水平方向放射アンテナ
【課題】 小型で電力の漏洩を抑制することができる水平方向放射アンテナを提供する。
【解決手段】 多層基板2の裏面2Bには、接地導体板5を設ける。多層基板2の表面2Aには、マイクロストリップ線路7が接続された放射素子6を設けると共に、放射素子6よりも端部2C側に位置して無給電素子9を設ける。多層基板2の内部には、絶縁層3,4間に位置してマイクロストリップ線路7と対面した中間接地導体板10を設ける。中間接地導体板10には、端部2C側が開口した切欠き部10Aを設ける。切欠き部10Aの周囲には、放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部11を設ける。コ字状枠部11は、複数のビア12を用いて接地導体板5に電気的に接続する。
【解決手段】 多層基板2の裏面2Bには、接地導体板5を設ける。多層基板2の表面2Aには、マイクロストリップ線路7が接続された放射素子6を設けると共に、放射素子6よりも端部2C側に位置して無給電素子9を設ける。多層基板2の内部には、絶縁層3,4間に位置してマイクロストリップ線路7と対面した中間接地導体板10を設ける。中間接地導体板10には、端部2C側が開口した切欠き部10Aを設ける。切欠き部10Aの周囲には、放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部11を設ける。コ字状枠部11は、複数のビア12を用いて接地導体板5に電気的に接続する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマイクロ波やミリ波等の高周波信号に用いて好適な水平方向放射アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術による水平方向放射アンテナとして、非特許文献1には、誘電体基板の表面に給電線路、不平衡−平衡変換器電極(以下、バラン電極という)、放射素子、無給電素子等が形成されると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板が形成された構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、誘電体基板の表面に給電用のマイクロストリップ線路と導電体カバーを設けると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板を設けた構成が記載されている。この場合、マイクロストリップ線路の先端部は、誘電体基板の端部側に位置して接地導体板に電気的に接続されている。また、導電体カバーは、一端側が開口した箱状に形成され、マイクロストリップ線路の先端部を包囲すると共に、その周辺部は複数の導体ピンによって接地導体板と電気的に接続されている。そして、導電体カバーは、接地導体板の端縁と協働して誘電体基板と平行な方向に1/2波長の長さのスロットを構成している。
【0004】
さらに、特許文献2には、誘電体基板の表面に端部側が開口した切欠き部を有する接地電極を設けると共に、該接地電極の切欠き部内に給電電極を設けた構成が記載されている。この場合、給電電極の外周縁と接地電極の内周縁とによってスロット線路を形成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W.R.Deal, N.Kaneda, J.Sor, Y.Qian, and T.Itoh, "A New Quasi-Yagi Antenna for Planar Active Antenna Arrays", IEEE Trans. Microwave Theory Tech., June 2000, Vol.48, No.6, pp.910-918
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−204734号公報
【特許文献2】特開2007−311944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1によるアンテナでは、給電線路にバラン電極が形成されているのに加え、バラン電極が給電線路の延びる方向に対して直交した方向に広がる2つのU字形状電極によって構成されている。このため、バラン電極を形成するためのスペースを確保する必要があり、アンテナ全体が大きくなり易い傾向がある。
【0008】
また、特許文献1によるアンテナでは、誘電体基板とは別個に導電体カバーを設ける必要がある。このため、誘電体基板の厚さ方向に対してアンテナが大きくなるのに加え、構造が複雑化して製造コストが上昇するという問題がある。さらに、導電体カバーの周辺部は複数の導体ピンによって接地導体板と電気的に接続されているが、給電線路となるマイクロストリップ線路が通過する位置には導体ピンを配置することができない。このため、導体カバーのうちマイクロストリップ線路の周囲部分から電力が漏洩するという問題もある。
【0009】
また、特許文献2によるアンテナでは、誘電体基板の表面に給電電極と接地電極とを設けるのに加え、誘電体基板の裏面にも接地電極を設ける構成としている。しかし、誘電体基板の内部には、電磁波の伝搬を阻害する構成が設けられていない。このため、表面側の接地電極と裏面側の接地電極との間に平行平板モードの電磁波が形成され、該電磁波が誘電体基板の内部を伝搬することによって、電力の漏れが生じるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、小型で電力の漏洩を抑制することができる水平方向放射アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明による水平方向放射アンテナは、絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ該接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射導体と並列に延びると共に前記接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、前記基板には、前記給電線路と対向した位置で前記接地導体板よりも前記基板の表面側に位置して前記接地導体板との間に段差が形成され、グランドに接続された中間接地導体板を設け、該中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、前記接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成としている。
【0012】
請求項2の発明では、前記中間接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えている。
【0013】
請求項3の発明では、前記給電線路は、前記導体パターンが前記基板の表面に設けられたストリップ導体からなるマイクロストリップ線路によって構成している。
【0014】
