説明

水中油型乳化組成物、ホイップクリーム

【課題】特定の水飴を用いることによって、水飴を含んでいる水中油型乳化組成物の風味を改善した水中油型乳化組成物を提供する。
【解決手段】ソフトクリーム、ハードアイスクリーム、およびホイップクリームなどの成分として水飴を含む水中油型乳化組成物において、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が1%以下である水飴を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成分として水飴を含む水中油型乳化組成物に関し、より具体的には、例えば、従来のものよりも風味が改善された、ソフトクリームやアイスクリーム等の冷菓、ホイップクリーム等のような食用クリーム類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトクリームやアイスクリーム等の冷菓や、ホイップクリーム(以下、クリーム類)には、一般に、成分中の全固形分(水を除いた成分)量を調整することを主な目的として水飴が配合されている。
【0003】
例えば、上記クリーム類のうちのソフトクリームにおいて全固形分量を調整する主な目的としては、以下の(1)〜(4)が挙げられる。
(1)ソフトクリーム中の氷結晶の大きさの調整。
(2)ソフトクリームのなめらかさの調整(食感の維持)。
(3)ソフトクリームの硬さの調整(保形性の調整)。
(4)含気率(いわゆる、オーバーラン)の調整。
【0004】
また、上記クリーム類のうちのホイップクリームにおいて全固形分量を調整する主な目的としては、以下の(5)〜(7)が挙げられる。
(5)ホイップした時のホイップクリーム組織の維持。
(6)ホイップクリームの硬さの調整。
(7)含気率の調整。
【0005】
これらの性質を調整することを目的として、クリーム類中の水を除いた成分(例えば、糖類、水飴、脱脂粉乳、油脂類、他の添加物類等)の量が調整される。ここで、全固形分量の調整は、当然、味や乳化安定性などの性質をも満足する範囲でなされる必要があるから、全固形分量を調整する場合、調整可能な範囲は成分毎にある程度決まっているといえる。全固形分を構成する水以外の成分のなかでは、水飴が、他の成分に比べて、配合量を調整可能な範囲が大きい。このため、クリーム類の全固形分量の調整においては、従来、主に水飴の量を調整することがなされている。
【0006】
また、クリーム類の甘味度の調整は、一般に、クリームに甘味を付与する主な成分であるショ糖の量を調整することによってなされる。しかしながら、ショ糖の甘味度は、非常に高いから、ショ糖のみによって甘味度を調整すると、クリーム類中の全固形分量が小さくなってしまうという問題が生じる。これに対し、クリームに甘味を付与する他の成分である水飴は、ショ糖に比べて甘味度が低い(甘味度15〜70程度;ショ糖15〜70重量%の甘さに等しい)ため、クリーム類に同じ甘味度を付与する場合、水飴は、ショ糖よりも多くの量を配合することができる。
【0007】
前述のように、水飴は、要求される全固形分量となるように調整するために用いられている。このため、比較的ショ糖の甘味度に近い水飴を使用すると、全固形分量を調整することができなくなってしまう。従って、実際にクリーム類で使用される水飴は、必然的に、甘味度の低い水飴(甘味度15〜30程度のもの)となる。
【0008】
このように、クリーム類では、要求される全固形分と甘味度とを満たすように、適切な甘味度の水飴が選択される。このため、適切な甘味度を選択された水飴は、全固形分量を所望の範囲内としつつ、すなわち、所望の全固形分量を維持しつつ、クリーム類の甘味度を所望の範囲内に調整する手段としても用いられている。ここで、「甘味度」とは、甘味の指標として数値化された、ショ糖の甘味度を100とする相対値のことをいう。
【0009】
また、上記クリーム類のうちのソフトクリームに特に多量の水飴が配合される理由としては、以下の理由が挙げられる。
【0010】
ソフトクリームの喫食温度は、冷菓の中では比較的高く、約−5℃程度である。したがって、甘味度が同じ場合、一般的にハードアイスといわれる他の冷菓(約−18℃程度)よりも、喫食者は、甘味を感じやすくなる(味覚を感じやすい)。よって、ソフトクリームにおいては、ハードアイスよりも、その甘味度を低く設定する必要がある。このように、甘味度を低く設定する必要のあるソフトクリームでは、甘味度が高いショ糖に替えて、甘味度の低い水飴を多量に配合する必要がある。
【0011】
