説明

水処理装置

【課題】処理水中に溶存する酸素の除去効率を向上させることができる。
【解決手段】バラスト水処理装置は、バラスト水及び窒素ガスが導入される酸素ストリッピング塔7を備え、ストリッピング塔7は、バラスト水を散水する散水装置11と、窒素ガスを噴射する散気装置13とを有する。ストリッピング塔7内に導入されたバラスト水は、散水装置11によって撒かれ、分散しながら自然流下する。このバラスト水は、散気装置13から噴射された窒素ガスに向流接触し、溶存する酸素は除去される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理装置に関し、特に、バラスト水として利用される海水や淡水などの溶存酸素を除去する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶などでは、目的地となる港に到着して積荷や原油などを降ろすと、出港する前にバラスト水を積み込んで浮力を調整する必要がある。バラスト水は、帰港地に戻って積荷や原油などを積み込む際に不要になり、帰港地に到着すると放出される。バラスト水中には、水生生物や微生物さらには細菌などが棲息しており、バラスト水を帰港地で安易に放出すると、帰港地での生態系を崩し、環境破壊を招く虞がある。このような問題を解消するため、例えば、特許文献1には、バラスト水中の溶存酸素を除去し、バラスト水中に棲息する生物を死滅させる水処理用システムが開示されている。
【0003】
この水処理用システムでは、ベンチュリインジェクタによって処理水中に酸素ストリッピングガスの細かな気泡を生成する。酸素ストリッピングガスは、窒素ガスまたは低酸素濃度の混合ガスからなる。バラスト水中の溶存酸素は、酸素ストリッピングガスの気泡に接触すると、ヘンリーの法則にしたがって気泡に取り込まれ、気泡と一緒にバラスト水から除去される。その結果としてバラスト水中の溶存酸素が減少し、水生生物などが死滅する。
【特許文献1】特表2005−525226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の水処理用システムでは、バラスト水中に酸素ストリッピングガスの細かな気泡を生成する必要があり、気泡をバラスト水全体に行き渡らせるための負荷が大きくなり、溶存酸素の効率的な除去が難しかった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、処理水中に溶存する酸素の除去効率を向上できる水処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被処理水中に溶存する酸素を除去して処理水を生成する水処理装置において、被処理水及び酸素ストリッピングガスが導入される酸素ストリッピング部を備え、酸素ストリッピング部は、被処理水を散水する散水手段と、酸素ストリッピングガスを、散水手段によって撒かれた被処理水に向流接触させるために放出する散気手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る水処理装置では、酸素ストリッピング部内に導入された被処理水は、散水手段によって撒かれ、分散しながら自然流下する。自然流下する被処理水には、散気手段から放出された酸素ストリッピングガスが向流接触する。すると、被処理水中の溶存酸素は、酸素ストリッピングガス中に取り込まれ、被処理水中から除去される。本発明では、分散して自然流下する被処理水に酸素ストリッピングガスを向流接触させて被処理水中の溶存酸素を除去できるので、少ないエネルギー消費量で溶存酸素を効率良く除去できる。
【0008】
さらに、散水手段は散気手段の鉛直上側に配置され、酸素ストリッピング部は、散水手段と散気手段との間に配置されると共に、散水手段によって撒かれた被処理水に接触して被処理水の落下速度を低下させる気液接触部を更に有すると好適である。散水手段から落下する処理水は気液接触部で落下速度を抑えられ、酸素ストリッピングガスに向流接触している時間が長くなって溶存酸素の除去効率が向上する。
【0009】
さらに、酸素ストリッピング部から流出した処理水を貯留槽に送出する送出手段と、貯留槽内の処理水を酸素ストリッピング部に返送する返送手段と、を更に備えると好適である。酸素ストリッピング部から流出した処理水は既に溶存酸素濃度が低下している。その処理水を蓄えている貯留槽から返送手段によって酸素ストリッピング部内に返送することにより、処理水中の溶存酸素濃度を確実に低減でき、溶存酸素の除去効率が向上する。
