説明

水吸収性ポリマーの生体内での使用

【課題】宿主の腸管から流体を除去する手段及び流体過剰状態を治療する手段を提供する。
【解決手段】腸管に有効な量の水吸収性ポリマーを直接導入することにより、宿主の腸管から流体を除去する方法、及びその質量の少なくとも10倍の生理食塩水を吸収することのできる、腸溶皮が施された、非浸透性の、毒性のない水吸収性ポリマーを含む、宿主の腸管から流体を除去するための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水吸収性ポリマーの生体内での使用に関する。
【背景技術】
【0002】
流体過剰状態は多くの深刻な医学上の病気に伴う。多くの心臓病は血液を送る心臓の能力の低下につながる。心筋梗塞はしばしば繊維組織による心筋の置換を引き起こす。この繊維組織は血液を送り出すことができず、心臓の能力の低下の原因となる。心筋症は心臓の筋肉の強度を低下させ、心臓の能力を低下させる。これら及び他の心臓の病気は肺動脈及び足のような末梢組織の血液貯留を起こす。このうっ血性心不全は血管内から血管外へ流体を漏れさせ、組織の浮腫、例えば肺浮腫、足の浮腫等を起こす。心臓の能力の低下は腎臓への血液の流れを低下させ、尿排出を低下させる。腎臓病も流体過剰状態を起こす。例えば、ネフローゼ及び腎炎は腎臓の尿排出能力を低下させ、体中に流体を残し、浮腫を起こす。急性及び慢性腎不全は尿生成を低下させもしくはなくし、体の流体過剰を起こす。腸障害もしくは栄養不良は血清蛋白レベルを低下させる。特に、血清アルブミンレベルが低下すると、血管内のコロイド圧が不十分になり、血管に流体を保持できず、浮腫が生ずる。この流体過剰状態は、栄養失調、グルテン感受性腸疾病、及びキモトリプシンもしくはカルボキシペプチダーゼのような消化酵素の欠乏より生ずる。肝臓病も流体過剰状態を引き起こす。肝硬変は、肝炎ウイルス、アルコール性肝臓病、胆汁閉塞、ヘモクロマトーゼ、ウィルソンブロック病、ムコ多糖病、及び多くの他の遺伝病を含む多くの肝臓病より生ずる。肝硬変はアルブミンのような血清蛋白の合成低下を引き起こす。これはまた、横隔膜より下の体から心臓への血流障害も引き起こす。この障害は血管系の圧力を高め、横隔膜より下の浮腫、腹水形成、及び腎臓への血流の低下を伴う。内分泌腺(例えば子癇前症、子癇等)、神経(例えば脈管神経浮腫等)、又は免疫系のような他の系の疾患も流体過剰状態を引き起こす。不適切な抗利尿症及び高プロゲステロンレベルに伴う状態のようなホルモン変化も流体滞留及び過剰を引き起こす。肺線維症及び慢性肺病のような肺病も流体過剰状態を起こす。これらの病気及び症候群は流体過剰状態を起こす状態の単なる例示であり、これらに制限されるものではない。
【0003】
この流体過剰に加え、これらの状態の多くは他の物質の蓄積を引き起こす。尿排出を損なう状態は尿、クレアチニン、他の窒素含有老廃物、及び電解質(例えばナトリウム、リン酸塩、及びカリウム)の増加を引き起こす。肝臓病は、アンモニア及び様々な有機酸のような通常肝臓により処理される物質に伴う水の滞留を起こす。心臓病は様々な組織の虚血による乳酸もしくはラクテートの蓄積を起こす。
【0004】
治療しないと、水(すなわち流体過剰)及び他の血液が運ぶ老廃物の蓄積は望ましくない症状及び重篤な合併症を引き起こす。末梢浮腫は痛みを伴い、衣類が窮屈になる。浮腫は血流を妨げ、組織の腫脹は感染もしくは潰瘍を起こす。肺浮腫は組織に酸素を供給するために十分な酸素を吸収することを困難にする。腸の浮腫は吸収不良を起こし、栄養不良を起こす。腎臓病はプトレッシン、キサンチン、及びクレアチニンのような尿毒症毒素の蓄積の原因となる。アンモニア停留は神経障害を起こす。過剰の有機酸は代謝アシドーシスを起こし、酵素代謝反応のようなpH依存性プロセスの機能障害を伴う。乳酸の高い虚血組織は機能が損なわれ、又は壊死を起こす。
【0005】
流体過剰状態の治療は、過剰の流体の除去及び体内に蓄積した他の老廃物の除去を含む。老廃物の除去は水の除去のための治療とはまったく異なり、成功度が異なる。過剰の水を除去するための一般的な治療法は流体制限である。流体の摂取が尿排泄、糞便排泄、及び無感覚排泄(例えば汗、呼吸中の水分等)による流体の排出よりも少ないと、体から流体が除去され、流体過剰状態が治療される。この治療方法は流体除去には通常適切ではなく、他の代謝老廃物の除去にも用いられない。これは流体過剰状態の唯一の治療法ではない。
【0006】
