説明

水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング削孔時の地盤判定および割れ目判定方法および装置

【課題】水圧によりビット直上で打撃エネルギーを発生させることで地盤削孔を行う水力式ダウンザホールハンマーを用いたボーリング孔削孔の利点が発揮できる、大深度ボーリング、地下水面以下の掘削、騒音の発生が規制されるような環境条件において、地盤の硬軟および空洞、割れ目などを検知し、地質、風化・劣化状況などを精度よく判定し、結果をリアルタイムで表示することができる水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング削孔時の地盤判定および割れ目判定方法および装置を提供することにある。
【解決手段】削孔パラメータ収録部、解析・地盤状況判定部、結果表示部の3つの機構から構成され、削孔パラメータ収録部は、水力式ダウンザホールハンマー型ボーリングマシンおよび/またはその付属設備に対して計測装置を取り付け、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、削孔速度、送水流量、送水圧力の値を収集し、地盤状況判定部では独自の判定式・評価指標により地盤を評価し、結果表示部ではこれをリアルタイムで表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力式ダウンザホールハンマー型ボーリングマシンにより地盤掘削を行いながら、リアルタイムで地盤状況(硬軟、空洞・割れ目の有無・位置など)を把握し、地質、風化劣化状況などを判定する水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の地下利用は大深度にまで及ぶ場合が多く、調査や工事、あるいはその後のモニタリングなどのために、地下深部まで能率よくボーリング孔を削孔する方法が求められるようになっている。
【0003】
さらに、都市部やあるいは山間の自然が豊かな条件で掘削する場合、騒音が問題となることが多く、そのため騒音の少ない方法が求められるようになってきている。
【0004】
また、もう一つの要求として、工事の効率化・コストダウンの視点から、できるだけ簡便な方法で地盤状況を迅速に把握する方法が求められるようになってきている。特に大深度ボーリングでは、経済性・迅速性が主要な課題となる場合が多い。
【0005】
ボーリング孔を利用した地質状況の把握手法としては、コア採取やボアホールスキャナ観察がある。いずれも地盤状況の把握精度は高い手法であるが、手間と多大な費用がかかるため、例えばボーリング孔が多い場合は、すべての孔でこの手法を用いることは現実的ではないという問題がある。
【0006】
これに対し、下記特許文献のように、ボーリング孔削孔時に、削孔データを収集し、そのデータをもとに地盤状況を推定しようとする探査技術が開発されていて、これは、ボーリング孔削孔時に得られるデータから地盤を推定するための指標が、迅速にかつ安価に結果が得られるというメリットがある。
【特許文献1】特開平11−200355号公報(地質の調査方法)
【0007】
この特許文献1は、ロータリーパーカッションドリルを用いて地盤を削孔する際に、一定深度毎に、ロッドの押込み力とロッドの回転に要する回転トルクの関係を求め、その関係からトルク増加勾配At(=回転トルク増分/押込み力の増分)を求め、土質毎のトルク増加勾配Atの分布を求めることにより土質判別を行うものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
地盤にボーリング孔を削孔するボーリングマシンのうち、打撃と推力と回転により地盤を削孔するタイプのマシンであるロータリーパーカッション式マシンは、打撃発生機構が地上にあるトップハンマー式と、孔内のビット直上にあるダウンザホールハンマー式に大別される。前記特許文献1のロータリーパーカッションドリルもトップハンマー式のものである。
【0009】
後者のダウンザホールハンマー式のものはさらに、エア圧で打撃を発生させるものと、水圧で打撃を発生させるものに分けることができる。
【0010】
水力式ダウンザホールハンマーは、ビット直上で大きな打撃力を発生させて削孔を行うため、打撃機構が地上部にあるマシンに比べ、ロッド伝達時のエネルギーの減衰がなくエネルギロスが非常に小さく削孔能率がよいという利点がある。さらに、エア式のダウンザホールハンマーに比べると、騒音が少なく粉塵が出ない、地下水位面以下でも掘削が可能という利点をもつ。
