説明

水中投下型センサシステム

【課題】使用後にセンサ等を海洋に放棄しても海洋環境汚染のおそれのない水中投下型センサシステムを提供する。
【解決手段】コンピュータ部1と水中に投下して落下中のセンサ5とを防水・防塩通信ケーブル3と水中通信ケーブル6とで結び、センサ5が計測する水深、水圧等の情報を計測し、計測終了後は、防水・防塩通信ケーブル3と水中通信ケーブル6とを切り離して、水中通信ケーブル6、センサ5等を海洋中に投棄する。投棄される水中通信ケーブル6、センサ5等は、水中で生分解して消滅する生分解性材料と水中で溶け出しても有害物質とならない金属とからなっており、海洋環境汚染を起こすことはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海洋にセンサを投下し、海水中を落下中のセンサが計測する水温、水圧等の水中情報を船舶等の水上に設置された計測用コンピュータ部で処理することにより、海洋情報を得、使用後のセンサは海洋中に使い捨てにする水中投下型センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
使い捨て型の水中投下型センサシステムは、(1)水温分布の鉛直情報が簡単に計測できる、(2)計測時に船を止める必要がなく、1点当たりの計測時間を著しく短縮できる、(3)専属のオペレータを必要としない、という利点があって、しかも、センサ回収の手間が掛からず計測コストが安くて済むことから、近年著しく普及してきている。
【0003】
しかし、使用後に投棄されたセンサからは有害な重金属や環境ホルモンが溶出して海洋環境を汚染するおそれがある。
【0004】
海洋環境汚染対策として、特許文献1が知られている。特許文献1は、使い捨て型水中投下型センサとは異なる海洋上に浮かぶ使い捨て型ブイに関するものであるが、そのフロートが生分解可能な材質の材料で作られている。
【0005】
特許文献1には、海洋上に浮かぶブイ(1)の位置をブイ(1)のフロート(2)内に収容されたGPS計測手段(5)で順次計測してブイの高さの時系列データを取得し、この時系列データから波浪情報を得、アンテナ(9)から送信する波浪情報計測装置が記載されている。フロート(2)は生分解可能な材質の材料で作られていて、(海中に放棄すると、生分解して無くなるから、)回収不要、メンテナンス不要である。
【0006】
特許文献1の波浪情報計測装置では、放置されるブイ(1)はフロート(2)だけが時間とともに生分解して無害となるが、しかし、樹脂や金属からなる他の部品は海中に沈み、そこから環境ホルモンや重金属が溶出して海洋環境を汚染することが懸念される。
【0007】
使い捨て型ブイには、他に特許文献2も知られている。特許文献2では、ブイ本体は海洋上に浮かべ、水中にセンサを配置する。使用後はブイ本体を浸水させて沈没させ、センサとともに海洋中に投棄する。
【0008】
すなわち、特許文献2には、内部に回路基板(1)と電池(10)を収容し外部にアンテナ(12)を取り付けられて海面に浮かぶポリエチレン製ハウジング(14)があって、ハウジング(14)が着水時の衝撃でこのハウジングの底部にセットされたシアプレート(7)が外れて、底部から水中集音器(3)等が開放されて水中に沈み、この水中集音器(3)等はケーブル(11)でハウジング(14)とつながっている海洋計測装置が記載されている。特許文献2では、水中集音器(3)が潜水艦の音を探り、音を検知すると検知信号をケーブル(11)、回路基板(1)、アンテナ(12)経由で送信する。ポリエチレン製ハウジング(14)の側面2か所には水溶性プラスチックの栓(16)が埋め込まれていて、敷設後約8時間で栓(16)が溶解し、ハウジング(14)が(浸水して)沈没する。つまり、特許文献2では、ブイ使用後に水溶性プラスチックの栓を海水で溶かしてブイ(ハウジング)を浸水させて海中に捨ててしまう、「使い捨て型」の思想の海洋計測装置が開示されている。
【0009】
特許文献2の海洋計測装置では、ハウジング(14)とその内容物は、海中に捨てられるが、長期間海中に漂い、そこから環境ホルモンや重金属が溶出して海洋環境を汚染することが懸念される。
【0010】
【特許文献1】特開2004−191268号公報(図1、段落番号0029参照)
【0011】
【特許文献2】米国特許4673363号公報(FIG.2、明細書コラム4 3〜6行、コラム5 1〜2行参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、使用後にセンサ等を海洋に放棄しても海洋環境汚染のおそれのない水中投下型センサシステムを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の課題を解決するために、この発明は、水上に位置された計測処理装置と、上記計測処理装置に接続され信号を伝送する計測処理装置側端子と、水中に投下され、水中で水中情報を計測する水中投下型センサと、上記水中投下型センサに一側が接続され信号を伝送する水中通信ケーブルと、上記水中通信ケーブルの他側に接続され信号を伝送する水中通信ケーブル側端子と、上記計測処理装置側端子と水中通信ケーブル側端子と当接させて通電状態にする端子当接手段とを具備し、水中投下型センサ、水中通信ケーブルおよび水中通信ケーブル側端子は、生分解性材料と環境汚染を起こさない金属材料で構成されている。
【0014】
上記の発明において、上記計測処理装置が、計測用コンピュータ部と、この計測用コンピュータ部と直接または間接に接続されるセンサ投下用アタッチメント・ガンとからなり、センサ投下用アタッチメント・ガンに上記計測処理装置側端子を備える。
【0015】
上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが防水通信ケーブルにより直接接続されており、上記防水通信ケーブルが、複数の絶縁電線を抱き込む発泡性樹脂製のクッションシース、このクッションシースを覆い、上記電線を水密に保護する内部シース、およびこの内部シースを覆い、外力を受けたとき上記内部シースとの間でズレを生じる高弾性の外皮シースの三重シース構造となっているようにし、あるいは、上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが無線手段により直接接続されており、上記無線手段が計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとの間で信号を伝送するようにし、あるいは、上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが、それぞれリムーヴァブル・メモリ取り付け手段を有し、このリムーヴァブル・メモリ取り付け手段にリムーヴァブル・メモリを着脱することにより、計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとの間で間接的に信号を伝送するようにしてもよい。
