説明

水分交換用中空糸膜モジュール

【課題】中空糸膜内に供給される乾燥した酸化剤ガスを充分に加湿することができ、充填された中空糸膜の偏りを抑制して、湿潤したオフガスを均一に流通させることができる水分交換用中空糸膜モジュールを提供する。
【解決手段】筒状ケースと、ケース内の空間に軸方向に延在させて充填された複数の中空糸膜と、ケース両端において中空糸膜を固定して空間を封止したシール部と、ケースの一側面に設けられた導入口と、導入口が設けられた側面の対向面に設けられた排出口と、中空糸膜の一端側から中空糸膜の中空内部を経由して他端側に至る第1流体経路と、導入口から空間内でありかつ中空糸膜の外側を経由して排出口に至る第2流体経路と、空間内で軸方向に延在し、第2流体経路を横切る面を有する複数の多孔部材と、空間内で軸方向に延在し、多孔部材と接してこれを支持し、多孔部材よりも高い剛性の支持部材とを備える水分交換用中空糸膜モジュール。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば燃料電池システムに用いて好適な水分交換用中空糸膜モジュールに係り、特に、被加湿ガスに対する加湿効率を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池としては、平板状の膜電極構造体(MEA:Membrane Electrode Assembly)の両側にセパレータが積層された積層体が単位セルとされ、複数の単位セルが例えば数百層積層されて燃料電池スタックとして構成された燃料電池が知られている。膜電極構造体は、正極(空気極、カソード)および負極(燃料極、アノード)を構成する一対の電極の間にイオン交換樹脂等からなる電解質膜が挟まれた三層構造である。このような燃料電池によると、例えば、燃料極側のガス拡散電極に面するガス流路に燃料ガスを流し、空気極側のガス拡散電極に面するガス流路に酸化剤ガスを流すと電気化学反応が起こり、発電が生じる。
【0003】
ここで、上記のような電気化学反応を安定させるためには、膜電極構造体が湿潤していることが望ましい。たとえば、特許文献1には、燃料ガス流路内で燃料ガスに発電生成水が水蒸気となって加わることにより、水蒸気分圧が上昇した使役後のアノード排出ガスを加湿ガスとし、未使役の燃料ガスを加湿する燃料電池システムが開示されている。
【0004】
ところで、近年、燃料電池の高性能化に伴って膜電極構造体は薄くなる傾向にあり、電気化学反応で生成され空気極側に出てくる水が燃料極側へ移動するという現象が生じるようになってきた。このため、燃料ガスを加湿すると燃料極の湿潤状態が過剰となり、燃料と燃料極との接触が妨げられるフラッディングと呼ばれる現象が生じる。一方、空気極側は、湿潤の程度が過剰でも電気化学反応にはさほど差し障りがない場合のあることが知られている。したがって、最近では、燃料ガスを加湿するよりも酸化剤ガスを加湿する技術が重要視されてきている。
【0005】
酸化剤ガスを加湿する従来の自動車用燃料電池システムとして、たとえば、特許文献2には、水蒸気透過膜で区切られた加湿器の一方の空間に乾燥した未使役の酸化剤ガスを供給し、他方の空間に湿潤した使役後の酸化剤ガスの排気(オフガス)を供給して、水蒸気透過膜を介してオフガスから酸化剤ガスへ水分を移動させる技術が開示されている。
【0006】
しかしながら、上記技術では、略平面状の水蒸気透過膜を介してその両側からガスを接触させて水分移動を行うため、接触領域が小さく、連続的に供給される酸化剤ガスに対して水分移動が間に合わず、加湿効率が十分ではないという問題があった。
【0007】
このような問題に対して、たとえば、特許文献3〜6には、加湿器内に中空糸膜を充填して、未使役の酸化剤ガスを中空糸膜の中空内部に流通させるともに使役後のオフガスを中空糸膜外壁に接触するように流通させて、中空糸膜を介して水分移動を行う技術が開示されている。これらの技術によれば、加湿器内に微細な中空糸膜が多数充填されているので、水分移動を行うための接触領域は著しく増加しており、特許文献1に記載の技術と比較して加湿効率は向上している。
【0008】
しかしながら、中空糸膜は、水分移動の際の吸湿によって膨潤するため、加湿器内に充填する際にはその寸法変化を考慮して、中空糸膜間に予め空隙を設けて充填しなければならず、密に充填することができない。このように、中空糸膜間には空隙があり、また、中空糸膜は弾性的に変形可能であるため、加湿器内にオフガスを導入すると、ガス流速が最も大きい導入部分においてオフガスが中空糸膜を押し退けて、隙間が形成されてしまう。オフガスは、この隙間をバイパス路として流れてしまうため、加湿器内を均一に流通させることができず、加湿効率が低下するという問題があった。
