説明

水中移動装置

【課題】
壁面に対する吸着力を安定に得ることのできる水中移動装置を提供する。
【解決手段】
水中移動装置の基体を構成する底板部材1と、底板部材1の一方側に取り付け、底板部材の底面側から吸い込んだ水を上面側に排出するポンプから構成されたスラスタユニット6,7と、底板部材1の底面側の外周に取り付けたスカート部材17と、底板部材1の少なくとも3点に取り付けられ、水中移動装置をその移動対象面上に移動可能に支持する車輪10,11,16と、底板部材1の前記スラスタユニットが取り付けられていない他方側に取り付けた吸い込みダクト35,36を備え、前記スラスタユニット6,7とスカート部材17により、水中で移動対象面Wに吸着した状態で前記車輪10,11,16により移動対象面上を移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中移動装置に係り、特に水中の構造物表面に沿って移動することのできる水中移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、発電プラントなどで現用されている原子炉は、通常、ウランなどの核燃料を所定の圧力容器内に収納し、水中で加圧した状態で運転される。このときの圧力は、沸騰水型の原子炉の場合、最大7メガパスカル程度に達する。
【0003】
このため、原子力圧力容器には厳しい安全性が要求され、圧力容器自体は勿論、例えばシュラウド(炉心隔壁)など容器内にある各種の構造物や機器についても点検や検査が欠かせない。
【0004】
このような原子炉圧力容器内の検査(点検も含む)は、容器を開放して実施される。このとき容器内は強い放射能環境にある。このため、容器内には水(冷却水)を張った状態で検査を実施するのが通例である。
【0005】
このため、検査は、検査員が操作治具などを用いて水中TVカメラなどを遠隔操作して行うのが一般的である。
【0006】
また、遠隔操作が可能な水中移動装置を用い、これに超音波探傷装置など、点検、検査に必要な機器を搭載し、検査対象となる部分に移動させて検査する方法が従来から提案されている。この方法では、検査に際して超音波探傷装置などの検査機器を対象となる部分にある程度接近させる必要があり、このため、前記シュラウドの外壁面など、垂直乃至ほぼ垂直になっている部分も含め、その表面に沿って移動させることが必要となる。
【0007】
このような移動装置として、スラストファンとスカートを備え、これらにより装置本体を検査対象面に吸着させる力を発生させ、これにより水中の斜面、垂直面等に沿って移動できるようにした遠隔操作形の水中移動装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平8−179079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スラストファンとスカートにより前記水中移動装置に吸着力を発生させ、壁面に吸着させるに際しては、スラストファンでスカート内側の水を排出してスカート内側に外側に比して低い圧力を得る必要がある。また、この状態を維持するためには、スカート内側の水を排出し続け、スカートと壁面の間の流路からスカート内側に外側の水を吸込み続ける必要がある。
【0009】
この吸込み量がスカート内側の水の排出量との関係で安定であれば、安定した吸着力を得ることができる。しかし、前記従来技術では、スカート内側への水の吸込み口がスカートと壁面間に存在し、かつ、このスカートが柔軟な材料であることからスカートの変形や壁面の状態の変動により吸込み量が変化する。この吸い込み量の変化によって、水中移動装置の壁面に対する吸着力は変動することになる。
【0010】
本発明はこれらの問題点に鑑みてなされたもので、壁面に対して安定した吸着力を得ることのできる水中移動装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するため、次のような手段を採用した。
【0012】