【0010】
さらに、酸素ストリッピング部は、酸素ストリッピングガスに被処理水が向流接触することで生成される処理水を蓄える滞留部と、滞留部に接続されると共に、滞留部内の処理水を排出する排出管と、滞留部内の処理水の水位を測定する水位測定手段と、水位測定手段によって測定された水位に基づいて、排出管から排出される処理水の排出量を調整する調整手段と、を更に有すると好適である。滞留部内の水位が低い場合には、処理水と一緒に酸素ストリッピング部内のガスも排出管から吸い出される可能性がある。すると、滞留部内の排出管近傍が減圧状態になり、例えば、ガス抜き部から空気(酸素含有気体)が逆流してくる虞がある。しかしながら、本発明によれば、滞留部内の処理水の水位が所定の水位を保つように排出管からの処理水の排出量を調整することで、処理水と一緒にガスが随伴されるのを防止でき、例えば、ガス抜き部からの空気(酸素含有気体)の逆流を防止できる。その結果として、溶存酸素除去効率の低下を防止できる。
【0011】
さらに、返送手段によって酸素ストリッピング部内に返送された処理水に酸素含有ガスを供給するガス供給手段と、酸素ストリッピング部内の処理水を排出する排出手段と、を更に備えると好適である。貯留槽内の処理水は溶存酸素濃度が低下している。この処理水を排出する際には、ガス供給手段によって酸素含有ガスを供給することで処理水の溶存酸素濃度を上昇させることができる。その結果として、溶存酸素濃度の低い処理水をそのまま排出しなくても済み、周囲環境への影響を少なくできる。
【0012】
さらに、散気手段は、酸素ストリッピングガスの移送管と、移送管に形成された酸素ストリッピングガスの噴射口と、を有し、噴射口は、散水手段に対面する側とは逆になる移送管の背面側に形成されていると好適である。散水手段によって撒かれた処理水が直接に噴射口に入り込んでしまうことを防止でき、処理水中に含まれる塵芥などによる目詰まりを防止できて、溶存酸素除去効率の低下を抑制できる。
【0013】
さらに、酸素ストリッピング部は、酸素ストリッピングガスに被処理水が向流接触することで生成される処理水を蓄える滞留部を更に有し、散気手段は、滞留部内に配置されると共に、酸素ストリッピングガスを移送する移送管と、移送管に形成されると共に、滞留部内の処理水中に酸素ストリッピングガスを噴射する噴射口と、を有すると好適である。滞留部内の処理水中で酸素ストリッピングガスを噴射することで、酸素ストリッピングガスは気泡となって上昇する。その結果として、酸素ストリッピングガスを均一に分散させることができる。
【0014】
特に、滞留部内の処理水中に酸素ストリッピングガスを噴射する噴射口は、移送管の下面側に形成されていると好適である。このような構成により、噴射口からの酸素ストリッピングガスの噴射を停止しても、処理水が逆流しない。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る水処理装置によれば、被処理水中に溶存する酸素の除去効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る水処理装置の好適な実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係るバラスト水処理装置1を示すブロック図である。原油タンカーなどの船舶は、原油を搭載するための貨油タンク3と貨油タンク3を囲むように設けられたバラストタンク(貯留槽)5とを船体内に備えている。船舶は、貨油タンク3が空になった状態での浮力を調整するために、海水を汲み上げ、その海水をバラスト水としてバラストタンク5内に貯留する。
【0018】
船舶の甲板6上には、バラスト水の溶存酸素(「DO」ともいう)を低減するストリッピング塔(酸素ストリッピング部)7が設けられている。ストリッピング塔7には、バラスト水としての海水を汲み上げてストリッピング塔7に導入する導入ライン9が接続されている。導入ライン9上には、導入制御弁9aと、ポンプ9bとが設けられている。
【0019】
ストリッピング塔7には、導入ライン9によって導入されたバラスト水を散水する散水装置(散水手段)11と、散水装置11によって撒かれるバラスト水に対して酸素ストリッピングガスを向流接触させるために、酸素ストリッピングガスを放出する散気装置(散気手段)13と、が設けられている。散気装置13はストリッピング塔7の底部に配置され、散水装置11は、散気装置13の鉛直上側に配置されている。また、散水装置11と散気装置13との間には、バラスト水と窒素ガスとを効率良く接触させるための気液接触部15が配置されている。なお、ストリッピング塔7内で酸素ストリッピングガスに接触する前のバラスト水は被処理水に相当し、接触後のバラスト水は処理水に相当する。
