説明

水圧転写用シート、及び水圧転写方法

【課題】水圧転写時における「印刷模様の延びやぼけ」を改良した、水圧転写用シートを提供する。
【解決手段】水溶性又は水膨潤性の支持体シート(A)の一方の面に、少なくとも透明な受像層(B)と印刷手段により形成される絵柄層(C)がこの順に形成された水圧転写用シートであって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする、水圧転写用シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種成形体の表面に水圧転写方式にて絵柄層を転写印刷する際に利用される水圧転写用シート、及び水圧により前記絵柄層を各種成形体に転写印刷する、水圧転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、平面、又は凹凸による立体面を有する成形体の表面に転写印刷により印刷模様を形成するための水圧転写用シート、及びその手段として水圧転写方法が知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
また、水圧転写用シートを製造する際、水圧転写を行う製品のロットの大小、及びサイズの如何に関わらず、所謂オンデマンド生産が可能な水圧転写法も提案されている(特許文献4)。
更に、被転写物に印刷模様を転写する際に、支持体シートを水により溶解または膨潤せしめることとなるが、この時に当該支持体シートが伸展するのでこの支持体シートの伸展を防止するために、支持体シート上に無機顔料とバインダー樹脂とからなる伸展防止層を設ける提案もなされている(特許文献5)。
【0003】
【特許文献1】特公昭52−041683号公報
【特許文献2】特公平07−555999号公報
【特許文献3】特許第2757346号公報
【特許文献4】特開2003−145997号公報
【特許文献5】特開2007−98608号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来の水圧転写用シートにおいて、支持体シート層と絵柄層との間に、防水目的で形成される従来の中間層(プライマー層)では、水圧転写する際に支持体シートの伸展に追従して、伸展するので防水プライマー層上に印刷された印刷模様も同時に伸展して印刷模様の延びやぼけが生じてしまう問題があった。
また、同様に支持体シート層と絵柄層との間に、防水、粘度調整、作業性の改良(ハケサバキ、タレの防止)、タック防止等のために二酸化チタン等の体質顔料を含む中間層を設けたり、又はインキを吸着・保持させる目的と、炭酸カルシウムシリカ、硫酸バリウム等の無機顔料とバインダー樹脂からなる伸展防止目的の中間層(伸展防止層)を設けたりすると、水圧転写された絵柄層を有する成形体において、絵柄層がこれらの中間層中に存在する体質顔料のために白茶けたぼやけが生ずるという問題があった。
水圧転写前は支持体シートとインキ層との層間に位置し、水圧転写後は被転写体の表面又は表面近傍を形成することになる、透明な受像層を形成し、かつ透明性に優れ、顔料の定着性(又は密着性)と染み込み性、耐水性、乾燥性(べたつき防止)、及び耐クラック性に優れ、乾燥時にタック性にも優れている基材樹脂は知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明者は、上記問題点の解決について鋭意研究した結果、前記受像層として体質顔料を使用しないで特定の共重合体樹脂を使用することにより、前記したぼやけ等の問題点を解決できると共に、水圧転写用シートを水面に浮遊させる際に適度に伸展して優れた転写性が得られることを見いだし、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、(1)水溶性若しくは水膨潤性の支持体シート(A)の一方の面に、少なくとも透明な受像層(B)と印刷手段により形成される絵柄層(C)がこの順に形成された水圧転写用シートであって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする、水圧転写用シートに関する発明である(以下、「第1の態様」ということがある)。
第1の態様においては、更に以下の態様とすることが出来る。
(2)前記塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)が少なくとも塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル単位3〜20モル%、及びマレイン酸単位もしくはビニルアルコール単位2〜20モル%を含む共重合体(b1)、又は少なくとも塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル単位3〜20モル%、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位2〜20モル%を含み、かつ水酸基価が15KOHmg/g以上の共重合体(b2)である、前記(1)に記載の水圧転写用シート。
(3)前記受像層(B)に紫外線吸収剤、光安定剤、有機系難燃剤、レベリング剤、スリップ剤および分散剤から選択された1種又は2種以上が含有されていることを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の水圧転写用シート。
【0006】
また、本発明は、(4)少なくとも水溶性又は水膨潤性の支持体シート(A)上に、透明な受像層(B)を形成し、更に受像層(B)面に絵柄層(C)を印刷後、乾燥して得られる水圧転写用シート(D)を形成する工程(水圧転写用シート形成工程)、
次いで、絵柄層(C)面に活性剤を塗布後、該絵柄層(C)が上の面となるように水圧転写用シート(D)を水面に浮遊させて水圧転写用シート(D)を伸展させると共に被転写基材(E)を絵柄層(C)面に押し付けて水圧により被転写基材(E)の要転写部分に水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)面を密着させ、乾燥後水圧転写用シート部分から支持体シート(A)を水による洗浄又は溶解により除去して被転写体(F)を得る工程(水圧転写工程)
を含む水圧転写法であって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする、水圧転写法に関する発明である(以下、「第2の態様」ということがある)。
第2の態様においては、更に以下の態様とすることが出来る。
(5)支持体シート(A)上の受像層(B)が塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)を有機溶媒に溶解させて、乾燥厚みが2〜40μmとなるように塗布し、塗布後乾燥させて形成されることを特徴とする、前記(4)に記載の水圧転写法。