請求項4の発明では、前記基板は、複数の絶縁層が積層された多層基板からなり、前記接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、該多層基板の厚さ方向に対して互いに異なる位置に配置し、前記接地導体板と中間接地導体板は、これらの間に位置する前記絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する構成としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、放射素子と並列な状態で無給電素子を設けたから、無給電素子が誘導器の役割を果たす。このため、放射素子からみて無給電素子の方向に向けて指向性を持たせることができ、基板の端部側から基板と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。また、放射素子を接地導体板と対向した位置に設けるから、バラン電極を用いることなく放射素子に給電することができる。これに加えて、導体カバーを用いることなく電磁波を放射することができる。このため、バラン電極や導体カバーを用いた場合に比べて、アンテナ全体を小型化することができる。
【0016】
また、接地導体板との間に段差が形成された中間接地導体板を設けると共に、中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成とした。このとき、給電線路側に比べて放射素子側の方が、電磁波が放射し易くなる。これに加え、接地導体板との間に段差が形成された中間接地導体板を設けたから、これらの段差部分が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子からみて無給電素子が配置された基板の端部側への放射特性を向上することができる。さらに、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分で電磁波を反射することができるから、基板の内部への電力の漏洩を防止することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、中間接地導体板は基板の端部側が開口した状態で放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備える構成としたから、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部が開口した基板の端部側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部が開口した幅方向両端側への電磁波の広がりを抑制することができる。これにより、放射素子からみて無給電素子の方向への放射特性を向上することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、給電線路は高周波回路で一般的に用いられるマイクロストリップ線路によって構成したから、高周波回路とアンテナを容易に接続することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、複数の絶縁層が積層された多層基板に設ける構成とした。このため、例えば多層基板の裏面に接地導体板を設け、多層基板の表面に放射素子を設けると共に、絶縁層の間に中間接地導体板を設けることによって、厚さ方向に対して、接地導体板と放射素子との間に中間接地導体板を容易に配置することができる。これに加え、接地導体板と中間接地導体板はこれらの間に位置する絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する。このため、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分に複数のビアを配置して、これらのビアによって基板の内部に向かう電磁波を反射することができる。また、絶縁層に導体パターンの形成やビア加工等を行い、複数の絶縁層を積み重ねることによってアンテナを形成することができるから、量産工程に容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図2】図1中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図3】水平方向放射アンテナを図2中の矢示III−III方向からみた断面図である。
【図4】水平方向放射アンテナを図2中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】第2の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図6】図5中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図7】図5中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図8】第3の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図9】図8中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図10】第4の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図11】第5の実施の形態によるアレーアンテナを示す平面図である。
【図12】第1の変形例による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図13】第2の変形例による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図14】図13中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図15】図13中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態による水平方向放射アンテナとして60GHz帯で使用するものを例に挙げて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1ないし図4は第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を示している。この水平方向放射アンテナ1は、後述する多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9、中間接地導体板10等によって構成されている。
【0023】
多層基板2は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のうち例えばX軸方向およびY軸方向に対して平行に広がる平板状に形成されている。この多層基板2は、幅方向となるY軸方向に対して例えば数mm程度の幅寸法を有し、長さ方向となるX軸方向に対して例えば数mm程度の長さ寸法を有すると共に、厚さ方向となるZ軸方向に対して例えば数百μm程度の厚さ寸法を有している。
【0024】
