説明

水分発生用反応炉

【課題】 白金触媒層を有する反応炉内に水素ガスと酸素ガスとを供給し、触媒反応させることにより、燃焼させることなく、水素ガスと酸素ガスとの着火点より低い触媒反応温度で高純度の水分を発生させる水分発生用反応炉において、白金触媒層の触媒性能を長期間維持するとともに、白金触媒層と反応炉母材との間に設けたバリア層に対する付着力を長期間維持することができる水分発生用反応炉を提供する。
【解決手段】 ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面に形成されたバリア層と、該バリア層上に形成された白金触媒層と、を有し、前記バリア層が、Y90〜99.5重量%と、Y以外の金属酸化物であって金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーが−200kJ/mol以下である金属酸化物0.5〜10重量%と、を含有するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金触媒層を有する反応炉内に水素ガスと酸素ガスとを供給し、触媒反応させることにより、燃焼(約2000℃)させることなく、水素ガスと酸素ガスとの着火点(500〜580℃)より低い触媒反応温度(400℃以下)で高純度の水分を発生させる水分発生用反応炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体の製造に於ける水分酸化法を用いたシリコンの酸化膜付けにおいて、超高純度の水分を連続的に供給するために用いられる水分発生用反応炉が知られている(例えば、特許文献1〜5)。
【0003】
この種の水分発生用反応炉は、例えば、図4に示すように、炉本体部材22、23を対向状に組み合せ溶接することにより、反応用の内部空間Pを有する反応炉本体が形成されており、この反応炉本体に原料ガス入口24、水分ガス出口25、入口側反射体26、出口側反射体27等を夫々設けると共に、原料ガス入口24と対向する側の炉本体部材23の内壁面に白金触媒層28bを設けることにより形成されている。
【0004】
反応炉のステンレス製母材と白金触媒層28bとの間にはバリア層28aが形成され、該バリア層によって、母材中の不純物が白金触媒層28b内に拡散することを阻止し、白金触媒層の劣化を防止している。
【0005】
バリア層28aの厚さは0.1μm〜5μm程度とされ、例えば、TiNからなるバリア層28aがイオンプレーティング法により形成されている。更に、白金触媒層28bの厚さは1nm〜0.5mmとされ、例えば、真空蒸着法により形成されている。尚、バリア層28aの形成方法としては、前記イオンプレーティング法以外に、イオンスパッタリング法や真空蒸着法等のPVD法や化学蒸着法(CVD法)、ホットプレス法、溶射法等を用いられる。また、白金触媒層28bの形成方法は、前記真空蒸着法以外に、イオンプレーティング法やイオンスパッタリング法、化学蒸着法、ホットプレス法等が用いられ、更に、バリア層28aがTiN等の導電性のある物質の時にはメッキ法も用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第97/28085号パンフレット
【特許文献2】特開2000−169108号公報
【特許文献3】特開2000−169109号公報
【特許文献4】特開2000−169110号公報
【特許文献5】特開2002−274812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来のTiN等からなるバリア層は、長期間使用すると白金触媒層の触媒性能が低下するという問題があった。また、長期使用により、バリア層への付着力(剥離強度)が低下するという問題もあった。
【0008】
白金触媒層の触媒性能の経時低下は、白金触媒層内に、母材からの不純物がバリア層を通過して拡散することが原因の一つと考えられる。
【0009】
また、白金触媒層のバリア層への付着力の経時低下は、触媒反応による活性化された酸素(Oラジカル)が白金触媒層を通過してバリア層の白金触媒層との界面付近を徐々に酸化することにより、バリア層と白金触媒層との付着力を低下させるためと考えられる。このような付着力の低下は通常の使用状態において白金触媒を剥離させる程ではないが、例えば、メンテナンス時の意図しない落下等による水分発生用反応炉への予期しない衝撃等により、白金触媒層が部分的に剥離する恐れがある。また、 白金触媒層が剥離すると、剥離した白金がコンタミネーションとなって、製造される半導体の品質に重大な悪影響を及ぼすことになる。さらに、白金触媒層が剥離すると、剥離した白金は熱容量が小さく、水素ガスと酸素ガスの触媒反応によって生じる反応熱によって温度が上昇し着火源となるため、爆発や燃焼による製造装置の損傷や安全性の問題も生じる。
【0010】
