説明

水中油型エマルション

ヒドロホビン及び油を含み、35%未満のオーバーランを有し、油相が40より高いヨウ素価を有する水中油型エマルションであって、油に対するヒドロホビンの割合が20g/リットルより多いことを特徴とする水中油型エマルションを提供する。こうした水中油型エマルションを含む製品もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型(O/W)エマルションに関する。とりわけ、本発明は、酸化に耐性である水中油型エマルションに関する。
【背景技術】
【0002】
広範な商品が、化粧品(例えば、皮膚用クリーム、モイスチャライザー、ローション、並びに髪及び皮膚用コンディショニング剤)及び食品(例えば、ドレッシング、アイスクリーム、マヨネーズ、スプレッド、及びソース)を含む水中油型エマルションを含む。前記エマルションの物理化学特性は、これらの製品の需要者承認を確実に得るために重要であり、さらに、エマルション及びその中に含まれる成分の安定性は、こうした製品の貯蔵寿命の確保のために不可欠である。
【0003】
水中油型エマルションを含む製品の品質を低下させる、多くの機構が存在する。軟凝集(flocculation)とは、エマルション中の粒子を互いに凝集させて、これが連続相の最上部に浮遊するかまたは連続相の底部に沈降する過程である。クリーミングとは、浮力の影響下でエマルション中の物質が試料の最上部に移動する一方で前記物質の粒子が分離した状態を保つことである。解乳化(breaking)及び合一(coalescence)とは、粒子が合体して連続相中に層を形成することである。不安定なエマルションは、これらの機構に特に影響を受けやすく、エマルションの物理化学構造の破壊及び消費者によって求められる有利な特性の喪失を被る。水中油型エマルションを含む製品の品質は、油の劣化によっても更に影響されうる。酸化は、劣化を引き起こしうると共に酸敗及び重要な機能性成分の喪失をもたらしうる、こうした過程の一例である。Askolinら(Biomacromolecules, 2006, 7(4), 1295-1301)は、オリーブ油及びパラフィンを、超音波によって水性ヒドロホビン溶液中に乳化したことを論文に開示しているが、この論文は酸化の回避を扱ってはおらず、しかもこれらのエマルションは安定ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO01/74864
【特許文献2】WO96/41882
【特許文献3】WO01/57076
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Askolin et al., Biomacromolecules, 2006, 7(4), 1295-1301
【非特許文献2】American Oil Chemists' Society (AOCS) Official Method Tg 1 a-64, pages 1-2, Official Methods and Recommended Practices of the American Oil Chemists' Society, Second Edition, edited by D. Firestone, AOCS Press, Champaign, 1990, method Revised 1990
【非特許文献3】Wessels, 1997, Adv. Microb. Physio. 38: 1-45; Wosten, 2001, Annu Rev. Microbiol. 55: 625-646
【非特許文献4】De Vocht et al., 1998, Biophys. J. 74: 2059-68
【非特許文献5】Wosten et al., 1994,Embo. J. 13: 5848-54
【非特許文献6】Wosten, 2001, Annu Rev. Microbiol. 55: 625-646
【非特許文献7】Collen et al., 2002, Biochim Biophys Acta. 1569: 139-50
【非特許文献8】Calonje et al., 2002, Can. J. Microbiol. 48: 1030-4
