説明

水分吸着剤、除湿用シート状物及び除湿用フィルター材

【課題】高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、低温で再生が可能であり、かつ、吸湿性塩を含む場合であっても凝集物の構造が破壊されることなく、除湿用シート状物の安定的な製造が可能となる水分吸着剤、この水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物及び除湿用フィルター材を提供する。
【解決手段】(A)Si/Al比が0.7〜1で、かつ、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−78ppm及び−87ppm付近ピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを含有してなることを特徴とする水分吸着剤、並びにその水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物及び除湿用フィルター材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸放湿が可能な水分吸着剤、並びにそれを使用する除湿用シート状物及び除湿用フィルター材に関する。具体的には、本発明の水分吸着剤は、特定のSi/Al比と特定の構造を有する非晶質アルミニウムケイ酸塩、多孔質金属酸化物及び吸湿性塩を含有する。
【背景技術】
【0002】
デシカント空調機は、デシカントと呼ばれる水分吸着剤によって、低湿度の空気を作り出す空調機器である。低湿度の空気の供給により、温度がそれほど低くない場合であっても、快適性を充分に得ることができる。このデシカント空調機は、室外から室内へと空気を導入するための給気用ファン、給気空気中の水分を吸着することにより除湿するための除湿ローター、除湿された空気を冷却するための冷却器、除湿ローターに吸着した水分を除去し除湿ローターを再生するための加熱器、そして室内の空気を室外へ排気するための再生用ファン等を有している。除湿ローターは、水分吸着剤を含有してなる除湿用フィルター材をローターに加工したものである。この除湿ローターが回転することによって、処理空気の水分を吸着する吸着ゾーンと、この吸着水分を高温で除去する再生ゾーンとを順次通過するようになっている。
【0003】
除湿用フィルター材に用いられる水分吸着剤としては、高吸水性高分子、カルボキシメチルセルロース等の有機系水分吸着剤や、セピオライト、ゼオライト、ベントナイト、アタパルジャイト、珪藻土、活性炭、多孔質金属酸化物、水酸化アルミニウム等の無機系の多孔質水分吸着剤が用いられている。特に多孔質金属酸化物は、水分吸着量が多く、安価であるため、広く使用されている。
【0004】
除湿用フィルター材に用いられる水分吸着剤には、水分吸着量が大きいことが求められている。また、デシカント空調機は、再生ゾーンにおいて水分吸着剤から吸着水分を脱着させるための加熱エネルギーが必要であるため、空調機全体のエネルギー効率は必ずしも満足できるものではない。そこで、高温(80℃以上)が一般的であった再生温度を低温(40℃〜80℃未満)にするために、低温で再生が可能な水分吸着剤が求められている。
【0005】
さらに、従来は、夏場や梅雨時のような高温高湿雰囲気で低湿度の空気が求められていたが、近年は、春秋冬期、クリーンルーム、商業施設等において、中低温中低湿雰囲気でさらに低湿度にすることが求められてきた。そのため、吸着ゾーン(温度15〜40℃)において、高湿雰囲気(相対湿度90%以上)、中湿雰囲気(相対湿度50%以上90%未満)、低湿雰囲気(相対湿度50%未満)のすべての雰囲気で水分吸着量が多い水分吸着剤が求められている。
【0006】
このような状況下において、中湿雰囲気において高い吸着性能を有し、水分吸着剤の有効成分として好適に用いることができる物質として、Si/Al比が0.7〜1で、かつ、29Si固体NMRスペクトルにおいて−78ppm及び−87ppm付近にピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩を合成により得る技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、水分吸着量の向上を目的として、シリカゲル、メソポーラスシリカ、ゼオライト、天然石等の多孔質水分吸着剤に、塩化リチウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム等の吸湿性塩を多孔質水分吸着剤に担持させる技術が提案されている(例えば、特許文献2〜5参照)。
【0008】
引用文献2には、特定の細孔容積、比表面積、構造を有する非晶質・高純度の調湿剤用シリカゲルに調湿補助剤としてのアルカリ金属塩(吸湿性塩)を含有させる技術が開示されている。しかしながら、本発明者らの研究によると、細孔径の小さいシリカゲルは、以下のような種々の問題を抱えていることが分かった。すなわち、(1)細孔径が1〜3nmで、比表面積が900m/gを超えるシリカゲルでは、一度吸着した水分が放出されにくく、再生温度が80℃以上と高温であり、吸湿性塩を含有させても、再生温度を低くすることができない;(2)細孔径が5〜7nmで、比表面積が700m/g以上のシリカゲルは、再生温度が低く、高湿雰囲気での水分吸着量は優れているものの、中低湿雰囲気では水分吸着量が小さい;(3)吸湿性塩を含有させても、デシカント空調機で利用するのに必要なレベルまで水分吸着量が増大しない;(4)さらに、シリカゲルには、構造劣化の問題があり、シリカゲルを単独で用いた場合でも、除湿用フィルター材から脱落したり、除湿性能が低下するほか、吸湿性塩を含有させると、シリカゲルの構造劣化がより進行する。
【0009】
特許文献3には、特定の細孔直径を有する細孔の内部に降圧剤(吸湿性塩)を添着させたメソ多孔体よりなる蒸気吸放出材料が開示されている。メソ多孔体はシャープな細孔径分布を有するメソ孔を有し、水分は表面張力によって自発的にメソ孔内に吸収されるので、水分吸着量が大きい。しかし、本発明者らの研究によると、メソ多孔体のメソ孔の細孔径は1〜10nmであり、中低湿雰囲気での水分吸着量は大きいが、高湿雰囲気での水分吸着量は小さいという問題があった。また、このメソ多孔体に吸湿性塩を添着させると、メソ多孔体の構造が破壊され、水分吸着量がさらに小さくなるという大きな問題もあった。
【0010】
特許文献4には、多孔性無機微粒子をポリテトラフルオロエチレンで結着した坦持部材に坦持されている潮解性無機化合物が開示されている。多孔性無機微粒子としては、シリカゲルやゼオライト等の微粒子が挙げられるが、本発明者らの研究によると、ゼオライトは、細孔分布がシャープであり、細孔径が平均で約1nmと非常に小さいため、中低湿雰囲気での水分吸着量は大きいものの、高湿雰囲気での水分吸着量は小さいという問題があった。また、細孔径が小さいために、水分が脱着しにくいという問題があり、再生温度が100℃以上と高い。このゼオライトにアルカリ金属塩等の吸湿性塩を担持させても、水分吸着量が増大せず、また、細孔内の吸湿性塩が水分の脱着を阻害するという問題もあった。