そこで、本発明は、白金触媒層の触媒性能及び白金触媒層のバリア層に対する付着力を長期間維持することができる水分発生用反応炉を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は鋭意研究の結果、Yにある種の金属酸化物を所定量添加して焼成した焼結体からなるバリア層を形成することにより、反応炉本体の母材から白金触媒層への不純物の拡散を長期間防止することにより長期間の触媒性能を維持するとともに、白金触媒層がバリア層との間に高い付着力を長期間維持できることを見出した。
【0012】
すなわち、本発明は、ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面に形成されたバリア層と、該バリア層上に形成された白金触媒層と、を有し、前記バリア層が、Y90〜99.5重量%と、Y以外の金属酸化物であって金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーが−200kJ/mol以下である金属酸化物0.5〜10重量%と、を含有することを特徴とする水分発生用反応炉を提供する。
【0013】
前記金属酸化物は、La、CeO、Ce、MgO、及びThOからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
前記反応炉本体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることが好ましい。
【0015】
少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることが好ましい。
【0016】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることが好ましい。
【0017】
前記反射体を形成する触媒活性を有しない材料は、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、又は銅合金であることが好ましい。
【0018】
前記反応炉本体の内部空間内の前記白金触媒層を有しない部位が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることが好ましい。
【0019】
前記水分発生用反応炉は、少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることが好ましい。
【0020】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることが好ましい。
【0021】
前記触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層は、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、及び、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料により形成されることが好ましい。
【0022】
前記触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層は、前記バリア層と同一材料によって形成しても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、Y90〜99.5重量%と、Y以外の金属酸化物であって金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーが−200kJ/mol以下である金属酸化物0.5〜10重量%と、を含有するバリア層を用いることにより、バリア性能の経時劣化と白金触媒層との付着力の経時低下とを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】バリア性能の評価試験結果を示すグラフである。
【図2】白金触媒層とバリア層との付着力を評価した試験結果を示すグラフである。
【図3】比較例について白金触媒層のTiNバリア層への付着力を試験した結果を示すグラフである。
【図4】従来の水分発生用反応炉の一形態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る水分発生用反応炉の実施形態について、以下に図1〜4を参照して説明する。なお、本発明は、主としてバリア層28aの材料が異なる点を除き、水分発生用反応炉の構造は従来と同様であるので、図4を参照する。
【0026】
水分発生用反応炉は、出口側の炉本体部材23の内壁面にバリア層が成膜され、該バリア層上に白金触媒層28bが成膜されている。本発明のバリア層は、Yと、金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfが−200kJ/mol以下である(Y以外の)金属酸化物と、を所定範囲の比率で含有する焼結体によって形成される。
【0027】
ここで、Y以外の上記金属酸化物が、金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfが−200kJ/molを越えるものであると、長期間の使用により炉体本体部23から該バリア層を通過して白金触媒層28b内に拡散する不純物の量が増加し、バリア性能を経時劣化させる場合があるため、好ましくない。
