説明

水力発電施設

【課題】 利用できる落差の低下を来すことなく簡易且つ低コストで設置することができる水力発電施設を提供する。
【解決手段】 水力発電施設1は、インクライン6、巻上機7、水力発電ユニット8、導水管9、排気管12等によって構成される。水力発電ユニット8は、フランシス水車21と水力発電機22とを備え、筐体によって水密に形成されている。この水力発電ユニット8は、インクライン6上に配置され、インクライン6の上部には巻上機7が設置されている。巻上機7のワイヤー14は、水力発電ユニット8に接続されており、水力発電ユニット8は昇降可能となっている。アーチ式ダム2から供給される水は、導水管9を通って落下し、水力発電ユニット8内のフランシス水車に供給され、水力発電機によって発電される。発電された電力は、排気管12に収容されたケーブルによって機械室17に送電される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電ユニットを用いて貯水域からの放水を利用して発電するための水力発電施設に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ダムを用いた様々な水力発電施設が建設されている。このような水力発電施設では、水車や発電機及び各種の補助的な機器を収容するために、コンクリートや鉄骨構造の発電建屋を地上や地下に建設してきた。また、このような発電所を建設するにあたっては、機器の据え付けやメンテナンス等も考慮して、発電所へのアクセス道路や、トンネル、橋梁塔が建設されていた。例えば、下記特許文献1には、地下式発電所が開示されている。
【特許文献1】特開平9−177654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、急峻な地形においては地上に発電所の用地を確保することは、必ずしも容易ではない。このため、地下に空洞を掘削して発電所を建設する場合も多いが、多額の費用が必要である。さらに、アクセス道路やトンネル或いは橋梁の建設が必要となる場合も多く、さらに建設費が増大する。また、ダムの下流に発電所を建設しようとする場合、洪水時にダムからの放流によって発電所が水没するおそれがある。この場合、発電所が水没しないように、発電所を高所に建設することが一般的であるが、そうすると、水力発電に利用できる落差が減少し、得られる発生電力量が低減するという問題もある。
【0004】
そこで、本発明は、利用できる落差の低下を来すことなく簡易且つ低コストで設置することができる水力発電施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る水力発電施設は、水密構造を有する筐体の内部に水力発電機を備えた水力発電ユニットを用いて、貯水域からの放水を利用した水力発電を行う水力発電施設であって、貯水域からの放水を貯水域の放水部から、その放水部よりも低い位置に配置された水車発電ユニットの定置部まで導く導水管と、水力発電ユニットを定置部よりも高い位置と定置部との間で昇降させる昇降手段とを備えることを特徴とする。
【0006】
この水力発電施設によれば、昇降手段によって、水力発電ユニットを定置部に配置させ、導水管によって、貯水域から放出された水を放水部を通って定置部に配置された水車発電ユニットに導くことができる。これにより、水力発電ユニットは、貯水域から放水された水の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して発電する。ここで、水力発電ユニットの筐体は水密構造を有しているため、水力発電ユニット自体が洪水等で周囲の水位が上昇したことにより水没したとしても、水力発電機は支障なく発電することができる。したがって、水を落下させる落差を十分確保でき、落差の低下を来すこともない。また、水力発電ユニットは、昇降手段によって、定置部から引き上げることができ、その場で保守・点検することができる。このように、ユニット化された水力発電ユニットは扱い易く、水力発電施設を簡易に設置することができ、保守点検も簡易に行うことができる。
【0007】
また、水力発電ユニット、導水管、及び昇降手段は、貯水域を形成するダムの放流側に設置されており、導水管は、ダムによって貯水域に貯えられた水を水車発電ユニットに導くと良い。このような構成を採用することにより、ダムの放流側の空間を活用することができると共に、ダムの高さを、水の落下高さとして有効に活用することができ、発電させる電力の確保に有効である。
