説明

水分散型アクリル系ポリマーの製造方法

【課題】接着力と保持力が共に優れ、特に粗面接着性に優れるアクリル系水性粘着剤組成物、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】(メタ)アクリレート類を含有する重合性単量体成分を水性媒体の存在下で乳化重合する製造方法で、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量を、全単量体成分に対し、毎分2〜150×10−13mol/lに制御し、かつ得られた水分散体のTHF溶解分の重量平均分子量が30万以上であることを特徴とする水分散型アクリル系ポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分散型アクリル系ポリマーの製造方法に関する。更に詳しくは、ポリマー鎖が直線構造であり、かつ高分子量体である水分散型アクリル系ポリマーを乳化重合によって得るための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題がクローズアップされ、様々な分野において、より環境への付加が少ない水性樹脂が注目されている。有機溶剤を用いて製造する溶剤型樹脂と比べ、水性媒体中で行う乳化重合は、有機溶剤が不要であり、環境対応型樹脂の製造方法として各種ポリマーの製造に利用されている。この乳化重合で製造できるポリマーに、各種エチレン性不飽和単量体を重合して得られる水分散型アクリル系ポリマーがある。
【0003】
一般に、乳化重合よって得られる水分散型アクリル系ポリマーは、反応系内に過剰に存在するラジカルによりポリマー鎖の水素引き抜き反応等の副反応、すなわち枝分かれ反応が起き、ポリマー鎖が分岐構造をとってしまう。この枝分かれ反応により、粒子同士が融着しづらくなり成膜性が低下し、見かけの分子量に比べて被膜の強度が低くなる。成膜性を向上させ、かつ被膜強度を強くすることが、水分散型アクリル系ポリマーの課題の一つである。
【0004】
この成膜性の低さを改良する方法として、硬質な重合体粒子に、重合体を可塑化させる可塑剤(造膜助剤)を添加して、重合体粒子相互間の融着性を向上させる方法が一般的に用いられている。しかし、この方法であると被膜が可塑化されているため、強度が発現しづらい。
【0005】
また、重合体粒子の粒子形態を硬質な重合体と軟質な重合体とから構成される「多層構造粒子」とすることで重合体粒子相互間の融着性を向上させる方法などが提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、この方法においても充分な成膜性が得られず、強度が発現しない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−147150号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の課題は、乳化重合時の枝分かれ反応を抑制して成膜性を向上させ、被膜の強度が高い水分散型アクリル系ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、上記の課題を解決すべく、鋭意検討の結果、下記の知見を得た。
(1)使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、全単量体成分に対し、毎分2〜150×10−13mol/lに制御することで、枝分かれ反応が抑制され、得られるポリマー鎖は直線構造となり、粒子間の融着性が向上、すなわち成膜性が向上する。
(2)水分散型アクリル系ポリマーのTHF溶解分の重量平均分子量が30万以上であると被膜強度が高くなる。
【0009】
本発明は、このような知見に基づくものである。
即ち、本発明は、(メタ)アクリレート類を含有する重合性単量体成分を水性媒体の存在下で乳化重合する製造方法で、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量を、全単量体成分に対し、毎分2〜150×10−13mol/lに制御し、かつ得られた水分散体のTHF溶解分の重量平均分子量が30万以上であることを特徴とする水分散型アクリル系ポリマーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ポリマー鎖を分岐の少ない直線構造とすることで成膜性を向上させ、更にポリマーを高分子量化することで被膜の強度が高い水分散型アクリル系ポリマーの製造方法として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず、本発明の製造方法、すなわち乳化重合時のラジカル発生量であるが、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量を、全単量体成分に対して、毎分2〜150×10−13mol/lに制御することで、枝分かれ反応が抑制され、得られるポリマー鎖は直線構造となる。また、ラジカル発生量は毎分5〜120×10−13mol/lであるとより好ましく、更には10〜100×10−13mol/lであると、重合安定性とポリマーの枝分かれ反応が更に抑制され、成膜性が向上するため特に好ましい。ここで言う「使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量」とは、後記実施例に記載の計算式によって求められる全単量体に対して毎分発生するラジカルの濃度である。
【0012】