流体過剰状態の他の一般的な治療法は利尿剤の投与である。利尿剤は腎臓の機能を変え、生成されるプラズマ濾液の量を高め又は尿細管流体の再吸収を低下させる。この利尿剤は通常、電解液の腎臓における処理を阻害する。例えば、フロセミドは細管からのナトリウム再吸収を阻害し、ナトリウム及びカリウムを過剰に排泄する。食べ物のナトリウムが増加すると流体過剰状態を悪くするが、食べ物のナトリウムを増やさないと体の総ナトリウムが低下し、血清中のナトリウム濃度が低下する。これは結局、患者を利尿剤に対して耐性にする。耐利尿剤性は血管外空間に限定される流体過剰より生じ、利尿剤は血管内空間における流体の保持のみを変える。
【0007】
透析は流体過剰状態及び代謝老廃物の蓄積の一般的な治療法である。この両者は腎臓機能を損ない、損なわれた肝臓機能は透析により治療される。透析は一般に2つの形態、すなわち血液透析又は腹膜透析をとる。両者とも過剰の水及び老廃物(例えば尿素、塩等)を体から除去する。しかしながら、血液透析及び腹膜透析は患者にとって不快であり及び/又は不自由である。さらに、透析による水及び老廃物の除去はすべての物質に対して一様ではない。ナトリウム及びカリウムは腹膜透析もしくは血液透析により容易に除去される。尿素は比較的容易に除去される。クレアチニン及びホスフェートは除去速度が遅く、β-2-ミクログロブリンのような蛋白質は浄化が著しく遅い。肝臓毒素の除去速度は、通常の血液透析装置及び溶液を改良しない限りまったく遅い。1つの方法は血流中のアルブミン上の毒素の除去を促進するために透析液にアルブミンを添加することである。
【0008】
1998年4月30日に公開されたSimonらのWO 98/17707には、胃腸管からある種の血液中の老廃物(すなわちホスフェート及び/又はオキサレート)の選択的吸収のための官能化、水溶性、ポリエーテルグリコールポリマーの摂取について記載されている。しかしながら、この発明の目的は食べ物のホスフェート及びオキサレートの吸収を防ぐことであり、流体過剰を対象としていない。
【0009】
腎臓透析患者の治療用のオキシスターチ及びコールの摂取はFriedmanらによって研究された。Clinical Aspect of Uremia and Dialysis, p.671-687 (1977)及びFriedmanら、”Combined oxystarch-charcoal trial in uremia: sorbent-induced reduction in serum cholesterol” Kidney International 1976; 7: S273-6を参照されたい。オキシスターチ上のアルデヒドは尿素を除去し、木炭は他の勇気物質を除去する。しかし、これらのポリマーの流体容量は限られており、流体過剰剤として医療上実際的ではない。
【0010】
米国特許第5,679,717号、5,693,675号、5,618,530号、5,702,696号、5,607,669号、5,487,888号及び4,605,701号には、患者から胆汁塩及び/又は鉄を除去するための架橋したアルキル化アミンポリマーの摂取が記載されている。これらのポリマーも流体を吸収する能力に限界があり、流体過剰の治療には実用的ではない。
【0011】
米国特許第4,470,975号には、胃腸管から水を吸収し、その後排出される不溶性、親水性、架橋した多糖を摂取することにより胃腸管から水を排除することが記載されている。不幸にも、この多糖は合成困難であり、比較的高価である。さらに、その水もしくは塩水を吸収する能力は限られており、有効な治療を達成するためには患者に多量に投与しなければならない。
【0012】
Imondi, A.R.及びWolgemuth, R.L.は”Gastrointestinal sorbents for the treatment of uremia. I. Lightly cross-linked carboxyvinyl polymer” in Ann. Nutr. Metab. 1981; 25: 311-319において、尿毒症の治療における経口使用のためのいくつかの不溶性樹脂、2種の多糖、様々なオキシスターチ、及び高膨潤性ポリアクリル酸の研究について報告している。多糖はオキシスターチと同程度に尿素及び総窒素の糞便排出を高めることが示されている。アンモニア、ナトリウム、カリウム、カルシウム、及びマグネシウムはポリアクリル酸により除去され、一方ホスフェート(研究された唯一のアニオン物質)はポリアクリル酸によって除去されなかった。オキシスターチに対するFriedmanの文献に明らかにされているように、オキシスターチ及びポリアクリル酸は同じ程度に糞便流体排出を高め、臨床用途には適さない。
