説明

水の再生方法及び装置

極低温冷凍機が設置された容器内の、該極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を、その融点以上まで昇温して溶かし、溶けた氷に対して、温度と圧力を水の凝固点以上に保ちつつ、ラフ排気により圧力を低下させて水を蒸発させ、水を排出した時点で、更に圧力を下げて水蒸気を排出することで、水の状態(固体、液体、気体)に合わせた再生を行ない、再生時間を短縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水の再生方法及び装置に係り、特に、クライオポンプ内のクライオパネルに凝縮し氷として溜まった水を外部に排出するに用いるのに好適な、容器内に設置された極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を容器外へ排出するための水の再生方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体製造装置等の真空チャンバ(プロセスチャンバとも称する)内を真空に保つために真空チャンバの排気にはクライオポンプが用いられている。
【0003】
例えば、特開2000−274356号公報に記載されたクライオポンプの使用例を図1(平面図)及び図2(縦断面図)に示す。
【0004】
クライオポンプ20は、例えば圧縮機22より圧縮されたヘリウムガスの供給を受けて作動する、GM(ギフォード・マクマホン)式の2段膨張式冷凍機24を備えている。該冷凍機24は1段(冷却)ステージ26と、より低温の2段(冷却)ステージ28を備えている。1段ステージ26には、熱シールド板30が接続され、2段ステージ28及びクライオパネル34への幅射熱の侵入を防止している。更に熱シールド板30の真空チャンバ側開口部にはルーバー32が設けられている。前記2段ステージ28には、活性炭36を含むクライオパネル34(2段ステージ28に接続されているので2段パネルとも称する)が接続されている。
【0005】
図において、40は、ドライポンプ(図示省略)が接続されるラフバルブ、42は、クライオポンプ内に溜め込んだガスの放出用のリリーフバルブ、44は、パージガス(例えば窒素ガス)を導入するためのパージバルブ、46は圧力センサ、48は温度センサ用コネクタ、48aは、前記1段ステージ26用の温度センサ、48bは、前記2段ステージ28用の温度センサである。
【0006】
このような構成のクライオポンプ20は、ゲートバルブ12を介して真空チャンバ10に接続されている。そして40K〜120K程度に冷却されたルーバー32及び熱シールド板30によって水蒸気等の比較的凝固点の高いガスを冷却して凝縮して排気する。又、10K〜20Kに冷却されたクライオパネル34で窒素ガスやアルゴンガス等の低凝固点のガスを冷却して凝縮して排気する。それでも凝縮しないような水素ガス等のガスは活性炭36で吸着して排気する。こうして真空チャンバ10内のガスを排気する。
【0007】
このようにクライオポンプ20は溜め込み式のポンプであるため、一定量のガスを溜め込むと溜め込んだ気体をクライオポンプ20外へ排出する再生工程が必要となる。
【0008】
従来の再生方法は、(1)特開平8−61232号公報や特開平6−346848号公報に記載されているように、再生開始と同時にヒータ等を用いてルーバー32や熱シールド30、クライオパネル34を昇温したのち、パージガス(例えば窒素ガス)を流し続ける方法、又は、(2)特開平9−14133号公報に記載されているように、クライオポンプ内を真空ポンプでの粗引きとパージガスの導入を繰り返す方法(以下ラフアンドパージと呼ぶ)があった。
【0009】
このラフアンドパージによる手順の例を図3に、圧力と温度変化の例を図4に示す。
【0010】
図3において、ステップ100はクライオポンプ容器内の各部を昇温する手順、110はラフアンドパージの手順、130は例えば真空ポンプによる粗引きを中止した時の圧力上昇割合から、水やガスが抜けたことを検知するためのビルドアップ判定の手順、140はクライオポンプとして動作するために必要な温度へと再びクールダウンする手順である。
【発明の開示】
【0011】
このようなクライオポンプ再生時の問題の一つに水の再生がある。水蒸気をクライオポンプで真空排気してクライオポンプ内に凝縮した氷は、大気圧下でその温度を融点の273K以上に昇温しなければ溶かすことができず、その沸点は大気圧で373Kである。しかし、クライオポンプ及び冷凍機の構造上373Kまで温度を上げることは難しい。このことはクライオポンプの昇温中にガス化し、クライオポンプ外へ排出される他のガスと異なり、単純に温度を上げることだけではクライオポンプ内から排出できないことを表している。水の再生が十分でないとクライオポンプの真空排気性能に影響を与える。
