説明

水中機器の水深調整装置

【課題】短時間で簡単かつ確実で安全に、水中機器の水深を水中で調整できるように工夫した水中機器の水深調整装置を提供する。
【解決手段】水底2aに設置されるアンカー33と水中で保持される散気孔部材7とは、リンクチェーン34で連結されるとともに、散気孔部材7には、浮力を付与するためのフロート35が取付けられている。リンクチェーン34は、散気孔部材7の水深を調整可能な余長を有する長さに設定されている。リンクチェーン34の先端のリンク部34aは、アンカー33のアンカー側係止金具46(若しくは散気孔部材7の基台36の基台側係止金具44)に、係止具47(若しくは44)で着脱可能に係止されている。余長を含む後端側のいずれかのリンク部34dは、散気孔部材7の基台36の基台側係止金具44(若しくはアンカー33のアンカー側係止金具46に、係止具44(若しくは47)で着脱可能に係止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に配置する水中機器の水深調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図11(a)(b)に示すように、コンプレッサ3から1本のエアーホース5でエアーが供給されるエアータンク4と、このエアータンク4の周囲の水中に分散配置される複数個の散気孔部材(水中機器)7とを備えている。また、各散気孔部材7とエアータンク4とをそれぞれ接続する分岐ホース11を備えた分散型散気装置が本出願人によって提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
各散気孔部材7は、フロート8のロープ9でそれぞれ所定水深の水中に吊り下げられるとともに、ロープ13でダム湖等2の水底2aのアンカー14にそれぞれ係留されている。
【0004】
また、図11(c)に示すように、散気孔部材7は、ロープ20で水底2aに係留するとともに、フロート8のロープ9でそれぞれ所定水深の水中に浮かせるものも提案されている。
【0005】
そして、コンプレッサ3から1本のエアーホース5でエアータンク4にエアーaを供給し、エアータンク4の周囲の水中に分散配置した複数個の散気孔部材7に、エアータンク4から分岐ホース11を介してエアーbをそれぞれ供給して散気するようになる。
【0006】
前記の分散型散気装置は、いずれも、フロート8にロープ9を介して散気孔部材7が連結されている。したがって、水位が変動しても水面から散気孔部材7までの水深(例えば15〜30m)は常に一定であるので、水深が深く(例えば40〜80m)、水位の変動が少ないダム湖等2に適している。
【0007】
一方、水深が浅く(例えば30m)、水位の変動が大きいダム湖等2に適している分散型散気装置として、図12に示すように、複数個の散気孔部材7は、水底2aに設置したアンカー33のリンクチェーン34に連結する。また、各散気孔部材7には、散気孔部材7に浮力を付与して、アンカー33の略真上の水中に保持するためのフロート35を取付けるものが提案されている。なお、エアータンク4は、水底2aのアンカー31にチェーン(若しくはロープ)32で連結されて、水中に潜らせている。
【0008】
この分散散気装置によれば、水底2aから散気孔部材7までの高さを常に一定に維持できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−49215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、水底2aから散気孔部材7までの高さ、つまり、散気孔部材7の水深を調整する必要が生じた場合、潜水夫は、調整する水深に対応する長さの新しいリンクチェーンを水中に持ち込み、水深が約30mのダム湖等2の水底2a付近まで潜って、元のリンクチェーンと掛け替える必要がある。
【0011】
また、ダム湖等2の水底2aには土砂が厚く(数m)堆積して、アンカー33とリンクチェーン34との連結部分が堆積した土砂に埋没していることが多く、しかも水底2aの泥が舞い上がる等して視界がきわめて悪く、手探り状態での作業になることが多い。
【0012】
そのため、短時間で簡単かつ確実で安全に、水中機器の水深を水中で調整できる水深調整装置の開発が要望されている。
【0013】
