説明

水密OW電線

【発明の詳細な説明】
(発明の技術分野)
本発明は、水密型のOW電線(屋外用ビニル絶縁電線)に関する。
(発明の技術的背景とその問題点)
従来、応力腐食割れによる導体の断線事故防止用の架空絶縁電線としては、素線間にエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)やエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)のような水密材料を充填した撚線導体上に架橋ポリエチレン(CLP)絶縁体を設けて成るCLP絶縁電線が知られている。
しかしながら、このような水密手段をそのままOW電線に適用した場合には、絶縁体を構成するポリ塩化ビニル(PVC)と水密材料との誘電率(ε)が大きく異なるため、耐電圧等の電気的特性が低下してしまう難点がある。
また、絶縁体に配合されたフタル酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOP)のような可塑剤が、水密材料中へ移行しやすいため、絶縁体の伸びなどの機械的特性が著るしく低下してしまうという問題があった。
(発明の目的)
本発明はこれらの問題を解決するためになされたもので、素線導体および絶縁体と充分な密着性を有する水密材料が使用されており、水密性が高くて可塑剤の移行がなく、しかも電気的特性に優れた水密OW電線を提供することを目的とする。
(発明の概要)
すなわち本発明の水密OW電線は、素線間に水密材料を充填してなる撚線導体上に、ポリ塩化ビニル絶縁体を被覆してなる水密OW電線において、前記水密材料として、塩化ビニル(VC)と酢酸ビニル(VA)とアクリル酸(AA)のセグメントがそれらの末端で互いに連結してできた分子からなる三元ブロック共重合体を用いることを特徴としている。
本発明に使用する水密材料は、VCとVAとAAとを適当な割合で配合してなる、下記の構造式

で表わされる三元ブロック共重合体であり三元ブロック共重合体としては、ポリ塩化ビニル(PVC)試験方法(JIS K 6721)に準じて測定した重合度が1000以下のものを用いることが望ましい。
そして各配合成分の配合量は、VC100重量部(以下、単に部と示す。)に対して、VAを1〜30部、AAを0.01〜10部とすることが望ましい。
各成分の望ましい配合量をこのような範囲にしたのは、以下に示す理由による。
すなわち、VAの配合量がVC100部に対して1部未満では、得られる共重合体が硬くなりすぎて素線導体との密着性が著るしく悪くなるため、充分な水密性が得られず、反対にVAの配合量が30部を越えた場合には、PVC絶縁体から水密材料への可塑剤の移行が生じ望ましくない。
また、AAの配合量がVC100部に対して0.1部未満の場合には、得られる共重合体の素線導体との密着性が悪くなるため、水密性が不充分になり、反対にAAの配合量が10部を越えると、絶縁体との密着性が高くなりすぎて、剥ぎ取り性が悪くなってしまう。
本発明においては、水密材料と素線導体の密着性を一段と高め水密性を向上させるために、これらの成分からなる三元ブロック共重合体として、重合度が1000以下のものを用いることが望ましい。
また本発明においては、素線導体間に充填された水密材料の層を内外2層の構造とし、各々の層を構成する三元ブロック共重合体の組成を変え、外層における導体との密着力を内層におけるその値より低くすることにより、絶縁体の剥ぎ取り容易性をさらに改善することができる。
すなわち、水密材料の層を内外2層に分け、それぞれの層の銅導体との密着力が、1.1kg/30mm幅以上および1.1kg/30mm幅以下となるように配合成分の組成を変えることが望ましい。
本発明においては、VC100部に対してVA1〜30部とAA2〜10部を配合した導体との密着性の高い三元ブロック共重合体で内層を構成するとともに、VC100部とVA1〜30部に対してAAを0.01〜2部の割合で配合した、導体との密着性がより低い三元ブロック共重合体で外層を構成することが望ましい。
(発明の実施例)
以下、本発明の実施例について記載する。
実施例1〜5 第1表に示す組成の配合成分を重合して得られた重合度が1000以下の三元ブロック共重合体2を混練し充填しながら、19本の硬銅素線1を撚合わせ、60mm2の水密撚線導体3を形成した。次いでこの撚線導体3上に常法によって3mm厚のPVC絶縁体4を設けた。
また比較のために、素線間にPVC又はポリ酢酸ビニル(PVA)を単独でそれぞれ充填しながら、硬銅素線を撚合わせ、その上に実施例と同様にPVC絶縁体を被覆して水密電線を製造した。
次いで、前述の実施例と比較例でそれぞれ素線間に充填した水密材料でシートを作成し、これらのシートの特性(銅との密着力)をそれぞれ測定した。
また、実施例および比較例で得られた電線の水密性、AC破壊電圧(ACBD)、および絶縁体からの可塑剤の移行の有無を以下に示すような方法でそれぞれ測定した。
すなわち、水密性試験は、適当な長さに切断した電線試料の一端から0.5気圧の水圧を24時間かけ、他端から水が漏出するかどうかで調べ、可塑剤の移行の有無は、電線試料から水密材料を採り出し、この中の可塑剤を抽出して測定することにより行った。
またAC破壊電圧(ACBD)は、水中に浸漬した電線試料の導体と絶縁体間にAC電圧をかけ、破壊にいたる電圧を測定した。
これらの測定結果を第1表に示す。


