説明

水冷式紫外線照射装置

【課題】高圧放電管から生じる発熱を吸収し、効果的に照射できる水冷式紫外線照射装置を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明の水冷式紫外線照射装置10は、紫外線を照射する高圧放電管12と、高圧放電管12を中心に配置し、高圧放電管12を覆う円筒状の保護管14と、を備えた水冷式紫外線照射装置10であって、前記保護管14の外表面に金属酸化物の被膜層を形成したことを特徴としている。金属酸化物は、遷移元素であって前記保護管13の外表面に被膜したSiO上に多層被膜するとよい。そして遷移元素は、HfOおよびYであるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、紫外線硬化インキに紫外線を照射して硬化させる水冷式の紫外線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に印刷に用いる主なインキは紫外線硬化(UV)インキと油性インキがある。このうち紫外線硬化インキは、インキ(顔料)、モノマー、プレポリマー、重合開始剤、増感剤等からなり、200nmから400nmの波長域である紫外線を照射して重合開始剤を励起させてインキを硬化させている。紫外線硬化インキは油性インキと比べ速乾性があり、有機溶剤を含まないことから印刷分野で多用されている。
【0003】
また紫外線硬化インキは、硬化速度が早く瞬時に硬化するためフィルムやプラスチックなどに印刷可能であり、また乾燥時間が不要なため、次工程を素早く行え、印刷時間を短縮できるなど種々のメリットがある。
【0004】
このような紫外線硬化インキを硬化させる場合、紫外線を照射させる放電管として高圧放電管が一般に利用されている。高圧放電管は紫外線を照射させるための消費電力が高く、かつ放電管が700度〜850摂氏度に達し高温となる。放電管が高温化すると、被印刷物が変質するばかりでなく、放電管が熱変形してしまう。
よって従来の紫外線硬化インキの硬化に用いる高圧放電管は、熱の影響を少なくするため、様々な冷却対策が行われてきた。
【0005】
高圧放電管の回りに送風手段を設け、放電管に送風し冷却させる空冷式の紫外線照射装置がある。
また高圧放電管の回りを石英材質の保護管で覆い、石英材質の保護管に純水を循環させて高圧放電管を冷却する水冷式の紫外線照射装置がある。これによれば保護管の内側中心に装着した放電管からの発熱は、保護管に純水を循環させることにより、保護管内の純水に発熱を吸収させることができる。
【0006】
また空冷式と水冷式を組み合わせた特許文献1に示すような空水冷式の紫外線照射装置がある。この照射装置は、放電管(紫外線照射ランプ)を覆う水冷ジャケットと、放電管を水冷ジャケットの中心に配置する発光管ベースに開口部を形成している。水冷ジャケットによる水冷と、放電管の両端を支持する一対の発光管ベースの開口部に空気を送風して水冷および空冷による放熱を行っている。
【0007】
また特許文献2には、水冷式の放電管の水冷ジャケットにフィルターおよび金属酸化物を微量ドープしている。この構成によりある特定の波長域の紫外線のみ透過させて、その他の紫外線を遮断させて、放電管を徐冷している紫外線照射用光源が開示されている。
【特許文献1】特開平6−267512号公報
【特許文献2】特開平6−267509号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら空冷式の紫外線照射装置では、送風手段を取り付けなければならず、例えば印刷機など限られたスペースでは、送風手段を増設することは困難であるという問題があった。
また水冷式の紫外線照射装置では、紫外線が保護管を透過して外部に放射されてしまい、放電管外周を冷却水で間接的に冷却する程度では冷却効果が十分でない。
【0009】
また特許文献1の空水冷式の紫外線照射装置では、冷却効果が不十分な水冷手段に送風手段を適用したとしても、700度〜850摂氏度に達する放電管を効果的に冷却することは困難であった。
【0010】
さらに特許文献2の紫外線照射用光源では、水冷ジャケットの内管の内側に金属酸化物を被膜しているため、水冷ジャケットの純水の循環部分に達することがなく、水冷による放熱の効果が得られない。したがって放電管が発熱して変形してしまう問題がある。また円筒状の水冷ジャケットは水漏れを防ぐため内管と外管は一体物で形成している。このようなジャケットにフィルターを挿入することは実現性に乏しく、かつ循環する水の妨げとなり水冷の効果が得られない。
そこで本発明は、上記従来技術の問題点を解決すべく、高圧放電管から生じる発熱を吸収し、効果的に照射できる水冷式紫外線照射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明の水冷式紫外線照射装置は、紫外線を照射する高圧放電管と、前記高圧放電管を中心に配置し、前記高圧放電管を覆う円筒状の保護管と、を備えた水冷式紫外線照射装置であって、前記保護管の外表面に金属酸化物の被膜層を形成したことを特徴としている。
【0012】
この場合において、前記金属酸化物は、遷移元素であって前記保護管の外表面に被膜したSiO上に多層被膜するとよい。
また前記遷移元素は、HfOおよびYであるとよい。
【発明の効果】
【0013】