【0009】
このような問題に対して、特許文献4に記載の技術では、数本の中空糸膜を剛性棒と共に束ねて固定したものを多数製造し、これを加湿器に充填することで、中空糸膜の移動を抑制している。また、特許文献5および6に記載の技術では、加湿器内に仕切り板を設けることによって、オフガスの流路を導き、また、中空糸膜の特定の方向への偏りを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実開昭61−3671号公報
【特許文献2】特開平6−132038号公報
【特許文献3】特願2002−147802号公報
【特許文献4】特願2004−311287号公報
【特許文献5】特願2005−40675号公報
【特許文献6】特願2007−323982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献4に記載の技術では、中空糸膜を剛性棒と共に束ねたものを多数製造する必要があるため、工程数が増大して好ましくない。また、特許文献5および6に記載の技術では、従来よりは中空糸膜の移動は抑制することができるものの、仕切り板で区切られた領域内での偏りまでも抑制することは困難であり、また、ガスを流通させる必要上、仕切り板を完全に閉じた構造とすることはできず、その開口部分における偏りを抑制することはできない。
【0012】
したがって、本発明は、上記従来技術の課題を解決するためになされたもので、中空糸膜内に供給される乾燥した燃料電池未使役のガスを充分に加湿することができるのは勿論のこと、加湿器内に充填された中空糸膜の偏りを抑制して、湿潤した燃料電池使役後のオフガスを加湿器内で均一に流通させることができる水分交換用中空糸膜モジュールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水分交換用中空糸膜モジュールは、筒状ケースと、筒状ケース内の空間に軸方向に延在させて充填された複数の中空糸膜と、筒状ケースの両端において複数の中空糸膜を固定して上記空間を封止したシール部と、筒状ケースの一側面に設けられた導入口と、導入口が設けられた側面の対向面に設けられた排出口と、中空糸膜の一端側から中空糸膜の中空内部を経由して他端側に至る第1流体経路と、導入口から上記空間内でありかつ中空糸膜の外側を経由して排出口に至る第2流体経路と、上記空間内で軸方向に延在し、かつ第2流体経路を横切る面を有する複数の多孔部材と、上記空間内で軸方向に延在し、多孔部材と接してこれを支持し、かつ多孔部材よりも高い剛性を有する支持部材とを備えることを特徴としている。
【0014】
上記構成の水分交換用中空糸膜モジュールにあっては、中空糸膜内を経由する第1流体経路に例えば乾燥した未使役のガス(酸化剤ガスあるいは燃料ガス)を流通させ、中空糸膜外を経由する第2流体経路に例えば湿潤した使役後のオフガスを流通させてオフガスの水分を未使役のガスに移動させるにあたり、中空糸膜が充填されている空間内において複数の多孔部材が配置され、かつ多孔部材と接してこれを支持する支持部材が配置されているので、中空糸膜は、支持部材で支持される多孔部材によって拘束される。特に、多孔部材は、第2流体経路を横切る面を有しているので、第2流体経路のガスに対して、中空糸膜の移動が抑制される。これにより、中空糸膜と筒状ケースとの隙間が形成されないので、オフガスは中空糸膜モジュール内を均一に流通し、効率良く水分交換を行うことができる。
【0015】
支持部材は、棒状に形成され、複数の多孔部材は、筒状に形成されて、前記軸方向に直交する面の断面視で複数の中空糸膜の少なくとも一部を囲繞し、複数の多孔部材のうち少なくとも一つの多孔部材は、断面視で支持部材を囲繞してなることが好ましい。多孔部材は、中空糸膜を筒状に囲んでいるので、その領域内で中空糸膜の移動が抑制される。さらに多孔部材は、支持部材をも囲んでいるので、その多孔部材の移動が抑制されることにより、囲んでいる中空糸膜の移動をより強固に抑制する。
【0016】
上記のように多孔部材が筒状である場合、支持部材のうち少なくとも一つは、全ての中空糸膜よりも第2流体経路上流に配置されていることが好ましい。第2流体経路上流側は、ガスの導入口側であるためにガス流速が高く、中空糸膜の偏りが最も生じ易いので、このような上流側で中空糸膜の前に支持部材が設けられていると、支持部材による多孔部材の固定がより強固になり、ひいては全ての中空糸膜が、支持され強く固定された多孔部材に支えられるので、その移動をより強固に抑制する。
