水中環境汚染物質の簡易定量方法及び簡易定量測定具
【課題】環境水中の富栄養化による水質汚濁の原因物質として広く認識されている硝酸イオンとリン酸イオン濃度を現場で容易に分析するための簡易定量方法及び簡易定量測定具を提供する。
【解決手段】本発明の水中環境汚染物質の簡易定量方法は、水中環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状のオクタデシル基結合型シリカゲル(C18)等の吸着剤2を充填したカラム1内に注入し、カラム1内における上記吸着剤2の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定する方法である。また水中環境汚染物質のうち硝酸イオン濃度を上記定量方法で測定する場合は、簡易定量測定具用のカラム1には予め発色剤が担持された吸着剤2が充填されている。
【解決手段】本発明の水中環境汚染物質の簡易定量方法は、水中環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状のオクタデシル基結合型シリカゲル(C18)等の吸着剤2を充填したカラム1内に注入し、カラム1内における上記吸着剤2の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定する方法である。また水中環境汚染物質のうち硝酸イオン濃度を上記定量方法で測定する場合は、簡易定量測定具用のカラム1には予め発色剤が担持された吸着剤2が充填されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境水中の富栄養化による水質汚濁の原因物質として広く認識されている硝酸イオンとリン酸イオン濃度を現場で容易に分析するための簡易定量方法及び簡易定量測定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の硝酸イオン又はリン酸イオン濃度の現場での定量方法としては、特許文献1,2に示すように、透視可能な密閉容器内に反応試薬を封入し、その密閉容器の内外を貫通して引き抜き可能な栓部材を備えた簡易水質分析用器具が知られている。
【特許文献1】国際公開第2002/090973号(第1図)
【特許文献2】特開2002−85052号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記特許文献1で示される簡易水質分析用測定具は、主として学校の環境教育や環境団体等による市民の水質分析に利用されているものの、この測定具では発色した試料水の色の濃さを色標準(特許文献2の色列表6,図4参照)と比較して濃度を決定するため、求める濃度が色標準に近い色の値あるいは色と色の中間値となるために、定量値が粗く曖昧になるという問題があった。
また自然界における硝酸イオン濃度は0〜1ppmであり、リン酸イオン濃度は0〜0.5ppmであり、このような低濃度の測定に上記簡易水質分析用測定具を用いて定量した場合、発色の不安定さから精度が著しく悪くなるという問題があった。
この発明は、これらの課題を解決又は改善し、低濃度でも現場で正確に測定できる水中環境汚染物質の簡易定量方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は、第1に、環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状の吸着剤2を充填したカラム1内に注入し、カラム1内における上記吸着剤2の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定することを特徴としている。
【0005】
第2に、吸着剤2がオクタデシル基結合型シリカゲルであることを特徴としている。
【0006】
第3に、吸着剤2に予め発色剤を担持させ、カラム1内に前処理した試料水を注入することにより吸着剤2に担持された発色剤を発色させることを特徴としている。
【0007】
第4に、環境汚染物質が硝酸イオンであることを特徴としている。
【0008】
第5に、カラム1内に充填された吸着剤2に予め発色剤を担持させてなることを特徴としている。
【0009】
第6に、前処理された試料水を発色剤により予め発色させてカラム内に注入することによりカラム1内に発色層を形成させ、さらに該発色層を展開する展開剤を注入することにより発色層を測定対象となる長さに形成せしめることを特徴としている。
【0010】
第7に、環境汚染物質がリン酸イオンであることを特徴としている。
【0011】
第8に、展開剤がアスコルビン酸であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成される本発明の水中環境汚染物質の簡易定量方法は、曖昧な色の濃さで判別する従来法と異なり、誰もが正確に測定できる発色層の長さを求めれば、予め既知濃度の水中環境汚染物質によって作成された水中環境汚染物質の濃度と発色層長さとの関係を示す検量線から、水中環境汚染物質の濃度を求めることができるので、目視による色比較に見られるような曖昧差がなく、低濃度でも正確に測定することができる。
【0013】
また水中環境汚染物質のうち硝酸イオン濃度を定量する場合は、カラムに充填された吸着剤に予め発色剤を担持させているので、発色操作(反応)を行う必要がなく工程を省略できるほか、発色過程を視覚によって確認できるという利点がある。
【0014】
さらに水中環境汚染物質のうちリン酸イオン濃度を定量する場合は、従来のリン酸イオンの簡易定量方法ではppmレベルしか測定できないのに対し、発色後にカラム上部に捕集された発色層を展開剤で展開させることにより、ppbレベルまで測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水中環境汚染の指標となる硝酸イオン又はリン酸イオンの定量に用いる簡易定量測定具の一例について図1の正面図に基づき説明する。本発明の簡易定量測定具は筒状のカラム1に疎水性的な性質を持つオクタデシル基結合型シリカゲル等の吸着剤2が充填された構成となっている。該カラム1の先端(図1においては下端側)は吸着剤2が流れ出ないように先細りに形成され、該カラム1の外壁には試料水を流すことによって発色した発色層の長さを測定するための目盛り3が設けられている。
【0016】
カラム1の上端には試料溶液又は展開剤を注入するシリンジ等の注入具4が設けらており、該注入具4は注射筒6と、該注射筒6にスライド自在に設けられたピストン7からなり、該ピストン7の先端には、注射筒6の内壁に密着して試料水等を先細りに形成された先端(図1においては下端側)よりカラム1内に注入する樹脂製のプランジャー8が備えられている。外壁には上記カラム1と同様に試料溶液等を正確に注入するための目盛り9が表示されている。