また、デンプン分解生成物である水飴は、氷結晶の大きさを調整することによりソフトな食感を付与する目的で、ソフトクリームには多量の水飴が配合される。
【0012】
また、上記クリーム類のうちのホイップクリームに、多量の水飴が配合される理由としては、以下の理由が挙げられる。ホイップクリームでは、適切にホイップさせるために全固形分量を多くする必要があり、通常、全固形分量が50重量%程度と高く設定される。このように、ホイップクリームでは、主に全固形分量を高くするための手段として、多くの水飴が配合されている。
【0013】
以上のとおり、水飴の甘味度はショ糖よりも低いことから、水飴は、クリーム類の全固形分量を確保するため、および、ショ糖の使用量を減らしてクリーム類の甘味度を抑えるために好適である。すなわち、水飴は、ショ糖よりも甘味度が低いため、クリーム類の全固形分および甘味度のバランスをとるために好適である。このような理由から、水飴は、従来、クリーム類等の水中油型乳化組成物中に配合されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ところで、近年の食の志向として、消費者は、より風味(例えば、後口の良さ,味の質など)の高い食を好む傾向にある。ソフトクリームやホイップクリームなどのクリーム類でも、この志向は例外ではない。クリーム類は、特にデザート類に使用される場合が多く、風味の高いものが要求される。
【0015】
本発明の発明者らは、全固形分および甘味度のバランスをとるために、水中油型乳化組成物に配合されている水飴が、風味に影響していることを見出した。このことに基づいて、本発明は、特定の水飴を用いることによって、水飴を含んでいる水中油型乳化組成物の風味を改善することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明者等は、水飴が含まれる可食品において、甘味度や全固形分のように数値化されない風味を改善することについて鋭意に検討した。その結果、従来は、単に、全固形分や甘味度のバランスを満たすために使用されてきた水飴が、本発明の水中油型乳化組成物(本乳化物)の風味に結びつくことを見出した。すなわち、特定の分子量の水飴が、本乳化物の風味に影響しているという新たな知見を得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明の水中油型乳化組成物(本乳化物)は、成分として水飴を含む水中油型乳化組成物であって、上記水飴を構成するデンプン分解生成物のうち、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が1重量%以下であることを特徴とするものである。
【0018】
従来、水飴(デンプン分解生成物)は、主として、設定された全固形分を満たすための固形分、および、甘味度の調整のため(全固形分や甘味度のバランスを満たすため)に使用されるのが一般的であった。本発明では、後述する実施例に示すように、分子量20000以上のデンプン分解生成物が、本乳化物の風味を損なう原因物質であることが明らかとなった。水飴が風味に結びつくことは、従来知られていない新たな知見である。
【0019】
上記の構成によれば、上記水飴は、本乳化物の風味を損なう原因となる高分子量(分子量20000以上)デンプン分解生成物の含有量が少ない。これにより、本乳化物の風味が損なわれるのを防止でき、風味を改善できるという効果を奏する。このように、上記構成によれば、本発明によって明らかとなった本乳化物の風味を損なう原因となる高分子量デンプン分解生成物の含有量が少ない水飴を用いることによって、当該乳化物の風味を改善できるという効果を奏する。
【0020】
なお、従来、水中油型乳化組成物(乳化物)に、水飴を含むものも存在したが、水飴が風味を損なう原因物質となることは知られていなかった。このため、高分子量デンプン分解生成物の含有量が多く、当該乳化物の風味が損なわれていた。
【0021】
また、本発明の水中油型組成物は、上記水飴の分解度が27%以下であることが好ましい。甘味度は分解度に比例し、分解度が大きいと甘味度も大きくなる。上記水飴は、分解度が27%以下と比較的低いものでありながら、高分子量デンプン分解生成物の含有量も1%以下である。この高分子量デンプン分解生成物の含有量は、従来の水飴よりも低いものである。従って、低甘味度と高い風味とを同時に満足することができるという効果を奏する。
【0022】
また、本発明の水中油型組成物は、上記水飴の粘度(50℃、B型粘度計にて計測)が、3000cp以下であり、
