説明

水中モータ用電線

【課題】製造工程を増加することなく、絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させ、電線の長寿命化を図ることができる水中モータ用電線を提供すること。
【解決手段】導体12の周上にエナメル絶縁層13を設けると共にエナメル絶縁層13の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層14を設けた水中モータ用電線11において、エナメル絶縁層13を1層もしくは2層以上設けると共に、エナメル絶縁層13の絶縁被覆層14と接する側の層を、当該層を構成する主成分樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水中モータ用電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導体の周上に絶縁被覆層を設けた水中モータ用電線は、その名称が示すように、水中にて使用されるモータに適用することを目的とする電線であり、おもに水中モータ用のコイルを形成するために用いられる。この水中モータ用電線においては、水中に浸漬された時間の経過にともない、絶縁被覆層を構成する樹脂の分子間に過剰の水分が含まれるようになる。過剰の水分を含んだ絶縁被覆層が、銅等の金属からなる導体と接触し、水中モータ運転時に電圧が印加されると、絶縁被覆層中に導体表面からコイル外周に向かって銅イオンが析出・拡散するようになる。さらに、銅イオンを起因とする水トリーが絶縁被覆層中に発生するようになり、この水トリーがコイルの絶縁性能を劣化させ、絶縁破壊を誘導することが知られている。
【0003】
このことから、図3に示されるように、従来の水中モータ用電線31においては、銅イオンの析出・拡散を防止するため、導体32の周上に絶縁ワニスを焼き付けたエナメル絶縁層33を設けており、このエナメル絶縁層33の周上にポリエチレンなどのポリオレフィン類により構成される主要絶縁被覆層34を押し出しにより設けている。エナメル絶縁層33を構成する樹脂としては、例えばエポキシ、ポリエステルイミド等の熱硬化性樹脂が用いられ、これらの樹脂を主成分とする絶縁ワニスを導体32の周上に塗布、焼き付けることによりエナメル絶縁層33を設けている。この水中モータ用電線31は、実際に広く使用されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、上記構成の水中モータ用電線31によれば、エポキシ、ポリエステルイミド等の熱硬化性樹脂からなるエナメル絶縁層33の機械的強度、長期信頼性が十分でないことから、例えば絶縁被覆層34を設ける前の搬送工程等でエナメル絶縁層33の表面に傷が生じると、長時間の使用により、前記傷を起点として絶縁被覆層34中に水トリーが発生、成長するという問題がある。
【0005】
この問題を解消するため、導体の周上にエナメル絶縁層を2層(上引きエナメル層と下引きエナメル層)設けると共に上引きエナメル層を機械的強度に優れたポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成することにより、傷の発生防止を図り、その上に架橋ポリエチレン等により構成される主要絶縁被覆層を設けた水中モータ用電線が知られている(特許文献2)。
【0006】
しかし、上記構成の水中モータ用電線によれば、ポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成されるエナメル絶縁層と架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層との密着性が十分でないことから、長時間使用した場合には、エナメル絶縁層と絶縁被覆層との間に水が浸透し、これが水トリーの一種である内導トリーやボウタイトリーを発生させる原因になるといわれている。
【0007】
そこで、ポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成されるエナメル絶縁層と架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層との密着性を向上させるため、両者の間に接着性樹脂層を設けるか、この接着性樹脂層の代わりに架橋ポリエチレン等に接着性樹脂を混合させた組成物により構成される絶縁被覆層を設けた水中モータ用電線が提案されている(特許文献3)。
【0008】
一方、特許文献4には、導体の周上にポリエステルイミド等により構成されるエナメル絶縁層を介して、ポリアミド樹脂100重量部に対し、滑剤、酸化防止剤、エポキシ樹脂、シランカップリング剤等を夫々所定の割合で含有させた組成物により構成されるエナメル潤滑層を設けた自己潤滑性エナメル線が記載されている。この自己潤滑性エナメル線では、通常のエナメル線よりもコイル成形時のすべり性、処理ワニスとの接着性が向上されており、特にすべり性の向上によりコイルの占積率の増加を可能にしている。処理ワニスについては、これを用いて成形コイルを機器本体に固着することにより、成形コイルの固定化と絶縁補強を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭61−114410号公報