【0017】
以上の構成による定量用測定具を用いて硝酸イオン濃度を測定する際の使用方法としては、吸着剤2が充填されたカラム1に調整済みの試料溶液を注入し、吸着剤2に予め担持された発色剤によって発色させ、その色素を吸着剤2に吸着させ、生じる発色層の長さを測定する。そして予め作成した硝酸イオン濃度と発色層の長さによる検量線と照合することによって試料水中の硝酸イオン濃度を判定する。ちなみに試料溶液は、予めカラム外で発色させた後にカラム1に流すこともできる。
【0018】
また定量用測定具を用いてリン酸イオン濃度を測定する際の使用方法としては、吸着剤2が充填されたカラム1に調整及び発色済みの試料溶液を注入し、展開剤を用いて展開させることにより色素を吸着剤2に吸着させ、生じる発色層の長さを測定する。そして予め作成したリン酸イオン濃度と発色層の長さによる検量線と照合することによって試料水中のリン酸イオン濃度を判定する。
以下、硝酸イオンとリン酸イオンの分析方法について詳述する。
【0019】
1)硝酸イオンについて
まず水中の硝酸イオン濃度を測定する場合につき説明する。この例で利用した定量原理としては、硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸イオン(NO2-)に還元し、その亜硝酸イオン(NO2-)をジアゾ化し、カップリング反応をさせることにより、アゾ色素(赤紫色)を生成させるという原理を用いる。
【0020】
(a)還元試薬の選択
硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸イオン(NO2-)に還元する試薬のうちCd−Cu,ヒドラジン,粉末Znについて検討した。表1にその検討結果を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
上記表1に示すように、Cd−Cuの還元速度は速いものの、毒性が強く、高度な廃棄物処理が必要となり、専門家でなければ使用することができなかった。ヒドラジンは毒性が弱いものの還元速度が遅く、現場での使用には不適切であった。粉末亜鉛は毒性が弱く、還元速度も速いことから、本件発明では還元試薬として粉末亜鉛を使用した。
【0023】
(b)ジアゾ化試薬の選択
亜硝酸イオンにジアゾ化試薬であるスルファニルアミド又はスルファニル酸を反応させて、ジアゾカップリング反応の反応中間体であるジアゾニウム塩を生成し(ジアゾ化反応)、そのジアゾニウム塩に発色剤であるN−1−ナフチルエチレンジアミンを加えてカップリング(カップリング反応)して生じるジアゾ化合物の赤色の吸光度を測定し、その発色速度を比較した。比較結果を表2及び図2の発色時間と吸光度との関係を示したグラフに示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2及び図2のグラフに示すようにスルファニル酸による発色の場合、安定した発色が得られるまでに8分必要であるのに対し、スルファニルアミドの場合、反応後約2分で安定した発色が得られるので、本件発明ではジアゾ化試薬としてスルファニルアミドを使用した。
【0026】
以上の結果、上記(a),(b)より還元試薬が粉末亜鉛(Zn)、ジアゾ化試薬がスルファニルアミドと決定された。以下に化学反応の基本原理を示す。
【0027】
【化1】
上記反応式により粉末亜鉛(Zn)によって硝酸イオン(NO3-)が亜硝酸イオン(NO2-)に還元され、
【0028】
【化2】
亜硝酸イオン(NO3-)にスルファニルアミドを加えてジアゾ化反応によりジアゾニウム塩を生成し、
【0029】
【化3】
生成されたジアゾニウム塩に発色剤であるナフチルエチレンジアミンを加えてカップリングして生じるジアゾ化合物の赤紫色のアゾ色素が生成されるという基本原理に基づく。
【0030】
(c)Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作
本件発明である現場での簡易定量法の開発に先立ち、図3のフロー図に示す吸光光度定量法を用いて亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率に及ぼす諸条件の検討を行い、亜鉛,酢酸ナトリウム,塩酸の最適濃度及び最適な還元時間を決定した。その検討結果を図4〜7のグラフに示す。亜硝酸イオンの還元率とは硝酸イオンが亜硝酸にどれくらい還元されたかを示すものであり、残存率とは亜硝酸イオンがどれくらい残っているかを示すものである。還元が強いと亜硝酸イオンがアンモニアまで還元される点に注意する必要がある。
【0031】
図4に示すように亜鉛の最適濃度を0.01g〜0.10gの範囲で検討したところ、0.08gが最適濃度であることが分かった。また図5に示すように、緩衝剤として加える酢酸ナトリウムの最適濃度は0.4g〜0.5gであることが分かった。
【0032】
図6に示すように、2MHClを0.0〜1.0mLの範囲で添加量を検討したところ、添加量が多くなると還元率及び残存率に低下が見られ、塩酸を全く添加しないと硝酸イオンが還元されないことから、残存率と還元率がともに高いのは0.01mLが最適濃度であることが分かった。
【0033】
図4〜6によって試薬の最適濃度が決定されたので、図7に示すように0.1分〜10分の範囲で還元に要する時間(図3における「かき混ぜ」時間)を検討したところ、1分をピークとし、時間が長くなるにつれて還元率及び残存率に低下が見られた。よって最適な還元時間は30〜60秒であった。
【0034】
図8に示すように、硝酸イオン及び亜硝酸イオン濃度が変化した時に残存率や還元率に影響を及ぼすか否かについて検討したところ、曲線が略一定であることから硝酸イオンや亜硝酸イオンの濃度は、硝酸イオンの還元率や亜硝酸イオンの残存率に影響を及ぼさない事が分かった。
【0035】
上記最適条件により図3のフローに示す「Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作」を既知濃度の硝酸イオン0.01〜0.40mgN/Lに対して行ったところ、図9に示すように略直線的な検量線が得られた。
【0036】
また飯梨川(島根県安来市広瀬町の中海流入河川)の上流から下流まで数地点からサンプリングした試料水を用いて、吸光光度定量法(Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法)と従来法(Cu−Cdカラム還元−ナフチルエチレンジアミン法)との比較検討を行ったところ、図10に示すように従来法と略同じ検量線が得られた。従来法(Cu−Cdカラム還元−ナフチルエチレンジアミン法)とは高度な廃棄物処理技術を備えた専門家による測定方法を指している。