【0011】
特許文献5には、天然石であるクリストバライトに塩化カルシウム、塩化リチウムの吸湿性塩を担持させた吸湿剤が開示されている。しかし、本発明者らの研究によると、クリストバライトも、吸着した水分を脱着させるための再生温度が高く、また、吸湿性塩によってクリストバライトの構造が破壊されるという問題があった。
【0012】
このように、従来知られている吸湿性塩を担持させた多孔質水分吸着剤は、高中低湿雰囲気のすべてで充分な水分吸着量を有するものが得られていないばかりか、担持させた吸湿性塩により水分吸着剤の構造が破壊されたり、低温(40℃〜80℃未満)で再生ができないという問題があった。一方、特許文献1に記載されている非晶質アルミニウムケイ酸塩は、単独で、特に中湿雰囲気で優れた吸着性能を有するがゆえに、吸湿性塩をあえて担持させた水分吸着剤としては用いられてこなかった。
【0013】
ところで、除湿用フィルター材は、水分吸着剤を含有する除湿用シート状物に、コルゲート加工、ロールコア加工等の加工を施すことで製造される。水分吸着剤を均一に含有させた除湿用シート状物として、水分吸着剤と各種繊維状物とを分散したスラリーから湿式抄造法で製造された除湿用シート状物が開示されている(例えば、特許文献6参照)。湿式抄造法では、水分吸着剤の凝集物を調製して、歩留まりを向上させる。しかし、特許文献1に記載されている非晶質アルミニウムケイ酸塩の凝集物は壊れやすく、水引きが悪くなって、除湿用シート状物を安定して製造することが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−179533号公報
【特許文献2】特開2003−201113号公報
【特許文献3】特開平11−114410号公報
【特許文献4】特公平7−49091号公報
【特許文献5】特開昭60−241930号公報
【特許文献6】国際公開第2008/004703号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、低温(40℃〜80℃未満)で再生することができ、かつ、凝集物が破壊されることなく、除湿用シート状物の安定的な製造が可能となる水分吸着剤、その水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物及び除湿用フィルター材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決する本発明は以下の通りである。
(1)(A)Si/Al比が0.7〜1で、かつ、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−78ppm及び―87ppm付近ピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを含有してなることを特徴とする水分吸着剤。
(2)(A)非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物との質量比率が3/97〜95/5である、上記(1)記載の水分吸着剤。
(3)(B)多孔質金属酸化物のBET法による比表面積が500〜800m/gであり、平均細孔径が5〜10nmである、上記(1)又は(2)記載の水分吸着剤。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物。
(5)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の水分吸着剤を含有してなる除湿用フィルター材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、低温(40℃〜80℃未満)で再生することができ、かつ、凝集物が破壊されることなく、除湿用シート状物を安定して製造することができる水分吸着剤、この水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物及び除湿用フィルター材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、(A)Si/Al比が0.7〜1で、かつ、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−78ppm及び―87ppm付近ピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩(以下、「(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩又は成分(A)」という)と、(B)多孔質金属酸化物(以下、「成分(B)」ともいう)と、(C)吸湿性塩(以下、「成分(C)」ともいう)とを含有してなる水分吸着剤である。
【0019】
水分吸着剤に係わる(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、非晶質アルミニウムケイ酸塩単独粒子(以下、「単独粒子」という)と、非晶質アルミニウムケイ酸塩が低結晶性粘土で結着してなる複合粒子(以下、「複合粒子」という)とから構成される。29Si固体NMRスペクトルにおいて、非晶質アルミニウムケイ酸塩単独粒子は−78ppm付近にピークを有し、複合粒子は−78ppm及び−87ppm付近にピークを有する。
【0020】
複合粒子は、各粒子の表面に水酸化アルミニウム由来の水酸基が存在するため、高い親水性を示し、水分が付着しやすい。また、複合粒子は、非晶質アルミニウムケイ酸塩と低結晶性粘土との間隙でも水分を吸着することができる。さらに、各粒子は凝集構造体を形成し、この凝集構造体が擬似的なメソ孔を形成している。粒子表面の水酸基によって、この擬似的なメソ孔内部は高い親水性を示し、水分を吸着することができる。このように、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、粒子の表面、複合粒子の間隙、凝集構造体の擬似的なメソ孔という異なる3つのサイトで水分を吸着するため、高中低湿雰囲気のすべてにおいて、水分吸着量が大きい。また、擬似的なメソ孔の孔径は2〜20nmにまで広がっているため、水分の脱着速度が速く、低温で容易に再生することができる。
【0021】
そして、本発明の水分吸着剤は、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の複合粒子の間隙に(C)吸湿性塩が浸透し、水分の保持性能が大幅に向上し、高湿雰囲気での水分吸着量が増大する。また、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の凝集構造体に存在する擬似的なメソ孔内部で、(C)吸湿性塩が水の補助タンクのような役目をするため、中低湿雰囲気での水分吸着量も増大する。そのため、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩を単独で含む場合よりも、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と(C)吸湿性塩とを含有するほうが、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が増大する。このような効果は、複合粒子と擬似的なメソ孔を有する(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩に特異的なものである。そして、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、細孔径分布が広いため、細孔分布がシャープであるゼオライトのように、細孔が吸湿性塩によって塞がれてしまうことがないので、水分の脱着速度が極端に遅くなることがなく、低温で再生することができる。