【0017】
一方、多孔部材が筒状に閉じておらず平面(または略平面である曲面)を形成している場合は、支持部材は、棒状に形成され、複数の多孔部材は、その2つ以上のそれぞれの辺に沿って支持部材が固定されていることが好ましい。このような態様によれば、略平面状の多孔部材の2辺以上が支持部材によって固定されているので、ガス圧力によっても多孔部材は変形・移動することなく、多孔部材は、中空糸膜を拘束してその移動を抑制する。
【0018】
支持部材のうち少なくとも一つは、ケースと一体に形成されていることが好ましい。このような態様によれば、支持部材はケースと一体化されることで剛性がより向上し、多孔部材の変形・移動を確実に抑制し、ひいては中空糸膜の移動をより強固に抑制する。
【0019】
中空糸膜の乾燥状態では、中空糸膜どうしの間および中空糸膜と多孔部材との間に形成される空隙部を有し、中空糸膜の膨潤状態では、これらが互いに接触することで空隙部を減少させることが好ましい。このような態様によれば、水分交換用中空糸膜モジュールの運転時にあって中空糸膜と多孔部材を互いに接触させることができ、ケースに沿った隙間の形成が確実に抑制される。
【0020】
中空糸膜を拘束する多孔部材は、少なくともその一端をシール部で固定されていることが好ましい。このような態様によれば、ガスの流通に際して力が加わっても多孔部材の移動が抑制されるため、多孔部材と中空糸膜の摩擦による中空糸膜の損傷が抑制される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、モジュール内に充填された中空糸膜が多孔部材と筒状ケースとの間で保持されて拘束されているので、オフガスの流通による中空糸膜の偏りを抑制し、モジュール内のオフガスを均一に流通させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】水分交換用中空糸膜モジュールを示す透視斜視図である。
【図2】図1の水分交換用中空糸膜モジュールを示す側方断面図である。
【図3】従来の水分交換用中空糸膜モジュールにおける中空糸膜の偏りを示す側方断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る水分交換用中空糸膜モジュールにおける多孔部材の配置を示す模式断面図であり、(a)は側方断面図、(b)は(a)におけるA−A線断面図である。
【図5】本発明の水分交換用中空糸膜モジュールにおける多孔部材の配置を示す模式断面図である。
【図6】本発明の水分交換用中空糸膜モジュールにおける多孔部材の配置を示す模式断面図である。
【図7】本発明の水分交換用中空糸膜モジュールにおける多孔部材の配置を示す模式断面図である。
【図8】本発明の多孔部材の例を示す平面図である。
【図9】本発明の多孔部材と支持部材との接合例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。まず、実施形態の説明に先立ち、本発明を適用することができる水分交換用中空糸膜モジュールの一般的な構成について、図1および2を参照して説明する。図1および2に示すように、水分交換用中空糸膜モジュールMは、筒状ケース10を有し、この筒状ケース10内の空間(以下、充填空間と略称する場合がある)には、複数の中空糸膜11が、筒状ケース10の軸方向(筒状ケースの延在する方向)と平行に充填されている。複数の中空糸膜11は、吸湿に際して膨張するため、その寸法変化を吸収するために、所定の間隔を介して充填されている。
【0024】
中空糸膜11の両端は、シール部14によって筒状ケース10に固定されている。図1では、中空糸膜11は部分的に省略して図示しているが、中空糸膜11は両端のシール部14間に延在している。シール部14は、上記充填空間における中空糸膜11の外側を合成樹脂等で埋設したものであり、充填空間のみを外部に対して封止するものである。したがって、中空糸膜11の中空内部は封止されておらず、中空糸膜11の中空内部は両端とも外部に連通している。本実施形態では、中空糸膜11の一端側(矢印20)から中空糸膜の中空内部を経由して他端側(矢印21)に至る経路を第1流体経路と定義する。
【0025】
筒状ケース10の一側面(例えば図においては底面)には、ガスの導入口12が設けられており、導入口12の下流側であってかつ対向する面(例えば図においては頂面)には、ガスの排出口13が設けられている。本実施形態では、導入口12(矢印22)から充填空間内でありかつ中空糸膜11の外側を経由して排出口13(矢印23)に至る経路を第2流体経路と定義する。