また、多層基板2は、裏面2B側から表面2A側に向けてZ軸方向に積層した2層の絶縁層3,4を有している。各絶縁層3,4は、例えば比誘電率が4程度の絶縁性の樹脂材料を用いて薄い層状に形成されている。このとき、多層基板2の厚さ寸法は、例えば700μm程度に設定されている。なお、多層基板2の絶縁層3,4は、樹脂材料に限らず、絶縁性のセラミックス材料を用いて形成してもよい。
【0025】
接地導体板5は、例えば銅、銀等の導電性の金属薄膜によって形成され、グランドに接続されている。この接地導体板5は、絶縁層3の裏面に位置して多層基板2の略全面を覆っている。
【0026】
放射素子6は、例えば接地導体板5と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、接地導体板5と間隔をもって対向している。具体的には、放射素子6は、絶縁層4の表面に配置されている。この放射素子6と接地導体板5との間には、絶縁層3,4が配置されている。このため、放射素子6は、接地導体板5と絶縁された状態で、接地導体板5と対面している。
【0027】
また、放射素子6は、図2に示すように、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L1(例えば、L1=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L2(例えば、L2=1450μm)を有している。この放射素子6のY軸方向の幅寸法L2は、長さ寸法L1よりも大きい値になると共に、電気長で例えば使用する高周波信号の半波長となる値に設定されている。
【0028】
さらに、放射素子6には、Y軸方向の途中位置に後述のマイクロストリップ線路7が接続されている。そして、図4に示すように、マイクロストリップ線路7からの給電によって、放射素子6にはY軸方向に向けて電流Iが流れる。このとき、放射素子6のうちY軸方向の両端側と接地導体板5との間には、電界Eが形成される。
【0029】
マイクロストリップ線路7は、図1ないし図4に示すように、放射素子6に対する給電を行う給電線路を構成している。具体的には、マイクロストリップ線路7は、絶縁層4の表面に設けられた導体パターンとしてのストリップ導体8と、絶縁層3,4の間に位置して絶縁層4の裏面に設けられた中間接地導体板10とによって構成されている。そして、ストリップ導体8は、例えば接地導体板5と同様の導電性金属材料からなり、X軸方向に延びる細長い帯状に形成されている。また、ストリップ導体8の先端は、放射素子6のうちY軸方向の中心位置と端部位置との間の途中位置に接続されている。具体的には、ストリップ導体8の先端は、Y軸方向の中心位置から例えば550μmオフセットした位置に接続されている。
【0030】
無給電素子9は、例えば放射素子6と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみてX軸方向の先端側となる多層基板2の端部2C側に配置されている。この無給電素子9は、放射素子6との間に隙間が形成されると共に、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。そして、無給電素子9は、放射素子6、接地導体板5および後述の中間接地導体板10と絶縁されている。
【0031】
また、無給電素子9は、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L3(例えば、L3=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L4(例えば、L4=1150μm)を有している。この無給電素子9のY軸方向の幅寸法L4は、長さ寸法L3よりも大きい値に設定されると共に、放射素子6のY軸方向の幅寸法L2よりも小さい値に設定されている。
【0032】
なお、無給電素子9および放射素子6の大小関係やこれらの具体的な形状、大きさ等は、上述のものに限らず、水平方向放射アンテナ1の使用周波数帯、放射パターン、多層基板2の比誘電率等に応じて適宜設定されるものである。そして、無給電素子9は、放射素子6と電磁界係合を生じ、誘導器として機能する。
【0033】
中間接地導体板10は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板10は、例えば導電性の金属薄膜によって形成され、後述する複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板10は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0034】
また、中間接地導体板10は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板10とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法D1に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法D2の方が大きくなっている。
【0035】
また、中間接地導体板10には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部10Aが形成されている。水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、放射素子6および無給電素子9は、切欠き部10Aの内部に配置される。そして、切欠き部10Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部11が形成されている。このコ字状枠部11は、切欠き部10Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部11Aと、切欠き部10Aの奥部側に位置して2つの腕部11Aを連結する連結部11Bとによって構成されている。このとき、連結部11Bは、多層基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置している。
【0036】
ビア12は、絶縁層3を貫通した内径が数十〜数百μm程度の貫通孔に例えば銅、銀等の導電性金属材料を設けることによって柱状の導体として形成されている。また、ビア12は、Z軸方向に延びて、その両端が接地導体板5と中間接地導体板10にそれぞれ接続されている。このとき、隣合う2つのビア12の間隔寸法は、電気長で例えば使用する高周波信号の1/4波長よりも小さい値に設定されている。そして、複数のビア12は、切欠き部10Aを取囲んでコ字状枠部11の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板10と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0037】
そして、複数のビア12は、接地導体板5と中間接地導体板10の電位を安定させると共に、切欠き部10Aから多層基板2の内部に向かう高周波信号を反射する反射器として機能する。このため、ビア12は、高周波信号が多層基板2の内部に漏洩するのを抑制している。
【0038】
本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0039】
