説明

水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物

【課題】 厚塗りしても塗膜にクラックが入らず、かつ、フィルム強度とガラス密着性、安全性が高い水分散型ガラス瓶用保護コート剤を提供することにある。
【解決手段】 不飽和カルボン酸のカルボキシル基の50〜95%が一価または二価の金属イオンで中和されたエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の水分散体を必須成分として含有する水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物でありまた、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンと不飽和カルボン酸の含有割合は、エチレン86〜95モル%に対して不飽和カルボン酸5〜14モル%の割合であり、かつ、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)20,000〜100,000である水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚塗り可能で耐衝撃保護性と耐汚染性が優れた、水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス瓶は耐衝撃性が低いため割れ難くし、また、例え割れても破片が飛び散るのを防ぐ目的で樹脂フィルムで覆うなどの安全対策を講じている。一般に、ガラス瓶はシュリンクフィルムを用いたりや樹脂溶液などにディッピングする方法により保護コートされる。しかし、地球環境保全に対する関心の高まりを背景にしたVOC排出規制の強化等からコ―ティング分野でも従来の溶剤型から水分散型への転換が進んでいる。現在、水分散型ポリウレタンがガラス瓶の保護コート剤として使用されているが、このコート剤を用いると、垂れたソースやケチャップがガラス瓶に付着すると容易に除去できなくなるという問題がある。また、食品を充填するガラス瓶のコート剤としては、ポリウレタンは安全性に問題がある。
一方、既にエチレン−アクルル酸またはエチレン−メタクリル酸共重合体を金属イオンで中和した各種のアイオノマーエマルションが上市され、食品包装用等のアルミ箔や紙のヒートシール剤として使用されている(特許文献1)。これらのアイオノマーエマルションはポリオレフィンに属して表面張力が低いため耐汚染性が優れ、フィルム強度とガラス密着性、安全性も高い。しかし、アイオノマーエマルションは塗膜が数十μmになるよう塗布して焼き付けるとクラックが入り、ガラス瓶の保護コート剤としては不適であることがわかった。一方、アンモニア等のアミンで中和したアイオノマーは焼き付けてもクラックは入らないものの、フィルム強度が低く、アミンを使用している関係上、安全性や臭気の問題があるので、食品用ガラス瓶のコート剤としては好ましくない。そこで、厚塗りしても塗膜にクラックが入らず、かつ、フィルム強度とガラス密着性、安全性が高い水分散型ガラス瓶用保護コート剤を開発するため種々検討した。
【特許文献1】特開昭55−98242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、従来の問題点であるクラックの発生を抑えた、すなわち、厚塗りしても塗膜にクラックが入らず、かつ、フィルム強度とガラスに対する密着性、安全性が高い水分散型ガラス瓶用保護コート剤耐水性を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意研究の結果、特定のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体を一価または二価のアルカリ金属で部分中和した特定のアイオノマー樹脂が耐水性と低温ヒートシール性に優れることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明は以下の(1)〜(5)で特定される。
(1)不飽和カルボン酸のカルボキシル基の50〜95%が一価または二価の金属イオンで中和されたエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の水分散体を必須成分として含有する水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
(2)エチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンと不飽和カルボン酸の含有割合は、エチレン86〜95モル%に対して不飽和カルボン酸5〜14モル%の割合であり、かつ、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)20,000〜100,000である水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
(3)不飽和カルボン酸がアクリル酸またはメタクリル酸である水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
(4)金属イオンがNaイオンまたはKイオンである水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
(5)水分散体の平均粒径が0.01〜0.5μm以下である水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の水分散型コート剤用組成物によれば、厚塗りしても塗膜にクラックが入らず、ガラス、紙、アルミ箔に対する密着性が高くて耐衝撃保護性と耐汚染性が優れるため、特に、ガラス瓶保護コート剤として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明の水分散型ヒートシール剤用組成物(以下、組成物と略す)の主成分であるエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、特定の不飽和カルボン酸共重合体を含み、また、特定の分子量を有している。そして、該重合体は、水中では側鎖のカルボキシル基が部分的に金属イオンで中和されてアイオノマー樹脂となり、小粒径粒子となった状態で分散している。このアイオノマ−樹脂の主鎖を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよいが、透明性が優れる点で、エチレン−不飽和カルボン酸ランダム共重合体が好ましい。