【非特許文献9】Askolin et al., 2001, Appl Microbiol Biotechnol. 57: 124-30
【非特許文献10】De Vries et al., 1999, Eur J Biochem. 262: 377-85
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、その含む油の酸化に対して耐性である、貯蔵寿命が改善された水中油型エマルションが依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(試験及び定義)
特記のない限り、本明細書中で使用した全ての技術的及び化学的用語は、(例えば、コロイド化学の)当業者によって通常理解されるものと同様の意味を有する。
【0008】
(油)
本明細書中で使用される通り、「油」なる語は、脂質、脂肪、またはこれらのあらゆる混合物を、純粋かまたは溶解状態で化合物を含むかによらずに示す一般名称である。油は、懸濁状態で粒子を含んでも良い。
【0009】
(脂質)
本明細書中で使用される通り、「脂質」なる語は、長鎖脂肪酸または長鎖アルコールを示す一般名称であり、ここで「長鎖」なる語は、12以上の炭素原子を意味する一般名称として使用される。
【0010】
(脂肪)
本明細書中で使用される通り、「脂肪」なる語は、80%超のトリグリセリド類を含む化合物を示す一般名称である。これらはまた、ジグリセリド、モノグリセリド、及び遊離の脂肪酸を含んで良い。一般名称としては、液状脂肪はしばしば油と呼称されるが、本明細書中では、脂肪なる語もまたこうした液状脂肪を示す一般名称として用いられる。脂肪には、植物油(例えば、杏仁油、落花生油、アルニカオイル、アルガンオイル、アボカドオイル、ババスオイル、バオバブオイル、ブラックシードオイル、ブラックベリーシードオイル、ボラジオイル、カレンデュラオイル、カメリナオイル、カメリアシードオイル、蓖麻子油、チェリーカーネルオイル、ココアバター、ココナッツオイル、コーン油、綿実油、月見草油、グレープフルーツオイル、グレープシードオイル、ヘイゼルナッツオイル、ホホバオイル、レモンシードオイル、ライムシードオイル、亜麻仁油、ククイナッツオイル、マカデミアオイル、トウモロコシ油、マンゴーバター、メドウフォーム油、メロンシードオイル、モリンガ(Moringa)オイル、オリーブオイル、オレンジシードオイル、パームオイル、パパイヤシードオイル、パッションシードオイル、ピーチカーネルオイル、プラムオイル、ザクロシードオイル、ポピーシードオイル、パンプキンシードオイル、菜種(もしくはキャノーラ)油、レッドラズベリーシードオイル、米糠油、ローズヒップオイル、サフラワーオイル、シーバックソーンオイル、ゴマ油、大豆油、ストロベリーシードオイル、ヒマワリ油、スウィートアーモンドオイル、ウォルナッツオイル、小麦胚芽油;魚油(例えば、鰯油、鯖油、鰊油、鱈肝油、牡蠣油);動物油(例えば、共役リノール酸);または別の油(例えば、パラフィン系オイル、ナフテン油、芳香油、シリコーンオイル);あるいはこれらのあらゆる混合物が含まれる。
【0011】
(ヨウ素価)
本明細書中で使用される通り、「ヨウ素価」なる語は、油の不飽和の尺度を示す一般名称として用いられ、試料1グラムに吸収されたヨウ素のセンチグラム数(吸収されたヨウ素(%))として表される。ヨウ素価が高いほど、より多くの不飽和二重結合が油中に存在し、然るにその油は二重結合のためにより酸化されやすい。ヨウ素価は、American Oil Chemists' Society (AOCS) Official Method Tg 1 a-64, pages 1-2, Official Methods and Recommended Practices of the American Oil Chemists' Society, Second Edition, edited by D. Firestone, AOCS Press, Champaign, 1990, method Revised 1990に記載されるように、ウィイス法を用いて測定される。
【0012】
(油に対するヒドロホビンの割合の算出)
