説明

水処理装置及び水処理方法

【課題】簡易な構造であって、導電性ダイヤモンド電極を一切使用せず、CODの値の低下効果が大きく、設備費コストの低廉が可能である。
【解決手段】水処理装置1は、水を電気分解で処理する装置であって、陽極2と陰極3とで対をなす電極を有し、陽極2は白金族を主成分とし、陰極3はグラファイトであり、かつ、陽極2と陰極3の間に通電できるようにプロトン伝導膜5が挿入されてなる電解ユニットAを備える。陽極2の白金族は、長尺状であり、陰極3のグラファイトは、柱状であり、プロトン伝導膜5は、リボン状であり、陽極2と陰極3の間にプロトン伝導膜5が挿入されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工場排水ならびにダクト循環水などの水を処理する水処理装置及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場や作業場のダクト、冷却などの排水または循環水中には、作業等に使用される有機溶剤などが含まれ、また、経時に伴い酪酸や吉草酸等の悪臭の原因物質なども含まれている。これらの物質のため、排水または循環水は有色を有し、化学的酸素要求量やCODの値が高い。COD(Chemical Oxygen Demand)とは、水中の被酸化性物質量を酸化するために必要とする酸素の量で示したものであり、CODの値は排水規準に用いられ、海域と湖沼の環境基準に用いられている。CODの値が高いほど有機物量が多い、汚染が進んでいることを示す。そこで、このCODの値を低下させ、排水ならびに循環水を透明にする技術が求められている。
【0003】
従来の防止技術としては、オゾンガスを循環水と接触させ、悪臭物質を酸化分解して消臭する処理装置が知られている(特許文献1、2)。しかし、この方法では、オゾン発生装置を設置し、これを水に溶解させてオゾン水とし、ブース循環水と接触混合するものであるため、オゾン発生装置や、オゾンを水に溶解させるためのオゾン水製造装置や、それらを連結する配管等が必要であるため、設備が大掛かりとなり、設備投資が膨大で、ランニングコストも高いという問題があった。
【0004】
一方、最近において、導電性ダイヤモンド電極を利用した廃水処理装置が提案されている(特許文献3、4)。導電性ダイヤモンド電極とは、ホウ素等の異元素をドーピングすることによって電気伝導性を付与したダイヤモンド電極のことである。導電性ダイヤモンド電極は、その化学的安定性のため、従来から使われていた二酸化鉛、白金電極などの電極では得ることのできなかった広い電位領域、特に貴の電位域で安定に電解反応を行うことができる。また、酸素過電圧が大きいため、電極‐溶液界面に大きな電位差が形成される。このため、導電性ダイヤモンド電極の表面で様々な有機物を酸化分解することができる。
【0005】
例えば、上記特許文献3では、被処理水を限外ろ過膜でろ過して濃縮液とし、この濃縮液を導電性ダイヤモンド電極で電気分解して、アンモニア性窒素の分解除去を行っている。また、上記特許文献4では、ポリビニルアルコールを含む廃水を蒸発させて濃縮した後、濃縮液を導電性ダイヤモンド電極で電気分解して、ポリビニルアルコールの分解除去を行っている。しかし、上記特許文献3及び特許文献4の廃水処理方法では、被処理水を濃縮してから電気分解を行うため、限外ろ過装置や蒸発濃縮装置等の濃縮装置が必要となる。このため、やはり設備が大掛かりとなり、設備投資が膨大で、ランニングコストも高いという問題がある。このため、この排水処理装置を循環水の処理装置として適用することはできない。
【0006】
そこでさらに、上記課題を解決するため、循環水中に含まれている悪臭物質を導電性ダイヤモンド電極の表面で直接酸化するだけでなく、導電性ダイヤモンドの表面で発生するオゾンや過酸化水素やヒドロキシラジカル等の酸化性物質を用いて、間接的に悪臭物質を無臭化できないか検討された。その結果、循環水の消臭に対しては、導電性ダイヤモンド電極によって電気分解を行えば、特に被処理水を濃縮しなくても、短時間に消臭できることが示された(特許文献5)。
しかしながら、上記従来技術では、良好な結果を得るためには、導電性ダイヤモンド電極を使用する必要があった。この導電性ダイヤモンド電極の製造方法は、特許文献6に示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−323255号公報
【特許文献2】特開平8−182948号公報
【特許文献3】特開2005−334822号公報
【特許文献4】特開2003−326263号公報
【特許文献5】特開2008−136996号公報
【特許文献6】特開2007−39720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、良質の導電性ダイヤモンドを得るためには下地の金属との相性もあり、加えて、薄膜であることから、耐久性にも問題がある。一般的に、真空中で、しかも高温で製造することから、その製造スピードは非常に遅い。このことから、導電性ダイヤモンドの製造コストは非常に高く、また、大きな電極を作ることは困難である。
【0009】