(6)前記絵柄層(C)の形成が、インクジェット印刷法であることを特徴とする、前記(4)又は(5)に記載の水圧転写法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の受像層(B)は、透明性に優れ、顔料の定着性(又は密着性)と染み込み性、耐水性、乾燥性(べたつき防止)、及び耐クラック性にも優れ、乾燥時にタック性にも優れており、本発明の受像層(B)が形成されている水圧転写用シート(D)は白茶けたぼやけも生じず、水圧転写用シートとして優れている。
本発明の水圧転写法は、インクの受像層(B)への染み込みにも優れ、活性剤の塗布により被転写基材(E)との密着性にも優れていて、ぼやけの発生しない絵柄層(C)が受像層(B)で覆われた、耐擦過性に優れた被転写体(F)を得ることが出来る。また、支持体シート(A)への受像層(B)の乾燥後の厚みを2〜40μm程度とすることにより、水圧転写用シート(D)を水面に浮遊させる際に適度に伸展し、優れた転写性を得ることが出来る。
また、本発明の水圧転写方法は、印刷版を使用せずに水圧転写用シート(D)を製造することが出来る為に、オンデマンド方式で必要な時に必要な量だけ水圧転写用シート(D)を製造して、小ロットの水圧転写に対応可能であり、転写を安価に行なう事ができる。
更に、従来の静電印刷により絵柄層を形成すると、感光体及びトナーが不安定であることから色再現性に問題があったが、インクジェット印刷を採用すると、静電印刷のような色再現性の問題がなく、色再現性が良好であり、成形品に優れた意匠を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面を用いて本発明の水圧転写用シート(D)を説明すると、図1に示すように、水溶性又は水膨潤性のシートからなる支持体シート(A)上に、受像層(B)を形成しておき、その上からインクジェット印刷等の印刷を行って絵柄層(C)が形成された水圧転写用シート(D)である。
尚、絵柄層(C)は受像層(B)表面に全面ベタに形成されていても、部分的に形成されていてもいずれでもよい。
また、図2は本発明の水圧転写方法の一例を示す概念図である。図2に示す様に、水圧転写用シート(D)を支持体シート(A)側が水面側を向き絵柄層(C)側が上を向く様にして、水圧転写用シート(D)を水面(W)に浮べると共に、活性剤が塗布された絵柄層(C)の上方から被転写基材(E)を押入れ、該基材の表面に伸展、密着させ、次いで、表面に水圧転写用シートが伸展、密着している被転写基材(E)を水中から引出して、温水シャワー等により支持体シートを除去し、続いて乾燥に付して絵柄模様が形成された被転写体(F)を得る。
【0009】
〔1〕第1の態様の「水圧転写用シート」について
第一の態様である「水圧転写用シート」は、水溶性若しくは水膨潤性の支持体シート(A)の一方の面に、少なくとも透明な受像層(B)と印刷手段により形成される絵柄層(C)がこの順に形成された水圧転写用シートであって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする。
【0010】
(1)支持体シート(A)
支持体シート(A)としては、水溶性又は水膨潤性を有するシートであれば特に制限なく、使用することができる。支持体シート(A)に使用できる具体的な材料として、ポリビニルアルコール樹脂(鹸化物を含む)、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、セラック、アラビアゴム、澱粉、蛋白質、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸との共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸との共重合体、ポリビニルピロリドン、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシルエチルセルロース、アルギン酸ソーダ等が挙げられる。そして、これらの中から選択した1種単独、或いは2種以上の混合物を製膜すれば、支持体シートが得られる。
支持体シートとして好ましいのは、鹸化ポリビニルアルコールである。支持体シートの厚さは、10〜100μm程度が好ましい。
【0011】
(2)受像層(B)
受像層(B)は、少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100の塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)(以下、共重合体(b)ということがある。)である。受像層(B)は、共重合体(b)を有機溶剤に溶解した溶液(受像層形成塗工液)として、支持体シート(A)上に所望の厚みに塗布後、乾燥して形成される。
受像層(B)は、支持体シート(A)上に塗布・乾燥して形成する際にべとつきがなく、適度の乾燥性を有することが必要とされる。また、乾燥後には、透明で絵柄層の顔料の染み込みが良好で、被転写体との密着性にも優れることが必要とされる。更に、水圧転写用シート(D)を水面に浮遊させた際に支持体シート(A)の伸展に追従して受像層(B)が適度に伸展する物性を有することが必要とされる。この場合の受像層(B)に適度の伸展性と追従性を付与するためには、受像層(B)を上記したような適度な厚みに形成することが好ましい。
【0012】
(i)塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)
塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)は、少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を含み、塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、両者を合わせると共重合体中で70モル%以上であり、且つ平均重合度が200〜1100であることを特徴とする。
塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体(b)であれば絵柄層(C)における例えば油性インクジェットインキ中の顔料をはじく現象を抑制でき、インクとの転移性(染み込み性)と密着性にも優れる。前記塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体(b)の中でも、塩化ビニル単位70〜95モル%、酢酸ビニル単位5〜30モル%からなる共重合体であればこれらの効果をより効果的に発揮することが出来る。
【0013】
共重合体(b)において、塩化ビニルと酢酸ビニル以外に、本発明の効果をさらに顕著に発揮できる他のモノマー単位を含めることができる。
塩化ビニル単位及び酢酸ビニル単位以外の他のモノマー単位として、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位、マレイン酸単位、ビニルアルコール単位、(メタ)アクリレート単位が挙げられる。
ここで、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位としては、ヒドロキシメチル、ヒドロキシエチル、ビロキシプロピル、ヒドロキシブチル、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等が例示でき、(メタ)アクリレート(アクリレート及びメタクリレート双方を意味する)単位としては、(メタ)アクリレート重合体およびその共重合体などが挙げられる。