【0020】
図2に示すように、散水装置11は、ストリッピング塔7を横切って延在する送水管11aと、この送水管11aから横に突き出して下側を向くエルボ管11bと、エルボ管11bの下側に配置された散水タンク11cと、を有している。散水タンク11cには、バラスト水を気液接触部15に向けて出来るだけ均一に分散させるために、例えば、直径20(mm)程度の多数の穴が形成されている。バラスト水は、エルボ管11bから流出し、散水タンク11cに設けられた多数の穴から散らばるように落下する。散水タンク11cには、鉛直方向に沿って散水タンク11cを貫通する、例えば、直径50mm程度の排気用パイプ11dが設けられており、排気用パイプ11dはストリッピング塔7の天井に設けられたガス抜き部17(図1参照)に接続されている。
【0021】
図3及び図4に示すように、散気装置13は、窒素ガスを移送するための主管である散気管ヘッダー13aと、散気管ヘッダー13aから横に突き出し、水平方向に沿って延在する複数の散気管(移送管)13bと、を有する。散気管13bには、窒素ガスを出来るだけ均一に分散させるために、例えば、直径10mm程度の多数の噴射口13cが形成されている。噴射口13cは、鉛直上側に配置された散水装置11に対面する上面側ではなく、逆になる下面(背面)側に形成されており、さらに、噴射口13cの中心線Cは、バラスト水の落下方向である鉛直方向に沿うようになっている。
【0022】
図5に示すように、気液接触部15は、10mm程度のピッチ間隔で水平方向に沿って並べられた複数の波板15aによって形成される。複数の波板15aは、ストリッピング塔7内に固定されているパンチングプレート15b上に固定されている。さらに、複数の波板15aは、波形が縦になり、且つ波形の凹凸が重なるように並べられている。複数の波板15aを上側から見ると、隣接する波板15a同士の隙間は閉じているように見える。その結果として、自然落下するバラスト水は、波板15a同士の隙間を通過する際に波板15aに接触し、波板15aの表面に薄い液膜を形成しながら流れ落ちる。気液接触部15の1(m)当りの表面積は、例えば、200(m)程度になる。バラスト水は、気液接触部15の波板15aに接触し、波板15aの表面に液膜を形成しながら流れ落ちることで落下速度が低下し、窒素ガスとの接触時間が増える。さらに、気液接触部15の単位体積当りの表面積が増加するので、その分、バラスト水と窒素ガスとの接触効率が向上する。
【0023】
図1に示すように、散気装置13の噴射口13cから噴射された窒素ガスは、ガス抜き部17に向けて上昇し、その途中で波板15a同士の隙間を通過する。逆に、散水装置11によって撒かれたバラスト水は、波板15aの表面に沿って流れ落ち、上昇してくる窒素ガスに向流接触する。すると、バラスト水中の溶存酸素は、ヘンリーの法則に従って窒素ガス中に移行し、バラスト水中の溶存酸素濃度は低下する。窒素ガス中に移行した酸素は、ストリッピング塔7内を上昇し、窒素ガスと一緒にガス抜き部17から排出される。
【0024】
ストリッピング塔7の底部には、散水装置11から落下したバラスト水を一時的に滞留させる受けタンク(滞留部)7aが設けられている。散気装置13の散気管ヘッダー13aと散気管(移送管)13bとは、受けタンク7a内に配置されており、受けタンク7a内にバラスト水が溜ったときに、水没するように構成されている。散気管13bの噴射口13cから噴射された窒素ガスは、バラスト水中に噴射され、気泡となって上昇する。
【0025】
受けタンク7aには、水位を測定するための液面計(水位測定手段)19が設けられている。また、受けタンク7aの底には、バラスト水を排出する排出管21が接続され、排出管21には、液面計19によって測定された水位に基づいて排出量を調整する調節する調節弁(調整手段)23が設けられている。
【0026】
排出管21は、調節弁23よりも下流側で分岐しており、一方が海上に向けて開放された排出ライン(排出手段)25になり、他方がバラストタンク5に接続された送出ライン(送出手段)27になっている。排出ライン25には、管路を開閉する排出制御弁25aが設けられている。
【0027】
