説明

水変色性シート及びその製造方法

【課題】幼児用お絵かきシートなどに用いられる、乾燥状態では不透明であるが、含水すると透明に変化する変色層を具備する水変色性シートにおいて、前記変色層に配合される含水変色顔料として、分散剤などを別途配合しなくても、水への分散性に優れ、多孔質構造ではない含水変色顔料を用いた水変色性シートを提供すること。
【解決手段】含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する水変色性シートにおいて、前記含水変色顔料としてベーマイトを含む水変色性シートとすること。また含水変色顔料として更に炭酸カルシウムを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥状態では不透明であるが含水状態では透明に変化する含水変色顔料を用いた水変色性シートとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乾燥状態では不透明であるが、含水すると透明に変化する化合物(含水変色顔料)を利用して、かかる含水変色顔料を含む変色層を具備する水変色性シートを用いた玩具が提供されている。この玩具は、前記水変色性シートと、例えばペン先などに水などの液体を吸液させることのできる筆記具形態の塗布具とからなり、前記水変色性シートの表面を前記塗布具で筆記や描画すると、前記水変色性シート表面の含水部分が、乾燥するまでの間、その色調に変化が生じることで、筆記やお絵描きなどを楽しめるものである。
【0003】
かかる水変色性シートの含水変色顔料を含む変色層としては、例えば特許文献1では、低屈折率顔料、なかでも湿式法で製造された微粒子状珪酸(湿式法微粒子状珪酸)をバインダー樹脂に分散状態に固着させた多孔質層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−104661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、含水変色顔料として、例えば特許文献1で用いられている湿式法微粒子状珪酸などを用いた場合、水への分散性が悪く、適度な色差を出すのに必要な量を配合するためには、スチレンアクリルコポリマーなどの分散剤が必要であるが、このことがコストアップの要因ともなっていた。
【0006】
さらに、湿式法微粒子状珪酸などでは多孔質を形成する細孔容積が比較的大きいメソ細孔構造を持ち、平均粒子径4.5〜100μmの湿式法微粒子状珪酸のBET比表面積の値が一般的に190〜700m/g程度である。このことから、前記多孔質層(変色層)に有色顔料などの着色成分をさらに加えた場合、細孔の近傍に存在する着色成分を取り込んでしまうため、着色成分がバインダーによって固着されない場合がある。このため、含水状態において固着されていない着色成分が流出してしまい、その結果、水変色性シートを敷いた床が汚れる要因となり、また多孔質層(変色層)の色が徐々に薄くなるなど製品としての耐久性に問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する手段として、本発明の水変色性シートでは、水を含ませると色の濃淡が変化する変色層に用いる顔料(含水変色顔料)としてベーマイトを利用したことを最も主要な特徴とする。
【0008】
すなわち本発明は、含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する、水を含むと変色する水変色性シートにおいて、前記含水変色顔料としてベーマイトを含むことを特徴とする水変色性シートである。
【0009】
更に上記特徴を持つ水変色性シートは、前記支持体と前記変色層との間に、有色の着色剤を含む着色剤層を設けた水変色性シートとすることもできる。また前記変色層に、有色顔料をさらに配合することもでき、若しくは前記変色層のバインダーの樹脂成分を有色染料で染めることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の水変色性シートによれば、前記変色層の含水変色顔料としてベーマイトを用いることで、乾燥状態と含水状態との色調の変化、すなわち色差(ΔE)が十分大きいのは勿論であるが、さらにベーマイトは水に対する分散性がよいので、含水変色顔料を高濃度配合した場合でも、特段分散剤を必要とせず分敢させることができる。これにより効果的なコストダウンが図られる。
【0011】
また、前記変色層の含水変色顔料としてベーマイトの他に、副次成分として炭酸カルシウムを更に加えることで、変色層を作製するためのインキ(ホワイトベース)に曳糸性(えいしせい)が付与され、連続印刷性が改善されるので、量産性が向上するとともに、平滑な表面を持つ水変色性シートを得ることができる。また、安価な材料である炭酸カルシウムを所定の範囲内の配合割合にて用いることで、水変色性シートとしての色差ΔEを劣化させることなく、全体としてコストダウンを図ることができる。