【特許文献2】特公平7−31944号公報
【特許文献3】実開平1−126019号公報
【特許文献4】特開2007−213908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年の水中モータ用電線においては、長期信頼性の観点から、使用機器共々長寿命化が求められており、さらに、その使用環境温度が高くなる傾向にあることから、絶縁被覆層の耐水トリー性の更なる向上が求められている。耐水トリー性の向上とは、絶縁被覆層中に内導トリーなどの水トリーが発生しにくくなることをいう。
【0011】
前述したように、水中モータ用電線における絶縁被覆層の水トリー対策としては、導体の周上に機械的強度に優れたポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成されるエナメル絶縁層を設けると共に前記エナメル絶縁層の周上に架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層を設けることが提案されている(特許文献2)。また、前記構成の水中モータ用電線において、ポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成されるエナメル絶縁層と架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層との密着性を向上させるため、両者の間に接着性樹脂層を設けるか、この接着性樹脂層の代わりに架橋ポリエチレン等に接着性樹脂を混合させた組成物により構成される絶縁被覆層を設けることが提案されている(特許文献3)。
【0012】
しかし、ポリアミドイミド系、ポリアミド系樹脂により構成されるエナメル絶縁層と架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層との間に接着性樹脂層を独立して設けることは、明らかに別の製造工程を追加することになり、コスト増を招くので好ましくない。また、架橋ポリエチレン等に接着性樹脂を混合させた組成物により構成される絶縁被覆層を設けることは、接着性樹脂の種類にもよるが、例えば接着性樹脂として酸変性ポリエチレンを用いた場合には、これを含有させない場合と比較して絶縁被覆層の酸化劣化が進みやすくなる傾向にあることから、酸化反応が関与する水トリーによる絶縁被覆層の劣化の進展にも当然影響し、結果として耐水トリー性を悪化させる場合があると考えられる。
【0013】
なお、特許文献4には、エナメル潤滑層を、ポリアミド樹脂100重量部に対し、滑剤、酸化防止剤、エポキシ樹脂、シランカップリング剤等を夫々所定の割合で含有させた組成物により構成することが記載され、さらに、滑剤として、例えば低分子ポリオレフィンを用いることが記載されている。しかし、前記エナメル潤滑層と架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層との密着性については何も言及されておらず、そもそも特許文献4に記載の自己潤滑性エナメル線は、エナメル絶縁層(エナメル潤滑層を含む)の周上に架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層を設けた構成の電線を対象とするものではない。
【0014】
したがって、本発明の目的は、製造工程を増加することなく、絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させ、電線の長寿命化を図ることができる水中モータ用電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、導体の周上にエナメル絶縁層を設けると共に前記エナメル絶縁層の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層を設けた水中モータ用電線において、前記エナメル絶縁層を1層もしくは2層以上設けると共に、前記エナメル絶縁層の前記絶縁被覆層と接する外側の層を、当該層を構成する主成分樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成することを特徴とする水中モータ用電線を提供する。
【0016】