上記の(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル、プロピル、またはブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート等が例示できる。具体的には、例えば、メチルメタクリレート重合体、メチルメタクリレート/ブチルメタクリレート共重合体、メチルメタクリレート/ブチルアクリレート/ヒドロキシエチルメタクリレート/メタクリル酸共重合体、スチレン/(メタ)アクリレート共重合体、その他、(メタ)アクリレートを主成分として、これらに、アクリル酸、メタクリル酸、スチレン、アクリルアミド、ビニルトルエン、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸ヒドロキシエチルなどのコモノマーの共重合体など、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0014】
また、これらの中でも、塩化ビニル単位、酢酸ビニル、及びマレイン酸又はビニルアルコール単位からなる共重合体(b1)、並びに塩化ビニル単位、酢酸ビニル単位、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位からなる共重合体(共重合体(b2))が好ましい。
上記した受像層(B)の機能を有効に発揮するためには、共重合体(b1)は、塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル3〜20モル%、及びマレイン酸又はビニルアルコール2〜20モル%を含むことが望ましく、共重合体(b2)は、塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル3〜20モル%、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート2〜20モル%を含むことが望ましい。
【0015】
上記共重合体(b)の平均重合度が上記上限である1100を越える場合には、インク受容層の形成に使用する塗布液の粘度が上昇して支持体シート(A)上に塗布する際に流動性が低下する問題が生ずる場合があり、一方、平均重合度が上記下限である200未満の場合には、塗膜の乾燥性が低下し、また、塗膜がもろくなる問題が生ずる場合がある。
尚、共重合体(b2)の場合には、水酸基価が15KOHmg/g未満であると、受像層(B)のインク吸収性が低下するおそれがある。尚、共重合体(b1)は、日信化学(株)製、商品名:ソルバインTA2K、共重合体(b2)は、電気化学(株)製、商品名:DVO46、としてそれぞれ入手可能である。
【0016】
上記の共重合体(b)は、単独でも使用できるが、必要に応じて使用する基材に添加されている可塑剤、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テトラヒドロフタル酸、マレイン酸、フマル酸などのカルボン酸化合物とアルコール化合物との低分子量エステル系可塑剤や、ポリエステル系可塑剤およびアルキッド系可塑剤などが基材からブリードアウトしてベタつきが発現するのを抑えたり、あるいは低温時での印字適性を向上させたりするために、共重合体(b)以外の(メタ)アクリレートからなる重合体や共重合体および/またはセルロースアセテートブチレートを添加して使用することができる。その添加量は、共重合体(b)70〜90重量部に対して10〜30重量部が好ましい。
【0017】
前記のセルロースアセテートブチレートは、前記のように基材からブリードアウトする可塑剤によるベタつきを抑え、また、印字適性を向上させるために使用し、好ましくはアセチル基3〜29.5重量%、ブタノイル基17〜50重量%および水酸基1〜3重量%を含有するセルロースアセテートブチレートである。これらのセルロースアセテートブチレートは、イーストマンケミカル社製、商品名:CAB−381−0.1として入手可能である。
【0018】
本発明の受像層(B)には、前記重合体の他に、本発明の目的達成を妨げない範囲において、紫外線吸収剤、光安定剤、有機系難燃剤、レベリング剤、スリップ剤および分散剤から選択された1種又は2種以上を添加することができる。
紫外線吸収剤としては、紫外線暴露、熱などに対する耐久性と化学的安定性の要求に対応した、例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチレート系、シアノアクリレート系、p−アミノ安息香酸のエステル類およびシュウ酸アニリド系など、公知の紫外線吸収剤を使用することができる。また、光安定剤としては、インク受容層の光沢の保持やクラッキング防止に対応した、例えば、ヒンダードアミン系などが挙げられる。
【0019】
難燃性としては、有機系難燃剤を使用することができ、これらの成分としては、公知の塩素系、臭素系、リン系、シリコーン系、窒素系、リン及びハロゲン系、リン及び窒素系など、好ましくは塩素系、臭素系、リン系およびシリコーン系の有機難燃剤が挙げられる。これらの好ましい配合量はインクの転移性、画像再現性、印字物の濃度等を考慮して適宜決定することができる。
これらの有機系難燃剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化ポリエチレン、塩素化脂環化合物などの塩素系難燃剤;テトラブロモビスフェノールA、ヘキサブロモシクロドデカン、テトラブロモブタン、テトラブロモ無水フタル酸、デカブロモジフェニルオキサイドなどの臭素系難燃剤;トリクレジルホスフェート、トリス(β−クロロエチル)ホスフェート、(2,3−ジブロモプロピル)−2,3−ジクロロプロピルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェートなどのリン系難燃剤およびシリコーンエラストマー、シリコーンオイルなどのシリコーン系難燃剤などおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0020】
本発明の受像層(B)には、レベリング剤、スリップ剤および分散剤を添加することができる。レベリング剤としては、例えば、金属石けん系、ポリアミド系、アクリル系、ビニル系、シリコーン系など、また、スリップ剤としては、例えば、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、シリコーン、ポリエチレンワックスなど、また、分散剤としては、例えば、ポリエステル系、アクリル系、ウレタン系などの高分子分散剤や、アルミニウムキレートなどが挙げられる。これらのレベリング剤およびスリップ剤の好ましい添加量は、受容層(B)中で0.01〜3.0質量%となる量である。
【0021】
(ii)有機溶剤
共重合体(b)は有機溶媒に溶解した有機溶剤溶液て、支持体シート(A)上に塗布するのが望ましい。