【0026】
上記の水分交換用中空糸膜モジュールMにおいては、例えば、乾燥した燃料電池未使役のガス20を第1流体経路に導入するとともに、このガスを燃料電池で使役した後の排気ガスであるオフガス22を第2流体経路に導入するので、乾燥した未使役のガス20が中空糸膜11内を通過すると同時に、湿潤した使役後のオフガス22は充填空間内の中空糸膜11の外側を通過する。中空糸膜11は、内外のガス交換は阻止するが、その両面に存在する微細な孔を通じて水分のみを移動させることができるため、高湿潤側から低湿潤側への水分移動が行われる。このようにして、第1流体経路および第2流体経路に導入された乾燥した未使役のガス20および湿潤した使役後のオフガス22それぞれにおいては、水分が移動し、加湿された未使役のガス21および湿度が低下した使役後のオフガス23となって排出される。
【0027】
図3は、従来の水分交換用中空糸膜モジュールにおける問題点を説明するための図である。上述したように、中空糸膜11は、湿潤によって寸法変化するために、乾燥状態にあっては所定の間隔を以って充填空間内に固定されている。また、中空糸膜11は、弾性的に変形する性質を有している。そのため、図3に示すように、オフガス22が導入口12から導入されると、ガス流速が最も大きい導入口12側で圧力が高まり、オフガス22は中空糸膜11を押し退けて変形させ、筒状ケース10の底面に沿って隙間が生じてしまう。オフガスは、矢印24で示すようにこの隙間を経由して下流側(図において右側)へ一気に移動し、その後、排出口13へ向かって流通して排出されてしまう。このように、オフガスは上流側(図において左側)においては中空糸膜11の空隙を通過せず、下流側のみで水分移動が行われるため、中空糸膜11の利用率および加湿効率が低いという問題があった。
【0028】
第1実施形態
図4は、上述した従来の問題を解決することができる本発明の水分交換用中空糸膜モジュールの第1実施形態を示す図である。図4(a)は、中空糸膜11内を流れる第1流体経路に平行な向きで切断した断面図であり、(b)は、直交する向きで切断した断面図である。なお、図4の第1実施形態の水分交換用中空糸膜モジュールは、多孔部材30a〜30c以外の構成要素は図1および2と共通であるため、ここでは共通部分の説明および図示は省略し、第1実施形態特有の構成、作用および効果について説明する。また、以降の実施形態についても同様である。
【0029】
図4(a)および(b)に示すように、充填空間内には、複数の筒状の多孔部材30a〜30cが、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。また、中空糸膜11の第2流体経路の最上流側には、棒状の支持部材40が、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。多孔部材30aは、一部の中空糸膜および支持部材40を囲み、多孔部材30bは、多孔部材30aおよびさらに一部の中空糸膜を囲み、多孔部材30cは、多孔部材30およびさらに一部の中空糸膜を囲んでいる。
【0030】
多孔部材30a〜30cは、オフガスを十分に流通させることができる開口部を有し、オフガスのガス圧力を受けても変形しにくい剛性を有し、かつ長期の使用に耐え得るような耐食性を有する材料で構成されている。多孔部材30a〜30cは、例えばステンレス鋼等の金属やプラスチックからなるメッシュで構成してもよく、その他、開口部を多数打ち抜き形成した板状部材等とすることができる。
【0031】
支持部材40は、少なくとも上記の多孔部材40よりも剛性が高くなるよう構成されており、多孔部材と同様、長期の使用に耐え得るような耐食性を有する材料で構成されている。例えばステンレス鋼等の金属やプラスチックを選択し、中実の棒状に形成することができる。
【0032】
本発明におけるシール部14を形成する方法としては特に限定されず、任意の固定手段を用いることができる。本実施形態では、筒状ケース10の端部を立てた状態で充填空間に中空糸膜11、支持部材40、多孔部材30a〜30cを充填して、下端部を樹脂に浸漬して固定し、続いて上下を反転させて他端部も同様にして樹脂に浸漬して固定するポッティングを採用している。ポッティングの際、浸漬した樹脂は、中空糸膜11の内外を封止してしまうが、中空糸膜11の径よりも中空糸膜11どうしの間隔の方が小さいため、毛細管現象により樹脂の浸漬高さが異なり、中空糸膜11の外部と比較して内部の方が浅く封止される。このため、この部分を切断除去することにより、中空糸膜11内部はモジュール外界に連通させて、中空糸膜11外部のみに樹脂を残存させ、充填空間を封止することができる。