本明細書中で使用される通り、「油に対するヒドロホビンの割合」なる語は、水中油型エマルション中の油の体積(リットル)に対するヒドロホビン(グラム)の質量として定義される。したがって、油に対するヒドロホビンの割合は、以下のように表される。
エマルション中のヒドロホビンの全質量(グラム):エマルション中の油の全体積(リットル)=g/リットル
【0013】
(水に対する油の割合の算出)
本明細書中で使用される通り、「水に対する油の割合」なる語は、水中油型エマルション中の水の体積(ミリリットル)に対する油の体積(ミリリットル)として定義される。したがって、水に対する油の割合は、以下のように表される。
(エマルション中の油の全体積(ミリリットル)/エマルション中の水の全体積(ミリリットル))×100=v/v%
【0014】
(水中油型エマルション)
本明細書中で使用される通り、「水中油型エマルション」なる語は、二つの不混和性相の混合物であって、ここで油(分散相)が水溶液(連続相)中に分散しているものを示す一般名称として用いられる。
【0015】
(食品)
本明細書中で使用される通り、「食品」なる語は、口から摂取される製品及び成分であって、その構成成分が、身体及びその組織の栄養供給、元気回復、及び耽溺の目的のために胃腸管内で活性であり、且つ/または吸収されるものであって、ヒトによる消費のために消費者に販売されるものを示す一般名称として用いられる。食品の例は、その前駆物を含む茶;スプレッド;アイスクリーム;冷凍果実及び野菜;ダイエット食品及び飲料を含むスナック;調味料;ドレッシング、及び料理酢(culinary acid)である。食品は、特に、以下の利点のいずれをもたらしても良い:健全な代謝;寿命延長;最適な成長及び発達;最適な胃腸管機能;メタボリックシンドローム及びインスリン抵抗性の回避;脂質異常症の回避;体重制御;健全な鉱質代謝;免疫健康;最適な目の健康;認識機能障害及び記憶喪失の回避;髪及び皮膚の健康;美貌;及び優れた味と香り。
【0016】
(スプレッド)
本明細書中で使用される通り、「スプレッド」なる語は、油及び水を含有するエマルション、例えば、マーガリンタイプのスプレッドを示す一般名称として用いられる。有利には、スプレッドは、4.8-6.0のpHを有する。pHは、スプレッドを融解させ、水相から溶融脂肪相を分離し、水相のpHを測定することによって測定することができる。
本発明のスプレッドは、スプレッドに通常使用される別の成分、例えば、香味成分、増粘剤、ゲル化剤、着色剤、ビタミン、乳化剤、pH調整剤、安定化剤等を含んで良い。こうした成分の一般的な量及び、マーガリンもしくはスプレッドを調製するための適切な方法は、当業者には周知である。
【0017】
(ドレッシング)
本明細書中で使用される通り、「ドレッシング」なる語は、油及び水を含有するエマルション、例えばビネグレット及びサラダタイプの組成物を示す一般名称として用いられる。
【0018】
(通気)
「通気された」なる語は、製品に、例えば機械的手段によって、気体が意図的に導入されていることを意味する。この気体は、あらゆる気体であってよいが、好ましくは、特に食品の場合には、食品等級気体、例えば、空気、窒素、または二酸化炭素である。通気の程度は、典型的には、「オーバーラン」で定義される。本発明の意味では、オーバーラン(%)は、以下の通り体積で定義される。
オーバーラン=((最終通気製品の体積−混合物の体積)/混合物の体積)×100
製品中に存在するオーバーランの量は、所望の製品特性によって異なる。例えば、菓子、例えばムース中のオーバーランのレベルは、200乃至250%にまでなってよい。ある種の冷蔵製品、常温製品、及び高温製品中のオーバーランのレベルはより低くて良いが、一般的には10%より高く、例えばミルクセーキ中のオーバーランのレベルは、典型的には10乃至40%である。
【0019】
(ヒドロホビン)
ヒドロホビンは、疎水性/親水性界面にて自己集合することができ、以下の保存配列:
Xn-C-X5-9-C-C-X11-39-C-X8-23-C-X5-9-C-C-X6-18-C-Xm (SEQ ID No.1)
[ここで、Xは、アミノ酸を表し、n及びmは、個別に整数を表す]