【0009】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、GPCで測定した重量平均分子量(MW)が20,000〜100,000の範囲が好ましく、特に、25,000〜80,000が好ましい。分子量が20,000未満の場合は、厚さ数十μmに塗布して焼き付けるとクラックが入り易い。また、分子量が100,000を越えると、ガラス密着性が低くなり易い。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の成分である不飽和カルボン酸としては、炭素数3〜8の不飽和カルボン酸などを挙げることができる。炭素数3〜8の不飽和カルボン酸の具体的例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、シトラコン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、グルタコン酸などを挙げることができる。これらの中では、特に、アクリル酸が好ましい。
【0010】
また、このアイオノマー樹脂の主鎖を構成するエチレン−不飽和カルボン酸共重合体は、エチレンと不飽和カルボン酸に加えて第3成分を含んでいてもよい。この第3成分としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸イソブチルなどの不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニルエステルを挙げることができる。このエチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンと不飽和カルボン酸の含有割合は、エチレン86〜95モル%に対して、不飽和カルボン酸5〜14モル%の割合であり、好ましくは、エチレン87〜94重量部に対して、不飽和カルボン酸6〜13重量部の割合であり、特に、エチレン88〜93重量部に対して、不飽和カルボン酸7〜12重量部の割合であることが好ましい。また、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体が第3成分を含む場合は、第3成分は20モル%以下の量で存在することが好ましい。
【0011】
エチレン含有割合が上記の範囲外にあって高すぎる場合は、分散体の粒径が大きくなり安定した分散体が得られず、また、強度をだすため厚さ数十μmに塗布して焼き付けるとクラックが入り易い。一方、逆に低すぎる場合には、耐汚染性が悪化し易い。
このアイオノマー樹脂において、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の側鎖であるカルボキシル基は部分的に一価または二価の金属イオンで中和されている。三価の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂では、平均粒径が大きくなり安定した水分散体が得られない。
【0012】
本発明において、アイオノマー樹脂を中和する一価の金属イオンとしては、NaイオンとKイオン、Liイオン、Rbイオンを挙げることができる。また、二価の金属イオンとしては、MgイオンとCaイオン、Znイオンなどを挙げることができる。勿論、これらの金属イオンを2種類以上併用することもできる。これらの金属イオンの中でも、NaイオンとKイオンは水分散体の粒径が小さくなり、水分散体の安定性も優れる点で好ましい。アイオノマー樹脂において、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の側鎖であるカルボキシル基の全量に対して、一価または二価の金属イオンで中和されたカルボキシル基の割合、すなわち、中和率は、50〜95%が好ましく、特に、50〜85%が好ましい。
【0013】
一価または二価の金属で中和されたカルボキシル基の割合が95%を越えると、ガラス密着性が低下し易く、一価のまたは二価の金属で中和されたカルボキシル基の割合が50%未満になると、焼き付け後の塗膜にクラックが入り易い。
水分散体の平均粒径は0.01〜0.5μmの範囲が好ましい。粒径が0.5μmを越えると、焼き付け条件によっては造膜性が低下して良好な塗膜が得られず、クラックが入る原因の一つになる。
【0014】
本組成物において、必要に応じて少量の溶剤を添加して水分散化すると、水分散体の平均粒径が小さくなり、水分散体の安定性が増すので好ましい。このような溶剤として、ベンジルアルコールとチルアルコール、エチレングリコールとグリセリン、トルエン、、キシレンなどの芳香族炭化水素などを挙げることができる。このうち、ベンジルアルコールとエチルアルコール、グリセリンが好ましく、特に、ベンジルアルコールとエチルアルコールが好ましい。添加する溶剤量は特に限定されないが、普通、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体に対して50重量%以下が好ましい。添加量が50重量%を越えても粒径はほとんど小さくならず、溶剤をほとんど使用しないという特徴を失うので、好ましくない。
【0015】
なお、本発明の組成物においては、エチレン−不飽和カルボン酸共重合体の濃度は、特に制限されず、塗装方法、塗装に使用される装置に応じて適宜調整される。通常はエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の100重量部に対して水100〜2000重量部の割合が好ましい。
本発明の組成物は、必要に応じて、各種の樹脂、配合剤等の他の成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含有してもよい。他の成分としては、水分散樹脂、有機増粘剤、無機増粘剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、濡れ性改良剤、シリカ等の充填剤等が挙げられる。本発明の組成物は、ソースやケチャップなどの食品を充填したガラス瓶などに塗布し、乾燥、硬化して塗膜を形成する。組成物の塗布は、浸漬、スプレー、刷毛塗りなどのいずれの方法によっても行うことができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0017】
[物性の測定]
分子量の測定