【0011】
したがって、水力式ダウンザホールハンマーを用いたボーリングマシン(以下、水力式ダウンザホールハンマー型マシンと記す)に、前記のような削孔パラメータから地盤状態を判定する装置を装着し、地盤の判定を行いながら大深度まで削孔を行う方法は、実用上非常に効果の高い技術となる。
【0012】
これには、前記トップハンマー式ボーリングマシン用の装置を、そのまま水力式ダウンザホールハンマー型マシンに装着して適用する場合が考えられる。これは水力式ダウンザホールハンマー型マシンが、ロータリーパーカッション式マシンと共通のベースマシンを使用しているため可能となる。
【0013】
しかし、水力式ダウンザホールハンマー型マシンは、ビット直上で打撃力を発生させる機構であるため、地上部にある油圧機構から作動油圧を測定することにより打撃エネルギーを算出している従来の手法では、打撃力を把握することが出来ないという問題がある。打撃圧力を常時一定として削孔すれば地盤の判定が可能であるが、このやり方では、本来大きな打撃力を有する点に利点のある水力式ダウンザホールハンマー型マシンの打撃力に大幅な制限を加えることになり、長所を生かすことが出来ない。また軟質地盤におけるボーリング孔削孔時に必要以上に打撃力を加えると、孔壁崩壊を招くなど地盤を傷めてしまうことにもなりかねない。
【0014】
さらに、水力式ダウンザホールハンマー型マシンでは、ビットの磨耗による打撃力の低下という現象が生ずるが、トップハンマー型マシン用の判定装置ではこれを考慮してデータを補正することが出来ず、判定精度を大きく低下させることになる。
【0015】
このように大深度ボーリングにおいて、トップハンマー式ボーリングマシンを使用した現行の地盤判定法、あるいはトップハンマー用の判定装置を水力式ダウンザホールハンマー型マシンに適用して地盤の判定を行うことは、削孔作業能率および地盤判定精度の両方の面で多くの問題を有しており、大深度ボーリングへの適用の要請には十分答えることが出来ない。
【0016】
なお、水力式ダウンザホールハンマーを用いたボーリング孔削孔で、削孔パラメータを収録しながら地盤を判定するという手法を採用した場合に、既存のロータリーパーカッション用で用いている地盤判別手法をそのまま違うボーリングマシン・ツールスに適用しているだけでは、削孔速度が地盤状態に応じて速度が変わることを利用してこれを地盤状態の判定基準するものとなる。
【0017】
しかし削孔速度は、打撃力・回転圧力、給圧等の削孔仕様を変えた場合にも変化する(特に打撃力の影響が極めて大きい)。削孔仕様の影響を除外するためには、例えば打撃力を常時一定にして削孔すればよいが、実際の削孔では地盤状態に応じて頻繁に打撃力や給圧を変更しており、変更しないと、せっかくの打撃力を生かせなかったり(固い地盤でも低い打撃力で時間をかけて削孔することになる)、あるいは、脆弱な地盤を過大な打撃力で掘削し孔壁をいためてしまうなどの問題がでる。
【0018】
また水力式ハンマーではビットの磨耗で、地上部で送水圧力を一定にしても、発生する打撃力が変化するということが起こるため、常時打撃力を一定にするということは非常に難しいという問題もある。
【0019】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、このような高水圧によりビット直上で打撃エネルギーを発生させることで地盤削孔を行う、水力式ダウンザホールハンマー型マシンの特徴が発揮できる大深度ボーリング、地下水面以下の掘削、騒音の発生が規制されるような環境条件において、地盤の硬軟および空洞、割れ目などを検知し、地質、風化・劣化状況などを精度よく判定し、リアルタイムで表示することができる水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
前記目的を達成するため、本発明は、水力式ダウンザホールハンマーを用いた地盤判定および割れ目判定方法として、第1に、削孔パラメータ収録部、解析・地盤状況判定部、結果表示部の3つの機構から構成され、削孔パラメータ収録部は、水力式ダウンザホールハンマー型マシンおよび/またはその付属設備に対して計測装置を取り付け、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、削孔速度、送水流量、送水圧力を収集し、地盤状況判定部では独自の判定式・評価指標により地盤を評価し、結果表示部ではこれをリアルタイムで表示することを要旨とするものである。
【0021】