を有する、明確に定義された類のタンパク質である(Wessels, 1997, Adv. Microb. Physio. 38: 1-45; Wosten, 2001, Annu Rev. Microbiol. 55: 625-646)。典型的には、ヒドロホビンは、上限125のアミノ酸の長さを有する。保存配列中のシステイン残基(C)は、ジスルフィド架橋の一部である。本発明の意味においては、ヒドロホビンなる用語は、より広い意味を有して、疎水性−親水性界面における自己集合の特性を同じく示してタンパク質フィルムをもたらす、機能的に同等のタンパク質、例えば、以下の配列:
Xn-C-X1-50-C-X0-5-C-X1-100-C-X1-100-C-X1-50-C-X0-5-C-X1-50-C-Xm (SEQ ID No.2)
を含むタンパク質、あるいは疎水性−親水性界面における自己集合の特性を同じく示してタンパク質フィルムをもたらすその一部を含む。本発明の定義によれば、自己集合は、タンパク質をテフロン(登録商標)に吸着させ、円偏光二色性を用いて二次構造(一般的にはα-ヘリックス)の存在を確証することによって検出できる(De Vocht et al., 1998, Biophys. J. 74: 2059-68)。
【0020】
フィルムの形成は、タンパク質溶液中でテフロン(登録商標)シートをインキュベートした後、水または緩衝液で少なくとも3回洗うことによって確証することができる(Wosten et al., 1994,Embo. J. 13: 5848-54)。タンパク質フィルムは、当業界において十分確立されている通り、例えば蛍光マーカーでのラべリング等のあらゆる適切な方法により、または蛍光抗体の使用により、可視化させてよい。m及びnは、典型的には0乃至2000の範囲の値を有するが、より一般的には、m及びnの合計は100または200未満である。本発明の意味においては、ヒドロホビンの定義には、ヒドロホビンと別のポリペプチドとの融合タンパク質、並びにヒドロホビンと別の分子、例えば多糖類との複合体が含まれる。
【0021】
今日までに同定されたヒドロホビンは、一般的にクラスIまたはクラスIIと分類される。いずれのタイプも疎水性界面で自己集合して両親媒性フィルムを成す分泌タンパク質として菌類中に確認されている。クラスIヒドロホビンの集合は比較的に不溶性である一方で、クラスIIヒドロホビンは様々な溶媒中に容易に溶解する。
【0022】
ヒドロホビン様タンパク質もまた、糸状菌、例えばActinomycete and Steptomyces sp.中に確認されている(WO01/74864)。これらの細菌タンパク質は、真菌ヒドロホビンに比べると、システイン残基を二つ有するのみであるためジスルフィド架橋を一つまでしか形成しない。こうしたタンパク質は、SEQ ID No.1及び2に示されるコンセンサス配列を有するヒドロホビンの機能的等価物の一例であり、本発明の範囲内である。
【0023】
ヒドロホビンは、天然源、例えば糸状菌等からのあらゆる適切な処理による抽出によって得られる。例えば、ヒドロホビンは、ヒドロホビンを成長培地中に分泌する糸状菌を培養することによって、あるいは真菌菌糸を60%エタノールで抽出することによって得られる。天然にヒドロホビンを分泌する宿主生物からヒドロホビンを単離することが特に好ましい。好ましい宿主は、不完全糸状菌(例えば、トリコデルマ)、担子菌、及び子嚢菌である。特に好ましい宿主は、食品等級生物、例えば、クリパリンと呼称されるヒドロホビンを分泌するクリ胴枯病菌(Cryphonectria parasitica)である(MacCabe and Van Alfen, 1999, App. Environ. Microbiol 65: 5431-5435)。
【0024】
あるいは、ヒドロホビンは、組替技術を用いて得られる。例えば、宿主細胞、典型的には微生物は、修飾してヒドロホビンを発現させることができ、その後このヒドロホビンを本発明に従って単離し、使用することができる。ヒドロホビンをエンコードする核酸構成物を宿主細胞に導入するための技術もまた当業者には周知である。ヒドロホビンをコードする34以上の遺伝子が、16以上の真菌種からクローン化されている(Agaricus bisporus中に確認されたヒドロホビンの配列を記載するWO96/41882;及びWosten, 2001, Annu Rev. Microbiol. 55: 625-646)。組替技術は、ヒドロホビン配列を修飾するため、または所望の/改善された特性を有する新規なヒドロホビンを合成するために、使用しても良い。