【0013】
特開平10-59851号公報(特願平8-256387号)及び特開平10-130154号公報(特願平8-286446号)には、腎臓病を治療するための架橋したポリアクリレートのアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩の経口投与が記載されている。このポリマーはオイルエマルジョンから経口投与される。このポリマーの水吸収作用は、Imondi及びWolgemuthにより報告された実験に示されているように、胃内で開始する。そのような胃酸への直接暴露はpHが低いためポリマーの分解を引き起こす。さらに、このポリマーは胃を介して体から栄養素を吸収し、尿素及びクレアチニンのような尿毒症老廃物を含む流体ではなく摂取された流体で飽和する。開示されたポリマーは多糖よりも多量の水及び塩水を吸収するが、胃酸への直接暴露は望ましくないポリマー分解、栄養素の吸収、及び腸管からの過剰の流体及び老廃物の吸収ではなく摂取された流体によるポリマーの飽和を起こす。
【0014】
米国特許第4,143,130号には、腎臓結石を治療するための腸管からのカルシウムを除去するために軽く架橋したポリアクリル酸の経口投与が記載されている。このポリマーは腸溶皮されてもよい錠剤、カプセルもしくはピルの形態のヒドロキシエチルセルロースのゲルとして提供されるが、実例は示されていない。この発明の目的は、体からのカルシウムを除去することであり、流体を除去することではない。事実、好ましい投与方法は、患者に投与する前に製剤に水を加えることを含む。従って、このポリマーを用いて流体過剰状態を治療する又は代謝老廃物もしくは流体を腸管から除去することを示唆していない。
【0015】
米国特許第5,051,253号には、腸炎症の患者の粘液溶解プロテアーゼ活性を治療するためのポリアクリル酸の経口投与が開示されている。このポリマーはEUDRAGITコーティングを施して提供される。この発明の目的は、プロテアーゼによる分解を防ぎ、粘膜をコートするために少量のゲルを投与することである。流体過剰の治療は示唆されていない。代謝老廃物の除去は予想されていない。
【0016】
ポリカルボフィルは、ポリアクリル酸のカルシウム塩をベースとする合成経口バルク形成下剤である。カルシウムポリカルボフィルはその質量の60倍の水を又は6倍の0.9%塩水を吸収する。ポリカルボフィルは便秘及び下痢の治療に用いることが知られており、通常、500mgの投与あたり250mLの水と経口投与される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
これらの文献は、多糖、ポリスターチ、ポリアルデヒド、活性炭、及びポリアクリル酸化合物のような経口投与される物質を提供する試みを示しているが、胃腸管から流体を除去することは示されていない。ほとんどのものは流体吸収能が不充分である。流体吸収能の高いもの、すなわちナトリウムポリアクリレートもしくはカリウムポリアクリレートは流体過剰状態の治療剤又は胃腸管からの流体の吸収剤について開示されていない。流体をそれほど吸収しないカルシウムポリアクリレート(特開平10-130154号公報、請求項5及び表1参照)は1つの群として選ばれている。ポリアクリル酸(これも多量の流体を吸収しない)も選択され、胃腸管からの流体の除去もしくは流体過剰状態の治療ではなく腎臓結石の予防を目的としている(米国特許第4,143,130号参照)。これらの選択の説明はなされていない。最新の研究者は、胃において一般的な賛成条件に暴露された経口投与されたポリアクリレートは流体を吸収せず、酸に暴露された後、ホトンドの流体が摂取された流体である胃内の流体を吸収し始め、栄養素及び薬物の吸収を阻害することが見出された。
【0018】