【0012】
従来の再生方法で前者(1)のパージガスを流し続け水をパージガス中に飽和させてクライオポンプ内から排出する方法では、再生完了の判断がし難く、想定された水量に対して決まった時間だけパージガスを流すため、最悪条件下でも排出し終わるよう長時間ガスを流す必要があり、非常に無駄な時間が多かった。
【0013】
一方、後者(2)の方法は、図4に示す如く、A点で例えばヒータ加熱(特開2000−274356号公報参照)や、冷凍機のモータを冷却時の回転方向とは逆に回転させる逆転昇温(特開平7−35070号公報参照)により温度を上げ、パージガス(例えば窒素ガス)を流すことによりクライオポンプ内の各部を昇温するウォームアップを開始する(図3のステップ100)。そして、内部の温度が氷の融点以上となったB点で、パージガス導入を止め、粗引き用の真空ポンプ(一例としてドライポンプがあり、以下、ドライポンプと称する)と接続されるラフバルブ40を開いて排気をして圧力を下げる。そして圧力が設定圧力P1(例えば10Pa)まで下がった時点Cで、ラフバルブ40を閉じ再びパージガスを導入して圧力を上げる。圧力を見ながら、この工程を繰り返し(図3のステップ110)、所定回数行った時点D、あるいは、パージガスを導入しないで圧力が設定時間内で設定圧力P2まで上昇しなくなった時点Hで、ラフアンドパージの工程を終了し、再びラフバルブ40を開けてドライポンプで排気する。圧力が設定値P1となったI点でラフバルブ40を閉じ、パージガスを流さず、自然に圧力が設定値P3となったJ点で再度ラフバルブ40を開けて排気する。この工程を繰り返して(図3のステップ130)、圧力がJ点まで上がらなくなったK点で、クールダウンを開始する(図3のステップ140)。
【0014】
しかしながら後者(2)の方法では、ドライポンプでの粗引きの最中に水が凍ってしまうために水が十分に抜けず、圧力が設定値まで下がらないため再生時間が長くなる場合がある。又、再度ラフアンドパージをやり直さなければならない場合があった。
【0015】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、効率良く水を再生して、再生時間を短縮することを課題とする。
【0016】
本発明は、容器内に設置された極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を容器外へ排出するための水の再生方法において、氷を溶かす昇温工程と、水を蒸発させる蒸発工程と、水蒸気を排出させる排出工程とを設け、氷と水と水蒸気とを段階的に再生するようにして、前記課題を解決したものである。
【0017】
又、前記蒸発工程と前記排出工程とが、それぞれビルドアップ判定を含むようにしたものである。
【0018】
又、前記昇温工程を、前記容器内の氷が凝縮した部分を氷の融点以上まで昇温して氷を溶かすウォームアップ工程としたものである。
【0019】
又、前記昇温工程を、冷凍機のモータを冷却時の回転方向とは逆に回転させる逆転昇温、容器内に氷の融点より高い温度のパージガスを流して、真空に保たれた容器内の圧力を大気圧まで戻し、容器の外との熱伝導を良くするパージ昇温、又は、ヒータによる昇温のいずれか1つ、又は、それらの2つ以上の組合せにより行うようにしたものである。
【0020】
又、前記蒸発工程が、前記昇温工程で溶けた水が溜まった部分の温度と圧力が水の凝固点に到達しない範囲で、ラフ排気により圧力を低下させて水を蒸発させ、排気を中止した時の放出水分やガスによる圧力上昇を判定するビルドアップ判定をし、水が無くなるまでこれを繰り返すようにしたものである。
【0021】
又、前記ラフ排気時の圧力を100Pa〜200Paとして、水が凍らないようにしたものである。
【0022】
又、前記排出工程を、前記蒸発工程により水が蒸発した時点で、ラフ排気により更に圧力を下げて水蒸気を排出し、排気を中止した時のガスによる圧力上昇を判定するビルドアップ判定をし、圧力上昇が判定値より低くなるまでこれを繰り返す排気工程としたものである。
【0023】
又、前記昇温工程を、前記容器内の氷が凝縮した部分の温度が氷の融点となった時点で、前記蒸発工程に切換えるようにしたものである。
【0024】
又、前記蒸発工程を、排気を中止した時の、放出水分やガスによるビルドアップ判定により、前記排気工程に切換えるようにしたものである。
【0025】