【0016】
上記の発明において、上記計測処理装置またはセンサ投下用アタッチメント・ガンに自位置経緯度測位センサとデータ表示装置とデータ設定ボタンを備える。
【0017】
上記の発明において、上記計測処理装置またはセンサ投下用アタッチメント・ガンに、上記水中通信ケーブルを巻き置く生分解性材料製の水中ケーブル・ボビンと、投下前の上記水中投下型センサを収納する生分解性材料製のセンサ収納シェルとを着脱自在に備える。
【0018】
上記水中ケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルが、紙製とすれば、これらを水中に投棄しても有害物生成による環境汚染のおそれがない。
【0019】
上記水中通信ケーブルを巻き置いたコイルの内側から巻き戻されるように、水中通信ケーブルが上記水中ケーブル・ボビンに内巻きにして巻き置かれているようにしたり、水中ケーブル・ボビンがテーパ状であるようにすれば、水中投下型センサ投下時のボビンからの高速巻き戻しをスムーズにするために極めて有効である。
【0020】
上記水中通信ケーブル側端子を水中ケーブル・ボビンの後端面に設ければ、水中情報計測後に水中ケーブル・ボビンを水中に投棄する際、水中ケーブル・ボビンの計測処理装置またはセンサ投下用アタッチメント・ガンからの離脱を妨げることがない。
【0021】
上記水中ケーブル・ボビンとセンサ収納シェルとを計測処理装置またはセンサ投下用アタッチメント・ガンに着脱自在に係止するボビン・シェル係止手段を備え、水中情報計測終了後に、この係止手段の係止を解除することにより、水中ケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルを水中通信ケーブル、水中投下型センサとともに水中に投棄するようにすれば、水中通信ケーブルの計測処理装置またはセンサ投下用アタッチメント・ガンからの切り離しが極めて容易になる。
【0022】
上記センサ収納シェルに収納された水中投下型センサをセンサ収納シェルに着脱自在に係止するセンサ係止手段を備え、水中情報計測開始時に、この係止手段の係止を解除することにより、水中投下型センサを水中に落下させ、水中投下型センサの落下につれて水中ケーブル・ボビンから水中通信ケーブルを繰り出していくようにすれば、水中投下型センサの高速落下がスムーズに行なわれる。
【0023】
上記計測処理装置側端子と水中通信ケーブル側端子とのいずれか一方が板ばね状をなし、上記端子当接手段が両端子を当接させるとき板ばね状端子が弾性変形するようにすれば、計測処理装置側端子と水中通信ケーブル側端子の電気的接触が確実で、しかも、切り離しも容易である。
【0024】
上記水中通信ケーブルが、一対の撚り合わせ電力線と、一対の撚り合わせ信号線とからなり、これらの電力線と信号線とを更に撚り合わせたものにすれば、水中通信ケーブルの強度が強まるばかりでなく、しなやかで、水中ケーブル・ボビンからの繰り出しの際の抵抗は低くなり、スムーズな繰り出しを行なえる。
【0025】
上記水中通信ケーブルの絶縁被覆を、生分解性材料で形成すれば、投棄後の水中通信ケーブルの絶縁被覆が水中で速やかに生分解して、環境汚染を起こさない。
【0026】
上記水中投下型センサが、センサ素子と、このセンサ素子が検出する検出データを演算処理して計測データを生成し上記計測用コンピュータ部に送る計測プラットフォームと、上記センサ素子と計測プラットフォームとを覆うセンサ筐体を有し、このセンサ筐体が、ホタテ貝殻微細粉体をホタテ内蔵抽出高分子蛋白質により結着させた生分解性材料で生成されてなるようにすれば、投棄後の水中投下型センサの生分解性材料が水中で速やかに生分解し、センサ素子や計測プラットフォームの金属部分も有害物に変化することがなくて、環境汚染を起こさない。
【0027】
上記センサ筐体に、上記センサ素子のうちの水圧センサ素子を設けた圧力センサ孔と、センサ筐体の外周に落下方向に設けられ、水圧以外の水中情報を検出するセンサ素子と接する溝状のセンサ導水路と、上記水圧以外の水中情報を検出するセンサ素子を表面に保持し上記計測プラットフォームを内部に包み込んだ生分解性材料製の圧力緩衝ゲルとを有するようにし、更に、上記センサ導水路がセンサ筐体の外周に複数設けられ、それぞれのセンサ導水路に圧力緩衝ゲルに保持されたセンサ素子が面するようにすれば、高速落下中の水中投下型センサの各センサ素子が海水に接して水圧、温度等の水中情報をリアルタイムに検出でき、しかも、センサ導水路や圧力センサ孔の水圧が圧力緩衝ゲルにより緩衝されるから計測プラットフォームが水圧で損傷することがない。
【0028】
上記センサ導水路を、センサ筐体尾部に設けた水中落下中の姿勢安定用フィンと一線上に配置し、あるいは、上記センサ筐体が、尾部に水中落下中の姿勢安定用フィンを備えた雨滴型に形成され、内部に鉄製の錘を収納すれば、水中投下型センサの水中落下速度を一層上げるのに有効である。
【0029】
上記水中投下型センサに、センサ計測と、センサの較正演算と高速通信とをサポートするプラットフォームシステム、着水センサ素子(加速度センサ素子)、温度センサ素子、絶対圧センサ素子および他の追加のセンサ素子を組み込み、着水検出後、温度と圧力とをリアルタイムに計測し、追加のセンサ素子の計測値を較正して上記計測処理装置に送信するようにすれば、水深が深まるにつれて変化する圧力、温度によって変わっていく他のセンサ素子の圧力、温度による検出値のずれが、水上の計測処理装置にデータを送る前にリアルタイムに較正され、正確な水中情報が得られる。
【0030】
水中投下型センサのセンサ筐体に収納されたセンサ素子としては、標準装備の水温センサ、水圧センサ、加速度センサ(着水センサ)に加えて、電気伝導度センサ、地磁気センサ、濁度センサ、VGAカメラ、VGAカメラの撮影補助に用いる超高輝度LEDサーチライト、超音波ソナーなどを必要に応じて付加センサとして備え、水中落下中の水中投下型センサの周囲の電気伝導度、地磁気、濁度、映像、超音波などの水中情報の計測を行なうことができる。なお、VGAカメラ、サーチライト、超音波ソナーはセンサ筐体外表面に設ければよく、センサ導水路56に設ける必要はない。
【0031】
この発明における「生分解性」には、微生物による分解のほか、環境汚染のおそれのない水溶化、水中への微細粒化を含むものである。
【発明の効果】
【0032】