上記構成による本発明によれば、保護管の外表面に形成した金属酸化物の多層被膜より、特定の紫外線のみ透過させることができる。そして、その他の紫外線は外部に放射させることなく、紫外線による発熱は、保護管を循環する冷水に吸収させることができる。
【0014】
金属酸化物は遷移元素であって前記保護管の外表面に被膜したSiO上に多層被膜することにより、300nm〜600nmの波長域の紫外線を吸収し、増幅させることができる。
【0015】
遷移元素は、HfOおよびYを用いることにより、HfOで300nmから430nmの紫外線を吸収して、増幅させることができる。またYで300nmから600nmの紫外線を吸収し、増幅させることができる。したがってこの波長以外の紫外線を保護管の外部に放射することなく、水に吸収させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の水冷式紫外線照射装置の実施形態を添付の図面を参照しながら以下詳細に説明する。
図1は実施形態に関わる水冷式紫外線照射装置の説明図である。同図(1)は側面断面図であり、同図(2)は(1)のA矢視図である。図示のように水冷式紫外線照射装置10は、高圧放電管12と保護管14とベース20を主な構成要素としている。
【0017】
高圧放電管12は、長尺の直管状の放電管である。高圧放電管12は、石英ガラス製であって、両端に一対の電極を取り付けている。高圧放電管12は、管内に希ガス、水銀、金属ハロゲン化物が封入されている。通常の高圧放電管12が照射可能な紫外線の波長域は、200nm〜1500nmである。
【0018】
保護管14は、前述の高圧放電管12の管径よりも大径であり、かつ高圧放電管12よりも長尺の円筒状に形成している。保護管14は、石英ガラス製の内管14aと外管14bからなり、両端を接続して内管14aと外管14bの間の流水スペースを塞いだ二重構造に形成している。保護管14の外管14bには、循環水の供給口16と排出口18が接続している。保護管14の供給口16から水を供給し、内管14aと外管14bの間の流水スペースを排出口18に向かって流れる。そして、保護管14内を流れた水は排出口18から外部に排出される。保護管14に供給する水は、所定の流速、温度で流すように調整することができる。
【0019】
保護管14に供給する水は、水中に含まれる有機物と無機物を除去した処理水を用いている。具体的に水は、まず磁場によって水中の無機物を除去している。ついでUVを照射して水中の有機物を分解している。これにより熱を吸収しても、鉱物イオンの溶解度が小さいため、炭酸カルシウムが管壁に付着するのを防止し、かつ、有機物の分解により塩素と有機物の反応を阻害し、保護管の腐食を抑制するなどの効果が得られる。
【0020】
ベース20は、保護管14の両端開口と同サイズの円盤状であって、中心に高圧放電管12の端部が貫通する開口を形成している。ベース20は、高圧放電管12の発熱に耐え得るある程度の耐熱性を備えた材質、一例として石英ガラス等により形成することができる。ベース20は、高圧放電管12を保護管14の内部に挿入したのち、高圧放電管12の両端を開口に挿入し、ついで、保護管14の両端開口に挿入する。これにより高圧放電管12を保護管14内の中心で支持することができる。
【0021】
図2は保護管の外表面に被膜する金属酸化物の多層被膜の説明図である。図示のように本発明の保護管14は、まず始めに外表面に酸化ケイ素(SiO)をスプレー噴霧などにより塗布して乾燥させる。酸化ケイ素はアンカーとしての役割を果たし、後述する金属酸化物の塗布を容易にして被膜を形成し易くすることができる。
【0022】
次に金属酸化物の遷移元素であるYをスプレー噴霧によって酸化ケイ素被膜上に塗布して乾燥させる。Yの被膜層は、300nmから430nmの波長域の紫外線を吸収し増幅する。そしてそれ以外の波長域の紫外線を透過させない。
【0023】
さらにYの被膜層の上に、遷移元素であるHfOをスプレー噴霧によって塗布して乾燥させている。HfOの被膜層は、300nmから600nm波長域の紫外線を吸収し増幅させる。そしてそれ以外の波長域の紫外線を透過させない。
このように金属酸化物の多層被膜30は一層ごとに積層し、異なる遷移元素同士が互いに混合しないように形成している。
【0024】
上記構成による本発明の水冷式紫外線照射装置の作用について以下説明する。保護管14の中央に高圧放電管12を一対のベース20で固定する。水冷式紫外線照射装置10の保護管14の供給口16に有機物および無機物を除去した処理水を供給する。保護管14は図1(2)に示すように高圧放電管12の外周を覆うように形成してあり、供給口16から管内に導入された水は流水スペースを矢印に示すように長手方向に沿って流れる。高圧放電管12は、予め設定したランプ出力で紫外線を被写体に照射する。高圧放電管12から照射された紫外線は、保護管14を通過して保護管14の外表面に形成した金属酸化物の多層被膜30に到達する。そして、Yの被膜によって300nmから430nmの波長域の紫外線が吸収される。またHfOの被膜によって300nmから600nmの波長域の紫外線が吸収される。そして各被膜で吸収された紫外線は増幅されて保護管14を通過して外部の被写体に照射される。他方、多層被膜30に吸収されない波長域の紫外線、すなわち、300nm以下および600nm以上の紫外線は、多層被膜30を透過することなく遮断し屈折させて、光を熱に置換して保護管14中を流れる水に吸収される。