【0008】
さらに、昇降手段は、ダムの放流側に設置されたインクライン及び巻上機を備え、水力発電ユニットは、インクラインに移動可能に配置されていると共に、水力発電ユニットには、ワイヤーが接続されており、巻上機によるワイヤーの巻取及び巻解により、水力発電ユニットが昇降し、定置部は、インクライン上の最下端部に位置付けられていることが好ましい。このように構成することにより、水力発電ユニットの設置の際には、巻上機によってワイヤーを巻解することにより、最下端部まで水力発電ユニットを降下させて、水力発電ユニットを設置することができる。また、水力発電ユニットのメンテナンスのときには、巻上機によってワイヤーを巻取ることにより、水力発電ユニットを引き上げて、水力発電ユニットを保守・点検することができる。このように、水力発電ユニットの設置、保守・点検を簡易に行うことができる。
【0009】
また、水力発電施設には、水力発電ユニットの筐体内外を連通する通気管をさらに有し、通気管は、水力発電ユニットを定置部に導いたときに、水没しない位置まで延在していると好適である。このような構成を採用することにより、筐体内の水力発電機が発する熱を、排気管を通じて筐体外に放出することができる。
【0010】
さらに、通気管には、水力発電機で発電された電力を取り出すための出力端子に接続された電力ケーブルが収容されていると良い。この構成により、通気管を、電力ケーブルを収容する管路としても兼用することができるため、スペース効率が良く、電力ケーブルも保護される。また、通気管によって水密に保護された電力ケーブルによって、水力発電機により発電された電力を、漏電なく水力発電ユニット外に送電することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、利用できる落差の低下を来すことなく簡易且つ低コストで設置することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明に係る水力発電施設の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0013】
[ 水力発電施設の構成 ]
図1は、水力発電施設1の概略図である。図1に示すように、水力発電施設1は、図示しないV字谷に建設されたアーチ式ダム2の放流側に設置されている。アーチ式ダム2には、洪水時に開口させて貯水域3の水位を調整するための洪水吐ゲート4が設けており、アーチ式ダム2の放流側において、アーチ式ダム2とV字谷の斜面には、フーチング5が数段(図1では4段)にわたって設けられている。この水力発電施設1は、インクライン6、巻上機7、水力発電ユニット8、導水管9、給気管11、排気管12等によって構成される。
【0014】
インクライン6は、フーチング5の最上段5aから、最低水位L1よりも幾分上の位置にある後述する定置部15までの間において、フーチング5に沿って傾斜させて設けられており、フーチング5に立設されたアンカー13によって支持された4本の後述するレール16を有している。
【0015】
巻上機7は、インクライン6の上部に設置され、水力発電ユニット8に接続されたワイヤー14の巻解及び巻取を行う。
【0016】
水力発電ユニット8は、落下してきた水の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して水力発電を行う装置である。この水力発電ユニット8は、インクライン6のレール16(参照図2)に沿って移動することができるようになっていて、図1では、インクライン6上の最下端部に位置し、水力発電ユニット8が定常的に配置される定置部15に設置されている。巻上機7を駆動してワイヤー14を巻取ったり、巻解したりすることにより、水力発電ユニット8はインクライン6に沿って昇降するようになっている。
【0017】
導水管9は、アーチ式ダム2によって貯えられた水を落下させて、水力発電ユニット8に供給するための管路であり、L字状一端部9aとL字状他端部9bとを有している。また、アーチ式ダム2には、貯水域3の水を放水するために放水孔(放水部)10が形成されており、導水管9のL字状一端部9aが放水孔(放水部)10に接続され、L字状他端部9bは、定置部15において、水力発電ユニット8に接続されるようになっている。なお、導水管9は、インクライン6の上方においてインクライン6と平行に延在している。
【0018】
