説明

水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法

【課題】 砕岩棒を自由落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出されることを防止するとともに、砕岩棒の落下速度を不要に落とすことがなく、特別な熟練作業を有しなくても作業が容易な水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法を提供する。
【解決手段】 主巻ワイヤ11を用いて水底41に砕岩棒支持枠7を接地させる。次に、固定装置10による固定部材12の固定を解除して、固定部材12および砕岩棒9を落下させ、水底41の岩盤を破砕する。次に、副巻きワイヤ13によって砕岩棒支持枠7内において固定装置10を降下させる。固定装置10が砕岩棒9近傍まで降下したら、固定装置10の下降を停止し、固定装置10によって固定部材12を固定する。この状態で、副巻きワイヤ13により固定装置10を上昇させ、所定の高さまで来たところで停止することで最初の状態に戻る。以上を繰り返し、水底41の破砕を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、視界が確保できる浅い水中での小規模の掘削工事は、潜水士が搭乗する水中バックホウに水中ブレーカを取り付けるなどして行われている。
また、大水深での工事や大規模工事の場合、水の濁りにより視界が確保できない場合、ブレーカで破砕できない硬岩の場合などでは、発破に代わる岩盤・コンクリート破砕工法として砕岩棒工法が多用されている。
【0003】
砕岩棒工法では、質量10t〜50tの砕岩棒を、砕岩棒質量の6倍〜数十倍の吊り能力を有するクレーンを用いて排水量200t〜3,000t級の砕岩船に吊り下げる。そして、水底の岩盤を目がけて砕岩棒を自由落下させた際に発生する衝撃的打撃力で岩盤を破砕する。発破工法や割岩工法では、事前に潜水士による水底での潜水補助作業が必要であるが、砕岩棒工法では、潜水補助作業が不要である。そのため、水の深さや濁りに影響されることなく、能率的で安全な砕岩工事が可能である。
【0004】
なお、砕岩棒は自由落下方式であるため、クレーンでワイヤを介して砕岩棒を吊下げた状態から、ワイヤを巻きつけるウィンチのブレーキ(クラッチ)を解除し、ワイヤと砕岩棒とが接合された状態で砕岩棒を自由落下させる。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
【特許文献1】実用新案3013542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の砕岩棒工法では、砕岩棒はクレーンの補巻ウィンチに巻きつけられたワイヤによって吊下げられるため、ウィンチのクラッチを切断して砕岩棒を自由落下させると、砕岩棒が地面に激突した際に、ウィンチの回転慣性によって、ウィンチのドラムが回転をし続ける。したがって、ウィンチから過剰にワイヤが巻き出される恐れがあり、この状態で再度ワイヤを巻き上げればワイヤのキンクなどが生じる恐れがある。
【0007】
このため、砕岩棒が海底につく直前にウィンチのクラッチを接続して過剰に巻き出しが行われないようにする必要があるが、クレーン作業に熟練を要し、作業性が極めて悪いという問題がある。また、クラッチ接続のタイミングが早すぎれば、砕岩棒の運動エネルギーが減少して、砕岩能力が落ちるという問題がある。
【0008】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、砕岩棒を自由落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出されることを防止するとともに、砕岩棒の落下速度を不要に落とすことがなく、特別な熟練作業を有しなくても作業が容易な水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するための第1の発明は、第1のワイヤで吊り下げられる固定装置と、前記固定装置を貫通する固定部材と、前記固定部材の下方に接合された砕岩棒と、を具備し、前記固定装置は前記固定部材を固定可能であり、前記固定部材の固定を解除することで前記砕岩棒を落下させることが可能であることを特徴とする水中岩盤の破砕装置である。