【0012】
また、結晶性のベーマイトや多孔質ではない炭酸カルシウムを前記変色層の含水変色顔料として用いることにより、前記変色層中にさらに有色顔料を配合した場合でも、該有色顔料はバインダーによりしっかり固着され、含水時に有色顔料が流出することがほとんどない。かかる構成が実用的に可能になったことで、表面乾燥状態では白色しかできなかった水変色シートの表面に、カラーバリエーションを付与することができようになった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔構成の概要〕
本発明の水変色性シートは、支持体の上に、ベーマイト(通常は粒子状)を含む含水変色顔料、或いはベーマイトと炭酸カルシウムとを含む含水変色顔料をバインダー樹脂に分散状態で固着させた変色層を設けることにより構成される。また前記支持体と前記変色層との間に、着色成分を含む着色剤層を設ける構成であってもよい。また、前記着色剤層と前記変色層の間に後述する混合層を更に設けてもよい。或いは前記変色層に白色以外の有色顔料を配合し、カラーバリエーションを付与した構成とすることもできる。該構成が実現可能になったことは、本発明の利点でもある。また、前記変色層のバインダーを白色以外の有色染料で染めて該変色層にカラーバリエーションを付与した構成とすることもできる。
【0014】
〔含水変色顔料〕
本発明にいう含水変色顔料とは、乾燥状態と含水状態で色調が変化する顔料である。一般的には乾燥状態では隠蔽性の白色であり、含水状態で透明化するという変化が生じる。本発明では含水変色顔料としてベーマイトが必須成分として用いられる。ベーマイト以外の含水変色顔料としては、上述の湿式法微粒子状珪酸などの珪酸、珪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウムなどを挙げることができる。本発明の水変色性シートでは、含水変色顔料としてはベーマイトのみで構成されることが好ましいが、ベーマイトを主成分(全含水変色顔料に対し50重量%以上)として、ベーマイト以外の含水変色顔料を副次成分として混合して用いることもできる。特に含水変色顔料としてベーマイトを主成分として用いた場合には、副次的成分として特に炭酸カルシウムとの相性が良いことが分かった。
【0015】
〔ベーマイト〕
本発明で用いるベーマイトとは、ボーキサイト中に含まれる天然鉱物の一種で、ベーム石とも呼ばれる。組成式(構造式)は、Al・HO或いはγ−AlOOHで表される。この点、Al・3HO或いはAl(OH)で表される水酸化アルミニウムとは組成が相違する。
【0016】
本発明で用いるベーマイトの比表面積は、特に制限されないが、BET値で0.5〜100m/gであることが好ましい。BET値がこの範囲よりも大きくても小さくても乾燥状態と含水状態との色差(ΔE)が小さくなる傾向にあり、好ましくない。またベーマイトの嵩密度も、特に制限されないが、0.1〜0.5g/cmであることが好ましい。
【0017】
本発明の水変色性シートで用いるベーマイトとしては、市販されている、大明工業社製のベーマイト粉体シリーズや、河合石灰工業製のセラシュールシリーズなどにより入手可能である。
【0018】
〔炭酸カルシウム〕
前記変色層に分散固着させる含水変色顔料として、主成分であるベーマイトとともに副次的成分として炭酸カルシウムを用いることが好ましい。炭酸カルシウムは単独で含水変色顔料として用いると含水状態と乾燥状態との色差ΔEは小さく、実用的な水変色性シートを得ることができない。しかしベーマイトを主成分として炭酸カルシウムを副次的成分として用いた場合には、ベーマイトの優れた色調変化をほとんど阻害しないことが分かった。また、炭酸カルシウムは安価な材料であるため、所定の範囲内の配合割合にて用いることで、水変色性シートとしての性能は維持しつつ、コストダウンを図ることができる。
【0019】
〔着色成分〕
本発明では、変色層や、また後述の着色剤層や混合層を設ける場合にはそれらの層を、有色顔料・有色染料(白色以外の色を持つ顔料や染料)といった着色成分で着色することもできる。有色の着色成分としては、公知の染料、顔料など各種のものが制限なく用いられる。例えば青色である製品名「POLYMO NAVY BLYE NT-231 ECO」(紀和化学工業株式会社製)、緑色である製品名「Ryudye-w Green F2G」(大日本インキ化学工業(株)製)、蛍光色である製品名「Lumikol」シリーズ(日本蛍光化学(株)製)などを挙げることができる。変色層に着色剤を配合させる様態において、着色剤として有色顔料を用いる際には、前記含水変色顔料とともに、下記バインダーを用いて、分散状態で固着させることができる。一方、着色剤として有色染料を用いる場合には、下記バインダーの樹脂成分を予め染色させて用いることができる。