この場合に好適に使用できる有機溶媒として、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸メチルなどのエステル系、トルエン、キシレンなどの芳香族系、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミドなどのプロトン系など、およびそれらの混合溶剤が挙げられる。これらのなかでもメチルエチルケトン及びトルエンからなる2成分系混合溶媒、メチルエチルケトン、酢酸エチル、及びトルエンからなる3成分系混合溶媒、メチルエチルケトン、トルエン、及びイソプロピルアルコールからなる3成分系混合溶媒、及び酢酸n−ブチル、メチルイソブチルケトン、及びシクロヘキサノンからなる3成分系混合溶媒等を均質化して、有機溶剤濃度が30〜85重量%となる受像層形成塗工液として塗布することができる。
【0022】
(iii)塗布方法と乾燥後の厚み
受像層(B)を形成する際に共重合体(b)の受像層形成塗工液の塗布方法としては、グラビアコーター(グラビアダイレクトコーター、グラビアリバースロールコーターなど)、リバースロールコーター、バーコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スプレーコーター、カーテンコーター、インクジェトなどの公知の方法を用いることができる。
支持体シート(A)上への受像層形成塗工液の塗布量は特に制限されるものではないが1〜40g/m程度が好ましく、塗布後公知の乾燥方法により溶媒を揮発させて乾燥する。
乾燥後の受像層(B)の膜厚は2〜40μmが好ましい。受像層(B)の膜厚が40μm以上では支持体シートの伸展を1.2〜1.5倍程度に制御するのが困難な場合がある。
【0023】
(3)絵柄層(C)
受像層(B)面に絵柄層(C)の形成は、印刷により行うことができる。該印刷方法としては、インクジェット印刷、凹版印刷方式、平版印刷方式、凸版印刷方式、スクリーン印刷方式、刷毛塗り、へら塗り、吹き付け塗り等が挙げられる。これらの中でもインクジェット印刷が好ましく、また、例えば家庭用のインキジェットプリンタ等を用いて、いわゆるオンデマンド生産も可能である。
以下に主にインクジェット印刷に使用されるインクジェットインクの成分である、非水系のビヒクル(定着樹脂)に無機顔料および/または有機顔料を分散した顔料、とこれに使用する溶剤について説明する。
【0024】
上記インクジェットインクとして、特に屋外使用性能に耐え得る非水系のビヒクルに、無機および/または有機顔料を分散した顔料タイプの非水系インクジェットインクが使用可能であり、主溶媒にグリコールエーテル類を含む顔料タイプのインクジェットインクが好ましい。上記のグリコールエーテル類としては、例えば、ジまたはトリエチレングリコールのモノブチルエーテル、プロピレングリコールのモノブチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテルまたはモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールのモノブチルエーテル、ジエチレングリコールのモノヘキシルエーテルなどのエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどのエステル、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお、上記インクジェットインクとして、公知の染料タイプを使用した水系のインクジェットインクも使用することができる。
【0025】
上記の非水系インクのビヒクル(樹脂類)は、上記のグリコールエーテル類を含むインク媒体に混合分散できる公知のインクジェットインク用のビヒクルであればいかなるものでも使用することができる。該ビヒクル(樹脂)としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン−アクリル共重合体、ロジン変性フェノール樹脂、テルペン樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体および繊維素系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂には、必要に応じて、可塑剤、分散剤、ワックス、界面活性剤、帯電防止剤、粘度調整剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの公知の添加剤を添加することができる。
【0026】
上記のインクジェットインクに使用する顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、群青、紺青、酸化鉄、亜鉛華、弁柄などの無機顔料、アリリド系、ピラゾロン系などの不溶性アゾ顔料、銅フタロシアニンブルー、キナクリドン系、チオインジゴ系、インダストロン系、アントラキノン系、ペリレン系、キノフタロン系などの有機顔料が挙げられる。また、本発明の被記録材料は、必要とされる用途に応じて、上記の顔料以外の染料タイプのインクジェットインクにも適用できる。該染料としては、例えば、アゾ染料、キノリン染料、インジゴ染料、ナフトキノン染料、ニトロ染料、金属錯塩染料などの染料が挙げられる。
【0027】
本発明の絵柄層(C)の形成に、上述したように顔料タイプの非水系インクジェットインクを使用すると耐候性、印字濃度および画像再現性に優れるものとなる。絵柄層(C)を形成する際の印刷条件は、とくに限定されるものでなく、通常のインクジェットプリンターを使用し、通常の印字スピード、解像度にて、例えば、解像度720dpiにて印刷可能である。
【0028】
(4)水圧転写用シート(D)
第1の態様の水圧転写用シート(D)における受像層(B)は、特に透明性に優れ、また耐水性、絵柄層の顔料との密着性、乾燥性、耐クラック性に優れ、乾燥時にタック性にも優れているので、このような受像層(B)が中間層として形成された水圧転写用シート(D)は白茶けたぼやけも生じず、転写用シートとして優れている。
【0029】
〔2〕第2の態様の「水圧転写法」について
本発明の第2の態様における「水圧転写法」は、少なくとも水溶性又は水膨潤性の支持体シート(A)上に、透明な受像層(B)を形成し、更に受像層(B)面に絵柄層(C)を印刷後、乾燥して得られる水圧転写用シート(D)を形成する工程(水圧転写用シート形成工程)、
次いで、絵柄層(C)面に活性剤を塗布後、該絵柄層(C)が上の面となるように水圧転写用シートを水面に浮遊させて水圧転写用シートを伸展させると共に被転写基材(E)を絵柄層(C)面に押し付けて水圧により被転写基材の要転写部分に水圧転写用シートの絵柄層(C)面を密着させ、乾燥後水圧転写用シート部分から支持体シート(A)を水による洗浄又は溶解により除去して被転写体(F)を得る工程(水圧転写工程)を含む水圧転写法であって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする。
尚、第2の態様で使用する支持体シート(A)、受像層(B)、及び絵柄層(C)は上記第1の態様に記載したのと基本的に同様である。