第2に、計測装置は、ボーリングマシンの回転部の正回転圧力・逆回転圧力および給進部の押し込み圧力・引き上げ圧力を測定するものとして、作動油圧系統に設置した圧力センサー、削孔深度を測定するものとして巻上げ装置に設置した深度センサー、送水圧力を測定するものとして地上における給水系統に設置した圧力センサー、送水流量を測定するものとして地上における送・排水系統に設置した流量計であること、第3に、送水流量は、高圧ポンプへの供給水と、余剰水として戻るリターン水量を2台の流量計で測定し、その差を持ってなることを要旨とするものである。
【0022】
第4に、解析・地盤状況判定部では、正回転圧力・逆回転圧力から回転トルクを、押し込み圧力・引き上げ圧力から給進力を、削孔深度と時間から削孔速度を算出し、これらを送水圧力、送水流量とあわせて深度ごとに整理・表示すること、第5に、深度ごとに得られた削孔パラメータから以下の判定式により削孔エネルギーの指標値Eを算出し、この値にしきい値を設け、これにより地盤の硬軟、空洞部、割れ目を判別することを要旨とするものである。
E=(α×V×A)/(Q×P)
V:掘進速度(m/分)
A:削孔断面積(m2
Q:送水流量(m3/分)
P:送水圧力(MPa)
α:給進力による補正係数
【0023】
第6に前記E値による判定に加え、送水流量と送水圧力の変化を指標として、開口割れ目の検知を行うことを要旨とするものである。
【0024】
第7に、結果表示部では、解析・地盤状況判定部で得られたデータのうち、削孔速度、回転トルク、給進力、送水圧力、送水流量、E値を、記録紙およびモニター画面に深度ごとにリアルタイムで表示すること、第8に、E値および送水流量と送水圧力の変化「QとPの変化」に関し、しきい値を入力することにより、リアルタイムで地盤判別表示を行うことを要旨とするものである。
【0025】
水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定装置としては、削孔パラメータ収録部と、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、掘進速度、送水流量、送水圧力をこの削孔パラメータ収録部から収集し、独自の判定式・評価指標により地盤を評価する解析・地盤状況判定部、および解析・地盤状況判定部での地盤の評価をリアルタイムで表示する結果表示部の3つの機構から構成され、削孔パラメータ収録部は、水圧式ダウンザホールハンマー型マシンおよび/またはその付属設備に対して、ボーリングマシンの回転部の正回転圧力・逆回転圧力および給進部の押し込み圧力・引き上げ圧力を測定する計測装置として、作動油圧系統に設置した圧力センサー、削孔深度を測定するものとして巻上げ装置に設置した深度センサー、送水圧力を測定するものとして地上における給水系統に設置した圧力センサー、送水流量を測定するものとして地上における送・排水系統に設置した流量計を取り付けたことを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、水力式ダウンザホールハンマー型マシンおよびその付属設備に計測装置を取り付け、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、削孔速度、送水流量、送水圧力などを収集し、独自の判定式・評価指標により地盤を評価し、これをリアルタイムで表示することで、大深度ボーリング、あるいは騒音規制が厳しい地域でのボーリングにおいて、精度よく、迅速に、安価に地盤判定を行うことが可能となる。
【0027】
既往のトップハンマー式のボーリングマシンに用いられている装置・手法を水力式ダウンザホールハンマー型マシンに適用した場合は、削孔作業・効率に大きな制約を与えたり、あるいは必要な削孔パラメータを得られず、要求精度を満足しないようなデータしか得られない可能性が高かったが、本発明では、削孔効率に優れる水力式ダウンザホールハンマー型マシンの長所を最大限生かし、かつ必要な削孔パラメータをすべて収集し、機構の異なる二つの判定法でダブルチェックを行いながら地盤判定が出来るため、地盤判定精度が格段に上昇した。
【0028】
また、水力式ボアホールハンマーという大深度ボーリング削孔に適した削孔効率のよいボーリング方法と組あわせているため、大深度ボーリングが必要な以下のような分野で大きな効果が期待できる。
【0029】
広範囲かつ大深度におよぶ地盤の状況を把握する必要のある地盤調査・建設工事において、大深度まで地盤改良が必要な場合、改良が必要な範囲をリアルタイムで、効率よく把握することができる。
【0030】