【0028】
金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfが−200kJ/mol以下の金属酸化物は、例えば、Ta、SiO、TiO、ZrO、Al、HfO、La、CeO、Ce、MgO、ThOであり、これらの金属酸化物を1種または2種以上を混合して用いることができる。これらの金属酸化物の中でも、La、CeO、Ce、MgO、ThOは、金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfが、Yに次いで低い値であるため好ましく、特にCeO若しくはCeはYと混合することにより400℃程度で焼結できるためより好ましい。
【0029】
上記のような金属酸化物における金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfは、Ta−O結合が−205kJ/mol、Si−O結合が−228kJ/mol、Ti−O結合が−228kJ/mol、Zr−O結合が−275kJ/mol、Al−O結合が−279kJ/mol、Hf−O結合が−286kJ/mol、La−O結合が−299kJ/mol、CeOのCe−O結合が−272kJ/mol、CeのCe−O結合が−299kJ/mol、Mg−O結合が−301kJ/mol、Th−O結合が−306kJ/molである。ちなみに、YのY−O結合は、ΔHf=−318kJ/molである。
【0030】
本発明のバリア層は、Y90〜99.5重量%と、金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーΔHfが−200kJ/mol以下である(Y以外の)金属酸化物0.5〜10重量%を含有してなり、好ましくは、Y95〜99重量%と前記ΔHf値(−200kJ/mol以下。以下同様。)の金属酸化物1〜5重量%とを含有してなる。Yと前記ΔHf値の金属酸化物との合計を100%とした場合に、前記ΔHf値の金属酸化物の含有率が、0.5重量%未満であるか若しくは10重量%を越えるとバリア性能が経時劣化する傾向があるため、好ましくない。これは、Y90〜99.5重量%と前記ΔHf値の金属酸化物0.5〜10重量%からなるバリア層は、前記ΔHf値の金属酸化物がYの格子欠陥を埋めてバリア性能を高める役割を果たすが、Yと前記ΔHf値の金属酸化物との合計を100%とした場合に前記ΔHf値の金属酸化物の含有率が10重量%を越えるとYの格子欠陥を増大させるためと考えられる。
【0031】
入口側の炉本体部材22の内壁面にも、出口側の炉本体部材23と同様に、バリア層を成膜し、該バリア層上に白金触媒層を形成することもできるが、原料ガス入口24の入口近傍で水分発生反応が活発に行なわれると入口側接続用金具等の温度が上昇し過ぎるおそれがあるため、入口側の炉本体部材22の原料ガス入口24の中心から少なくとも半径10mm位の範囲、望ましくは半径15〜25m位の範囲には白金触媒層を形成しないことが望ましい。
【0032】
反応炉本体の母材には、例えば、SUS316L等のステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼が用いられ得る。反応炉本体がステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼のようにOやHに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料により形成されている場合は特に、炉内の白金触媒層が形成されていない部分は、酸素及び水素に対する触媒活性を有しない非触媒性層を、母材による触媒活性を妨げるための被膜として成膜しておくことが望ましい。そのような非触媒性層の材料としては、TiN、TiC 、TiCN 、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、Yを挙げることができるが、本発明の上記バリア層と同じ材料を用いることもできる。なお、これらの材料を2種以上用いても良い。
【0033】
このことは、反応炉本体内に反射体26,27が設けられている場合には、当該反射体26,27についても同様である。すなわち、反射体26,27の母材が、OやHに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料である場合には、反射体26,27の表面に酸素及び水素に対する触媒活性を有しない非触媒性層を成膜することが望ましい。
【0034】
なお、母材による触媒活性を妨げるための非触媒性層として本発明の上記バリア層と同じ材料を用いる場合、炉本体部材23,24の内面全面に、上記した本発明のバリア層と同じ材料からなる被膜を形成した後、その被膜上の所望部分のみに白金触媒層28bを成膜することができる。
【0035】