【0020】
〔バインダー〕
本発明で用いられるバインダーとしては、前記含水変色顔料、或いはそれとともに着色成分としての有色顔料を、分散状態で固着させうる樹脂エマルションを好適に用いることができる。具体的には、ウレタン系樹脂、ナイロン樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル酸エステル樹脂、アクリル酸エステル共重合樹脂、アクリルポリオール樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、マレイン酸樹脂、ポリエステル樹脂、スチレン樹脂、スチレン共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン共重合樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエン共重合樹脂、ブタジエン樹脂、クロロプレン樹脂、メラミン樹脂、及び前記各樹脂エマルション、カゼイン、澱粉、セルロース誘導体、ポリビニルアルコール、尿素樹脂、フェノール樹脂などのエマルションが挙げられる。
【0021】
なかでも今回、アクリル系樹脂或いはアクリル−酢酸ビニル系樹脂エマルションが、前記ベーマイト、或いはベーマイト+炭酸カルシウム系との分散性の相性が良く、好適に使用できることが分かった。具体的には、日本合成化学工業(株)製の商品名「モビニールDM772」やローム・アンド・ハース社の商品名「PRIMAL」シリーズを挙げることができる。
【0022】
さらに前記樹脂エマルションに硬化剤を加えることもできる。
【0023】
バインダーに用いられる樹脂エマルションの好適な濃度としては、分散させる被分散粒子、すなわち含水変色顔料や有色顔料の性状にも左右されるが、樹脂エマルション固形分濃度で2.25〜36重量%とすることが好ましく、さらには4.5〜27重量%とすることがより好ましい。樹脂エマルション固形分濃度が2.25重量%未満であると、被分散粒子が沈降し、また定着性の劣化が生じる。一方、樹脂エマルション固形分濃度が36重量%を超えると、変色層として支持体へ印刷によって積層させる際の印刷適性に劣る。
【0024】
〔積層方法〕
前記支持体に、変色層を、或いは着色剤層とさらにその上に変色層とを形成させる手段としては、例えば、シルク印刷などスクリーン印刷、オフセット印刷、グラビヤ印刷、コーター、タンポ印刷、転写等の印刷手段、刷毛塗り、スプレー塗装、静電塗装、電着塗装、流し塗り、ローラー塗り、浸漬塗装等の公知の手段を適宜用いることができる。
【0025】
〔作製用インキ〕
上記印刷において、変色層などを上記印刷によって作製するためには、作製用インキに曳糸性(えいしせい)を付与させることが求められる。曳糸性とは、インキの粘り気に関する性質であり、インキに曳糸性が不足すると、下地にインキがのりにくく、はじきやすくなり、まだら模様のようなムラのある印刷塗面になりやすい。本発明では作製用インキに適度な曳糸性を付与するため、粘性改質剤を更に加え、かつ作製用インキ中に含まれる固形成分の合計が、作製用インキ全量に対して35重量%以上とすることが好ましい。
【0026】
〔粘性改質剤〕
含水変色顔料としてベーマイトを用いる本発明においては、粘性改質剤として、ポリウレタン系の粘性改質剤が好ましいことが分かった。ポリウレタン系の粘性改質剤としては、具体的には、(株)ADEKA社製の商品名「アデカノールUH」シリーズ、ローム・アンド・ハース社製の商品名「PRIMAL」シリーズの「RM−2020NPR」「RM−5000」「RM−6000」「RM−7」「RM−5」、アクゾノーベル社製の商品名「BERMODOLPUR」シリーズなどを挙げることができる。なかでも「アデカノールUH」シリーズが最適である。
【0027】
粘性改質剤の含有量は特に制限されるものではないが、作製用インキ全量に対して0.5〜30重量%(固形分濃度として0.2〜10重量%)が好ましく、1〜20重量%(固形分濃度として0.3〜7重量%)が更に好ましい。粘性改質剤の固形分濃度が0.2重量%未満であると粘性改質剤による曳糸性付与効果がほとんど現れない。一方、固形分濃度が10重量%を超えると作製用インキの流動性がなくなり、印刷が困難になる。
【0028】
〔固形成分割合〕