水中移動装置の基体を構成する底板部材と、底板部材の一方側に取り付け、底板部材の底面側から吸い込んだ水を上面側に排出するポンプから構成されたスラスタユニットと、底板部材の底面側の外周に取り付けたスカート部材と、底板部材の少なくとも3点に取り付けられ、水中移動装置をその移動対象面上に移動可能に支持する車輪と、底板部材の前記スラスタユニットが取り付けられていない他方側に取り付けた吸い込みダクトを備え、前記スラスタユニットとスカート部材により、水中で移動対象面に吸着した状態で前記車輪により移動対象面上を移動する。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上の構成を備えるため、スラストファン等により壁面に対する安定した吸着力を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、最良の実施形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施形態に係る水中移動装置(ROV:Remotely Operated Vehicle(遠隔制御移動体))を説明する図であり、図1(a)は正面図、図1(b)は側断面図である。また、図2は、図1に示す水中移動装置ROVを原子炉圧力容器60内のシュラウド61に適用した例を説明する図である。
【0015】
図に示すように、水中移動装置ROVは、底板部1、左枠部2、右枠部3、上枠部4、および下枠部5からなる有底箱形の本体構造部を備えている。この底板部1、左枠部2、右枠部3、上枠部4、および下枠部5は本体構造部を構成する本体部材である。
【0016】
なお、図では、底板部1が垂直になるようにして描いてある。このため、図1(a)に示す正面図では、紙面の上側が本体構造部の上枠部4側になり、図1(b)の側断面図では左側が本体構造部の上枠部4側で、右側が底板部1側になる。ここで、これらの図において、上側が水中移動装置の前部又は前方向であり、下側が後部又は後方向であるとして説明を続ける。
【0017】
底板部1は略方形(正方形又は長方形)をした板材で、その各辺に左枠部2、右枠部3、上枠部4、および下枠部5が、それぞれ強度部材として接合される。これにより、本体構造部の全体が有底の略方形をした箱体として作られ、所定の剛性が与えられる。また、底板部1の内側の後端には、スラスタユニット6、7を左右に並べて取付けてある。
【0018】
スラスタユニット6、7としては、図示するようにスクリュープロペラ型の羽根車を円筒形のダクト内に備えた、いわゆるダクテッド型軸流ポンプが用いられる。図1(b)の側断面図に表わされているように、ダクトは底板部1を貫通し、前記箱体の外側(底面側)と内側(上面側)を連通するように取付けられている。また、スラスタユニット6、7はそれぞれモータ8、9および羽根車を備えており、それぞれの羽根車はモータ8、9により、いわゆるリムドライブ(リング部周辺駆動)方式により回転駆動される。
【0019】
底板部1の下部には、後輪タイヤ10、11が回転軸を水平にして設けられている。この後輪タイヤは、図1(b)に示すように底板部1から外側に半分近く突出した状態に保持される。この後輪タイヤ10、11には、それぞれモータ12、13が設けてあり、歯車機構を介して、それぞれの後輪タイヤを回転駆動する。このときの回転数はエンコーダ14、15により、それぞれ検出されるようになっている。
【0020】
後輪タイヤ10、11はそれぞれ回転速度を調整することが可能であり、左右の回転速度の差を調節することで直進、走行しながらの旋回、停止した場での旋回が可能である。なお、底板部1の上部には、前輪ボールキャスタ16がフリー(自由回転可能)に設けてある。前輪ボールキャスタは図1(b)の側断面図に示すように、底板部1から外側に半分近く突出した状態に保持してある。
【0021】
このように、水中移動装置は前輪ボールキャスタ16と後輪タイヤ10、11とを車輪として装備している。
【0022】
一方、底板部1の外側の周辺には、この底板部1の面から更に外側(図1(b)では右側)に延びるように、スカート部材17が取付けてある。スカート部材17は、図1(a)では2点鎖線で表わされており、ほぼ矩形の平面形状をもっている。このスカート部材17は、例えばポリアミド繊維(商品名ナイロン)で補強された弾性ゴム材などで作られ、その底板部1の周辺に取付けられている方とは反対側の端部、つまり、図1(b)に示すように検査対象壁面Wに接触する方の端部には、断面が丸形をした縁取り17aが施されている。
【0023】