反射体26,27は、反応炉内に対向して配置され得る。反射体26,27は、図示例ではディスク状に形成されているが、反応炉の内部空間P内へ流入した混合ガスとの衝突により混合ガスを拡散させる効率を高めることができるものであれば、その形態は限定されない。入口側の反射体26は、入口側の炉本体部材22と一定の間隙を介して原料ガス入口24を遮るように、スペーサー31を介して固定ネジ30により炉本体部材22に固定されている。出口側の反射体26もまた、出口側の炉本体部材22と一定の間隙を介して原料ガス入口24を遮るように、スペーサー31を介して固定ネジ30により炉本体部材23に固定されている。反射体は、螺子止めに限らず、溶接等の他の固定手段により固定することもできる。なお、図示例では一対の反射体を備える例を示したが、反射体は一つでもよく、その場合、好ましくは出口側の反射体27のみが設けられ得る。
【0036】
原料ガス入口24を通して反射体26へ向けて噴射された酸素と水素の混合ガスは、反射体26へ衝突した後に内部空間P内で拡散され、拡散された混合ガスは、白金触媒層28bの全面に亘って略均等に衝突接触することにより所謂触媒活性化され、HとOとが反応することにより水分ガスが生成される。また、内部空間P内に形成された水分ガスは、出口側の反射体27と出口側の炉体本体部材23との隙間Lを通して水分ガス出口25へ導出されて行く。
【0037】
反応炉の炉本体部材22,23の母材及び反射体26、27の母材として、ステンレス鋼、ニッケル合金鋼、ニッケル鋼のようにOガスやHガスに対して触媒活性作用を及ぼし得る材料に代えて、OガスやHガスに対して触媒活性作用を及ぼさない材料、例えば、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、銅合金を用いても良い。
【0038】
反応炉の炉本体部材22,23の母材を上記した鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、銅合金のような触媒活性を有しない材料によって形成した場合には、内部空間内の前記バリア層を設けた部分以外の部分では、これ等の非触媒性材の外表面に、内部ガスや内部金属組成材の外部への放出を防止するための適宜の表面処理を施すことが望ましい。前記表面処理としては、耐食性、耐還元性及び耐酸化性に優れた非触媒性層を成膜することができる。そのような非触媒性層としては、TiN、TiC 、TiCN 、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、Yを用いることができるが、これらの材料を2種以上用いても良いし、本発明バリア層と同じ材料を用いても良い。なお、この場合も、前記表面処理の非触媒性層として本発明バリア層と同じ材料を用いる場合は、本発明の上記バリア層を白金触媒層の下層以外の所望部分にも形成することで、バリア層と非触媒性層とを同時に形成することができる。反射体26,27についても、上記と同様の記表面処理を施すことが好ましい。
【0039】
本発明のバリア層は、例えばゾル−ゲル法によって好適に形成することができ、ステンレス鋼等で形成された炉本体の母材上に、例えばイットリウムアルコキシドの有機溶剤溶液と、セリウムアルコキシドの有機溶剤溶液とを所要割合にて混合した混合液を、スピンコーティング、ディップコーティング、又はスプレーコーティング等によって塗布し、塗膜を乾燥させた後、酸素雰囲気中で400〜600℃×1〜5時間焼成することによって成膜することができる。
【0040】
なお、TiN 、TiC 、TiCN 、TiAlN 、Al、Cr、SiO、CrN、或いはYは、イオンプレーティング法、スパッタリング法、真空蒸着法等のPVD法や化学蒸着法(CVD法)、ホットプレス法、溶射法等を用いて、厚さ0.1〜5μmに形成することができる。なお、Yは、上記バリア層と同様にゾル−ゲル法によって形成することもできる。
【0041】
上記バリア層を上記ゾル−ゲル法のような湿式法により成膜する場合、1回の塗布及び焼成で膜厚50nm程度の皮膜を得ることができるので、必要に応じて所望膜厚(例えば、100nm、300nm)になるまで塗布及び焼成を複数回繰り返す。
【0042】
ステンレス母材中の不純物が白金触媒層に拡散するのを防ぐバリア性能を高めるためにはバリア層の膜厚がより厚い方が好ましいが、コーティング回数及び焼成回数の増加等によるコストアップとなるため、バリア層の膜厚は、300nm以下とすることが好ましい。
【0043】
一方、イットリウムは高価な材料であるためバリア層の膜厚をより薄くしてコスト低減を図ることが好ましいが、バリア層の膜厚が薄過ぎるとバリア性能を低下させる恐れがあり、しかもその膜厚の制御も困難になるため、バリア層の膜厚は、通常は100nm以上としているが、50nm以上あればその機能を発揮することが出来る。
【0044】