前記作製用インキには、その成分である含水変色顔料をはじめ、バインダーや粘性改質剤などに、固形成分が含まれている。固形成分とは、水その他の溶媒成分を完全に除去した後に残留する成分である。本発明では作製用インキ中に含まれる固形成分の合計が、作製用インキ全量に対して35重量%以上であることが好ましい。固形成分の合計が35重量%未満であると作製用インキに適度な曳糸性を付与することが困難になり、塗面(変色層表面)に印刷ムラが生じやすくなるからである。さらに作製用インキ中に含まれる固形成分の合計が作製用インキ全量に対して60重量%未満であることがより好ましい。固形成分の合計が60重量%を超えると印刷用メッシュに版詰まりが生じやすくなり、不良率が増加するからである。
【0029】
〔変色層〕
本発明における変色層を形成するための塗布量は、これを塗布する支持体の材質などにも左右され、特に限定されるものではない。ただし、該変色層に有色の着色成分を配合する様態とするか、該変色層に有色の着色成分は配合せず、別に着色剤層を設ける或いは支持体自体を着色する様態とするかによって好適な塗布量は変化する。まず変色層に有色の着色成分を配合しない様態では、塗布量を5〜50g/m2とすることが好ましい。塗布量が50g/m2を超えると含水状態でも下層の着色剤層または着色した支持体の色が見えにくくなり、また水を塗布した際の変化が分かりにくくなるため好ましくない。さらに好適な塗布量は10〜20g/m2である。なお本明細書の実施例において、有色の着色剤が添加されていない変色層作製用塗布液(作製用インキ)をホワイトベースと称することがある。
【0030】
また、本発明の水変色性シートで、変色層に有色の着色成分を配合する様態では、該着色層の厚みを厚くするほど、含水させたときの色差(ΔE)は大きくなる。着色剤を配合した変色層を形成するための塗布量は特に制限されないが、濃淡の変化を明確にするには、5g/m2以上であることが好ましく、より好ましくは20g/m2以上である。塗布量が5g/m2未満であると、色調の濃淡の差が小さくなるだけでなく、表面から下地の支持体が透ける場合がある。一方、塗布量が多すぎると、シルク印刷などの簡便な方法による変色層の形成が困難となるので、200g/m2以下、より好ましくは100g/m2以下である。最も好ましい塗布量は30〜50g/m2である。
【0031】
変色層は通常、水変色性シートの最表面の層として設けられるが、更にその上から水を通すことができる透明の被覆保護層などを設け、これを最表面とすることもできる。
【0032】
〔着色剤層〕
本発明の水変色性シートで前記変色層に有色の着色成分を加えない様態の場合、該変色層と支持体との間に、着色剤層を設けることが好ましい。着色剤層は、有色顔料などの着色成分を前記バインダーで分散させて形成させることもできるし、有色染料で前記バインダーの樹脂成分を染色することもできる。或いはビヒクルを含むインキを用いて形成させることもできる。着色剤層を形成する際の塗布量は、水変色性シートの可撓性を害さない程度であればよく、特に制限されない。
【0033】
〔混合層〕
また、本発明の水変色性シートでは、着色剤層と変色層を設ける構成において、該着色剤層と該変色層との間に、さらに混合層を設けることもできる。すなわち(裏面)支持体/着色剤層/混合層/有色の着色成分を含まない変色層(表面)とすることもできる。混合層は、有色の着色成分と、バインダーによって分散固着される含水変色顔料を含む。有色の着色成分が有色顔料の場合は、含水変色顔料とともにバインダーによって分散固着させることができ、有色の着色成分が有色染料の場合は、バインダーの樹脂成分を染色することができる。混合層に含まれる着色成分の配合割合は、着色剤層に含まれる着色成分の配合割合よりも小さくし、また混合層に含まれる含水変色顔料の配合割合は変色層に含まれる含水変色顔料の配合割合よりも小さくすることが効果的である。
【0034】
更に、混合層を複数層とすることもできる。この場合、着色剤層に近い混合層ほど有色の着色成分の配合割合を大きくし、変色層に近い混合層ほど含水変色顔料の配合割合を大きくすることが好ましい。また混合層を設ける場合、好ましい塗布範囲は、変色層と混合層の厚みの合計塗布量が、上述の有色の着色成分を配合しない場合における変色層の好適塗布量の範囲内となることが好ましい。かかる混合層は上述の変色層や着色剤層の積層方法と同様の方法で作製することができる。
【0035】
〔その他の成分〕
前記変色層、前記着色剤層、前記混合層には上記成分の他、それぞれ必要に応じて界面活性剤、湿潤剤、保湿剤、造膜助剤、防腐剤、消泡剤、保水剤、可塑剤、増粘剤などを適宜加えることもできる。本発明は、分散剤を加えなくても水との分散性に優れるベーマイトを用いることが特徴のひとつであるが、このことは変色層への分散剤の配合を禁止するものではない。
【0036】
〔支持体〕
