説明

水中充填材及びその製造方法並びに地下空洞充填方法

【課題】施工状態を直接確認できない地下空洞等を充填する際にも充填材の流動性を確実に管理・制御でき、更に、例えば建設発生土を主成分とした充填材の配合を簡易に設定可能な極めて実用性に秀れた水中充填材及びその製造方法並びに地下空洞充填方法の提供。
【解決手段】水のある地下空洞に充填される水中充填材であって、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95である水中充填材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水で満たされた埋設管等の地下空洞に充填される土砂を使用した水中充填材及びその製造方法並びに地下空洞充填方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地中には、例えば、廃棄された排水路トンネルや導水路トンネル等の地下用水路、石炭や金属等の資源採掘場の廃坑、戦中に作られた防空壕や石灰岩の溶食洞窟等の自然洞窟等、種々の地下空洞が存在する。
【0003】
これら地下空洞は、放置しておくと地盤陥没の原因となるため、充填材を充填することで閉塞する措置が採られることが多いが、地下空洞の多くには水が充満しているため、より効率的な充填材の充填方法が要望されている。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1には、水のある地下空洞に所定間隔で第一充填材を充填して該第一充填材により隔壁を所定間隔で形成した後、該隔壁間に、第一充填材より比重の大きな第二充填材を充填して該地下空洞を閉塞する地下空洞充填方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3682554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述のように水のある地下空洞に充填される充填材には、水中での流動性及び分離抵抗性の相反する2つの性質が要求される。
【0007】
充填材の流動性の管理項目としては、一般的にフロー値が用いられている。尚、フロー値とは、平滑な盤上においたφ8cm,高さ8cmの円筒シリンダーに充填材を満たしてシリンダーを引き上げ、広がった充填材の直径(JHS A 313)を言う。
【0008】
従来は、空気中で測定した上記フロー値(空気中フロー)を管理項目として材料の流動性を管理していたが、空気中フローのみを管理しても水中での充填材の挙動は予測できず、流動性を十分に管理・制御できていないのが現状である。
【0009】
また、充填材に要求される流動性は、せん断強さ,粘性及び自重の3要素で決定される。即ち、建設発生土とセメントと水とを混合したソイルセメントを充填材として用いる場合、建設発生土の性質が多岐にわたるため、所望の流動性を得るためには、建設発生土の性状に応じて添加剤の種類や配合量を現場条件に合わせて上記3要素を考慮しながら適宜対応する必要があるため、配合条件の設定等に熟練を要し非常に厄介な作業となっている。
【0010】
本発明は、上述のような問題点を解決すべくなされたもので、施工状態を直接確認できない地下空洞等を充填する際にも充填材の流動性を確実に管理・制御できるのは勿論、例えば建設発生土を主成分とした充填材の配合を簡易に設定可能な極めて実用性に秀れた水中充填材及びその製造方法並びに地下空洞充填方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0012】
水のある地下空洞に充填される水中充填材であって、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95であることを特徴とする水中充填材に係るものである。
【0013】
また、請求項1記載の水中充填材において、28日材齢における一軸圧縮強さが100〜1000kN/mであることを特徴とする水中充填材に係るものである。
【0014】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材の製造方法であって、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%未満である場合、補助剤として石灰石微粉末等の細粒分を前記土砂の5〜50重量%以上となるように混合し、且つ、増粘剤を前記セメント量に対して1.5〜5.0重量%混合することを特徴とする水中充填材の製造方法に係るものである。
【0015】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材の製造方法であって、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%以上である場合、無機系若しくは有機系の遅延剤若しくは流動化剤を前記セメント量に対して0.1〜20.0重量%混合することを特徴とする水中充填材の製造方法に係るものである。
【0016】