【0022】
しかしながら、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の単独粒子はナノサイズの粒子であるため、水分吸着剤が密な構造となり易く、その結果、水分吸着量が小さくなる場合がある。本発明の水分吸着剤は、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩が密な構造となるのを(B)多孔質金属酸化物が阻害し、不規則で疎な構造とすることができ、吸着面積を高めることができる。そして、この疎な構造に、さらに(C)吸湿性塩を含有させると、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の粒子の表面、複合粒子の間隙及びメソ孔、(B)多孔質金属酸化物の表面及び孔内、並びに成分(A)と成分(B)との界面に成分(C)が付着して、水の補助タンクのような役目を果たし、水分吸着量を増大することができる。
【0023】
また、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の粒子の表面、複合粒子の間隙及びメソ孔、(B)多孔質金属酸化物の表面及び孔内、並びに成分(A)と成分(B)との界面に吸着した水分のうち、成分(B)の孔内に吸着した水分は脱水されにくいと考えられる。しかし、(C)吸湿性塩が、より脱水されやすい場所に水分を移動させる導水路の役目を果たし、その結果、水分が脱着しやすくなり、40℃〜80℃未満の低温で再生することを可能とする。より脱水されやすい場所としては、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の粒子の表面、複合粒子の間隙及びメソ孔、(B)多孔質金属酸化物の表面、並びに成分(A)と成分(B)との界面等が挙げられる。
【0024】
(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩はナノサイズの粒子であり、表面活性が高いため、湿式抄造法で除湿用シート状物を製造する際に調製した凝集物が壊れやすいという問題があった。しかし、(B)多孔質金属酸化物を併用することによって、凝集物が破壊されにくくなり、安定した凝集物を調製することができ、その結果、除湿用シート状物を安定して製造することが可能となった。
【0025】
このように、本発明の水分吸着剤は、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、40℃〜80℃未満の低温で再生することができる。そのため、本発明の水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物及び除湿用フィルター材も、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、低温で再生することができ、安定した除湿性能を得ることができる。また、水分吸着剤を構成する凝集物の構造が破壊されにくくなり、安定した凝集物の製造が可能であるので、除湿用シート状物及び除湿用フィルター材を安定して製造することができる。次に、本発明の水分吸着剤に含有される(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩、(B)多孔質金属酸化物、(C)吸湿性塩について説明する。
【0026】
[(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩]
本発明に係わる(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、酸素(O)及び水素(H)を主要構成元素とし、多数のSi−O−Al結合で組み立てられた水和アルミニウムケイ酸塩であり、29Si固体NMRスペクトルにおいて−78ppm付近のピークが見られる。−78ppm付近のピークは、非晶質アルミニウムケイ酸塩の単独粒子が含まれていることを示している。また、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−87ppm付近のピークは、SiO四面体においてSi−O−Si結合が少なくとも1つ含まれる状態が存在することを示すから、−87ppm付近のピークは、非晶質アルミニウムケイ酸塩の複合粒子が含まれていることを示すことになる。本発明に係わる非晶質水分吸着剤は、29Si固体NMRスペクトルにおいて−78ppm付近と−87ppm付近のピークを必須とするが、その他のピークを有していてもよい。
【0027】
上述のとおり、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、単独粒子と複合粒子から構成されている。単独粒子は非晶質アルミニウムケイ酸塩の集合物であり、複合粒子は非晶質アルミニウムケイ酸塩の単独粒子が低結晶性粘土で結着されている。(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の粉末X線回折測定を行うと、2θ=27°付近と40°付近にブロードなピークが見られる。
【0028】
単独粒子の一次粒子径は、2〜5nmであり、複合粒子の粒子径は、2〜40nmである。単独粒子と複合粒子は凝集構造体を形成し、この凝集構造体の粒子径は、0.1〜100μmである。また、凝集構造体に存在する擬似的なメソ孔の細孔径は、2〜20nmである。なお、単独粒子の一次粒子径の測定は透過型電子顕微鏡で行い、複合粒子の粒子径の測定は透過型電子顕微鏡又は走査型電子顕微鏡で行い、凝集構造体の粒子径及び擬似的なメソ孔の細孔径の測定は走査型電子顕微鏡で行った。
【0029】
(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、無機ケイ素化合物溶液と無機アルミニウム化合物溶液からなる溶液を混合し、ケイ素とアルミニウムの重合化後、加熱熟成により人工的に得ることが可能である。
【0030】
(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の調製には、原料として、通常、ケイ素源であるケイ素化合物とアルミニウム源であるアルミニウム化合物とが用いられる。ケイ素化合物としては、オルトケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、無定形コロイド状二酸化ケイ素(エアロジル等)、水ガラス等が好適なものとして挙げられる。また、アルミニウム化合物としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム等が好適なものとして挙げられる。これらのケイ素源及びアルミニウム源は、上記の化合物に限定されるものではなく、それらと同等のものであれば同様に使用することができる。
