水処理プラントの制御システム
【課題】上下水道プラントなどの水処理プラントにおいて、通水を制御する流量調節弁を適切に制御することで、水撃やハンチングの発生を効果的に抑制できる制御システムを提供することにある。
【解決手段】上下水道プラントにおいて、配管系6に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁3と、流量調節弁3の開閉を制御し、前記流量調節弁3の開閉圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御するコントローラ100とを備えた構成である。
【解決手段】上下水道プラントにおいて、配管系6に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁3と、流量調節弁3の開閉を制御し、前記流量調節弁3の開閉圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御するコントローラ100とを備えた構成である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば上下水道プラントなどの水処理プラントの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば上水道プラントでは、水源となる貯水池から配管を通じて、配水池などに導水する構造が採用されている。配管には、アクチュエータの動作に応じて弁が開閉して、通水の流量を調節するための流量調節弁が設けられている。
【0003】
ここで、例えば貯水池は、配水池に対して土木構造的に高い位置にある。これにより、自然流下により、貯水池から配水池に導水される。このとき、流量調節弁には、配管を流れる水圧により水撃が発生する。また、貯水池の水位に変動に応じて、流量調節弁の開閉を頻繁に繰り返すいわゆるハンチングと呼ぶ状態が発生する。
【0004】
従来では、消化設備の砲水銃に用いられる電動弁を制御することで、配管に発生するウォータハンマ現象を抑制する制御方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、貯水池の水位の上昇と下降を繰り返すハンチング現象を抑制する制御方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2002−295705号公報
【特許文献2】特開平9−138708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上下水道プラントなどの水処理プラントでは、配管に設けられている流量調節弁の開閉により通水の調節が行なわれる。しかし、水圧の変動や貯水池の水位に変動により、流量調節弁には水撃やハンチングが発生する。この水撃やハンチングを抑制するためには、流量調節弁の適切な制御が要求される。
【0006】
本発明の目的は、上下水道プラントなどの水処理プラントにおいて、通水を制御する流量調節弁を適切に制御することで、水撃やハンチングの発生を効果的に抑制できる制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の観点に従った水処理プラントの制御システムは、水源からの水に対して浄水処理などの水処理を行なう水処理プラントにおいて、前記水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を配水池まで通水させるための配管系と、前記配管系に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁と、前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の開閉圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御する制御手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上下水道プラントなどの水処理プラントにおいて、通水を制御する流量調節弁を適切に制御することで、水撃やハンチングの発生を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
以下、図1から図6を参照して、第1の実施形態に関する水処理プラントの制御システムを説明する。
【0011】
(水処理プラントの構成)
本実施形態は、水処理プラントとして、上水道プラントを説明する。図1は、上水道プラントの浄水プロセスを説明するための図である。
【0012】
上水道プラントは、水源(以下貯水池と表記する場合がある)として、例えばダム1または河川30から原水を導水する。貯水池1からの原水は、配管6を経由して着水井5に導水される。配管6には、流量計2及び流量調節弁3が設けられている。流量調節弁3は、アクチュエータ4の動作により弁が開閉して、通水の流量を調節する。なお、図1において、「X」は流量計などの各種センサを意味し、「M」はアクチュエータ又はモータなどの駆動部を意味する。
【0013】
一方、河川30からの原水は、開閉弁31を有する沈砂池32に導水される。この沈砂池32にはスクリーン33が設けられて、導水された原水はろ過される。さらに、ポンプ井34から導水ポンプ35により、着水井5に導水される。ポンプ井34と着水井5を結合する配管には、流量調節弁36及び流量計37が設けられている。
【0014】
着水井5に導水された水は、沈殿池11に送水される。沈殿池11の前段には、混和池9及びフロック形成池10が配置されている。着水井5と混和池9とを結合する配管には、流量計7及び流量調節弁8が設けられている。
【0015】
一方、着水井5には、沈殿池11からの返流水が導水される。沈殿池11からの返流水は、流量調節弁38により通水を調節されて汚泥池39に送水される。さらに、返流水は、汚泥池39から汚水池40に送水されて、この汚水池40から返流ポンプ41により着水井5に返流される。汚泥池39では、汚泥は脱水されて処分される。着水井5と汚水池40とを結合する配管には、流量調節弁42及び流量計43が設けられている。
【0016】
次に、沈殿池11に導水された水は、ろ過池12でろ過された後に、浄水池13に送水される。ろ過池12と浄水池13とを結合する配管には、流量調節弁50,52及び流量計51が設けられている。浄水池13に導水された水の上面からは、表洗ポンプ46により、ろ過池12に返流されている。この表洗ポンプ46と、ろ過池12とを結合する配管には、流量調節弁47〜49が設けられている。
【0017】
さらに、浄水池13は、逆流ポンプ53により導水された水の一部が、ろ過池12に返流される。逆流ポンプ53と、ろ過池12とを結合する配管には、流量計54及び流量調節弁55,56が設けられている。ろ過池12は、流量調節弁44を経由して、導水された水の一部が汚水池40に返流される。また、逆流ポンプ53により、ろ過池12に返流された水の一部は、流量調節弁45を経由して汚水池40に返流される。
【0018】