従って、宿主の腸管から流体を除去する手段及び流体過剰状態を治療する手段が必要とされている。そのような治療は、胃ではなく腸管内の流体を除去し、ポリマー分解、栄養素の吸収及び摂取された流体による飽和を防ぐべきである。さらに、治療は血液含有老廃物、例えば尿素、ホスフェート、塩等を選択的に除去することを求めている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、宿主の腸管から流体(例えば水)を除去するための方法及び材料である。この方法は流体過剰状態にある患者の治療に有効である。流体過剰状態は様々な病気、これは限定するものではないが、うっ血性心不全、肝硬変、ネフローズ、腹水症、腎臓病、浮腫(例えば化学療法に伴う)、月経前流体過剰、及び子癇前症を含む病気より生ずる。この方法は、腸管に非全身、非毒性、非消化性、流体吸収ポリマーを直接投与し、腸管を通過する間に流体を吸収し、その後排出される。1態様において、ポリマーを直接投与する手段は、ポリマーに腸溶皮を施し、このポリマーを患者に摂取させる(経口投与する)ことを含む。この腸溶皮はポリマーが胃に暴露されることを防ぐ。宿主の胃を通過した後、この腸溶皮は分解し、ポリマーが腸管に暴露され、すなわち「直接投与」される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
適用可能なポリマーは、高分子電解質及び非高分子電解質化合物を含む。高分子電解質ポリマーは、限定するものではないが、カルボキシレート含有ポリマー、例えばポリアクリレート、ポリアスパルテート等、スルホネート含有ポリマー、及び生理学的4級もしくはカチオンアミン含有ポリマー、例えばポリアリルアミンもしくはポリエチレンイミンを含む。非高分子電解質ポリマー、もしくは非イオン性ポリマーは、ポリアクリルアミドゲル、ポリビニルアルコールゲル、及びポリウレタンゲルを含む。好ましいポリマーは、「超吸収性」アクリルポリマーを含む。本発明は、水吸収性ポリマーに加え他のポリマーとの混合物を含んでもよい。この混合物中のポリマーは、胃腸管から尿素のような血液含有老廃物を選択的に除去するための官能機を含んでいてもよい。本発明の1態様は、水及び様々な老廃物を除去するための多ポリマー成分の使用を含む。このポリマーは、胃酸から保護し、腸管内で放出もしくは暴露されるように腸溶皮されてもよい。または、このポリマーは、腸管に直接投与可能にする、腸管チューブのような手段によって投与してもよい。
【0021】
本発明は、透析治療の回数及び必要な透析治療時間を減少させ、従来の透析の必要性を低減する。本発明は、うっ血性心不全、腹水症、及び他の流体過剰症の動物もしくは患者から流体を除去することができる。本発明は、動物もしくは患者から老廃物を除去することもできる。
【0022】
本発明のポリマーは通常製造容易であり、多くは市販入手可能である。このポリマーの封入もしくは被覆に用いられる腸溶皮は、胃ではなく腸において流体除去を可能にする。ポリマーが胃において活性となることを防ぐことにより、本発明は、直前に摂取した食事の流体ではなく代謝老廃物を含む腸管に分泌された流体を吸収することを可能にする。従来技術とは対照的に、本発明はポリマーが胃酸に暴露されることを防ぎ、それにより流体吸収能を向上させる。ポリマーが象徴の流体を吸収することを防ぐことにより、本発明は従来の吸収剤よりも栄養素及び薬物の吸収に影響を与えない。
【0023】
本発明は、宿主の腸管に、非全身系、非毒性、非消化性、水吸収性ポリマーを直接導入し、そこから流体を除去することを含む。この「直接導入する」とは、このポリマーを胃腸管に導入する前に胃に直接暴露しないことを意味する。ポリマーを胃腸管に直接導入する1つの好ましい手段は、腸溶皮が施されたポリマーを経口投与することである。この腸溶皮はポリマーが胃を通過する際に、胃酸に暴露されて分解しないようにこのポリマーを保護する。さらに、腸溶皮は胃からの栄養素もしくは水の吸収もしくは吸着を防ぐ。腸管に到達すると、腸溶皮はポリマーを露出もしくは放出し、そこで水及び毒素が吸収される。このポリマーはその後糞便中に排出され、ポリマー、吸収された水及び毒素は体から除去される。直接導入する他の例は、浣腸、鼻もしくは口から通して挿入され、腸の所望の部位に直接注入されるチューブ、腸に注入される腹腔に外科的に取り付けられたチューブ、及び直腸投与を含む。
【0024】