本発明は、又、容器内に設置された極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を容器外へ排出するための水の再生装置において、前記容器内の氷が凝縮した部分の温度を氷の融点以上まで昇温して氷を溶かすための昇温手段と、溶けた水が溜まった部分の温度と圧力が水の凝固点に到達しない範囲で、ラフ排気により圧力を低下させて水を蒸発させ、排気を中止した時の放出水分やガスによるビルドアップ判定をし、水が無くなるまでこれを繰り返す蒸発手段と、水が蒸発した時点で、更に圧力を下げて水蒸気を排出するための排気手段と、を備えることにより前記課題を解決したものである。
【0026】
又、前記昇温手段を、冷凍機モータの逆回転、パージガス、ヒータの少なくともいずれか1つ、又は、それらの2つ以上の組合せとしたものである。
【0027】
本発明は、又、前記の水の再生装置を備えたことを特徴とするクライオポンプや水トラップを提供するものである。
【0028】
本発明によれば、再生時に一番の問題であった水の再生に対して、氷を溶かす、水を蒸発させる、水蒸気を排気するという3つの工程に分け、各工程で、それぞれの状態(固体、液体、気体)に適した再生条件(圧力、温度)を用いて、氷は氷自体の温度を上げて溶かし、溶けた水は凍らない圧力までのラフ排気により圧力を下げて自己蒸発させ、構造物表面に分散した水蒸気は更に低い圧力で排気しつくすというように、水の状態に合せて、氷→水→水蒸気と段階的に再生するようにしたので、効率良く水を再生して、再生時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】クライオポンプの一例の構成を示す平面図
【図2】同じく縦断面図
【図3】従来の水の再生方法の一例の手順を示す流れ図
【図4】同じくタイムチャート
【図5】本発明が適用されるクライオポンプの一例の構成を示す縦断面図
【図6】本発明による水の再生手順の実施形態を示す流れ図
【図7】同じくタイムチャート
【図8】本発明が適用される水トラップの一例の構成を示す平面図
【図9】同じく縦断面図
【図10】同じく装置に取付けた状態を示す縦断面図
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0031】
本発明の実施形態が適用されるクライオポンプの一例を図5に示す。図2に対して、1段ステージ26用のヒータ52と、2段ステージ28用のヒータ54が追加されている。図において、56は、ヒータ用のコネクタである。
【0032】
本発明による水の再生は、図6に示すような手順で行なう。即ち、図7に示す如く、従来と同様にA点でウォームアップを開始し、例えば逆転昇温やヒータ52、54で温度を上げながら、容器の外との熱伝導を良くするためにNガス(パージガス)を流す(図6のステップ100)。次いでB点でラフアンドパージサイクルを開始する(図6のステップ110´)。この際、圧力の下限を従来(例えば10Pa)より高めて、例えば100Paとし、水が凍らないようにする。次いでD点で、パージを止め、以後これを繰り返し、従来と同様に圧力又は回数によりラフアンドパージサイクルを止める。するとE点でドライポンプの運転を停止した時に、水が残っているので自然に圧力が上がる。そこでF点でドライポンプで引き、この工程を繰り返して、水を排出する(図6のステップ120)。ドライポンプを止めて一定時間経っても圧力が上がらなくなった時点Gで水が抜けたと判定し、ドライポンプで引く。次いで低圧力(例えば10Pa程度)のI点でドライポンプを止めて活性炭のガス放出を待ち、H点でドライポンプで引く工程を繰り返し(図6のステップ130)、圧力が上がらなくなったK点で冷却を開始し、ドライポンプを作動させ、L点でドライポンプを停止して、クライオポンプの運転に移る(図6のステップ140)。
【0033】
本実施形態においては、ヒータ52、54を設けているので、逆転昇温、ヒータ昇温、パージ昇温を全て用いることができ、昇温を迅速に行うことができる。なお、いずれか一つの方法又は、任意の2つの組合せを用いて昇温することもでき、ヒータを省略することもできる。
【0034】