また、請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材を用いて水のある地下空洞を充填する地下空洞充填方法であって、前記地下空洞に充填口元から該地下空洞に1.2m/sec以下の流速で前記水中充填材を充填することを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【0017】
また、水中充填材を用いて水のある地下空洞を充填する地下空洞充填方法であって、前記水中充填材の水中フロー及び空気中フローの相関関係を予め把握しておき、該水中充填材の水中での流動性を空気中フローを用いて管理して前記地下空洞に該水中充填材を充填することを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【0018】
また、請求項6記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95であることを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【0019】
また、請求項7記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、28日材齢における一軸圧縮強さが100〜1000kN/mであることを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【0020】
また、請求項7,8いずれか1項に記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%未満である場合、補助剤として石灰石微粉末等の細粒分を前記土砂の5〜50重量%以上となるように混合し、且つ、増粘剤を前記セメント量に対して1.5〜5.0重量%混合して成るものであることを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【0021】
また、請求項7,8いずれか1項に記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%以上である場合、無機系若しくは有機系の遅延剤若しくは流動化剤を前記セメント量に対して0.1〜20.0重量%混合して成るものであることを特徴とする地下空洞充填方法に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上述のように構成したから、施工状態を直接確認できない地下空洞等を充填する際にも充填材の流動性を確実に管理・制御でき、更に、例えば建設発生土を主成分とした充填材の配合を簡易に設定可能な極めて実用性に秀れた水中充填材及びその製造方法並びに地下空洞充填方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0024】
水中での流動性を空気中フローを参考に予測でき、例えば目視等で確認できない地下空洞等に充填する場合にも、現場で空気中フローを確認するだけで、地下空洞の水中での水中充填材の挙動をある程度予測可能となり、地下空洞を効率的に充填して閉塞可能となる。
【0025】
即ち、従来用いられていた空気中フローだけでなく、上記フロー値を水中で測定した水中フローを用いることで、空気中フローのみを用いての管理では不十分であった水中での水中充填材の挙動をより的確に管理することが可能となり、この水中フローと空気中フローとの関連付けを行うことで、例えば、水中フローを現場で測定することなく、空気中フローのみを測定して水中充填材の水中での挙動(水中充填材の水中での流動性)を良好に管理・制御できることになる。
【実施例】
【0026】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0027】
本実施例は、水のある地下空洞に充填される水中充填材であって、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95であるものである。
【0028】
具体的には、本実施例は、水のある地下空洞に所定間隔で隔壁用充填材を充填して該隔壁用充填材により隔壁を所定間隔で形成した後、該隔壁間に充填され、地下空洞を閉塞するものである。尚、本出願でいうソイルセメントは、流動化処理土を含む概念である。
【0029】
土砂としては、建設発生土を用いるのが環境性・コスト性の面から好ましい。尚、土砂には、細粒分として、シルト及び粘土(粒径75μm未満)があり、粗粒分として砂(粒径75μm以上2mm未満)及び礫(粒径2mm以上)がある。
【0030】
本実施例においては、現場で採取した土砂(建設発生土)の成分に応じて以下のような所定の配合処理A,Bを施す。尚、建設発生土以外の土砂を用いても良い。
【0031】
ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%未満である場合には、補助剤として石灰石微粉末を前記土砂の5〜50重量%以上になるように混合し、増粘剤を前記セメント量に対して1.5〜5.0重量%混合する(配合処理A)。