【0010】
前記固定部材の所定の位置には係合部が設けられ、前記固定装置は前記係合部と係合可能な動作部を有し、前記固定装置は、前記動作部の動作によって、前記動作部と前記係合部とを係合して前記固定部材を固定可能であってもよく、または、前記固定装置はブレーキパッドを有し、前記固定部材は板状部材であり、前記ブレーキパッドにより前記板状部材を挟み込み、前記固定部材を固定可能であってもよい。
【0011】
第2のワイヤで吊り下げられる鞘状の砕岩棒支持枠と、前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に力を伝えるための伝達機構と、を更に具備し、前記固定装置は前記砕岩棒支持枠内を上下に移動可能であり、前記砕岩棒支持枠の所定の位置には略鉛直方向に、少なくとも1条の隙間が設けられ、前記伝達機構は、前記砕岩棒支持枠の下端付近に前記隙間を塞ぐように設けられた架台部ストッパと、前記砕岩棒の上端付近に設けられた突起部である砕岩棒部ストッパと、からなり、前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り上げて前記架台部ストッパを前記砕岩棒部ストッパに押当てることにより、前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に上向きの力を伝達し、前記砕岩棒を水底から引き抜くようにしてもよい。
【0012】
前記砕岩棒の下端から前記固定部材の上端までの長さは、前記砕岩棒支持枠の長さよりも長く、前記固定部材の下端近傍を前記固定装置で固定した際に、前記固定部材は略鉛直方向に自立可能な強度を有することが望ましい。
【0013】
第1の発明の水中岩盤の破砕装置によれば、砕岩棒に固定部材が接合されており、固定部材が固定装置によって固定および解除が可能であり、また、ワイヤは直接砕岩棒とは接合されないため、砕岩棒を落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出されることがない。
【0014】
また、固定装置がブレーキパッドを有し、板状部材の固定部材をブレーキパッドで挟み込めば、簡易な構造で固定部材を固定することが可能である。また、ピン孔や溝などの係合部を固定部材の上下端近傍に設け、係合部に嵌合するようなピンなどの動作部を設ければ、ピン等をピン孔などに挿入することで容易に固定部材を固定することができる。
【0015】
また、固定部材と砕岩棒を足した長さが砕岩棒支持枠の長さよりも長ければ、固定部材が固定装置から抜け落ちることがなく、繰り返しの作業性に優れる。また、砕岩棒は砕岩棒支持枠内を落下するため、確実に所望の位置に砕岩棒を落下させることができる。また、砕岩棒が岩盤に食い込んだ場合には、架台部ストッパを砕岩棒部ストッパへ押し当てることで、容易に砕岩棒を引き抜くことができる。
【0016】
第2の発明は、台船上のクレーンを用い、第2のワイヤで所定の位置に空所を有する鞘状の砕岩棒支持枠を支持し、第1のワイヤで前記砕岩棒支持枠内を上下方向に移動する固定装置を支持し、前記固定装置を貫通し、下端に砕岩棒が接合された固定部材を固定する工程(a)と、前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り下ろし、下端部を水底に接地させる工程(b)と、前記固定装置の固定を解除し、前記固定部材及び前記砕岩棒を落下させて水底を破砕する工程(c)と、前記第1のワイヤで前記固定装置を下降させて、前記砕岩棒近傍における前記固定部材を前記固定装置で固定する工程(d)と、前記固定部材を固定した状態で前記固定装置を上昇させて、前記砕岩棒および前記固定部材を上昇させる工程(e)と、を具備することを特徴とする水中岩盤の破砕方法である。
【0017】
前記工程(d)の後、前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り上げ、前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に力を伝えるための伝達機構を用いて前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に上向きの力を伝えることにより、前記砕岩棒を前記水底から引き抜く工程(f)をさらに具備してもよい。