図1に示すように、この例では、水中移動装置ROVは、超音波探傷装置18を検査機器として装備している。超音波探傷装置18は、上枠部4の上に設けられ、後述するケーブルCを介して外部にある超音波探傷装置の本体に接続されている。超音波探触子18は、図示してないが、ボールネジ19に螺合しているナット部材(ボールナット部材)に保持されており、ボールネジ19を回転させることにより、矢印L、Rで示されているように、左右に移動可能である。ボールネジ19は、歯車機構を介してモータ20により回転駆動されるように構成され、左右移動位置はエンコーダ21により検出され、移動範囲はリミットスイッチ22、23により限定されるようになっている。
【0024】
水中移動装置ROVは、超音波探傷等の位置認織が重要となる場合においては、重心と浮心によるモーメントの影響をなるべく小さくする必要がある。このため、装置の重心位置と浮力中心がなるべく近い位置になるように適宜の大きさの浮力体24、25を取付ける。浮力体24、25としては、発泡スチロールなどの直方体の塊りに表面処理したものなどを用いればよい。
【0025】
水中移動装置は、その水中での姿勢と水中深さ方向の位置を知る必要がある。図1の例では、スラスタユニット6、7の間に傾斜角センサボックス26を、また、右枠部3の上部に水深センサボックス27が設けてある。傾斜角センサボックス26には4個の傾斜角センサ28、29、30、31が、また、水深センサボックス27には水深センサ32、および水深センサ用アンプ33が収容されている。
【0026】
傾斜角センサ28、29、30、31は、図1(b)のように鉛直壁面に吸着した状態での水中移動装置の回転角を90°ずつ分担して計測する。水深センサ32は水圧を検出し、水深センサ用アンプ33により水深が算出できるようにしてある。
【0027】
なお、水中移動装置ROVは有線遠隔操作方式であり、このためコネクタボックス34を備え、ここに、遠隔操作用のケーブルCが接続されるようになっている。
【0028】
次に、本実施形態の特徴である吸込ダクト35、36について説明する。吸込みダクト35、36は吸水通路として使用する。すなわち、吸込ダクト35、36は、それぞれ上枠部4の内側(上枠部4の場合はその下側になる)に接するようにして形成してある筒状の吸水通路である。そして、これらの吸込ダクト35、36は、図1(b)の側断面図に示すように、底板部1を貫通し、前記箱体の内側(図1(b)では左側)と外側(図1(b)では右側)とを連通させるものである。
【0029】
次に、水中移動装置ROVの動作について説明する。ここでは、水中移動装置は図1に示すように、超音波探触子18等の検査装置を搭載し、その検査対象が原子炉圧力容器60内のシュラウド61であり、シュラウドの外壁面Wが検査対象壁面であるものとして説明する。
【0030】
前述したように、原子炉圧力容器の中には、ウラン燃料の外にも各種の構造体や機器が収容されているが、図2では、シュラウド61、ジェットポンプ63、およびシュラウドサポート62のみを図示している。なお、圧力容器60内には冷却水が満されているものとする。また、スカート部材17の先端はシュラウドの検査対象壁面Wの近傍に位置するように配置されている。
【0031】
なお、図2においては、図1(b)では上側にある超音波接触子18が紙面の手前に見え、同じく左右にあった前輪タイヤ10、11は上下に並んで見えている。また、水中移動装置ROVにはケーブルCが接続してあり、このケーブルCの他端には図示しない遠隔操作ユニットが接続されている。
【0032】
水中移動装置ROVの操作に際しては、まず、図2の状態において、スラスタユニット6、7を駆動し、その羽根車を、図1(a)の紙面の手前方向に水が送り出される方向に回転させる。スラスタユニット6、7から手前に水が送り出されると、その反力により、水中移動装置ROVは、図1(b)において右側に動こうとし、検査対象壁面Wにスカート部材17が一層強く接触するようになる。
【0033】
これにより底板部1、スカート部材17、および検査対象壁面Wで区画された空間Sが形成さる。この空間Sの高さhは、後輪タイヤ10、11および前輪ボールキャスタ16が検査対象壁面Wに接触したことにより決められる。すなわち、底板部1は、スラスタユニット6、7およびスカート部材17を保持し、検査対象壁面Wとの間にスカート部材17と共に区画された空間Sを形成する本体部材として機能することになる。