【0031】
これらの原料を適切な水溶液に溶解させ、所定の濃度の溶液を調製する。高中低湿雰囲気において優れた水分吸着量を示すには、ケイ素/アルミニウム比(Si/Al)比は0.7〜1となるように混合することが必要である。なお、本発明において、Si/Al比はモル基準である。溶液中のケイ素化合物の濃度は1〜2000mmol/Lで、溶液中のアルミニウム化合物の濃度は1〜2000mmol/Lである。好適な濃度は、ケイ素化合物では1〜800mmol/Lであり、アルミニウム化合物では1〜1000mmol/Lである。これらの比率及び濃度に基づいて、アルミニウム化合物溶液にケイ素化合物溶液を混合し、酸又はアルカリを用いてpH6〜9に調製して、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−78ppm及び−87ppm付近にピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩が得られる。
【0032】
[(B)多孔質金属酸化物]
(B)多孔質金属酸化物としては、ケイ素、チタン、アルミニウム、タンタル、バナジウム、ジルコニウム、亜鉛、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属原子の酸化物を挙げることができる。金属酸化物の好ましい具体例としては、シリカ、酸化チタン、アルミニウムケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の多孔質金属酸化物を挙げることができる。最も好ましい具体例は、シリカである。
【0033】
(B)多孔質金属酸化物の平均細孔径は1〜50nmが好ましく、2〜20nmがより好ましく、5〜10nmがさらに好ましい。(B)多孔質金属酸化物の平均細孔径が1〜50nmであると、水分吸着剤を40℃〜80℃未満の低温で再生することができる。平均細孔径が1nm未満であると、水分吸着剤に吸着した水分が脱着しにくくなり、水分の脱着速度が低下し、再生温度が80℃以上の高温になる場合がある。また、平均細孔径が50nmを超えると、水分吸着量が低下する場合がある。ここで、平均細孔径は、BET法による比表面積(SA)と窒素吸着法による細孔容積(PV)とを測定し、4×(PV/SA)から算出された値である。
【0034】
(B)多孔質金属酸化物のBET法による比表面積は100〜1000m/gが好ましく、300〜800m/gがより好ましく、500〜800m/gがさらに好ましい。(B)多孔質金属酸化物のBET法による比表面積が100〜1000m/gであると、吸着面積を拡大して水分吸着量を増大しつつ、凝集物の構造が破壊されにくく、構造安定性を維持することができる。比表面積が100m/gより小さいと、所望の水分吸着量が得られない場合がある。
【0035】
本発明の水分吸着剤において、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物との質量比率((A)/(B))は、3/97〜95/5が好ましく、5/95〜90/10がより好ましく、10/90〜80/20がさらに好ましく、20/80〜70/30が特に好ましい。上記質量比率((A)/(B))が3/97〜95/5であると、水分吸着量を増大することができ、40℃〜80℃未満の低温における水分の脱着速度を速めることができる。上記質量比率((A)/(B))が3/97より低い場合又は95/5を超える場合は、水分吸着剤(A)又は水分吸着剤(B)を単独で用いた場合と同程度の水分吸着量となり、水分の脱着速度も同程度となる。
【0036】
[(C)吸湿性塩]
(C)吸湿性塩は、ハロゲン化金属塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、アミン塩、リン酸化合物、グアニジン塩及び金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の吸湿性塩であることが好ましい。吸湿性塩として、具体的には塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等のハロゲン化金属塩、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸亜鉛等の金属硫酸塩、酢酸カリウム等の金属酢酸塩、塩酸ジメチルアミン等のアミン塩、オルトリン酸等のリン酸化合物、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、スルファミン酸グアニジン等のグアニジン塩、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物等が挙げられる。この中でも、吸湿性塩としては、ハロゲン化金属塩及び/又はグアニジン塩が好ましく、これらを使用すると、水分吸着量と脱着速度を効率的に高めることができる。
【0037】
ところで、吸湿性塩は、一般的に、空気中から水分を奪って潮解現象を引き起こす材料であり、除湿用シート状物から脱落し(液だれし)、その脱落したものが錆を発生させる原因となることが知られている。また、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩は、粒子表面の大部分に存在する水酸基が水酸化アルミニウム由来であるため、吸湿性塩が付着しても、シリカゲル、メソポーラスシリカ、クリストバライト等のシリカ系材料のように構造が破壊されることは少ないが、(B)多孔質金属酸化物には、ケイ素の酸化物であるシリカ系材料も含まれるため、(C)吸湿性塩が付着した場合、構造が破壊されることがある。しかしながら、本発明は、(B)多孔質金属酸化物と(C)吸湿性塩とを使用しているにもかかわらず、さらに(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩を介在させることによって、潮解現象等による吸湿性塩の脱落及び多孔質金属酸化物の構造破壊が抑制できることがわかった。理由は定かではないが、
(i)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の表面活性が高く、(C)吸湿性塩が脱落しにくいこと、
(ii)(C)吸湿性塩の導水路効果によって、(B)多孔質金属酸化物から(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩への水分の移動が速やかに起こるため、(B)多孔質金属酸化物からの液だれが起こりにくいこと、
(iii)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物を併用することによって、これらの凝集物が安定であること、等が理由であると考えられる。
【0038】
