説明

水圧転写用シート及びこれを利用した化粧製品

【課題】立体感を付与し得る水圧転写用シート及びこれを用いて印刷された化粧製品を提供すること。
【解決手段】水圧転写用シート(10)は、水溶性フィルム(12)と、水溶性フィルム上に設けられた複数の第1の印刷層(14)と、第1の印刷層上に設けられた第2の印刷層(16)と、第2の印刷層上に設けられた、各第1の印刷層に対応する盛り上げインキからなる複数の突起(18)とを含む。第2の印刷層は例えば木目模様が印刷されたものからなり、第1の印刷層は例えば導管模様が印刷されたものからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水圧転写用シート及びこれを用いて印刷された化粧製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家具や建具、車両の内装品等からなる被転写物の表面、特に曲面からなる表面への印刷のために用いられる水圧転写シートが提案されている(後記特許文献1参照)。
【0003】
前記水圧転写用シートは水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上に印刷層とを有する。前記水圧転写用シートによれば、その水溶性フィルムを水につけて前記被転写物の表面をその印刷層に当てると、水圧により、前記印刷層が前記被転写物の表面に付着する。前記水溶性フィルムは水に溶けて消失し、前記印刷層のみが前記被転写物の表面に残り、これにより前記表面への転写、印刷がなされる。
【特許文献1】特公昭57−50547号公報
【0004】
ところで、前記被転写物の表面に転写された印刷層には凹凸がなく、装飾上、立体感に乏しい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、立体感を付与し得る水圧転写用シート及びこれを用いて印刷された化粧製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水圧転写用シートに係り、水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上に設けられた印刷層と、該印刷層上に設けられた盛り上げインキからなる複数の隆起とを含む。前記印刷層には、例えば、木目模様と導管模様とが印刷され、あるいは砂目模様や抽象柄模様等が印刷される。
【0007】
また、本発明に係る他の水圧転写用シートは、水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上に設けられた複数の第1の印刷層と、該印刷層上に設けられた第2の印刷層と、該第2の印刷層上に設けられた、各第1の印刷層に対応する盛り上げインキからなる複数の隆起とを含む。前記第1の印刷層には例えば導管模様が印刷され、また前記第2の印刷層には木目模様が印刷される。あるいは、例えば、前記第1の印刷層及び前記第2の印刷層にそれぞれ石目模様、抽象柄模様等が印刷される。
【0008】
さらに、本発明は前記水圧転写用シートにより印刷された化粧製品に係り、被転写物と、前記水圧転写用シートの隆起を接して前記被転写物に水圧転写されかつ前記水圧転写用シートから水溶性フィルムが除かれた転写層と、該転写層にこれを覆うように塗布されたコート層とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、水圧転写用シートの水溶性シートを水につけかつその隆起に被転写物の表面を押し当てることにより、その印刷層を前記被転写物に転写、印刷することができる。本発明にあっては、前記水溶性シートが水に浸かって膨潤し、あるいはその一部が水に溶解すると、水圧を受ける第1の印刷層の一部、あるいはさらに第2の印刷層が前記隆起の表面と、該隆起間の前記被転写物の表面とに押し付けられる。その結果、前記隆起に付着する印刷層の部分が凸状をなし、かつ前記隆起間において前記被転写物の表面に付着する印刷層の部分が凹状をなす印刷面(印刷模様)が得られる。これにより、前記被転写物の印刷面に立体感を付与することができる。
【0010】
前記印刷層に、例えば、導管模様を含む木目模様、砂目模様、抽象柄模様等を印刷するときは、前記印刷層における印刷模様の一部に凹凸を付与することができる。
【0011】