本発明の水変色性シート支持体としては、印刷などの方法によってその表面に変色層などを積層させることのできるものであれば特に制限されないが、ポリエステルなどの織布、編物、不織布、シルク等の布帛の他、耐水性処理を施した紙素材などが好適に使用できる。本発明では変色層に有色の着色成分を含ませず、かつ着色剤層を設けずに、有色の着色成分で支持体自体を着色し、或いは白色以外の有色である支持体を用いることもできる。
【0037】
〔水不浸透シート〕
さらには前記支持体の背面(変色層側の反対面)に、ポリオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂等の軟質化プラスチックなど、水が浸透せず、かつ可撓性を有する材料による水不浸透シートを貼り付け、或いは積層させてもよい。かかる水不浸透シートを設けることにより、床などに本発明の水変色性シートを敷いて使用した場合でも、床が筆記による水で汚れることがない。
【実施例】
【0038】
〔色差評価〕
下記各実施例、比較例で得られた各塗布量の水変色性シートについては、表面乾燥状態と含水状態との色差(ΔE)により、色調変化の評価を行った。色差の測定にはJIS Z8729に規定される、CIE1978(L)表色系を用いた。なおLは、色の明るさ(明度)を示し、クロマティクネス指数aは、彩度を示す。色差測定装置としては顕微色差計「CR−241」(コニカミノルタセンシング(株)製)を用いた。測定手順は次のとおりである。
1.顕微鏡のファインダー視度を調節する。
2.測定径を1.8mmに設定する。
3.表色モードLabにして、白色校正板で校正する。
4.汚れのない位置を確認して乾いた状態の水変色性シート表面の(L)を測定する。これを(L)とする。
5.水を含んだペンで線幅約2.0mmの線を筆記(水を塗布)し、表面が乾かないうち(5秒以内)に水変色性シート表面の(L)を測定する。これを(L)とする。
6.得られた測定値から下記式〔数1〕により、色差ΔEを求める。
【0039】
【数1】

【0040】
〔有色顔料流出評価〕
変色層に有色顔料を加えた例(実施例7、比較例9,10)については、次の手順で有色顔料流出評価を行った。まず変色層表面に濾紙を乗せ、該濾紙に1kgの荷重をかけた状態で、擦りながら5cm動かす。試験後の濾紙への着色状態により次のような評価を行う。
○:濾紙への着色が観察されない。或いは実用上問題ない程度に僅かである。
×:濾紙への着色が明確に観察される。
【0041】
〔曳糸性評価〕
実施例8〜13については、曳糸性の評価を行った。まず得られたホワイトベースを深さ1.2cm以上の容器にやや溢れる程度まで充填した後、充填された容器上面をペインティングナイフで平らにした。次に前記容器の上方で、直径5mmのガラス棒を曲げ強度引張試験機「STA-1150」(オリエンテック社製)にセットする。充填したホワイトベース中にガラス棒を1cm挿入した後、500mm/min.で引き上げると、ガラス棒底面に付着したホワイトベースが、ガラス棒の引き上げにつれて伸びあがる。更にガラス棒を引き上げると、伸びあがったホワイトベースが引きちぎられる。ガラス棒底面がホワイトベースに接触したときの位置を基準として、ホワイトベースが引きちぎれた時点のガラス棒底面の位置までの距離Hを測定し、曳糸性の評価とした。
【0042】
〔印刷性評価〕
また得られたホワイトベースを120メッシュにてスキージ65°の角度で基材に印刷し、次のような基準で印刷性の評価を行った。
【0043】
(A.表面斑点数)
印刷された塗面(変色層表面)を観察し、目視にて発見された斑点数をカウントした。
【0044】
(B.版詰まり)
○:5回の印刷で、いずれの回の印刷でも版詰まりが生じない。
△:5回の印刷のうち、何回か版詰まりが生じ印刷できない場合がある。
×:5回の印刷のうち、全回版詰まりが生じ、印刷できない。
【0045】
〔実施例1〜5、比較例1〕
表1記載の配合量で湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤をディゾルバーで攪拌混合し、その後、表1記載の配合量で樹脂エマルションと増粘剤を加えて3本ロールミルにかけ、ベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表1記載の配合量で含水変色顔料(ベーマイト,炭酸カルシウム)を加え攪拌し、ホワイトベースを調整した。このホワイトベースを、アクリルニスコートを行った水色の合成紙「オーパ(登録商標)MDP」(日本製紙製)を支持体として、塗布量15g/m2で100メッシュのスクリーン印刷法で塗布し、塗膜を室温で1日乾燥させ、実施例1〜5,比較例1の水変色性シートを得た。
【0046】