【0030】
第2の態様の水圧転写法は、少なくとも「水圧転写用シート形成工程」と「水圧転写工程」を含む水圧転写された絵柄層を有する被転写体の製造方法である。
(1)水圧転写用シート形成工程
「水圧転写用シート形成工程」は、水溶性若しくは水膨潤性の支持体シート(A)上に透明な受像層(B)を形成し、更に受像層(B)面に絵柄層(C)を印刷後、乾燥して得られる水圧転写用シート(D)を形成する工程であり、「水圧転写用シート形成方法」は、第1の態様の「水圧転写用シート」の項に記載したのと同様の部分は記載を省略する場合がある。
(i)支持体シート(A)上に受像層(B)の形成
先ず、水溶性若しくは水膨潤性の支持体シート(A)の一方の面に、透明な受像層(B)を形成する。受像層(B)は、本発明の共重合体(b)を有機溶剤に溶解した溶液(受像層形成塗工液)として、支持体シート(A)上に所望の厚みに塗布後、乾燥して形成される。支持体シート(A)上への受像層形成塗工液の塗布方法は、第1の態様で記載したのと同様である。
【0031】
乾燥は公知の方法により有機溶媒を揮発することにより行われるが、受像層形成塗工液の塗布量は、乾燥後の受像層(B)の塗膜厚みを2〜40μm程度と成るように塗布することが好ましく、2〜10μmがより好ましい。該塗膜厚みが2〜10μmの範囲にあると、水圧転写用シートを水面に浮遊させた際に支持体シート(A)の伸展に追従して受像層(B)が適度に伸展するので良好な転写体が得られる。該膜厚が2μm未満では、インクジェットインクで印字後のインクの吸収性が低くなりインクの定着性が低下し好ましくない。該膜厚が40μm超では水圧転写用シートを水面に浮遊させたときに、伸展が生じ難いため、支持体シート(A)への追従がし難く絵柄層に歪みが生じる虞がある。尚、転写用シートは、水圧により被転写基材(E)に密着させた後に、水圧転写用シート部分から水洗等により支持体シート(A)は除去されるので、支持体シート(A)と受像層(B)間での高い密着性は特に必要とされない。
【0032】
(ii)受像層(B)面に絵柄層(C)の形成
受像層(B)面に絵柄層(C)を形成する手段は特に制限はないが、インクジェット印刷、凹版印刷方式、平版印刷方式、凸版印刷方式、スクリーン印刷方式、刷毛塗り、へら塗り、吹き付け塗り等により絵柄層(C)として形成される。これらの中でもインクジェット印刷が特に好ましい。
特に、インクジェット印刷は、小ロットの印刷を行なう場合、商業印刷等で汎用化されているオンデマンド印刷で印刷模様層を形成するのはきわめて効果的である。このオンデマンド印刷は静電印刷(コピー)を応用した方式ではなく、インクジェット印刷を利用して行なう。インクジェット印刷に用いる装置としては、インクジェット印刷機、該印刷機の制御及び画像情報処理受用の電子計算機、原稿画像を読込んでAD変換するスキャナ装置、画像情報を記憶用の記憶装置、画像表示装置等から構成される。これらの装置を用いて、画像データを取込、該画像に顧客の要望も取入れてCRT等の画像表示装置に画像を表示してデスクトップ上で色調の調整、画像の補正(不要部分の除去等)、他の画像データとの組合わせ、画像の殖版、画像のエンドレス化等の処理を行い、これを受像層(B)の表面にインクジェット印刷して絵柄層(C)を形成する。
【0033】
インクジェット印刷により形成される絵柄層の図柄は特に限定されず、木目柄、石目柄、布目柄、文字、図形、記号、絵柄等の任意の形状に形成されるものである。絵柄層(C)は、受像層(B)の表面に、全面ベタに形成されていても、部分的に形成されていてもいずれでもよい。絵柄層(C)の厚さは、通常1〜10μm程度に形成する。
インクジェット印刷は、被印刷体に細いノズルからインキを粒子(液滴)の状態で噴出させて印刷を行なう方法であり、インキの噴出法とインキの粒子の制御法の種類により、荷電制御型、Hertz型、電界制御型、圧力制御型(オンデマンド型)等の方法がある。
【0034】
インクジェット印刷に用いられるインキ成分は、第1の態様に記載したのと同様である。
インクジェット印刷に用いられるインキとしては、有機溶剤希釈型、或は水性のいずれのものも用い得る。但し、ノズルの目詰り防止、有機溶剤についての防火(防爆)及び衛生管理の煩雑さの回避の点から、水性(水溶液或は水分散エマルジョン)インキが好ましく用いられている。好ましい形態の一つとして、印刷時は水性とし、印刷後は非水溶性且つ非水膨潤性化せしめる事が挙げられる。このような形態の具体例として、ポリオールとブロックイソシアネートから水性インキを構成してインクジェット印刷し絵柄層(C)を形成し、印刷後(水面に浮べる前までの間)、該絵柄層(C)を加熱してブロック解除し、ポリオールとイソシアネートを架橋させ、絵柄層(C)を非水溶性且つ非水膨潤性化する方法がある。
又、インクジェット印刷に用いられる非水溶性インキとしては、アクリル樹脂、ポリエステル、硝化綿、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の樹脂を、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤で希釈し、これに更に前記の如き着色剤、其他添加剤を添加したものが挙げられる。
【0035】
例えば、インクジェット印刷により絵柄層(C)は、非水系のビヒクル(定着樹脂)に無機顔料および/または有機顔料を分散した顔料タイプのインクジェットインクと溶剤からなるインク組成物をインクジェット法による塗布後、溶剤を乾燥して形成される。
実用上、受像層(B)面上の殆どは絵柄層(C)で覆われる場合が多いので、受像層(B)と絵柄層(C)間の接着性は特に重要であるので、受像層(B)を構成する共重合体(b)に対応する絵柄層(C)に使用するビヒクル(定着樹脂)の選択を考慮することが望ましい。本発明の受像層(B)を構成する共重合体(b)に対しては、例えば第1の態様に記載した絵柄層(C)のビヒクル(定着樹脂)を使用すれば良好な接着性が維持できる。また、受像層(B)面にインク組成物が塗布されると、有機溶剤が揮発して乾燥が進行すると共に、顔料の一部が受像層(B)中の共重合体(b)に染み込んで定着する。
尚、受像層(B)面インク組成物が乾燥した後に、受像層(B)にクラックが生じないような条件を選択する必要があるが、本発明の共重合体(b)を使用するとクラック発生を有効に防止することが可能である。
【0036】
かくして得られた水圧転写用シート(D)は、支持体シート(A)上に防水等の目的でプライマー層を設ける必要もなく、受像層(B)と絵柄層(C)の密着性も良好であり、クラックの発生も防止できる。また、転写工程で、受像層(B)全体が適度に伸展するのでしわの発生を防止出来る。
更に、受像層(B)にシリカ、炭酸カルシウム等の体質顔料を使用していないので、転写後の絵柄層(C)にぼやけが発生することもない。
【0037】
(2)水圧転写工程