この発明になる水中投下型センサシステムによれば、使用後海洋中に投棄した水中投下型センサ、水中通信ケーブル等のプラスチック等が速やかに生分解され、有害でない微量の金属類が海洋中に残るだけであるから、海洋環境の汚染を起こすことがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、この発明に係る実施形態を図面を参照して説明する。
【0034】
図1は、この発明の水中投下型センサシステムの構成を模式的に示す説明図、図2(a)、(b)、(c)および(d)は、それぞれこの発明に用いる計測処理装置の構成を説明する説明図、図3は、防水・防塩通信ケーブルを示す横断面図、図4は、図1のアタッチメント・ガンに、センサーカートリッジを組み付けた状態を示す説明図、図5は、図4のセンサーカートリッジを示す説明図、図6は、図1の水中投下型センサを示し、(a)は縦断面図、(b)は図6(a)のB矢視図、(c)は図6(a)のC矢視図、図7は、図1の水中通信ケーブルを示す説明図である。
【0035】
図1において、1は、水上、たとえば、船舶2上に設置された汎用パソコン等の計測用コンピュータ部、3は、船舶2上に置かれた防水通信ケーブル、4は、船舶2上の海面を見渡せる適宜位置の船縁に配備されたセンサ投下用アタッチメント・ガン、5は、水中投下型センサ、6は、水中通信ケーブルである。
【0036】
上記計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4とは、防水通信ケーブル3等により直接または間接に接続されて、この発明の計測処理装置を構成している。
【0037】
図2に、計測処理装置を構成する計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4との種々の接続例を示す。図2(a)は、計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4とを有線接続したものを示し、後に詳細に説明する防水通信ケーブル3による接続がこれに含まれる。図2(b)は、無線通信手段による直接接続を、図2(c)は、リムーヴァブル・メモリを用いた間接的接続をそれそれ示す。図2(d)は、計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4とを一体にまとめた例を示す。有線接続の場合は、計測用コンピュータ部1からセンサ投下用アタッチメント・ガン4へ電力供給ができるが、無線接続やリムーヴァブル・メモリを用いる場合は、センサ投下用アタッチメント・ガン4にも独立の電源を持たせる。
【0038】
図1(すなわち、図2(a))の場合は、上記防水通信ケーブル3は、計測用コンピュータ部1にインタフェースユニット7、USBケーブル8を介して接続されて、計測用コンピュータ部1/センサ投下用アタッチメント・ガン4間の信号の伝送と計測用コンピュータ部1からセンサ投下用アタッチメント・ガン4への電力供給を行なうようになっている。防水通信ケーブル3は、この実施の形態では、海洋上で使われるので、後に詳述するように、防水・防塩構造になっている。
【0039】
図2(b)では、計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4の双方に無線通信装置3aを備えて、相互に信号を伝送する。
【0040】
図2(c)では、計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4の双方にリムーヴァブル・メモリ取り付け手段3bを備えて、このリムーヴァブル・メモリ取り付け手段にUSBメモリのようなリムーヴァブル・メモリ3cを着脱することにより、両者の間で間接的に信号を伝送する。
【0041】
図2(d)では、計測処理装置内部で計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4との間の信号伝達が行なわれる。
【0042】
以下、防水通信ケーブル3により、計測用コンピュータ部1とセンサ投下用アタッチメント・ガン4とを直接接続した計測処理装置を用いた図1の水中投下型センサシステムについて、説明を続ける。
【0043】
上記水中投下型センサ5は、上記センサ投下用アタッチメント・ガン4により海水中に投下され、水中を落下中に水深、水圧等の水中情報を計測するものである。この水中投下型センサ5は、後に詳述するように、生分解性材料と環境汚染を起こさない金属材料で構成されている。
【0044】
上記水中通信ケーブル6は、上記水中投下型センサ5と上記防水通信ケーブル3とをセンサ投下用アタッチメント・ガン4経由で連結していて、水中投下型センサ5が検出する水中情報信号を、防水通信ケーブル3経由で計測用コンピュータ部1に伝送するものである。この水中通信ケーブル6は、後に詳述するように、水中投下型センサ5がセンサ投下用アタッチメント・ガン4により海水中に投下され、水中を落下していくとき、船上から、この実施の形態では、センサ投下用アタッチメント・ガン4に取り付けられたセンサーカートリッジ9の水中ケーブル・ボビン9aから、繰り出されていく。この水中通信ケーブル6の導線の絶縁被覆は、後に詳述するように、生分解性材料でなっている。
【0045】
[防水通信ケーブル]
次に、図3を参照して、上記防水通信ケーブル3の構成を詳細に説明する。防水通信ケーブル3は、船舶2の甲板上で波浪を受ける、船員や漁労機械に乗られるなど、種々の悪環境に耐える必要があり、三重シース構造としてある。
【0046】
すなわち、絶縁電線31の外周を発泡性樹脂製のクッションシース32が抱き込み、その外周を引っ張りに強い弾性材料製の内部シース33が水密に覆っている。更に、この内部シース33の外周に−5℃程度の低温でも弾性を維持する高弾性材料製の外皮シース34が被せてある。
【0047】
上記クッションシース32は、外圧が掛かると絶縁電線31の隙間を埋め込むように変形して空間を埋め、水分などの侵入を防ぐ。上記内部シース33は、衝撃や強い曲げ外力を受けても破損することなく内部の絶縁電線31を水密に守る。また、上記外皮シース34は、内部シース33と「ずれる」ことで、漁労機械などによる衝撃や強い曲げ外力に耐えることができる。
【0048】
このような三重シース構造の防水通信ケーブル3は、充分な防水性、強度があり、甲板上の長時間の波浪中浸漬、極低温、衝撃外力、曲げ外力に充分耐え、内部の絶縁電線31を機械的に守って、過酷な条件下でも確実に信号を伝送することができる。特に、この実施の形態では、海洋で用いるので更に防塩性も高めてある。
【0049】
[センサ投下用アタッチメント・ガン]
センサ投下用アタッチメント・ガン4の主な役割は、(1)センサ収納シェルに拘束収納された水中投下型センサ5を水中に向けて落下させる、(2)落下された水中投下型センサ5の水中落下状況、計測状況をオペレータに知らせる、(3)計測終了後、水中投下型センサ5を、水中通信ケーブル6、センサ収納シェル9b、水中ケーブル・ボビン9aとともに、水中に投棄する、である。