計算上求められるラジカル発生量が、毎分150×10−13mol/lを超えると、反応系内に過剰に存在するラジカルにより副反応、すなわち枝分かれ反応が起こり易くなる。そのため、ポリマー鎖が分岐することで成膜性が低下し、被膜強度が低下する。またラジカル濃度が毎分2×10−13mol/lより少ないと発生するラジカルの濃度が低すぎて反応が進行しない。
【0013】
また、本発明の製造方法で用いる重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が用いられる。ラジカル重合開始剤の種類は特に制限は無いが、重合中の枝分かれ反応の起きづらさから、過硫酸塩系、またはアゾ系の重合開始剤が好ましい。
【0014】
乳化重合の反応温度は特に制限されるものでは無いが、これらの中でも30〜90℃の範囲で行うことが好ましい。30℃より低い場合はラジカルが発生しづらく、重合安定性が低下する。また、90℃を超える場合は、反応中のラジカル濃度を前述の範囲に制御しようとすると、開始剤量が非常に少なくなるため、反応操作上困難である。また、重合中のラジカル濃度を前述の範囲内に制御することが容易であることから、反応に用いる重合開始剤の10時間半減期温度以下で反応することが特に好ましい。
【0015】
また、重合中のラジカル濃度を前述の範囲に制御することは、重合中の枝分かれ反応が抑えられるため、得られるアクリル系ポリマーから形成される被膜のゲル分率を20重量%以下に制御することができる。成膜性の向上にはゲル分率は低いほど好ましく、具体的には10%以下とすることが好ましい。更には5重量%以下に制御すると特に好ましい。本発明で使用するゲル分率とは、アクリル系ポリマーから形成される被膜のトルエンに対する不溶解分の比率を意味する。ゲル分率は、後記実施例に記載した測定方法及び式により求められる数値に基づくものである。
【0016】
被膜のゲル分率が20%を超えた場合、ポリマー鎖の直線構造が損なわれる、すなわちポリマー鎖の分岐度合いが高くなり、粒子間の融着性が悪化、すなわち成膜性が低下し、被膜強度が低下する。
【0017】
また、アクリル系ポリマーは、高分子量であるほど被膜強度は高くなる。本発明の製造方法は、容易にポリマーを高分子量化できる方法でもある。得られたポリマーのTHF溶解分をGPCで測定した場合の重量平均分子量が30万以上であると被膜強度が高くなる。更に、35万以上であると、より一層被膜強度が向上するため好ましい。なお、GPCの測定は、ポリマーを濃度が0.4%となるようにTHFに完全に溶解し、不溶分を濾過で取り除いた後、溶解分のみを測定した。
【0018】
本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で使用する単量体成分は特に制限はなく、(メタ)アクリレートを含有する単量体、カルボキシル基を含有する単量体、またそれ以外の単量体を任意の割合で用いることができる。中でも(メタ)アクリレートを含有し、アルキル基の炭素数が1〜12の範囲にある単量体を主成分とすると重合が容易であることから好ましい。
【0019】
また、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法により得られる水分散型アクリル系ポリマーの被膜のガラス転移温度(以下、Tgという。)は特に制限は無く、用途に応じて上記単量体を任意の割合で組み合わせ、Tgを任意の温度にすることができる。
【0020】
また、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で、用途に応じてポリマーの分子量を調整しても良い。その場合は、単量体成分を乳化重合する際に分子量調整剤として連鎖移動能を有する化合物を使用できる。
【0021】
次に、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で、単量体成分を水性媒体中で乳化重合する際には、乳化剤やその他の分散安定剤を使用して重合することができる。中でも、一般的に「反応性乳化剤」と称される重合性不飽和基を分子内に有する乳化剤を使用すると、重合安定性に加え被膜の耐水性が向上するため好ましい。
【0022】
また、本発明のアクリル系ポリマーの製造方法としては、例えば、以下の(1)〜(3)の方法が挙げられる。一般に、水分散型アクリル系ポリマーを乳化重合によって得る製造方法としては、(1)水、エチレン性不飽和単量体、重合開始剤、必要に応じて乳化剤及び分散安定剤を一括混合して重合する方法、(2)水、エチレン性不飽和単量体、乳化剤を予め混合したものを滴下する、いわゆるプレエマルジョン法、(3)モノマー滴下法等の方法が挙げられる。
【0023】
これらの中でも、(2)の方法は重合安定性が高いため好ましい。更には、予め調整した乳化液の一部を滴下した後、残りの乳化液とともに反応性乳化剤を滴下する方法がある。この方法であると、重合安定性が向上するだけでなく、得られる水分散型アクリル系ポリマーの被膜の耐水性が向上するため好ましい。後から添加する反応性乳化剤は特に制限されるものでは無いが、これらの中でも、下記一般式(1a)、一般式(1b)で表される乳化剤を使用すると、理由ははっきりしないが、被膜の強度がより高くなるため特に好ましい。
【0024】
【化1】

(式中、Rはアルキル基、nは整数を示す。)
【0025】
上記一般式で表される反応性乳化剤を添加する乳化液の割合は、全乳化液の10〜90重量%であると、被膜の強度が高くなる。また、20〜80重量%であることが好ましい。更には30〜70重量%であると、被膜の強度がより高くなるため特に好ましい。
【0026】