本発明は、前記要望に応えるためになされたもので、短時間で簡単かつ確実で安全に、水中機器の水深を水中で調整できるように工夫した水中機器の水深調整装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は、水底に設置されるアンカーと水中で保持される水中機器とは、水中機器の水深を維持するリンクチェーンで連結されるとともに、前記水中機器には、浮力を付与して前記アンカーの略真上の水中に保持するためのフロートが取付けられている水中機器の水深調整装置であって、前記リンクチェーンは、前記水中機器の水深を調整可能な余長を有する長さに設定されていて、このリンクチェーンの先端のリンク部は、前記アンカーのアンカー側係止金具若しくは前記水中機器の基台の基台側係止金具に、係止具で着脱可能に係止される一方、余長を含む後端側のいずれかのリンク部は、前記水中機器の基台の基台側係止金具若しくは前記アンカーのアンカー側係止金具に、係止具で着脱可能に係止されていることを特徴とする水中機器の水深調整装置を提供するものである。
【0015】
請求項2のように、前記リンクチェーンの水中機器の基台の基台側係止金具に近いリンク部に、浮力を付与する補助フロートが着脱可能に取付けられている構成とすることができる。
【0016】
請求項3のように、本体側の操作部の手操作で、本体側のフック部と牽引部側のフック部との間の長さを調整可能な可搬式の牽引機と、前記水中機器の基台に取付けられ、前記牽引機の本体側のフック部を着脱可能にフックする基台側フック金具と、前記アンカーに取付けられ、前記牽引機の牽引部側のフック部を着脱可能にフックするアンカー側フック金具とをさらに備え、前記牽引機により前記水中機器を浮力に抗して下降させることで前記リンクチェーンを緩めた状態に保持して、前記係止具の着脱操作で前記リンクチェーンの後端側のリンク部の係止位置を変更できるように構成とすることができる。
【0017】
請求項4のように、前記リンクチェーンの後端側のリンク部に、埋没防止用の第1ロープの一端部が連結され、第1ロープの他端部は、前記基台側フック金具若しくは目印用第1フロートに着脱可能に連結されている構成とすることができる。
【0018】
請求項5のように、前記アンカーのアンカー側フック金具に、延長ロープの一端部が着脱可能に連結され、この延長ロープの他端部に、前記牽引機の牽引部側のフック部を着脱可能にフックできる構成とすることができる。
【0019】
請求項6のように、前記延長ロープの他端部に、埋没防止用の第2ロープの一端部が連結され、第2ロープの他端部は、前記基台側フック金具若しくは目印用第2フロートに着脱可能に連結されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、リンクチェーンには予め余長を設けているから、ダム湖等の水底付近まで潜水夫が潜って、リンクチェーンの係止位置を変える作業を行うだけで、水中機器の水深を調整できるようになる。すなわち、水中機器の水深を調整するために、その水深に対応する長さの新しいリンクチェーンを水中に持ち込んで、元のリンクチェーンと掛け替える必要がないので、短時間で簡単に、かつ確実に水中機器の水深を調整することができる。また、重量のある新しいリンクチェーンをわざわざ水中に持ち込む必要がないので、作業の安全性も高くなる。
【0021】
請求項2によれば、リンクチェーの水中機器の基台の基台側係止金具に近いリンク部に補助フロートを取付けることで、基台側係止金具若しくはアンカーのアンカー側係止金具からリンク部を取り外した際に、その重量でリンクチェーンが水底に堆積した土砂に埋没することを、補助フロートの浮力で未然に防止することができる。また、補助フロートの浮力でリンクチェーンの水中重量を軽減することができる。
【0022】
請求項3によれば、可搬式の牽引機を水中で利用することで、リンクチェーンを緩めた状態に保持することができる。したがって、係止具を着脱操作して、リンクチェーンのリンク部の係止位置を変更する作業、つまり、リンクチェーンの長さを変えることで、水中機器の水深を調整する作業がより短時間で、簡単かつ確実に行えるようになる。この結果、水中機器の水深を水中で調整する作業の安全性がより向上するようになる。また、牽引機は、市販の可搬式のものをそのまま利用できるから、コスト安である。
【0023】