この発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、簡易な構造であって、導電性ダイヤモンド電極を一切使用せず、CODの値の低下効果が大きく、設備費コストの低廉な水処理装置及び水処理方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明者らは、特に導電性ダイヤモンを電極として使用しない電解ユニットを考案し、この課題に取り組むこととした。
【0011】
請求項1に記載の発明は、陽極と陰極とで対をなす電極により水を電気分解で処理する装置であり、前記陽極は白金族を主成分とし、前記陰極はグラファイトであり、かつ、前記陽極と前記陰極の間に通電できるようにプロトン伝導膜が挿入されてなる電解ユニットを備えることを特徴とする水処理装置である。
【0012】
請求項2に記載の発明は、前記陽極の白金族は、長尺状であり、前記陰極のグラファイトは、柱状であり、前記プロトン伝導膜は、リボン状であり、前記陽極と前記陰極の間に前記プロトン伝導膜が挿入されてなることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置である。
【0013】
前記陽極の白金族は、長尺状であることが好ましく、長尺状としては線状にしたもの、あるいはリボン状にしたものが用いられる。白金族とは、Pt,Ru,Rh,Pd,Os,Irを指し、陽極は白金族を主成分とした単体またはその合金であり、純粋な白金族が特に好ましい。形状は線状、リボン状が使いやすい。陽極として用いる白金族は、白金族を含有する合金等の貴金属電極等を用いることができる。陽極の白金族は白金族メッキでも良く、不純物が含まれていても、主成分が白金族ならば構わない。白金族ワイヤーの電極は、白金族メッキ品を使えば、さらにコストがダウンでき、より、ダイヤモンドの電極より、低コストにでき、有利である。
【0014】
前記陰極のグラファイトは、柱状であることが好ましく、円柱状、四角柱状にしたものが用いられる。グラファイトを陽極にすると、グラファイトが酸化され分解され、水中にグラファイトが散乱するために、陽極には使用は出来ない。グラファイトの電極は、炭素電極一般を示し、焼結助剤、導電剤、導電性向上剤などの添加物を含んでいても問題ないことは言うまでもない。陰極に使用するグラファイトの電極は、一般に市販されているもので良く、炭を利用しても良い。
【0015】
前記プロトン伝導膜は、リボン状であることが好ましく、陽極と陰極の間にプロトン伝導膜が挿入されてなることが好ましい。プロトン導電性膜は、一般に隔離膜と使用されている膜でも、イオン導電性膜で構わない。特に、デュポン製のNafion(商標)が有効であるが、膜はガラス質、セラミックス等でも全く問題ない。陰極と陽極の間に挿入し挟むプロトン導電性膜は、電気的に陰極、陽極と接していなければならない。このことにより、水の電気伝導性に無関係に効果的に電気分解が行われる。このように、陰極と陽極の間に電解質として挿入するプロトン伝導膜は、どの様なものを使用しても問題なく使用できるが、この発明ではデュポン製Nafion350、厚さ0.4mmが良好の結果をもたらした。しかしながら、条件によっては各種プロトン導電膜が使用できることは言うまでもない。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の水処理装置を用いて、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる水処理方法である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の水処理装置を、循環して使用する水の循環経路に備え、前記水処理装置を用いて、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる水処理方法である。
【発明の効果】
【0018】
前記構成により、この発明は、以下のような効果を有する。
【0019】
請求項1及び請求項2に記載の発明では、電解ユニットを循環水および排水などの水中に配置し、電極間に電流を流し、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる。すなわち、電解ユニットは、水中に設置され、この電極ユニットに対し、外部直流電源からグラファイトが陰極、白金族を陽極となるように直流電流を通ずることにより、白金族の陽極の表面では、水中の有機物を電極表面で酸化分解するだけでなく、水を電気分解してオゾンやOH・、O・、・O(スーパーオキシドアニオン)といった酸化性物質が発生する。また、グラファイトの陰極の表面では電子による、炭素による、発生する水素による還元分解が行われる。両極で分解反応が進み、CODの値を低下させることができる。
【0020】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載の水処理装置を用いて、有色の排水を透明にし、かつCODの値を低下させる。また、請求項4に記載の発明では、水処理装置を、循環して使用する水の循環経路に備え、例えば循環水の配管内に設置することができるため、現在運転中である循環水系にも容易に組み込むことが可能となり、設備費も低廉なものとなる。電解ユニットは、水の流れ方向に略平行でも、垂直方向でも、設けることができる。