【0032】
具体的には、上記細粒分が少ない場合、水中分離し易く、水中分離防止のために増粘剤を入れる必要がある。この増粘剤としては、ベントナイト及びセルロース系の増粘剤があるが、ベントナイトは流動性が少なく、セルロース系は流動性があるため、セルロース系の増粘剤を用いるのが好ましい。
【0033】
また、充填材の流動性(セルフレベリング性)は、上述したように、材料のせん断強度,粘性及び自重の3要素で決定される。流動性を上げるためには、せん断強度及び粘性は小さく、自重は大きくする必要がある。しかし、せん断強度を小さくする(粘性土とすると)と自重が小さくなり、粘性を小さくすると水中での分離抵抗が小さくなり、また、自重を大きくする(粗粒分を多くする)とせん断強度が大きくなってしまう。
【0034】
そこで、重量を大きくすることで流動性を上げることに着目して実験を行った結果、粗粒分を多くするとせん断強度が大きくなり(内部摩擦角が大きくなり)、流動性向上効果が薄れてしまうことを確認した。
【0035】
よって、本実施例においては、細粒分であり適度な粒度分布を持つ石灰石微粉末を入れることで、自重を増加させると共にせん断強度の増加を可及的に抑制し、流動性を大幅に向上させることを実現している。
【0036】
一方、ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%以上である場合には、無機系若しくは有機系の遅延剤若しくは流動化剤を前記セメント量に対して0.1〜20.0重量%混合する(配合処理B)。
【0037】
具体的には、細粒分が50〜80%程度で、粘性は十分となるため、上記配合処理Aのように増粘剤を入れる必要はない。
【0038】
また、自重を重くすることで流動性を向上させようとして粘土量を多くすると加水量が多くなり、十分な効果が得られない。そこで、加水量を少なくするために、流動化剤を添加することになるが、流動化剤(例えば、メラミンスルホン酸系化合物)を添加すると流動性を保てる時間が短いので、遅延剤を入れることで、流動化剤による流動性向上と、流動性保持時間とを両立している。尚、本実施例においては流動化剤と遅延剤とを併用しているが、いずれか一方のみを用いても良い。
【0039】
従って、建設発生土の成分に応じて、建設発生土にセメント及び水を加えたソイルセメントに、上記配合処理A若しくはBを施すことで、どのような建設発生土を用いても比較的均一で、しかも、良好な分離抵抗性及び流動性を発揮する水中充填材を簡単に製造可能となる。
【0040】
また、水中フローと空気中フローの比は、0.25〜0.95にすることが望ましい。水中フローが空気中フローに対して0.25未満であると、十分な水中不分離性を得ることができず、0.95より大きいと、十分な流動性を得ることができないからである。
【0041】
この水中フロー及び空気中フローの相関関係を予め把握し、水中での流動性を空気中フローを用いて管理する。
【0042】
即ち、例えば図1,2,4,5に図示したように、建設発生土が砂質土の場合(No1〜3)と、粘性土の場合(No4〜8)とで、夫々セメント量や流動化剤・遅延剤の配合量を変えた各サンプルの空気中フロー及び水中フローを測定して、空気中フローと水中フローの相関関係を把握しておく(最小二乗法を用いて得られた直線等、図7参照)。この場合、上述のようにして製造した材料の空気中フローを現場で確認すれば、上記相関関係からおおよその水中フローを確認することができ、従って、地下空洞等の水中フローを確認できない部位に充填する場合であっても、充填材の挙動を把握して流動性の制御が可能となる。
【0043】
具体的には、例えば、現場の建設発生土の性状に応じて上記配合処理A若しくはBを施し、この建設発生土とセメント及び水を混合してソイルセメントを製造した際に、所定の空気中フローを有する水中充填材が製造された場合、この水中充填材の水中フローをいちいち測定する必要なく、上記相関関係から空気中フローに基づいて水中フローを予測可能であり、現場発生土を用いた場合であっても、水中充填材の水中での挙動を良好に制御可能となる。
【0044】
また、本実施例は、28日材齢における一軸圧縮強さが100〜1000kN/mに設定されている。従って、流動性に秀れ地下空洞の隅々まで行き渡らせることができるだけでなく、十分な一軸圧縮強さを有するものとなる。尚、図3及び図6は、上記サンプルNo1〜8の28日材齢における一軸圧縮強さを測定した結果である。
【0045】
また、本実施例は、地下空洞の水中(静水中)に充填口元(充填用ホース先端)から1.2m/sec以下(好ましくは1.0m/sec以下)の流速で充填すると、特に地下空洞の充填が良好となる。即ち、流速を遅くすることでより均一な状態での充填が可能となる。
【0046】
本実施例は上述のように構成したから、水中での流動性を空気中フローを参考に予測でき、目視等で確認できない地下空洞に充填する場合にも、現場で空気中フローを確認するだけで、地下空洞の水中での水中充填材の挙動をある程度予測可能となり、地下空洞を効率的に充填して閉塞可能となる。