【0034】
この空間Sからはスラスタユニット6、7により水が吸い出されるようになる。すなわち、水は給水ダクト35、36を介して吸引され、空間S内を矢印F方向に流れる。これにより、空間S内は負圧になり、水中移動装置ROVと検査対象壁面Wの間に所定の強さの吸引力が働くようになる。これにより、後輪タイヤ10、11と前輪ボールキャスタ16は検査対象壁面Wに所定の力で押し付けられることになり、水中移動装置ROVが不要に移動することはない。
【0035】
使用に際しては、スラスタユニット6、7を駆動して、吸引力を発生している状態でケーブルCを用いて有線遠隔操作を行う。すなわち、後輪タイヤ10、11を駆動して水中移動装置ROVを検査対象壁面Wの任意の場所に移動させ、超音波探触子18による検査を開始する。このとき、前記吸引力が所定の強さになるように設定することにより、後輪タイヤ10、11による駆動力をスカート部材17による摩擦より大きく設定できる。これにより水中移動装置ROVは、検査対象壁面Wを摺動移動できるようになる。
【0036】
例えば、モータ12、13により後輪タイヤ10、11を回転駆動させると、水中移動装置ROVを検査対象壁面Wに沿って前後に移動させることができる。このときの前後の移動方向は、後輪タイヤ10、11の回転方向で決り、走行距離はエンコーダ14、15の検出値から求めることができる。また、モータ12、13を制御して後輪タイヤ10、11の回転速度に差をつけることで、進行方向を左右に変えることができ、このときの転向方向は傾斜角センサ28〜31の検出値から知ることができる。
【0037】
すなわち、この水中移動装置ROVによって得られる走行動作は、2輪駆動2輪転向型で姿勢補助輪1輪の3輪自動車に相当する。この水中移動装置ROVはいわゆる3点支持となるので、別途、懸架機構(サスペンション機構)を設ける必要はない。また、検査対象壁面Wに多少の凸凹があっても、常に全輪が壁面に押し当てられ、この状態で、水平面上に限らず、垂直面上でも車輪が壁面から浮くことなく走行可能である。
【0038】
前述したように、この水中移動装置ROVは、図示しないケーブルCを介して、圧力容器の外部にある遠隔制御ユニットにより制御される。このため、この遠隔制御ユニットには、水中移動装置ROVから、遠隔制御に必要な各種の情報がもたらされるようになっている。
【0039】
まず、エンコーダ13、14により検出されてくる情報からは水中移動装置ROVの走行速度と走行距離が求まり、傾斜角センサ28〜31により検出されてくる情報からは走行方向が求まるので、これにより水中移動装置ROVの位置を決定することができる。これにより、利用者は超音波探触子18による探傷方向を検査対象壁面Wの状況に合わせて任意に設定することができる。
【0040】
また、水深センサ30で検出される情報からは水中移動装置ROVの水中での深さが与えられるので、これを併用することにより、水中移動装置ROVの位置をより一層正確に決定することができる。
【0041】
遠隔制御ユニットを用いた遠隔操作の結果、水中移動装置ROVが必要な場所に移動したら、ここで、シュラウドの検査に移行し、超音波探触子18を必要に応じて左右方向に走査(スキャニング)し、超音波探傷装置による検査を開始する。なお、エンコーダ21から検出される情報とリミットスイッチ22、23からの信号に基づいてモータ20を回転制御することにより、超音波探触子18の走査に際しての左右方向での微細な位置調整を安全に行うことができる。
【0042】
このような遠隔操作に際して重要なことは、水中移動装置ROVが検査対象壁面Wに沿ってスムースに移動できることである。このためには、スカート部材17が検査対象壁面Wに対して適切な力で安定して接触されているようにすることが要件となる。このため、図の例では給水ダクト35、36を設ける。これにより空間S内に水流Fを発生させて、この水流Fにより吸引力が発生されるようにしてある。これにより、上記の要件が満足されて、水中移動装置ROVを検査対象壁面Wに沿ってスムースに移動させることができる。
【0043】
何故なら、給水ダクト35、36から取り込んだ水により形成される水流Fの状態や強さは、一度、スラスタユニット6、7および給水ダクト35、36の形状や取付位置が決められた後は、スラスタユニット6、7の動作状態のみでほぼ一義的に決まり、不安定要素が含まれる余地は殆どないからである。