【0021】
電解ユニットの上流には、配管の径内方向に突出する邪魔板が設けられていることも好ましい。こうであれば、邪魔板によって乱流が発生し、撹拌効果を奏するため、電極表面への物質移動が促進され、電極反応が促進され、ひいては、CODの値の低下効果が促進される。また、熱交換が効果的に行われることから、電解中に発生するジュール熱によって電解ユニット周囲が局部的に高温となることを防止することができる。
【0022】
また、電解によって発生したガスを外部に排出させるためのガス抜き手段が設けられていることも好ましい。電解中は、水の電気分解による水素ガスや酸素ガス、オゾンガス、有機物の分解に伴う二酸化炭素ガス等が発生し、配管内の圧力が上昇する。ガス抜き手段を設けることにより、こうした圧力の上昇を防止することができるとともに、爆発の危険性も、回避することができる。
【0023】
また、電解処理方法では、電流の向きを時々、一瞬、交番させながら処理を行うことが好ましい。ただし、グラファイトの電極側が陽極となる時間は1秒以内、出来れば0.1秒以内にすべきものである。被処理水に含まれる成分によっては、電極に堆積物(スケール)が付着することがある。例えば、カルシウムイオンなどは陰極にスケールとなって付着し、電極の性能を著しく低下させる。電流の向きを交番させながら水処理を行えば、このようなスケールの付着が防止され、電極の性能低下を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】電解ユニットの構成図を示す図である。
【図2】電解ユニットを配管に入れた場合の実施の形態を示す図である。
【図3】実施装置の構成を示す図である。
【図4】電解に伴うCODの値の変化を示す図である。
【図5】電解に伴う透過率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明の水処理装置及び水処理方法の実施の形態について説明する。この発明の実施の形態は、発明の最も好ましい形態を示すものであり、この発明はこれに限定されない。
【0026】
この水処理装置及び水処理方法の構成を、図1に基づいて説明する。この水処理装置1は、水を電気分解で処理する装置であり、陽極2と陰極3とで対をなす電極を有し、この陽極2と陰極3とに電源4から通電される。陽極2は白金族を主成分とし、陰極3はグラファイトであり、かつ、陽極2と陰極3の間に通電できるようにプロトン伝導膜5が挿入されてなる電解ユニットAを備える。
【0027】
この電解ユニットAは、陽極2の白金族が長尺状であり、陰極3のグラファイトが柱状であり、プロトン伝導膜5がリボン状であり、陽極2と陰極3の間にプロトン伝導膜5が挿入され、電源4から直流電源を与えることで陽極2と陰極3の間を通電できるようになっている。
【0028】
この水処理装置1を用いて、例えば、工場や作業場のダクト、冷却などの排水または循環水の有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させることができる。
【0029】
この水処理装置1は、図2に示すように、例えば、工場や作業場のダクト、冷却などの循環して使用する水の循環経路10に備えることができる。この実施の形態では、電解ユニットAを循環経路10の配管11に装着する。陽極2の白金族は、リボン状にしたものが用いられ、陰極3のグラファイトは、円柱状ものが用いられ、プロトン伝導膜5は、リボン状のものが用いられ、陰極3のグラファイトにプロトン伝導膜5を巻き付け、このプロトン伝導膜5に陽極2の白金族を巻き付けて、電気的に陽極2の白金族と、陰極3のグラファイトとを接するように設ける。この陽極2の白金族と陰極3のグラファイトとに電源4を接続し、直流電流を通電する。
【0030】
電解ユニットAを水の循環経路10の水中に配置し、陽極2の白金族と、陰極3のグラファイトとの電極間に電流を流し、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる。すなわち、電解ユニットAは、水中に設置され、この電極ユニットAに対し、外部直流の電源4からグラファイトが陰極3、白金族を陽極2となるように直流電流を通ずることにより、白金族の陽極2の表面では、水中の有機物を電極表面で酸化分解するだけでなく、水を電気分解してオゾンやOH・、O・、・O(スーパーオキシドアニオン)といった酸化性物質が発生する。また、グラファイトの陰極3の表面では電子による、炭素による、発生する水素による還元分解が行われる。両極で分解反応が進み、CODの値を低下させることができる。
【実施例】
【0031】
<工場排水の処理試験>
車の生産工場の空気清浄ダクト循環水の排液を用いて、この発明の効果について実施テストを行った。工場ダクト排水は、CODの値が260mg/L、色は茶色で、波長420nmの光の透過度は0.20から.25であった。この実際の排水を用いて実験を行った。
実験装置を図3に示す。
実施例1.
100mlのビーカーに上記工場排水を100ml入れ、陰極に直径3mmのグラファイト棒、プロトン導電膜にはデュポン製Nafion350、厚さ0.4mmを、幅1mmに裁断し、グラファイト電極に巻き付けた。次いで、白金ワイヤー直径0.5mmをNafionの受けに巻き付け、電気的に通電していることテスターにて確認した。
【0032】
この電解ユニットを先ほどの排水の入っているビーカーに入れ、図3のように配置した。溶液はスターラーによって撹拌した。この溶液に対して、電流3A、電圧15Vを印可し、電解処理を行った。通電時間を変えて、効果を確認するため、CODの値の測定は滴定分析法で図4に、色の分解は透過率を測定し、その目安とし図5に示した。また、電解ユニットの製造コストを比較し表1に示した。
比較例1.
実施例1で、陰極をグラファイトの代わりに、銀に変えた。他の条件は全て同じである。
比較例2.
実施例1で、陰極をグラファイトの代わりに、白金メッキ電極に変えた。他の条件は全て同じである。
比較例3.
実施例1で、陽極を白金の代わりに、導電性ダイヤモンドの電極に、陰極を白金線に変えた。他の条件は全て同じである。
上記実験結果を下記に示す。
(表1)
電解ユニット製造コスト
製造コスト
実施例1 1.0
比較例1 2.5
比較例2 3.2
比較例3 1052.5
実施例1の製造コストを1.0として表記した。
【0033】
上記結果から、CODの値の減少効果は導電性ダイヤモンドが良いが、透過率に関しては、実施例1も同等の効果を示す。加えて、製造コストの面で、実施例1は、格段に安価である。
【0034】
CODの値の低下に関しても、この発明は安価であることから、電解ユニットを2本使うことで克服できる。総合的に見て、この実施例が工業上もっとも効果的であることはこの結果から明白である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
この発明は、工場排水ならびにダクト循環水などの水を処理する水処理装置及び水処理方法に適用でき、簡易な構造であって、導電性ダイヤモンド電極を一切使用せず、CODの値の低下効果が大きく、設備費コストの低廉が可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 水処理装置
2 陽極
3 陰極
4 電源
5 プロトン伝導膜
10 循環経路
11 循環経路10の配管
A 電解ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を電気分解で処理する装置であって、
陽極と陰極とで対をなす電極を有し、
前記陽極は白金族を主成分とし、前記陰極はグラファイトであり、
かつ、前記陽極と前記陰極の間に通電できるようにプロトン伝導膜が挿入されてなる電解ユニットを備えることを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記陽極の白金族は、長尺状であり、
前記陰極のグラファイトは、柱状であり、
前記プロトン伝導膜は、リボン状であり、
前記陽極と前記陰極の間に前記プロトン伝導膜が挿入されてなることを特徴とする請求項1に記載の水処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水処理装置を用いて、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる水処理方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の水処理装置を、循環して使用する水の循環経路に備え、前記水処理装置を用いて、有色の水を透明にし、かつCODの値を低下させる水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−179283(P2010−179283A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27600(P2009−27600)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(501141769)株式会社industria (29)
【Fターム(参考)】