実施例6〜9 第2図に示すように、内層および外層素線1間に、第2表に示す組成の配合成分を重合して得られた、重合度が1000以下の組成が異なる2種類の三元ブロック共重合体5、6をそれぞれ混練し充填しながら、19本の硬銅素線1を撚合わせ、60mm2の水密撚線導体3を形成した後、この上に常法によって3mm厚のPVC絶縁体4を設けた。
また比較のために、外層素線1間にも内層と同じAA配合量の多い三元ブロック共重合体を充填し、実施例と同様に水密電線を製造した。
次いで、前述の実施例と比較例でそれぞれ素線間に充填した水密材料でシートを作成し、これらのシートの特性(銅との密着力およびメルトインデックス)をそれぞれ測定した。
また、実施例および比較例で得られた電線の水密性、AC破壊特性、剥ぎ取り性および絶縁体からの可塑剤の移行の有無を以下に示すような方法でそれぞれ測定した。
すなわち、水密性試験は、適当な長さに切断した電線試料の一端から0.5気圧の水圧を24時間かけ、他端から水が漏出するかどうかで調べ、可塑剤の移行の有無は、電線試料から水密材料を採り出し、この中の可塑剤を抽出して測定することにより行った。
またAC破壊試験は、常温の水を入れた水槽中に電線試料を浸漬し、導体と絶縁体の間に2000VのAC電圧を1分間かけ、これに耐えるかどうかを調べることにより行った。
さらに剥ぎ取り性試験は、電工ナイフを用いて電線試料の絶縁体を剥ぎ取り、水密材が付着せずに剥ぎ取れるかどうかを調べることにより行った。
これらの測定結果を第2表に示す。


(発明の効果)
以上の説明から明らかなように、本発明の水密OW電線においては、素線導体との密着力が極めて大きい水密材料が素線間に充填されているので、水密性が高く異常断線事故の発生がない。
また、PVC絶縁体中の可塑剤が水密材料へ移行することがないので、絶縁体の特性の低下がない。
さらに水密材料が絶縁体と同じPVCを主体として構成されている場合には、耐電圧等の電気的特性に優れている。
またさらに、外層水密材料と内層水密材料を構成する三元ブロック共重合体の配合組成を変え、外層をよりAAの配合量が少なく、素線との密着力の小さい共重合体で構成することにより、絶縁体の剥離性が良く、接続作業等の作業性の良い水密電線を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
第1図は本発明の水密OW電線の一実施例の横断面図、第2図2図は他の実施例の横断面図である。
1……硬銅素線
2,5,6……VC−VA−AA三元共重合体
4……PVC絶縁体

【特許請求の範囲】
【請求項1】素線間に水密材料を充填してなる撚線導体上に、ポリ塩化ビニル絶縁体を被覆してなる水密OW電線において、前記水密材料は、下記構造式で表される塩化ビニル(VC)と酢酸ビニル(VA)とアクリル酸(AA)のセグメントがそれらの末端で互いに連結してできた分子からなる三元ブロック共重合体

であることを特徴とする水密OW電線。
【請求項2】前記三元ブロック共重合体の重合度が1000以下であることを特徴とする請求項1記載の水密OW電線。
【請求項3】内層素線間に充填する水密材料が、VC100重量部に対しVA1〜30重量部およびAA2〜10重量部を共重合した三元ブロック共重合体であり、かつ外層素線間に充填する水密材料がVC100重量部に対しVA1〜30重量部およびAA0.01〜2重量部を共重合した三元ブロック共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の水密OW電線。

【第1図】
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【第2図】
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【特許番号】第2588888号
【登録日】平成8年(1996)12月5日
【発行日】平成9年(1997)3月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−78860
【出願日】昭和62年(1987)3月31日
【公開番号】特開昭63−245815
【公開日】昭和63年(1988)10月12日
【出願人】(999999999)昭和電線電纜株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭59−68111(JP,A)
【文献】特開 昭47−23899(JP,A)
【文献】実開 昭55−120029(JP,U)
【文献】実開 昭59−76020(JP,U)
【文献】実開 昭63−58411(JP,U)