上記水飴のアルコール滴定量が、15mL以上である(ただし、アルコール滴定量は、1)水飴43gに蒸留水を加えて100gとした後、2)その溶液10mLに75%エタノール水溶液を加え(測定温度27℃±1℃)、3)目視で白濁を生じた時点で滴下を終了し、攪拌しても白濁が消えない点を終点としたときの終点の滴定値である)ことが好ましい。
【0023】
本発明のホイップクリームは、成分として水飴を含むホイップクリームであって、上記水飴を構成するデンプン分解生成物のうち、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が、水飴の1重量%以下であることを特徴とするものである。
【0024】
このホイップクリームには、風味を損なう原因となる高分子量(分子量20000以上)のデンプン分解生成物の含有量が少ない水中油型乳化組成物を含んでいる。従って、風味を改善したホイップクリームを提供できるという効果を奏する。
【0025】
また、本発明のホイップクリームは、上記水飴の分解度が27%以下であることが好ましい。甘味度は分解度に比例し、分解度が大きいと甘味度も大きくなる。上記水飴は、分解度が27%以下と比較的低いものでありながら、高分子量デンプン分解生成物の含有量も1%以下である。この高分子量デンプン分解生成物の含有量は、従来の水飴よりも低いものである。従って、低甘味度と高い風味とを同時に満足することができるという効果を奏する。
【0026】
また、本発明のホイップクリームは、上記水飴の粘度(50℃、B型粘度計にて計測)が、3000cp以下であり、
上記水飴のアルコール滴定量が、15mL以上である(ただし、アルコール滴定量は、1)水飴43gに蒸留水を加えて100gとした後、2)その溶液10mLに75%エタノール水溶液を加え(測定温度27℃±1℃)、3)目視で白濁を生じた時点で滴下を終了し、攪拌しても白濁が消えない点を終点としたときの終点の滴定値である)ことが好ましい。
【0027】
また、本発明のホイップクリームは、成分としてさらにショ糖を含んでおり、
全固形分が30%〜60%であって、かつ、甘味度が5%〜25%であることが好ましい。
【0028】
ホイップクリームでは、冷菓に比べて、全固形分が30%〜60%と、比較的高く設定される。また、甘味度は主にショ糖によって調節される。従って、全固形分が比較的高く設定されたホイップクリームの風味を改善し、低い甘味度も満足できるという効果を奏する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の水中油型乳化組成物(本乳化物)は、以上のように、成分として水飴を含む水中油型乳化組成物であって、上記水飴を構成するデンプン分解生成物のうち、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が1重量%以下であることを特徴とするものである。それゆえ、風味を損なう原因となる高分子量デンプン分解生成物の含有量が少ない水飴を用いることによって、当該乳化物の風味を改善できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例および比較例で使用した水飴の、分解度(DE)と甘味度の関係を示すグラフである。
【図2】実施例および比較例で使用した水飴の、分解度(DE)と粘度の関係を示すグラフである。
【図3】実施例および比較例で使用した水飴の、分解度(DE)とアルコール滴定量の関係を示すグラフである。
【図4】実施例および比較例で使用した水飴の分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の一実施形態について図1ないし図4に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
本発明者は、従来、全固形分および甘味度のバランスをとるために用いられてきた水飴が、風味に影響しているという新たな知見に基づき、風味を改善した水中油型乳化組成物を開発した。
【0033】
本発明の水中油型乳化組成物(本乳化物)は、風味を損なう原因となる分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が少ない、特定の水飴を使用することによって、当該乳化物の風味を改善することを特徴とするものである。すなわち、本乳化物は、クリームとして適度な甘味を有しながら風味(後口の良さ,味の質)を改善できる水飴を含んでいることを特徴とするものである。
【0034】