【0025】
典型的には、適切な宿主細胞もしくは生物は、所望のヒドロホビンをコード化する核酸構成物によって形質転換される。ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、転写及び翻訳のために、且つ適切な条件下で発現されるような方法で、必要な要素をコード化する適切な発現ベクターに挿入することができる(例えば、正しい方向及び的確なリーディング・フレームにおいて、且つ適切な標的及び発現配列を用いる)。これらの発現ベクターを構成するために必要な方法は、当業者には周知である。
【0026】
ポリペプチドコード配列を発現するためには、多数の発現系を使用してよい。これらには、以下に限定されるものではないが、最近、真菌(酵母を含む)、昆虫細胞系、植物細胞培養系、及び適切な発現ベクターで全形質転換された植物が含まれる。好ましい宿主は、食品等級、すなわち「一般的に安全と見なされる(GRAS)」と見なされるものである。
【0027】
適切な真菌種には、酵母、例えば、以下に限定されるものではないが、サッカロマイセス属、クリベロマイセス属、ピチア属、ハンゼヌラ属、カンジダ属、シゾサッカロマイセス等が含まれ、さらに糸状種、例えば、(以下に限定されるものではないが、)アスペルギルス属、トリコデルマ属、ムコール属、アカパンカビ属、フザリウム属等が含まれる。
【0028】
ヒドロホビンをコード化する配列は、好ましくは、自然界に確認されたヒドロホビンとアミノ酸レベルで少なくとも80%、好ましくは少なくとも95%または100%同一である。しかしながら、当業者は、ヒドロホビンの生物学的活性を低減しない、同類置換または別のアミノ酸変換を実施しうる。本発明の目的のためには、天然産のヒドロホビンに対してこうした高度の同一性を有するこれらのヒドロホビンもまた「ヒドロホビン」なる語に包含される。
【0029】
ヒドロホビンは、培地または細胞抽出物から、例えば、ヒドロホビン含有溶液中に存在するヒドロホビンを表面に吸着させ、その後前記表面を界面活性剤、例えばTween 20と接触させてこの表面からヒドロホビンを溶離することを含む、WO01/57076に記載の操作によって精製することができる。Collen et al., 2002, Biochim Biophys Acta. 1569: 139-50; Calonje et al., 2002, Can. J. Microbiol. 48: 1030-4; Askolin et al., 2001, Appl Microbiol Biotechnol. 57: 124-30; and De Vries et al., 1999, Eur J Biochem. 262: 377-85も参照のこと。
【0030】
(貯蔵寿命)
本明細書中で使用される通り、「貯蔵寿命」は、食品等の消費財の販売または消費に適切と見なしてよい期間を示す一般名称として使用される。とりわけ、貯蔵寿命は、製品を貯蔵できる期間であって、その間には商品の特定の割合の規定の品質が、流通、貯蔵、及び陳列の予期される(もしくは特定の)条件下において、許容されるままである期間である。本件の場合には、貯蔵寿命とは水中油型エマルションが、これらの製品の需要者承認を確実にするために重要な物理化学特性を維持する時間の長さを意味する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明者らは、酸化に耐性の水中油型エマルションが、所定量のヒドロホビン及び油を含む処方において得られることをここに見出した。
【0032】
したがって、第一の態様においては、本発明は、ヒドロホビン及び油を含み、35%未満のオーバーランを有し、油が40より高いヨウ素価を有する水中油型エマルションであって、油に対するヒドロホビンの割合が20g/リットルより多く、水に対する油の割合が1v/v%より大きく、好ましくは2v/v%より大きく、より好ましくは4v/v%より大きく、さらにより好ましくは5v/v%より大きく、より一層好ましくは7v/v%より大きく、もっと好ましくは15v/v%より大きいことを特徴とする、水中油型エマルションを提供する。
【0033】