【0018】
第2の発明の水中岩盤の破砕方法によれば、砕岩棒に固定部材が接合され、接合部材を固定装置で固定可能であり、ワイヤは直接砕岩棒とは接合されないため、砕岩棒を落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出されることがない。
【0019】
また、固定部材と砕岩棒を足した長さが砕岩棒支持枠の長さよりも長ければ、固定部材が固定装置から抜け落ちることがなく、繰り返しの作業性に優れる。また、砕岩棒は砕岩棒支持枠内を落下するため、確実に所望の位置に砕岩棒を落下させることができる。また、砕岩棒が岩盤に食い込んだ場合には、砕岩棒支持枠を砕岩棒に押し当てることで、容易に砕岩棒を引き抜くことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、砕岩棒を自由落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出されることを防止できるとともに、砕岩棒の落下速度を不要に落とすことがなく、特別な熟練作業を有しなくても作業が容易な水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は、水中岩盤の破砕装置Aの装置構成を示す図である。図1に示すように、水中岩盤の破砕装置Aは、台船上に設けられた、クレーン3、砕岩装置5、測位用反射器15等からなる。
【0022】
台船は、例えば、複数のユニフロートを用いて組み立てられるクローラクレーン搭載用ユニフロート台船である。クレーン3は、例えば、100t吊りクローラクレーンとする。クレーン3は、主巻ワイヤ11および副巻ワイヤ13を有する。
【0023】
砕岩装置5は、鞘状の砕岩棒支持枠7の内部に砕岩棒9を配置したものである。砕岩棒9には固定部材12が設けられる。また、砕岩棒支持枠7内には、固定部材12が貫通する固定装置10が設けられる。固定装置10は、副巻きワイヤ13で吊下げられる。固定装置10は、図示を省略した油圧配管等で動作可能であり、固定部材12を固定および解除することができる。固体部材12は例えば鋼製の板状部材である。なお、砕岩装置5の詳細は後述する。測位用反射器15は、例えば、追尾式トータルステーションのリフレクタである。
【0024】
台船を構成するユニフロートは、陸上トラックで輸送可能である。また、100t吊りクローラクレーンの主巻ワイヤ11の吊り荷重は100t、副巻ワイヤ13の吊り荷重は13tであり、砕岩棒9の質量は8t〜10t程度とする。そのため、水中岩盤の破砕装置Aでは、全ての使用機材を陸上トラックで輸送できる。
【0025】
図2は、砕岩装置5の斜視図、図3は、砕岩装置5の下半部の拡大図である。なお、図3は、砕岩棒支持枠7の一部を切断して図示してある。また、図4は砕岩装置5の底面図、図5は、図3のB−B線断面図を示す。
【0026】
図2および図3に示すように、砕岩装置5は、砕岩棒支持枠7、砕岩棒9、固定装置10、固定部材12、円錐状設置金具17、架台部ストッパ金具25、砕岩棒部ストッパ金具27等からなる。
【0027】
図5に示すように、2本のH型鋼7a、H型鋼7bを所定の間隔をおいて並置することにより、鉛直方向の2条の隙間29を有する鞘状の砕岩棒支持枠7が形成される。H型鋼7aは、フランジ31とリブ32との入り隅部34に沿って山型鋼7cが固定される。また、H型鋼7bは、フランジ31とリブ32との入り隅部34に沿って山型鋼7dが固定される。山型鋼7cおよび山型鋼7dは、補強部材として機能する。
【0028】
2本のH型鋼7a、H型鋼7bは、フランジ31の外側面30同士が連結部材23で連結される。連結部材23は、例えば、鋼管を複数に分割した弧状の部材であり、鉛直方向に所定の間隔をおいて設けられる。
【0029】
図2に示すように、砕岩棒支持枠7の上端付近には、2ヶ所に吊り治具19が設けられる。吊り治具19は、例えば、H型鋼7aのリブ32の外側面36、H型鋼7bのリブ32の外側面36に固定される。吊り治具19には、クレーン3の主巻ワイヤ11が連結される。砕岩棒支持枠7は、主巻ワイヤ11で吊り下げて支持される。
【0030】
図4に示すように、砕岩棒9は、砕岩棒支持枠7の内部43に配置される。砕岩棒9は、上端部に吊り治具21が設けられる。吊り治具21には、固定部材12が連結される。砕岩棒9の下端部39は、例えば一文字形状である。砕岩棒9の下端部39は、焼入れ処理したものとする。