【0050】
センサ投下用アタッチメント・ガン4について、図4および図5を参照して詳細に説明する。
【0051】
図4において、9はセンサーカートリッジ、9aおよび9bは、このセンサーカートリッジ9を構成する水中ケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルである。すなわち、水中ケーブル・ボビン9aの前部にセンサ収納シェル9bが固定されている。これらの水中ケーブル・ボビン9aおよびセンサ収納シェル9bは生分解性材料を用いた再生厚紙製である。再生厚紙に用いた生分解性材料は、再生厚紙パルプにホタテ貝殻の微粉末を混入したもので、パルプそのものの機械的強度を維持しつつ、水中で速やかに微細化し、再生厚紙の溶解を促進する。
【0052】
センサ投下用アタッチメント・ガン4は、ベースアーム部4aとスライドアーム部4bのフック4cとで水中ケーブル・ボビン9aを挟み込んで、センサーカートリッジ9を着脱自在に取り付けている。より詳細に説明すると、スライドアーム部4bは、ベースアーム部4aの図示しない摺動案内に沿って図の左右方向に摺動可能となっていて、ベースアーム部4a側に最も寄ったとき、図示しないロック手段によりロックされてその摺動が禁止され、図4(a)のように、ベースアーム部4aと一体になり、ベースアーム部4aとスライドアーム部4bとが水中ケーブル・ボビン9aを挟み込んで、ボビン9aとセンサ収納シェル9bとをセンサ投下用アタッチメント・ガン4に係止する。すなわち、ロック手段、ベースアーム部4aおよびスライドアーム部4bが、この発明のボビン・シェル係止手段を構成している。
【0053】
一方、このロックを解除してスライドアーム部4bを図5(a)の矢印R方向に摺動させて、ベースアーム部4aから離すと、後述する計測処理装置側端子(センサ投下用アタッチメント・ガン側端子)45と水中通信ケーブル端子6bとが離れて導通を絶ち、図4(b)のように、ヒンジ4dを旋回軸として重力により旋回して下方に曲がり、図4(b)より更に旋回すると、センサーカートリッジ9は、スライドアーム部4bのフック4cとの引っ掛かりが外れて、センサ投下用アタッチメント・ガン4から開放されるようになっている。
【0054】
ボビン・シェル係止手段は、この実施の形態に限らず適宜の構造としてよいし、誤操作(係止解除操作)防止用の安全装置を付加するのもよい。
【0055】
上記ベースアーム部4aには、電子基板・センサ類の収納ボックス41となっていて、その上部には、GPSセンサ(自位置経緯度測位センサ)42とデータ表示装置43とデータ設定ボタン44が備えられている。上記データ表示装置43は、図示は省略するが、水中投下型センサ5の投下作業手順と投下状態を表示するLEDドットパネル式表示器とセンサの情報、GPSセンサ42により計測される投下位置を表示する液晶式表示器とからなっている。データ設定ボタン44は、データ表示装置43を監視しながらオペレータがこれを操作して、水中投下型センサ5の投下指示、データ保存操作、計測終了指示、水中投下型センサ5の投棄指示等を行なうためのものである。
【0056】
図5に、センサーカートリッジ9の詳細を示す。図5において、センサ収納シェル9bの内筒内には、投下前の水中投下型センサ5が収納され、その胴部に紙製のセンサ固定バンド11を巻き付けてセンサ収納シェル9bの内筒に固定している。これにより、水中投下型センサ5は落下しないように係止される。センサ固定バンド11にはリリースピン12が取り付けられていて、このリリースピン12を矢印Pの方向に引くと紙製のセンサ固定バンド11がちぎれて係止が解除され、水中投下型センサ5は水中に向けて落下するようになっている。つまり、センサ固定バンド11とリリースピン12とが、水中投下型センサ5を着脱自在に係止するセンサ係止手段を構成している。なお、センサ係止手段は、この実施の形態に限らず適宜の構造としてよいし、誤操作(係止解除操作)防止用の安全装置を付加するのもよい。
【0057】
上記水中ケーブル・ボビン9aの内筒ボビン部9cは、センサ収納シェル9bに向けて拡がるテーパ状をなし、ここに水中通信ケーブル6を巻いた円錐台形の中空コイル6aが収納されている。この中空コイル6aの大径側内周に位置する水中通信ケーブル6の一端は、コイルから引き出されて水中投下型センサ5に接続され、小径側外周に位置する水中通信ケーブル6の他端は、水中ケーブル・ボビン9aの後端面に設けた水中通信ケーブル端子6bに接続されている。水中通信ケーブル6は、後述するように、図5(b)に示すように、絶縁線61〜64(後に詳述)を撚り合わせてなっており、これらの各絶縁線61〜64を分岐させて対応する水中通信ケーブル端子6bに接続してある。水中投下型センサ5がセンサ収納シェル9bから離れて投下されると、水中投下型センサ5につながった水中通信ケーブル6は、水中ケーブル・ボビン9aから引き出され、水中通信ケーブル6が中空コイル6aからの内側から巻き戻されていく。つまり、水中通信ケーブル6を巻き置いたコイル6aの内側から巻き戻されるように、水中通信ケーブル6が水中ケーブル・ボビン9aに内巻きにして巻き置かれている。
【0058】
上記水中通信ケーブル端子6bはアルミ箔、センサ固定バンド11は紙、リリースピン12はアルミニウムを用い、これらは、水中に投棄されても海洋環境を汚染するおそれがないようにしている。
【0059】
なお、この実施の形態では、内巻きのボビンを用いているが、外巻きのボビンを用いることも可能である。この場合は、ボビンのテーパ形状をセンサ収納シェル9bに向けてすぼまるテーパ状とし、その外周に水中通信ケーブル6を巻き付けてコイル状とし、コイルの小径側外周の水中通信ケーブル6の一端を、水中投下型センサ5に接続し、大径側内周の水中通信ケーブル6の他端を、水中通信ケーブル端子6bに接続する。この外巻きボビン方式は、内巻きボビン方式よりは水中通信ケーブル6をほぐす際の抵抗が大きくなりやすく、また、ケーブル・コイルや水中投下型センサ5のセッティングの際ほつれやすいので、この実施の形態の内巻きボビン方式の方が好ましい。
【0060】
水中ケーブル・ボビンをテーパ状として、これにより、そこに巻き付けるケーブル・コイル6aをテーパ状とすることは、水中投下型センサ5投下時のボビンからの高速巻き戻しをスムーズにするために極めて有効である。
【0061】