浄水池13により浄水化された水は、送水ポンプ20により配管23を経由して、配水池16に送水される。配管23には、流量調節弁15,21及び流量計22が設けられている。配水池16は、水位を計測する水位計17や水質センサ18が設けられている。配水池16からの浄水は、流量調節弁19により制御されて配水される。一方、浄水池13により浄水化された水は、配水ポンプ24により配管27を経由して配水される。配管27には、流量調節弁25及び流量計26が設けられている。
【0019】
このような上水道プラントの制御システムとして、コンピュータを主要素とするコントローラ100が設けられている。コントローラ100は、各種センサ群から計測信号を入力して流量、水位、汚泥量、水質等を検知すると共に、流量調節弁やポンプを制御する。
【0020】
(制御システム)
図2は、前述の上水道プラントにおいて、水源である貯水池1から着水井5に原水が導水される導水プロセスを示す図である。このプロセスを具体例として、本実施形態に関するプラントの制御システムの動作を説明する。
【0021】
図2に示すように、導水プロセスは、貯水池1には配管6が接続されて、流量調節弁3を通して、貯水池1からの水が着水井5に導水される構造からなる。図1に示すように、貯水池1は、着水井5よりも土木構造的に高い位置関係にある。貯水池1からの水圧は、着水井5の水圧よりも大きく、流量調節弁3を開くことで、貯水池1から着水井5へ自然流下によって導水される構造である。
【0022】
流量調節弁3には、弁の開度を変化させるためのアクチュエータ4が連結されている。コントローラ100は、アクチュエータ4を動作制御するための指令を出力し、流量調節弁3の開度を変化させる。
【0023】
図3は、流量調節弁3の弁開度と開閉に係る時間との関係を示す図である。図3では、符号300Aに示す特性は、符号300Bに示す特性よりも短い時間で弁3が開いていることを示す。ここで、弁3が全開するまでの時間を、それぞれta,tbとする。また、弁3が全閉しているときに、弁3に掛かる圧力をPcとし、弁3が全開しているときに掛かる圧力をPoとする。
【0024】
符号300Aの特性の場合において、流量調節弁3に生ずる時間当たりの圧力変化Paは、関係式「Pa=(Pc−Po)/ta」から求められる。また、符号300Bの特性の場合において、流量調節弁3に生ずる時間当たりの圧力変化Pbは、関係式「Pb=(Pc−Po)/tb」から求められる。
【0025】
図3の特性からも明らかなように、「ta<tb」の関係であるから、符号300Bの特性、即ち、長い時間をかけて流量調節弁3を開閉した時の方が、弁3に生ずる時間当たりの圧力変化(Pb)は、相対的に小さくなる。
【0026】
ところで、流量調節弁3に生ずる水撃の大きさは、時間当たりの圧力変化に比例する。従って、水撃を小さくするためには、流量調節弁3の開閉速度を小さくするように制御すればよい。図3に示す特性例では、符号300Cの特性である弁開度変化の場合が、最も水撃が小さくなる。要するに、水撃の大きさが流量調節弁3の許容範囲を超える場合には、弁3の開閉速度を小さくする必要がある。
【0027】
図4及び図5は、コントローラ100により流量調節弁3の開閉速度を制御する方法を説明するための図である。
【0028】
コントローラ100は、図2に示すように、流量調節弁3に連結したアクチュエータ4の動作を制御して、弁3の開閉時間(開閉速度)を制御する。ここで、アクチュエータ4が電動機の場合、コントローラ100は、流量調節弁3の開閉を、電動機の駆動時間で制御する。
【0029】
即ち、コントローラ100が電動機4にONの動作指令を出すと、弁3の弁開度が大きくなり、動作指令をOFFにすると弁開度は現状維持となる。よって、図4に示すように、弁3の開閉速度は、電動機4を駆動する時間T1と駆動しない時間T2の時間比率に従って決定される。
【0030】
ここで、流量調節弁3に生ずる水撃の大きさは、弁3が全閉しているときに、弁3にかかる圧力Pcと、全開しているときにかかる圧力Poとの圧力差(導水系の圧力差)の大きさに比例する。この圧力差は、貯水池1や着水井5の水位の時間的変化に応じて、時々で変化する。このため、流量調節弁3が許容できる水撃の大きさにするためには、圧力差に応じた弁3の開閉速度の設定が必要になる。
【0031】
通常では、弁3の開閉速度は、水撃が問題にならない速度に設定されている。しかし、導水系の圧力差が大きくなると、流量調節弁3に対する水撃が問題となる。そこで、弁3が許容できる水撃の大きさと導水系の圧力差に基づいて、弁3の開閉速度の上限値を算出する。コントローラ100は、予め設定されている弁3の開閉速度よりも、上限値の算出値が小さい場合には、当該弁3の開閉速度の設定値を変更する。これにより、流量調節弁3に対する水撃の大きさを抑制することが可能となり、弁3の許容圧力以下に開閉速度を制御することで弁3の損傷を抑制することができる。
【0032】
また、図1に示した配管6においても、当然のことながら許容圧力変動値があり、水撃の大きさを許容値以下にする必要がある。コントローラ100は、前述の制御方法より、配管6の圧力変動を許容値以下に制御することも可能である。また、水撃の発生は上水道の赤水の発生要因であることが確認されているため、水撃を抑制することで、赤水の発生も抑制することが可能である。
【0033】
図5は、例えばアクチュエータ4が油圧機器の場合に、コントローラ100の制御方法を説明するための図である。図5において、油圧機器の場合、油圧を印加する時間間隔Tが短いほど弁3の開閉速度が速くなる。よって、コントローラ100により、弁3の適正な開閉速度を実現するように、アクチュエータ4の時間間隔Tを決定することで、流量調節弁3に対する水撃を抑制して、弁3の適正な制御が可能となる。
【0034】
図6は、流量調節弁3の弁開度と、弁3に印加される圧力との関係を説明するための図である。図6に示すように、通常では、流量調節弁3の弁開度と圧力との関係は、非線形の特性を示す。このため、流量調節弁3の弁開度O1からO2に変化したときの圧力差P1と、弁開度O3からO4に変化したときの圧力差P2とは、弁開度の変化量が等しいにもかかわらず、大きく異なる。
【0035】
従って、流量調節弁3の開閉速度が同一の場合でも、弁開度の変化によって生ずる水撃の大きさが大きく異なる。このため、水撃を抑制するためには、弁開度が小さい領域では、弁開度が大きい領域と比較して、流量調節弁3の開閉速度を遅くする必要がある。
【0036】
流量調節弁3には、その形状や特性により、図6に示すような弁開度と圧力との関係が種々あるため、それらの特性をデータベースとして管理する。コントローラ100は、当該データベースを参照し、流量調節弁3の弁開度に応じて、圧力変化が一定になるように弁3の開閉速度を制御することで、水撃の発生を抑制することが可能である。
【0037】
また、流量調節弁3の損傷や配管6の損傷、赤水の発生要因となり得る圧力変動の大きさを、予めしきい値としてデータベースに登録する。コントローラ100はデータベースを参照し、図4に示す電動機を駆動する時間T1と駆動しない時間T2との時間比率や、図5で示す時間間隔Tから推定算出されたが圧力変動値が、当該しきい値を超えた合には、警報を出力するように構成してもよい。これにより、流量調節弁3の損傷や配管6の損傷、赤水の発生などの不具合を未然に防止することが可能となる。
【0038】
[第2の実施形態]