薬剤やセメントを注入することにより透水性を改良する工事では、注入が必要な開口割れ目や空洞部を、効率的に把握することが可能である。
【0031】
杭基礎工事やアンカー工事などでは、基礎地盤として適切な地盤であるか否かを即時に判定できる。
【0032】
前記の分野では、従来の技術としてコア観察、ボアホールスキャナ観察があるが、いずれも削孔に加え、別途、時間と多大な費用がかかる。またボアホールスキャナ観察では、地盤の状態が悪いと、カメラの挿入、回収が困難となる場合がある。これに対し本手法では、いずれの場合も、注入孔、杭挿入孔、アンカー孔の削孔といった工事工程上必要な作業の中で、地盤判定が可能であるので、非常に効率がよく、その上で必要な情報を迅速に提供できるため、工事自体の能率向上に大きく寄与できる。また、騒音が規制される住宅地、山岳部などでの調査・施工時に大きな効力を発揮することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法および装置の1実施形態を示す説明図で、本発明で使用する装置としては、「削孔パラメータ収録部」、「解析・地盤状況判定部」、「結果表示部」の3つの機構から構成される。これらの装置をベースマシンとなるボーリングマシン24に装着する。
【0034】
水力式ダウンザホールハンマー23は、ボーリングマシン24により建て込まれて地盤を掘削するものである。ダウンザホールハンマーは周知のごとく、ピストンの動きでハンマーを上下動させて発生する打撃により掘削を行うものであるが、図2に示す水圧式ダウンザホールハンマー23もビット直上で打撃力を発生させる機構として、ピストンケース17をビット25の直上に配置している。
【0035】
図2は、水力式ダウンザホールハンマーの構造を示すもので、図中、1はトップサブ、2、7、9、15、20はオーリング、3はフィルターサポート、4はフィルター、5はシム、6はリッド、8はバルブ、10はバルブハウス、11はスライディングケース、12はピストン、13はインナーチューブ、14はピストンブッシング、16はシール、18はガイドスリーブ、19はビットリテーナーリング、21はドライバーサブ、22はスリーブである。
【0036】
ボーリングマシン24は、ベースマシンでもあり、水圧式ダウンザホールハンマー23の推進装置24a、回転装置24b、フィードチェーン・ローラ24c、チャック装置24dを有するが、「削孔パラメータ収録部」は、図3にも示すように、ベースマシンであるボーリングマシン24とその付属設備に対して、以下のような計測装置を設けて削孔時のデータを収集し、記録する装置である。
【0037】
図3は、各装置に設置するセンサーの配置と測定項目を示したもので、推進装置の押し込み圧力・引き上げ圧力を測定するため地上駆動部の作動油圧系統に設置した圧力センサー27a、b、および回転装置24bの正回転圧力・逆回転圧力を測定するため地上駆動部の作動油圧系統に設置した圧力センサー28a、28b、フィードチェーン・ローラ24cに設置して深度センサーとして削孔深度を測定するロータリーエンコーダもしくはワイヤーエンコーダ27、地上における給水系統に設置して送水圧力を測定する圧力センサー30、地上における送・排水系統に設置して送水流量を測定する電磁流量計29、削孔中断時のデータ収集を停止するためチャック装置24dの閉開を測定する圧力センサー31からなる。
【0038】
圧力センサー27aはフィードシリンダ内の押し込み(推進)側に供給される作動油圧を、圧力センサー27bはフィードシリンダ内の引き上げ(後退)側に供給される作動油圧を測定し、その差から給進力を求めている。圧力センサー28aは、回転シリンダ内の正回転側に供給される作動油圧を、圧力センサー28bは逆回転側に供給される作動油圧を測定し、その差から回転トルクを求めている。
【0039】
水力式ダウンザホールハンマーへ供給される高圧水の供給系統は、図1の高圧ポンプ32、清水タンク33、原水タンク34、高圧バルブ35、水中ポンプ36、ろ過装置37から構成される。
【0040】
送水流量は、水力式ダウンザホールハンマー23に高圧水を供給する高圧ポンプ32から直接供給される量を流量計等により測定するか、もしくは高圧ポンプ32への供給水(サプライ)と、余剰水として戻る(リターン)水量を、2台の流量計31で測定し、その差を持って送水量とする方法を用いる場合が考えられる。
【0041】
送水圧力のより高精度の測定を行う場合は、高性能の圧力センサーを用いて、ビット稼動に伴う水の脈動を含めて測定し、その結果から打撃回数を求めることも可能である。
【0042】