上記水中通信ケーブル端子6bに対向して、センサ投下用アタッチメント・ガン4の収納ボックス41外端面には計測処理装置側端子(センサ投下用アタッチメント・ガン側端子)45が設けられ、これらの計測処理装置側端子45は、収納ボックス41の電子基板に接続され、信号を伝送するようになっている。水中通信ケーブル端子6bと計測処理装置側端子45のいずれか一方(この実施の形態では、計測処理装置側端子45)は板ばね状となっていて、スライドアーム部4bがベースアーム部4a側に摺動してロック手段によりロックされたとき、板ばね状の端子が弾性変形して計測処理装置側端子45と水中通信ケーブル端子6bとが当接し通電状態になる。これにより、水中通信ケーブル6の各電線が、収納ボックス41の電子基板経由で、防水通信ケーブル3の対応する各電線と導通して信号や電力を伝達する。つまり、ベースアーム部4aに対するスライドアーム部4bの摺動案内とフック4cとロック手段とが、計測処理装置側端子45と水中通信ケーブル側端子6bとの端子当接手段を構成している。
【0062】
46はカートリッジガイド溝で、このカートリッジガイド溝46は、スライドアーム部4bから突出したピン(図示省略)と係合させてある。カートリッジガイド溝46は、水中通信ケーブル端子6bと計測処理装置側端子45との角度位置を合わせるためのもので、また、センサ投下用アタッチメント・ガン4内でセンサーカートリッジ9が軸線回りに回転して水中通信ケーブル端子6bと計測処理装置側端子45とがずれるのを防ぐ。
【0063】
上記防水通信ケーブル3と水中通信ケーブル6とは、この実施の形態では、上述のように、上記センサ投下用アタッチメント・ガン4経由で接続されていて、ひとりのオペレータがセンサ投下用アタッチメント・ガン4を操作することにより、水中投下型センサ5の投下状況、水中通信ケーブル6の繰り出し状況確認、計測確認、計測終了後の水中通信ケーブル6の切り離しなどを行なうことができる。なお、防水通信ケーブル3と水中通信ケーブル6との接続を、センサ投下用アタッチメント・ガン4とは別の場所で行ない、別の防水通信ケーブルでセンサ投下用アタッチメント・ガン4と計測用コンピュータ部1とを接続することもできるが、この場合は、水中通信ケーブル6の繰り出し確認、計測終了後の水中通信ケーブル6の切り離しをセンサ投下用アタッチメント・ガン4から離れた位置で行うことになり、もうひとりのオペレータが必要になる。
【0064】
[水中投下型センサ]
次に、水中投下型センサ5の構成について、図6を参照して詳細に説明する。上記水中投下型センサ5は、センサ筐体51、シリコン膜式の水圧(絶対圧)センサ素子52a、水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52d、計測プラットフォーム(電子回路基板)53および錘54を有している。また、図示は省略するが、センサ5の適宜の位置に加速度センサ素子を有している。
【0065】
上記センサ筐体51は、ホタテ貝殻微細粉体をホタテ内蔵抽出高分子蛋白質により結着させた生分解性材料で生成されている。また、このセンサ筐体51は、計測プラットフォーム53、錘54等を内部に組み込むために、縦に二つ割りになっていて、組み込み後、接着するようになっているが、その接着剤も、トウモロコシから抽出された高分子タンパク繊維でなる生分解性材料製である。
【0066】
生分解性材料を用いたセンサ筐体51の製造工程を以下に概略説明する。この実施の形態の生分解性材料は海産生物由来の材料で、先ずホタテ貝殻を天火または200℃以下で低温加熱して脱水処理し、これをボールミル方式で粉砕処理して粒径10〜50μmの微細球状粉体に加工する。上記脱水処理によれば貝殻中のカルシウム分のアルカリ湧出を起こさない。このホタテ貝殻微細粉体に、ホタテ内蔵抽出高分子蛋白質(高濃度コラーゲン質またはゼラチン質)を加え、混練して所望の形状に成形し、微細球状粉体を結着する。形成された材料は、微細球状粉体が互いによく密着し、これらの微細隙間にホタテ内蔵抽出高分子蛋白質がその優れた圧力浸透性をもって浸透して強力に結着している。
【0067】
このホタテ由来の生分解性材料は、海洋中に投棄しても海洋環境に悪い影響を与えることがなく、速やかに生分解され、その過程で海中に散った微細粒は甲殻類の良い餌にもなる。
【0068】
上記センサ筐体51は、高速落下中の姿勢を安定させる複数(この実施の形態では、等間隔に4箇所)の姿勢安定用フィン55、55を尾部に備えた雨滴型に形成され、その内部に収納された上記センサ素子52a、52b、52c、52d、計測プラットフォーム53および錘54を覆っている。
【0069】
上記姿勢安定用フィン55は、スルメイカが摂餌行動時に展開する頭部外套膜と同等の流体効果を有するエンペラ形状になっていて、高速鉛直落下の際、横方向からの水の動きに対して姿勢が崩れないようになっている。
【0070】
上記センサ筐体51の外周には、落下方向(長手方向)に溝状の複数(この実施の形態では、等間隔に4箇所)のセンサ導水路56、56が設けられ、これらのセンサ導水路56の各中央付近底部に面して上記水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52dが配置固定され、水中投下型センサ5の落下の際、センサ導水路56内に生じる海水流とセンサ素子が接して、水温、電気伝導度および濁度が検知されるようになっている。水中投下型センサ5の水中落下速度が速くても、落下速度に応じてセンサ導水路56内の水流速度が速まるから、センサ導水路56に接したセンサ素子の水中情報検出にタイムラグが生じることはほとんどない。
【0071】
各センサ導水路56には、この実施の形態では、図に示すように、最大2個のセンサ素子を設置できる。なお、各センサ素子の配置は、適宜選択してよく、たとえば、検出値のバランスが取れるように対称形にしたり、ひとつのセンサ導水路56に複数種のセンサ素子を並べたりしてもよい。また、センサ素子の種類も、加速度センサ、地磁気センサ、VGAカメラ、超音波ソナーなど他の追加のセンサ素子を、必要に応じて、選択することができる。
【0072】
上記複数の姿勢安定用フィン55とセンサ導水路56とは、この実施の形態では、図に示すように、各一線上に配置され、センサ導水路56の海水流が姿勢安定用フィン55の背中に沿って流れるようになっていて、水中投下型センサ5の姿勢保持に有効に作用している。
【0073】
上記センサ筐体51の頭部先端から中央部にかけて圧力センサ孔57が穿たれており、この圧力センサ孔57の中央部側は上記計測プラットフォーム53を包んだ圧力緩衝ゲル58(後に詳述)表面に開口している。この圧力緩衝ゲル58表面に近い圧力センサ孔57の内壁には、上記シリコン膜式の水圧センサ素子52aが形成されていて、水圧センサ素子52aが圧力センサ孔57に侵入している海水の静水圧を検知するようになっている。水圧センサ素子52aを圧力センサ孔57内に配置する理由は、水中投下型センサ5の高速落下により発生する気泡や水流の圧力感知面への接触によって検出圧力が変化し、正確な静水圧が計測できないからである。