図7は第2の実施形態に関する導水プロセスを示す図であり、図1に示す上水道プラントにおいて、配管23を経由して配水池16に導水されるプロセスを示す図である。このプロセスを具体例として、本実施形態に関する制御システムの動作を説明する。
【0039】
図7に示すように、導水プロセスでは、例えば貯水池から水を導水する配管23が設けられている。導水された水は、流量調節弁15を通して配水池16に貯水される構造である。流量調節弁15には、電動機などのアクチュエータ14が連結されている。
【0040】
コントローラ100は、アクチュエータ14を動作制御するための指令を出力し、流量調節弁15の開度を変化させる。この流量調節弁15の動作により、配水池16の水位161は変化する。この水位161は、配水池16に設置された水位計17で計測される。なお、符号160は、配水池16での制御目標となる水位を示している。
【0041】
図8は、流量調節弁15が開閉されているときの、配水池16の水位変化を示す図である。
【0042】
即ち、図8に示すように、流量調節弁15が開いているとき(弁開Tp)、配水地16の水位161は増加する。逆に、弁15が閉じているとき(弁閉Tc)は、配水地16の水位161は減少する。配水池16の水位161が制御目標水位160に達すると、流量調節弁15は弁閉となり、水位161が減少し始める。
【0043】
ところが、水位161が減少して、制御目標水位160に達しなくなると、再び流量調節弁15は弁開となり、水位161が上昇する。一方、水位161が制御目標水位160に達すると、再び流量調節弁15は弁閉となり、水位161の減少が始まる。このような状態で、頻繁に流量調節弁15の開閉が繰り返されることをハンチング(水位制御異常)と呼ぶ。
【0044】
このようなハンチング現象が生ずることで、流量調節弁15の損傷や、アクチュエータ14の過熱、配管23の水撃現象などの不都合が発生するため、ハンチングを抑制することが必要である。
【0045】
そこで、コントローラ100は、単位時間当たりの弁15の開閉回数が、所定のしきい値以上になった場合はハンチングが発生していると推定する。但し、配水池16の現在水位161が制御目標水位160の近傍に無い場合は、流量調節弁15に対する正常な制御によって、弁15の開閉が行なわれている可能性が高い。従って、コントローラ100は、ため、現在水位161が制御目標水位160の近傍であり、かつ、単位時間当たりの弁15の開閉回数がしきい値を超えた場合のみハンチングであると認識する。
【0046】
図9は、本実施形態の変形例であり、ハンチングの検出対象となる雨水排水プラントの例を示す図である。
【0047】
このプラントでは、雨水井(ポンプ井)90は雨水の流入により水位92が変化し、その変化は水位計91にて測定される。コントローラは、雨水井90から雨水が溢れ出ないように、現在水位92が水位目標値(制御目標水位)93以下になるように制御する。具体的には、コントローラは、配管94に接続された排水ポンプ95を駆動制御して、雨水井90の水位制御を実行している。
【0048】
コントローラは、排水ポンプ95を稼動させて、雨水井90の現在水位92が制御目標水位93を下回ると、排水ポンプ95を停止させる。一方、雨水井90の現在水位92が上昇すると、再び排水ポンプ95を稼動させて、雨水井90の現在水位92を下げるように排水を行なう。
【0049】
この変形例においても、雨水井90の現在水位27が制御目標水位93に近づくと、ハンチング(水位制御異常)が発生する可能性がある。コントローラは、水位目標値93と現状水位92との偏差が小さく、かつ、予め設定した単位時間内に排水ポンプ95の開閉指令の回数が設定した上限の回数を超えたときに、水位制御異常が発生したこと認識し発報する。
【0050】
以上のようにして本実施形態によれば、ハンチング(水位制御異常)の発生を推定(認識)することにより、流量調節弁15の損傷や、アクチュエータ14の過熱、配管23の水撃現象などの不都合が発生する前に、ハンチングを抑制するための対策をとることができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図10から図12は、第3の実施形態に関する上水道プラントの制御システムを説明するための図である。
【0052】
上水道プラントの制御システムは、配水ポンプまたは送水ポンプなどの駆動制御により、送水圧力の制御や送水流量の制御を行なっており、時間と共に制御目標が変化する制御を実行する。図10に示すように、配水ポンプの吐出圧力において、制御目標400がステップ状に変化した場合、実際の当該吐出圧力は、破線で示す実応答410のように、オーバーシュートを伴って変化し、制御目標400に整定するまでに、多少の時間(整定時間Ts)を要する。
【0053】
図11は、整定時間Tsと制御目標の変化量(目標変化量420)との関係を示す。即ち、目標変化量が増加すると、整定時間も増加する傾向にある。これらの関数関係は、ポンプを含めた土木構造のパラメータとPID制御などの制御パラメータが決定されると、実際のプラントの運用から得られるデータを用いることで、近似関数を作成することができる。図11において、点線で示す整定時間上限値510と整定時間下限値520に対して、実線が当該近似関数の典型例であり、整定時間推定値500を示す。
【0054】
ところが、プラントの経年変化や、配水系の圧力変動などが発生すると、得られていた近似関数と、測定されたデータと間に乖離が生ずる。そこで、本実施形態の制御システムは、制御目標が変化したときに、目標の変化量から近似関数を利用して推定整定時間を算出し、実際にプラントで測定された整定時間とを比較する。制御システムは、当該比較結果に基づいて、整定時間の上下限から逸脱した場合に、プラントの経年変化によって制御のパラメータが適正でなくなっている異常や、配管系の異常な圧力変動などの制御異常が発生したことを出力する。これにより、上水道プラントにおいて、特に「不出水」や「制御不安定」など発生を抑制することができる。
【0055】
図12は、本実施形態の制御システムが、制御目標の変化に従って、適正な整定時間を参照するための2次元テーブルの一例を示す図である。この2次元テーブルは、配水ポンプの吐出圧力目標が変化した場合に、現在の吐出圧力の値と、変化した吐出圧力目標の大きさの値によって整定時間が変化するプラントの場合に、2つの値で適正な整定時間を参照するための情報からなる。本実施形態の制御システムは、当該2次元のテーブルを使用することにより、実際に観測された整定時間との差がしきい値を超えたときに、制御異常が発生したことを出力する。
【0056】
なお、本実施形態の制御システムは、同様に配水ポンプの流量制御を実行する制御においても、前述の図10から図12を参照して説明した制御方法を実行することにより、流量制御の異常を検出して出力することが可能である。
【0057】
以上のように各実施形態の制御システムにより、上水道プラントの制御に使用されているセンサから得られる計測値や制御装置内の信号を利用して、診断のアルゴリズムを規定化し、異常の判断基準を同じにすることで、上水道プラント機器の監視・異常検知を高精度に行なうことが可能である。これにより、プラントの診断や監視を実施する操作員によって変化していた診断可能な対象や、診断結果も画一的なものにすることが可能となる。
【0058】