水分吸着剤中の(C)吸湿性塩の含有量が、(A)非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物の総量100質量部に対して、1〜100質量部が好ましく、2〜70質量部がより好ましく、2〜50質量部がさらに好ましく、3〜35質量部が特に好ましい。(C)吸湿性塩の含有量が上記範囲内である、水分吸着剤の水分吸着量と脱着速度を効率的に高めることができる。なお、1質量部未満では、水分吸着量及び脱着速度が向上しない場合があり、100質量部を超えると、液だれを起こす場合がある。
【0039】
[製造方法]
次に、本発明の水分吸着剤、除湿用シート状物及び除湿用フィルター材の製造方法について説明する。
本発明の水分吸着剤は、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを水中で混合し、乾燥することで製造することができる。
【0040】
本発明の除湿用シート状物は、以下の方法で製造することができる。
(1)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(D)繊維状物とを含有するウェブを作製した後に、(C)吸湿性塩を担持させる方法、
(2)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩又は(B)多孔質金属酸化物のいずれか一方と、(D)繊維状物とを含有するウェブを作製した後に、残りの一方の成分(A)又は成分(B)と、(C)吸湿性塩とを同時に又は別々にコーティングする方法、
(3)シート状の基材に、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを同時に又は別々にコーティングする方法。
【0041】
本発明の除湿用フィルター材は、以下の方法で製造することができる。量産化には、方法(I)が適している。
(I)上記(1)〜(3)の方法で製造された除湿用シート状物をフィルター化する方法、
(II)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩及び(B)多孔質金属酸化物を含有した(D)繊維状物を含むウェブをフィルター化した後に、(C)吸湿性塩をコーティングする方法、
(III)(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩又は(B)多孔質金属酸化物のいずれか一方を含有した(D)繊維状物を含むウェブをフィルター化した後に、残りの一方の成分(A)又は成分(B)と、(C)吸湿性塩を同時に又は別々にコーティングする方法、
(IV)シート状の基材をフィルター化した後、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを同時に又は別々にコーティングする方法。
【0042】
(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の密な構造を阻害するためには、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩及び(B)多孔質金属酸化物を同時に除湿用シート状物に含有させることが好ましい。そのため、製造方法(3)及び(IV)において、成分(A)及び成分(B)を同時にコーティングする方法、並びに製造方法(1)及び(II)が、好ましい製造方法である。
【0043】
水分吸着剤と、(D)繊維状物とを含有するウェブは、湿式抄造法又は乾式法で製造することができる。湿式抄造法とは、希釈した材料を水中に低濃度で分散させて、これを抄き上げる方法であり、安価で、均一性が高く、大量製造が可能な手法である。具体的には、水分吸着剤と繊維状物とを主体としてスラリーを調製し、これに填料、分散剤、増粘剤、消泡剤、紙力増強剤、サイズ剤、凝集剤、着色剤、定着剤等を適宜添加して、抄紙機で湿式抄造する。抄紙機としては、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、これらの中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機等を用いることができる。エアードライヤー、シリンダードライヤー、サクションドラムドライヤー、赤外方式ドライヤー等を用いて、抄紙後の湿紙を乾燥し、ウェブを得ることができる。乾式法としては、カード法、エアレイド法等を使用することができる。
【0044】
[(D)繊維状物]
(D)繊維状物としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ジエン系樹脂、及びポリウレタン系樹脂等の熱可塑性合成樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂よりなる繊維が挙げられる。また、木材パルプ、楮、三椏、藁、ケナフ、竹、リンター、バガス、エスパルト、サトウキビ等の植物繊維、あるいはこれらを微細化したものを用いることができ、さらに、セルロース再生繊維であるレーヨン繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂系繊維、シリコーン樹脂系繊維、ステンレスやニッケルウール等の金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維等を用いることもできる。
【0045】
また、フィブリル化繊維を含有させると、水分吸着剤の含有率を高めることができるため好ましい。フィブリル化繊維とは、セルロース繊維、アラミド繊維、芳香族ポリエステル繊維、ポリアクリロニトリル繊維等の高い結晶性を有する繊維を、ビーター、コニカルリファイナー、シングルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、ホモジナイザー、サンドミル等の各種叩解機を用い機械的に粉砕して得られる、繊維の表面や繊維自体が非常に細かく割れている繊維をいう。フィブリル化繊維を用いた場合、水分吸着剤とフィブリル化繊維とを水中で分散し、これに適宜凝集剤を添加して凝集物を調製し、繊維状物ともに湿式抄造する。フィブリル化繊維の具体例としては、セルロース繊維をホモジナイザーでフィブリル化したセリッシュKY−100S、KY−100G(商品名;ダイセル化学工業社製)、アラミドパルプ等がある。さらに、微生物によって生産されるバクテリアセルロース解離物、柔細胞由来のフィブリル化セルロース繊維も使用できる。フィブリル化繊維の繊維長と繊維幅のアスペクト比は約20〜100000の範囲に分布し、カナディアンスタンダードフリーネスは0〜500mlの範囲にあることが好ましく、0〜200mlの範囲にあることがより好ましい。さらに質量平均繊維長が0.1〜2mmの範囲にあるものが好ましい。
【0046】