【0074】
59は、水中通信ケーブル6を通すケーブル孔で、このケーブル孔59は、センサ筐体51の尾部から上記圧力緩衝ゲル58表面まで貫通していて、ケーブル孔59経由で水中通信ケーブル6が計測プラットフォーム53の入出力端子に接続されている。
【0075】
上記計測プラットフォーム53は、上記加速度センサ素子、水圧センサ素子52a、水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52cおよび濁度センサ素子52dが検出する水温、水圧、電気伝導度、濁度の検出データを各々計測データに演算処理して上記計測用コンピュータ部1に送るものである。その際、計測プラットフォーム53では、電気伝導度センサ素子52cおよび濁度センサ素子52dの検出値が温度と圧力の影響を受けて若干変動するものであるから、温度検出値と圧力検出値を用いて電気伝導度検出値、濁度検出値を較正している。なお、他のセンサ素子を用いる場合も、そのセンサ素子が温度や圧力の影響を受けるものであれば、同様の較正処理を行う。この較正処理を水中投下型センサ5内の計測プラットフォーム53で行なって、その後計測処理装置にデータを送る理由は、高速落下中に検出するセンサ素子の温度検出値、圧力検出値と他の検出値との較正処理のタイムラグをなくし、リアルタイムの計測が正確にできるようにするためである。
【0076】
上記計測プラットフォーム53の基板はジャガイモセルロース繊維を用いた生分解性材料製であり、その銅箔(プリント回路)に電子部品を実装後、ゼイン・タンパク質をベースとした撥水性の蛋白質を塗布して絶縁被膜を形成する。実装部品を基板上に偏りなく配置すると、基板に加わる外力による基板、銅箔、電子部品間の剥離などの応力破壊を防止できる。電子部品などを含む計測プラットフォーム53は、生分解性材料のほかに銅、金、銀、錫などが少量使われており、センサ素子にも白金等が使われているが、これらは海洋に放置しても特に海洋環境を汚染するものではない。
【0077】
基板、銅箔、実装電子部品上に絶縁被膜を塗布された計測プラットフォーム53は、高弾性材料製の球形状の圧力緩衝ゲル58に包み込まれて、センサ導水路56、圧力センサ孔57やケーブル孔59から加わる高い水圧に耐えられるようになっている。また、水温センサ素子52b、電気伝導度センサ素子52c、濁度センサ素子52dは圧力緩衝ゲル58外面に保持されて、上記センサ導水路56に面している。
【0078】
圧力緩衝ゲル58の高弾性材料としては、海洋生物由来で高生分解性のコラーゲン質またはゼラチン質の高分子蛋白質を用いる。
【0079】
上記錘54は、水中投下型センサ5を速く落下させ、落下姿勢を安定させるためのものであって、銑鉄製で、センサ筐体51の頭部側に配置されている。なお、錘54の中心を上記圧力センサ孔57が貫通している。
【0080】
この発明の水中投下型センサは、センサ筐体51が比較的密度の小さい生分解性樹脂などの生分解性材料製であるにもかかわらず、その雨滴型形状と錘54と姿勢安定用フィン55とにより水中を2〜4m/sec.の速度で安定して落下していき、水深500mまでなら約2〜4分程、2000mなら8〜17分程で各種の水中情報をほぼ連続的に、あるいは、ほぼ等間隔の水深において計測していくことができる。なお、上記2〜4m/sec.の落下速度は、後述する水中通信ケーブル6の非常に軽くスムーズな繰り出しが寄与して実現されるものである。
【0081】
[水中通信ケーブル]
次に、水中投下型センサ5と防水通信ケーブル3とを連結し、水中投下型センサ5が検出する水圧、水温等の水中情報信号を計測用コンピュータ部1に伝送する水中通信ケーブル6の構成について、図7を参照して詳細に説明する。上記水中通信ケーブル6は、銅の芯線を絶縁被覆してなる4色に色分けされた4本の絶縁線61〜64を撚り合わせてなっている。なお、この水中通信ケーブル6は、水中投下型センサ5投下時のボビンからの高速巻き戻しをスムーズにするため、陸上用ケーブルに通常用いられるシース等の絶縁被覆で包んではいないし、絶縁被覆は薄くしてある。
【0082】
図7(a)および(b)は、水中通信ケーブル6の撚りを一部ほぐして絶縁線61、62と絶縁線63、64に分解して、模式的に示している。上記絶縁線61、62は、計測用コンピュータ部1から水中投下型センサ5の計測プラットフォーム53へ電力を供給する電力線、絶縁線63、64は、計測プラットフォーム53から計測用コンピュータ部1へ水中情報信号を伝送する信号線である。2本の電力線61、62と2本の信号線63、64とは、図7(a)に示すように、それぞれ同じ向きに硬撚りされ、硬撚りされた電力線61、62と信号線63、64とは、図7(b)に示すように、ピッチp=20〜30mmで反対向きにソフト撚りされて、水中通信ケーブル6が形成されている。
【0083】
上記各絶縁線61〜64は、それぞれ生分解性のエマルジョン化したセルロース・タンパク混合型のウレタン樹脂の絶縁被覆で銅芯を被覆したもので、銅芯断面積約0.0225m2 、ウレタン被覆厚0.7〜1μmである。水中投棄後の生分解を促進するために、このウレタン被覆の表面には起伏を付けて表面積を大きくしてある。
【0084】
絶縁線61〜64のウレタン被覆厚を0.7〜1μmと非常に薄くしたのは、水中通信ケーブル6をしなやかにして、上述のボビンからのスムーズな高速巻き戻しを可能とするばかりでなく、使用後に海水中に投棄した水中通信ケーブル6の絶縁被覆がすみやかに生分解して消滅することを可能とするためである。
【0085】
[計測]
この発明の水中投下型センサシステムによる水中情報の計測操作を以下に説明する。
オペレータは、センサ水中投下用アタッチメント・ガン4のデータ表示装置43が示すGPSセンサ42の経緯度計測値がデータ設定ボタン44で予め設定した予定の値であることを確かめて、水中投下型センサ5を水中に投下する。すなわち、リリースピン12を矢印P方向に引いてセンサ固定バンド11を引きちぎって、センサ係止手段の係止を解除する。これにより、水中投下型センサ5は、尾部に水中通信ケーブル6をつなげた状態で、自重で落下する。なお、使用状況により自重での落下が困難ならば、水中投下型センサ発射装置を設けてもよい。
【0086】
水中投下型センサ5が着水すると加速度センサ素子から大きい加速度値が検出され、データ表示装置43に着水した旨の表示がされる。次いで、図1(a)に示すように、水中投下型センサ5が水中を落下していくと、各センサ素子の検出値が計測プラットフォーム53で較正され、較正されたデータが水中通信ケーブル6を経由して、センサ水中投下用アタッチメント・ガン4と計測用コンピュータ部1に送られてくる。データは水中投下型センサ5の落下中、リアルタイムで順次計測され送られてくる。センサ水中投下用アタッチメント・ガン4のデータ表示装置43には、これらのデータが表示され、オペレータがこれを見て計測が進行していることを確認できる。