【0044】
従って、本実施形態によれば、スラスタユニットとスカート部材による吸引力を安定して得ることができ、これにより、水中でスムースに移動させることができ、原子炉圧力容器内の検査などに好適な水中移動装置を容易に提供することができる。
【0045】
図3は、水中移動装置ROVの吸着構造を説明する図であり、図3(a)はスラスタユニット37、38を本体部材39の中心軸付近に配置した例を示す図、図3(b)は吸水ダクト40を本体部材39の中心軸を基準にしてスラスタユニット37、38の反対側に配置した例を示す図である。
【0046】
水中移動装置ROVの前記空間S内に現れる水流Fの流路の長さは吸引力の強さに関係し、一般には流路が長く、均一な水流である程、吸引力が強くなる。
【0047】
図3(a)では、スラスタユニット37、38が本体部材39の中心軸付近に配置され、吸水ダクト40、41が本体部材の中心軸を基準にしてほぼ左右対称に配置されている。また、前輪タイヤ42は吸水ダクト40中央付近に、後輪タイヤ43はそれぞれ吸水ダクト41の端部付近に配置している。
【0048】
図3(b)は、スラスタユニット37、38が本体部材39の中心軸を基準にして本体部材の片側に配置され、スラスタユニット37、38の中間にガイド(静翼)44が設けられている。また、吸水ダクト40は本体部材39の中心軸を基準にしてスラスタユニット37、38の反対側に配置される。また、前輪タイヤ42は吸水ダクト40の中央付近に、後輪タイヤ43はそれぞれスラスタユニット37、38付近の本体部材端部に配置している。
【0049】
図3(a)に示す構造においては、吸水ダクト40から取り込んだ水により形成される水流Fは本体部材39の中心軸付近に配置したスラスタユニット37、38に紙面向かって左から右に流れる。また、吸水ダクト41から取り込んだ水により形成される水流Fはスラスタユニット37、38に紙面向かって右から左に流れることとなる。この結果、吸水ダクト40から取り込まれた水と吸水ダクト41から取り込まれた水とで水流の衝突が生じ、安定した水流が得られず、水流は不均一となる。
【0050】
また、スラスタユニット37、38の中間の水流Fはスラスタユニット37、38の回転数の微小な差から、ある周期をもって交互に吸込まれるため、これによっても安定な水流が得られない。さらに、前輪タイヤ42が吸水ダクト40の中央付近に位置し、後輪タイヤ43は吸水ダクト41の端付近に位置しているため、吸水ダクト40、41から取り込まれた水流Fの流路の障害となり、これによっても安定した水流が得られない。
【0051】
図3(b)に示す構造においては、吸水ダクト40から取り込んだ水により形成される水流Fは、スラスタユニット37、38が本体部材39の中心軸を基準にして反対側に配置されているため、長い距離を流れることになり、安定した流れを形成することができる。さらに、スラスタユニット37、38の中間にガイド(静翼)44を設けることにより、スラスタユニット間の微小な回転数差の影響を受けることなく安定した流れを得ることができる。なお、スラスタユニットの羽根車の回転方向は、羽根車の吐き出し口側(箱体の内側)からみて、図3(b)の矢印Aに示すように、水流方向左端に位置する羽根車は時計方向に、水流方向右端位置する羽根車は反時計方向に設定するとよい。
【0052】
また、前輪タイヤ42、後輪タイヤ43を吸水ダクト40から取り込まれた水流Fが形成する流路の障害とならないように配置しているため、安定した流れを得ることができる。
【0053】
図4は、スラスタユニットの断面を示す図である。図5はスラスタユニットの平面を示す図であり、図5(a)は図4のA−A断面、図5(b)は図4のB−B断面を示す図である。なお、スラスタユニット6、7は同じ構成であるので、一方のスラスタユニットについて説明する。スラスタユニット6は、前述のように、ダクテッド形の軸流ポンプである。図4、5に示すように、円筒形のダクト50を備え、ダクト内に設けた羽根車51の外周にはリング52が取り付けられている。図の例では、羽根車51は4枚の羽根(翼)53を備えたスクリュープロペラ型であり、羽根車51は、4枚の羽根53とその羽根53の外周を覆うように羽根53の外周端に固定した筒状のリング52を備える。