請求項4によれば、水底に置かれている余長のリンクチェーンが堆積した土砂に埋没している場合、または、水底から舞い上がった泥等で視界がきわめて悪く、手探り状態での作業になる場合であっても、水中機器の基台側フック金具若しくは目印用第1フロートに着脱可能に連結されている第1ロープを引っ張る等すれば、リンクチェーンの後端側のリンク部を容易に見つけ出すことができる。
【0024】
請求項5によれば、リンクチェーンの長さ調整範囲が牽引機の牽引部長さよりも短い場合には、牽引機の牽引部側のフック部をアンカーのアンカー側フック金具に直接フックすることができる。しかし、リンクチェーンの長さ調整範囲が牽引機の牽引部長さよりも長い場合には、牽引機の牽引部側のフック部を延長ロープの他端部にフックすることで、リンクチェーンの長さ調整範囲を広げることができる。
【0025】
請求項6によれば、延長ロープの他端部に埋没防止用の第2ロープの一端部を連結し、この第2ロープの他端部を水中機器の基台側フック金具若しくは目印用第2フロートに着脱可能に連結している。したがって、水底に倒れている延長ロープが堆積した土砂に埋没している場合、または、水底から舞い上がった泥等で視界がきわめて悪く、手探り状態での作業になる場合であっても、水中機器の基台側フック金具若しくは目印用第2フロートに着脱可能に連結されている第2ロープを引っ張る等すれば、延長ロープの他端部を容易に見つけ出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る水中機器である分散型散気装置であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】図1の散気孔部材の部分拡大側面図である。
【図3】散気孔部材と基台の平面図である。
【図4】基台とアンカーとの連結部分の側面図である。
【図5】ロープとの関係を示す基台とアンカーとの連結部分の側面図である。
【図6】目印用フロートとの関係を示す基台とアンカーとの連結部分の側面図である。
【図7】牽引機の側面図である。
【図8】牽引機で基台とアンカーとを連結した側面図である。
【図9】散気孔部材の水深を調整したときの側面図である。
【図10】(a)は本発明に係る水中機器である深層曝気装置の側面断面図、(b)は本発明に係る水中機器である空気揚水装置の側面断面図、(c)は本発明に係る水中機器である水中計測機器類の側面図である。
【図11】背景技術の分散型散気装置であり、(a)は平面図、(b)は側面図、(c)は変形例の側面図である。
【図12】背景技術の別の変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、散気孔部材(水中機器)7を有する分散型散気装置30の実施形態であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【0028】
ダム湖等2の堤体上にコンプレッサ3が設置されている。また、エアータンク4は、水底2aに設置されたアンカー31のチェーン(若しくはロープ)32に連結されて、水中に潜らせている。エアータンク(水中機器)4の水深は、後述する散気孔部材7と略同程度が好ましく、後述する散気孔部材7の水深の調整方法と同様の方法で水深の調整が可能である。
【0029】
堤体上のコンプレッサ3と水中のエアータンク4の下部とは、水底2aに敷設された1本のエアーホース5で接続されていて、この1本のエアーホース5でコンプレッサ3からエアータンク4にエアーが供給されるようになっている(矢印a参照)。
【0030】
エアータンク4の周囲の水中には、複数個の散気孔部材7が分散配置されている。具体的には、エアータンク4の周囲の3等分間隔(120度)の位置に計3個の散気孔部材7が分散配置されている。
【0031】
各散気孔部材7は、基台36(後述)を介して水底2aに設置されたアンカー33のリンクチェーン34に連結されるとともに、各散気孔部材7を固定した基台36には、散気孔部材7に浮力を付与して、アンカー33の略真上の水中に保持するためのフロート35が取付けられている。
【0032】
各散気孔部材7は、ダム湖等2の水深が例えば30m程度である場合、後述するように、リンクチェーン34の係止位置を代えることによって、水底2aから3〜15mの高さの水中に維持されるように水深を調整することができる。
【0033】
エアータンク4と各散気孔部材7とは、ロープ10と分岐ホース11とが一体化された複合部材12でそれぞれ連結されていて、エアータンク4と各散気孔部材7との相対位置がずれないようになっている。