本発明は、従来の地上駆動部の作動油圧で収集できる削孔パラメータは地上部で収集し、ビット直上で水圧により打撃を発生する機構であるため地上での収集が不可能な打撃力は、打撃力との相関が高い削孔中の送水圧力と送水流量を収集・記録して、これから推定する機構とした。これらセンサーで得られたデータは記録部に送られ、時間ごとに記録される。
【0043】
「解析・地盤状況判定部」はパソコンによるもので、正回転圧力・逆回転圧力から回転トルクを、押し込み圧力・引き上げ圧力から給進力を、削孔深度と時間から削孔速度を算出し、これらを送水圧力、送水流量とあわせて深度ごとに整理・記録する。
【0044】
削孔中、打撃力(すなわち送水流量、送水圧力)や給圧、回転圧力を変えていない場合は、地盤状況は削孔速度にそのまま反映されるため、削孔速度の大小により地盤の硬軟、空洞部、開口割れ目の推定が可能である。
【0045】
このとき開口割れ目や空洞部は周辺の岩盤・地盤に比べ極端に削孔に対する抵抗力が小さく、削孔速度が速いため、深度に応じて整理された削孔速度チャート上で開口幅・空洞幅に応じたピークをなす。これにより開口割れ目・空洞との判定が可能である。地質・岩種については、相対的な削孔速度の変化により、地質・岩種の違いを推定することが出来る。
【0046】
図4は、削孔中、打撃力(すなわち送水流量、送水圧力)や給圧、回転圧力を変えていない場合に得られる削孔パラメータを、深度ごとに整理したチャート図の模式例であるが、グラフ上で削孔速度は、軟質部や空洞部では硬質部に比べ相対的に遅くなり、開口割れ目箇所では、急激に値が上昇して、割れ目幅に応じた針状のピークを示す。
【0047】
しかし、通常のボーリング孔削孔では、打撃力、給圧、回転トルクを変化させて削孔する。この場合は、削孔条件が異なるため、単純に削孔速度だけから地質・岩種・開口割れ目、空洞などを精度よく判別することは困難である。よって、以下の判定式により削孔エネルギーの指標値Eを算出し、この値にしきい値を設け、これにより地盤の硬軟、空洞部、割れ目を判別する。
E=(α×V×A)/(Q×P)
V:掘進速度(m/分)
A:削孔断面積(m2
Q:送水流量(m3/分)
P:送水圧力(MPa)
α:給進力による補正係数
【0048】
図5はE値と対応する地盤状況を深度ごとに示したものである。グラフ上でE値が相対的に高くなるのは軟質な部分や空洞部であり、開口割れ目箇所では、急激に値が上昇して、割れ目幅に応じた針状のピークを示すことで検知が可能である。
【0049】
このとき、より精度よい判定を行うためには、あらかじめコアやボアホールスキャナ画像などから、実際の地盤の状況と指標値Eとの照合を図っておき、劣化していない部分の地質・岩種ごとのE値、割れ目や 空洞部のE値を把握し、その境界の値(しきい値)を用いて、それ以後におこなう削孔時において得られたE値に線引きを行い、値に応じて地質・岩種や割れ目・空洞を判定する図5に、岩種の違うA岩、B岩(B岩のほうが相対的に軟質)、健岩部と開口割れ目のしきい値を決め、地質を判定する方法を模式的に示した。コアやボアホールスキャナ画像との照合は、多くの孔で行う必要はなく、地質・岩種が同一の範囲で一孔程度照合作業を行えば十分である。
【0050】
また、水圧式ダウンザホールハンマー23では、ビット磨耗により高圧ポンプから吐出される高圧水の送水圧力を一定に管理しても送水流量が変化し打撃力が低下するという特性があり、このため、打撃力を一定にして削孔を行うということが難しいが、E値では式の分子側に送水流量と送水圧力の積をとることによりこの影響を除外することができる。
【0051】
水圧式ダウンザホールハンマー23では打撃力がきわめて大きいため、給進力による削孔速度への影響は少ない。このため通常α=1を用いているが、地盤によっては給進力が削孔速度に大きな影響をもたらす場合がある。このような場合には、先行削孔データから相関関係を求めて、給進力による補正係数を決定する。
【0052】
本手法では、削孔速度の変化を元に算出されたE値とは別の原理である水力式ダウンザホールハンマーの打撃発生機構に基づいた手法によっても、開口われ目の検知を行うことが可能である。図6に送水流量と送水圧力の変化から開口割れ目を検知する方法を概略的に示す。
【0053】
水圧式ダウンザホールハンマー23は、ハンマー部に高圧水を送ることによりビットに打撃を発生させるが、ビットに負荷がかからない場合は、水はビット先端から噴出す形となっている。ビットに負荷がかかると高圧水が別の排出経路に誘導され、吐出・停止を繰り返すことにより打撃が生ずる仕組みとなっている。したがってビット先端に負荷がかからないような、開口割れ目、空洞では、高圧水は急に前方に吐出して、送水圧力が急激に低下し、逆に送水流量が急激に増加する。このような現象が現れた箇所を、開口割れ目、空洞部として判別・検知することが出来る。特に開口割れ目部では、急な変化によりグラフ上で明瞭なピークを形成するため、検知しやすい。