湿式抄造法では、水分吸着剤の凝集物を調製し、それを安定化させるために、凝集剤を添加することができる。凝集物を調製する場合、上記フィブリル化繊維や繊維状物を一緒に凝集させてもよい。凝集剤としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、アルミナ、シリカ、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等の金属酸化物又は金属ケイ酸塩、これら金属酸化物又は金属ケイ酸塩の含水物、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、アニオン又はカチオン変性ポリアクリルアミド、同じくポリエチレンオキサイド系ポリマー、アクリル酸又はメタクリル酸含有共重合物等の水溶性重合体、アルギン酸又はポリビニルリン酸及びこれらのアルカリ性塩、アンモニア、ジエチルアミン及びエチレンジアミン等のアルキルアミン、エタノールアミン等のアルカノールアミン、ピリジン、モルホリン、含アクリロイルモルホリン重合物等が挙げられる。特に、アニオン又はカチオン変性水溶性ポリマー凝集剤のうち、ポリマー中にカチオン単位とアニオン単位の双方を有する両性凝集剤は優れた凝集効果を発揮する。本発明は、水分吸着剤として、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物とを併用することで、より安定した凝集物を得ることができる。
【0047】
上記方法(2)〜(3)及び方法(III)〜(IV)において、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩及び(B)多孔質金属酸化物の一方又は両方と、(C)吸湿性塩とをコーティングして担持させる場合には、成分(A)〜成分(C)を同時に担持させるか、成分(A)又は成分(B)を担持させた後に、成分(C)を担持させる方法が好ましい。これは、成分(C)と水とを含有するコーティング液が、成分(A)及び/又は成分(B)の凝集物周辺部に主に集まり、乾燥後は凝集物の周辺部により選択的に成分(C)が保持されることになり、水分吸着量と脱着速度を効率的に高めることができるほか、液だれも抑制することができるからである。
【0048】
コーティング液としては、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物と(C)吸湿性塩とをそれぞれ単独で、又は2成分若しくは3成分を混合して含有する溶液又は分散液を使用する。媒体としては、水、水とアルコール、ケトン等の有機溶剤との混合液を好適に用いることができる。コーティングには、ブレードコーター、ロールコーター、エアナイフコーター、バーコーター、ロッドブレードコーター、ショートドウェルコーター、コンマコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、キスコーター、ディップコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、サイズプレス、ゲートロールコーター等の含浸又は塗工装置を使用することができる。
【0049】
シート状の基材としては、例えば、紙、多孔質フィルム、織布、乾式不織布、湿式不織布、編物等の多孔質基材、フィルム、板状物等の無孔質基材がある。これらの基材は、単独で用いてもよいし、貼り合わせ等によって積層複合化して用いてもよい。多孔質基材、特に不織布は空隙率が高く、また、繊維構成によってコーティング液の塗工性・浸透性も向上させることができ、さらに、繊維マトリクス内に存在する水分吸着剤や吸湿性塩が基材のすれ等によって脱離することがないので、シート状の基材として特に適している。
【0050】
フィルム、多孔質フィルム、板状物を構成する樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリイミド系樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。また、多孔質フィルムとしては、パンチングメタルシート、発泡金属シート、無機粒子の凝集体フィルムといった無機多孔質フィルムを使用することもできる。フィルムや板状物として金属箔、金属板を使用してもよい。
【0051】
紙、織布、乾式不織布、湿式不織布、編物を構成する繊維としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ジエン系樹脂、及びポリウレタン系樹脂等の熱可塑性合成樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、アニリン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂等の熱硬化性樹脂よりなる繊維である。また、木材パルプ、楮、三椏、藁、ケナフ、竹、リンター、バガス、エスパルト、サトウキビ等の植物繊維、あるいはこれらを微細化したものを用いることができ、さらに、セルロース再生繊維であるレーヨン繊維、アセテート等の半合成繊維、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂系繊維、シリコーン樹脂系繊維、ステンレスやニッケルウール等の金属繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維等を用いることもできる。
【0052】
本発明の除湿用シート状物及び除湿用フィルター材に対する成分(A)及び成分(B)を合わせた含有量は、10〜90質量%が好ましく、35〜80質量%がより好ましく、40〜70質量%がさらに好ましい。成分(A)及び成分(B)の含有量が10〜90質量%であると、水分吸着量と脱着速度を効率的に高めることができる。上記含有量が10質量%未満であると、充分な水分吸着量が得られない場合がある。上記含有量が90質量%を超えると、除湿用シート状物や除湿用フィルター材から水分吸着剤が脱落するおそれがある。
【0053】
本発明の除湿用シート状物は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。高目付の除湿用シート状物を得ようとする場合には、多層構造とすると地合が良好になる傾向がある。例えば、目付100g/mの除湿用シート状物を製造する場合、1層構造ではなく、50g/m+50g/mの2層構造、30g/m+40g/m+30g/mの3層構造とすることができる。
【0054】
本発明の除湿用シート状物は、その目付が25〜250g/mであることが好ましく、30〜200g/mであることがより好ましく、40〜150g/mであることがさらに好ましい。また、厚みは30〜500μmが好ましく、35〜400μmがより好ましく、50〜300μmがさらに好ましい。
【0055】
本発明の除湿用シート状物は、そのまま用いてもよいが、シート強度を高めるために、別種の紙、フィルム、布帛等の基材と積層複合化させてもよい。また、カレンダー処理等によって、表面均一性を向上させたり、厚みを調整したりしてもよい。
【0056】
本発明の除湿用フィルター材を製造するためのフィルター化の方法としては、プリーツ加工、コルゲート加工、積層加工、ロールコア加工、ドーナツ加工等を挙げることができる。フィルター化する前のシート状の基材や本発明の除湿用シート状物は、カレンダー処理等によって、表面均一性を向上させたり、厚みを調整してもよい。
【0057】