【0031】
図2から図4に示すように、円錐状接地金具17は、砕岩棒支持枠7の下端部に設けられる。円錐状接地金具17は、板状部材33、円錐状部材35、補強部材37からなる。板状部材33は、砕岩棒支持枠7のH型鋼7a、H型鋼7bの下端面に固定される。補強部材37は、H型鋼7a、H型鋼7bのリブ32の外側面36と板状部材33の上面38とに固定される。円錐状部材35は、板状部材33の下面40に固定される。円錐状部材35は、例えば、各板状部材33に4つずつ設けられる。
【0032】
架台部ストッパ金具25は、図2から図4に示すように、砕岩棒支持枠7の下端付近に隙間29を塞ぐように設けられる。架台部ストッパ金具25は、H型鋼7aおよびH型鋼7bのフランジ31の外側面30に固定される。架台部ストッパ金具25は、上端に切欠き部26を有する。
【0033】
砕岩棒部ストッパ金具27は、図2から図5に示すように、砕岩棒9の上端付近に固定された突起である。砕岩棒部ストッパ金具27は、砕岩棒支持枠7の隙間29から突出するように設けられる。
【0034】
架台部ストッパ金具25および砕岩棒部ストッパ金具27は、砕岩棒支持枠7から砕岩棒9へ力を伝えるための伝達機構である。
【0035】
次に、固定装置10について説明する。図6は固定装置10および固定装置10を貫通する固定部材12を示す斜視図であり、図7は砕岩棒支持枠7内に収められた状態の固定装置10を上方から見た図である。
【0036】
固定装置10は、複数のブレーキ45a、45b、45c、45dおよびブレーキを作動させるための油圧配管51、ガイド53、吊り治具55等から構成される。
【0037】
ブレーキ45a、45b、45c、45d(45)はそれぞれ、油圧シリンダ47a、47b、47c、47d(47)とブレーキパッド49a、49b、49c、49d(49)とから構成される。油圧シリンダ47には油圧配管51が接合されており、図示を省略した油圧ポンプ等に接続されている。
【0038】
各ブレーキ45のブレーキパッド49間には、固定部材12が貫通する。固定装置10の上部に設けられるガイド53は、固定部材12が固定装置10に沿って円滑に動作可能とする機能を有する。固定装置10の上部に設けられる吊り治具55は副巻きワイヤ13と接合される。すなわち、固定装置10は副巻きワイヤ13によって吊下げられる。なお、図7に示すように、固定装置10は砕岩棒支持枠7の内部43よりも小さい。したがって、固定装置10は、砕岩棒支持枠7に沿って上下に移動可能である。
【0039】
図8はブレーキ45の動作を示す図である。ブレーキ45を作動させた状態(図8(a))では、ブレーキパッド49のそれぞれが固定部材12を両側より挟み込む。したがって、この状態では、固定部材12は固定装置10に固定され、相対的に移動することがない。一方、ブレーキ45を解除させた状態(図8(b))では、ブレーキパッド49と固定部材12との間には隙間が生じる。したがって、固定部材12は固定装置10に沿って移動可能である。すなわち、固定部材12および固定部材12に接合された砕岩棒9は固定装置10に対して下方へ落下する。
【0040】
次に、水中岩盤の破砕装置Aを用いて岩盤を破砕する方法について説明する。上述した水中岩盤の破砕装置Aを図1に示すように工事水域に設置するには、まず、陸上トラックで使用機材を輸送し、ユニフロート台船である台船を組み立て、台船上にクレーン3を設置する。そして、クレーン3の第2のワイヤである主巻ワイヤ11で砕岩棒支持枠7を吊り下げて支持する。砕岩棒支持枠7内部には下方に砕岩棒9が接合された固定部材12を設置し、さらに、第1のワイヤである副巻ワイヤ13で固定装置10を吊り下げ、固定部材12が固定装置10を貫通するように固定装置10を砕岩棒支持枠7内に設置する。
【0041】
図9は、砕岩装置5による砕岩工程を示す図である。なお、以下の図では、砕岩棒支持枠7に設けられる連結部材23のうち、上端付近に設けられるもの以外の図示を省略する。
【0042】