まず、マイクロストリップ線路7から放射素子6に向けて給電を行うと、放射素子6には、Y軸方向に向けて電流Iが流れる。これにより、水平方向放射アンテナ1は、放射素子6の幅寸法L2に応じた高周波信号を送信または受信する。
【0040】
このとき、放射素子6と並列な状態で無給電素子9を設けたから、放射素子6および無給電素子9は互いに電磁界結合し、無給電素子9にもY軸方向に向けて電流Iが流れる。このため、無給電素子9は誘導器として機能し、放射素子6からみて無給電素子9の方向に向けて指向性を持たせることができ、多層基板2の端部2C側から多層基板2と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。
【0041】
また、本実施の形態では、接地導体板5と対向した位置に放射素子6を設けたから、接地導体板5がある状態での放射となる。このため、非特許文献1に記載されたバラン電極が必要なく、水平方向放射アンテナ1は、給電方向(X軸方向)に対する長さ寸法を数mm程度(例えば2mm程度)短縮することができ、小型化を図ることができる。
【0042】
また、特許文献1のアンテナでは、導体カバーを用いるため、構造が立体的になっている。これに対し、本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は、接地導体板5、絶縁層3、中間接地導体板10、絶縁層4、放射素子6、無給電素子9等を順次積み重ねることによって多層基板2に平面状に形成できる構造であるため、構造が簡単である。
【0043】
また、接地導体板5との間に段差が形成された中間接地導体板10を設けると共に、中間接地導体板10とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法D1に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法D2の方が大きい構成とした。このとき、マイクロストリップ線路7側に比べて放射素子6側の方が、電磁界の閉じ込め効果が弱くなり、電磁波が放射し易くなる。これに加え、接地導体板5との間にビア12によって段差が形成された中間接地導体板10を設けたから、これらの段差部分が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子6からみて無給電素子9が配置された多層基板2の端部2C側への放射特性を向上することができる。
【0044】
さらに、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分で電磁波を反射することができるから、多層基板2の内部への電力の漏洩を防止することができる。これに加えて、中間接地導体板10は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と絶縁層4を挟んで対向すると共に、厚さ方向に対してストリップ導体8と反対側に位置する接地導体板5に対してビア12を用いて電気的に接続されている。このため、特許文献1によるアンテナと異なり、ストリップ導体8と対向した位置にもビア12を配置することができる。従って、ストリップ導体8の周囲部分でも、多層基板2の内部に向かう電力の漏洩を阻止することができる。
【0045】
また、中間接地導体板10は多層基板2の端部2C側が開口した状態で放射素子6および無給電素子9を略コ字状に取囲むコ字状枠部11を備える構成としたから、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部11が開口した多層基板2の端部2C側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部11が開口した幅方向(Y軸方向)の両端側への放射パターンの広がりを抑制することができる。これにより、放射素子6からみて無給電素子9の方向への放射特性を向上することができる。
【0046】
また、高周波回路で一般的に用いられるマイクロストリップ線路7を用いて放射素子6に給電する構成としたから、高周波回路とアンテナ1を容易に接続することができる。
【0047】
また、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9および中間接地導体板10は、複数の絶縁層3,4が積層された多層基板2に設ける構成とした。このため、多層基板2の裏面2Bに接地導体板5を設け、多層基板2の表面2Aに放射素子6を設けると共に、絶縁層3,4の間に中間接地導体板10を設けることによって、厚さ方向に対して、接地導体板5と放射素子6との間に中間接地導体板10を容易に配置することができる。これに加え、接地導体板5と中間接地導体板10はこれらの間に位置する絶縁層3を貫通する複数のビア12を用いて電気的に接続した。このため、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分に複数のビア12を配置して、これらのビア12によって多層基板2の内部に向かう電磁波を反射することができる。また、絶縁層3,4に導体パターンの形成やビア加工等を行い、複数の絶縁層3,4を積み重ねることによって水平方向放射アンテナ1を形成することができるから、量産工程に容易に適用することができる。
【0048】
次に、図5ないし図7は本発明の第2の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、厚さ方向に対して無給電素子と放射素子とを異なる位置に配置する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】
第2の実施の形態による水平方向放射アンテナ21は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子22、中間接地導体板10等によって構成されている。
【0050】
無給電素子22は、第1の実施の形態による無給電素子9とほぼ同様に形成されている。このため、無給電素子22は、例えば放射素子6と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみて多層基板2の端部2C側に配置されている。また、無給電素子22は、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。
【0051】
但し、無給電素子22は、絶縁層3,4の間に位置して多層基板2の内部に設けられている。この点で、無給電素子22は、多層基板2の表面2Aに設けられた第1の実施の形態による無給電素子9とは異なる。そして、無給電素子22は、放射素子6、接地導体板5および中間接地導体板10と絶縁されている。また、無給電素子22は、放射素子6と一緒に、水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、切欠き部10Aの内部に配置されている。
【0052】
かくして、第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、厚さ方向に対して放射素子6と異なる位置に無給電素子22を配置したから、例えば厚さ方向に対する無給電素子22の位置に応じて、水平方向放射アンテナ21の指向性を厚さ方向に対して調整することができる。