除湿用フィルター材の一種である除湿ローターを、本発明の除湿用シート状物を用いて製造する方法を説明する。まず、除湿用シート状物からハニカム状積層構造体を製造する。ハニカム状積層構造体とは、開孔を有するセル壁からなる積層構造体であって、片面段ボールからなるコルゲートハニカム状積層構造体、六角形セルからなるヘキサゴンハニカム状積層構造体、正方形セルからなるハニカム状積層構造体、三角形セルからなるハニカム状積層構造体及び中空円筒状セルを集合してなるハニカム状積層構造体等が挙げられる。ここで、六角形や正方形等のセル形状は必ずしも正多角形である必要はなく、角が丸味を帯びる、辺が曲がっている等の異形であってもよい。片面段ボールは、JIS Z 1516に記載の「外装用段ボール」に準拠して作製することができる。次いで、ハニカム状積層構造体を型抜き等の方法で円筒形ローター状に切り抜く方法で、除湿ローターが得られる。また、除湿用シート状物から得られた片面段ボールを渦巻き状に巻き上げて円筒形ローター状に成形加工する方法によっても、除湿ローターを製造することができる。また、紙、布帛、フィルム等のシート基材を円筒形ローター状に成型加工した後に、成分(A)と、成分(B)と、成分(C)とをコーティングする方法でも、除湿ローターを製造することができる。
【実施例】
【0058】
次に本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、特に断りのない限り、部数、百分率、比率は質量基準である。
【0059】
<(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の合成>
Si濃度が383mmol/Lになるように、純水で希釈したオルトケイ酸ナトリウム水溶液400mlを調製した。また、これとは別に、塩化アルミニウムを純水に溶解させ、Al濃度が450mmol/Lの水溶液400mlを調製した。次に、塩化アルミニウム水溶液にオルトケイ酸ナトリウム水溶液を混合し、マグネティックスターラーで撹拌した。このときのSi/Al比は0.85であった。さらに、この混合溶液に1N水酸化ナトリウム水溶液18mlを滴下し、pHを7とした。室温下で1時間攪拌した後、4Lの密閉容器に移し替え、恒温槽にて98℃で2日間加熱を行った。冷却後、遠心分離により3回洗浄後、60℃で乾燥を行い、(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩を得た。
【0060】
(A)特定の非晶質アルミニウムケイ酸塩の29Si固体NMR測定において、−78ppm、−87ppm付近にピークが確認された。また、粉末X線回折測定では、2θ=27°と40°付近にブロードなピークが確認された。透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡で、非晶質水分吸着剤を観察したところ、単独粒子の一次粒子径は2〜5nmであり、複合粒子の粒子径は2〜40nmであり、凝集構造体の粒子径は0.1〜100μmであり、凝集構造体に存在する擬似的なメソ孔の細孔径は2〜20nmであった。
【0061】
<(B)多孔質金属酸化物>
(B)多孔質金属酸化物として、多孔質シリカ(商品名:ミズカソーブS0、水澤化学工業社製、平均細孔径:6nm、比表面積705m/g)又は乾式シリカ(商品名:アエロジル380、日本アエロジル社製、平均細孔径:7nm、比表面積380m/g)を使用した。
【0062】
(実施例1〜10、比較例1〜13)
表1に示した質量比率で、成分(A)と成分(B)とを混合して得られた混合物50質量部、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー社製、繊度0.1dtex、繊維長3mm)26質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー社製、繊度1.1dtex、繊維長5mm)17質量部、セルロース系フィブリル化繊維(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業社製)7質量部を混合し、固形分濃度2質量%のスラリーとした。
【0063】
得られたスラリーに凝集剤(商品名:パーコール57、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を全固形分に対して0.2質量%添加して抄紙用スラリーとし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、60g/mのウェブを得た。抄紙用スラリーのカナディアン・スタンダ−ド・フリ−ネス(C.S.F)をJIS P 8121に準拠して測定したところ、600〜750mlであった。得られたウェブを比較例1〜11の除湿用シート状物とした。
【0064】
得られたウェブを、成分(C)の塩化マグネシウム水溶液に含浸した後乾燥し、実施例1〜10、比較例12〜13の除湿用シート状物を得た。塩化マグネシウム(吸湿性塩)付着量は6g/mであり、成分(A)と成分(B)との総量100質量部に対して20質量部であった。
【0065】
(実施例11)
表1に示した質量比率で、成分(A)と成分(B)とを混合して得られた混合物70質量部、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー社製、繊度0.1dtex、繊維長3mm)15質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー社製、繊度1.1dtex、繊維長5mm)5質量部、セルロース系フィブリル化繊維(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業社製)10質量部を混合し、固形分濃度2質量%のスラリーとした。得られたスラリーに凝集剤(商品名:パーコール57、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を全固形分に対して0.3質量%添加して抄紙用スラリーとし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、70g/mのウェブを得た。さらに、得られたウェブを、成分(C)の塩化マグネシウム水溶液に含浸した後乾燥し、シート状物を得た。塩化マグネシウム(吸湿性塩)付着量は15g/mであり、成分(A)と成分(B)との総量100質量部に対して31質量部であった。
【0066】
(実施例12)
表1に示した質量比率で、成分(A)と成分(B)とを混合して得られた混合物40質量部、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー社製、繊度0.1dtex、繊維長3mm)30質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー社製、繊度1.1dtex、繊維長5mm)23質量部、セルロース系フィブリル化繊維(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業社製)7質量部を混合し、固形分濃度2質量%のスラリーとした。得られたスラリーに凝集剤(商品名:パーコール57、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を全固形分に対して0.2質量%添加して抄紙用スラリーとし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、60g/mのウェブを得た。さらに、得られたウェブを、成分(C)の塩化マグネシウム水溶液に含浸した後乾燥し、シート状物を得た。塩化マグネシウム(吸湿性塩)付着量は24g/mであり、成分(A)と成分(B)との総量100質量部に対して100質量部であった。