本発明のポリマーは、モノカルボン酸、ポリカルボン酸、アクリルアミド及びその誘導体のようなα,β−エチレン系不飽和モノマーより製造される水吸収性である架橋したポリアクリレート、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸の金属塩、アクリルアミド、及びアクリルアミド誘導体(例えば2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)の繰り返し単位を有するポリマー、並びにこれらの繰り返し単位の組み合わせを有するコポリマーを含む。この誘導体は、ポリビニルアルコールのようなポリマーの親水性グラフトを含むアクリルポリマーを含む。そのようなポリマーを製造するための好適なポリマー及び方法(ゲル重合法を含む)の例は、米国特許第3,997,484号、3,926,891号、3,935,099号、4,090,013号、4,093,776号、4,340,706号、4,446,261号、4,683,274号、4,459,396号、4,708,997号、4,076,663号、4,190,562号、4,286,082号、4,857,610号、4,985,518号、5,145,906号、及び5,629,377号に記載されている。さらに、Buchholz, F.L.及びGraham, A.T., “Modern Superabsorbent Polymer Technology”, John Wiley & Sons (1998)も参照されたい。好ましい本発明のポリマーは高分子電解質である。架橋度はポリマー材料によって異なっていてもよいが、ほとんどの場合、この超吸収性ポリマーは高架橋されており、すなわち架橋度はポリマーがその質量の10倍以上の生理食塩水(すなわち0.9%塩水)を吸収できるようなものである。例えば、そのようなポリマーは約0.2モルパーセント未満の架橋剤を含む。
【0025】
このポリマーには異なる形態も可能である。Buchholz, F.L.及びGraham, A.T., “Modern Superabsorbent Polymer Technology”, John Wiley & Sons (1998)に記載されているポリマーは通常不規則な形状である。架橋したポリアクリレートの他の形態は、EP 314825、US 4833198、US 4708997、WO 00/50096及びUS 1999-121329に記載の方法により製造することができる。これらは球形ビーズ形状及びフィルムを製造するいくつかの方法を含んでいる。EP 314825の例1又はWO 00/50096の例1もしくは例2と同様の方法によって製造されるようなビーズ形状は本発明に特に有利である。それは、流体の取り込み及び膨潤がゆるやかであるからである(以下の例6を参照されたい)。不規則な形状のポリマーは塩水に入れて2時間以内に最大流体吸収を示す。胃を通過する通常の時間は1.5時間であり、小腸においてほとんどの流体がこのポリマーに吸収される。ビーズ形状のポリマーは塩水に暴露された後、10時間でその最大まで膨潤する。これはビーズ形状のポリマーが小腸及び直腸において、不規則な形状のポリマーよりも多くの流体を吸収することを可能にする。腸の末端において多くの流体を吸収することは栄養素及び薬剤の腸における吸収の妨害を妨げ、高濃度の老廃物を有する流体を吸収する。直腸におけるポリマーの膨潤は、胃において膨潤する場合におこるような膨満感をも防ぐ。
【0026】
これらのポリマーの多くは、その形態に関わらず、「超吸収剤」として知られており、制御放出用途及び個人用衛生製品に一般に用いられている。本発明において、食品及び/又は医薬品グレードの材料が好ましい。これらのポリマーのアルカリ金属及びアルカリ土類金属塩(例えばカルシウム、カリウム等)を用いることができるが、ナトリウム塩が特に好ましい。
【0027】
好ましくは、このポリマーはその質量の少なくとも約10倍の生理食塩水を吸収することができる。多くの実施態様において、このポリマーはその質量の20倍以上、30倍以上、さらには40倍以上の生理食塩水を吸収する。本明細書において、塩水は体中に存在するものと同じ、0.9%塩水を含む生理食塩水を意味する。
【0028】
上記のポリマーほど流体を吸収できないためそれほど好ましくないが、多糖も腸管に直接投与することができ、かつ胃に暴露されない限り、本発明において用いることができる。例えば、米国特許第4,470,975号に記載の多糖を、腸溶皮され、経口投与される錠剤又はカプセルにしてもよい。本発明の多くの態様において、多糖ポリマーは避けられる。
【0029】