なお、バリア層は、製造設備のコスト削減の観点からゾル−ゲル法によって成膜することが好ましいが、それに限らず、溶射法、PVD法、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって成膜することもできる。溶射法等の乾式法によれば、前記湿式法の如く同じ工程を繰り返さなくてもバリア層の膜厚を厚くすることができるが、乾式法の場合であっても、材料コストを考慮すればバリア層の膜厚を5μm以下とすることが好ましい。
【0045】
前記バリア層上に形成される白金触媒層は、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、化学蒸着法、ホットプレス法等によって成膜することができる。
【0046】
白金触媒層の膜厚は、0.1μm〜3μm(100nm〜3000nm)とすることが好ましい。すなわち、白金触媒層は、薄過ぎると触媒としての機能及び前記保護膜としての機能を十分に果たせなくなるため、0.1μm(100nm)以上とすることが好ましい。一方、白金触媒層は、触媒としての機能、及び、後述するようにバリア層の保護膜としても機能を考慮すれば、膜厚を厚くする方が好ましいが、厚すぎるとコスト高となるため、3μm(3000nm)以下とすることが好ましく、0.5μm(500nm)以下とすることがより好ましい。
【0047】
本発明を、更に以下の実施例により明らかにするが、以下の実施例は本発明を単に例示するものである。
【0048】
実施例
[実施例1]
まず、SUS316L製の円形基板(直径35mm×厚さ3mm)を用意した。Yコート材(株式会社高純度化学研究所製 YYK01LB Y−03:褐色液体:酸化物濃度3重量%)97.5重量%とCeOコート材(株式会社高純度化学研究所製 CEK01LB Ce−03:黄褐色液体:酸化物濃度3重量%)2.5重量%との混合液を、スプレーノズルよって基板上に吹き付けて塗布し、乾燥させた後、O/N比20%の酸化雰囲気中で500℃×1時間の加熱処理(焼成)を施した。一度の塗布及び加熱処理により、約50nmの膜厚のバリア層を成膜した。
【0049】
次いで、得られたバリア層上に、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製AAIF―T12100SB型)を用いて白金触媒層を以下のようにして成膜した。
【0050】
すなわち、アルゴンイオンのボンバード(Arボンバード)によりバリア層表面の酸化膜等を除去した後、イオンプレーティング処理により白金触媒層を成膜した。Arボンバードは、Ar流量260sccm、基板バイアス−1500V、処理時間10分とした。成膜工程では、基板バイアス−500V、イオン化電極50V、成膜速度0.025μm/分、EB電圧9kVとし、膜厚が0.28μm(280nm)の白金触媒層を形成した。
【0051】
[実施例2]
実施例1と同様にして、膜厚100nmのバリア層を基板上に成膜し、そのバリア層の上に膜厚0.28μm(280nm)の白金触媒層を成膜した。
【0052】
比較例
[比較例1]
CeOを添加しない以外は実施例1と同様の方法によって、Ceを含有しない膜厚50nmのバリア層を基板上に成膜し、得られたバリア層上に膜厚0.28μm(280nm)の白金触媒層を成膜した。
【0053】
[比較例2]
CeOを添加しない以外は実施例1と同様の方法によって、Ceを含有しない膜厚100nmのバリア層を基板上に成膜し、そのバリア層の上に膜厚0.28μm(280nm)の白金触媒層を成膜した。
【0054】
[比較例3]
TiN膜をバリア層とし、そのTiNバリア層上に白金触媒層を形成した。TiNバリア層は、カソードアーク方式イオンプレーティング装置を用いて成膜し、膜厚を3μmとした。成膜したTiNバリア層の上に、イオンプレーティング装置(神港精機株式会社製AAIF―T12100SB型)により、0.3μm(300nm)の白金触媒層を成膜した。
【0055】
試験方法
[バリア性試験]
実施例1,実施例2及び比較例1,比較例2の試料を、550℃の高温雰囲気中で600時間加熱して環境加速を行い、白金触媒層中のFe含有量の変化を調べた。環境加速試験機には、アズワン株式会社製小型プログラム電気炉(型番MMF−1)を用い、Feの含有量は、EDAX Inc.製EDX分析装置(型番GENESIS XM2)を用いた。試験条件は、以下の通りとした。
【0056】
試験結果を、図1のグラフに示す。図1のグラフから明らかなように、実施例1,実施例2は、比較例1,比較例2に比べて、600時間経過後に、白金触媒層中のFe含有率が少ないことが分かる。すなわち、実施例1,実施例2のバリア層は、母材からの白金触媒層への不純物の移行を阻止するバリア機能の経時劣化が少ないことが確認された。
【0057】
なお、実施例1,実施例2、および比較例1,比較例2の0時間加熱(加熱前)のFe含有率が約14%を示しているが、これはPtとYを合わせた膜厚が0.33μm〜0.38μm(330nm〜380nm)と薄いため、EDX分析で下地のSUS316LのFe成分が一部測定されたものである。
【0058】
[付着力試験]