なお、各実施形態を、上水道プラントを具体例として説明したが、これに限らず例えば下水道プラントなどの各種の水処理プラントに適用することができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の各実施形態に関する上水道プラントの構成を説明するための図。
【図2】第1の実施形態に関する導水プロセスを示す図。
【図3】本実施形態に関する流量調節弁の開度と開閉に係る時間との関係を示す図。
【図4】本実施形態に関する流量調節弁の開閉速度を制御する方法を説明するための図。
【図5】本実施形態に関する流量調節弁の開閉速度を制御する方法を説明するための図。
【図6】本実施形態に関する流量調節弁の弁開度と圧力との関係を示す図。
【図7】第2の実施形態に関する導水プロセスを示す図。
【図8】第2の実施形態に関する配水池の水位変化を示す図。
【図9】第2の実施形態に関する変形例を説明するための図。
【図10】第3の実施形態に関する制御におけるポンプの吐出圧力の制御特性を示す図。
【図11】第3の実施形態に関する制御における整定時間と目標変化量の関係を示す図。
【図12】第3の実施形態に関する制御における整定時間の2次元のテーブルを示す図。
【符号の説明】
【0061】
1…貯水池(ダム)、2,…流量計、3,15…流量調節弁、4,14…アクチュエータ
5…着水井、6,23,27…配管、9…混和池、10…フロック形成池、
11…沈殿池、12…ろ過池、13…浄水池、16…配水池、17…水位計、
30…河川、32…沈砂池、34…ポンプ井、39…汚泥池、40…汚水池、
100…コントローラ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば上下水道プラントなどの水処理プラントの制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば上水道プラントでは、水源となる貯水池から配管を通じて、配水池などに導水する構造が採用されている。配管には、アクチュエータの動作に応じて弁が開閉して、通水の流量を調節するための流量調節弁が設けられている。
【0003】
ここで、例えば貯水池は、配水池に対して土木構造的に高い位置にある。これにより、自然流下により、貯水池から配水池に導水される。このとき、流量調節弁には、配管を流れる水圧により水撃が発生する。また、貯水池の水位に変動に応じて、流量調節弁の開閉を頻繁に繰り返すいわゆるハンチングと呼ぶ状態が発生する。
【0004】
従来では、消化設備の砲水銃に用いられる電動弁を制御することで、配管に発生するウォータハンマ現象を抑制する制御方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、貯水池の水位の上昇と下降を繰り返すハンチング現象を抑制する制御方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2002−295705号公報
【特許文献2】特開平9−138708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上下水道プラントなどの水処理プラントでは、配管に設けられている流量調節弁の開閉により通水の調節が行なわれる。しかし、水圧の変動や貯水池の水位に変動により、流量調節弁には水撃やハンチングが発生する。この水撃やハンチングを抑制するためには、流量調節弁の適切な制御が要求される。
【0006】
本発明の目的は、上下水道プラントなどの水処理プラントにおいて、通水を制御する流量調節弁を適切に制御することで、水撃やハンチングの発生を効果的に抑制できる制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の観点に従った水処理プラントの制御システムは、水源からの水に対して浄水処理などの水処理を行なう水処理プラントにおいて、前記水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を配水池まで通水させるための配管系と、前記配管系に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁と、前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の開閉圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御する制御手段とを備えた構成である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上下水道プラントなどの水処理プラントにおいて、通水を制御する流量調節弁を適切に制御することで、水撃やハンチングの発生を効果的に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0010】
[第1の実施形態]
以下、図1から図6を参照して、第1の実施形態に関する水処理プラントの制御システムを説明する。
【0011】
(水処理プラントの構成)
本実施形態は、水処理プラントとして、上水道プラントを説明する。図1は、上水道プラントの浄水プロセスを説明するための図である。
【0012】
上水道プラントは、水源(以下貯水池と表記する場合がある)として、例えばダム1または河川30から原水を導水する。貯水池1からの原水は、配管6を経由して着水井5に導水される。配管6には、流量計2及び流量調節弁3が設けられている。流量調節弁3は、アクチュエータ4の動作により弁が開閉して、通水の流量を調節する。なお、図1において、「X」は流量計などの各種センサを意味し、「M」はアクチュエータ又はモータなどの駆動部を意味する。
【0013】
一方、河川30からの原水は、開閉弁31を有する沈砂池32に導水される。この沈砂池32にはスクリーン33が設けられて、導水された原水はろ過される。さらに、ポンプ井34から導水ポンプ35により、着水井5に導水される。ポンプ井34と着水井5を結合する配管には、流量調節弁36及び流量計37が設けられている。
【0014】
着水井5に導水された水は、沈殿池11に送水される。沈殿池11の前段には、混和池9及びフロック形成池10が配置されている。着水井5と混和池9とを結合する配管には、流量計7及び流量調節弁8が設けられている。
【0015】
一方、着水井5には、沈殿池11からの返流水が導水される。沈殿池11からの返流水は、流量調節弁38により通水を調節されて汚泥池39に送水される。さらに、返流水は、汚泥池39から汚水池40に送水されて、この汚水池40から返流ポンプ41により着水井5に返流される。汚泥池39では、汚泥は脱水されて処分される。着水井5と汚水池40とを結合する配管には、流量調節弁42及び流量計43が設けられている。
【0016】
次に、沈殿池11に導水された水は、ろ過池12でろ過された後に、浄水池13に送水される。ろ過池12と浄水池13とを結合する配管には、流量調節弁50,52及び流量計51が設けられている。浄水池13に導水された水の上面からは、表洗ポンプ46により、ろ過池12に返流されている。この表洗ポンプ46と、ろ過池12とを結合する配管には、流量調節弁47〜49が設けられている。
【0017】