本乳化物は、親水性の液体(分散媒)に、親油性(疎水性)の液体(分散質)が小粒子となって分散している状態のエマルジョンが含まれていればよく、特に限定されるものではないが、好ましくは、水中油型のエマルジョンに他の成分が添加された組成物となっている。すなわち、本乳化物は、水中油型エマルジョンそのものであってもよいし、水中油型エマルジョンと他の成分とを含んでおり、これらの成分が全体として均質存在し、実質的に1つの物質として把握されるものであってもよい。
【0035】
本乳化物は、従来よりも良好な風味とするものであるため、飲食品であることが好ましい。とりわけ、適度な甘味度と、より高品質の風味とが特に重要視される、ソフトクリームアイスクリーム等の冷菓や、洋菓子や和菓子などのデザート類に使用するホイップクリームなど、クリーム類であることが好ましい。
【0036】
本発明において、「水飴」とは、酸または酵素(アミラーゼ)処理によってデンプンを加水分解して得られるデンプン分解生成物(以下、「分解生成物」とする)の混合物であって、ヨウ素デンプン反応に陰性のものを示す。すなわち、上記水飴は、デンプンを化学的または酵素的に加水分解して得られる、種々の重合度の分解生成物(分解度の低い分解生成物と分解度の高い分解生成物)の混合物である。したがって、上記「水飴」には、デキストリン、オリゴ糖などの少糖、マルトースなどの二糖類、およびグルコース(単糖)が含まれる。
【0037】
水飴は、デンプンの分解の程度が多くなると、デンプンとしての性質から糖(この場合グルコースやマルトース)としての性質を有するようになる。つまり、甘味を有さないデンプンを分解することによって、その分解生成物である水飴は、次第に甘味を有するようになる。すなわち、水飴の分解度が高いほど、甘味度も大きくなる。また、水飴の分解度が大きくなると、平均分子量、粘度、および吸湿性は低くなり、結晶性は高くなる傾向がある。ここでいう水飴の甘味度が高いといっても、実際にクリーム類で使用される水飴の甘味度は15〜30%程度であり、甘味度100%のショ糖と比較すると、甘味度は低いものである。一般的に、本乳化物の甘味度は予め設定されており、主に、ショ糖によってその甘味度が満たされる。なお、実際にクリーム類で使用される水飴の甘味度が15〜30%程度であるのは、甘味度が30%よりも高く、比較的ショ糖の甘味度に近い水飴を使用すると、全固形分量を調整することができなくなってしまうためである。
【0038】
水飴の分解度は、デキストロース当量(Dextrose Equivalent,以下「DE」とする)として表わされる。DEは、水飴の全固形分に対する直接還元糖(直接還元糖/水飴の全固形分)によって算出される。水飴はデンプンの分解生成物であるため、直接還元糖はグルコースもしくはグルコースが少数重合したものとなる。直接還元糖は、レインエイノン法によって定量される直接還元糖の還元基量を、グルコース量に換算することによって算出される値であり、全固形分は、水飴の乾燥前後の重量比の百分率である。例えば、グルコース量換算された直接還元糖量が12%であり、全固形分が60%である水飴のDEは、20となる。以下では、分解度という場合には、DEを指すものとする。
【0039】
デンプンは、グルコースを最小単位とする多糖類である。水飴は、デンプンの分解生成物であるため、デンプンに比べると、いくらかグルコースに近い性質を有している。すなわち、甘味がないデンプンに比べると、水飴は、多少甘味を有している。
【0040】
したがって、分解度の低い水飴は、直接還元糖の割合が少なく、高分子量の分解生成物の含有率が大きいため、相対的に甘味度は低い。逆に、分解度の高い水飴は、直接還元糖の割合が多く、高分子量の分解生成物の含有率が小さいため、相対的に甘味度は高い。それゆえ、分解度は、甘味度に大きく影響を及ぼす要素である。
【0041】
また、前述のように、クリーム類等の水中油型乳化組成物においては、設定された全固形分と甘味度とを満足するように、ショ糖と水飴の含有量が決定される。換言すれば、従来、水飴は、全固形分と甘味度のバランスを満たすために使用されてきた。
【0042】
一方、本乳化物においては、水飴を、従来のように全固形分と甘味度のバランスをとるために使用するとともに、風味改善剤という新規な用途として用いている。
【0043】
すなわち、本乳化物に含まれる水飴は、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物(高分子量の分解生成物)の含有量が1重量%以下である。
【0044】