【0067】
(実施例13)
表1に示した質量比率で、成分(A)と成分(B)とを混合して得られた混合物53質量部、ポリエステル繊維(商品名:テピルスTM04PN、帝人ファイバー社製、繊度0.1dtex、繊維長3mm)23質量部及びポリエステル繊維(商品名:テピルスTJ04CN、帝人ファイバー社製、繊度1.1dtex、繊維長5mm)20質量部、セルロース系フィブリル化繊維(商品名:セリッシュKY−100G、ダイセル化学工業社製)7質量部を混合し、固形分濃度2質量%のスラリーとした。得られたスラリーに凝集剤(商品名:パーコール57、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を全固形分に対して0.2質量%添加して抄紙用スラリーとし、円網型抄紙機で抄紙し、乾燥して、60g/mのウェブを得た。さらに、得られたウェブを、成分(C)の塩化マグネシウム水溶液に含浸した後乾燥し、シート状物を得た。塩化マグネシウム(吸湿性塩)付着量は1g/mであり、成分(A)と成分(B)との総量100質量部に対して3質量部であった。
【0068】
<評価1:凝集評価>
凝集剤を入れた後のスラリーを1000mlとり、マグネティックスターラーで5分間撹拌した。撹拌した後に、JIS P 8121に準拠して、カナディアン・スタンダード・フリ−ネス(C.S.F)を測定し、凝集物の崩れにくさを評価した。C.S.Fが200ml未満を×、200ml〜500ml未満を△、500ml以上を○と評価した。結果を表1に示した。
【0069】
【表1】

【0070】
表1に示すとおり、実施例1〜10及び比較例1〜9は、成分(A)と成分(B)を併用することにより、凝集物が壊れにくくなることが確認できた。一方、比較例11及び13の成分(A)を含有し、成分(B)を含有しない場合には凝集物が壊れやすく、抄紙時の水引きが悪くなり、安定した製造が困難であった。
【0071】
<評価2:吸湿特性>
実施例1〜13及び比較例1〜13の除湿用シート状物を10cm×10cmに裁断して、90℃で2時間乾燥させ、乾燥質量WSDを測定した。次に、25℃、相対湿度30%(低湿雰囲気)で2時間放置して、質量WS30を測定した。続いて、温度は25℃のままで相対湿度を50%(中湿雰囲気)に上げて2時間放置して、質量WS50を測定した。さらに、温度25℃のままで相対湿度を80%(高湿雰囲気)に上げて2時間放置して、質量WS80を測定した。下記式(1)〜(3)から、水分吸着量AS30、AS50、AS90(%)を測定し、結果を表2に示した。
【0072】
S30(%)=(WS30−WSD)/WSD × 100 (1)
S50(%)=(WS50−WSD)/WSD × 100 (2)
S90(%)=(WS90−WSD)/WSD × 100 (3)
【0073】
<評価3:脱着評価>
実施例及び比較例で作製した除湿用シート状物を10cm×10cmに裁断し、あらかじめ温度及び相対湿度が調節可能な可変恒温恒湿機にて、温度25℃、相対湿度80%で2時間調湿した後の除湿用シート状物の質量(W80)を測定した。次いで、調湿後の除湿用シート状物に対して温度50℃をかけ、1分後の質量(W)測定を測定した。下記式(4)から、脱着量Wを測定し、結果を表2に示した。
【0074】
=(W80−W)/W80 (4)
【0075】
○:W≦0.5
△:0.5<W≦0.65
×:W>0.65
【0076】
【表2】

【0077】
表1に示すように、成分(A)、成分(B)及び成分(C)を含有する水分吸着剤を含む実施例1〜13は、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、かつ50℃の低温における水分の脱着性も良好であり、低温で再生できることが確認できた。特に、成分(A)と成分(B)の質量比率((A)/(B))が5/95〜90/10の実施例2〜8は、中低温中低湿度雰囲気における水分吸着量が優れていた。一方、成分(A)、成分(B)及び成分(C)のいずれかが欠ける水分吸着剤を含む比較例1〜13は、実施例1〜13と比較して、高中低湿雰囲気での水分吸着量が小さかった。成分(B)を含み、成分(A)を含まない比較例10及び12は、成分(C)を含む比較例12で低中湿雰囲気における水分吸着性の向上が認められるものの、いずれも脱着性が低下した。加えて、成分(A)を含み、成分(B)を含まない比較例11及び13は、成分(C)を含まない比較例11において高湿雰囲気における水分吸着性が低下するほか、いずれも表1に示されるように凝集性が低下している。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の水分吸着剤、除湿用シート状物及び除湿用フィルター材は、高中低湿雰囲気のすべてで水分吸着量が大きく、40℃〜80℃未満の低温で再生することができるので、デシカント空調機の除湿ローターとして好適に使用できるほか、ビル空調気化式加湿用素子、燃料電池用加湿用素子、除湿器用除湿素子、自動販売機等の吸水蒸散素子、冷却用吸水蒸散素子、全熱交換素子等の調湿素子や熱交換素子にも利用することができる。また、包装材料、押入やタンス用の除湿シート、壁紙や床材等の内装材料等にも利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)Si/Al比が0.7〜1で、かつ、29Si固体NMRスペクトルにおいて、−78ppm及び―87ppm付近ピークを有する非晶質アルミニウムケイ酸塩と、(B)多孔質金属酸化物と、(C)吸湿性塩とを含有してなることを特徴とする水分吸着剤。
【請求項2】
(A)非晶質アルミニウムケイ酸塩と(B)多孔質金属酸化物との質量比率が3/97〜95/5である、請求項1記載の水分吸着剤。
【請求項3】
(B)多孔質金属酸化物のBET法による比表面積が500〜800m/gであり、平均細孔径が5〜10nmである、請求項1又は2記載の水分吸着剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の水分吸着剤を含有してなる除湿用シート状物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項記載の水分吸着剤を含有してなる除湿用フィルター材。

【公開番号】特開2011−194352(P2011−194352A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65714(P2010−65714)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】