【0087】
水中投下型センサ5の落下が始まると、これにつながった水中通信ケーブル6は、水中ケーブル・ボビン9aの中空コイル6aの内側から巻き戻されていく。水中通信ケーブル6のしなやかさ、中空コイル6aのテーパ形状の故に、ボビン9aからの巻き戻しは非常に軽く抵抗なくスムーズに行なわれる。
【0088】
水中情報の計測は、データ設定ボタン44で予め設定された水深に水中投下型センサ5が到達するまで行なって終了するか、オペレータが計測状況を判断して終了するか、あるいは、できるだけ深いところまで計測する場合には、水中通信ケーブル6がボビン9aから巻き戻し終わったとき、または、水中投下型センサ5が海底に衝突して、加速度センサ素子が再び大きい加速度を検出したときに終了する。
【0089】
[センサ投棄]
計測終了を確認すると、オペレータは水中投下型センサ5の投棄操作を行なう。オペレータのデータ設定ボタン44操作により、水中ケーブル・ボビン9aのロックを解除すると、自重でスライドアーム部4bが矢印R方向にスライドして、計測処理装置側端子(センサ投下用アタッチメント・ガン側端子)45と水中通信ケーブル端子6bとが離れて導通が絶たれ、更に、図4(b)に示すように、スライドアーム部4bがヒンジ4d回りに旋回していくと、センサーカートリッジ9がセンサ投下用アタッチメント・ガン4から離脱し水中に落下して、センサーカートリッジ9、水中通信ケーブル6および水中投下型センサ5が、水中に投棄される。この投棄操作は非常に簡単、安全で、従来のように、水中通信ケーブル6を手作業で切断する作業を必要としない。
【0090】
図1(b)のように、水中に沈んだセンサーカートリッジ9、水中通信ケーブル6および水中投下型センサ5は、時間の経過とともに、生分解が進んで生分解性材料が消滅し、無害な金属部分が残る。よって、海洋環境の汚染を起こすおそれがない。
【0091】
この発明の水中投下型センサシステムにおいて、計測用コンピュータ部、センサ投下用アタッチメント・ガンは、船舶上に設置するほか、計測目的に応じて深い海や湖沼に直接面した岸壁などに設置して使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】この発明の水中投下型センサシステムの構成を模式的に示す説明図で、(a)は、センサが海水中に投下され水中を落下中に計測している状態を、(b)は、計測終了後切り離されたセンサが海底に沈み、生分解進行前の状態をそれぞれ示す。
【図2】(a)、(b)、(c)および(d)は、それぞれこの発明に用いる計測処理装置の構成を説明する説明図。
【図3】図1の防水・防塩通信ケーブルを示す横断面図。
【図4】図1のアタッチメント・ガンに、センサーカートリッジを組み付けた状態を示す説明図で、(a)はセンサーカートリッジ係止状態を、(b)はセンサーカートリッジ係止解除状態を示す。
【図5】図4のセンサーカートリッジを示す説明図で、(a)は縦断面図、(b)は(a)のB−B矢視図。
【図6】図1のセンサを示し、(a)は縦断面図、(b)は図6(a)のB矢視図、(c)は図6(a)のC矢視図。
【図7】図1の水中通信ケーブルを示す説明図。
【符号の説明】
【0093】
1 計測用コンピュータ部
2 船舶
3 防水通信ケーブル
4 センサ投下用アタッチメント・ガン
4a ベースアーム部
4b スライドアーム部
4c フック
4d ヒンジ
5 水中投下型センサ
6 水中通信ケーブル
6a 中空コイル
6b 水中通信ケーブル端子
7 インタフェースユニット
8 USBケーブル
9 センサーカートリッジ
9a 水中ケーブル・ボビン
9b センサ収納シェル
11 センサ固定バンド
12 リリースピン
31 絶縁電線
32 クッションシース
33 内部シース
34 外皮シース
41 収納ボックス
42 GPSセンサ(自位置経緯度測位センサ)
43 データ表示装置
44 データ設定ボタン
45 計測処理装置側端子
46 カートリッジガイド溝
51 センサ筐体
52a、52b、52c、52d センサ素子
53 計測プラットフォーム
54 錘
55 姿勢安定用フィン
56 センサ導水路
57 圧力センサ孔
58 圧力緩衝ゲル
59 ケーブル孔
61、62 電力線(絶縁線)
63、64 信号線(絶縁線)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水上に位置された計測処理装置と、
上記計測処理装置に接続され信号を伝送する計測処理装置側端子と、
水中に投下され、水中で水中情報を計測する水中投下型センサと、
上記水中投下型センサに一側が接続され信号を伝送する水中通信ケーブルと、
上記水中通信ケーブルの他側に接続され信号を伝送する水中通信ケーブル側端子と、
上記計測処理装置側端子と水中通信ケーブル側端子と当接させて通電状態にする端子当接手段と
を具備し、
水中投下型センサ、水中通信ケーブルおよび水中通信ケーブル側端子は、生分解性材料と環境汚染を起こさない金属材料で構成されていることを特徴とする水中投下型センサシステム。
【請求項2】
上記計測処理装置が、計測用コンピュータ部と、この計測用コンピュータ部と直接または間接に接続されるセンサ投下用アタッチメント・ガンとからなり、センサ投下用アタッチメント・ガンに上記計測処理装置側端子が備えられた請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項3】
上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが防水通信ケーブルにより直接接続されており、上記防水通信ケーブルが、複数の絶縁電線を抱き込む発泡性樹脂製のクッションシース、このクッションシースを覆い、上記電線を水密に保護する内部シース、およびこの内部シースを覆い、外力を受けたとき上記内部シースとの間でズレを生じる高弾性の外皮シースの三重シース構造となっている請求項2記載の水中投下型センサシステム。
【請求項4】
上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが無線手段により直接接続されており、上記無線手段が計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとの間で信号を伝送する請求項2記載の水中投下型センサシステム。
【請求項5】
上記計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとが、それぞれリムーヴァブル・メモリ取り付け手段を有し、このリムーヴァブル・メモリ取り付け手段にリムーヴァブル・メモリを着脱することにより、計測用コンピュータ部とセンサ投下用アタッチメント・ガンとの間で間接的に信号を伝送する請求項2記載の水中投下型センサシステム。