「水圧転写工程」は、絵柄層(C)面に活性剤を塗布後、該絵柄層(C)が上の面となるように水圧転写用シート(D)を水面に浮遊させて水圧転写用シート(D)を伸展させると共に被転写基材(E)を絵柄層(C)面に押し付けて水圧により被転写基材(E)の要転写部分に水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)面を密着させ、必要により乾燥後、水圧転写用シート部分から支持体シート(A)を水による洗浄又は溶解により除去して、必要により乾燥させ被転写体(F)を得る工程である。
(イ)被転写基材(E)
本発明方法において、被転写基材(E)としては各種の製品が利用できる。例えば、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂等の樹脂成形体、鉄、アルミニウム、銅等の金属成形体、木質成形体、硝子、陶磁器、其他各種無機質成形体等の、所定の立体形状に形成されたものが最適に利用できる。
尚、被転写基材(E)の被転写面には水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)又は受像層(B)との密着性を良好ならしめる為の易接着処理を施しておくことができる。易接着処理は、易接着層の形成、或はコロナ放電処理等がある。易接着層は例えば被転写体がポリスチレン樹脂成形体の場合にはウレタン系やアクリル系の樹脂を用いた塗工組成物を塗工して形成される。
【0038】
(ロ)水圧転写工程
(i)活性剤の塗布
水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)を活性化させるとは、該絵柄層(C)の一部が溶解或は膨潤して、被転写体に付着し易い状態として接着力を付与する事である。このような活性剤としては、絵柄層(C)のバインダー成分を溶解或は膨潤可能な溶剤を含有するものが用いられる。活性剤として用いられる溶剤は、受像層(B)の溶剤として例示したものの中から適宜絵柄層(C)のバインダー成分に応じて選択することができる。
活性剤は上記溶剤のみから構成してもよいが、水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)が被転写基材(E)の被転写面に転写される工程が水面上で完了するまでは蒸発することがなく、さらには被転写基材(E)の表面を浸蝕することのないものであることが好ましい。このような活性剤としては、前記した絵柄層(C)を活性化させる溶剤中に、下記の樹脂を溶剤の5〜60質量%程度となるように添加してなる膨潤化液を用いることができる。上記膨潤化液は、活性剤の粘度調整が容易であり、塗工液の塗付手段が幅広く利用可能であり、転写工程にある程度の時間を要する場合でも安定した接着性を得ることができるといった利点がある。
【0039】
膨潤化液に添加される樹脂としては、例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル重合体;ポリスチレン及びスチレン誘導体から得られる重合体;ポリ酢酸ビニル等のビニルエステル重合体;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸又はフマル酸等の不飽和カルボン酸のエステル誘導体から得られる重合体;前記不飽和カルボン酸等のニトリル誘導体又は該酸等の酸アミド誘導体から得られる重合体;前記不飽和カルボン酸類の酸アミド誘導体のN-メチロール誘導体及び該N-アルキルメチロールエーテル誘導体;グリシジル(メタ)アクリレート、アクリルグリシジルエーテル、ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、2-ヒドロキシエチル-(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル-(メタ)アクリレート、エチレン、エチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート等の単量体の単独又は共重合体等の熱可塑性樹脂;初期縮合物、天然樹脂、ロジン及び其の誘導体、セルロース誘導体、天然又は合成ゴム、石油樹脂等の樹脂が挙げられる。尚、(メタ)アクリレートとはアクリレート又はメタクリレートを意味する。
【0040】
活性剤の絵柄層(C)上への塗工手段としては、グラビアオフセットコート、グラビアコート、ロールコート、バーコート、スプレーコート、超音波コート等を用いることができ、活性剤の塗工量は好ましくは1〜30g/m2程度、より好ましくは1〜10g/m2程度である。水圧転写用シート(D)の装飾層面側に活性剤を施す方法としては、代表的には次の2方法があり、いずれかを選択することができる。
(i-1)先ず、水圧転写用シートの装飾層面側に活性剤を塗工した後に、水圧転写用シートを支持体シート側が水面側を向く様にして水面上に浮遊させる方法
(i-2)先ず、水圧転写用シート()を支持体シート側が水面側を向く様にして、水面上に浮遊させてから、その水圧転写用シートの装飾層面側に活性剤を塗工する方法
【0041】
(ii)水圧転写用シート(D)の水面浮遊、水圧転写
水圧転写用シート(D)を水面(W)上に浮遊させる手段は、枚葉の水圧転写用シートを1枚ずつ浮べたり、水を1方向から流した水面上に、連続帯状の水圧転写用シートを連続的に供給して浮べたりする。
水圧転写用シート(D)を水面(W)に浮遊させた際に支持体シート(A)部の伸展を好ましくは1.2〜1.5倍程度になるように制御する。このような制御手段としては、例えば支持体シート(A)の端部を固定する等の物理的手段により容易に行うことが出来る。
水圧転写においては、上記活性剤を塗布した後の水面上の水圧転写用シート(D)に対して、被転写基材(E)を上から押圧して、水圧によって該水圧転写用シート(D)を被転写基材(E)に密着させ、絵柄層(C)を被転写基材(E)の被転写面に密着させる。図2は、この工程を概念的に示す説明図である。すなわち、水圧転写においては、水面(W)上に浮遊させた水圧転写用シート(D)の上から、被転写基材(E)をその装飾すべき被転写面が下方となるようにして下降させて、被転写基材(E)を水中に押し込むことで、その被転写面の形状に沿って水圧転写用シート(D)を伸ばし変形させて、水圧によって被転写基材(E)の被転写面に水圧転写用シート(D)を密着させる。
また、必要により水圧転写用シート(D)を密着後、乾燥させる。
【0042】
なお、水圧転写用シート(D)を水面(W)に浮べてその支持体シート(A)が水と接した際、該支持体シートが水膨潤性の場合には膨潤し、水溶性の場合は少なくとも一部が溶解する。
なお、水圧転写用シート(D)を浮べ水圧により転写する為の水は、水圧転写用シート(D)中の支持体シート(A)の種類(例えば水溶性或は水膨潤性の差)等に応じ、適宜水温を調整することが望ましい。例えば、支持体シート(A)が澱粉系シートの場合は水温40〜50℃が良い。また、支持体シート(A)の除去を促進する添加剤を添加しても良く、例えば澱粉系シートの場合はアミラーゼ等を添加することが好ましい。
【0043】
(iii)水洗脱膜