【0037】
(d)NEDA担持C18小型カラムの調整
本発明のカラムに充填されるカラム吸着剤2はオクタデシル基結合型シリカゲル[−Si(CH3)2C18H37](ウォーターズ株式会社製:以下C18と称する)に発色剤としてN−1−ナフチルエチレンジアミンを担持させたものであり、その調整方法を図11のフロー図に基づき説明する。
【0038】
ビーカー中のオクタデシル基結合型シリカゲル(C18)にエタノールを添加しかき混ぜた後、ロートを用いてろ過した。ろ紙上のC18を純水で洗浄し、C18をビーカーに入れ、N−1−ナフチルエチレンジアミン(NEDA)溶液を添加して5分間かき混ぜた。そしてロートを用いてろ過した後、ろ紙上のNEDA担持C18を風乾し、カラム(内径4mm,長さ100mm)に充填してNEDA担持C18小型カラムを得た。
【0039】
(e)通水時間とカラム発色層の長さとの関係
図12のグラフから分かるように、5分以上通水すると発色層の長さが安定し、その中でも「濃」部分が最も正確である。よって通水時間は5分以上が望ましく、サンプル毎の通水時間は一定にする必要がある。また図12の発色層長さに使用した数値はシリンジ中の液体容量(mL)を示す数字を便宜的に用いたものである。
【0040】
(f)本法(カラム法)による検量線
本件発明による分析法(カラム法)を用いて測定したところ、図13に示す結果が得られた。図13に示すカラムは市販のシリンジの筒状部を切断した基端部同士を突き合わせて接合し内部に上記のNEDA担持C18を充填した便宜的なカラムであって、該カラム1の先端からシリンジ等の注入具2を用いて調整済みの試料溶液を注入したところ、硝酸イオン濃度に応じて赤紫色のアゾ色素の発色層が生成された。図示するように発色層の長さは硝酸イオン濃度が高いほど長く、低いほど短くなっている。
【0041】
上記の通水によって得られたNEDA担持C18小型カラムの発色層の長さと硝酸イオン濃度の関係から検量線を作成したところ、0.1〜1.0mgN/Lの濃度範囲でカラムの発色層の長さと濃度との間に良好な直線性が認められた。図14では実験者A,実験者Bが個々に分析しても傾きを略等しくした直線が得られたことから0.1〜1.0mgN/Lの低濃度の硝酸イオンであったとしても個人差無く正確に測定することができる。ちなみに図14の発色層長さに使用した数値はシリンジ中の液体容量(mL)を示す数字を便宜的に用いたものである。
【0042】
(g)現場簡易定量法による分析手順
本件発明の簡易分析用測定具による現場簡易定量法の分析手順を図15に基づき説明する。試料水25mLに粉末亜鉛0.08gと酢酸ナトリウム0.4gを加え、さらに2M塩酸溶液0.1mLを添加し30〜60秒間撹拌後ろ過する。そのろ液にスルファニルアミド塩酸溶液を添加した後、得られた試料溶液5mLをNEDA担持C18小型カラムに通水する。そしてカラム内で生成したアゾ色素(赤紫色)の発色層の長さを測定し、予め作成した検量線から硝酸イオン濃度を求める。
【0043】
以上のように構成される本発明によれば、硝酸イオン濃度が未知の試料水をNEDA担持C18小型カラムに流して発色層の長さを求めれば、上記方法により得られた検量線から硝酸イオン濃度を特殊な測定具を要することなく現場で迅速に測定することができる。またカラムに充填された吸着剤に予め発色剤を担持させているので、発色操作(反応)を行う必要がなく工程を省略できるほか、発色過程を視覚によって確認できるという利点がある。
【0044】
上記NEDA担持C18小型カラムは上記態様に限らず、直線に限らずドーナツ状でも良いほか、その断面形状も円形に限らず、6角形等の他の多角形にすることもできる。また本件発明では発色剤を吸着剤に担持させたものを使用したが、試料水を予めカラム外で発色させた後にカラムに流すこともできる。この場合は吸着剤に予め発色剤を担持させる必要はない。さらに測定対象の硝酸イオン濃度が0〜1.0mgN/Lの範囲で測定可能なように発色剤の量を設定したが、測定範囲を0〜10mgN/Lに設定する場合は、範囲の拡大に応じて発色剤の量を増やすことにより対応することができる。
【0045】
2)リン酸イオンについて
次に上記実施形態の原理を応用して水中のリン酸イオン濃度を測定する場合につき説明する。この例で利用した定量原理としては、リン酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムと酒石酸二アンチモン(III)カリウムと反応してヘテロポリ化合物を生成する。これをL−アスコルビン酸で還元することによりモリブデン青を生成して青色を発色する。この反応は例えば「JIS K 0102:1998 工業排水試験方法」において、リン酸イオンを吸光光度法で定量する際の発色反応として利用されている。
【0046】
(a)検量線の作成
既知のリン酸イオン(PO43-)濃度をもつ試料水(0,50,100,250,500μgP/L(ppb))を10mLシリンジ(注射器)に入れ、発色剤(モリブデン酸アンモニウム,酒石酸二アンチモン(III)カリウム,硫酸,L−アスコルビン酸からなる混合液)を添加して発色(モリブデン青)させる。
【0047】
発色した溶液をオクタデシル基結合型シリカゲル充填カラム(以下C18小型カラムと称する)に流速10mL/minで通水し、カラム上端に捕集する(この段階ではカラム上端に溜まる)。そして溶液を展開させるために展開剤(0.01モル/1L−アスコルビン酸溶液)を流速5mL/minで通水し、発色層を展開して、発色層の長さを測定し、各リン酸イオン濃度と発色層の長さとの関係を基に検量線を作成する。
【0048】
上記方法によりリン酸イオンを発色させて展開したところ、リン酸イオン濃度が高くなるにしたがって発色層長さが長くなるという図16に示す結果が得られた。また得られた結果を元に検量線を作成した(図示しない:但し上述の硝酸イオンの図9の検量線と同様に発色層の長さと濃度との間に良好な相関性が認められた)。この例では図16の写真に示すように便宜的に市販のガラスピペットに吸着剤を充填したものを使用した。この時使用したガラスピペットには目盛りが形成されていないので発色層の長さは定規で測定した。
【0049】
図17は中海湖水の同一試料水を本法と吸光光度法(従来法として精度の良い分析法)で分析した比較結果を示しており、従来法と略同じ検量線が得られたことから、本法でも上記硝酸イオン濃度と同様に、現場で迅速・正確にリン酸イオン濃度を測定することができる。図17の点線は両法により求められた濃度が一致する点を示す。
【0050】
(b)リン酸イオン濃度の簡易現場測定操作