【0033】
本実施形態においては、中空糸膜11の湿潤による膨張率を予め把握しておく。そして膨張率が最大に達した際に中空糸膜11の移動を抑制するため、中空糸膜11どうしの間、および中空糸膜11と多孔部材30a〜30cの間が互いに接触して隙間無く密に充填されるよう、あるいは隙間が減って密度が高く充填されるようにそれぞれが配置されている。一方乾燥状態においては、これらの間に空隙部(隙間)をもって中空糸膜11と多孔部材30a〜30cが配置されている。
【0034】
本発明における中空糸膜11としては、公知の中空糸膜を選択することができ、具体的には、フェノールスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリトリフルオロスチレンスルホン酸、パーフルオロカーボンスルホン酸等の高分子イオン交換膜で構成されたものや、高分子樹脂系あるいはセラミック系等の中空糸膜が挙げられる。
【0035】
本実施形態によれば、導入口12からオフガスが充填空間内に導入される際に導入口12近傍の中空糸膜11がガス圧力を受けても、支持部材40に接触して固定されている多孔部材30aが最も導入口側の中空糸膜11を拘束しているので、導入口12側のケース面と多孔部材30aとの間の領域の中空糸膜11の移動が抑制される。加えて、多孔部材30b、30cがさらに排出口側で中空糸膜11を拘束しているので、多孔部材30aの外側であって多孔部材30bの内側の領域の中空糸膜11、および多孔部材30bの外側であって多孔部材30cの内側の領域の中空糸膜11の移動をも抑制することができる。これにより、筒状ケース10に沿って隙間が生じることが抑制されるので、オフガスは充填空間内において上流側から下流側へ向かって均一に流通する。これにより、中空糸膜11の利用率および加湿効率が向上する。
【0036】
特に、本実施形態では、予め中空糸膜11の膨張率を考慮した所定の空隙を以って中空糸膜11と多孔部材30a〜30cが配置されているので、水分交換用中空糸膜モジュールの運転時にあっては中空糸膜11と多孔部材30a〜30cを互いに接触させることができ、筒状ケース10に沿った隙間の形成が確実に抑制される。
【0037】
第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る水分交換用中空糸膜モジュールであって、図4(b)と同様、中空糸膜11内を流れる第1流体経路に直交する向きで切断した断面図である。図5に示すように、充填空間内には、内部が複数の領域に分割された筒状の多孔部材31が、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。また、中空糸膜11の第2流体経路の最上流側には、棒状の支持部材40が、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。多孔部材31は、中空糸膜11および支持部材40を囲んでいる。多孔部材31は、縫合や溶着等の手段で接続された別の多孔部材によって内部を分割されて、3つの領域に区切られており、ガスの最上流側の領域には一部の中空糸膜11および支持部材40を囲み、下流側の他の2つの領域には残りの中空糸膜11を囲んでいる。
【0038】
本実施形態においては、筒状の多孔部材31は、複数の筒状多孔部材が接合された形とみなすことができる。したがって、第1実施形態と同様に、導入口12からオフガスが充填空間内に導入される際に導入口12近傍の中空糸膜11がガス圧力を受けても、多孔部材31のうち支持部材40に接触して固定されている上流側の領域が最も導入口側の中空糸膜11を拘束しているので、導入口12側のケース面と多孔部材31との間の領域の中空糸膜11の移動が抑制され、多孔部材31のうち残りの下流側の領域がさらに排出口側で中空糸膜11を拘束しているので、下流側の中空糸膜11の移動をも抑制することができる。これにより、筒状ケース10に沿って隙間が生じることが抑制されるので、オフガスは充填空間内において上流側から下流側へ向かって均一に流通する。これにより、中空糸膜11の利用率および加湿効率が向上する。
【0039】
第3実施形態