また、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で得られる水分散型アクリル系ポリマーの平均粒子径は特に制限されるものではない。一般的な使用範囲として考えられる50〜1000nmが好ましい。ここでの粒子の平均粒子径とは、エマルジョン粒子の体積基準での50%メジアン径をいい、数値は後記実施例に記載の動的光散乱法により測定して得られる値に基づくものである。
【0027】
また、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法により得られる水分散型アクリル系ポリマーの固形分濃度は、特に制限されるものではないが、製造時の作業性や輸送コストという点、及び乾燥して使用する際の乾燥性に優れるという点から、固形分濃度が40〜70重量%であることが好ましい。
【0028】
また、本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で得られる水分散型アクリル系ポリマーには、必要に応じて本発明の所望の効果を阻害しない範囲で、充填剤、顔料、pH調整剤、被膜形成助剤、レベリング剤、増粘剤、撥水剤、粘着付与剤、消泡剤、水溶性、或いは水分散性の架橋剤等公知のものを適宜添加して使用することができる。
【0029】
本発明の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法で得られる水分散型アクリル系ポリマーの用途は特に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例と比較例により、一層、具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。以下において、特に断らない限り、「%」は重量%、「部」は重量部をそれぞれ示すものとする。
【0031】
本発明で用いた評価方法について以下に述べる。
[測定温度25℃での引張試験での破断点強度の測定方法]
ガラス板上に乾燥後の膜厚が0.5mmとなるように後記実施例で得られた水分散型アクリル系ポリマーを塗工し、25℃で24時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に100℃で5分間乾燥したものを2号ダンベルで打ち抜き試料とした。この試料を用いて、オリエンテック社製テンシロンRTM−100型引張試験機にて、25℃の雰囲気下で、クロスヘッドスピード200mm/分で引張試験を実施した時の破断点強度を測定して決定する。
【0032】
[ラジカル濃度の計算方法]
重合性単量体成分の全量に対して、毎分発生するラジカルの濃度(C)は、以下の式で求めた。
C=c/2/t/60 (mol/l/min)
c:重合開始剤の濃度(mol/l)
t:半減期(h)
【0033】
前述の式中の半減期(t)は、以下の式で求めた。
t=ln2/k
k:分解速度定数
【0034】
前述の分解速度定数(k)は以下のArrheniusの式より求めた。
k=A×exp(−ΔE/RT)
A :頻度因子
ΔE;活性化エネルギー(J/mol)
R ;気体定数
T ;温度(K)
【0035】
[ゲル分率の測定方法]
ガラス板上に乾燥後の膜厚が0.3mmとなるように後記実施例で得られた水分散型アクリル系ポリマーを塗工し、25℃で24時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に100℃で5分間乾燥したものを50mm角に切り取り、これを試料とした。次に、予め上記試料のトルエン浸漬前の重量(G1)を測定しておき、トルエン溶液中に常温で24時間浸漬した後の試料のトルエン不溶解分を300メッシュ金網で濾過することにより分離し、110℃で1時間乾燥した後の残さの重量(G2)を測定し、以下の式に従ってゲル分率を求めた。
【0036】
ゲル分率(重量%)=G2/G1×100
【0037】
[Tgの測定方法]
後記実施例で得られた水分散型アクリル系ポリマーを乾燥後の膜厚が0.3mmとなるようにガラス板に塗工し、25℃で24時間乾燥した後、ガラス板から剥離し、更に100℃で5分間乾燥したものを試料とし、直径5mm、深さ2mmのアルミニウム製円筒型セルに試料約10mgを秤取し、TAインスツルメント社製のDSC−2920モジュレイテッド型示差走査型熱量計を用い、窒素雰囲気下で−150℃から昇温速度20℃/分で100℃まで昇温した時の吸熱曲線を測定して求めた。
【0038】
[平均粒子径の測定方法]
日機装(株)製マイクロトラックUPA型粒度分布測定装置にて測定した平均粒子径(体積基準での50%メジアン径)の値を求めた。
【0039】
<実施例1>
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、n−ブチルアクリレート300部、メチルメタクリレート190部、アクリル酸10部を加えて乳化し、乳化液A610部を得た。
【0040】
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら55℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、55℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(300部)と、過硫酸アンモニウム水溶液10部(有効成分5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(303.9部)に、アクアロンKH−10[第一工業製薬(株)製;有効成分100%]5部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調整した。