送出ライン27は、自然流下によってバラスト水をバラストタンク5まで送り出せるよう敷設されている。送出ライン27上には、送出制御弁27aが設けられている。さらに、送出ライン27の下流端部には、バラスト水の吐出管27bが設けられている。吐出管27bは、バラストタンク5の底面に沿うように延在し、吐出管27bの下面側には、バラスト水を吹き出す多数の吐出口27cが形成されている。
【0028】
バラストタンク5には、導入ライン9に接続された返送ライン29が接続されている。返送ライン29上には、返送制御弁29aが設けられている。導入ライン9上の導入制御弁9aを閉じ、その状態でポンプ9bを駆動すると、バラストタンク5内のバラスト水は、返送ライン29及び導入ライン9を通ってストリッピング塔7に導入される。バラスト水は、返送ライン29及び導入ライン9を通って循環することにより、ストリッピング塔7で繰り返し溶存酸素の除去が行われる。バラスト水を循環させる場合においては、返送ライン29及び導入ライン9は返送手段に相当する。
【0029】
ストリッピング塔7には、ガス供給ライン31が接続されている。ガス供給ライン31の上流側は分岐しており、一方には、第1のガスとして窒素ガスをストリッピング塔7内に供給する窒素ガス発生装置33が設けられ、他方には、第2のガスとして空気(酸素含有ガス)を供給する空気送風ファン35が設けられている。窒素ガス発生装置33側の分岐ラインには第1ガス制御弁31aが設けられ、空気送風ファン35側の分岐ラインには第2ガス制御弁31bが設けられている。また、ガス供給ライン31の下流側も分岐しており、一方は散気装置13に接続され、他方は排出管21に接続されている。散気装置13側の分岐ラインには第3ガス制御弁31cが設けられ、排出管21側の分岐ラインには第4ガス制御弁31dが設けられている。
【0030】
窒素ガス発生装置33は、例えば、圧力スイング吸着方式(PSA)を利用して、空気から高純度の窒素ガスを分離生成する装置である。窒素ガス発生装置33によってストリッピング塔7内に吹き込まれる窒素ガスの吹き込み量は、単位時間当りにストリッピング塔7内に導入される海水中に溶存する酸素量の3倍から5倍程度であると好ましい。3倍未満であると、溶存酸素の除去が不十分になり易く、逆に5倍を超えると窒素ガス発生装置33の負荷増に見合うだけの処理効率の向上を見込めないからである。
【0031】
次にバラスト水処理装置1の動作を、バラスト水の導入時、バラスト水の循環時、バラスト水の排出時に分けて説明する。
【0032】
(バラスト水導入時)
バラスト水の導入時には、バラスト水処理装置1は、ポンプ9bを駆動させ、甲板6上のストリッピング塔7まで海水を汲み上げる。この場合、送出制御弁27aは開き、排出制御弁25aは閉じている。ストリッピング塔7まで海水が汲み上げられると、第1ガス制御弁31a、第3ガス制御弁31c、第4ガス制御弁31dを開き、窒素ガス発生装置33を駆動させる。窒素ガス発生装置33から送り出された窒素ガスは、ストリッピング塔7内の散気装置13から下方に向けて噴射される。その後、窒素ガスは上昇し、散水装置11によって撒かれたバラスト水に向流接触してバラスト水中の溶存酸素を除去する。
【0033】
窒素ガスに向流接触した後のバラスト水は、受けタンク7a内で一時的に滞留する。散気装置13の散気管13bは、受けタンク7a内に配置されているため、噴射口13cから噴射された窒素ガスは、バラスト水中に噴射される。その結果として、窒素ガスは気泡となって上昇し、均一に分散し易くなる。さらに、噴射口13cは、散気管13bの下面側に形成されているため、落下するバラスト水が直接に噴射口13cに入り込んでしまうことを防止でき、バラスト水中に含まれる塵芥などによる目詰まりを防止できて、溶存酸素除去効率の低下を抑制できる。また、バラスト水中に水没した後は、目詰まりの防止に加えて、窒素ガスの噴射を停止しても、噴射口13cからのバラスト水の逆流を抑制できる。
【0034】
また、受けタンク7a内の水位が低い状態で排出管21から処理されたバラスト水を吸い出すと、図6(a)に示すように、バラスト水と一緒に窒素ガスも排出管21から吸い出されてしまう可能性がある。すると、排出管21近傍が減圧状態になり、ガス抜き部17(図1参照)から空気(酸素含有気体)が逆流してくる虞がある。そこで、図6(b)に示すように、バラスト水に随伴して窒素ガスが排出されないような所定水位、例えば、散気装置13が水没する所定水位を保つように弁開度を調整してバラスト水の排出量を調整する。このように、バラスト水の排出量を調整することにより、ガス抜き部17(図1参照)からの空気の逆流を防止でき、溶存酸素除去効率の低下を防止できる。なお、散気装置13を水没させた場合には、窒素ガスはバラスト水中に噴射される。その後、窒素ガスはバラスト水中を浮上し、上方の気相空間に放出されてそのまま上昇する。