上記水飴に含まれる分子量20000以上の分解生成物の含有量は、高い風味を維持できれば特に限定されるものではないが、通常、2重量%以下であればよく、好ましくは1重量%以下である。換言すれば、上記分解生成物の含有量は、0重量%以上、2重量%以下であればよく、0重量%以上、1重量%以下であることが好ましい。すなわち、上記分解生成物の含有率の上限値は、2重量%以下、好ましくは1%以下であり、下限値は0重量%以上である。
【0045】
なお、この水飴は、単品の水飴でも、複数の水飴を混合したものであってもよい。すなわち、高分子量デンプン分解生成物が2重量%以下(好ましくは1重量%以下)であれば、その他の分子量のデンプン分解生成物の含有量は、特に限定されるものではない。なお、後述のように、水飴の含有量は、設定された甘味度や全固形分となるように、決定される。
【0046】
上記高分子量デンプン分解生成物は、後述の実施例に示すように、特に風味を損なう原因物質である。本乳化物は、この原因物質の含有量が少ない水飴の使用によって、風味を改善するものである。
【0047】
また、上記水飴の分解度は、目的に応じて、27%を上回ってもよいが、分解度(DE)は、27%以下であることが好ましい。
【0048】
これにより、本乳化物を所望の甘味度にする際、分解度の高い(DEが27%より大きい)水飴を使用する場合よりも、ショ糖を多く配合できる。一般に、上記クリーム類のような喫食される乳化物の甘味成分の中でも、ショ糖の風味が、最も自然で好まれる。このため、乳化物にショ糖を多く配合することによって、その乳化物の風味を、より好ましいものに変えるという効果がある。
【0049】
また、ショ糖の使用量を一定にした上で、このような、比較的分解度の低い(DEが27%以下)水飴を配合すれば、比較的低甘味度の乳化物を構成できる。このような乳化物は、近年の食嗜好にある、「風味(あっさり,後口がよいなど)も、甘さ(甘味度)も満たす『低甘味』嗜好」に適した、乳化物(製品)を、構成できるという効果がある。このように、本乳化物において、分解度(DE)が27%以下である水飴の使用によって、風味の改善と共に、甘味度を低く設定することも可能である。
【0050】
本乳化物は、上記水飴のような、甘味度が高くなる原因となる、分解度が高すぎず、かつ、風味を損なう原因となる高分子量の分解生成物の含有量が少ない水飴を用いることを特徴としている。したがって、後味の切れの悪さを解消することができ、本乳化物の風味が良好となる。また、同時に、甘味度が低いため、適度な甘味も維持できる。なお、上記分解度が上限値を越えると、水飴の甘味度が増加する結果、本乳化物の甘味度が大きくなりすぎ、高分子量の分解生成物の含有量が下限値を越えると風味が損なわれてしまう。このため、低い甘味度と良好な風味とを同時に満足できなくなる。
【0051】
また、本乳化物では、水飴の含有量が、10〜70重量%であることが好ましく、20〜60重量%であることがより好ましい。これにより、比較的水飴の含有量が多くても、特に風味を損なう原因である高分子量の分解生成物の含有量が少ない。これにより、より風味を改善できる。
【0052】
また、本乳化物に存在する上記高分子量の分解生成物の含有量は、0.1重量%以下であることが好ましく、0.08重量%以下であることがより好ましい。これにより、本乳化物中に含まれる、風味を損なう分解生成物の含有量を低くし、より風味を改善できる。
【0053】
なお、上記水飴は、前述のような分子量および甘味度の他にも、例えば、粘度、アルコール滴定量などによっても特徴付けることができる。この場合、粘度(50℃、B型粘度計にて計測)は、3000cp以下であることが好ましい。また、アルコール滴定量(後述の実施例参照)は、15mL以上であることが好ましい。
【0054】
ところで、本乳化物に含まれる、ソフトクリームやハードアイスクリームなどの冷菓、洋菓子・和菓子類に用いられるホイップクリームなどのクリーム類は、デザートに多く利用されるため、特に、低甘味度でありながら、高い風味を満たす上質な甘さが要求される。甘味度や風味は、当然、食したときに感じるものであり、その感じ方は温度によっても異なる。例えば、ソフトクリームは、半凍結状態であるため、水の大半が氷結晶となっているが、残りの水は未凍結のままであるため軟らかく、温度も通常−3〜−7℃の範囲内である。一方、ハードアイスクリームは、完全に凍結した状態であるため硬く、温度も−18℃程度とソフトクリームより低い。また、ホイップクリームは、通常、室温で食される。なお、ソフトクリームは、品温が−7℃以上、−3℃以下の範囲内において、半凍結状態であり、保形性がある(直接、コーンに盛り付け可能である)ものとして表現することができ、ハードアイスクリームと区別することが可能である。