【0041】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(308.9部)と、過硫酸アンモニウム10部(有効成分5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を55℃に保ちながら3時間かけて滴下重合した。
【0042】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度50.5%、粘度200mPa・s、平均粒子径は310nmであった。
【0043】
<実施例2>
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、n−ブチルアクリレート300部、メチルメタクリレート190部、アクリル酸10部を加えて乳化し、乳化液A610部を得た。
【0044】
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら75℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、75℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(300部)と、過硫酸アンモニウム水溶液20部(有効成分1%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を75℃に保ちながら6時間かけて滴下して重合した。
【0045】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度50.9%、粘度400mPa・s、平均粒子径は280nmであった。
【0046】
<実施例3>
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、n−ブチルアクリレート300部、メチルメタクリレート190部、アクリル酸10部、ラウリルメルカプタン0.25部を加えて乳化し、乳化液A610.25部を得た。
【0047】
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら65℃まで昇温した。攪拌下、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、65℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(512.4部)と、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液17部(有効成分7.5%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を65℃に保ちながら5時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(91.5部)に、アクアロンKH−0530[第一工業製薬(株)製;有効成分30%]5部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調整した。
【0048】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(96.5部)と、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液3部(有効成分7.5%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を65℃に保ちながら1時間かけて滴下重合した。
【0049】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度49.2%、粘度190mPa・s、平均粒子径は260nmであった。
【0050】
<実施例4>
容器に、ラテムルE−118B[花王(株)製;有効成分25%]10部と脱イオン水100部を入れ、均一に溶解した。そこに、n−ブチルアクリレート300部、メチルメタクリレート190部、アクリル酸10部を加えて乳化し、乳化液A610部を得た。
【0051】
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、ラテムルE−118Bを0.2部と、脱イオン水375部を入れ、窒素を吹き込みながら80℃まで昇温した。攪拌下、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液5.2部を添加し、続いて乳化液Aを6.1部仕込み、80℃を保ちながら1時間で重合させた。引き続き、残りの乳化液Aの一部(422.7部)と、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液14部(有効成分2%)を、別々の滴下漏斗を使用して反応容器を80℃に保ちながら4時間かけて滴下して重合した。この間、滴下しなかった乳化液A(181.2部)に、アクアロンKH−0530[第一工業製薬(株)製;有効成分30%]8.3部を加え、均一になるまで攪拌し、乳化液Bを調整した。
【0052】
乳化液Aの滴下終了後、直ちに乳化液B(189.5部)と、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)水溶液6部(有効成分2%)を別々の滴下漏斗を使用して反応容器を80℃に保ちながら2時間かけて滴下重合した。