【0035】
図1に示すように、排出管21を自然流下するバラスト水には、ガス供給ライン31から少量の窒素ガスが注入される。この窒素ガスは、バラスト水が送出ライン27を流下する際に攪拌、混合され、微細な気泡となる。窒素ガスの微細気泡は、バラスト水と一緒にバラストタンク5内に吹き出される。すると、バラスト水中の溶存酸素は、ヘンリーの法則にしたがって、微細気泡に移行し、微細気泡と一緒になってバラスト水中を上昇する。バラストタンク5の天井部には、脱気部5aが設けられており、酸素ガスは、窒素ガスと一緒に脱気部5aから排出される。その結果として、バラスト水に溶存する酸素の除去効率が向上する。さらに、バラストタンク5内の空気から、酸素がバラスト水中に溶解してしまうことを抑制できる。
【0036】
(バラスト水循環時)
バラストタンク5の内部には図示しない溶存酸素濃度計が設けられている。バラスト水処理装置1は、溶存酸素濃度計の測定値が所定の基準値を超えると、返送制御弁29aを開く。その後、ポンプ9bを駆動し、バラストタンク5内のバラスト水をストリッピング塔7に返送する。バラストタンク5内に蓄えられたバラスト水を返送ライン29及び導入ライン9を介してストリッピング塔7に循環させることで、バラスト水中の溶存酸素濃度を確実に低減でき、溶存酸素の除去効率が向上する。さらに、航海中であっても、適宜にバラスト水の溶存酸素濃度を低減できる。
【0037】
(バラスト水排出時)
船舶が港に到着し、原油を積み込む際にはバラストタンク5内のバラスト水を海上に排出する。この場合、排出されるバラスト水は、バラスト水中の溶存酸素濃度を回復させるためにストリッピング塔7に送られ、第2のガス(空気)に向流接触される。すなわち、バラスト水処理装置1は、導入制御弁9aを閉じ、排出制御弁25aを開く。さらに、返送制御弁29aを開いてポンプ9bを駆動し、バラストタンク5内のバラスト水をストリッピング塔7に送り込む。さらに、第1ガス制御弁31a及び第4ガス制御弁31dを閉じ、第2ガス制御弁31b及び第3ガス制御弁31cを開き、空気送風ファン35を駆動させる。すると、ガス供給ライン31を流動する空気(酸素含有ガス)が、散気装置13を介してストリッピング塔7内に供給され、バラスト水と空気とが向流接触して効率良くバラスト水の溶存酸素濃度を回復させることができる。
【0038】
バラスト水の溶存酸素濃度を回復させた後に海上に排出することで、周囲環境への影響を少なくできる。なお、溶存酸素濃度の低いバラスト水をそのまま海上に排出しても影響は少ないと判断できる場合には、バラストタンク5から海に直接にバラスト水を排出するようにしてもよい。
【0039】
以上のバラスト水処理装置1によれば、分散して自然流下するバラスト水に窒素ガスを向流接触させてバラスト水中の溶存酸素を除去できる。したがって、バラストタンク5に直接窒素ガスを吹き込む装置やベンチュリインジェクタなどを利用してバラスト水中に窒素ガスの微細気泡を生成する装置に比べ、少ないエネルギー消費量で溶存酸素を効率的に除去できる。特に、ベンチュリインジェクタなどを利用した従来の装置では、バラスト水全体に窒素ガスの微細気泡を行き渡らせるための動力が非常に大きくなる。これに対して、上記のバラスト水処理装置1では、海水を甲板6上のストリッピング塔7まで海水を汲み上げるだけの非常に少ない動力で足りる。以上より、バラスト水処理装置1によれば、バラスト水中に棲息する生物を効果的に死滅させることができ、さらに、バラストタンク5の防食効果を高めることができる。
【0040】
さらに、ベンチュリインジェクタなどを利用した装置では、バラストタンク5内の水深が浅いと窒素ガスの攪拌、混合が不十分となり、バラスト水の導入初期において溶存酸素の除去効率が低下してしまう。一方で、バラスト水処理装置1では、バラスト水の導入初期における溶存酸素の除去効率の低下は無く、その後も効率的に溶存酸素を除去できる。
【0041】
さらに、バラスト水処理装置1では、散水装置11は散気装置13の鉛直上側に配置され、気液接触部15は散水装置11と散気装置13との間に配置されている。その結果として、散水手段によって撒かれたバラスト水は、気液接触部15に接触して落下速度を抑えられ、窒素ガスに向流接触している時間が長くなって溶存酸素の除去効率が向上する。
