及びスライド部材(30)には、各取着線材(31.33)が、各装着体と切り離した状態では、基部材(32)及びスライド部材(30)に対し各装着体の位置とは反対側方向に抜き取りができるように、かつ差込方向においては所要の位置で止まるように差し込まれる通し部(307,308)(327,328)が設けられている、
調節器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−5045(P2011−5045A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152768(P2009−152768)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【Fターム(参考)】