説明

水処理用微生物担体

【課題】微生物による働きで溶存有機物を分解させる水処理方法において、曝気槽等に投入後速やかに水中に沈降してエアレーションにより旋回することができ、しかも溶出成分によって水質が汚染されるおそれの少ないポリウレタン発泡体からなる水処理用微生物担体の提供を目的とする。
【解決手段】あらかじめ所定サイズに裁断して得たポリウレタン発泡体51の小片に、プロピレングリコール等からなる生分解性を有する親水化剤41を付着させることにより、水中沈降性に優れ、しかも泡立ちが少なく、さらに水質汚染のおそれが少ない水処理用微生物担体を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、曝気槽等に投入される水処理用微生物担体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水処理には、微生物による働きで溶存有機物を分解させる方法が多用されている。前記微生物を用いる水処理においては、樹脂発泡体からなる水処理用微生物担体を、浄化槽等に設けられた曝気槽(エアレーションタンク)等へ投入し、水処理用微生物担体に保持された微生物による働きで排水中の溶存有機物を分解させている。
【0003】
しかし、水処理用微生物担体に用いられている樹脂発泡体は、通常、撥水性を示すことから、担体を曝気槽等に投入しても、担体表面が水に濡れ難く、水面上に浮上したままとなり易い。そのため、曝気槽等に投入された担体は、エアレーションによる排水の流動に応じて曝気槽等内の排水内を旋回せず、担体に保持された微生物と排水との接触効率が悪い問題がある。
【0004】
特に、水処理用微生物担体をポリウレタン発泡体で構成する場合、ポリウレタン発泡体には良好な発泡を行うために整泡剤が添加されることが多く、この整泡剤によって発泡体が疎水性(撥水性)となる。そのため、ポリウレタン発泡体からなる水処理用微生物担体は、曝気槽等に投入されても、直ちに水中に沈まず、水面上に山のように盛り上がって投入作業が困難となるだけでなく、排水中を旋回するまでに時間がかかって本来の排水処理能力を充分に発揮できない問題がある。
【0005】
そこで、ポリウレタン発泡体からなる水処理用微生物担体においては、ポリウレタン発泡体に親水性を付与するため、界面活性剤等を発泡体の原料中に予め添加してポリウレタン発泡体を成形することが提案されている。しかし、前記のように、水処理用微生物担体として用いられるポリウレタン発泡体には、疎水性を発揮する整泡剤が含まれているため、親水性を付与する界面活性剤等を添加する場合、少量の界面活性剤等では親水性を付与することができず、界面活性剤等を大量に添加する必要がある。ところが、親水性を付与するために界面活性剤等を大量に添加すると、ポリウレタン発泡体の製造時に発泡体を形成する気泡構造が形成されなくなって発泡体が得られない問題が発生する。また、ポリウレタン発泡体が得られた場合でも、得られたポリウレタン発泡体を微生物用担体として曝気槽の排水に投入した場合、界面活性剤等の影響で泡が発生し、しかも発生した泡がポリウレタン発泡体中に保持されて泡の浮力により水中への水処理用微生物担体の沈降が阻害されやすくなる。
【0006】
また、セル膜のないポリウレタン発泡体を界面活性剤が分散した水中に入れ、十分に浸漬させた後に水を絞って乾燥させ、これによってセル膜のないポリウレタン発泡体に界面活性剤を付着させた水処理用微生物担体を得ることが提案されている。しかし、この水処理用微生物担体にあっては、曝気槽等の排水に投入されて使用されている間に、水処理用微生物担体から界面活性剤が溶け出し、曝気槽等内に滞留して水質を汚染させるおそれがある。
【0007】
【特許文献1】特開2004−250593号公報
【特許文献2】特開2001−96289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、曝気槽等に投入後速やかに水中に沈降してエアレーションにより旋回することができ、しかも溶出成分によって水質が汚染されるおそれの少ないポリウレタン発泡体からなる水処理用微生物担体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、ポリウレタン発泡体に、生分解性を有する親水化剤が付着してなることを特徴とする水処理用微生物担体に係る。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1において、BOD/CODcr比が0.2〜0.65であることを特徴とする。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2において、前記生分解性を有する親水化剤がプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリンの何れか1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水処理用微生物担体によれば、ポリウレタン発泡体に、親水化剤が付着しているため、水処理用微生物担体が曝気槽等に投入された際には親水化剤によって水処理用微生物担体の表面が水に濡れ易くなり、しかも泡を生じにくく、泡が水処理用微生物担体内に保持されにくいことから、曝気槽等の排水内に水処理用微生物担体が速やかに沈降して、エアレーションによって旋回し、微生物による処理を効率よく行うことができる。また、ポリウレタン発泡体に付着している親水化剤は、生分解性を有するため、水処理用微生物担体から排水中に溶出して水質を汚染するおそれが少ない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明における水処理用微生物担体は、ポリウレタン発泡体に、生分解性を有する親水化剤が付着したものからなる。なお、水処理用微生物担体のサイズ及び形状は適宜とされるが、一辺が数mm〜70mm程度の直方体あるいは立方体形状のものが一般的である。
【0014】
ポリウレタン発泡体は、ポリオールとイソシアネートを発泡剤及び触媒の存在下反応させることにより得られる公知の軟質ポリウレタン発泡体を使用することができる。また、ポリウレタン発泡体の密度は、20〜70kg/mが好ましい。
【0015】
ポリオールは、加水分解のし難いポリウレタン発泡体とするため、ポリエーテルポリオールからなるもの、あるいはポリエーテルポリオールを主体とするものが好ましく、一部にエステル基を含むポリエーテルポリエステルポリオールを用いることもできる。ポリエーテルポリオールとしては特に制限されるものではなく、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ハイドロキノン、水、レゾルシン、ビスフェノールA、水添ビスフェノールA、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、エチレンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、トリエチレンテトラアミン、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール等を出発原料として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加して得られるものなどを用いることができる。
【0016】
本発明におけるイソシアネートは特に制限されるものではなく、芳香族系、脂環式、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネート、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用してもよい。