未知濃度のリン酸イオンを含む試料水を10mLシリンジ(注射器)に入れ、発色剤(モリブデン酸アンモニウム,酒石酸二アンチモン(III)カリウム,硫酸,L−アスコルビン酸からなる混合液)を添加して発色(モリブデン青)させる。発色した溶液をC18小型カラムに流速10mL/minで通水し、カラム上端に捕集する(この段階ではカラム上端に溜まる)。
【0051】
そして溶液を展開させるために展開剤(0.01モル/1L−アスコルビン酸溶液)を流速5mL/minで通水し、発色層を展開して発色層の長さを測定し、上記方法により作成された検量線から試料水のリン酸イオン濃度を求める。また図18のフロー図では試料水量が5mLであるが試料水量を20mLにすることによりリン酸イオン(PO43-)の定量限界値を5μgP/L(ppb)に下げることができる。
【0052】
以上のように構成される本発明の定量方法をリン酸イオンの定量に用いた場合、従来のリン酸イオンの簡易定量法ではppmレベルしか測定できないのに対し、発色後にカラム上部に捕集された発色層を展開剤で展開させることにより、ppbレベルまで測定することができる。
【0053】
また高濃度のイオン類(高塩分)をもつ海水,汽水試料に対しても妨害を受けることなく適用できる。さらに低濃度の試料水に対してカラムに通水する試料水量を増やすことにより低濃度の測定が可能である。このように本法は操作が簡単であり、広く一般市民等の水中環境汚染物質の定量技術に必ずしも習熟しない者にも利用しやすく現場で簡便に精度良く濃度が測定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の簡易定量測定具の正面図である。
【図2】硝酸イオン濃度を測定する際の発色剤であるスルファニルアミドとスルファニル酸による発色に要する時間の比較グラフである。
【図3】硝酸イオン濃度を測定する際のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作のフロー図である。
【図4】硝酸イオン濃度を測定する際の亜鉛の添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図5】硝酸イオン濃度を測定する際の酢酸ナトリウムの添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図6】硝酸イオン濃度を測定する際の塩酸の添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図7】硝酸イオン濃度を測定する際の還元時間(かき混ぜ時間)による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図8】硝酸イオン濃度を測定する際の硝酸イオン及び亜硝酸イオン濃度変化による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図9】図3のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法によって得られた硝酸イオン濃度に対する543nmでの吸光度の関係を示す検量線である。
【図10】図3のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法によって得られた硝酸イオン濃度と従来法(Cd−Cuカラム還元法)によって得られた硝酸イオン濃度を比較したグラフである。
【図11】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムの調整方法を示すフロー図である。
【図12】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムに試料水を通水した際の通水時間と発色層の長さの関係を示すグラフである。
【図13】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムに既知濃度の硝酸イオンを含む試料水を通水した際の各硝酸イオン濃度の発色層の長さを示す正面図である。
【図14】本発明の硝酸イオン濃度を測定する際のNEDA担持C18小型カラムに既知濃度の硝酸イオンを通水後の発色層の長さと硝酸イオン濃度の関係を示す検量線である。
【図15】本発明のNEDA担持C18小型カラムを用いた現場での硝酸イオンの簡易定量法の分析手順を示すフロー図である。
【図16】本発明のC18小型カラムに既知濃度のリン酸イオンを含む試料水を通水し展開した際の各リン酸イオン濃度の発色層の長さを示す正面図である。
【図17】本発明のリン酸イオン濃度測定に用いるC18小型カラムを用いたカラム法と従来法(吸光光度法)による中海湖水試料のリン酸イオン濃度の比較グラフである。
【図18】本発明のC18小型カラムを用いた現場でのリン酸イオンの簡易定量法の分析手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0055】
1 カラム
2 吸着剤
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境水中の富栄養化による水質汚濁の原因物質として広く認識されている硝酸イオンとリン酸イオン濃度を現場で容易に分析するための簡易定量方法及び簡易定量測定具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の硝酸イオン又はリン酸イオン濃度の現場での定量方法としては、特許文献1,2に示すように、透視可能な密閉容器内に反応試薬を封入し、その密閉容器の内外を貫通して引き抜き可能な栓部材を備えた簡易水質分析用器具が知られている。
【特許文献1】国際公開第2002/090973号(第1図)
【特許文献2】特開2002−85052号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし上記特許文献1で示される簡易水質分析用測定具は、主として学校の環境教育や環境団体等による市民の水質分析に利用されているものの、この測定具では発色した試料水の色の濃さを色標準(特許文献2の色列表6,図4参照)と比較して濃度を決定するため、求める濃度が色標準に近い色の値あるいは色と色の中間値となるために、定量値が粗く曖昧になるという問題があった。
また自然界における硝酸イオン濃度は0〜1ppmであり、リン酸イオン濃度は0〜0.5ppmであり、このような低濃度の測定に上記簡易水質分析用測定具を用いて定量した場合、発色の不安定さから精度が著しく悪くなるという問題があった。