得られた実施例1〜5、比較例1の水変色性シートは、上記方法にて色差(ΔE)評価を行った。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
〔比較例2,3〕
含水変色顔料としてベーマイト,炭酸カルシウム以外の化合物を用いた。比較例2では含水変色材料として珪酸を用い、比較例3では水変色材料として珪酸アルミニウムを用いた。表2記載の配合量で湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤をディゾルバーで攪拌混合し、その後、表2記載の配合量で樹脂エマルションと増粘剤を加えて3本ロールミルにかけ、ベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表2記載の配合量で含水変色顔料を加え攪拌し、ホワイトベースを調整した。このホワイトベースを、アクリルニスコートを行った水色の合成紙「オーパ(登録商標)MDP」(日本製紙製)を支持体として、塗布量15g/m2で100メッシュのスクリーン印刷法で塗布しようとしたところ、該ホワイトベースがゲル化したため、印刷ができなかった。
【0049】
〔比較例4,5〕
比較例2,3ではホワイトベースのゲル化により製造できなかったため、比較例2,3で用いた含水変色材料の配合量を減らした系を比較例4,5とした。比較例4では含水変色材料として珪酸を用い、比較例5では水変色材料として珪酸アルミニウムを用いた。その他は表2記載の配合量、実施例1〜5、比較例1と同様の手順で比較例4,5の水変色性シートを得た。
【0050】
比較例4,5の水変色性シートは上記方法にて色差(ΔE)評価を行った。その結果を表2に示す。実施例の水変色性シートと比較して、比較例3,4の水変色性シートは色差(ΔE)が小さく、乾燥状態と含水状態の色調変化が小さいことが分かる。
【0051】
〔比較例6〜8〕
比較例1,2ではホワイトベースのゲル化により製造できなかったため、さらに分散剤を配合した系を比較例6,7とした。分散剤は、湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤とともに加え、ディゾルバーで攪拌混合した。比較例6では含水変色材料として珪酸を用い、比較例7では水変色材料として珪酸アルミニウムを用いた。更に含水変色材料としてアルミニウムオキサイドを用いた系を比較例8とした。その他は表2記載の配合量で、実施例1〜5、比較例1と同様の手順で比較例6〜8の水変色性シートを得た。
【0052】
比較例6〜8の水変色性シートは上記方法にて色差(ΔE)評価を行った。その結果を表2に示す。比較例6,7の水変色性シートの色差(ΔE)は、実施例のものと同程度(比較例7)か若干劣る程度(比較例6)であるが、分散剤としてスチレンアクリルコポリマーを用いたことからコスト面で割高となった。比較例8の水変色性シートは色差(ΔE)が小さく、乾燥状態と含水状態との色調変化が小さいことが分かる。
【0053】
【表2】

【0054】
〔実施例6〕
表3記載の配合量で湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤をディゾルバーで攪拌混合し、その後、表3記載の配合量で樹脂エマルションと増粘剤を加えて3本ロールミルにかけ、ベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表3記載の配合量で含水変色顔料(ベーマイト,炭酸カルシウム)を加え攪拌し、ホワイトベースを調整した。一方、支持体である白色のポリエステル製布帛表面に有色顔料を含む着色剤層をスクリーン印刷法で設けた。前記ホワイトベースを前記着色剤上に塗布量15g/m2で100メッシュのスクリーン印刷法で塗布し、塗膜を室温で1日乾燥させ、実施例6の水変色性シートを得た。得られた水変色性シートは、上記方法にて色差(ΔE)評価を行った。その結果を表3に示す。
【0055】
〔実施例7、比較例9,10〕
表3記載の配合量で湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤をディゾルバーで攪拌混合し、その後、表3記載の配合量で樹脂エマルションと増粘剤を加えて3本ロールミルにかけ、ベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表3記載の配合量で含水変色顔料および有色顔料を加え攪拌し、ホワイトベースを調整した。このホワイトベースを、白色のポリエステル製布帛を支持体として、塗布量15g/m2で100メッシュのスクリーン印刷法で塗布し、塗膜を室温で1日乾燥させ、実施例7、比較例9,10の水変色性シートを得た。
【0056】