まず、図9(a)に示すように、主巻ワイヤ11を用いて水底41に砕岩棒支持枠7を接地させる。砕岩棒支持枠7の円錐状接地金具17の円錐状部材35が水底41に接地すると、主巻ワイヤ11の吊り荷重が小さくなり、着地が検知される。この状態で主巻ワイヤ11を止め、砕岩棒支持枠7を鉛直に保つと同時に倒れを防止する。また、砕岩棒9が所定の高さに位置するように、固定装置10によって固定部材12を固定した状態で、副巻ワイヤ13を用いて固定装置10を砕岩棒支持枠7の上方に配置する。
【0043】
なお、この状態で、固定装置10より上方に突出した固定部材12は、自重によって折れ曲がることなく、自立する。したがって、固定部材12としては、少なくとも、砕岩棒9近傍を固定装置10で固定した状態で、自立する程度の強度が必要である。
【0044】
次に、図9(b)に示すように、固定装置10による固定部材12の固定を解除して、固定部材12および砕岩棒9を落下させ、水底41の岩盤を破砕する。この際、固定部材12は固定装置10のブレーキ45間を自由に落下し、これにより砕岩棒9は砕岩棒支持枠7の内部43を自由落下する。ここで、固定装置10を砕岩棒支持枠7内の上方に配置させ、砕岩棒9が水底41に達している状態において、固定装置10よりも上方に固定部材12の上端が突出している。すなわち、固定部材12および砕岩棒9の長さの和は、砕岩棒支持枠7の長さよりも長い。したがって、固定部材12が固定装置10より抜け落ちることがない。
【0045】
なお、本工程では、砕岩棒支持枠7の隙間29から水が抜けることにより、砕岩棒9が落下する際に水の抵抗が低減される。また、水底41が超硬岩の場合には、砕岩棒9が岩盤に食い込まずに跳ね返される場合がある。このような場合、砕岩棒支持枠7は、砕岩棒9が飛び跳ねたり倒れたりしないように動線を拘束する。また、固定装置10全体が固定部材12のガイドとしても機能する。このため、砕岩棒9が水底41に衝突した際に、固定部材12に水平方向の大きな力加わらず、固定部材12が折れ曲がることがない。なお、固定部材12の強度としては、前述の通り、自立する程度の強度を有するとともに、砕岩棒9からの衝撃による座屈についても考慮すべきである。
【0046】
なお、図2等に示す連結部材23は、砕岩棒9が砕岩棒支持枠7内を上下移動する際に砕岩棒部ストッパ金具27に接触しないように配置される。
【0047】
次に、図9(c)に示すように、副巻きワイヤ13によって砕岩棒支持枠7内において固定装置10を降下させる。この際、固定装置10のブレーキ45は解除されているため、固定部材12に対して固定装置10は相対的に移動可能である。固定装置10が砕岩棒9近傍まで降下したら、固定装置10の下降を停止し、ブレーキ45を作動させる。これにより砕岩棒9近傍における固定部材12が固定装置10によって固定される。なお、固定装置10が固定位置へ達したことの検知は、固定装置10が砕岩棒9近傍まで降下すると、副巻ワイヤ13の吊り荷重が小さくなることで検知できる。
【0048】
その後、固定装置10によって固定部材12を固定した状態で、副巻きワイヤ13により固定装置10を上昇させ、所定の高さまで来たところで停止することで最初の状態(図9(a))に戻る。以上を繰り返し、水底41の破砕を行うことができる。破砕位置を移動させる場合には、主巻きワイヤ11によって砕岩棒支持枠7の位置を変えればよい。
【0049】
図10は、砕岩棒支持枠7を引き上げる工程を示す図である。図9(c)に示す工程において、砕岩棒9の下端部39の刃先が水底41の岩盤に食い込んで副巻ワイヤ13では引き抜けない場合、図10に示すように、主巻ワイヤ11で砕岩棒支持枠7を吊り上げる。そして、砕岩棒支持枠7に固定された架台部ストッパ金具25の切欠き部26に、砕岩棒9の砕岩棒部ストッパ金具27を接触させる。
【0050】
その後、主巻ワイヤ11で砕岩棒支持枠7をさらに吊り上げ、架台部ストッパ金具25に砕岩棒部ストッパ金具27を押し当て、砕岩棒支持枠7から砕岩棒9に上向きの力を伝達して、砕岩棒9の下端部39を水底41の岩盤から引き抜き、砕岩装置5全体を吊り上げる。
【0051】
上述したように、架台部ストッパ金具25および砕岩棒部ストッパ金具27は、砕岩棒支持枠7から砕岩棒9へ力を伝えるための伝達機構である。クレーン3が100t吊りで、砕岩棒9の質量が8t〜10tの場合、この伝達機構を用いて主巻き力を伝達することにより、砕岩棒9の自重の約10倍の力で下端部39を引き抜くことができる。
【0052】