この発明は、これらの課題を解決又は改善し、低濃度でも現場で正確に測定できる水中環境汚染物質の簡易定量方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は、第1に、環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状の吸着剤2を充填したカラム1内に注入し、カラム1内における上記吸着剤2の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定することを特徴としている。
【0005】
第2に、吸着剤2がオクタデシル基結合型シリカゲルであることを特徴としている。
【0006】
第3に、吸着剤2に予め発色剤を担持させ、カラム1内に前処理した試料水を注入することにより吸着剤2に担持された発色剤を発色させることを特徴としている。
【0007】
第4に、環境汚染物質が硝酸イオンであることを特徴としている。
【0008】
第5に、カラム1内に充填された吸着剤2に予め発色剤を担持させてなることを特徴としている。
【0009】
第6に、前処理された試料水を発色剤により予め発色させてカラム内に注入することによりカラム1内に発色層を形成させ、さらに該発色層を展開する展開剤を注入することにより発色層を測定対象となる長さに形成せしめることを特徴としている。
【0010】
第7に、環境汚染物質がリン酸イオンであることを特徴としている。
【0011】
第8に、展開剤がアスコルビン酸であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成される本発明の水中環境汚染物質の簡易定量方法は、曖昧な色の濃さで判別する従来法と異なり、誰もが正確に測定できる発色層の長さを求めれば、予め既知濃度の水中環境汚染物質によって作成された水中環境汚染物質の濃度と発色層長さとの関係を示す検量線から、水中環境汚染物質の濃度を求めることができるので、目視による色比較に見られるような曖昧差がなく、低濃度でも正確に測定することができる。
【0013】
また水中環境汚染物質のうち硝酸イオン濃度を定量する場合は、カラムに充填された吸着剤に予め発色剤を担持させているので、発色操作(反応)を行う必要がなく工程を省略できるほか、発色過程を視覚によって確認できるという利点がある。
【0014】
さらに水中環境汚染物質のうちリン酸イオン濃度を定量する場合は、従来のリン酸イオンの簡易定量方法ではppmレベルしか測定できないのに対し、発色後にカラム上部に捕集された発色層を展開剤で展開させることにより、ppbレベルまで測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の水中環境汚染の指標となる硝酸イオン又はリン酸イオンの定量に用いる簡易定量測定具の一例について図1の正面図に基づき説明する。本発明の簡易定量測定具は筒状のカラム1に疎水性的な性質を持つオクタデシル基結合型シリカゲル等の吸着剤2が充填された構成となっている。該カラム1の先端(図1においては下端側)は吸着剤2が流れ出ないように先細りに形成され、該カラム1の外壁には試料水を流すことによって発色した発色層の長さを測定するための目盛り3が設けられている。
【0016】
カラム1の上端には試料溶液又は展開剤を注入するシリンジ等の注入具4が設けらており、該注入具4は注射筒6と、該注射筒6にスライド自在に設けられたピストン7からなり、該ピストン7の先端には、注射筒6の内壁に密着して試料水等を先細りに形成された先端(図1においては下端側)よりカラム1内に注入する樹脂製のプランジャー8が備えられている。外壁には上記カラム1と同様に試料溶液等を正確に注入するための目盛り9が表示されている。
【0017】
以上の構成による定量用測定具を用いて硝酸イオン濃度を測定する際の使用方法としては、吸着剤2が充填されたカラム1に調整済みの試料溶液を注入し、吸着剤2に予め担持された発色剤によって発色させ、その色素を吸着剤2に吸着させ、生じる発色層の長さを測定する。そして予め作成した硝酸イオン濃度と発色層の長さによる検量線と照合することによって試料水中の硝酸イオン濃度を判定する。ちなみに試料溶液は、予めカラム外で発色させた後にカラム1に流すこともできる。
【0018】
また定量用測定具を用いてリン酸イオン濃度を測定する際の使用方法としては、吸着剤2が充填されたカラム1に調整及び発色済みの試料溶液を注入し、展開剤を用いて展開させることにより色素を吸着剤2に吸着させ、生じる発色層の長さを測定する。そして予め作成したリン酸イオン濃度と発色層の長さによる検量線と照合することによって試料水中のリン酸イオン濃度を判定する。
以下、硝酸イオンとリン酸イオンの分析方法について詳述する。
【0019】
1)硝酸イオンについて
まず水中の硝酸イオン濃度を測定する場合につき説明する。この例で利用した定量原理としては、硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸イオン(NO2-)に還元し、その亜硝酸イオン(NO2-)をジアゾ化し、カップリング反応をさせることにより、アゾ色素(赤紫色)を生成させるという原理を用いる。
【0020】
(a)還元試薬の選択
硝酸イオン(NO3-)を亜硝酸イオン(NO2-)に還元する試薬のうちCd−Cu,ヒドラジン,粉末Znについて検討した。表1にその検討結果を示す。
【0021】
【表1】
【0022】
上記表1に示すように、Cd−Cuの還元速度は速いものの、毒性が強く、高度な廃棄物処理が必要となり、専門家でなければ使用することができなかった。ヒドラジンは毒性が弱いものの還元速度が遅く、現場での使用には不適切であった。粉末亜鉛は毒性が弱く、還元速度も速いことから、本件発明では還元試薬として粉末亜鉛を使用した。
【0023】
(b)ジアゾ化試薬の選択
亜硝酸イオンにジアゾ化試薬であるスルファニルアミド又はスルファニル酸を反応させて、ジアゾカップリング反応の反応中間体であるジアゾニウム塩を生成し(ジアゾ化反応)、そのジアゾニウム塩に発色剤であるN−1−ナフチルエチレンジアミンを加えてカップリング(カップリング反応)して生じるジアゾ化合物の赤色の吸光度を測定し、その発色速度を比較した。比較結果を表2及び図2の発色時間と吸光度との関係を示したグラフに示す。
【0024】
【表2】
【0025】
表2及び図2のグラフに示すようにスルファニル酸による発色の場合、安定した発色が得られるまでに8分必要であるのに対し、スルファニルアミドの場合、反応後約2分で安定した発色が得られるので、本件発明ではジアゾ化試薬としてスルファニルアミドを使用した。
【0026】
以上の結果、上記(a),(b)より還元試薬が粉末亜鉛(Zn)、ジアゾ化試薬がスルファニルアミドと決定された。以下に化学反応の基本原理を示す。
【0027】
【化1】