上記水圧転写の後に、更に脱膜工程を適宜行う。この脱膜工程は、上記水圧転写工程にて、支持体シート(A)も、受像層(B)と絵柄層(C)と共に被転写基材(E)の被転写面に押圧されて被転写基材(E)に密着している場合に、その支持体シート(A)を溶解或いは洗浄で除去し、受像層(B)と絵柄層(C)を被転写基材(E)上に残す工程である。従って、被転写基材(E)を水中に押込み水圧転写するときに、支持体シート(A)が水に完全に溶解して水面上に受像層(B)と絵柄層(C)のみが浮遊している場合には、この脱膜工程は不要な場合もある。脱膜工程では、水圧転写用シート(D)の支持体シート(A)の少なくとも一部が溶解せずに被転写基材(E)上に残存している場合には、被転写基材(E)の被転写面に絵柄層(C)が十分に密着後、その支持体シート(A)を除去する。
支持体シート(A)の除去は、例えば、水を用いてシャワー洗浄することで行う。脱膜工程により、被転写面に付着している支持体シート(A)は完全に除去される。なお、シャワー洗浄の条件は、支持体シート(A)の種類等で異なるが、通常は水温15〜60℃、洗浄時間10秒〜5分が好ましい。そして、脱膜工程後、或いは脱膜工程が省略される場合は、前記水圧転写工程後、又は水圧転写工程の最後に、被転写体を十分乾燥し水分を蒸発させれば、被転写体(F)の被転写面に転写された絵柄層(C)によって、所望の意匠が付与された転写物品が得られる。
【0044】
(3)水圧転写された絵柄層を有する被転写体(F)
かくして得られた水圧転写された絵柄層を有する被転写体(F)は、絵柄層(C)のぼやけの発生しない絵柄層(C)が受像層(B)で覆われ、耐擦過性に優れるものである。また、絵柄層(C)は伸展が少ないので、印刷模様の色濃度も正確に再現される。
【実施例】
【0045】
以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。本実施例で使用した原材料、及び評価項目について以下に記載する。
1.原材料
(1)支持体シート
厚さ40μmのポリビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業(株)製:商品名ハイセロンC−300)を支持体シートとして用いた。
(2)受像層
(i)樹脂成分
受像層を形成する樹脂成分として、下記の共重合体を使用した。
共重合体B1:[塩化ビニル/酢酸ビニル]モル比:70/30からなるモノマーを共重合させて得られた平均重合度400の共重合樹脂
共重合体B2:[塩化ビニル/酢酸ビニル]モル比:90/10からなるモノマーを共重合させて得られた平均重合度600の共重合樹脂
共重合体B3:[塩化ビニル/酢酸ビニル]モル比:60/40からなるモノマーを共重合させて得られた平均重合度800の共重合樹脂
共重合体B4:塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート系共重合体として、電気化学(株)製、商品名:DVO46を使用した。
共重合体B5:塩化ビニル−酢酸ビニル−ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート系共重合体として、日信化学(株)製、商品名:ソルバインTA2Kを使用した。
(ii)混合溶剤成分
酢酸ブチル/メチルイソブチルケトン/シクロヘキサノンが重量比で4/4/2からなる混合溶剤を使用した。
(3)インキ
下記の成分を混合してインクジェット印刷用インキを調製した。
ビヒクルとしてセルロースアセテートブチレート樹脂を使用し、着色剤としてC.I.FoodBlack 2、C.I.Direct Blue 199、C.I.Direct Yellow 86がそれぞれ9質量%となるイソプロピルアルコール溶液を調製した。
(4)活性剤
活性剤は、大橋化学(株)製、CPA−H(成分:フタル酸系アルキッド(樹脂)、マイクロシリカ(顔料)、DBP(添加剤)、溶剤)を用いた。
(5)被転写基材
ABS成形体を使用した。
【0046】
2.評価項目
(イ)受像層について
支持体シート上にグラビア輪転機にて受像層を形成し、以下の項目の評価を行った。
(i)受像層の印刷性:塗工ムラ、転移性について評価した。評価基準は下記の通りとした。
◎:塗工ムラと転移性が全く観察されない。
○:ルーペによる観察で塗工ムラと転移性がかすかに認められたが問題ないレベルである。
×:塗工ムラ及び/又は転移性が観察される。
(ii)受像層の透明性:白濁感の有無について評価した。評価基準は下記の通りとした。
○:白濁感は観察されない。
×:白濁感が観察される。
(ロ)受像層にインクジェットによる印刷を行い、受容層における印刷性として、グラデーションと絵柄の印刷性について評価した。
(i)グラデーション:インキの泳ぎ(ムラ)と転移性について評価した。評価基準は下記の通りとした。
◎:インキの泳ぎがなく、転移性もない。
○:インキの泳ぎが若干みられるものの、転移性は問題のないレベルでる。
×:インキに泳ぎが有り、転移性がある。
(ii)絵柄の印刷性:インキの泳ぎと、転移性について評価を行った。評価基準は下記の通りとした。
◎:インキの泳ぎがなく、転移性もない。
○:インキの泳ぎが若干みられるものの、転移性は問題のないレベルである。
×:インキに泳ぎが有り、転移性がある。
(iii)受像層印刷後の割れ:水圧転写後、1日経過してから、受像層の割れの有無を目視にて監査した。評価基準は下記の通りとした。
◎:割れが全く観察されない。
○:ごく僅かな割れが観察されたが、問題のないレベルである。
×:割れが観察される。
(ハ)水圧転写性
(i)水面上でのシワの発生:水面にて受容層の伸展に起因するシワ発生の有無の評価(表1中に該評価項目を「水面」と記載する)を行った。評価の基準は下記の通りとした。
◎:受容層にシワが観察されなかった。
○:受容層にごく僅かなシワは観察されたが問題のないレベルである。
×:受容層にシワが観察された。
(ii)伸展性:水面にて受像層の伸び、及び支持体シートの伸展性について評価した。評価の基準は下記の通りとした。
◎:水面にてフィルムが適度に伸び、基材に十分伸展される。
○:水面にてフィルムが適度に伸び、基材に伸展される。
×:水面にてフィルムが伸び難い、または伸び過ぎたため、基材に十分伸展されない。
(iii)付き廻り性:支持体シートに対して、受容層の付き廻り性の評価を行った。評価の基準は下記の通りとした。
◎:基材に対して、フィルムが付き廻り(密着)が十分である。
○:基材に対して、フィルムが付き廻り(密着)が少ないが問題のないレベルである。
×:基材に対して、フィルムが付き廻り(密着)が十分でない。
【0047】
[実施例1]
(1)水圧転写用シートの製造
(i)受像層形成塗工液の調製
共重合体B1 12重量部、及び混合溶剤88重量部からなる受像層形成塗工液を調製した。
(ii)水圧転写用シートの製造
支持体シート上に、受像層形成塗工液をグラビアロールコートで3g/m(乾燥時)塗工して、厚み3μmの受像層を形成した。次にインクジェット印刷機(ローランドDG社製、ソルジェットSC−545EXW)と前記インキを用いて該受像層上に、解像度720dpiにて印刷を行い、水圧転写用シートを得た。
得られた水圧転写用シートについて、(i)受像層の印刷性、(ii)受像層の透明性、(iii)印刷性(グラデーション、人物(又は木目)、受像層印刷後の割れ)を評価した結果をまとめて表1に示す。