【0034】
そして、各散気孔部材7とエアータンク4とを分岐ホース11でそれぞれ接続することにより、エアータンク4のエアーが分岐ホース11を介して各散気孔部材7に供給されて(矢印b参照)、各散気孔部材7から水中に散気されるようになる。
【0035】
図2および図3に詳細に示すように、平面視で略正八角形状のバランスウェイトを兼ねる基台36が設けられ、この基台36は、小サイズの内側補強メンバー36Aと、大サイズの外側補強メンバー36Bとを有している。そして、内側補強メンバー36Aと外側補強メンバー36Bとは、円周上略等角度間隔(例えば45度)で放射状に配置された計8本の補強バー36Cで一体的に連結されている。
【0036】
外側補強メンバー36Bの下面の複数箇所(本例では4箇所)、および補強バー36Cの各外端部には、球形状のフロート35がブラケット37を介してそれぞれ取付けられている。
【0037】
この基台36は、分岐ホース11の重量で散気孔部材7が傾かないようにバランスをとるためのバランスウェイトを兼ねているから、エアーが上方へ均等に散気されるようになる。
【0038】
散気孔部材7は、中空のパイプをリング状に丸めて、その上部に多数の散気孔(エアー出口)7aを円周上略等角度間隔でリング状に形成したものである。また、散気孔部材7の中央部には中空ボックス38が設けられ、この中空ボックス38と散気孔部材7とが円周上3等分位置のパイプ39で連結されている。したがって、分岐ホース11から中空ボックス38にエアーが供給され、中空ボックス38から各パイプ39を介して散気孔部材7にエアーが供給されることで、散気孔7aからエアーを散気するようになる。
【0039】
散気孔部材7は、基台36の各補強バー36Cの上面に設置された状態で、各補強バー36Cにベルト40で固定されている。
【0040】
散気孔部材7の外側補強メンバー36Bの上面には、水面に浮上する目印ブイ41がチェーン(若しくはロープ)42で連結されている。
【0041】
図4に詳細に示すように、基台36の下面の左右対称位置には、V字状の固定チェーン29の上端部29a,29aがそれぞれ連結され、この固定チェーン29の下端部29b,29bがチェーン連結金具(基台側係止金具)44の上部に連結されている。
【0042】
散気孔部材7を固定した基台36を水底2aのアンカー33に連結するリンクチェーン34は、深い水深用の規定長さ(例えば3m)L3(図8参照)と浅い水深用の規定長さ(例えば15m)L4(図9参照)との双方(この間の水深用も含む。)に使用できるように、規定長さ(例えば3m)L3に余長(本例では、15m−3m=12m)を持った長さに設定されている。
【0043】
リンクチェーン34は、図4のように、先端のリンク部34aと後端のリンク部34bとの間が多数個のリンク部で連結されていて、先端のリンク部34aがアンカー33のアンカー側係止金具46のシャックル46aに、下部シャックル(下部係止具)47で着脱可能に係止されている。
【0044】
また、リンクチェーン34が深い水深用の規定長さ(例えば3m)L3に設定されている場合には、それに対応する位置の中間のリンク部34cがチェーン連結金具44のシャックル44aに、上部シャックル(上部係止具)45で着脱可能に係止されている。
【0045】
さらに、先端のリンク部34aと中間のリンク部34cとの間(散気管部材7の基台36の基台側フック金具51に近い位置のリンク部34cが好ましい。)のリンクチェーン34に浮力を付与する補助フロート48が取付けられている。
【0046】
図7は、可搬式の牽引機60の側面図である。この牽引機60は、「レバーホイスト」という名称〔例えば、ヒッパラー社製のヒッパラー(登録商標)〕で市販されているものである。牽引機60の本体62側のレバー(操作部)63の手回動操作で、本体62側のフック部64と牽引チェーン(牽引部)65側のフック部66との間の長さをL1〜L2の範囲で調整可能なものである。なお、牽引機60は、「レバーホイスト」に限られるものではない。例えばターンバックルの一方のボルトに本体側のフック部64を設け、他方のボルトに牽引部65側のフック部66を設けて、ターンバックルを手回動操作することで、フック部64とフック部66との間の長さを調整することも可能である。
【0047】