なお、前記実施形態においては、本発明がクライオポンプに適用されていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、図8(平面図)及び図9(縦断面図)に示す如く、例えば特開平10−122144号公報に記載されたような水トラップ(クライオトラップとも称する)60にも同様に適用できる。この水トラップ60は、図10に例示す如く、ターボ分子ポンプ62と組合せて真空チャンバ10に取付けられることが多く、1段ステージ28のみの単段式冷凍機25を使用して冷却されたクライオパネル35に水を凝縮することで排気するようにされている。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、クライオパネルや水トラップの他、業務用冷凍機等、冷凍機等で冷やすことにより、溜まった氷(水、水蒸気)を排出する必要がある装置全般にも同様に適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に設置された極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を容器外へ排出するための水の再生方法において、
氷を溶かす昇温工程と、
水を蒸発させる蒸発工程と、
水蒸気を排出させる排出工程とを設け、
氷と水と水蒸気とを段階的に再生することを特徴とする水の再生方法。
【請求項2】
前記蒸発工程と前記排出工程とは、それぞれビルドアップ判定を含むことを特徴とする請求項1に記載の水の再生方法。
【請求項3】
前記昇温工程が、前記容器内の氷が凝縮した部分を氷の融点以上まで昇温して氷を溶かすウォームアップ工程であることを特徴とする請求項1に記載の水の再生方法。
【請求項4】
前記昇温工程を、冷凍機のモータを冷却時の回転方向とは逆に回転させる逆転昇温、容器内に氷の融点より高い温度のパージガスを流して、真空に保たれた容器内の圧力を大気圧まで戻し、容器の外との熱伝導を良くするパージ昇温、又は、ヒータによる昇温のいずれか1つ、又は、それらの2つ以上の組合せにより行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の水の再生方法。
【請求項5】
前記蒸発工程が、前記昇温工程で溶けた水が溜まった部分の温度と圧力が水の凝固点に到達しない範囲で、ラフ排気により圧力を低下させて水を蒸発させ、排気を中止した時の放出水分やガスによる圧力上昇を判定するビルドアップ判定をし、水が無くなるまでこれを繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の水の再生方法。
【請求項6】
前記ラフ排気時の圧力を100Pa〜200Paとすることを特徴とする請求項5に記載の水の再生方法。
【請求項7】
前記排出工程が、前記蒸発工程により水が蒸発した時点で、ラフ排気により更に圧力を下げて水蒸気を排出し、排気を中止した時のガスによる圧力上昇を判定するビルドアップ判定をし、圧力上昇が判定値より低くなるまでこれを繰り返す排気工程であることを特徴とする請求項1に記載の水の再生方法。
【請求項8】
前記昇温工程を、前記容器内の氷が凝縮した部分の温度が氷の融点となった時点で、前記蒸発工程に切換えることを特徴とする請求項1、3、4のいずれかに記載の水の再生方法。
【請求項9】
前記蒸発工程を、排気を中止した時の、放出水分やガスによるビルドアップ判定により、前記排気工程に切換えることを特徴とする請求項5又は6に記載の水の再生方法。
【請求項10】
容器内に設置された極低温冷凍機によって冷却される部分に凝縮した氷を容器外へ排出するための水の再生装置において、
前記容器内の氷が凝縮した部分の温度を氷の融点以上まで昇温して氷を溶かすための昇温手段と、
溶けた水が溜まった部分の温度と圧力が水の凝固点に到達しない範囲で、ラフ排気により圧力を低下させて水を蒸発させ、排気を中止した時の放出水分やガスによるビルドアップ判定をし、水が無くなるまでこれを繰り返す蒸発手段と、
水が蒸発した時点で、更に圧力を下げて水蒸気を排出するための排気手段と、
を備えたことを特徴とする水の再生装置。
【請求項11】
前記昇温手段が、冷凍機モータの逆回転、パージガス、ヒータの少なくともいずれか1つ、又は、それらの2つ以上の組合せであることを特徴とする請求項10に記載の水の再生装置。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の水の再生装置を備えたことを特徴とするクライオポンプ。
【請求項13】
請求項10又は11に記載の水の再生装置を備えたことを特徴とする水トラップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【国際公開番号】WO2005/052369
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515796(P2005−515796)
【国際出願番号】PCT/JP2004/017502
【国際出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】