上記反応式により粉末亜鉛(Zn)によって硝酸イオン(NO3-)が亜硝酸イオン(NO2-)に還元され、
【0028】
【化2】
亜硝酸イオン(NO3-)にスルファニルアミドを加えてジアゾ化反応によりジアゾニウム塩を生成し、
【0029】
【化3】
生成されたジアゾニウム塩に発色剤であるナフチルエチレンジアミンを加えてカップリングして生じるジアゾ化合物の赤紫色のアゾ色素が生成されるという基本原理に基づく。
【0030】
(c)Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作
本件発明である現場での簡易定量法の開発に先立ち、図3のフロー図に示す吸光光度定量法を用いて亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率に及ぼす諸条件の検討を行い、亜鉛,酢酸ナトリウム,塩酸の最適濃度及び最適な還元時間を決定した。その検討結果を図4〜7のグラフに示す。亜硝酸イオンの還元率とは硝酸イオンが亜硝酸にどれくらい還元されたかを示すものであり、残存率とは亜硝酸イオンがどれくらい残っているかを示すものである。還元が強いと亜硝酸イオンがアンモニアまで還元される点に注意する必要がある。
【0031】
図4に示すように亜鉛の最適濃度を0.01g〜0.10gの範囲で検討したところ、0.08gが最適濃度であることが分かった。また図5に示すように、緩衝剤として加える酢酸ナトリウムの最適濃度は0.4g〜0.5gであることが分かった。
【0032】
図6に示すように、2MHClを0.0〜1.0mLの範囲で添加量を検討したところ、添加量が多くなると還元率及び残存率に低下が見られ、塩酸を全く添加しないと硝酸イオンが還元されないことから、残存率と還元率がともに高いのは0.01mLが最適濃度であることが分かった。
【0033】
図4〜6によって試薬の最適濃度が決定されたので、図7に示すように0.1分〜10分の範囲で還元に要する時間(図3における「かき混ぜ」時間)を検討したところ、1分をピークとし、時間が長くなるにつれて還元率及び残存率に低下が見られた。よって最適な還元時間は30〜60秒であった。
【0034】
図8に示すように、硝酸イオン及び亜硝酸イオン濃度が変化した時に残存率や還元率に影響を及ぼすか否かについて検討したところ、曲線が略一定であることから硝酸イオンや亜硝酸イオンの濃度は、硝酸イオンの還元率や亜硝酸イオンの残存率に影響を及ぼさない事が分かった。
【0035】
上記最適条件により図3のフローに示す「Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作」を既知濃度の硝酸イオン0.01〜0.40mgN/Lに対して行ったところ、図9に示すように略直線的な検量線が得られた。
【0036】
また飯梨川(島根県安来市広瀬町の中海流入河川)の上流から下流まで数地点からサンプリングした試料水を用いて、吸光光度定量法(Zn還元−ナフチルエチレンジアミン法)と従来法(Cu−Cdカラム還元−ナフチルエチレンジアミン法)との比較検討を行ったところ、図10に示すように従来法と略同じ検量線が得られた。従来法(Cu−Cdカラム還元−ナフチルエチレンジアミン法)とは高度な廃棄物処理技術を備えた専門家による測定方法を指している。
【0037】
(d)NEDA担持C18小型カラムの調整
本発明のカラムに充填されるカラム吸着剤2はオクタデシル基結合型シリカゲル[−Si(CH3)2C18H37](ウォーターズ株式会社製:以下C18と称する)に発色剤としてN−1−ナフチルエチレンジアミンを担持させたものであり、その調整方法を図11のフロー図に基づき説明する。
【0038】
ビーカー中のオクタデシル基結合型シリカゲル(C18)にエタノールを添加しかき混ぜた後、ロートを用いてろ過した。ろ紙上のC18を純水で洗浄し、C18をビーカーに入れ、N−1−ナフチルエチレンジアミン(NEDA)溶液を添加して5分間かき混ぜた。そしてロートを用いてろ過した後、ろ紙上のNEDA担持C18を風乾し、カラム(内径4mm,長さ100mm)に充填してNEDA担持C18小型カラムを得た。
【0039】
(e)通水時間とカラム発色層の長さとの関係
図12のグラフから分かるように、5分以上通水すると発色層の長さが安定し、その中でも「濃」部分が最も正確である。よって通水時間は5分以上が望ましく、サンプル毎の通水時間は一定にする必要がある。また図12の発色層長さに使用した数値はシリンジ中の液体容量(mL)を示す数字を便宜的に用いたものである。
【0040】
(f)本法(カラム法)による検量線
本件発明による分析法(カラム法)を用いて測定したところ、図13に示す結果が得られた。図13に示すカラムは市販のシリンジの筒状部を切断した基端部同士を突き合わせて接合し内部に上記のNEDA担持C18を充填した便宜的なカラムであって、該カラム1の先端からシリンジ等の注入具2を用いて調整済みの試料溶液を注入したところ、硝酸イオン濃度に応じて赤紫色のアゾ色素の発色層が生成された。図示するように発色層の長さは硝酸イオン濃度が高いほど長く、低いほど短くなっている。
【0041】
上記の通水によって得られたNEDA担持C18小型カラムの発色層の長さと硝酸イオン濃度の関係から検量線を作成したところ、0.1〜1.0mgN/Lの濃度範囲でカラムの発色層の長さと濃度との間に良好な直線性が認められた。図14では実験者A,実験者Bが個々に分析しても傾きを略等しくした直線が得られたことから0.1〜1.0mgN/Lの低濃度の硝酸イオンであったとしても個人差無く正確に測定することができる。ちなみに図14の発色層長さに使用した数値はシリンジ中の液体容量(mL)を示す数字を便宜的に用いたものである。
【0042】
(g)現場簡易定量法による分析手順
本件発明の簡易分析用測定具による現場簡易定量法の分析手順を図15に基づき説明する。試料水25mLに粉末亜鉛0.08gと酢酸ナトリウム0.4gを加え、さらに2M塩酸溶液0.1mLを添加し30〜60秒間撹拌後ろ過する。そのろ液にスルファニルアミド塩酸溶液を添加した後、得られた試料溶液5mLをNEDA担持C18小型カラムに通水する。そしてカラム内で生成したアゾ色素(赤紫色)の発色層の長さを測定し、予め作成した検量線から硝酸イオン濃度を求める。
【0043】
以上のように構成される本発明によれば、硝酸イオン濃度が未知の試料水をNEDA担持C18小型カラムに流して発色層の長さを求めれば、上記方法により得られた検量線から硝酸イオン濃度を特殊な測定具を要することなく現場で迅速に測定することができる。またカラムに充填された吸着剤に予め発色剤を担持させているので、発色操作(反応)を行う必要がなく工程を省略できるほか、発色過程を視覚によって確認できるという利点がある。