水分散化する前のエチレン−不飽和カルボン酸共重合体をメチルエステル化した後、下記の条件でGPC分析して分子量を測定した。
カラム:TSKgelGMH6−HT×2+TSKgelGMH6−HTL×2
検出器:示差屈折率計、 展開液:o−ジクロロベンゼン、評準物質:PS。
平均粒径の測定
Microtrac UPAを用いて分散体の平均粒径を測定した。
【0018】
[評価方法]
No.70バーコーターを使用して水分散体の乾燥後の膜厚が30μmになるようにガラス板に塗布し、150℃のエアーオーブンに1分間入れて焼き付けて水分散体を塗布したサンプル片を調製した。サンプル片について目視で塗膜のクラックの有無と密着性を評価した。
外観検査(クラックの有無評価)
エマルションを焼き付けたガラス板の塗装面にクラックが有るか否かを目視で評価した。評点結果は3段階で次のように示した。○:クラックなし、△:小さなクラックあり、×:大きなクラックあり
ガラス密着性
エマルションを塗布したガラス板を常態で3日間放置後、粘着テープを貼り付けて一気に剥がして、剥離状態を評価した。評点結果は3段階で次のように示した。○:剥離せず、△:部分剥離、×:全面剥離。
【0019】
[実施例1]
内容積1.5Lのオートクレーブにエチレン−アクリル酸共重合体(Mw:34,000、アクリル酸含量:8.9モル%)200g、水570g、NaOH(純度:96%)11.6g(中和率:50%)を入れて160℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.6%、粘度250mPa・s、pH8.9、平均粒径0.05μmであった。
No.70バーコーターを使用してこの水分散体の乾燥後の膜厚が30μmになるようにガラス板に塗布し、150℃のエア−オーブンに入れて1分間焼き付けてサンプルを作製した。このガラス板について外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。
【0020】
[実施例2]
内容積1.5Lのオートクレーブにエチレン−メタクリル酸共重合体(Mw:42,000、メタクリル酸含量:7.5モル%)200g、水570g、NaOH(純度:96%)9.2g(中和率:60%)を入れて160℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.6%、粘度250mPa・s、pH10.5、平均粒径0.02μmであった。
No.70バーコーターを使用してこの水分散体の乾燥後の膜厚が30μmになるようにガラス板に塗布し、150℃のエア−オーブンに入れて1分間焼き付けてサンプルを作製した。このガラス板について外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。
【0021】
[実施例3]
内容積1.5Lのオートクレーブにエチレン−アクリル酸共重合体(Mw:84,000、アクリル酸含量:5.0モル%)200g、水570g、KOH(純度:86%)16.3g(中和率:75%)を入れて160℃に昇温した後、2時間攪拌して水分散体を得た。得られた水分散体は、固形分濃度26.6%、粘度300mPa・s、pH10.0、平均粒径0.02μmであった。
No.70バーコーターを使用してこの水分散体の乾燥後の膜厚が30μmになるようにガラス板に塗布し、150℃のエア−オーブンに入れて1分間焼き付けてサンプルを作製した。このガラス板について外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。
【0022】
[比較例1]
中和剤にNaOH(純度:96%)6.9g(中和率:30%)を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、このガラス板について外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。なお、平均粒径は0.48μmであった。
【0023】
[比較例2]
中和剤にNaOH(純度:96%)9.3g(中和率:40%)を用いた以外は実施例1と同様にしてサンプルを作製し、このガラス板を用いて外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。なお、平均粒径は0.07μmであった。
【0024】
[比較例3]
中和剤にKOH(純度:86%)21.7g(中和率:100%)を用いた以外は実施例3と同様にしてサンプルを作製し、このガラス板について外観検査と剥離試験を行い、その結果を表1に示した。なお、平均粒径は0.01μmであった。
【0025】
【表1】





【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸のカルボキシル基の50〜95%が一価または二価の金属イオンで中和されたエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の水分散体を必須成分として含有する水分散型ガラス瓶保護コート剤用剤組成物。
【請求項2】
エチレン−不飽和カルボン酸共重合体におけるエチレンと不飽和カルボン酸の含有割合は、エチレン86〜95モル%に対して不飽和カルボン酸5〜14モル%の割合であり、かつ、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)20,000〜100,000である請求項1記載の水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
【請求項3】
不飽和カルボン酸がアクリル酸またはメタクリル酸である請求項1記載の水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
【請求項4】
金属イオンがNaイオンまたはKイオンである請求項1記載の水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。
【請求項5】
水分散体の平均粒径が0.01〜0.5μm以下である請求項1記載の水分散型ガラス瓶保護コート剤用組成物。

【公開番号】特開2006−291049(P2006−291049A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114115(P2005−114115)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】