【請求項6】
上記計測処理装置に自位置経緯度測位センサとデータ表示装置とデータ設定ボタンが備えられた請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項7】
上記センサ投下用アタッチメント・ガンに自位置経緯度測位センサとデータ表示装置とデータ設定ボタンが備えられた請求項2記載の水中投下型センサシステム。
【請求項8】
上記計測処理装置に、上記水中通信ケーブルを巻き置く生分解性材料製の水中ケーブル・ボビンと、投下前の上記水中投下型センサを収納する生分解性材料製のセンサ収納シェルとが着脱自在に備えられた請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項9】
上記センサ投下用アタッチメント・ガンに、上記水中通信ケーブルを巻き置く生分解性材料製の水中ケーブル・ボビンと、投下前の上記水中投下型センサを収納する生分解性材料製のセンサ収納シェルとが着脱自在に備えられた請求項2記載の水中投下型センサシステム。
【請求項10】
上記水中ケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルが、紙製である請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項11】
上記水中通信ケーブルを巻き置いたコイルの内側から巻き戻されるように、水中通信ケーブルが上記水中ケーブル・ボビンに内巻きにして巻き置かれている請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項12】
上記水中ケーブル・ボビンがテーパ状である請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項13】
上記水中通信ケーブル側端子が水中ケーブル・ボビンの後端面に設けられた請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項14】
上記水中ケーブル・ボビンとセンサ収納シェルとを計測処理装置に着脱自在に係止するボビン・シェル係止手段を備え、水中情報計測終了後に、この係止手段の係止を解除することにより、水中ケーブル・ボビンおよびセンサ収納シェルを水中通信ケーブル、水中投下型センサとともに水中に投棄するようになっている請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項15】
上記センサ収納シェルに収納された水中投下型センサをセンサ収納シェルに着脱自在に係止するセンサ係止手段を備え、水中情報計測開始時に、この係止手段の係止を解除することにより、水中投下型センサを水中に落下させ、水中投下型センサの落下につれて水中ケーブル・ボビンから水中通信ケーブルを繰り出していくようになっている請求項8または9記載の水中投下型センサシステム。
【請求項16】
上記計測処理装置側端子と水中通信ケーブル側端子とのいずれか一方が板ばね状をなし、上記端子当接手段が両端子を当接させるとき板ばね状端子が弾性変形する請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項17】
上記水中通信ケーブルが、一対の撚り合わせ電力線と、一対の撚り合わせ信号線とからなり、これらの電力線と信号線とを更に撚り合わせた請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項18】
上記水中通信ケーブルの絶縁被覆が、生分解性材料でなる請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項19】
上記水中投下型センサは、センサ素子と、このセンサ素子が検出する検出データを演算処理して計測データを生成し上記計測用コンピュータ部に送る計測プラットフォームと、上記センサ素子と計測プラットフォームとを覆うセンサ筐体を有し、このセンサ筐体が、ホタテ貝殻微細粉体をホタテ内蔵抽出高分子蛋白質により結着させた生分解性材料で生成されてなる請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項20】
上記センサ筐体に、上記センサ素子のうちの水圧センサ素子を設けた圧力センサ孔と、センサ筐体の外周に落下方向に設けられ、水圧以外の水中情報を検出するセンサ素子と接する溝状のセンサ導水路と、上記水圧以外の水中情報を検出するセンサ素子を表面に保持し上記計測プラットフォームを内部に包み込んだ生分解性材料製の圧力緩衝ゲルとを有する請求項19記載の水中投下型センサシステム。
【請求項21】
上記センサ導水路がセンサ筐体の外周に複数設けられ、それぞれのセンサ導水路に圧力緩衝ゲルに保持されたセンサ素子が面している請求項20記載の水中投下型センサシステム。
【請求項22】
上記センサ導水路が、センサ筐体尾部に設けた水中落下中の姿勢安定用フィンと一線上に配置された請求項21記載の水中投下型センサシステム。
【請求項23】
上記センサ筐体が、尾部に水中落下中の姿勢安定用フィンを備えた雨滴型に形成され、内部に鉄製の錘を収納した請求項19記載の水中投下型センサシステム。
【請求項24】
上記水中投下型センサに、センサ計測と、センサの較正演算と高速通信とをサポートするプラットフォームシステムが組み込まれている請求項1記載の水中投下型センサシステム。
【請求項25】
上記プラットフォームシステムに、着水センサ素子、温度センサ素子および絶対圧センサ素子、更に、追加のセンサ素子が組み込まれた請求項24記載の水中投下型センサシステム。
【請求項26】
上記プラットフォームシステムは、着水検出後、温度と圧力とをリアルタイムに計測し、追加のセンサ素子の計測値を較正して上記計測処理装置に送信する請求項25記載の水中投下型センサシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−89313(P2008−89313A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−267057(P2006−267057)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【特許番号】特許第3936386号(P3936386)
【特許公報発行日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(399121553)株式会社エスイーシー (4)
【Fターム(参考)】