【0047】
従って、本実施例は、施工状態を直接確認できない地下空洞等を充填する際にも充填材の流動性を確実に管理・制御できるのは勿論、建設発生土を主成分とした充填材の配合を簡易に設定可能な極めて実用性に秀れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】建設発生土が砂質土の場合の配合表である。
【図2】図1の配合表に示す各サンプルの各特性値を示す表である。
【図3】図1の配合表に示す各サンプルの一軸圧縮強さを示す表である。
【図4】建設発生土が粘性土の場合の配合表である。
【図5】図4の配合表に示す各サンプルの各特性値を示す表である。
【図6】図4の配合表に示す各サンプルの一軸圧縮強さを示す表である。
【図7】図2及び図6の配合表に示す各サンプルの水中フローと空気中フローとの相関図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水のある地下空洞に充填される水中充填材であって、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95であることを特徴とする水中充填材。
【請求項2】
請求項1記載の水中充填材において、28日材齢における一軸圧縮強さが100〜1000kN/mであることを特徴とする水中充填材。
【請求項3】
請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材の製造方法であって、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%未満である場合、補助剤として石灰石微粉末等の細粒分を前記土砂の5〜50重量%以上となるように混合し、且つ、増粘剤を前記セメント量に対して1.5〜5.0重量%混合することを特徴とする水中充填材の製造方法。
【請求項4】
請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材の製造方法であって、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%以上である場合、無機系若しくは有機系の遅延剤若しくは流動化剤を前記セメント量に対して0.1〜20.0重量%混合することを特徴とする水中充填材の製造方法。
【請求項5】
請求項1,2いずれか1項に記載の水中充填材を用いて水のある地下空洞を充填する地下空洞充填方法であって、前記地下空洞に充填口元から該地下空洞に1.2m/sec以下の流速で前記水中充填材を充填することを特徴とする地下空洞充填方法。
【請求項6】
水中充填材を用いて水のある地下空洞を充填する地下空洞充填方法であって、前記水中充填材の水中フロー及び空気中フローの相関関係を予め把握しておき、該水中充填材の水中での流動性を空気中フローを用いて管理して前記地下空洞に該水中充填材を充填することを特徴とする地下空洞充填方法。
【請求項7】
請求項6記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、少なくとも土砂及びセメントを含む硬化剤と水とから成るソイルセメントで構成され、水中フローと空気中フローの比が、0.25〜0.95であることを特徴とする地下空洞充填方法。
【請求項8】
請求項7記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、28日材齢における一軸圧縮強さが100〜1000kN/mであることを特徴とする地下空洞充填方法。
【請求項9】
請求項7,8いずれか1項に記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%未満である場合、補助剤として石灰石微粉末等の細粒分を前記土砂の5〜50重量%以上となるように混合し、且つ、増粘剤を前記セメント量に対して1.5〜5.0重量%混合して成るものであることを特徴とする地下空洞充填方法。
【請求項10】
請求項7,8いずれか1項に記載の地下空洞充填方法において、前記水中充填材は、前記ソイルセメントに使用される土砂の細粒分が50%以上である場合、無機系若しくは有機系の遅延剤若しくは流動化剤を前記セメント量に対して0.1〜20.0重量%混合して成るものであることを特徴とする地下空洞充填方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−13963(P2008−13963A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−184345(P2006−184345)
【出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(000154565)株式会社福田組 (34)
【出願人】(000185972)小野田ケミコ株式会社 (58)
【Fターム(参考)】