【0054】
通常の地盤におけるボーリング孔削孔では、地盤の状態に応じて削孔打撃力や推進力、回転トルクなどを細かく変えながら削孔するため、削孔速度もそれに影響を受ける。前出E値による判定は、この影響を極力除外するため打撃力の指標(具体的には送水流量と送水圧力の積)を式に取り込み、さらに給進力による補正を考慮しているが、それでも、開口割れ目が密集するような割れ目ゾーンや、岩盤の状態が悪く頻繁に打撃力や給圧を変えないと削孔が困難となるような箇所では、細かい開口割れ目の検知精度はどうしても低下する可能性がある。このため、本発明では、前記E値による判定だけでなく、この「送水圧力、送水流量の変化」も地盤判定の指標としており、機構の異なる二つの指標により、精度の高い地盤判定が可能となる。開口割れ目の検知のみであれば、打撃力や給圧・回転トルクの変化の影響をほとんど受けない指標である「送水圧力、送水流量の変化」だけでも検知可能である。
【0055】
「結果表示部」では、前記「解析・地盤状況判定部」で得られたデータのうち、削孔速度、回転トルク、給進力、送水圧力、送水流量、E値を、図8に示すように、記録紙およびモニター画面38に深度ごとにリアルタイムで表示する。
【0056】
また、E値に関しては、しきい値を入力することにより、リアルタイムで地盤判別表示も可能である。
【0057】
図8は、実際に本手法を適用した結果である。ここではボアホールスキャナ観察により得られたデータと照合して、判定精度の確認を行っている。
【0058】
本発明の実施の手順は下記の通りである。
(1)削孔に先立ち、ベースマシンであるボーリングマシン24および周辺装備に本発明装置を装着する。
(2)掘削仕様(打撃圧、給圧など)は可能であれば打撃圧・給圧いずれかを固定し測定するのが望ましいが、ボーリング孔の出来上がり品質を確保することを優先とし、地盤に応じてオペレータが適宜調整してかまわない。
(3)E値あるいは送水流量、送水圧力の変化から地質の変化、空洞部、軟質部や開口われ目の検知を行う。
(4)計測対象となるボーリング孔が複数ある場合は、データの精度を上げるため1孔でコア観察データやボアホールスキャナ観察データとの照合を行い、E値のしきい値等を設定したうえで、以後の検知を行うのが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の水力式ダウンザホールハンマーを用いた地盤判定および割れ目判定方法および装置の1実施形態を示す説明図である。
【図2】水力式ダウンザホールハンマーの分解斜視図である。
【図3】本発明の水力式ダウンザホールハンマーを用いた地盤判定および割れ目判定方法および装置の1実施形態を示す概念説明図である。
【図4】結果表示部に表示されるグラフのうち削孔速度と地盤状況の関係を模式的に示したものである。
【図5】結果表示部に表示されるグラフのうちE値と地盤状況の関係を模式的に示したものである。
【図6】送水流量と送水圧力の変化から開口割れ目を検知する方法を概略的に示した模式図である。
【図7】結果表示部に表示されるE値、送水流量と送水圧力の変化から地盤状況を判定する方法を概略的に示した模式図である。
【図8】結果表示部にリアルタイムに表示されるグラフを示したものである。
【符号の説明】
【0060】
1 トップサブ
2 オーリング
3 フィルターサポート
4 フィルター
5 シム
6 リッド
7 オーリング
8 バルブ
9 オーリング
10 バルブハウス
11 スライディングケース
12 ピストン
13 インナーチューブ
14 ピストンブッシング
15 オーリング
16 シール
17 ピストンケース
18 ガイドスリーブ
19 ビットリテーナーリング
20 オーリング
21 ドライバーサブ
22 スリーブ
23 水圧式ダウンザホールハンマー
24 ボーリングマシン
24a 推進装置
24b 回転装置
24c フィードチェーン/ローラ
24d チャック装置
25 ビット
26 ロータリーエンコーダ
27a、27b 圧力センサー
28a、28b 圧力センサー
29 電磁流量計
30 圧力センサー
31 圧力センサー
32 高圧ポンプ
33 清水タンク
34 原水タンク
35 高圧バルブ
36 水中ポンプ
37 ろ過装置