このように、本実施の形態によれば、固定装置10を用いるため、砕岩棒9を落下させる際に、ワイヤが過剰に巻き出しされることがない。また、砕岩棒9が水底41に衝突する瞬間にブレーキ等をかける必要がないため、特殊な技能が必要なく、容易に作業を行うことができる。また、ブレーキ45を複数設けることで、水中における摩擦抵抗の低下に対しても十分に固定部材12を保持することができる。さらに、複数のブレーキが1系統の油圧配管により作動するため、ブレーキの解除時に、わずかな解除タイミングのずれが生じ、このため、ワイヤへの急激な荷重変化が抑制される。
【0053】
また、砕岩棒支持枠7を用いることにより、砕岩位置に確実に砕岩棒9を落下させることができるので、近傍の重要構造物を破損させる恐れがない。さらに、砕岩棒支持枠7を吊り上げる際に、架台部ストッパ金具25を砕岩棒部ストッパ金具27に押し当てて主巻きワイヤ11の強力な吊り荷重を砕岩棒9に伝達することにより、岩盤に食い込んだ砕岩棒9を容易に引き抜くことができる。
【0054】
なお、本実施の形態の水中岩盤の破砕装置Aでは、台船としてユニフロート台船を用いたが、台船の種類はこれに限らない。また、クレーン3は、クローラクレーンに限らず、固定式のクレーンや他の移動式のクレーンを用いてもよい。さらに、測位用反射器15の代わりに、GPS(グローバルポジショニングシステム)のアンテナを設置してもよい。
【0055】
砕岩棒支持枠7の構成は、図2から図5に示すものに限らない。例えば、断面がコの字型の部材を開口部が対向するように並置して、鉛直方向の2条の隙間を有する鞘状の砕岩棒支持枠を形成してもよい。また、筒状の部材の所定の位置に空所を設けて砕岩棒支持枠を形成してもよい。
【0056】
本実施の形態では、図2から図5に示すように、側面が略矩形で下端部39が一文字形状の砕岩棒9を用いたが、砕岩棒9の形状はこれに限らない。砕岩棒は、例えば円柱状としてもよい。砕岩棒の下端部を角錐等の点形状とする場合もある。
【0057】
また、本実施形態においては、固定装置10には4つのブレーキ45a、45b、45c、45dを設置したが、固定装置の構成はこれに限られない。たとえば、ブレーキを一つとしてもよく、これ以上としてもよい。また、固定部材12の固定方法はブレーキでなくても良い。たとえば、固定部材12の固定位置に、あらかじめ凹溝や孔などの係合部を設けておき、固定装置には油圧で動作する係合ピンや係合片などの動作部を設けておけば、固定する際には、動作部を係合部に係合させることで固定部材と固定装置とが固定され、動作部を係合部より抜き去れば、固定を解除することができる。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明にかかる水中岩盤の破砕装置および水中岩盤の破砕方法の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0059】
たとえば、水底の岩盤が硬くない場合など、砕岩棒9が岩盤に食い込む恐れがない場合や、比較的低い位置から砕岩棒を落下させる場合には、本実施の形態のような砕岩棒支持枠7は必ずしも必要がない。固定装置10によって固定部材12および砕岩棒9を落下させ、または固定することができれば、本発明の目的であるワイヤの過剰な巻き出しの防止や、作業性の向上等の目的は達せられる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】水中岩盤の破砕装置Aの装置構成を示す図
【図2】砕岩装置5の斜視図
【図3】砕岩装置5の下半部の拡大図
【図4】砕岩装置5を下方から見た図
【図5】図3のB−B線断面図
【図6】固定装置10を示す斜視図
【図7】砕岩棒支持枠7に収められた固定装置10を上方から見た図
【図8】固定装置10の動作を示す図で、(a)は固定部材12を固定した状態を示す図、(b)は固定部材12の固定を解除した状態を示す図
【図9】破砕工程を示す図で、(a)は水底41に砕岩棒支持枠7を接地させや状態、(b)は砕岩棒9を落下させた状態、(c)は固定装置10を降下させて、固定部材12を固定した状態を示す図
【図10】砕岩棒9を水底41から引き抜く工程を示す図
【符号の説明】
【0061】
A………水中岩盤の破砕装置
3………クレーン
5………砕岩装置
7………砕岩棒支持枠
9………砕岩棒
10………固定装置
11………主巻ワイヤ
12………固定部材
13………副巻ワイヤ