【0017】
例えば、2官能のイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−フェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネートなどの芳香族系のもの、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式のもの、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンイソシアネートなどの芳香族系のものを挙げることができる。
【0018】
また、3官能以上のイソシアネートとしては、1−メチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、1,3,5−トリメチルベンゾール−2,4,6−トリイソシアネート、ビフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン−4,6,4’−トリイソシアネート、4,4’−ジメチルジフェニルメタン−2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、ポリメリックMDI等を挙げることができる。
【0019】
発泡剤としては、水が好適である。水の添加量はポリオール100重量部に対して1.5〜5重量部程度が一般的である。
【0020】
触媒としては、ポリウレタン発泡体用として公知のものを用いることができ、例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノモルフォリン、N−エチルモルホリン、テトラメチルグアニジン等のアミン触媒や、スタナスオクトエートやジブチルチンジラウレート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.05〜0.7重量部程度である。
【0021】
その他、整泡剤、顔料などの添加剤を適宜配合することができる。整泡剤は、ポリウレタン発泡体に用いられるものであればよく、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤および公知の界面活性剤を挙げることができる。顔料は、求められる色に応じたものが用いられる。
【0022】
なお、本発明のポリウレタン発泡体は、前記ポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒、及び適宜の添加剤からなるポリウレタン発泡原料を攪拌混合して前記ポリオールとイソシアネートを反応させ、発泡させる公知の発泡方法によって製造される。
【0023】
ポリウレタン発泡体に付着させる生分解性を有する親水化剤としては、プロピレングリコール(PG)、エチレングリコール(EG)、グリセリン(Gly)の何れか一種を挙げることができる。なお、本発明において「生分解性を有する」とは、担体に付着して使用しても微生物による分解が行われることであり、生分解性を有する親水化剤であるか否かは、BOD/CODcr比によって判断することができる。前記生分解性を有する親水化剤は、ポリウレタン発泡体に対する付着量が適宜の量とされるが、一般的には、ポリウレタン発泡体100gに対して1〜15gとされる。
【0024】
前記水処理用微生物担体の製造は、ポリウレタン発泡体を所定サイズの小片、一般的には一辺が数mm〜70mm程度の直方体あるいは立方体形状の小片に裁断した後、ポリウレタン発泡体の小片に前記生分解性を有する親水化剤を付着させることにより行うのが好ましい。なお、前記裁断と付着の順序を逆にする場合、すなわち、ポリウレタン発泡体に、生分解性を有する親水化剤を付着させた後に小片に裁断する場合、生分解性を有する親水化剤が付着したポリウレタン発泡体を裁断まで保管する間に、生分解性を有する親水化剤がポリウレタン発泡体から流出したり保管用梱包材に付着したり、あるいは裁断装置に付着したりしてポリウレタン発泡体に付着していた生分解性を有する親水化剤の量が少なくなり、効率が悪くなる。
【0025】
前記ポリウレタン発泡体の小片に、生分解性を有する親水化剤を付着させる方法は、適宜の方法で行うことができる。例えば、図1の(1−A)に示すように、攪拌槽11に前記裁断で得られたポリウレタン発泡体の小片51を所定量投入し、次に図1の(1−B)に示すように、前記ポリウレタン発泡体の小片51を攪拌羽根24で攪拌しながら、生分解性を有する親水化剤41をスプレー塗布装置31でポリウレタン発泡体の小片51にスプレー塗布する方法を挙げることができる。符号21は攪拌羽根24が取り付けられた回転シャフト、22は回転シャフト21を回転させるモータである。
【実施例】
【0026】
以下この発明の実施例について具体的に説明する。ポリエーテルポリオール(水酸基価56mgKOH/g、品名:サンニックスGP−3050、三洋化成工業株式会社製)100重量部、発泡剤(水)1.7重量部、アミン触媒(品名:カオーライザーNo.31、花王株式会社製)0.3重量部、錫触媒(オクチル酸第一スズ、品名:MRH110、城北化学工業株式会社製)0.2重量部、整泡剤(シリコーン系界面活性剤、品名:B8110、ゴールドシュミット株式会社製)1重量部、ポリイソシアネート(2,4−TDI/2,6−TDI=80/20、品名:コロネートT−80、日本ポリウレタン工業株式会社製)27.7重量部、イソシアネートインデックス110からなる発泡原料を用い、公知のポリウレタンスラブ発泡方法によってポリウレタン発泡体のブロックを製造した。なお、スラブ発泡方法は、混合攪拌した発泡原料をベルトコンベア上に吐出し、ベルトコンベアが移動する間に、発泡原料を常温、大気圧下で自然発泡させて硬化させ、さらに乾燥炉でキュアさせた後に所定のブロック形状に裁断する方法である。得られたポリエーテル系ポリウレタン発泡体は、密度48kg/mでった。
【0027】
このようにして製造されたポリウレタン発泡体のブロックをトムソン刃で一辺10mmの立方体の小片に裁断し、得られたポリウレタン発泡体の小片を図1に示す攪拌槽に6.75kg投入し、直径800mm、回転速度60回/分のプロペラミキサーで攪拌しながら、生分解性を有する親水化剤としてプロピレングリコール(PG)、エチレングリコール(EG)、グリセリン(Gly)を、ポリウレタン発泡体の小片にスプレー塗布装置でそれぞれ塗布し、15分間攪拌した。その後、攪拌を停止して実施例1〜5の水処理用微生物担体を得た。ポリウレタン発泡体の小片に対する、生分解性を有する親水化剤の塗布量(付着量)は、表1に示すとおりである。
【0028】
このようにして得られた実施例1〜5の水処理用微生物担体を、静水面に落とし、30分後の沈み具合を調べたところ、何れも全体が水面下に沈み、沈み性が良好であった。また、前記水面下に沈んだ実施例の水処理用微生物担体を攪拌棒で5分間かき混ぜたところ、泡立ちを殆ど生じないことが確認できた。また、実施例1〜5の水処理用微生物担体に手でふれてみてべたつきの有無を調べ、べたつきがない場合を(○)、ある場合を(×)とした。水処理用微生物担体にべたつきがあると、水処理用微生物担体を扱い難いうえに、曝気槽(エアレーションタンク)への投入時に水処理用微生物担体が梱包袋内に残量するおそれがある。
【0029】
さらに、実施例の水処理用微生物担体について、溶出成分による水質の汚染を調べるため、CODcr(化学的酸素要求量)とBOD(生物学的酸素要求量)を測定した。CODcrの測定は2クロム酸カリウムを用いる公知の方法で行った。測定結果は、表1に示すとおりである。
【0030】
【表1】