さらに、浄水池13は、逆流ポンプ53により導水された水の一部が、ろ過池12に返流される。逆流ポンプ53と、ろ過池12とを結合する配管には、流量計54及び流量調節弁55,56が設けられている。ろ過池12は、流量調節弁44を経由して、導水された水の一部が汚水池40に返流される。また、逆流ポンプ53により、ろ過池12に返流された水の一部は、流量調節弁45を経由して汚水池40に返流される。
【0018】
浄水池13により浄水化された水は、送水ポンプ20により配管23を経由して、配水池16に送水される。配管23には、流量調節弁15,21及び流量計22が設けられている。配水池16は、水位を計測する水位計17や水質センサ18が設けられている。配水池16からの浄水は、流量調節弁19により制御されて配水される。一方、浄水池13により浄水化された水は、配水ポンプ24により配管27を経由して配水される。配管27には、流量調節弁25及び流量計26が設けられている。
【0019】
このような上水道プラントの制御システムとして、コンピュータを主要素とするコントローラ100が設けられている。コントローラ100は、各種センサ群から計測信号を入力して流量、水位、汚泥量、水質等を検知すると共に、流量調節弁やポンプを制御する。
【0020】
(制御システム)
図2は、前述の上水道プラントにおいて、水源である貯水池1から着水井5に原水が導水される導水プロセスを示す図である。このプロセスを具体例として、本実施形態に関するプラントの制御システムの動作を説明する。
【0021】
図2に示すように、導水プロセスは、貯水池1には配管6が接続されて、流量調節弁3を通して、貯水池1からの水が着水井5に導水される構造からなる。図1に示すように、貯水池1は、着水井5よりも土木構造的に高い位置関係にある。貯水池1からの水圧は、着水井5の水圧よりも大きく、流量調節弁3を開くことで、貯水池1から着水井5へ自然流下によって導水される構造である。
【0022】
流量調節弁3には、弁の開度を変化させるためのアクチュエータ4が連結されている。コントローラ100は、アクチュエータ4を動作制御するための指令を出力し、流量調節弁3の開度を変化させる。
【0023】
図3は、流量調節弁3の弁開度と開閉に係る時間との関係を示す図である。図3では、符号300Aに示す特性は、符号300Bに示す特性よりも短い時間で弁3が開いていることを示す。ここで、弁3が全開するまでの時間を、それぞれta,tbとする。また、弁3が全閉しているときに、弁3に掛かる圧力をPcとし、弁3が全開しているときに掛かる圧力をPoとする。
【0024】
符号300Aの特性の場合において、流量調節弁3に生ずる時間当たりの圧力変化Paは、関係式「Pa=(Pc−Po)/ta」から求められる。また、符号300Bの特性の場合において、流量調節弁3に生ずる時間当たりの圧力変化Pbは、関係式「Pb=(Pc−Po)/tb」から求められる。
【0025】
図3の特性からも明らかなように、「ta<tb」の関係であるから、符号300Bの特性、即ち、長い時間をかけて流量調節弁3を開閉した時の方が、弁3に生ずる時間当たりの圧力変化(Pb)は、相対的に小さくなる。
【0026】
ところで、流量調節弁3に生ずる水撃の大きさは、時間当たりの圧力変化に比例する。従って、水撃を小さくするためには、流量調節弁3の開閉速度を小さくするように制御すればよい。図3に示す特性例では、符号300Cの特性である弁開度変化の場合が、最も水撃が小さくなる。要するに、水撃の大きさが流量調節弁3の許容範囲を超える場合には、弁3の開閉速度を小さくする必要がある。
【0027】
図4及び図5は、コントローラ100により流量調節弁3の開閉速度を制御する方法を説明するための図である。
【0028】
コントローラ100は、図2に示すように、流量調節弁3に連結したアクチュエータ4の動作を制御して、弁3の開閉時間(開閉速度)を制御する。ここで、アクチュエータ4が電動機の場合、コントローラ100は、流量調節弁3の開閉を、電動機の駆動時間で制御する。
【0029】
即ち、コントローラ100が電動機4にONの動作指令を出すと、弁3の弁開度が大きくなり、動作指令をOFFにすると弁開度は現状維持となる。よって、図4に示すように、弁3の開閉速度は、電動機4を駆動する時間T1と駆動しない時間T2の時間比率に従って決定される。
【0030】
ここで、流量調節弁3に生ずる水撃の大きさは、弁3が全閉しているときに、弁3にかかる圧力Pcと、全開しているときにかかる圧力Poとの圧力差(導水系の圧力差)の大きさに比例する。この圧力差は、貯水池1や着水井5の水位の時間的変化に応じて、時々で変化する。このため、流量調節弁3が許容できる水撃の大きさにするためには、圧力差に応じた弁3の開閉速度の設定が必要になる。
【0031】
通常では、弁3の開閉速度は、水撃が問題にならない速度に設定されている。しかし、導水系の圧力差が大きくなると、流量調節弁3に対する水撃が問題となる。そこで、弁3が許容できる水撃の大きさと導水系の圧力差に基づいて、弁3の開閉速度の上限値を算出する。コントローラ100は、予め設定されている弁3の開閉速度よりも、上限値の算出値が小さい場合には、当該弁3の開閉速度の設定値を変更する。これにより、流量調節弁3に対する水撃の大きさを抑制することが可能となり、弁3の許容圧力以下に開閉速度を制御することで弁3の損傷を抑制することができる。
【0032】
また、図1に示した配管6においても、当然のことながら許容圧力変動値があり、水撃の大きさを許容値以下にする必要がある。コントローラ100は、前述の制御方法より、配管6の圧力変動を許容値以下に制御することも可能である。また、水撃の発生は上水道の赤水の発生要因であることが確認されているため、水撃を抑制することで、赤水の発生も抑制することが可能である。
【0033】
図5は、例えばアクチュエータ4が油圧機器の場合に、コントローラ100の制御方法を説明するための図である。図5において、油圧機器の場合、油圧を印加する時間間隔Tが短いほど弁3の開閉速度が速くなる。よって、コントローラ100により、弁3の適正な開閉速度を実現するように、アクチュエータ4の時間間隔Tを決定することで、流量調節弁3に対する水撃を抑制して、弁3の適正な制御が可能となる。
【0034】
図6は、流量調節弁3の弁開度と、弁3に印加される圧力との関係を説明するための図である。図6に示すように、通常では、流量調節弁3の弁開度と圧力との関係は、非線形の特性を示す。このため、流量調節弁3の弁開度O1からO2に変化したときの圧力差P1と、弁開度O3からO4に変化したときの圧力差P2とは、弁開度の変化量が等しいにもかかわらず、大きく異なる。
【0035】
従って、流量調節弁3の開閉速度が同一の場合でも、弁開度の変化によって生ずる水撃の大きさが大きく異なる。このため、水撃を抑制するためには、弁開度が小さい領域では、弁開度が大きい領域と比較して、流量調節弁3の開閉速度を遅くする必要がある。
【0036】
流量調節弁3には、その形状や特性により、図6に示すような弁開度と圧力との関係が種々あるため、それらの特性をデータベースとして管理する。コントローラ100は、当該データベースを参照し、流量調節弁3の弁開度に応じて、圧力変化が一定になるように弁3の開閉速度を制御することで、水撃の発生を抑制することが可能である。
【0037】