実施例7、比較例9,10の水変色性シートは上記方法にて色差(ΔE)評価を行うとともに、併せて有色顔料流出評価を行った。その結果を表3に示す。含水変色顔料として珪酸を用いた比較例9では、有色顔料の流出が明確に生じたため、使用による耐用性に欠けることが分かった。
【0057】
【表3】

【0058】
〔実施例8〜14〕
表4記載の配合量で湿潤剤、防腐剤、消泡剤、保湿剤、粘性改質剤、レベリング剤をディゾルバーで攪拌混合し、その後、表3記載の配合量で樹脂エマルションと増粘剤を加えて3本ロールミルにかけ、ベース液を調整した。このベース液に、ロールにかけた表4記載の配合量で含水変色顔料を加え攪拌し、実施例8〜14のホワイトベースを得た。
【0059】
粘性改質剤の配合割合が小さい実施例11と樹脂エマルションの固形分割合の少ない実施例13はいずれも曳糸性が不足し、印刷時に版詰まりは生じなかったものの、塗面に多く斑点が生じ、変色層表面に印刷ムラが生じていることが明らかであった。粘性改質剤を過剰配合した実施例12と樹脂エマルションの固形分割合の大きい実施例14はいずれも曳糸性は十分であり、印刷された変色層の特性は良好あったが、印刷時に版詰まりが発生することがあり、不良率が増加した。
【0060】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の水変色性シートは、ペン先などに水などの液体を吸液させることのできる筆記具形態の塗布具とともに、繰り返し使用できるお絵かきシートとして玩具などの用途で利用できる。かかる玩具は、筆記に用いる液体が水であるため、着色インキなどを用いたお絵かきシートなどと比較して使用後の汚れがほとんどなく、特に幼児用の玩具として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された変色層と、前記変色層を支持する支持体とを少なくとも具備する水変色性シートにおいて、
前記含水変色顔料としてベーマイトを含むことを特徴とする水変色性シート。
【請求項2】
前記変色層の含水変色顔料が、ベーマイトからなる請求項1記載の水変色性シート。
【請求項3】
前記変色層が、さらに含水変色顔料として炭酸カルシウムを含む請求項1記載の水変色性シート。
【請求項4】
前記ベーマイトのBET値が0.5〜100m/gである請求項1〜3いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項5】
前記ベーマイトの嵩密度が0.1〜0.5g/cmである請求項1〜3いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項6】
前記変色層が、さらに有色顔料を含む請求項1〜5いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項7】
前記変色層のバインダーの樹脂成分が、有色染料で着色されている請求項1〜6いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項8】
前記支持体と前記変色層との間に、有色の着色成分を含む着色剤層を設けた請求項1〜6いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項9】
前記変色層と前記着色剤層との間に、有色の着色成分ともに含水変色顔料がバインダーで分散状態に固着された混合層を設け、該混合層に含まれる該含水変色顔料の配合割合が前記変色層における配合割合よりも小さくかつ該着色成分の配合割合が前記着色剤層における配合割合よりも小さい、請求項8に記載の水変色性シート。
【請求項10】
前記変色層が、さらに粘性改質剤としてポリウレタン系粘性改質剤を含む請求項1〜9いずれかの項に記載の水変色性シート。
【請求項11】
含水変色顔料としてのベーマイト、バインダー、ポリウレタン系粘性改質剤及び水を含む作製用インキを用いて印刷することによって前記変色層を作成する工程を含む請求項10記載の水変色性シートを製造する方法であって、
前記作製用インキ中の固形分含有量が、作製用インキ全量に対して35重量%以上である水変色性シートの製造方法。
【請求項12】
前記作製用インキ中の固形分含有量が、作製用インキ全量に対して60重量%以下である請求項11記載の水変色性シートの製造方法。

【公開番号】特開2011−88392(P2011−88392A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−244947(P2009−244947)
【出願日】平成21年10月23日(2009.10.23)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】