【0042】
さらに、ストリッピング塔7は、船舶上部の甲板6上に設けられているため、甲板6下に設ける場合に比べて、設置スペースの確保が容易である。また、ストリッピング塔7からバラストタンク5へのバラスト水の移送を落差による自然流下で行うため、移送ポンプが不要である。なお、ストリッピング塔7の設置場所は甲板6上に限定されず、甲板6下であってもよいが、甲板6上にすると、上述の通り、設置スペースの確保及び装置全体の製造コストの面で有効である。
【0043】
さらに、バラスト水処理装置1では、ストリッピング塔7が、バラスト水の導入時におけるバラスト水中の溶存酸素濃度の低下を図るという機能と、バラスト水の排出時における溶存酸素濃度の回復を図るという機能との両方を兼ねている。そのため、装置全体のコンパクト化を図ることができると共に、効率良く溶存酸素濃度の回復を図れて好適であるが、この形態に限定されるわけではなく、溶存酸素濃度を回復させるための装置をストリッピング塔7とは別に設けても良い。
【0044】
次に、上記のバラスト水処理装置1と同様の構成を備えた試験装置を利用して行った試験の結果を示す。この試験装置では、気液接触部としては、10(mm)程度のピッチ間隔で配置した波板を充填材として使用した。気液接触部の高さは、2000(mm)である。また、充填材の単位体積当りの表面積は200(m/m)になるように形成した。また、酸素ストリッピング塔の断面積は2.8(m)であり、気液接触部へのバラスト水負荷は36(m/m・時)である。バラストタンクとしては、幅3000(mm)、長さ3500(mm)、高さ10000(mm)のタンクを使用した。酸素ストリッピング塔はバラストタンクの上部に設置した。また、酸素ストリッピングガスとしては、空気からPSA方式を利用して製造した窒素ガスを使用した。この窒素ガスに含まれる酸素ガスは0.1%以下であった。また、使用した海水の温度は15(°C)であり、溶存酸素濃度は8(mg/l)であった。
【0045】
第1の試験では、100(m/時)の海水を導入して処理を行った。この試験では、窒素ガスを3(Nm/時)の流量で酸素ストリッピング塔に吹き込んだ。また、酸素ストリッピング塔とバラストタンクとを接続する配管上では、バラスト水に対して1(Nm/時)の流量で窒素ガスを注入した。第1の試験の終了時にバラスト水の溶存酸素濃度を測定したところ、0.5(mg/l)であった。
【0046】
同様の試験装置を用いて行った第2の試験では、50(m/時)の海水を導入して処理を行った。試験の終了時にバラスト水の溶存酸素濃度を測定したところ、0.2(mg/l)であった。
【0047】
次に、溶存酸素濃度が低下したバラスト水に空気を供給し、バラスト水中の溶存酸素濃度を増加させるための試験を行った。この試験に用いたバラスト水の溶存酸素濃度は、0.3(mg/l)であり、気液接触部については、上記の試験装置のものをそのまま利用した。吹き込んだ空気量は10(Nm/時)である。この試験の結果、空気を吹き込んだ後のバラスト排水の平均溶存酸素濃度は7.5(mg/l)になり、周囲環境への影響を少なくできる程度にまで溶存酸素濃度を回復させることができることを確認した。
【0048】
以上、本発明に係る水処理装置に関して、船舶に搭載されるバラスト水処理装置を例にして説明した。しかしながら、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、酸素ストリッピング部を港に設置し、この酸素ストリッピング部で処理水の溶存酸素濃度を低減させるように構成した水処理装置にしてもよい。
【0049】
また、気液接触部は、平板に半球面状の凹凸を複数形成し、その平板を傾けた状態で横方向に沿って複数並べたような構成にすることも可能である。また、気液接触部は、くの字状に屈曲した複数の板や円弧状に湾曲した複数の板を横方向に沿って所定のピッチ間隔で並べたような構成や、複数の多孔板を縦方向に沿って所定のピッチ間隔で並べたような構成にすることも可能である。
【0050】
また、酸素ストリッピングガスは、窒素ガスの他に、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウムなどであってもよい。酸素ストリッピングガスは、経済性や取り扱いの容易生などを勘案して適宜に選択できる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係るバラスト水処理装置のブロック図である。