【0055】
甘味度や風味を感じる味覚は、温度に依存し、温度が低くなるにつれて鈍くなる。したがって、低温で食されるハードアイスクリームに比べて、ホイップクリームやソフトクリームでは、特に風味の善し悪しに敏感になる。
【0056】
前述のように、ショ糖の甘味度は100%と高いため、通常、ショ糖と、ショ糖よりも甘味度の低い添加物を添加することにより、ショ糖の風味をできる限り維持しながら、甘味度を低くしている。この用途に用いられるものが、水飴である。
【0057】
また、クリーム類では、全固形分、および、甘味度が予め設定されている。そして、全固形分と甘味度とを満たすように、ショ糖と水飴の添加量が決まる。なお、全固形分は、本乳化物中に含まれる全ての固形成分の割合を示すものであり、本乳化物の乾燥前後の重量から算出されるものである(乾燥後の重量×100/乾燥前の重量(%))。
【0058】
したがって、本乳化物に添加されるショ糖と水飴との添加量は、設定する全固形分と甘味度とによって変化するため、特に限定されるものではない。全固形分や甘味度は、乳化物によって異なり、任意の値であり、特に限定されるものではない。
【0059】
ただし、本乳化物が、ソフトクリームやハードアイスクリームなどの冷菓の場合、全固形分が20%〜40%、好ましくは20%〜35%であって、かつ、甘味度が7%〜25%、好ましくは7〜20%である。また、本乳化物がホイップクリームの場合、全固形分が30%〜60%、好ましくは40%〜55%であって、かつ、甘味度が5%〜25%、好ましくは9〜20%である。換言すれば、このソフトクリームは、分解度が27%以下であって、かつ、分子量20000以上のデンプン分解生成物の含有量が1%以下である水飴を含むものである。また、このホイップクリームは、分解度が27%以下であって、かつ、分子量20000以上のデンプン分解生成物の含有量が1%以下である水飴を含むものである。
【0060】
これにより、特に、ソフトクリームおよびホイップクリームの風味を改善でき、後味の切れの悪さが解消される。また、同時に、甘味度が比較的低く適度な甘味を維持できるため、甘味度と風味とを同時に満足することができる。なお、ホイップクリームは、水飴を含んでいればよく、液状で販売され、使用者がホイップさせるホイップミックスや、ホイップさせた後凍結させて流通される冷凍ホイップであってもよい。
【0061】
以上のように、本発明によれば、風味を著しく損なう原因が、分子量が20000以上の高分子量デンプン分解生成物であることが明らかとなった。さらに、その高分子量デンプン分解生成物(高分子量の分解生成物)の含量が所定以下の水飴を使用した場合に、本乳化物の甘味度を低く設定した場合でも、本乳化物の風味を損なわないことが明らかとなった。このように、本発明は、本乳化物における甘味度と風味とを同時に満足させるべく、水飴に着目して鋭意検討した結果なされたものであり、分子量20000以上の高分子量の分解生成物の含有量が少ない水飴を使用することによって、水中油型乳化組成物(乳化物)の風味を改善するものである。そして、本乳化物は、従来の水飴と比較すると、分解度は従来と同程度であるが、分子量20000以上の高分子量の分解生成物の含有量が少ない水飴を含んでいることを特徴としているともいえる。この高分子量の分解生成物は、本発明によって明らかとなった風味を損なう原因物質である。従って、この分解生成物の含有量が少ない本乳化物は、従来よりも風味を改善できる。また、この分解生成物の含有量が少ない水飴は、分解度が低いながら、低粘度、しかも高アルコール滴定量であるという特性を示す。さらに、ショ糖と水飴の固形分比率(ショ糖×100/水飴全固形分)を従来よりも大きくして、従来と同じ甘味度とすることもできる。すなわち、高分子量の分解生成物の含有量が少ない水飴を使用することによって、より一層風味を向上し、風味のよい乳化物(水中油型乳化組成物)を提供することができる。このように、本乳化物は、適度な甘味度とその風味とが重要視される、飲食品の用途に特に好適である。
【0062】
また、本発明は、分解度が27%以下であって、かつ、分子量20000以上のデンプン分解生成物の含有量が1%以下の水飴と、ショ糖とを含むことを特徴とする甘味組成物、および、その甘味組成物を含む飲食物と換言することもできる。
【0063】
なお、本乳化物には、風味の低下(好ましくはさらに、甘味度の低下)を損なわない限り、ショ糖および水飴以外の成分を含んでいてもよい。他の成分としては特に限定されるものではないが、例えば、乳、乳製品、甘味料、油脂類、乳化剤、香料、着色料、防腐剤、保存剤、pH調整剤、安定剤等を挙げることができる。例えば、後述するように、水中油型乳化組成物に、適当な粘度を付与するときには、各種安定剤を添加することが好ましい。