【0031】
比較のため、生分解性を有する親水化剤に代えて界面活性剤を用いて比較例1〜7の水処理用微生物担体を製造した。界面活性剤は比較例1〜3では品名:アセチレノールEH、川研ファインケミカル株式会社製、比較例4では品名:PEG−200、三洋化成工業株式会社製、比較例5では品名:PEG−400、三洋化成工業株式会社製、比較例6では品名:PP−200、三洋化成工業株式会社製、比較例7では品名:PP−400、三洋化成工業株式会社製である。なお、比較例におけるポリウレタン発泡体の小片に対する、界面活性剤の塗布量(付着量)は、表2に示すとおりである。また、比較例についても、CODcr(化学的酸素要求量)とBOD(生物学的酸素要求量)を測定すると共に、べたつきの有無についても調べた。結果は表2に示すとおりである。
【0032】
【表2】

【0033】
表1および表2の結果から理解されるように、実施例の水処理用微生物担体は、比較例の水処理用微生物担体と比べて、BOD/CODcr比が一桁以上高く、実施例の水処理用微生物担体は親水化剤の微生物による分解が促進される担体であることがわかる。また、実施例の水処理用微生物担体はべたつきが無かったのに対し、比較例の水処理用微生物担体はべたつきがあった。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ポリウレタン発泡体に、生分解性を有する親水化剤を塗布する方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
11 攪拌槽
24 攪拌羽根
31 スプレー塗布装置
41 生分解性を有する親水化剤
51 ポリウレタン発泡体の小片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン発泡体に、生分解性を有する親水化剤が付着してなることを特徴とする水処理用微生物担体。
【請求項2】
BOD/CODcr比が0.2〜0.65であることを特徴とする請求項1に記載の水処理用微生物担体。
【請求項3】
前記生分解性を有する親水化剤がプロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリンの何れか1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の水処理用微生物担体。

【図1】
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【公開番号】特開2008−100185(P2008−100185A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285828(P2006−285828)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】