【0044】
上記NEDA担持C18小型カラムは上記態様に限らず、直線に限らずドーナツ状でも良いほか、その断面形状も円形に限らず、6角形等の他の多角形にすることもできる。また本件発明では発色剤を吸着剤に担持させたものを使用したが、試料水を予めカラム外で発色させた後にカラムに流すこともできる。この場合は吸着剤に予め発色剤を担持させる必要はない。さらに測定対象の硝酸イオン濃度が0〜1.0mgN/Lの範囲で測定可能なように発色剤の量を設定したが、測定範囲を0〜10mgN/Lに設定する場合は、範囲の拡大に応じて発色剤の量を増やすことにより対応することができる。
【0045】
2)リン酸イオンについて
次に上記実施形態の原理を応用して水中のリン酸イオン濃度を測定する場合につき説明する。この例で利用した定量原理としては、リン酸イオンが七モリブデン酸六アンモニウムと酒石酸二アンチモン(III)カリウムと反応してヘテロポリ化合物を生成する。これをL−アスコルビン酸で還元することによりモリブデン青を生成して青色を発色する。この反応は例えば「JIS K 0102:1998 工業排水試験方法」において、リン酸イオンを吸光光度法で定量する際の発色反応として利用されている。
【0046】
(a)検量線の作成
既知のリン酸イオン(PO43-)濃度をもつ試料水(0,50,100,250,500μgP/L(ppb))を10mLシリンジ(注射器)に入れ、発色剤(モリブデン酸アンモニウム,酒石酸二アンチモン(III)カリウム,硫酸,L−アスコルビン酸からなる混合液)を添加して発色(モリブデン青)させる。
【0047】
発色した溶液をオクタデシル基結合型シリカゲル充填カラム(以下C18小型カラムと称する)に流速10mL/minで通水し、カラム上端に捕集する(この段階ではカラム上端に溜まる)。そして溶液を展開させるために展開剤(0.01モル/1L−アスコルビン酸溶液)を流速5mL/minで通水し、発色層を展開して、発色層の長さを測定し、各リン酸イオン濃度と発色層の長さとの関係を基に検量線を作成する。
【0048】
上記方法によりリン酸イオンを発色させて展開したところ、リン酸イオン濃度が高くなるにしたがって発色層長さが長くなるという図16に示す結果が得られた。また得られた結果を元に検量線を作成した(図示しない:但し上述の硝酸イオンの図9の検量線と同様に発色層の長さと濃度との間に良好な相関性が認められた)。この例では図16の写真に示すように便宜的に市販のガラスピペットに吸着剤を充填したものを使用した。この時使用したガラスピペットには目盛りが形成されていないので発色層の長さは定規で測定した。
【0049】
図17は中海湖水の同一試料水を本法と吸光光度法(従来法として精度の良い分析法)で分析した比較結果を示しており、従来法と略同じ検量線が得られたことから、本法でも上記硝酸イオン濃度と同様に、現場で迅速・正確にリン酸イオン濃度を測定することができる。図17の点線は両法により求められた濃度が一致する点を示す。
【0050】
(b)リン酸イオン濃度の簡易現場測定操作
未知濃度のリン酸イオンを含む試料水を10mLシリンジ(注射器)に入れ、発色剤(モリブデン酸アンモニウム,酒石酸二アンチモン(III)カリウム,硫酸,L−アスコルビン酸からなる混合液)を添加して発色(モリブデン青)させる。発色した溶液をC18小型カラムに流速10mL/minで通水し、カラム上端に捕集する(この段階ではカラム上端に溜まる)。
【0051】
そして溶液を展開させるために展開剤(0.01モル/1L−アスコルビン酸溶液)を流速5mL/minで通水し、発色層を展開して発色層の長さを測定し、上記方法により作成された検量線から試料水のリン酸イオン濃度を求める。また図18のフロー図では試料水量が5mLであるが試料水量を20mLにすることによりリン酸イオン(PO43-)の定量限界値を5μgP/L(ppb)に下げることができる。
【0052】
以上のように構成される本発明の定量方法をリン酸イオンの定量に用いた場合、従来のリン酸イオンの簡易定量法ではppmレベルしか測定できないのに対し、発色後にカラム上部に捕集された発色層を展開剤で展開させることにより、ppbレベルまで測定することができる。
【0053】
また高濃度のイオン類(高塩分)をもつ海水,汽水試料に対しても妨害を受けることなく適用できる。さらに低濃度の試料水に対してカラムに通水する試料水量を増やすことにより低濃度の測定が可能である。このように本法は操作が簡単であり、広く一般市民等の水中環境汚染物質の定量技術に必ずしも習熟しない者にも利用しやすく現場で簡便に精度良く濃度が測定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の簡易定量測定具の正面図である。
【図2】硝酸イオン濃度を測定する際の発色剤であるスルファニルアミドとスルファニル酸による発色に要する時間の比較グラフである。
【図3】硝酸イオン濃度を測定する際のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法による吸光光度定量操作のフロー図である。
【図4】硝酸イオン濃度を測定する際の亜鉛の添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図5】硝酸イオン濃度を測定する際の酢酸ナトリウムの添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図6】硝酸イオン濃度を測定する際の塩酸の添加量による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図7】硝酸イオン濃度を測定する際の還元時間(かき混ぜ時間)による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図8】硝酸イオン濃度を測定する際の硝酸イオン及び亜硝酸イオン濃度変化による亜硝酸イオンの残存率及び硝酸イオンの還元率を示すグラフである。
【図9】図3のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法によって得られた硝酸イオン濃度に対する543nmでの吸光度の関係を示す検量線である。
【図10】図3のZn還元−ナフチルエチレンジアミン法によって得られた硝酸イオン濃度と従来法(Cd−Cuカラム還元法)によって得られた硝酸イオン濃度を比較したグラフである。
【図11】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムの調整方法を示すフロー図である。
【図12】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムに試料水を通水した際の通水時間と発色層の長さの関係を示すグラフである。