水中油型エマルションの安定化及びその劣化の防止に関する広範囲に及ぶ研究を行ったところ、発明者らは油に対するヒドロホビンの前記割合の利点が、こうしたエマルションでは分散相中の油の酸化が著しく低減されることである旨を見出した。したがって、油に対するヒドロホビンの割合は、好ましくは、30g/リットルより多く、より好ましくは40g/リットルより多く、さらにより好ましくは60g/リットルより多く、最も好ましくは80g/リットルより多い。
【0034】
上記の通り、ヒドロホビンはクラスIまたはクラスIIのヒドロホビンであってよく、好ましくはクラスIIのヒドロホビンであり、より好ましくはHFBIIである。
【0035】
本発明は、通気されていない水中油型エマルションに特に適当であり、然るに、オーバーランは、好ましくは25%未満、より好ましくは20%未満、さらにより好ましくは10%未満、最も好ましくは5%未満である。
【0036】
本発明は、酸化性の油の劣化を防止することができ、このため好ましい実施態様では、油のヨウ素価は60より高く、より好ましくは90より高く、さらにより好ましくは120より高く、最も好ましくは140より高い。
【0037】
特定の油が本発明による使用に特に適切であり、したがって、前記油は、オリーブオイル、コーン油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、及びこれらのあらゆる混合物からなる群より選択される。
【0038】
第二の態様では、本発明は、ヒドロホビン及び油を含み、35%未満のオーバーランを有し、油相が40より高いヨウ素価を有する水中油型エマルションであって、油に対するヒドロホビンの割合が20g/リットルより多く140g/リットル未満であり、水に対する油の割合が1v/v%より大きく、好ましくは2v/v%より大きく、より好ましくは4v/v%より大きく、さらにより好ましくは5v/v%より大きく、より一層好ましくは7v/v%より大きく、もっと好ましくは15v/v%より大きいことを特徴とする、水中油型エマルションを含む食品を提供する。
【0039】
前記製品は、好ましくは食品であり、前記食品は、ドレッシング、アイスクリーム、マヨネーズ、スプレッド、及びソースからなる群より選択される。
【実施例】
【0040】
(ヒドロホビン)
VTT Biotechnology Finland製のHFBII(Mw=7200g.mol-1)溶液を全ての実験に用いた。特記のない限り、これらの実験に使用された全ての水はミリポア(Millipore)品質のものであった。
【0041】
(油)
精製ヒマワリ油(SFO)を全ての実験に用いた。ヒマワリ油の組成及びヨウ素価を以下の表1にまとめる。
【0042】
【表1】

【0043】
(ヒドロホビン(HFB)及び乳漿タンパク質単離物(WPI)溶液の調製)
pH2、pH3、及びpH7のpH調整再蒸留水(DDW)を、0.1MのHClまたは0.1MのNaOHを使用して調製した。その後、HFBまたはWPIを、各pH調整DDWに導入して濃度0.2wt%とした後、それぞれタンパク質を含む最終溶液のpHを、0.1MのHClまたは0.1MのNaOHでpH2、pH3、及びpH7に調整した。これらの溶液に、SFOを加え、以下の通り均一化した。
【0044】
(エマルションの調製)
表2による組成物を、ビーカーを継続して振盪しつつまず6,500rpmのUltraturraxに1分間かけ、次いで24,000rpmで10分間かけ、その後不要な気泡を導入しないように注意深くMicrofluidizer(MF)に移して、温度上昇を防ぐために氷を用いつつ1000barでMFにかけた。その後エマルションの瓶を密閉して80℃にて10分間に亘って殺菌し、その後放冷した。これらのエマルションは通気されておらず、然るに25%のオーバーランを有していた。
【0045】
【表2】

【0046】
(酸化促進試験)
酸化促進試験を、以下に示す通り、pH2、3、及び7の比較例1及び実施例Aのエマルションに行った。酸化促進試験は、42日間に亘って40℃で行われたが、これは前記期間及び温度が、20℃の温度にて9乃至12カ月の期間を代表するものであるためである。この酸化促進試験は、酸化によって生じる揮発性成分の測定により、酸化の進行を評価するものであり、以下のように実施された。
【0047】