【0053】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度49.8%、粘度150mPa・s、平均粒子径は340nmであった。
【0054】
【表1】

【0055】
<比較例1>
単量体混合物、重合開始剤として第2表に示したものを用いた以外は、実施例1と全く同様にして本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。この水分散型アクリル系ポリマーの平均粒子径(50%メジアン径)、固形分濃度、粘度は第2表に記載した通りであった。また、この水分散型アクリル系ポリマーを用いて得た被膜の引張試験での強度、重量平均分子量、ガラス転移温度(実測Tg)、ゲル分率(トルエン不溶解分率)の評価結果を第2表に示した。
【0056】
<比較例2>
単量体混合物、重合開始剤、A液とB液の使用比率として第2表に示したものを用いた以外は、実施例1と全く同様にして本発明の水分散型アクリル系ポリマーを得た。この水分散型アクリル系ポリマーの平均粒子径(50%メジアン径)、固形分濃度、粘度は第2表に記載した通りであった。また、この水分散型アクリル系ポリマーを用いて得た被膜の引張試験での強度、重量平均分子量、ガラス転移温度(実測Tg)、ゲル分率(トルエン不溶解分率)の評価結果を第2表に示した。
【0057】
<比較例3>
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計、滴下漏斗を備えた反応容器に、アクアロンKH−10を1部と、脱イオン水290部を入れ、窒素を吹き込みながら85℃まで昇温した。攪拌下、過硫酸アンモニウム0.02部を添加し、続いてn−ブチルアクリレート164部、メチルメタクリレート20部、メタクリル酸12部からなる単量体混合物に、アクアロンKH−10を3部と脱イオン水60部を加えて乳化させた乳化液の一部(5部)を添加し、反応容器内温度を85℃に保ちながら1時間で重合させた。引き続き、反応容器内温度を85℃に保ちながら残りの乳化液(254部)と、過硫酸アンモニウムの1%水溶液20部を、別々の滴下漏斗を使用して、反応容器内に2時間かけて滴下し重合した。その後、反応容器内温度を85℃に保ちながら、アンモニア水(有効成分10%)15部を30分かけて滴下した。
【0058】
引き続き、反応容器内温度を85℃に保ちながら、n−ブチルアクリレート60部、メチルメタクリレート124部、グリシジルメタクリレート8部からなる単量体混合物と、過硫酸アンモニウムの1%水溶液20部を、別々の滴下漏斗を使用して、反応容器内に3時間かけて滴下し重合した。
【0059】
滴下終了後、同温度にて2時間攪拌した後、内容物を冷却し、pHが8.0になるようにアンモニア水(有効成分10%)で調整した。これを200メッシュ金網で濾過し、水分散型アクリル系ポリマーを得た。ここで得られた水分散型アクリル系ポリマーは、固形分濃度48.9%、粘度180mPa・s、平均粒子径は240nmであった。この水分散型アクリル系ポリマーの平均粒子径(50%メジアン径)、固形分濃度、粘度は第1表に記載した通りであった。また、この水分散型アクリル系ポリマーを用いて得た被膜の引張試験での強度、ガラス転移温度(実測Tg)、ゲル分率(トルエン不溶解分率)の評価結果を第1表に示した。しかし、重量平均分子量は、ポリマーがTHFへ完全に溶解しなかったため、GPCは測定できなかった。
【0060】
【表2】

【0061】
表1、2中の略号の正式名称を下記に示す。
BA ;n−ブチルアクリレート
MMA ;メチルメタクリレート
MAA ;メタクリル酸
GMA ;グリシジルメタクリレート
L−SH ;ラウリルメルカプタン
APS ;過硫酸アンモニウム
CVA ;4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレート類を含有する重合性単量体成分を水性媒体存在下で乳化重合する製造方法であって、使用する重合開始剤量から計算上求められるラジカル発生量が、重合性単量体成分の全量に対して、毎分2〜150×10−13mol/lであり、かつ該製造方法によって得られる水分散体の、THFに溶解する成分の重量平均分子量が30万以上であることを特徴とする水分散型アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項2】
乳化重合時の反応容器内の温度が、30〜90℃である請求項1記載の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項3】
乳化重合時に使用する重合開始剤が、過硫酸塩系開始剤、またはアゾ系開始剤であることを特徴とする、請求項1または2記載の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記重合性単量体成分と界面活性剤水溶液とを含有する乳化液を水性媒体が存在する反応容器内に連続して供給して反応する製造方法であって、第1段階目の反応として前記乳化液の全滴下量の10〜90重量%を供給し反応する反応工程(I)と、残りの乳化液と前記重合性単量体成分と重合し得る不飽和基を分子中に含む界面活性剤とを同時に連続して供給して反応する工程(II)を有する請求項1、2または3に記載の水分散型アクリル系ポリマーの製造方法。

【公開番号】特開2006−233123(P2006−233123A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53108(P2005−53108)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】