【0064】
上記他の成分の添加量は特に限定されるものではなく、本乳化物の物性を損なわず、かつ他の成分を加えることによる効果が発揮できる程度で、規格の範囲内の量を添加すればよい。したがって、他の成分の種類や乳化物の状態に応じて添加量は適宜異なる。
【0065】
本実施形態では、分解度や高分子量の分解生成物の含有量が制限された水飴を含む乳化物において、風味を改善することについて説明したが、この乳化物は、粘度や吸湿性および結晶性にも優れているため、その他にも医薬品等の、風味(例えば、後味、甘味の質)を向上する幅広い産業分野で応用可能である。
【0066】
本発明の冷菓は、上記本発明の水中油型乳化組成物を含んでいることを特徴とするものである。この冷菓には、風味を損なう原因となる高分子量(分子量20000以上)のデンプン分解生成物の含有量が少ない水中油型乳化組成物を含んでいる。従って、風味を改善した冷菓を提供できるという効果を奏する。
【0067】
また、上記冷菓は、品温が−7℃以上−3℃以下の範囲内において、保形性があるものであることが好ましい。
【0068】
ここで、「品温」とは、喫食温度と換言することができ、例えば、ハードアイスクリームの場合には保管容器から取り出した直後の温度を示し、ソフトクリームの場合にはコーンにクリームが盛られた直後の温度を示す。
【0069】
また、「保形性がある」とは、上記品温において、直接、コーン等の容器に盛り付け可能であることを意味する。
【0070】
すなわち、上記品温の範囲内において、保形性がある冷菓は、ソフトクリームを示しており、一般にアイスクリームと称されるハードアイスクリームを示すものではない。
【0071】
また、上記冷菓は、成分としてさらにショ糖を含んでおり、全固形分が20%〜40%であって、かつ、甘味度が7%〜25%であることが好ましい。例えば、本乳化物としてのソフトクリームでは、全固形分が20%〜40%であり、甘味度は主にショ糖によって調節される。これにより、例えば、ソフトクリームの風味を改善できるという効果を奏する。なお、上記冷菓は、甘味度と全固形分との条件を満たせば、ソフトクリームに限定されるものではない。
【0072】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0073】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0074】
〔使用水飴〕
図1〜図4は、実施例および比較例で使用した水飴(実施水飴、比較水飴1、比較水飴2、比較水飴3)の主な性質(分解度、甘味度、粘度、アルコール滴定量、および分子量分布)を示すグラフである。また、分解度(DE)は、全固形分に対する直接還元糖の割合(直接還元糖/全固形分)から算出した。直接還元糖の割合は、レインエイノン法によって定量される直接還元糖の還元基量を、グルコース量に換算することにより測定した。水飴は、デンプンの分解生成物であるため、直接還元糖は、グルコースおよびグルコースが少数重合した重合体を示す。粘度は、50℃、B型粘度計で測定した。さらに、アルコール滴定量は、1)水飴43gに蒸留水を加えて100gとした後、2)その溶液10mLに75%エタノール水溶液を加え(測定温度27℃±1℃)、3)目視で白濁を生じた時点で滴下を終了し、終点の滴定値を読み取ることによって行った。ただし、攪拌しても白濁が消えない点を終点とした。また、分子量分布は、ゲルろ過クロマトグラフィーにより測定した。
【0075】
〔実施例1〜2〕
実施例1および2では、水飴として、実施水飴を使用し、表1および表2に示すソフトクリームを製造し、風味を評価した。なお、風味の評価は、「◎」(非常に良好)、「○」(良好)、「×」(不良)の3段階評価で行った。
【0076】
〔比較例1〜2〕
水飴として、比較水飴1を使用し、実施例と同じ全固形分および甘味度となるように、表1および表2に示す組成のソフトクリームを製造し、風味を評価した。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
〔測定結果〕
図4に示すように、実施例と比較例の水飴を比較すると、実施例の水飴(実施水飴)は、分子量約10000以上、特に、20000以上の分解生成物の含有量が、従来の水飴(比較水飴1・2)よりも、少なくなっていることから、この分解生成物が特に風味を著しく損なう原因である。また、実施例の水飴は、分子量1000〜10000の分解生成物の含有量が、比較水飴1・2よりも、多くなっていた。