次に、実施例2と比較例2,比較例3について、白金触媒層のバリア層への付着力試験を行った。試験装置は、アドヒージョンテスター(塗膜付着力試験機、コーテック株式会社製Type 0610型)を用いた。
【0059】
試験装置に付属のドリーを、所定のエポキシ樹脂系接着剤を用いて、白金触媒層に接着させた。ドリーを接着した試料を、高温空気雰囲気で1000時間加熱して環境加速を行いつつ、50時間毎にアドヒージョンテスターによる剥離強度測定を行った。高温雰囲気温度は、実施例2は550℃、比較例2は500℃と550℃、比較例3は500℃とした。
【0060】
図2に、実施例2と比較例1、比較例2の試験結果を示し、図3に比較例3の試験結果を示す。
【0061】
図2及び図3のグラフを参照すれば、比較例3では200時間経過後に付着力が極端に低下しているが、実施例2、比較例1,比較例2については600時間経過時でも付着力が殆ど低下していないことが分かる。実施例2と比較例3から、TiNバリア層(3μm)よりずっと薄い膜厚(100nm)であっても、TiNバリア層よりも高い付着力を維持することが分かった。
【0062】
上記のバリア性試験と付着力試験より、本発明のバリア層の膜厚を制御することにより、チタンに比べて高価なイットリウムを使用しても、TiNバリア層と同等又はそれ以下のコストで、より優れたバリア性能と付着性能を有するバリア層を形成することができることが確認された。
【符号の説明】
【0063】
22、23 炉本体部材
24 原料ガス入口
25 水分ガス出口
26 入口側反射体
27 出口側反射体
28a バリア層
28b 白金触媒層
30 固定ネジ
31 スペーサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス入口及び水分出口が設けられた反応炉本体と、前記反応炉本体の内壁面に形成されたバリア層と、該バリア層上に形成された白金触媒層と、を有し、
前記バリア層が、Y90〜99.5重量%と、Y以外の金属酸化物であって金属原子と酸素原子との単結合1mol当たりの標準生成エンタルピーが−200kJ/mol以下である金属酸化物0.5〜10重量%と、を含有することを特徴とする水分発生用反応炉。
【請求項2】
前記金属酸化物が、La、CeO、Ce、MgO、及びThOからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項3】
前記反応炉本体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項4】
少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項5】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料によって形成されていることを特徴とする請求項4に記載の水分発生用反応炉。
【請求項6】
前記触媒活性を有しない材料が、鉄−クロム−アルミ合金、アルミ合金、又は銅合金であることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の水分発生用反応炉。
【請求項7】
前記反応炉本体の内部空間内の前記白金触媒層を有しない部位が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項8】
少なくとも1枚の反射体を前記反応炉本体内に更に備え、該反射体が、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることを特徴とする請求項1に記載の水分発生用反応炉。
【請求項9】
前記反射体は、前記ガス入口及び前記水分出口の少なくとも一方を所定間隔を介して遮るように、前記反応炉本体にスペーサーを介して固定ネジによって固定されており、前記スペーサー及び前記固定ネジが水素及び酸素に対して触媒活性を有しない材料からなる非触媒性層によって被覆されていることを特徴とする請求項9に記載の水分発生用反応炉。
【請求項10】
触媒活性を有しない材料からなる前記非触媒性層が、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al、Cr、SiO、CrN、及び、Yからなる群から選ばれる少なくとも1種の材料により形成されていることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の水分発生用反応炉。
【請求項11】
触媒活性を有しない材料からなる前記非触媒性層が、前記バリア層と同一材料により形成されていることを特徴とする請求項7〜9の何れかに記載の水分発生用反応炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36027(P2012−36027A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175790(P2010−175790)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【Fターム(参考)】