【0048】
(2)水圧転写
(i)印刷模様層上に活性剤の塗工
水圧転写用シートの製造で得た水圧転写用シートの印刷模様層上に前記活性剤を3g/m2塗工し、室温下で乾燥した。
(ii)水圧転写
前記活性剤を塗布して得られた水圧転写用シートを水温30℃の水面上に前記水圧転写用シートの支持体シート側が水面側を向く様にして水面に浮遊せしめ、1分間経過後に、該支持体シートが膨潤した状態に於いて、被転写基材を水圧転写用シートの上方から押入れ、該成形体の表面に延展、密着させた。次いで、表面に水圧転写用シートが延展、密着している被転写基材を水中から引出した。
尚、膨潤後の延展水圧転写用シート縦、横方向の延展の平均値を表1に示す。
(iii)支持体シートの除去、乾燥
表面に水圧転写用シートが延展、密着している被転写基材を40℃の温水で30分間シャワーした後、さらに清水でシャワーし、水圧転写用シートのポリビニルアルコールと澱粉から成る支持体シートを除去し、続いて乾燥に付し、印刷模様が形成されたポリスチレン樹脂成形体を得た。
水圧転写における、(i)転写性、(ii)付き廻り性、及び(iii)伸展性を評価した。
評価結果をまとめて表1に示す。
【0049】
[実施例2、3]
実施例2、3において、受容層に使用する共重合樹脂成分として共重合体B2、共重合体B3をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様にして、水圧転写用シートを作製し、次に水圧転写して被転写体を作製した。これらの水圧転写用シートと被転写体について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果をまとめて表1に示す。
【0050】
[実施例4、5]
実施例4、5において、受容層に使用する共重合樹脂成分として共重合体B4、共重合体B5をそれぞれ使用した以外は実施例1と同様にして、水圧転写用シートを作製し、次に水圧転写して被転写体を作製した。これらの水圧転写用シートと被転写体について、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果をまとめて表1に示す。
【0051】
[比較例1]
受容層に使用する共重合樹脂のモノマー成分([塩化ビニル]/[酢酸ブチル])モル比を40/60から得られる共重合樹脂とした以外は実施例1と同様にして、水圧転写用シートを作製し、次に水圧転写して被転写体を作製した。また、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果をまとめて表1に示す。
【0052】
[比較例2]
受像層形成塗工液の成分を共重合体B1 12重量部、体質顔料としてシリカ10重量部及び沈降性硫酸バリウム10重量部、並びに上記混合溶剤82重量部からなる受像層形成溶液の調製した以外は実施例1と同様にして、水圧転写用シートを作製し、次に水圧転写して被転写体を作製した。また、実施例1に記載したと同様の評価を行った。評価結果をまとめて表1に示す。
【0053】
(表1)



【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の水圧転写法に用いられる水圧転写用シートの概略断面図である。
【図2】本発明の水圧転写法の一例を示す概念図である。
【符号の説明】
【0055】
A 支持体シート
B 受像層
C 絵柄層
D 水圧転写用シート
E 被転写基材
W 水面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性又は水膨潤性の支持体シート(A)の一方の面に、少なくとも透明な受像層(B)と印刷手段により形成される絵柄層(C)がこの順に形成された水圧転写用シートであって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする、水圧転写用シート。
【請求項2】
前記塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)が少なくとも塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル単位3〜20モル%、及びマレイン酸単位もしくはビニルアルコール単位2〜20モル%を含む共重合体(b1)、又は少なくとも塩化ビニル単位70〜90モル%、酢酸ビニル単位3〜20モル%、及びヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位2〜20モル%を含み、かつ水酸基価が15KOHmg/g以上の共重合体(b2)であることを特徴とする、請求項1に記載の水圧転写用シート。
【請求項3】
前記受像層(B)に紫外線吸収剤、光安定剤、有機系難燃剤、レベリング剤、スリップ剤および分散剤から選択された1種又は2種以上が含有されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水圧転写用シート。
【請求項4】
少なくとも水溶性又は水膨潤性の支持体シート(A)上に、透明な受像層(B)を形成し、更に受像層(B)面に絵柄層(C)を印刷後、乾燥して得られる水圧転写用シート(D)を形成する工程(水圧転写用シート形成工程)、
次いで、絵柄層(C)面に活性剤を塗布後、該絵柄層(C)が上の面となるように水圧転写用シート(D)を水面に浮遊させて水圧転写用シート(D)を伸展させると共に被転写基材(E)を絵柄層(C)面に押し付けて水圧により被転写基材の要転写部分に水圧転写用シート(D)の絵柄層(C)面を密着させ、水圧転写用シート部分から支持体シート(A)を水による洗浄又は溶解により除去して被転写体(F)を得る工程(水圧転写工程)
を含む水圧転写法であって、
受像層(B)が少なくとも塩化ビニル単位と酢酸ビニル単位を併せて70モル%以上含む共重合体であり、該塩化ビニル単位(モル%)は酢酸ビニル単位(モル%)よりも多く、且つ平均重合度が200〜1100である塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)からなることを特徴とする、水圧転写法。
【請求項5】
支持体シート(A)上の受像層(B)が塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体(b)を有機溶媒に溶解させて、乾燥厚みが2〜40μmとなるように塗布し、塗布後乾燥させて形成されることを特徴とする、請求項4に記載の水圧転写法。
【請求項6】
前記絵柄層(C)の形成が、インクジェット印刷法であることを特徴とする請求項4又は5に記載の水圧転写方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−214420(P2009−214420A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−60602(P2008−60602)
【出願日】平成20年3月11日(2008.3.11)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】