図6は、本発明の第3実施形態に係る水分交換用中空糸膜モジュールであって、中空糸膜11内を流れる第1流体経路に直交する向きで切断した断面図である。図6に示すように、充填空間内には、複数の筒状の多孔部材32a〜32cが、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。また、充填空間内であってかつ中空糸膜束11の内部には、棒状の支持部材41a〜41cが筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。
【0040】
中空糸膜11の第2流体経路の最上流側には、支持部材41aが固定されており、支持部材41aに接触してこれを囲むように、かつ最上流側の中空糸膜11を囲むように多孔部材32aが設けられている。多孔部材32aの下流側には、支持部材41bが固定されており、支持部材41bに接触してこれを囲むように、かつ一部の中空糸膜11を囲むように多孔部材32bが設けられている。さらに、多孔部材32bの下流側には、支持部材41cが固定されており、支持部材41cに接触してこれを囲むように、かつ一部の中空糸膜11を囲むように多孔部材32cが設けられている。
【0041】
本実施形態においては、導入口12からオフガスが充填空間内に導入される際に導入口12近傍の中空糸膜11がガス圧力を受けても、支持部材41aに接触して固定されている多孔部材32aが最も導入口側の中空糸膜11を拘束しているので、導入口12側のケース面と多孔部材32aとの間の領域の中空糸膜11の移動が抑制される。加えて、支持部材41b、41cに接触して固定されている多孔部材32b、32cがさらに排出口側で中空糸膜11を拘束しているので、多孔部材32bの内側の領域の中空糸膜11、および多孔部材32cの内側の領域の中空糸膜11の移動をも抑制することができる。これにより、筒状ケース10に沿って隙間が生じることが抑制されるので、オフガスは充填空間内において上流側から下流側へ向かって均一に流通する。これにより、中空糸膜11の利用率および加湿効率が向上する。
【0042】
第4実施形態
図7は、本発明の第4実施形態に係る水分交換用中空糸膜モジュールであって、中空糸膜11内を流れる第1流体経路に直交する向きで切断した断面図である。図7に示すように、充填空間内には、複数の略平面状の多孔部材33a〜33dが、筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。また、充填空間内であってかつ中空糸膜束11の内部には、棒状の支持部材42a〜42dが筒状ケース10の軸方向と平行に設けられており、その両端部をシール部14に埋設されることで固定されている。多孔部材33a〜33dは、その両端(両辺)に支持部材42a〜42dが接続されて固定されている。本実施形態においては、支持部材42a〜42dは、シール部14によって固定されているだけではなく、筒状ケース10の側面においても、一体となって形成されている。
【0043】
中空糸膜11の第2流体経路の最上流側には、多孔部材33aが両端の支持部材42aを介して筒状ケース10に固定されており、その下流側には、同様にして支持部材42b〜42dを介して多孔部材33b〜33dが筒状ケース10に固定されている。
【0044】
本実施形態においては、導入口12からオフガスが充填空間内に導入される際に導入口12近傍の中空糸膜11がガス圧力を受けても、多孔部材33a〜33dは、筒状ケース10と一体化された支持部材42a〜42dを介して筒状ケース10に強固に固定されているので、各多孔部材間に挟持されている中空糸膜11は、移動が抑制される。これにより、筒状ケース10に沿って隙間が生じることが抑制されるので、オフガスは充填空間内において上流側から下流側へ向かって均一に流通する。これにより、中空糸膜11の利用率および加湿効率が向上する。
【0045】
本実施形態においては、多孔部材33は、少なくともその2辺を棒状の支持部材42によって固定されていればよく、例えば図8(a)に示すように対向する2辺が固定されていると好ましく、図8(b)に示すように周囲4辺が固定されているとさらに好ましい。また、多孔部材33と支持部材42との固定方法としては、例えば図9(a)に示すように多孔部材33と支持部材42の接触領域を溶着させるか、図9(b)に示すように、支持部材42に凹部および貫通部を形成し、貫通部に多孔部材33を貫通させるとともに凹部にピンやネジ等の固定手段43を挿入して、挟み込むことによって固定してもよい。
【0046】
変形例