また、流量調節弁3の損傷や配管6の損傷、赤水の発生要因となり得る圧力変動の大きさを、予めしきい値としてデータベースに登録する。コントローラ100はデータベースを参照し、図4に示す電動機を駆動する時間T1と駆動しない時間T2との時間比率や、図5で示す時間間隔Tから推定算出されたが圧力変動値が、当該しきい値を超えた合には、警報を出力するように構成してもよい。これにより、流量調節弁3の損傷や配管6の損傷、赤水の発生などの不具合を未然に防止することが可能となる。
【0038】
[第2の実施形態]
図7は第2の実施形態に関する導水プロセスを示す図であり、図1に示す上水道プラントにおいて、配管23を経由して配水池16に導水されるプロセスを示す図である。このプロセスを具体例として、本実施形態に関する制御システムの動作を説明する。
【0039】
図7に示すように、導水プロセスでは、例えば貯水池から水を導水する配管23が設けられている。導水された水は、流量調節弁15を通して配水池16に貯水される構造である。流量調節弁15には、電動機などのアクチュエータ14が連結されている。
【0040】
コントローラ100は、アクチュエータ14を動作制御するための指令を出力し、流量調節弁15の開度を変化させる。この流量調節弁15の動作により、配水池16の水位161は変化する。この水位161は、配水池16に設置された水位計17で計測される。なお、符号160は、配水池16での制御目標となる水位を示している。
【0041】
図8は、流量調節弁15が開閉されているときの、配水池16の水位変化を示す図である。
【0042】
即ち、図8に示すように、流量調節弁15が開いているとき(弁開Tp)、配水地16の水位161は増加する。逆に、弁15が閉じているとき(弁閉Tc)は、配水地16の水位161は減少する。配水池16の水位161が制御目標水位160に達すると、流量調節弁15は弁閉となり、水位161が減少し始める。
【0043】
ところが、水位161が減少して、制御目標水位160に達しなくなると、再び流量調節弁15は弁開となり、水位161が上昇する。一方、水位161が制御目標水位160に達すると、再び流量調節弁15は弁閉となり、水位161の減少が始まる。このような状態で、頻繁に流量調節弁15の開閉が繰り返されることをハンチング(水位制御異常)と呼ぶ。
【0044】
このようなハンチング現象が生ずることで、流量調節弁15の損傷や、アクチュエータ14の過熱、配管23の水撃現象などの不都合が発生するため、ハンチングを抑制することが必要である。
【0045】
そこで、コントローラ100は、単位時間当たりの弁15の開閉回数が、所定のしきい値以上になった場合はハンチングが発生していると推定する。但し、配水池16の現在水位161が制御目標水位160の近傍に無い場合は、流量調節弁15に対する正常な制御によって、弁15の開閉が行なわれている可能性が高い。従って、コントローラ100は、ため、現在水位161が制御目標水位160の近傍であり、かつ、単位時間当たりの弁15の開閉回数がしきい値を超えた場合のみハンチングであると認識する。
【0046】
図9は、本実施形態の変形例であり、ハンチングの検出対象となる雨水排水プラントの例を示す図である。
【0047】
このプラントでは、雨水井(ポンプ井)90は雨水の流入により水位92が変化し、その変化は水位計91にて測定される。コントローラは、雨水井90から雨水が溢れ出ないように、現在水位92が水位目標値(制御目標水位)93以下になるように制御する。具体的には、コントローラは、配管94に接続された排水ポンプ95を駆動制御して、雨水井90の水位制御を実行している。
【0048】
コントローラは、排水ポンプ95を稼動させて、雨水井90の現在水位92が制御目標水位93を下回ると、排水ポンプ95を停止させる。一方、雨水井90の現在水位92が上昇すると、再び排水ポンプ95を稼動させて、雨水井90の現在水位92を下げるように排水を行なう。
【0049】
この変形例においても、雨水井90の現在水位27が制御目標水位93に近づくと、ハンチング(水位制御異常)が発生する可能性がある。コントローラは、水位目標値93と現状水位92との偏差が小さく、かつ、予め設定した単位時間内に排水ポンプ95の開閉指令の回数が設定した上限の回数を超えたときに、水位制御異常が発生したこと認識し発報する。
【0050】
以上のようにして本実施形態によれば、ハンチング(水位制御異常)の発生を推定(認識)することにより、流量調節弁15の損傷や、アクチュエータ14の過熱、配管23の水撃現象などの不都合が発生する前に、ハンチングを抑制するための対策をとることができる。
【0051】
[第3の実施形態]
図10から図12は、第3の実施形態に関する上水道プラントの制御システムを説明するための図である。
【0052】
上水道プラントの制御システムは、配水ポンプまたは送水ポンプなどの駆動制御により、送水圧力の制御や送水流量の制御を行なっており、時間と共に制御目標が変化する制御を実行する。図10に示すように、配水ポンプの吐出圧力において、制御目標400がステップ状に変化した場合、実際の当該吐出圧力は、破線で示す実応答410のように、オーバーシュートを伴って変化し、制御目標400に整定するまでに、多少の時間(整定時間Ts)を要する。
【0053】
図11は、整定時間Tsと制御目標の変化量(目標変化量420)との関係を示す。即ち、目標変化量が増加すると、整定時間も増加する傾向にある。これらの関数関係は、ポンプを含めた土木構造のパラメータとPID制御などの制御パラメータが決定されると、実際のプラントの運用から得られるデータを用いることで、近似関数を作成することができる。図11において、点線で示す整定時間上限値510と整定時間下限値520に対して、実線が当該近似関数の典型例であり、整定時間推定値500を示す。
【0054】
ところが、プラントの経年変化や、配水系の圧力変動などが発生すると、得られていた近似関数と、測定されたデータと間に乖離が生ずる。そこで、本実施形態の制御システムは、制御目標が変化したときに、目標の変化量から近似関数を利用して推定整定時間を算出し、実際にプラントで測定された整定時間とを比較する。制御システムは、当該比較結果に基づいて、整定時間の上下限から逸脱した場合に、プラントの経年変化によって制御のパラメータが適正でなくなっている異常や、配管系の異常な圧力変動などの制御異常が発生したことを出力する。これにより、上水道プラントにおいて、特に「不出水」や「制御不安定」など発生を抑制することができる。
【0055】
図12は、本実施形態の制御システムが、制御目標の変化に従って、適正な整定時間を参照するための2次元テーブルの一例を示す図である。この2次元テーブルは、配水ポンプの吐出圧力目標が変化した場合に、現在の吐出圧力の値と、変化した吐出圧力目標の大きさの値によって整定時間が変化するプラントの場合に、2つの値で適正な整定時間を参照するための情報からなる。本実施形態の制御システムは、当該2次元のテーブルを使用することにより、実際に観測された整定時間との差がしきい値を超えたときに、制御異常が発生したことを出力する。
【0056】
なお、本実施形態の制御システムは、同様に配水ポンプの流量制御を実行する制御においても、前述の図10から図12を参照して説明した制御方法を実行することにより、流量制御の異常を検出して出力することが可能である。
【0057】