前記第1の印刷層を木目模様が印刷された印刷層とし、かつ前記第2の印刷層を導管模様が印刷された印刷層とするときは、木目模様中の導管模様に凹凸を付与し、これを浮き立たせることができる。
【0012】
また、前記第1の印刷層及び前記第2の印刷層の双方に例えば砂目模様や抽象柄模様を印刷するときは、前記第1の印刷層における印刷模様に凹凸を付与することができる。
【0013】
本発明に係る化粧製品は、前記被転写物に転写されてなる印刷層を含む転写層にこれを保護するコート層を塗布することにより得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1を参照すると、本発明に係る水圧転写シートが全体に符号10で示されている。
【0015】
水圧転写シート10は、金属製、プラスチック製等の被転写物20(図2参照)の表面への印刷のために用いられる。
【0016】
水圧転写シート10は、例えばポリビニルアルコール(PVA)製の水溶性フィルム12と、該水溶性フィルム上に互いに間隔をおいて設けられた複数の第1の印刷層14と、該第1の印刷層上に設けられた第2の印刷層16と、第2の印刷層16上に設けられた、各第1の印刷層14に対応する盛り上げインキからなる複数の突起18とを含む。
【0017】
第2の印刷層16及び各第1の印刷層14は、それぞれ、例えばニトロセルロース系樹脂、アルキッド系樹脂、塩ビ酢ビ系樹脂、ウレタン系樹脂等からなる。
【0018】
また、突起18を構成する盛り上げインキは例えば高粘度・高固形分系インキからなり、突起18はグラビア版、スクリーン版等を用いて形成することができる。突起18の太さ、数量、密度等は各第1の印刷層14の模様の種類、その大きさ等に合わせて、適宜に設定することができる。また、隆起18の突出量すなわち高さ寸法は、例えば、両印刷層14,16の厚さ寸法の和を3〜5μmとするとき、20〜30μmに設定することができる。個々の隆起18の高さ寸法は、図示の例のように一様に設定することができる。
【0019】
図2に示すように、水圧転写シート10を用いた被転写物20の表面への印刷は、水圧転写シート10を水22に入れて行う。すなわち、水溶性フィルム12を水22に浸けて行う。このとき、水22に浮かぶ水圧転写シート10の突起18の上からこれに被転写物20の表面を当て、次いで水圧転写シート10と共に被転写物20を水中に沈める。なお、被転写物20を水圧転写シート10あてがう前に、突起18とその直下の第2の印刷層16とに活性剤を塗布する。これにより、第2の印刷層16と突起18の先端部とを柔軟にすると共に、これらに接着性を付与する。前記活性剤として、例えばメチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルアルコール、メチルアルコール、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0020】
水中に沈められた水圧転写シート10は、その水溶性フィルム12を介して受ける水圧24により被転写物20の表面にその形状に従って接し、その第2の印刷層16と突起18の先端部とにおいて接着する。
【0021】
水溶性フィルム12が水に浸かって膨潤し、あるいはその一部が水に溶解すると、第1の印刷層14及び第2の印刷層16が直接に水圧を受ける。その結果、第2の印刷層16の一部は直接に、また第1の印刷層14の一部は第2の印刷層16を介して間接的に各隆起18の表面に押し付けられ、また隆起18間では被転写物20の表面に押し付けられ、凹凸に変形する。このとき、第2の印刷層16は予めこれに付与された接着性により突起18の表面及び被転写物20の表面に付着し、また突起18の先端部が予めこれに付与された接着性により被転写物20の表面に付着する。なお、この間、被転写物20の表面に当接する隆起18は前記水圧に耐え、その形状が維持される。
【0022】
その後、被転写物20を水中から引き上げる。被転写物20の表面にはこれに接する突起18及びこれに付着した印刷層14,16からなる転写層26が転写、印刷されている。水中から引き上げられた被転写物20に水溶性フィルム12が残存しているときは、これを除去する。
【0023】
その後、転写層26の表面すなわち第1の印刷層14及び第2の印刷層の一部からなる表面を保護すべく、転写層26を覆うように透明なコート層28が塗布される(図3及び図4参照)。その結果、前記印刷層の一部に前記凹凸が表現された化粧製品30が得られる。
【0024】