図4および図8のように、基台36には、牽引機60の本体側のフック部64を着脱可能にフックするフック孔51aを有する基台側フック金具51が左右対称位置にそれぞれ取付けられている。この基台側フック金具51には、ロープ通し孔51bがあけられている。
【0048】
アンカー33には、牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66を着脱可能にフックするフック孔52a(図8の右半分の図を参照)を有するアンカー側フック金具52が左右対称位置にそれぞれ取付けられている。このアンカー側フック金具52には、側部シャックル53(図4参照)を係止する係止孔52bがあけられている。
【0049】
アンカー33のアンカー側フック金具52の係止孔52bには、側部シャックル53で延長ロープ55の一端部が着脱可能に連結され、この延長ロープ55の他端部には、牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66が着脱可能にフックされるようになる。
【0050】
図5のように、延長ロープ55の他端部に、埋没防止用の第2ロープ56の一端部を着脱可能に連結し、第2ロープ56の他端部は、基台36の基台側フック金具51のロープ通し孔51bに着脱可能に連結している。なお、第2ロープ56の他端部56bは、基台側フック金具51に代えて、図6に示すような目印用第2フロート57に着脱可能に連結することもできる。
【0051】
図5のように、リンクチェーン34の後端のリンク部34bに、埋没防止用の第1ロープ58の一端部を着脱可能に連結し、第1ロープ58の他端部は、基台36の基台側フック金具51のフック孔51aに着脱可能に連結している。なお、第1ロープ58の他端部は、基台側フック金具51に代えて、図6に示すような目印用第1フロート59に着脱可能に連結することもできる。
【0052】
前記のように分散型散気装置30において、散気孔部材7の水深を調整する方法を説明する。この散気孔部材7は、図8のように、深い水深用の規定長さ(例えば3m)L3のリンクチェーン34の中間のリンク部34cがチェーン連結金具44のシャックル44aに、上部シャックル45で係止されているものとする。
【0053】
先ず、散気孔部材7の水深を調整する基本的な態様としては、リンクチェーン34には予め余長を設けているから、ダム湖等2の水底2a付近まで潜水夫が潜って、上部シャックル45を中間のリンク部34cから外し(図8参照)、ついで、上部シャックル45で中間のリンク部34dを係止する(図9参照)。このように、リンクチェーン34の係止位置を変える作業を行うだけで、散気孔部材7の水深を3m(L3)から15m(L4)に調整できるようになる。すなわち、散気孔部材7の水深を調整するために、その水深に対応する長さの新しいリンクチェーンを水中に持ち込んで、元のリンクチェーンと掛け替える必要がないので、短時間で簡単に、かつ確実に水中機器の水深を調整することができる。また、重量のある新しいリンクチェーンをわざわざ水中に持ち込む必要がないので、作業の安全性も高くなる。
【0054】
また、リンクチェーン34の散気管部材7の基台36の基台側フック金具51に近い位置のリンク部34cに補助フロート48を取付けることで、チェーン連結金具(基台側係止金具)44から中間のリンク部34cを取り外した場合、その重量でリンクチェーン34が水底に堆積した土砂2a´(図4、図5を参照)に埋没することを、補助フロート48の浮力で未然に防止することができる。また、補助フロート48の浮力でリンクチェーン34の水中重量を軽減することができる。
【0055】
次に、散気孔部材7の水深を調整する具体的な態様としては、図8の右半分の図のように、2名の潜水夫は、可搬式の牽引機60をそれぞれ水中に持ち込んで水底2a付近まで潜り、散気孔部材7の基台36の基台側フック金具51のフック孔51aに牽引機60の本体62側のフック部64をフックするとともに、アンカー33のアンカー側フック金具52のフック孔52aに牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66をフックする。
【0056】
なお、図8の左半分の図のように、水深の調整範囲が牽引機60の牽引チェーン65の長さがよりも広い場合には、アンカー側フック金具52に連結した延長ロープ55の他端部に、牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66をフックする。
【0057】