1.比較例1及び実施例Aのアリコート1mlを個別のバイアルに分けた。
2.バイアルのヘッドスペース中の空気を、窒素気体で追いだした。
3.バイアルに栓をしてゴム隔膜で密閉した。
4.全てのバイアルを40℃のインキュベーター内に、光を当てずに42日間おいた。
5.42日間の実験期間後、バイアルをインキュベーターから取り出して光を当てずに冷却し、ヘキサナールを再度エマルションに溶解させた。冷却後、バイアルのヘッドスペースを再度窒素気体を満たした。
6.ガスクロマトグラフィー(GC)を行って揮発性成分を検出した。GCの間、バイアルを60℃に加熱して、エマルションからヘッドスペースに揮発性成分を放出させ、その後前記ヘッドスペースをGCを用いて測定した。GCを用いて検出された揮発性成分のレベルは、クロマトグラムから算出されるピーク面積として表わされた。様々な揮発物の中で、ヘキサナールは酸化の最も一般的な代表物であるため、結果はヘキサナールのみを示す。
【0048】
表3乃至5に示される、42日間に亘る40℃での酸化試験の結果は、HFB安定化エマルションは、WPI安定化エマルションよりも酸化されないことを示す。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロホビン及び油を含み、35%未満のオーバーランを有し、油相が40より高いヨウ素価を有するO/Wエマルションであって、油に対するヒドロホビンの割合が20g/リットルより多く、水に対する油の割合が1v/v%より大きいことを特徴とする、O/Wエマルション。
【請求項2】
水に対する油の割合が2v/v%より大きいことを特徴とする、請求項1に記載のO/Wエマルション。
【請求項3】
水に対する油の割合が4v/v%より大きく、好ましくは5v/v%より大きく、より好ましくは7v/v%より大きく、さらにより好ましくは15v/v%より大きいことを特徴とする、請求項2に記載のO/Wエマルション。
【請求項4】
ヒドロホビンがクラス1またはクラス2のヒドロホビンであり、好ましくはクラス2のヒドロホビンであり、より好ましくはHFBIIである、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のO/Wエマルション。
【請求項5】
オーバーランが、25%未満、好ましくは20%未満、さらに好ましくは15%未満である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のO/Wエマルション。
【請求項6】
油のヨウ素価が60より高く、好ましくは90より高く、より好ましくは120より高く、最も好ましくは140より高い、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のO/Wエマルション。
【請求項7】
油が、オリーブオイル、コーン油、キャノーラ油、大豆油、ヒマワリ油、亜麻仁油、及びこれらのあらゆる混合物からなる群より選択される、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のO/Wエマルション。
【請求項8】
油に対するヒドロホビンの割合が、30g/リットルより多く、好ましくは40g/リットルより多く、より好ましくは60g/リットルより多い、請求項1に記載のO/Wエマルション。
【請求項9】
ヒドロホビン及び油を含み、35%未満のオーバーランを有し、油相が40より高いヨウ素価を有する水中油型エマルションを含む食品であって、油に対するヒドロホビンの割合は20g/リットルより多く、水に対する油の割合が1v/v%より大きいことを特徴とする、食品。

【公表番号】特表2012−527872(P2012−527872A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512303(P2012−512303)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056787
【国際公開番号】WO2010/136355
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(590003065)ユニリーバー・ナームローゼ・ベンノートシヤープ (494)
【Fターム(参考)】