【図13】本発明の硝酸イオン濃度測定に用いるNEDA担持C18小型カラムに既知濃度の硝酸イオンを含む試料水を通水した際の各硝酸イオン濃度の発色層の長さを示す正面図である。
【図14】本発明の硝酸イオン濃度を測定する際のNEDA担持C18小型カラムに既知濃度の硝酸イオンを通水後の発色層の長さと硝酸イオン濃度の関係を示す検量線である。
【図15】本発明のNEDA担持C18小型カラムを用いた現場での硝酸イオンの簡易定量法の分析手順を示すフロー図である。
【図16】本発明のC18小型カラムに既知濃度のリン酸イオンを含む試料水を通水し展開した際の各リン酸イオン濃度の発色層の長さを示す正面図である。
【図17】本発明のリン酸イオン濃度測定に用いるC18小型カラムを用いたカラム法と従来法(吸光光度法)による中海湖水試料のリン酸イオン濃度の比較グラフである。
【図18】本発明のC18小型カラムを用いた現場でのリン酸イオンの簡易定量法の分析手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0055】
1 カラム
2 吸着剤
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状の吸着剤(2)を充填したカラム(1)内に注入し、カラム(1)内における上記吸着剤(2)の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定する水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項2】
吸着剤(2)がオクタデシル基結合型シリカゲルである請求項1の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項3】
吸着剤(2)に予め発色剤を担持させ、カラム(1)内に前処理した試料水を注入することにより吸着剤(2)に担持された発色剤を発色させる請求項1又は2の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項4】
環境汚染物質が硝酸イオンである請求項1,2又は3の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項5】
カラム(1)内に充填された吸着剤(2)に予め発色剤を担持させてなる水中環境汚染物質の簡易定量測定具。
【請求項6】
前処理された試料水を発色剤により予め発色させてカラム内に注入することによりカラム(1)内に発色層を形成させ、さらに該発色層を展開する展開剤を注入することにより発色層を測定対象となる長さに形成せしめる請求項1又は2の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項7】
環境汚染物質がリン酸イオンである請求項6の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項8】
展開剤がアスコルビン酸である請求項6又は7の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項1】
環境汚染物質を含む試料水を発色させるために予め前処理し、該前処理された試料水を発色剤を用いて発色させ、該発色を利用して水中環境汚染物質の定量を行う方法において、上記前処理後の試料水を粒状又は粉体状の吸着剤(2)を充填したカラム(1)内に注入し、カラム(1)内における上記吸着剤(2)の発色部分の長さにより汚染物質の濃度を測定する水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項2】
吸着剤(2)がオクタデシル基結合型シリカゲルである請求項1の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項3】
吸着剤(2)に予め発色剤を担持させ、カラム(1)内に前処理した試料水を注入することにより吸着剤(2)に担持された発色剤を発色させる請求項1又は2の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項4】
環境汚染物質が硝酸イオンである請求項1,2又は3の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項5】
カラム(1)内に充填された吸着剤(2)に予め発色剤を担持させてなる水中環境汚染物質の簡易定量測定具。
【請求項6】
前処理された試料水を発色剤により予め発色させてカラム内に注入することによりカラム(1)内に発色層を形成させ、さらに該発色層を展開する展開剤を注入することにより発色層を測定対象となる長さに形成せしめる請求項1又は2の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項7】
環境汚染物質がリン酸イオンである請求項6の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【請求項8】
展開剤がアスコルビン酸である請求項6又は7の水中環境汚染物質の簡易定量方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図13】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図14】
【図15】
【図17】
【図18】
【図13】
【図16】
【公開番号】特開2008−185363(P2008−185363A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−16864(P2007−16864)
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 2006年日本化学会西日本大会実行委員会 刊行物名 2006年 日本化学会西日本大会 講演予稿集 発行年月日 2006年11月15日
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月26日(2007.1.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者 2006年日本化学会西日本大会実行委員会 刊行物名 2006年 日本化学会西日本大会 講演予稿集 発行年月日 2006年11月15日
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】
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