17………円錐状接地金具
25………架台部ストッパ金具
27………砕岩棒部ストッパ金具
29………隙間
39………下端部
43………内部
45a、45b、45c、45d………ブレーキ
47a、47b、47c、47d………油圧シリンダ
49a、49b、49c、49d………ブレーキパッド
51………油圧配管
53………ガイド
55………吊り治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のワイヤで吊り下げられる固定装置と、
前記固定装置を貫通する固定部材と、
前記固定部材の下方に接合された砕岩棒と、
を具備し、
前記固定装置は前記固定部材を固定可能であり、前記固定部材の固定を解除することで前記砕岩棒を落下させることが可能であることを特徴とする水中岩盤の破砕装置。
【請求項2】
前記固定部材の所定の位置には係合部が設けられ、
前記固定装置は前記係合部と係合可能な動作部を有し、
前記固定装置は、前記動作部の動作によって、前記動作部と前記係合部とを係合して前記固定部材を固定可能であることを特徴とする請求項1記載の水中岩盤の破砕装置。
【請求項3】
前記固定装置はブレーキパッドを有し、
前記固定部材は板状部材であり、
前記ブレーキパッドにより前記板状部材を挟み込み、前記固定部材を固定可能であることを特徴とする請求項1記載の水中岩盤の破砕装置。
【請求項4】
第2のワイヤで吊り下げられる鞘状の砕岩棒支持枠と、
前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に力を伝えるための伝達機構と、
を更に具備し、
前記固定装置は前記砕岩棒支持枠内を上下に移動可能であり、
前記砕岩棒支持枠の所定の位置には略鉛直方向に、少なくとも1条の隙間が設けられ、
前記伝達機構は、前記砕岩棒支持枠の下端付近に前記隙間を塞ぐように設けられた架台部ストッパと、
前記砕岩棒の上端付近に設けられた突起部である砕岩棒部ストッパと、
からなり、
前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り上げて前記架台部ストッパを前記砕岩棒部ストッパに押当てることにより、前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に上向きの力を伝達し、前記砕岩棒を水底から引き抜くことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の水中岩盤の破砕装置。
【請求項5】
前記砕岩棒の下端から前記固定部材の上端までの長さは、前記砕岩棒支持枠の長さよりも長く、前記固定部材の下端近傍を前記固定装置で固定した際に、前記固定部材は略鉛直方向に自立可能な強度を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の水中岩盤の破砕装置。
【請求項6】
台船上のクレーンを用い、第2のワイヤで所定の位置に空所を有する鞘状の砕岩棒支持枠を支持し、第1のワイヤで前記砕岩棒支持枠内を上下方向に移動する固定装置を支持し、前記固定装置を貫通し、下端に砕岩棒が接合された固定部材を固定する工程(a)と、
前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り下ろし、下端部を水底に接地させる工程(b)と、
前記固定装置の固定を解除し、前記固定部材及び前記砕岩棒を落下させて水底を破砕する工程(c)と、
前記第1のワイヤで前記固定装置を下降させて、前記砕岩棒近傍における前記固定部材を前記固定装置で固定する工程(d)と、
前記固定部材を固定した状態で前記固定装置を上昇させて、前記砕岩棒および前記固定部材を上昇させる工程(e)と、
を具備することを特徴とする水中岩盤の破砕方法。
【請求項7】
前記工程(d)の後、前記第2のワイヤで前記砕岩棒支持枠を吊り上げ、前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に力を伝えるための伝達機構を用いて前記砕岩棒支持枠から前記砕岩棒に上向きの力を伝えることにより、前記砕岩棒を前記水底から引き抜く工程(f)をさらに具備することを特徴とする請求項6記載の水中岩盤の破砕方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate