説明

水処理装置

【課題】構成を簡単化でき且つ良質な処理水質を達成すると同時に消石灰を効率的に利用しうる水処理装置を提供する。
【解決手段】石灰水注入ポンプ2により原水wに石灰水Lを注入し、膜供給水ポンプ6により膜供給水Sをろ過膜モジュール7へ圧送し、膜ろ過する。設定したろ過時間経過毎に、ろ過膜モジュール7の物理洗浄を行い、物理洗浄排水を物理洗浄排水返送経路11を介して膜供給水槽3に返送する。但し、設定したタイミングの物理洗浄時には、排出経路12から物理洗浄排水を系外へ排出する。
【効果】用途の異なるろ過膜モジュールを備える必要がなくなり、構成を簡単化できる。ろ過膜モジュールで未溶解の消石灰を完全に分離でき、良質な処理水質を達成できる。ろ過膜モジュールの一次側に残った未利用の消石灰を再利用可能なため、消石灰を効率的に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置に関し、さらに詳しくは、構成を簡単化でき且つ良質な処理水質を達成すると同時に消石灰を効率的に利用しうる水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水と消石灰をスラリー槽で混合し、スラリー槽に浸漬したろ過膜モジュールで膜ろ過して消石灰の飽和溶液を分離し、その飽和溶液を原水に注入する溶液注入装置が知られている(特許文献1参照。)。
他方、水に消石灰スラリーを注入し、未溶解の消石灰を沈降装置で分離して、清澄な消石灰水溶液を生成し、その清澄な消石灰水溶液を原水に注入する消石灰水溶液の生成装置が知られている(特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平5−169049号公報([0031])
【特許文献2】特開平9−52711号公報([0029][0030])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の溶液注入装置では、消石灰の飽和溶液を分離するための専用のろ過膜モジュールが必要であるため、原水のろ過をろ過膜モジュールで行う場合には、用途の異なるろ過膜モジュールを備える必要があり、構成が複雑となる問題点がある。
また、上記従来の消石灰水溶液の生成装置では、清澄な消石灰水溶液を生成するための専用の沈降装置が必要であるため、構成が大掛かりとなる問題点がある。さらに、沈降装置では未溶解の消石灰を完全に分離できないことがあるため、一部の未溶解の消石灰が被注入水中に混入し、処理水質が低下するため、その除去が必要となり、消石灰の利用効率も低くなる問題点がある。
そこで、本発明の目的は、構成を簡単化でき且つ良質な処理水質を達成すると同時に消石灰を効率的に利用しうる水処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、原水に消石灰を注入する注入装置と、消石灰を注入された原水を精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜でろ過するろ過膜モジュールとを具備したことを特徴とする水処理装置を提供する。
上記第1の観点による水処理装置では、原水のろ過をろ過膜モジュールで行うと共にそのろ過膜モジュールで未溶解の消石灰を分離するため、用途の異なるろ過膜モジュールを備える必要がなくなり、構成を簡単化できる。また、ろ過膜モジュールでは未溶解の消石灰を完全に分離できるため、良質な処理水質を達成することが出来る。さらに、ろ過膜モジュールの一次側に残った未溶解の消石灰を再利用可能なため、消石灰を効率的に利用することが出来る。
【0006】
第2の観点では、本発明は、上記構成の水処理装置において、前記ろ過膜モジュールを物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を前記ろ過膜モジュールよりも前段の原水中に返送する物理洗浄排水返送経路を設けたことを特徴とする水処理装置を提供する。
上記第2の観点による水処理装置では、ろ過膜モジュールのろ過膜の一次側に付着した消石灰を再利用できるため、消石灰を効率的に利用することが出来る。
【0007】
第3の観点では、本発明は、上記構成の水処理装置において、前記ろ過膜モジュールを物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を排出する排出経路を設けたことを特徴とする水処理装置を提供する。
物理洗浄排水をろ過膜モジュールよりも前段の原水中に返送することを繰り返していると、原水に由来する濁質および石灰水に由来する濁質の濃度が増加してくる。そして、濁質濃度の増加にともなって、ろ過圧力の上昇速度が早くなる。
そこで、上記第3の観点による水処理装置では、適当なタイミングで排出経路から物理洗浄排水を系外へ排出する。
【0008】
第4の観点では、本発明は、上記構成の水処理装置において、消石灰を注入された原水の消石灰濃度を検知する手段と、検知した濃度が所定濃度となるように注入装置による消石灰の注入量を制御する制御手段とを具備したことを特徴とする水処理装置を提供する。
上記第4の観点による水処理装置では、消石灰の注入量を動的に最適化することが出来る。
【発明の効果】
【0009】
本発明の水処理装置によれば、構成を簡単化でき、且つ、良質な処理水質を達成すると同時に消石灰を効率的に利用することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図に示す実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0011】
図1は、実施例1にかかる水処理装置100の構成図である。
この水処理装置100において、1は石灰水Lを貯留する石灰水槽、2は原水wに石灰水Lを注入する石灰水注入ポンプ、3は石灰水Lを注入した原水w(以下、膜供給水Sという)を貯留する膜供給水槽、4は膜供給水SのpHを測定するためのpHメータ、5はpHメータ4で検知したpHが所定pHとなるように石灰水注入ポンプ2による石灰水Lの注入量を制御する制御装置、6は膜供給水Sをろ過膜モジュール7の一次側へ供給するための膜供給水ポンプ、7は膜供給水Sを精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜でろ過するろ過膜モジュール、8はろ過膜モジュール7の二次側へろ過された処理水Tを貯留する処理水槽、9は逆洗のために処理水Tをろ過膜モジュール7の二次側へ供給するための逆洗ポンプ、10はエアスクラビングのためにろ過膜モジュール7の一次側へ空気を供給するコンプレッサ、11はろ過膜モジュール7を物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を膜供給水槽3に返送するための物理洗浄排水返送経路、12はろ過膜モジュール7を物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を排出する排出経路である。