ついで、2名の潜水夫による牽引機60のレバー63の同時の手操作により、基台36とともに散気孔部材7をフロート35の浮力に抗して下降させることで、リンクチェーン34を僅かに緩めた状態に保持する。
【0058】
この状態で、潜水夫は、チェーン連結金具44のシャックル44aから上部シャックル45を取り外すことで、リンクチェーン34の中間のリンク部34cを上部シャックル45から外す。この場合、補助フロート48の浮力により、リンクチェーン34がその重量で水底に堆積した土砂2a´(図4、図5を参照)に埋没することを、未然に防止することができる。
【0059】
ついで、図9のように、深い水深用の規定長さ(例えば15m)L4のリンクチェーン34の中間のリンク部34dを、上部シャックル45で再びチェーン連結金具44のシャックル44aに係止することで、チェーン連結金具(基台側係止金具)44に対するリンクチェーン34のリンク部34c,34dの係止位置を変更する。なお、リンク部34d以外のリンク部を係止することも可能である。
【0060】
その後、2名の潜水夫は、牽引機60のレバー63の同時の手操作により、リンクチェーン34が張るまで、基台36とともに散気孔部材7をフロート35の浮力で上昇させる。リンクチェーン34が張った後、さらに牽引機60のレバー63の同時の手操作を続けることで、牽引チェーン65を僅かに緩ませてから、基台側フック金具51のフック孔51aから牽引機60の本体62側のフック部64を取り外すともに、アンカー33のアンカー側フック金具52のフック孔52aから牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66を取り外す。
【0061】
これにより、リンクチェーン34は、深い水深用の規定長さ(例えば3m)のリンク部34cから浅い水深用の規定長さ(例えば15m)のリンク部34dに切り替えることで、散気孔部材7の水深を水中で調整することができる。逆に、リンクチェーン34は、浅い水深用の規定長さ(例えば15m)のリンク部34dから深い水深用の規定長さ(例えば3m)のリンク部34cに切り替えることもできる。
【0062】
このように、水深が例えば約30mのダム湖等2の水底2a付近まで潜水夫が潜ってリンクチェーンのリンク部34c,34dの係止位置を変える作業を行うに際して、可搬式の牽引機60を水中で利用することで、リンクチェーン34を緩めた状態に保持することができる。
【0063】
したがって、上部シャックル(係止金具)45を着脱操作して、チェーン連結金具(基台側係止金具)44に対するリンクチェーン34のリンク部34c,34dの係止位置を変更する作業、つまり、リンクチェーン34の長さを変えることで、散気孔部材(水中機器)7の水深を調整する作業がより短時間で簡単かつ確実に行えるようになる。この結果、散気孔部材7の水深を水中で調整する作業の安全性がより向上するようになる。また、牽引機60は、市販の可搬式のものをそのまま利用できるから、コスト安である。
【0064】
また、水底2aに土砂2a´(図4、図5を参照)が堆積しにくく、下部シャックル47が土砂2a´に埋設しないような環境では、リンクチェーン34の先端のリンク部34aを上部シャックル45で係止し、中間のリンク部34c(34d)を下部シャックル47で係止して、下部シャックル47を着脱操作して、リンクチェーン34のリンク部34c,34dの係止位置を変更することもできる。
【0065】
さらに、リンクチェーン34の後端のリンク部34bに、埋没防止用の第1ロープ58の一端部を連結し、第1ロープ58の他端部を散気孔部材7の基台側フック金具51若しくは目印用第1フロート59に着脱可能に連結している。
【0066】
これにより、水底2aに置かれている余長のリンクチェーン34が堆積した土砂2a´(図4、図5を参照)に埋没している場合、または、水底2aから舞い上がった泥等で視界がきわめて悪く、手探り状態での作業になる場合であっても、散気孔部材7の基台側フック金具51若しくは目印用第1フロート59に連結されている第1ロープ58を引っ張る等すれば、リンクチェーン34の後端のリンク部34bを容易に見つけ出すことができる。
【0067】
また、アンカー33のアンカー側フック金具52に、延長ロープ55の一端部を連結し、この延長ロープ55の他端部に、牽引機60の牽引チェーン側のフック部66をフックすることができる。
【0068】