上記において、絶縁被覆層を構成するポリエチレンを主体とする組成物としては、ポリエチレン類を用いることが望ましく、ポリエチレン類としては、イオン重合法で重合されたポリエチレン、ラジカル重合法で重合されたポリエチレン、またはイオン重合ポリエチレンとラジカル重合ポリエチレンとを混合したポリエチレンを主体とする高分子材料を用いることができる。また、これらのポリエチレンのほか、エチレンアクリレート共重合体やエチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンメタクリレート共重合体等のエチレン共重合体、プロピレンとエチレンの共重合体、ポリオレフィンに無水マレイン酸やエポキシ等を含む官能基をグラフトしたものを一種または二種以上含んだものを用いてもよい。さらに、これらのポリエチレン類を架橋したものを用いてもよい。さらにまた、これらのポリエチレン類に酸化防止剤や架橋剤などの添加剤を配合したものを用いてもよい。
【0017】
上記において、エナメル絶縁層の外側の層を構成する主成分樹脂としては、エポキシ、ポリイミド、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド系の耐水性の良好な熱硬化性樹脂を用いることができ、特にポリアミドイミド系の樹脂を用いることが好ましいといえる。
【0018】
また、上記において、低分子ポリオレフィン類としては、分子量5000以下である高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレンなどを代表例に用いることができるが、これに限るものではない。また、酸化ポリオレフィン類としては、前記低分子ポリオレフィン類を酸化変性もしくは酸変性させカルボシキル基を導入したものを代表例に用いることができるが、これに限るものではない。
【0019】
また、上記において、低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類の含有量を、エナメル絶縁層の外側の層を構成する主成分樹脂100重量部に対し1〜20重量部の範囲としたのは、1重量部未満ではポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層との密着性の向上効果が弱く、20重量部を超えると当該エナメル絶縁層(外側の層)の表面が荒れ、この荒れを起点とした内導水トリーが発生しやすくなるためである。
【0020】
この水中モータ用電線によれば、上記構成により、特にエナメル絶縁層を1層もしくは2層以上設けると共に、エナメル絶縁層の前記絶縁被覆層と接する外側の層を、当該層を構成する主成分樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成することにより、従来のように接着性樹脂層を独立して設けることなく、エナメル絶縁層と絶縁被覆層との密着性を向上させることができるので、エナメル絶縁層と絶縁被覆層との密着性が十分でない場合において両者の間に水が浸透し、これが原因で絶縁被覆層中に水トリーが発生するのを効果的に防止することができる。すなわち、これにより絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させ、水中モータ用電線の長寿命化を図ることができる。
【0021】
また、前述したように、要するに架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層に接着性樹脂を含有させた場合には、(接着性樹脂の種類にもよるが)接着性樹脂の存在に基づく酸化反応により絶縁被覆層の耐水トリー性が悪化する問題があるが、本発明のように絶縁ワニスを焼き付けたエナメル絶縁層に特定の接着性樹脂を含有させた場合には、接着性樹脂がエナメル絶縁層の耐摩耗性を向上するように作用するので、エナメル絶縁層の表面に傷が付きにくくなり、傷を起点として絶縁被覆層中に水トリーが発生、成長するのを防止することができる。すなわち、絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させることができる。
【0022】
請求項2の発明は、前記エナメル絶縁層の前記外側の層を構成する主成分樹脂が、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水中モータ用電線を提供する。
【0023】
この水中モータ用電線によれば、上記効果に加えて、エナメル絶縁層の外側の層を構成する主成分樹脂としてポリアミドイミド樹脂を用いることにより、特にエナメル絶縁層の表面の機械的強度が強く、耐熱性の良好であり、したがって高温での使用環境に耐える長期信頼性に優れた水中モータ用電線を構成することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の水中モータ用電線によれば、製造工程を増加することなく、絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させ、電線の長寿命化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係る水中モータ用電線の構造を示す断面図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る水中モータ用電線の構造を示す断面図である。