【図2】本実施形態に係る散水装置の断面図である。
【図3】本実施形態に係る散気装置の平面図である。
【図4】図3のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】本実施形態に係る気液接触部の斜視図である。
【図6】酸素ストリッピング塔の受けタンクを示し、(a)は液面計及び調節弁を備えていない場合を示す図であり、(b)は液面計及び調節弁を備えている場合を示す図である。
【符号の説明】
【0052】
1…バラスト水処理装置(水処理装置)、5…バラストタンク(貯留槽)、7…ストリッピング塔(酸素ストリッピング部)、7a…受けタンク(滞留部)、9…導入ライン、11…散水装置(散水手段)、13…散気装置(散気手段)、13b…散気管(移送管)、13c…噴射口、15…気液接触部、17…ガス抜き部、19…液面計(水位測定手段)、21…排出管、23…調節弁(調整手段)、25…排出ライン(排出手段)、29…返送ライン、31…ガス供給ライン(ガス供給手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水中に溶存する酸素を除去して処理水を生成する水処理装置において、
前記被処理水及び酸素ストリッピングガスが導入される酸素ストリッピング部を備え、
前記酸素ストリッピング部は、
前記被処理水を散水する散水手段と、
前記酸素ストリッピングガスを、前記散水手段によって撒かれた前記被処理水に向流接触させる散気手段と、を有することを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
前記散水手段は前記散気手段の鉛直上側に配置され、
前記酸素ストリッピング部は、前記散水手段と前記散気手段との間に配置されると共に、前記散水手段によって撒かれた前記被処理水に接触して前記被処理水の落下速度を低下させる気液接触部を更に有することを特徴とする請求項1記載の水処理装置。
【請求項3】
前記酸素ストリッピング部から流出した前記処理水を貯留槽に送出する送出手段と、
前記貯留槽内の前記処理水を前記酸素ストリッピング部に返送する返送手段と、
を更に備えたことを特徴とする請求項1または2記載の水処理装置。
【請求項4】
前記酸素ストリッピング部は、
前記酸素ストリッピングガスに前記被処理水が向流接触することで生成される前記処理水を蓄える滞留部と、
前記滞留部に接続されると共に、前記滞留部内の前記処理水を排出する排出管と、
前記滞留部内の前記処理水の水位を測定する水位測定手段と、
前記水位測定手段によって測定された水位に基づいて、前記排出管から排出される前記処理水の排出量を調整する調整手段と、
を更に有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水処理装置。
【請求項5】
前記返送手段によって前記酸素ストリッピング部内に返送された前記処理水に酸素含有ガスを供給するガス供給手段と、
前記酸素ストリッピング部内の前記処理水を排出する排出手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項3記載の水処理装置。
【請求項6】
前記散気手段は、前記酸素ストリッピングガスの移送管と、前記移送管に形成された前記酸素ストリッピングガスの噴射口と、を有し、
前記噴射口は、前記散水手段に対面する側とは逆になる前記移送管の背面側に形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の水処理装置。
【請求項7】
前記酸素ストリッピング部は、
前記酸素ストリッピングガスに前記被処理水が向流接触することで生成される前記処理水を蓄える滞留部を更に有し、
前記散気手段は、前記滞留部内に配置されると共に、前記酸素ストリッピングガスを移送する移送管と、前記移送管に形成されると共に、前記滞留部内の前記処理水中に前記酸素ストリッピングガスを噴射する噴射口と、を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水処理装置。
【請求項8】
前記噴射口は、前記移送管の下面側に形成されていることを特徴とする請求項7記載の水処理装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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