また、アーチ式ダム2の放流側において、設計洪水水位L3よりもやや高い位置にあるフーチング5上には、機械室17が設置され、この機械室17から定置部15までの間にわたって、給気管11及び排気管12が設けられている。給気管11及び排気管12は、本発明における通気管であって、後述する筐体19の内外を連通していて、筐体19内の換気を行って水力発電ユニット8内に発生した熱を大気中へ逃がすための管路である。給気管11及び排気管12は、それぞれ一端側が水力発電ユニット8に接続され、他端側が、水力発電ユニット8を定置部15に導いたときに、設計洪水水位L3よりも高く水没しない位置まで延在している。機械室17における給気管11の給気口には、水力発電ユニット8に向けて空気を供給するためのブロア(図示しない)と、その空気内の埃等を取り除くためのフィルタ(図示しない)が取り付けられている。そして、機械室17内のブロアを駆動させることによって、給気管11を通じて、水力発電ユニット8内に外気が供給され、水力発電ユニット8内の空気が排気管12を通じて外部に排気されるようになっている。また、排気管12には、ケーブル18が保護されるように収容されている。このように、排気管12は、ケーブル18を収容するための管路としての役割を兼ね備えているため、スペース効率も良い。ケーブル18は、電力を送電するための電力ケーブルや、水力発電機22のON/OFF信号、電圧制御信号を伝送するための制御ケーブルを含む。なお、ケーブル18は、このような電力ケーブルや制御ケーブルが束ねられたものであってもよく、多芯線であってもよい。そして、機械室17内には、水力発電ユニット8から送電される電力を、ケーブル18(参照図2)を介して受けて変圧する変圧器や遮断器等が設置されていると共に、水力発電機22のON/OFF信号、電圧制御信号を出力するコントローラーが設置されている。このコントローラーにより、水力発電機22を制御、監視することができる。なお、この機械室17は、換気に適した塔状の建物、例えば換気塔であることが好ましい。
【0019】
図2は、水力発電ユニット8の断面図であり、図3は、図2に示すIII−III線に沿う断面図である。図2及び図3に示すように、水力発電ユニット8は、水密構造の筐体19を有し、この筐体19の内部に、フランシス水車21と水力発電機22とが備えられている。また、筐体19は、ローラー23を備える台車24に固定されている。台車24は、インクライン6に沿った傾斜をもって配置され、ローラー23が取り付けられた可動部24aと、定置部15における平面部6aに略平行に張り出した張出部24bとを有する。そして、台車24は、定置部15におけるインクライン6の平面部6aに張出部24bが当接するようにして、安定的に載置されるようになっている。
【0020】
フランシス水車21は、渦巻型ケーシング26を有していて、その流入側26aは、導水管9に向いており、L字状の継ぎ管27によって、導水管9に着脱自在に接続されている。なお、渦巻型ケーシング26と継ぎ管27とはそれぞれのフランジ部26c,27aでボルト締めにより強固に連結されている。同様に、継ぎ管27と導水管9も、それぞれのフランジ部27b,9cでパッキンPを介してボルト締めにより連結されている。継ぎ管27は、筐体19に対して挿通されて水密に固定されている。
【0021】
また、渦巻型ケーシング26の流出側26bには、円錐状の流出管28が接続されており、さらに、流出管28には、フランシス水車21を通って発電に寄与した水を外部へ排出するドラフトチューブ(吸出し管)29が接続されている。このドラフトチューブ29は、インクライン6に対して略平行に延在し、開口部29aから水を排出するようになっている。なお、流出管28は、筐体19に対して挿通されて水密に固定されている。
【0022】
このような渦巻型ケーシング26は、筐体19内に設置された支持部材31により固定されている。
【0023】
フランシス水車21は、渦巻型ケーシング26内に、回転軸32を中心に回転するランナ33と、導水管9から流入してきた水をランナ33の周囲からランナ33に向けて案内する案内羽根34を有している。
【0024】
回転軸32は、一対の軸受36,37により回転可能に保持されており、水力発電機22は、これら軸受36,37の間に設置されている。また、水力発電機22、及び軸受36,37は、筐体19内の下内面19aに設置された台座38上に固定されている。
【0025】