【図3】従来例の係る水中モータ用電線の構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
図1は本発明の一実施の形態(導体の周上にエナメル絶縁層を1層設けた例)に係るものであり、同図に示される水中モータ用電線11は、銅導体12の周上にポリアミドイミド樹脂により構成されるエナメル絶縁層13を1層設けると共に前記エナメル絶縁層13の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層14を押し出しにより設けたものである。エナメル絶縁層13は、その主成分樹脂であるポリアミドイミド樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成される。
【0027】
図2は本発明の他の実施の形態(導体の周上にエナメル絶縁層を2層設けた例)に係るものであり、同図に示される水中モータ用電線21は、銅導体22の周上に順次ポリエステルイミド樹脂により構成されるエナメル絶縁層(下引きエナメル層)23及びポリアミドイミド樹脂により構成されるエナメル絶縁層(上引きエナメル層)24を設けると共に、絶縁被覆層25と接する外側の層を構成するエナメル絶縁層24の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層25を押し出しにより設けたものである。また、エナメル絶縁層24は、その主成分樹脂であるポリアミドイミド樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成される。
【0028】
上記において、低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類は、これを夫々1種類もしくは2種類以上含有させて用いることもできる。
【0029】
また、上記において、エナメル絶縁層(下引きエナメル層)23とエナメル絶縁層(上引きエナメル層)24は、同じ主成分樹脂からなる組成物により構成することもできる。
【0030】
上記の実施の形態によれば、ポリアミドイミド樹脂により構成されるエナメル絶縁層13、24の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層14、25を設けたことにより、従来のように接着性樹脂層を独立して設けることなく、エナメル絶縁層13、24と絶縁被覆層14、25との密着性を向上させることができる。したがって、エナメル絶縁層と絶縁被覆層との密着性が十分でない場合において両者の間に水が浸透し、これが原因で絶縁被覆層中に水トリーが発生するのを効果的に防止することができる。すなわち、これにより絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させ、水中モータ用電線の長寿命化を図ることができる。
【0031】
また、すでに述べたとおり、架橋ポリエチレン等により構成される絶縁被覆層に接着性樹脂を含有させた場合には、(接着性樹脂の種類にもよるが)接着性樹脂の存在に基づく酸化反応により絶縁被覆層の耐水トリー性が悪化する問題があるが、上記のようにエナメル絶縁層13、24に低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類をからなる特定の接着性樹脂層を含有させた場合には、前記接着性樹脂がエナメル絶縁層の耐摩耗性を向上するように作用するので、エナメル絶縁層の表面に傷が付きにくくなり、傷を起点として絶縁被覆層中に水トリーが発生、成長するのを防止することができる。すなわち、絶縁被覆層の耐水トリー性を更に向上させることができる。
【実施例】
【0032】
図1及び図2に示される構造の水中モータ用電線11、21おいて、導体12、22として直径約4.5mmの銅線を用い、夫々の周上に表1に示される組成の熱硬化性樹脂ワニスを繰り返し塗布、焼き付けることにより夫々厚さ0.6mmのエナメル絶縁層13、23、24を設けた。さらに、エナメル絶縁層13、23、24の周上にポリエチレン(密度0.922、M12.3g/10分)(100重量部)とビニルトリメトキシラン(1.0重量部)、ジクミルパーオキサイド(0.1重量部)、ジブチル錫ジラウレート(0.05重量部)、4,4´−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(0.1重量部)を夫々配合した樹脂組成物を押し出し被覆し、水架橋を施して絶縁被覆層14、25を設け、水中モータ用電線11、21を製造した。
【0033】
【表1】

【0034】
ここで、表1中のポリアミドイミド系エナメルとしては、市販の日立化成(株)製のポリアミドイミド樹脂塗料(HL−4025−25)を用いた。ポリエステルイミド系エナメルとしては、市販の日立化成(株)製のポリエステルイミド樹脂塗料(WH−4065)を用いた。