上記説明においては、第1流体経路に乾燥した未使役のガスを流し、第2流体経路に湿潤した使役後のオフガスを流した例を説明したが、本発明はこの態様のみに限定されるものではなく、第1流体経路に湿潤した使役後のオフガスを流し、第2流体経路に乾燥した未使役のガスを流して水分交換を行うことも可能である。
【0047】
さらに、上記説明では、筒状ケース10の断面が矩形である場合を例にとり説明したが、本発明の水分交換用中空糸膜モジュールは矩形に限定されるものではなく、例えば断面が多角形の筒状とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、燃料電池から排出されるオフガスの水分を未使役の酸化剤ガスの加湿に再利用することができ、また、水分交換における加湿効率を高めることにより燃料電池の適正な加湿量での運転が可能となるから、厳格な安定運転が要求される車載用燃料電池システムに適用して極めて有望である。
【符号の説明】
【0049】
M…水分交換用中空糸膜モジュール、
10…筒状ケース、
11…中空糸膜、
12…ガス導入口、
13…ガス排出口、
14…シール部、
20…未使役のガス(低湿潤)、
21…未使役のガス(水分交換後)、
22…使役後のオフガス(高湿潤)、
23…使役後のオフガス(水分交換後)、
30〜33…多孔部材、
40〜42…支持部材、
43…固定手段





【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状ケースと、
上記筒状ケース内の空間に軸方向に延在させて充填された複数の中空糸膜と、
上記筒状ケースの両端において上記複数の中空糸膜を固定して上記空間を封止したシール部と、
上記筒状ケースの一側面に設けられた導入口と、
上記導入口が設けられた側面の対向面に設けられた排出口と、
上記中空糸膜の一端側から中空糸膜の中空内部を経由して他端側に至る第1流体経路と、
上記導入口から上記空間内でありかつ上記中空糸膜の外側を経由して上記排出口に至る第2流体経路と、
上記空間内で上記軸方向に延在し、かつ上記第2流体経路を横切る面を有する複数の多孔部材と、
上記空間内で上記軸方向に延在し、上記多孔部材と接してこれを支持し、かつ上記多孔部材よりも高い剛性を有する支持部材とを備えることを特徴とする水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記支持部材は、棒状に形成され、
前記複数の多孔部材は、筒状に形成されて、前記軸方向に直交する面の断面視で前記複数の中空糸膜の少なくとも一部を囲繞し、
上記複数の多孔部材のうち少なくとも一つの多孔部材は、上記断面視で前記支持部材を囲繞してなることを特徴とする請求項1に記載の水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項3】
前記支持部材のうち少なくとも一つは、全ての中空糸膜よりも前記第2流体経路上流に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項4】
前記支持部材は、棒状に形成され、
前記複数の多孔部材は、その2つ以上のそれぞれの辺に沿って上記支持部材が固定されていることを特徴とする請求項1に記載の水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項5】
前記支持部材のうち少なくとも一つは、ケースと一体に形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項6】
前記中空糸膜の乾燥状態では、中空糸膜どうしの間および中空糸膜と前記多孔部材との間に形成される空隙部を有し、上記中空糸膜の膨潤状態では、これらが互いに接触することで上記空隙部を減少させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水分交換用中空糸膜モジュール。
【請求項7】
前記多孔部材は、少なくともその一端を前記シール部で固定されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水分交換用中空糸膜モジュール。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−25154(P2011−25154A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173450(P2009−173450)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】