多くの実施態様において、このポリマーは血液によって運ばれる老廃物、例えば尿素と選択的に結合し、胃腸管を通過する官能基を含む。そのような官能基は、限定するものではないが、尿素と結合するためのアルデヒド基、尿素と結合するための6〜12個の炭素原子を有する炭化水素基、オキサレートと結合するためのトリエチレンテトラアミンもしくはテトラエチレンペンタアミンのようなポリアミノアルキレン基を含む。さらに、アミン官能基、例えばアンモニア、エチレンアミン、アルカノールアミン、C1-C10アルキルアミンをホスフェートもしくはオキサレートと結合するために用いてもよい。「官能化された」ポリマーは水を吸収すると共に、1種以上の血液によって運ばれる老廃物と選択的に結合する。治療法の一部として、目的とする老廃物に応じて官能化されたポリマーの使用を変えることが望ましい。さらに、異なる官能基を有する様々なポリマーを用いてもよい。
【0030】
本発明の1つの実施態様において、このポリマーは、胃内でポリマーの放出を防ぎ、かつ腸管にポリマーを送出する腸溶材料でコートされるもしくは封入される。好ましい導入部位は回腸末端もしくは直腸である。そのような好適なコーティングの例は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース。ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、セルロースアセテートフタレート、及びナトリウムカルボキシルメチルセルロースを含む。他の好適なコーティングは当該分野において知られており、例えばメタクリル酸及びその誘導体をベースとするポリマー(例えばEUDRAGIT pH依存性コポリマーである。このポリマーはカプセル内で提供され、その後腸溶皮が形成される。多くのコーティングを用いてもよい。ビーズもしくは錠剤の形態で提供される場合、このポリマーは直接コートされる。上記のように、本発明は腸管にこのポリマーを導入する他の方法を含む。
【0031】
治療に用いられる水吸収性ポリマーの量は、用いられるポリマーのタイプ、透析によって通常排出される患者の水の総量によってきまる。患者の水吸収は様々であり、従って除去すべき水の量も異なる。従って、水吸収性ポリマーの有効量は広範囲にわたり、例えば1回の治療あたり約0.5g〜約40gであるが、ある場合には約100gにも及ぶ。
【実施例】
【0032】
実施例1
EP 314825の実施例1と同様にして軽く架橋したポリアクリル酸の部分ナトリウム塩をベースとするビーズ形態の吸収性ポリマーを製造した。水酸化ナトリウムで中和し、水に溶解したアクリル酸をジエチレントリアミンペンタ酢酸の五ナトリウム塩と混合し、Isopar L及びAerosil R972を入れ、65℃に保った反応器に加えた。トリメチロールプロパントリアクリレート及び過硫酸ナトリウムの溶液を激しく攪拌しながら加えた。この反応の生成物を反応器から取り出し、濾過し、エタノールで洗浄し、真空中で乾燥した。得られたポリマーは、ポリマー1gあたり45gの0.9%塩水溶液の吸収能を有していた。
【0033】
実施例2
実施例1のビーズ形態のポリマーをヒドロキシプロピルメチルセルロースの5%コーティングでコートし、次いでSureteric(ポリビニルアセテートフタレート)の17.5%コーティングで腸溶皮を形成した。
【0034】
実施例3
6匹の雄のビーグル犬から右の腎臓を摘出し、左の腎臓動脈の8つの枝のうち7つを結紮した。1週間の回復期間の後、血液分析からすべての犬が腎不全となっていることが明らかとなった。次いで2匹の犬に、体重1kgあたり1日1gの実施例1のポリマーを2回にわけて餌とともに投与した。他の2匹の犬には、実施例2の腸溶皮を形成したビーズを体重1kgあたり1日1gを2回にわけて餌とともに投与した。2匹の犬は対照とした。ポリマーを与えて7日及び14日後に、各犬にポリマーと共に、73mgのアンピシリン、38mgのフェノバルビタール、及び8.8mgの亜鉛を含むカプセルを投与した。カプセルを投与する直前と投与2時間後に血液を採取した。血清中のアンピシリンは、対照において平均2.3mg/Lに、未コートポリマーを投与した犬では1.4mg/Lに、腸溶皮ポリマーを投与した犬では2.6mg/Lに上昇した。血清中のフェノバルビタールレベルは、対照において平均5.1mg/Lに、未コートポリマーを投与した犬では2.7mg/Lに、腸溶皮ポリマーを投与した犬では5.0mg/Lに上昇した。血清中亜鉛レベルは、対照において平均0.4ppm上昇し、未コートポリマーを投与した犬では0.8ppm低下し、腸溶皮ポリマーを投与した犬では変化しなかった。このように、未コートポリマーは亜鉛、アンピシリン、及びフェノバルビターリの吸収に影響を与え、一方腸溶皮ポリマーは吸収に影響を与えない。