【0012】
なお、制御装置5は、膜供給水ポンプ6,逆洗ポンプ9,コンプレッサ10およびバルブV1〜V8を駆動し、水処理行程の制御も行う。
【0013】
石灰水Lは、石灰乳(消石灰スラリー)を静置した上澄水を回収したものである。但し、原水wに石灰乳を直接注入しても良い。また、石灰水Lの濃度は、飽和濃度でもよいし、必要に応じて適宜設定してもよい。
【0014】
次に、動作を説明する。
制御装置5は、石灰水注入ポンプ2を駆動して、膜供給水槽3へ導入される原水wに石灰水Lを注入する。また、石灰水注入ポンプ2による石灰水Lの注入量を動的に調整し、膜供給水槽3での膜供給水SのpHが所定pH値になるようにする。そして、膜供給水ポンプ6を駆動して膜供給水Sをろ過膜モジュール7へ圧送し、全量ろ過方式により膜ろ過する。
【0015】
制御装置5は、設定したろ過時間経過毎(例えば30分間のろ過運転毎)に、ろ過膜モジュール7の物理洗浄を行う。すなわち、膜ろ過を停止し、逆洗ポンプ9を駆動して逆流洗浄を行うと共にコンプレッサ10を駆動してエアスクラビングを行う。このとき、物理洗浄排水返送経路11を導通させて、ろ過膜モジュール7の一次側の物理洗浄排水を膜供給水槽3に返送する。但し、設定したタイミングの物理洗浄時(例えば9回飛び毎の物理洗浄時)には、物理洗浄排水返送経路11を閉鎖し、排出経路12を導通させて、ろ過膜モジュール7の一次側の物理洗浄排水を系外へ排出する。
なお、原水w中に濁質が多いとろ過膜が閉塞しやすくなるので、伏流水等の非常に清澄な水を原水wとするのが望ましい。
【0016】
−評価試験例−
地下水を原水wとし、MF膜のろ過膜モジュール7を用いて、評価試験を実施した。
原水wに石灰水注入ポンプ2にて石灰水Lを注入し、膜供給水槽3へ導入した。膜供給水槽3に設置したpHメーター4および制御装置5により膜供給水SのpHが8.3程度になるよう石灰水注入ポンプ2のパルス数を制御した。そして、膜供給水Sを膜供給水ポンプ6にてろ過膜モジュール7へ圧送し、全量ろ過方式により膜ろ過した。
【0017】
ろ過時間30分毎に逆洗ポンプ9による処理水Tでの逆流洗浄およびコンプレッサ10によるエア圧送でのエアスクラビングを行った。そして、ろ過膜モジュール7の一次側の物理洗浄排水は、物理洗浄排水返送経路11を介して膜供給水槽3へ返送した。但し、10回目毎の物理洗浄排水は、膜供給水槽3へ返送せずに、排出経路12から系外へ排出した。
【0018】
図2に、処理水TのpHおよび25℃温度補正膜差圧の経時変化を示す。
処理水TのpHは、8.2程度に安定に維持できた。
ろ過膜モジュール4での25℃温度補正膜差圧は、安定に推移し、消石灰による膜の閉塞は生じなかった。
【0019】
図3に、原水w,膜供給水S,処理水T,物理洗浄排水のpHおよびSS(懸濁物質)の測定平均値を示す。
処理水Tには、濁度もSSも認められず、消石灰由来の未溶解物質が完全に取り除かれていた。
物理洗浄排水のpHは、処理水TのpHより高い値となっており、未利用の消石灰成分を回収できることが判った。
また、原水回収率は、99.5%であった。これに対して、物理洗浄排水を膜供給水槽3へ返送しない場合には95%に低下した。
【0020】
同様の評価試験をUF膜についても実施し、同様の効果を確認した。
【実施例2】
【0021】
ろ過行程において、物理洗浄排水返送経路11を利用して、膜供給水Sの循環を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の水処理装置は、浄水処理施設において、pH調整や水の腐食性を改善するのに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1にかかる水処理装置を示す構成図である。
【図2】処理水のpHおよび膜差圧の経時変化を示すグラフである。
【図3】原水,膜供給水,処理水,物理洗浄排水のpHおよびSSの測定平均値を示す図表である。
【符号の説明】
【0024】
1 石灰水槽
2 石灰水注入ポンプ
3 膜供給水槽
4 pHメータ
5 制御装置
6 膜供給水ポンプ
7 ろ過膜モジュール
8 処理水槽
9 逆洗ポンプ
10 コンプレッサ
11 物理洗浄排水返送経路
12 排水経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水に消石灰を注入する注入装置と、消石灰を注入された原水を精密ろ過膜あるいは限外ろ過膜でろ過するろ過膜モジュールとを具備したことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理装置において、前記ろ過膜モジュールを物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を前記ろ過膜モジュールよりも前段の原水中に返送する物理洗浄排水返送経路を設けたことを特徴とする水処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の水処理装置において、前記ろ過膜モジュールを物理洗浄した時の一次側の物理洗浄排水を排出する排出経路を設けたことを特徴とする水処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の水処理装置において、消石灰を注入された原水の消石灰濃度を検知する手段と、検知した濃度が所定濃度となるように注入装置による消石灰の注入量を制御する制御手段とを具備したことを特徴とする水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−142175(P2006−142175A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334181(P2004−334181)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000193508)水道機工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】