排気管12は、筐体19に対して挿通されて水密に固定されていて、その内側に、電力を機械室17に送電するためのケーブル18が収容され、筐体19内において、水力発電機22の出力端子39に電気的に接続されている。なお、図示しないが、排気管12は、筐体19付近に必要に応じて互いに接続し及び切り離すためのフランジ部(図示しない)が形成されている。
【0026】
給気管11は、継ぎ管41を介して、筐体19に接続されている。すなわち、給気管11と継ぎ管41とは、それぞれのフランジ部11a,41aでパッキンPを介してボルト締めされて固定されており、継ぎ管41は、筐体19に対して挿通されて水密に固定されている。また、筐体19内の継ぎ管41が接続されている部分には、ブロア42が取り付けられている。このブロア42を駆動させることにより、給気管11を通って空気が水力発電機22に供給されて、水力発電機22を冷却するようになっている。そして、水力発電機22によって温められた水力発電ユニット8内の空気は、排気管12を通って、機械室17に導かれ、機械室17において排出される。このとき、ケーブル18から発せられる熱も、排気管12内の空気の流れによって逃がされるので、ケーブル18も冷却される。
【0027】
なお、筐体19の下内面19aには、排水ポンプ43が配置されている。この排水ポンプ43は、フランシス水車21の回転軸32と渦巻型ケーシング26との間の隙間からのわずかな漏水を外部に排出するために設けられている。
【0028】
[ 水力発電施設の設置方法 ]
次に、上記のような水力発電施設1の設置方法について説明する。
【0029】
まず、傾斜しているフーチング5に、複数のアンカー13を打ち込んで立設させ、それらのアンカー13に支持させるように、インクライン6を設置する。このとき、4本のレール16が設置される。さらに、インクライン6の上部に、巻上機7を設置する。
【0030】
続いて、インクライン6の上部に、水力発電ユニット8を載置する。このとき、水力発電ユニット8のローラー23が、インクライン6のレール16に乗るように、水力発電ユニット8を載置する。さらに、巻上機7のワイヤー14を水力発電ユニット8に接続し、巻上機7を駆動させてワイヤー14を巻解させ、ワイヤー14の送出しを行う。そして、水力発電ユニット8における台車24の張出部24bが、定置部15におけるインクライン6の平面部6aに到達するまで、水力発電ユニット8を、インクライン6上で降下させる。
【0031】
水力発電ユニット8が、定置部15の平面部6aに到達したら、アーチ式ダム2に形成された放水孔(放水部)10に、導水管9のL字状一端部9aを接続する。なお、導水管9は、インクライン6の上方においてインクライン6と平行に延在させておく。その上で、定置部15において、導水管9のL字状他端部9bを継ぎ管27に連結し、水力発電ユニット8における渦巻型ケーシング26の流入側26aに連通させる。勿論、導水管9をアーチ式ダム2に接続する際は、アーチ式ダム2内の貯水水位は十分下げておく。
【0032】
さらに、給気管11の一端を、水力発電ユニット8の継ぎ管41に接続させて、給気管11を筐体19内に連通させる。また、給気管11の他端は、機械室17に配置させる。
【0033】
また、排気管12の一端を水力発電ユニット8に接続させて、筐体19内に連通させると共に、他端を機械室17に配置させる。また、排気管12内にケーブル18を挿通させ、そのケーブル18の一端を水力発電機22の出力端子39に電気的に接続する。これにより、水力発電機22により発電された電力が、ケーブル18によって、機械室17に送電されるようになる。
【0034】
このように、本実施形態における水力発電施設1は、アーチ式ダム2の放流側における傾斜にインクライン6を設置し、そのインクライン6上に水力発電ユニット8を配置して、設けられる。しかし、従来の地下式発電所を建設するためには必要であったアクセス道路や、トンネル、橋梁等は、水力発電施設1の設置には、特に必要とされない。そのため、開発コストが低減されると共に、工期も短くて済む。また、従来の発電所では建設できなかった急峻な地形にも、水力発電施設1であれば設置することができる。さらに、水を落下させる落差を十分確保できる。なお、インクライン6、導水管9、給気管11、排気管12の設置の順序は、上記の順序に限らなくとも良い。
【0035】
[ 水力発電施設の運転 ]
次に、水力発電施設1の運転について説明する。
【0036】