【0025】
<実施例>
本実施形態に係る水冷式紫外線照射装置の実施例について以下説明する。実施条件は、保護管に供給する水温を18度とし、水量は6L/分であり、雰囲気温度は15度である。また高圧放電管は、ランプ出力を160W/Cmとし、電力を20KVAとしている。
まず保護管に金属酸化物の多層被膜を形成した場合の実測値は、紫外線強度(波長365nm)150mw、保護管の管面温度75度、水温50度〜53度であった。
【0026】
次に保護管の外表面に金属酸化物の多層被膜なしの場合の実測値は、紫外線強度(365nm)120mw、保護管の管面温度150度、水温32度であった。
この結果により、多層被膜を形成した保護管の管面温度は75度であり、多層被膜を形成していない保護管の管面温度に比べ放電管からの放熱による影響を半分以下に抑えることができる。
【0027】
また多層被膜を形成した保護管を流れる水の温度は、50度〜53度であり、多層被膜を形成していない保護管の水温に比べ高温となっている。これは、多層被膜を形成したことにより、特定の波長域の紫外線が保護管を透過し、それ以外の波長域の紫外線による発熱を水が吸収したことに起因している。多層被膜を形成していない保護管では、高圧放電管から照射した紫外線が保護管を透過してしまい、そのとき水による吸熱の効果がほとんど得られない。
【0028】
さらに多層被膜を形成した保護管の紫外線強度(365nm)は150mwであり、多層被膜を形成していない保護管の紫外線強度と比べ紫外線強度が増加している。これは、多層被膜により300nm〜600nmの波長域の紫外線を一旦吸収したのち、増幅させることにより、紫外線強度が増加したものと考えられる。
【0029】
図3は本発明の水冷式紫外線照射装置の透過率および反射率の説明図である。図3の横軸は紫外線の波長域(nm)を示し、左側縦軸は紫外線の透過率(%)を示し、右側縦軸は紫外線の反射率(%)を示している。また実線は水冷式紫外線照射装置による紫外線の透過率を示し、破線は紫外線の反射率をそれぞれ示している。
【0030】
図示のように本発明の水冷式紫外線照射装置は、保護管の外表面に被膜した遷移元素の多層被膜により、340nm〜500nmの範囲の紫外線を100%透過させることができる。他方、350nm〜500nmの範囲の紫外線の反射率は0.4%以下であり、350nm〜500nmの波長域の紫外線を極めて効率的に透過させることができる。
【0031】
このように本実施形態に係る水冷式紫外線照射装置は、保護管の外表面に金属酸化物の被膜を形成し、300nm〜600nmの紫外線を吸収し増幅させている。このため、これ以外の紫外線は保護管内を流れる水に吸収させることができ、放電管から生じる発熱を効果的に抑制することができる。またインキ硬化に不要な光を蓄熱させてその熱を水に置換させて発熱を吸収し、被写体に熱の影響を与えることがない。
【0032】
本発明の金属酸化物の遷移元素は一例としてHfOおよびYを用いて説明したが、300nm〜600nmの波長域の紫外線を吸収し増幅させる作用を有する遷移元素であればこれに限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の水冷式紫外線照射装置は、紫外線硬化型のインキ、塗料、接着剤に紫外線を照射して硬化させる分野等において特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の水冷式紫外線照射装置の説明図である。
【図2】保護管の外表面に被膜する金属酸化物の多層被膜の説明図である。
【図3】本発明の水冷式紫外線照射装置の透過率および反射率の説明図である。
【符号の説明】
【0035】
10………水冷式紫外線照射装置、12………高圧放電管、14………保護管、16………供給口、18………排出口、20………ベース、30………金属酸化物の多層被膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を照射する高圧放電管と、
前記高圧放電管を中心に配置し、前記高圧放電管を覆う円筒状の保護管と、
を備えた水冷式紫外線照射装置であって、
前記保護管の外表面に金属酸化物の被膜層を形成したことを特徴とする水冷式紫外線照射装置。
【請求項2】
前記金属酸化物は、遷移元素であって前記保護管の外表面に被膜したSiO上に多層被膜することを特徴とする請求項1記載の水冷式紫外線照射装置。
【請求項3】
前記遷移元素は、HfOおよびYであることを特徴とする請求項2に記載の水冷式紫外線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−151954(P2009−151954A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326452(P2007−326452)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(502154452)株式会社東通研 (8)
【出願人】(599137312)田中産業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】