【0054】
羽根車の軸54は、軸受55、56により軸支されている。また、リング52の外周面はダクト50の中でダクト内周面に対して極力狭い隙間Gを保つように設定されている。なお、隙間Gを狭くする理由は、羽根車51の周辺部で逆流が生じるのを抑えるためである。
【0055】
また、前述のようにスラスタユニット6はリムドライブ方式で駆動されるため、リング52の外周にはリング歯車57を設け、これに平歯車58を噛み合わせている。このため、ダクト50の内周面で、リング歯車57に向かい合う部分は、図4に示すように、内径を大きくしてある。なお、平歯車58は、所定の歯車機構(ギヤトレイン)を介してモータ9の軸に接続される。これにより、羽根車51はモータ9により所定の回転速度で駆動され、スラスタユニットはポンプとして機能することになる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る水中移動装置を説明する図である。
【図2】図1に示す水中移動装置ROVを原子炉圧力容器20内のシュラウド61に適用した例を説明する図である。
【図3】水中移動装置ROVの吸着構造を説明する図である。
【図4】スラスタユニットの断面を示す図である。
【図5】スラスタユニットの平面を示す図である。
【符号の説明】
【0057】
1 底板部
2 左枠部
3 右枠部
4 上枠部
5 下枠部
6,7 スラスタユニット
8,9 モータ(スラスタユニット駆動用)
10,11 後輪タイヤ(走行・族回用)
12,13 モータ(後輪タイヤ駆動用)
14,15 エンコーダ(走行距離検出用)
16 前輪ボールキャスタ
17 スカート部材
17a 縁取り
18 超音波探触子
19 ボールネジ
20 モータ(超音波探触子駆動用)
21 エンコーダ(超音波探触子移動距離検出用)
22,23 リミットスイッチ
24,25 浮力体
26 傾斜角センサボックス
27 水深センサボックス
28〜31 傾斜角センサ
32 水深センサ
33 水深センサ用アンプ
34 コネクタボックス
35,36 吸込ダクト
37,38 スラスタユニット
39 本体部材
40,41吸込みダクト
42 前輪タイヤ
43 後輪タイヤ
44 静翼(ガイド)
50 ダクト
51 羽根車
52 リング
53 羽根
54 軸
55 軸受け
56 軸受け
57 リング歯車
58 平歯車
60 圧力容器
61 シュラウド
62 シュラウドサポート
63 ジェットポンプ
W 検査対象壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中移動装置の基体を構成する底板部材と、
底板部材の一方側に取り付け、底板部材の底面側から吸い込んだ水を上面側に排出するポンプから構成されたスラスタユニットと、
底板部材の底面側の外周に取り付けたスカート部材と、
底板部材の少なくとも3点に取り付けられ、水中移動装置をその移動対象面上に移動可能に支持する車輪と、
底板部材の前記スラスタユニットが取り付けられていない他方側に取り付けた吸い込みダクトを備え、
前記スラスタユニットとスカート部材により、水中で移動対象面に吸着した状態で前記車輪により移動対象面上を移動することを特徴とする水中移動装置。
【請求項2】
請求項1記載の水中移動装置において、
スラスタユニットおよび吸い込みダクトは、底板部材の部材面に沿った中心軸を対象軸にしてその一方側端および他方側端に取り付けたことを特徴とする水中移動装置。
【請求項3】
請求項1記載の水中移動装置において、
前記車輪は、吸い込みダクトおよびスラスタユニットにより形成される水流の外側に配置したことを特徴とする水中移動装置。
【請求項4】
請求項1記載の水中移動装置において、
スラスタユニットおよび吸い込みダクトからなる組を複数組並置してなり、並置されたスラスタユニット間には水流を整流する静翼を備えたことを特徴とする水中移動装置。
【請求項5】
請求項1記載の水中移動装置において、
吸い込みダクトは断面矩形の筒状であることを特徴とする水中移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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