これにより、リンクチェーン34の長さ調整範囲が牽引機60の牽引チェーン65の長さよりも短い場合には、牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66をアンカー33のアンカー側フック金具52に直接フックすることができる。しかし、リンクチェーン34の長さの調整範囲が牽引機60の牽引チェーン65長さよりも長い場合には、牽引機60の牽引チェーン65側のフック部66を延長ロープ55の他端部にフックすることで、リンクチェーン34の長さ調整範囲を広げることができる。
【0069】
さらに、延長ロープ55の他端部に、埋没防止用の第2ロープ56の一端部を連結し、第2ロープ56の他端部を、散気孔部材7の基台側フック金具51若しくは目印用第2フロート57に連結ことができる。
【0070】
これにより、水底2aに倒れている延長ロープ55が堆積した土砂2a´(図4、図5を参照)に埋没している場合、または、水底2aから舞い上がった泥等で視界がきわめて悪く、手探り状態での作業になる場合であっても、散気孔部材7の基台側フック金具51若しくは目印用第2フロート57に連結されている第2ロープ56を引っ張る等すれば、延長ロープ55の他端部を容易に見つけ出すことができる。
【0071】
また、基台側フック金具51を散気孔部材7の基台36の左右対称位置にそれぞれ取付け、アンカー側フック金具52は、アンカー33の左右対称位置にそれぞれ取付ける。
【0072】
これにより、複数の潜水夫が各牽引機60のレバー手操作により散気孔部材7を浮力に抗して略水平状態で下降させることで、散気孔部材7の浮力を各牽引機60に分散させることができ、各牽引機60をより軽操作力化、小型化、軽量化できるようになる。
【0073】
なお、基台36が大型の場合には、基台側フック金具51を散気孔部材7の基台36の左右対称位置ではなく、円周上略等角度間隔で3等分位置や4等分位置等のように取付けて、複数の潜水夫が対応する個数の牽引機60のレバー手操作により散気孔部材7を浮力に抗して略水平状態で下降させることもできる。
【0074】
リンクチェーン34を深い水深用の規定長さ(例えば3m)のリンク部34cから浅い水深用の規定長さ(例えば15m)のリンク部34dに切り替えた場合には、図9のように、先端のリンク部34aと中間のリンク部34dとの間(リンク部34dに近い位置が好ましい。)のリンクチェーン34に、補助フロート48を付け替える。これにより、次の機会に、チェーン連結金具(基台側係止金具)44から中間のリンク部34dを取り外した場合、その重量でリンクチェーン34が水底に堆積した土砂2a´(図4、図5を参照)に埋没することを、補助フロート48の浮力で未然に防止することができる。
【0075】
前記実施形態では、水中機器として、ダム湖のような貯水池や港湾等の閉鎖水域での水質改善等のために、水中で散気(曝気)する散気孔部材7(図1のエアータンク4も散気孔部材7と同様の方法で水深の調整が可能である。)を例にとったが、これに限られない。すなわち、水底に設置されるアンカーにリンクチェーンで連結されて、フロートで水中に保持される水中機器の全般に適用されるものである。
【0076】
例えば、図10(a)のように、外筒70と内筒71とが設けられて、エアレーションeの上昇流で内筒71内に吸水しながら上昇させる過程で酸素を水fに溶け込ませた後に、排水開口部材72から外部に排水させる深層曝気装置73では、水底2aに設置されるアンカー33と水中で保持される水中機器(外筒70)とは、リンクチェーン34で連結されるとともに、水中機器(外筒70)には、浮力を付与してアンカー33の略真上の水中に保持するためのフロート35が取付けられている(特開2005−58954号公報参照)。このような深層曝気装置73の水深調整にも適用することができる。
【0077】
また、図10(b)のように、揚水筒75から空気gを放出することで、下層水hを上層に揚水する空気揚水装置76では、水底2aに設置されるアンカー33と水中で保持される水中機器(揚水筒75)とは、リンクチェーン34で連結されるとともに、水中機器(揚水筒75)には、浮力を付与してアンカー33の略真上の水中に保持するためのフロート35が取付けられている(特開2009−207971号公報参照)。このような空気揚水装置76の水深調整にも適用することができる。
【0078】