コート層28は、例えば二液ウレタン塗料、紫外線硬化性の樹脂等からなる。コート層28を形成するために塗布されたこれらの塗料、樹脂の一部は、転写層26の印刷層14,16にしみこむ。このため、突起18間の凹みをこれが埋もれないように確保することが容易である。
【0025】
第2の印刷層16及び各第1の印刷層14は、それぞれ、任意の印刷模様を有するものとすることができる。例えば、第2の印刷層16について木目模様を表すベタ刷りの印刷層としかつ第1の印刷層14について前記木目模様の一部としての導管模様を表す印刷層とすることができる。この例では、第1の印刷層14が表す前記導管模様に前記凹凸が現れる。
【0026】
また、前記導管模様を含む木目模様のほか、たとえば、第1の印刷層14及び第2の印刷層16にこれらが共同して表す砂目模様、抽象柄模様等を印刷することができる。これによれば、第1の印刷層14により表された前記砂目模様中の一部、前記抽象柄模様中の一部に前記凹凸が生じる。
【0027】
前記した例では、水圧転写用シート10が第1及び第2の両印刷層14,16を含むものであるが、この例に代えて、第1の印刷層14を有しないものすなわち第2の印刷層16のみを有する水圧転写用シートとすることができる。これによれば、水圧転写により、複数の突起18からなる複数の突起群がそれぞれ印刷層16の表面の複数箇所に部分的に凹凸を生じさせることができる。この例では、印刷層16を例えば、導管模様を有する木目模様、砂目模様、抽象柄模様等が印刷された印刷層とし、その表面に現れた前記導管模様、砂目模様の一部、抽象柄模様の一部に凹凸を付し、これらを立体的に表現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る水圧転写用シートの断面を模式的に示す図である。
【図2】水圧転写用シートを被転写物と共に水中においた状態を断面で示す模式図である。
【図3】水圧転写用シートを用いて印刷された被転写物である化粧製品の断面を示す模式図である。
【図4】図3に示す化粧製品の部分拡大図である。
【符号の説明】
【0029】
10 水圧転写用シート
12 水溶性フィルム
14,16 第1及び第2の印刷層
18 盛り上げインキ
20 被転写物
26 転写層
28 コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上に設けられた印刷層と、該印刷層上に設けられた盛り上げインキからなる複数の隆起とを含む、水圧転写用シート。
【請求項2】
前記印刷層は、木目模様と導管模様とが印刷された印刷層からなる、請求項1に記載の水圧転写用シート。
【請求項3】
前記印刷層は、砂目模様が印刷された印刷層からなる、請求項1に記載の水圧転写用シート。
【請求項4】
前記印刷層は、抽象柄模様が印刷された印刷層からなる、請求項1に記載の水圧転写用シート。
【請求項5】
水溶性フィルムと、該水溶性フィルム上に設けられた複数の第1の印刷層と、該第1の印刷層上に設けられた第2の印刷層と、該第2の印刷層上に設けられた、各第1の印刷層に対応する盛り上げインキからなる複数の隆起とを含む、水圧転写用シート。
【請求項6】
前記第1の印刷層は導管模様が印刷された印刷層からなり、また前記第2の印刷層は木目模様が印刷された印刷層からなる、請求項5に記載の水圧転写用シート。
【請求項7】
前記第1の印刷層及び前記第2の印刷層は、それぞれ、石目模様が印刷された印刷層からなる、請求項5に記載の水圧転写用シート。
【請求項8】
前記第1の印刷層及び前記第2の印刷層は、それぞれ、抽象柄模様が印刷された印刷層からなる、請求項5に記載の水圧転写用シート。
【請求項9】
被転写物と、請求項1〜8のいずれか1項に記載の水圧転写用シートの隆起を接して前記被転写物に水圧転写されかつ前記水圧転写用シートから水溶性フィルムが除かれた転写層と、該転写層にこれを覆うように塗布されたコート層とを含む、化粧製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−203655(P2007−203655A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−26901(P2006−26901)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(392036821)日本デコール株式会社 (6)
【Fターム(参考)】