【0035】
また、表1中のエチレン−ブテン共重合体は、低分子ポリオレフィン類に該当し、これには三井化学(株)製のエクセレックス40800を用いた。また、表1中の高密度酸化ポリエチレンは、酸化ポリオレフィン類に該当し、これにはGong Myoung Technologies社製のGMT−1230を用いた。
【0036】
なお、比較例として、図3に示される構造の水中モータ用電線31を製造した。すなわち、導体32として、実施例と同じ寸法の銅線を用い、エナメル絶縁層34として実施例と同じ方法により表1に示される組成のエナメル絶縁層34を設けた。また、実施例と同じ方法により同じ組成の絶縁被覆層34を設け、水中モータ用電線31を製造した。
【0037】
表1の評価欄に示された内容は、上記により製造した水中モータ用電線の各試料に対する特性評価試験結果をまとめたものである。
【0038】
エナメル絶縁層の表面の荒れ評価は、絶縁被覆層を形成する前にエナメル絶縁層(外側の層)の表面を観察し、表面に径1.0μm以上の凹凸がないものを良(白丸)、表面に径1.0μm以上の凹凸があるものを不良(バツ)とした。
【0039】
密着性の評価は、長さ約120mmに切断した水中モータ用電線の端から10mmだけ絶縁被覆層を残し、その他の絶縁被覆層を剥ぎ取った試料を用意し、これを用いて試験した。すなわち、絶縁被覆層を剥ぎ取った側の電線を、引張試験機の下側チャックに固定された鉄板治具の50mmφの穴に下側から通して引張試験機の上側チャックに固定し、引張り試験することにより、絶縁被覆層から(表面にエナメル絶縁層を形成した)電線が引き抜かれたときの荷重を測定した。
【0040】
内導トリーの評価は、上記により製造した水中モータ用電線を、曲げ半径13.5mmのコイル状に2.5回巻きし、90℃の温水に浸漬した状態で、銅線と温水との間に500Hzで10kVの交流電流を500時間印加する試験を行った。試験後、絶縁被覆層を10mm長さに切り出し、この断面を薄くスライスしてメチレンブルー水溶液で煮沸染色し、光学顕微鏡を用いて内導トリーの長さを計測し、200μm以上の長さの内導トリーの発生数を計数した。
【0041】
上記表1より、絶縁被覆層と接する側のエナメル絶縁層を、その主成分樹脂100重量部に対しエチレン−ブテン共重合体もしくは高密度酸化ポリエチレンを1〜20重量部の範囲内で含有させた組成物により構成した実施例1〜7の水中モータ用電線は、エナメル絶縁層の表面の荒れが少なく良好である。これに対し、エナメル絶縁層をエチレン−ブテン共重合体を過剰に含有させた組成物により構成した比較例3の水中モータ用電線は、エナメル絶縁層の表面に荒れが発生している。
【0042】
また、上記実施例1〜7の水中モータ用電線は、絶縁被覆層との密着性が高く良好である。これに対し、エナメル絶縁層をエチレン−ブテン共重合体もしくは高密度酸化ポリエチレンを1重量部まで含有させていない組成物により構成した比較例1、2の水中モータ用電線は、実施例と比べると密着性が悪い。
【0043】
また、上記実施例1〜7の水中モータ用電線は、内導トリーの発生がなく良好である。これに対し、比較例1〜3の水中モータ用電線は、内導トリーが発生している。
【0044】
本実施例では、エナメル絶縁層を1層もしくは2層設けた場合について述べたが、3層設けることももちろん可能である。
【0045】
また、本発明は、以上の実施例に限定されることなく、その発明の範囲において種々の改変することももちろん可能である。
【符号の説明】
【0046】
11、21、31 水中モータ用電線
12、22、32 導体
13、23、24、33 エナメル絶縁層
14、25、34 絶縁被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周上にエナメル絶縁層を設けると共に前記エナメル絶縁層の周上にポリエチレンを主体とする組成物により構成される絶縁被覆層を設けた水中モータ用電線において、前記エナメル絶縁層を1層もしくは2層以上設けると共に、前記エナメル絶縁層の前記絶縁被覆層と接する外側の層を、当該層を構成する主成分樹脂100重量部に対し低分子ポリオレフィン類または酸化ポリオレフィン類を1〜20重量部含有させた組成物により構成することを特徴とする水中モータ用電線。
【請求項2】
前記エナメル絶縁層の前記外側の層を構成する主成分樹脂が、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の水中モータ用電線。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−170910(P2010−170910A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13447(P2009−13447)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】