以上のように各実施形態の制御システムにより、上水道プラントの制御に使用されているセンサから得られる計測値や制御装置内の信号を利用して、診断のアルゴリズムを規定化し、異常の判断基準を同じにすることで、上水道プラント機器の監視・異常検知を高精度に行なうことが可能である。これにより、プラントの診断や監視を実施する操作員によって変化していた診断可能な対象や、診断結果も画一的なものにすることが可能となる。
【0058】
なお、各実施形態を、上水道プラントを具体例として説明したが、これに限らず例えば下水道プラントなどの各種の水処理プラントに適用することができる。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の各実施形態に関する上水道プラントの構成を説明するための図。
【図2】第1の実施形態に関する導水プロセスを示す図。
【図3】本実施形態に関する流量調節弁の開度と開閉に係る時間との関係を示す図。
【図4】本実施形態に関する流量調節弁の開閉速度を制御する方法を説明するための図。
【図5】本実施形態に関する流量調節弁の開閉速度を制御する方法を説明するための図。
【図6】本実施形態に関する流量調節弁の弁開度と圧力との関係を示す図。
【図7】第2の実施形態に関する導水プロセスを示す図。
【図8】第2の実施形態に関する配水池の水位変化を示す図。
【図9】第2の実施形態に関する変形例を説明するための図。
【図10】第3の実施形態に関する制御におけるポンプの吐出圧力の制御特性を示す図。
【図11】第3の実施形態に関する制御における整定時間と目標変化量の関係を示す図。
【図12】第3の実施形態に関する制御における整定時間の2次元のテーブルを示す図。
【符号の説明】
【0061】
1…貯水池(ダム)、2,…流量計、3,15…流量調節弁、4,14…アクチュエータ
5…着水井、6,23,27…配管、9…混和池、10…フロック形成池、
11…沈殿池、12…ろ過池、13…浄水池、16…配水池、17…水位計、
30…河川、32…沈砂池、34…ポンプ井、39…汚泥池、40…汚水池、
100…コントローラ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水源からの水に対して浄水処理などの水処理を実行し、前記水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を処理池まで通水させるための配管系とを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配管系に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁と、
前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の開閉に応じた前記流量調節弁にかかる圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御する制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化が大きい場合に発生する水撃の大きさが、前記流量調節弁または前記配管系の許容範囲を超える場合には、前記流量調節弁の開閉速度を相対的に小さくするように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記流量調節弁又は配管系が許容できる水撃の大きさと前記圧力差に基づいて、前記流量調節弁の開閉速度の上限値を算出し、当該上限値が予め設定されている基準の開閉速度よりも小さい場合には、当該基準の開閉速度の設定値を変更するように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化量を抑制するために、前記流量調節弁の動作継続時間の上限を設定し、設定した時間を超えて前記流量調節弁が連続動作しないように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化量を抑制するために、前記流量調節弁の動作間隔に上限を設定し、設定したより短い間隔で前記流量調節弁が動作しないように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記流量調節弁が弁開度状態によって同じ弁開度量の変化に応じた圧力変化が異なる特性を備えている場合には、予め当該弁開度と圧力変化との関係を蓄積したデータベースを用意し、
前記データベースを参照して、前記弁開度の変化に伴う圧力変化量を算出し、単位時間当たりの圧力変化量が設定した上限値を超えないように、前記流量調節弁の動作継続時間または動作間隔を制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記設定した上限値と前記流量調節弁の操作量とを比較し、当該操作量が上限値を超えた場合には警報を出力するように構成されていることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項8】
水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を配水池まで通水させるための配管系とを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配管系に設けられて通水の流量を調節する流量調節弁と、
前記配水池の水位輪計測する水位計と、
前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の単位時間当たりの開閉回数が設定した上限回数を超えたとき、かつ、前記水位計による前記配水池の現状水位と水位目標値との偏差が小さい場合には、水位制御異常が発生していることを推定する機能を含む制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項9】
一時的に排水のための水を貯水するポンプ井を有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記ポンプ井の排水を行なう排水ポンプと、
前記ポンプ井の水位を計測する水位計と、
前記排水ポンプを駆動制御し、前記水位計による前記ポンプ井の現状水位と水位目標値との偏差が小さく、かつ、前記予め設定した単位時間内に前記排水ポンプの開閉指令の回数が設定した上限回数を超えたときに、水位制御異常が発生していることを推定する機能を含む制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項10】
配水ポンプを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配水ポンプの制御目標が変化した場合に、当該目標変化量の絶対値から推定される制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力する制御手段を有することを特徴とする制御システム。