38 モニター画面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
削孔パラメータ収録部、解析・地盤状況判定部、結果表示部の3つの機構から構成され、削孔パラメータ収録部は、水力式ダウンザホールハンマー型ボーリングマシンおよび/またはその付属設備に対して計測装置を取り付け、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、削孔速度、送水流量、送水圧力の値を収集し、地盤状況判定部では独自の判定式・評価指標により地盤を評価し、結果表示部ではこれをリアルタイムで表示することを特徴とした水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項2】
計測装置は、ボーリングマシンの回転部の正回転圧力・逆回転圧力および給進部の押し込み圧力・引き上げ圧力を測定するものとして、作動油圧系統に設置した圧力センサー、削孔深度を測定するものとして巻上げ装置に設置した深度センサー、送水圧力を測定するものとして地上における給水系統に設置した圧力センサー、送水流量を測定するものとして地上における送・排水系統に設置した流量計である請求項1記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項3】
送水流量は、高圧ポンプへの供給水と、余剰水として戻るボーリング孔削孔時のリターン水量を2台の流量計で測定し、その差を持ってなる請求項2記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項4】
解析・地盤状況判定部では、正回転圧力・逆回転圧力から回転トルクを、押し込み圧力・引き上げ圧力から給進力を、削孔深度と時間から削孔速度を算出し、これらを送水圧力、送水流量とあわせて深度ごとに整理・表示する請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項5】
深度ごとに得られた削孔パラメータから以下の判定式により削孔エネルギーの指標値Eを算出し、この値にしきい値を設け、これにより地盤の硬軟、空洞部、割れ目を判別する請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
E=(α×V×A)/(Q×P)
V:掘進速度(m/分)
A:削孔断面積(m2
Q:送水流量(m3/分)
P:送水圧力(MPa)
α:給進力による補正係数
【請求項6】
前記E値による判定に加え、送水流量と送水圧力の変化を指標として、開口割れ目の検知を行う請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項7】
結果表示部では、解析・地盤状況判定部で得られたデータのうち、削孔速度、回転トルク、給進力、送水圧力、送水流量、E値を、記録紙およびモニター画面に深度ごとにリアルタイムで表示する請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項8】
指標のE値、送水流量と送水圧力の変化に関し、しきい値を入力することにより、リアルタイムで地盤判別表示を行う請求項7記載の水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定方法。
【請求項9】
削孔パラメータ収録部と、削孔中に、削孔パラメータである給進力、回転トルク、削孔速度、送水流量、送水圧力をこの削孔パラメータ収録部から収集し、独自の判定式・判定指標により地盤を評価する解析・地盤状況判定部、および解析・地盤状況判定部での地盤の評価をリアルタイムで表示する結果表示部の3つの機構から構成され、削孔パラメータ収録部は、水力式ダウンザホールハンマー型ボーリングマシンおよび/またはその付属設備に対して、ボーリングマシンの回転部の正回転圧力・逆回転圧力および給進部の押し込み圧力・引き上げ圧力を測定する計測装置として、作動油圧系統に設置した圧力センサー、削孔深度を測定するものとして巻上げ装置に設置した深度センサー、送水圧力を測定するものとして地上における給水系統に設置した圧力センサー、送水流量を測定するものとして地上における送・排水系統に設置した流量計を取り付けたことを特徴とした水力式ダウンザホールハンマーによるボーリング孔削孔時の地盤判定および割れ目判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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