水力発電施設1を運転させるときは、アーチ式ダム2から導水管9を通じて、アーチ式ダム2内に貯えられた水を放出することによって放水を行う。この場合、下流の河川環境の維持を目的とした維持放流を活用し、放水孔(放水部)10に達した水を水力発電に用いることができる。放水孔(放水部)10から放出された水は、導水管9内を落下して、放水孔(放水部)10よりも低い位置にある水力発電ユニット8のフランシス水車21における渦巻型ケーシング26内に流される。そして、水は、案内羽根34によってランナ33に案内され、このランナ33を回転させる。さらに、その水は流出管28を通ってドラフトチューブ29から外に放出される。このようにして、ランナ33が回転することにより、回転軸32が回転するため、水力発電機22は、回転軸32の回転運動を電力に変換し、出力端子39に出力する。出力端子39に出力された電力は、ケーブル18によって機械室17へ送電される。機械室17では、変圧器等により、送電された電力が変電される。そして、変電された電力は、機械室17から図示しない他の電力施設へ送電される。
【0037】
なお、水力発電施設1を運転する際中は、水力発電機22を冷却するため、給気管11の給気口に設置されたブロアやブロア42を駆動させて、給気管11を通じて筐体19内に空気を供給し、水力発電機22が発する熱を排気管12を通じて大気中に放出する。このときケーブル18も冷却される。これにより、筐体19内の温度上昇を抑制することができ、水力発電機22の正常な運転を維持することができる。
【0038】
ここで、水力発電施設1は、アーチ式ダム2の放流側における空間を利用しており、導水管9を通って、水が落下するときの高低差を十分大きくとることができるようになっている。そのため、落下した水に十分な運動エネルギーを付与することができるので、発電させる電力の確保に有効である。また、水力発電ユニット8は、水密に形成されている筐体19の内部に水力発電機22が備えられているため、たとえ水没することがあっても、水力発電機22が濡れて発電に支障を来すこともない。つまり、アーチ式ダム2の洪水吐ゲート4から水を放水させて、水位が放水位L2の位置まで上昇し、また、その水位が洪水時に想定される設計洪水水位L3にまで上昇することによって、水力発電ユニット8が水没することになっても、水力発電機22は、支障なく発電することができる。なお、機械室17は、設計洪水水位L3よりも高い位置に建てられているため、水没するようなことはない。
【0039】
[ 水力発電施設のメンテナンス ]
次に、水力発電施設1のメンテナンスについて説明する。水力発電施設1のメンテナンスは、アーチ式ダム2の放流側の水位が最低水位L1のときに行われる。
【0040】
先ず、水力発電ユニット8について、導水管9、給気管11、及び排気管12から、各フランジ部26c,27a,27b,9c,41a,11a等のボルト締めを解除する取り外し作業を行う。そして、巻上機7を駆動させて、ワイヤー14の巻取を行い、インクライン6に沿って水力発電ユニット8を引き上げる。そして、水力発電ユニット8がインクライン6の上部に到達すると、水力発電ユニット8をその場で或いは別の場所に移動させて、水力発電ユニット8の保守・点検を行うことができる。また、導水管9、給気管11、排気管12や、インクライン6についても、保守・点検を行う。
【0041】
このように、水力発電施設1のメンテナンスの際、上述の取り外し作業を行えば、あとは、巻上機7の巻取によって、水力発電ユニット8を定置部15からインクライン6に沿って引き上げることができるので、水力発電ユニット8は保守・点検を簡単に行える。従来の発電所であれば、メンテナンスにあたっては、現場の道路で通行止めを行い、大型クレーン等の大型機械を現場に配備したうえで、作業を行う必要があった。しかし、水力発電施設1においては、メンテナンスも極めて簡易に行うことができるし、わざわざ最下端部(定置部)15まで多数の作業員が降りて保守作業を行う必要もない。よって、メンテナンスコストの低減やメンテナンス期間の短縮を図ることができ、しかもメンテナンス作業の安全性を高めることができる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。
【0043】
例えば、上記実施形態において、導水管9は、アーチ式ダム2に形成された放水孔(放水部)10に接続されていたが、これに限らず、サイホン構造の導水管であってもよい。また、導水管9は、インクライン6に沿うように配置されていたが、これに限らず、例えば鉛直に延在するように配置してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、インクライン6は、傾斜するように、フーチング5に設置されていたが、これに限らず、例えば、アーチ式ダム2に設置してもよい。