【0035】
実施例4
6匹の雄の250gのSprague Dawleyラットに自由に通常のラットの餌及び自由に10%エタノール水溶液を与えた。各ラットにチューブによって、コバルト(II)6.3gを酢酸塩の水溶液として毎日投与した。すべてのラットは重症なうっ血性心不全となった。すべてのラットにフロセミドを1日1回4mg投与した。すべてのラットはフロセミドの利尿作用に耐性となった。フロセミド投与5日後に、3匹のラットに実施例2のポリマーをさらに投与した。3匹の対照ラットは1.5g/日で流体を保持しつづけ、一方腸溶皮ポリマーを投与したラットは糞便への水の排出が増加し、1日あたり4.7gの流体を消失した。
【0036】
実施例5
9匹の雄の600gのSprague Dawleyラットの2つの腎臓を切除した。この手術の間、すべてのラットに胃供給チューブを取り付け、3匹のラットでは中部空腸にチューブを取り付けた。次いで、すべてのラットに、胃供給チューブから液体ラット餌を用いてカロリーを摂取させた。すべてのラットは自由に水を摂取させたが、再使用した。3匹のラットは液体餌のみを与える対照群とした。3匹のラットは液体餌と、Buchholz, F.L.及びGraham, A.T.の"Modern Superabsorbent Polymer Technology", John Wiley & Sons (1998)の記載と同様にして、アクリル酸、水酸化ナトリウム、過硫酸ナトリウム、及びトリメチロールプロパントリアクリレートの水性反応により製造されたポリマー0.11gを投与した。このポリマーは大豆油に懸濁し、胃供給チューブを通して胃に投与した。空腸チューブを取り付けた3匹のラットには空腸に同じポリマー(CLP)を投与し、液体餌は胃供給チューブを通して投与した。すべてのラットは分析のため定期的に血液を採取した。各群について血液尿素窒素(BUN)及び血清クレアチニンの平均上昇率を計算した。
【0037】
BUN(mg/dL/hr) クレアチニン(mg/dL/hr)
対照ラット 7.83 0.33
胃CLPラット 6.83 0.35
空腸CLPラット 4.50 0.19
【0038】
このように、すべての腎臓を切除した後のBUNの増加率は、胃にCLPを投与したラットでは対照の81%であり、胃に暴露することなく空腸にCLPを投与したラットでは対照の57%であった。同様に、血清クレアチニンの増加率は、胃にCLPを投与したラットでは対照の104%であり、空腸に直接CLPを投与したラットでは対照の58%であった。
【0039】
実施例6
実施例1に従って製造したビーズ形態のポリアクリレートポリマーの3つのサンプルをろ紙バッグにシールし、pH6.8のリン酸ナトリウム/塩化ナトリウム溶液に浸漬し、3分ごとに計量し、流体の吸収の程度を測定した。Buchholz, F.L.及びGraham, A.T.の"Modern Superabsorbent Polymer Technology", John Wiley & Sons (1998)に記載のようにして製造した不規則な形状のポリアクリレートポリマーの3つのサンプルをろ紙バッグにシールし、pH6.8のリン酸ナトリウム/塩化ナトリウム溶液に浸漬した。質量を記録し、流体の吸収の程度を測定した。この不規則な形状のポリマーは2時間でその最大流体吸収に達した。ビーズ形態のポリマーは10時間後にその最大吸収に達した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸管に有効な量の水吸収性ポリマーを直接導入することにより、宿主の腸管から流体を除去する方法。
【請求項2】
前記ポリマーが、腸溶皮が施されており、ポリマーを導入する方法が経口投与である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約10倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約20倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約30倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約40倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーがアクリレート含有モノマーを重合することにより形成される、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーがアクリル酸もしくはその塩を含むモノマーを重合することにより形成される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記ポリマーが多糖である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記ポリマーが血液で運ばれる老廃物を選択的に吸収する官能基を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記ポリマーが尿素を選択的に吸収する官能基を含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマーがホスフェートを選択的に吸収する官能基を含む、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記腸溶皮が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸ポリマー、又はメタクリル酸の誘導体のポリマーのうち少なくとも1種より選ばれる、請求項2記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、腸溶皮が施されたカプセル内に入れられる、請求項2記載の方法。
【請求項15】
前記腸溶皮が、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸ポリマー、又はメタクリル酸の誘導体のポリマーのうち少なくとも1種より選ばれる、請求項14記載の方法。
【請求項16】
腸管に有効な量の水吸収性ポリマーを直接導入することによる、宿主の流体過剰状態を治療する方法。
【請求項17】
前記ポリマーが、腸溶皮が施されており、ポリマーを導入する方法が経口投与である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記流体過剰状態が、浮腫、うっ血性心不全、腹水、及び腎不全の少なくとも1つより選ばれる、請求項16記載の方法。
【請求項19】
その質量の少なくとも10倍の生理食塩水を吸収することのできる、腸溶皮が施された、非浸透性の、毒性のない水吸収性ポリマーを含む、宿主の腸管から流体を除去するための組成物。
【請求項20】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約20倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項19記載の組成物。
【請求項21】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約30倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
前記ポリマーがその質量の少なくとも約40倍の生理食塩水を吸収することができる、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
前記ポリマーがアクリレート含有モノマーを重合することにより形成される、請求項19記載の組成物。
【請求項24】
前記ポリマーがアクリル酸もしくはその塩を含むモノマーを重合することにより形成される、請求項19記載の組成物。
【請求項25】
前記ポリマーが多糖である、請求項19記載の組成物。
【請求項26】
前記ポリマーが架橋したポリアリルアミンである、請求項19記載の組成物。
【請求項27】
前記ポリマーがビーズ形態である、請求項19記載の組成物。

【公開番号】特開2010−163467(P2010−163467A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106775(P2010−106775)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2002−542411(P2002−542411)の分割
【原出願日】平成13年11月6日(2001.11.6)
【出願人】(507329907)ソーベント セラピューティクス,インコーポレイティド (1)
【Fターム(参考)】