【請求項11】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの圧力目標または流量目標が変化した場合に、当該目標変化量の絶対値から推定される制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【請求項12】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの吐出圧力目標が変化した場合に、現在の吐出圧力の値と、変化した吐出圧力目標値の2つの値で参照される2次元のテーブルから得られる制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【請求項13】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの吐出量目標を使用して配水の流量制御を実行する場合で、当該吐出量目標が変化した場合に、現在の吐出量の値と、変化した吐出量の大きさの値の2つの値で参照される2次元のテーブルから得られる制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【請求項1】
水源からの水に対して浄水処理などの水処理を実行し、前記水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を処理池まで通水させるための配管系とを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配管系に設けられて、通水の流量を調節する流量調節弁と、
前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の開閉に応じた前記流量調節弁にかかる圧力差に基づいて前記流量調節弁の開閉速度を制御する制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化が大きい場合に発生する水撃の大きさが、前記流量調節弁または前記配管系の許容範囲を超える場合には、前記流量調節弁の開閉速度を相対的に小さくするように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記流量調節弁又は配管系が許容できる水撃の大きさと前記圧力差に基づいて、前記流量調節弁の開閉速度の上限値を算出し、当該上限値が予め設定されている基準の開閉速度よりも小さい場合には、当該基準の開閉速度の設定値を変更するように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項4】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化量を抑制するために、前記流量調節弁の動作継続時間の上限を設定し、設定した時間を超えて前記流量調節弁が連続動作しないように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項5】
前記制御手段は、
単位時間当たりの前記流量調節弁の開度変化量を抑制するために、前記流量調節弁の動作間隔に上限を設定し、設定したより短い間隔で前記流量調節弁が動作しないように制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項6】
前記制御手段は、
前記流量調節弁が弁開度状態によって同じ弁開度量の変化に応じた圧力変化が異なる特性を備えている場合には、予め当該弁開度と圧力変化との関係を蓄積したデータベースを用意し、
前記データベースを参照して、前記弁開度の変化に伴う圧力変化量を算出し、単位時間当たりの圧力変化量が設定した上限値を超えないように、前記流量調節弁の動作継続時間または動作間隔を制御することを特徴とする請求項1に記載の制御システム。
【請求項7】
前記制御手段は、
前記設定した上限値と前記流量調節弁の操作量とを比較し、当該操作量が上限値を超えた場合には警報を出力するように構成されていることを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の制御システム。
【請求項8】
水を貯水する貯水池と、前記貯水池からの加圧水を配水池まで通水させるための配管系とを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配管系に設けられて通水の流量を調節する流量調節弁と、
前記配水池の水位輪計測する水位計と、
前記流量調節弁の開閉を制御し、前記流量調節弁の単位時間当たりの開閉回数が設定した上限回数を超えたとき、かつ、前記水位計による前記配水池の現状水位と水位目標値との偏差が小さい場合には、水位制御異常が発生していることを推定する機能を含む制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項9】
一時的に排水のための水を貯水するポンプ井を有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記ポンプ井の排水を行なう排水ポンプと、
前記ポンプ井の水位を計測する水位計と、
前記排水ポンプを駆動制御し、前記水位計による前記ポンプ井の現状水位と水位目標値との偏差が小さく、かつ、前記予め設定した単位時間内に前記排水ポンプの開閉指令の回数が設定した上限回数を超えたときに、水位制御異常が発生していることを推定する機能を含む制御手段と
を具備したことを特徴とする制御システム。
【請求項10】
配水ポンプを有する水処理プラントに適用する制御システムにおいて、
前記配水ポンプの制御目標が変化した場合に、当該目標変化量の絶対値から推定される制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力する制御手段を有することを特徴とする制御システム。
【請求項11】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの圧力目標または流量目標が変化した場合に、当該目標変化量の絶対値から推定される制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【請求項12】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの吐出圧力目標が変化した場合に、現在の吐出圧力の値と、変化した吐出圧力目標値の2つの値で参照される2次元のテーブルから得られる制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【請求項13】
前記制御手段は、
前記制御目標として前記配水ポンプの吐出量目標を使用して配水の流量制御を実行する場合で、当該吐出量目標が変化した場合に、現在の吐出量の値と、変化した吐出量の大きさの値の2つの値で参照される2次元のテーブルから得られる制御の整定時間と、実際に観測された整定時間との差が、予め設定したしきい値を超えたときに制御異常が発生したことを出力することを特徴とする請求項10に記載の制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−52508(P2008−52508A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228140(P2006−228140)
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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