【0045】
さらに、図示はしないが、上記実施形態において、フランシス水車21の案内羽根34の角度を変えるために用いる油圧パイプを、機械室17から排気管12を通して、フランシス水車21に接続しても良い。
【0046】
また、上記実施形態では、水力発電ユニット8にフランシス水車21が採用されていたが、これに限らず、他の水車、例えば、カプラン水車や斜流水車等であってもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、水力発電ユニット8内のブロア42と給気管11の給気口に取り付けられたブロアとの2つのブロアを設けたが、双方のブロアを設けなくても良く、例えば、いずれか一方だけを設けても良い。また、水力発電機22やケーブル18を冷却するための送風方向は、上記実施形態における方向と逆の方向であっても良く、この場合、ブロア42等の向きを逆にする。
【0048】
また、上記実施形態では、4本のレール16がインクライン6に設けられていたが、インクライン6に設けるレール16の本数は、インクライン6の幅に応じて適宜変えても良い。
【0049】
さらに、水力発電ユニット8を定常的に水没させて運転させる場合等であって、周囲の水によって、水力発電機22を冷却することができる場合は、給気管11やブロア42は特に必要ない。この場合、水力発電ユニット8の筐体19は、内部に冷却フィンを有していると良い。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明に係る水力発電施設の一実施形態を示す概略図である。
【図2】図1に示す水力発電ユニットの断面図である。
【図3】図2に示すIII−III線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1…水力発電施設、2…アーチ式ダム、3…貯水域、6…インクライン、7…巻上機、8…水力発電ユニット、9…導水管、10…放水孔(放水部)、11…給気管、12…排気管、14…ワイヤー、15…定置部、18…ケーブル、19…筐体、21…フランシス水車、22…水力発電機、26…渦巻型ケーシング、32…回転軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水密構造を有する筐体の内部に水力発電機を備えた水力発電ユニットを用いて、貯水域からの放水を利用した水力発電を行う水力発電施設であって、
前記貯水域からの放水を前記貯水域の放水部から、該放水部よりも低い位置に配置された前記水車発電ユニットの定置部まで導く導水管と、
前記水力発電ユニットを前記定置部よりも高い位置と前記定置部との間で昇降させる昇降手段と
を備えることを特徴とする水力発電施設。
【請求項2】
前記水力発電ユニット、前記導水管、及び前記昇降手段は、前記貯水域を形成するダムの放流側に設置されており、
前記導水管は、前記ダムによって前記貯水域に貯えられた水を前記水力発電ユニットに導くことを特徴とする請求項1記載の水力発電施設。
【請求項3】
前記昇降手段は、前記ダムの放流側に設置されたインクライン及び巻上機を備え、
前記水力発電ユニットは、前記インクラインに移動可能に配置されていると共に、前記水力発電ユニットには、ワイヤーが接続されており、
前記巻上機による前記ワイヤーの巻取及び巻解により、前記水力発電ユニットが昇降し、
前記定置部は、前記インクラインの最下端部に位置付けられていることを特徴とする請求項2記載の水力発電施設。
【請求項4】
前記水力発電ユニットの前記筐体内外を連通する通気管をさらに有し、
前記通気管は、前記水力発電ユニットを前記定置部に導いたときに、水没しない位置まで延在していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の水力発電施設。
【請求項5】
前記通気管には、前記水力発電機で発電された電力を取り出すための出力端子に接続された電力ケーブルが収容されていることを特徴とする請求項4記載の水力発電施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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