【0080】
さらに、図1〜図3、表1および表2に示すように、水飴の分解度(DE)と、甘味度、粘度、およびアルコール滴定量とを比較すると、実施例の水飴は、低分解度でありながら、粘度が低く、アルコール滴定量が高いという特徴が読み取れる。
【0081】
通常、低分解度の水飴は、高分子量の分解生成物の含有率が多いため、粘度が高く、アルコール滴定量も低くなっている。これに対し、実施例で用いた水飴は、従来の同程度の分解度の水飴と比較すると、粘度が低く、アルコール滴定量が多いという特徴を有している。これにより、低分解度でありながら、低粘度、高アルコール滴定量を実現することが可能となった。さらに、上記水飴は、特に風味を損なう原因となる高分子量(分子量20000以上)の含有量が少ない。さらに、ショ糖/水飴全固形分の比率が、比較例よりも大きい。それゆえ、実施例の風味の評価は、いずれも非常に良好となった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
以上のように、本発明は、風味を損なう原因となる高分子量デンプン分解生成物の含有量が少ない特定の水飴を用いることによって、風味(例えば、後味、甘味の質)を向上した乳化物(水中油型乳化組成物)を提供することができる。また、この乳化物は、粘度や吸湿性および結晶性にも優れているため、水飴を必須成分として含むあらゆる食品、医薬品等に好適に利用でき、それらの風味(例えば、後味、甘味の質)を改善する幅広い産業分野に応用することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分として水飴を含む水中油型乳化組成物であって、
上記水飴を構成するデンプン分解生成物のうち、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が1重量%以下であることを特徴とする水中油型乳化組成物。
【請求項2】
上記水飴の分解度が27%以下であることを特徴とする請求項1に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項3】
上記水飴の粘度(50℃、B型粘度計にて計測)が、3000cp以下であり、
上記水飴のアルコール滴定量が、15mL以上である(ただし、アルコール滴定量は、1)水飴43gに蒸留水を加えて100gとした後、2)その溶液10mLに75%エタノール水溶液を加え(測定温度27℃±1℃)、3)目視で白濁を生じた時点で滴下を終了し、攪拌しても白濁が消えない点を終点としたときの終点の滴定値である)ことを特徴とする請求項1または2に記載の水中油型乳化組成物。
【請求項4】
成分として水飴を含むホイップクリームであって、
上記水飴を構成するデンプン分解生成物のうち、分子量20000以上の高分子量デンプン分解生成物の含有量が、水飴の1重量%以下であることを特徴とするホイップクリーム。
【請求項5】
上記水飴の分解度が27%以下であることを特徴とする請求項4に記載のホイップクリーム。
【請求項6】
上記水飴の粘度(50℃、B型粘度計にて計測)が、3000cp以下であり、
上記水飴のアルコール滴定量が、15mL以上である(ただし、アルコール滴定量は、1)水飴43gに蒸留水を加えて100gとした後、2)その溶液10mLに75%エタノール水溶液を加え(測定温度27℃±1℃)、3)目視で白濁を生じた時点で滴下を終了し、攪拌しても白濁が消えない点を終点としたときの終点の滴定値である)ことを特徴とする請求項4または5に記載のホイップクリーム。
【請求項7】
成分としてさらにショ糖を含んでおり、
全固形分が30%〜60%であって、かつ、甘味度が5%〜25%であることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載のホイップクリーム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−104371(P2010−104371A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289578(P2009−289578)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2004−71098(P2004−71098)の分割
【原出願日】平成16年3月12日(2004.3.12)
【出願人】(000226895)日世株式会社 (24)
【Fターム(参考)】