その他、図10(c)のように、水底2aに設置されるアンカー33と水中で保持される水中機器(水質や水温等の計測機器類77)とは、リンクチェーン34で連結されるとともに、水中機器(計測機器類77)には、浮力を付与してアンカー33の略真上の水中に保持するためのフロート35が取付けられている。このような計測機器類77の水深調整にも適用することができる。
【符号の説明】
【0079】
2 ダム湖等
2a 水底
7 散気孔部材(水中機器)
30 分散型散気装置
33 アンカー
34 リンクチェーン
34a 先端のリンク部
34b 後端のリンク部
34c,34d 中間のリンク部
36 基台
44 チェーン連結金具(基台側係止金具)
45 上部シャックル(上部係止具)
46 アンカー側係止金具
47 下部シャックル(下部係止具)
48 補助フロート
51 基台側フック金具
52 アンカー側フック金具
55 延長ロープ
56 第2ロープ
57 目印用第2フロート
58 第1ロープ
59 第1フロート
60 牽引機
62 本体
63 レバー(操作部)
64 本体側フック部
65 牽引チェーン(牽引部)
66 アンカー側フック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に設置されるアンカーと水中で保持される水中機器とは、水中機器の水深を維持するリンクチェーンで連結されるとともに、前記水中機器には、浮力を付与して前記アンカーの略真上の水中に保持するためのフロートが取付けられている水中機器の水深調整装置であって、
前記リンクチェーンは、前記水中機器の水深を調整可能な余長を有する長さに設定されていて、
このリンクチェーンの先端のリンク部は、前記アンカーのアンカー側係止金具若しくは前記水中機器の基台の基台側係止金具に、係止具で着脱可能に係止される一方、
余長を含む後端側のいずれかのリンク部は、前記水中機器の基台の基台側係止金具若しくは前記アンカーのアンカー側係止金具に、係止具で着脱可能に係止されていることを特徴とする水中機器の水深調整装置。
【請求項2】
前記リンクチェーンの水中機器の基台の基台側係止金具に近いリンク部に、浮力を付与する補助フロートが着脱可能に取付けられていることを特徴とする請求項1に記載の水中機器の水深調整装置。
【請求項3】
本体側の操作部の手操作で、本体側のフック部と牽引部側のフック部との間の長さを調整可能な可搬式の牽引機と、
前記水中機器の基台に取付けられ、前記牽引機の本体側のフック部を着脱可能にフックする基台側フック金具と、
前記アンカーに取付けられ、前記牽引機の牽引部側のフック部を着脱可能にフックするアンカー側フック金具とをさらに備え、
前記牽引機により前記水中機器を浮力に抗して下降させることで前記リンクチェーンを緩めた状態に保持して、前記係止具の着脱操作で前記リンクチェーンの後端側のリンク部の係止位置を変更できるようにしたことを特徴とする請求項1または2に記載の水中機器の水深調整装置。
【請求項4】
前記リンクチェーンの後端側のリンク部に、埋没防止用の第1ロープの一端部が連結され、第1ロープの他端部は、前記基台側フック金具若しくは目印用第1フロートに着脱可能に連結されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中機器の水深調整装置。
【請求項5】
前記アンカーのアンカー側フック金具に、延長ロープの一端部が着脱可能に連結され、この延長ロープの他端部に、前記牽引機の牽引部側のフック部を着脱可能にフックできることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の水中機器の水深調整装置。
【請求項6】
前記延長ロープの他端部に、埋没防止用の第2ロープの一端部が連結され、第2ロープの他端部は、前記基台側フック金具若しくは目印用第2フロートに着脱可能に連結されていることを特徴とする請求項5に記載の水中機器の水深調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−20244(P2012−20244A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160637(P2010−160637)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(591073337)株式会社丸島アクアシステム (58)
【Fターム(参考)】