【0053】
なお、第2の実施の形態では、無給電素子22は、放射素子6よりも多層基板2の裏面2B側に設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば無給電素子は、放射素子よりも多層基板の表面側に設ける構成としてもよい。この場合、例えば放射素子を覆う絶縁層を設けると共に、この絶縁層の表面に無給電素子を設ける構成とすればよい。また、無給電素子は、厚さ方向に対して中間接地導体板と異なる位置に設ける構成としてもよい。
【0054】
次に、図8および図9は本発明の第3の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、複数の無給電素子を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0055】
第3の実施の形態による水平方向放射アンテナ31は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子32,33、中間接地導体板34等によって構成されている。
【0056】
第1の無給電素子32は、第1の実施の形態による無給電素子9とほぼ同様に形成されている。このため、第1の無給電素子32は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみて多層基板2の端部2C側に配置されている。また、第1の無給電素子32は、放射素子6との間に隙間が形成されると共に、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。そして、第1の無給電素子32は、放射素子6、接地導体板5および中間接地導体板34と絶縁されている。
【0057】
第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32とほぼ同様に形成されている。このため、第2の無給電素子33は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、第1の無給電素子32よりも多層基板2の端部2C側に配置されている。また、第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32との間に隙間が形成されると共に、第1の無給電素子32と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6および第1の無給電素子32と並列に配置されている。そして、第2の無給電素子33は、放射素子6、接地導体板5、中間接地導体板34および第1の無給電素子32と絶縁されている。
【0058】
中間接地導体板34は、第1の実施の形態による中間接地導体板10とほぼ同様に形成されている。このため、中間接地導体板34は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板34は、複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板34は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0059】
また、中間接地導体板34は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板34とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法の方が大きくなっている。
【0060】
また、中間接地導体板34には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部34Aが形成されている。水平方向放射アンテナ31を平面視したときには、放射素子6および第1,第2の無給電素子32,33は、切欠き部34Aの内部に配置される。そして、切欠き部34Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および第1,第2の無給電素子32,33を取囲むコ字状枠部35が形成されている。このコ字状枠部35は、切欠き部34Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部35Aと、切欠き部34Aの奥部側に位置して2つの腕部35Aを連結する連結部35Bとによって構成されている。
【0061】
また、複数のビア12は、切欠き部34Aを取囲んでコ字状枠部35の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板34と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0062】
かくして、第3の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態では、放射素子6よりも多層基板2の端部2C側には第1,第2の無給電素子32,33を設けたから、第1,第2の無給電素子32,33の配置、形状、大きさ等に応じて水平方向放射アンテナ31の指向性を調整することができる。
【0063】
なお、前記第3の実施の形態では、2個の無給電素子32,33を設ける構成としたが、3個以上の無給電素子を設ける構成としてもよい。
【0064】
次に、図10は本発明の第4の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、コ字状枠部を形成する切欠き部を、基板の端部側に向けて広がる台形状に形成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0065】
第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ41は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9、中間接地導体板42等によって構成されている。
【0066】
中間接地導体板42は、第1の実施の形態による中間接地導体板10とほぼ同様に形成されている。このため、中間接地導体板42は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板42は、複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板42は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0067】
また、中間接地導体板42は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板42とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法の方が大きくなっている。
【0068】
また、中間接地導体板42には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略台形状の切欠き部42Aが形成されている。この切欠き部42Aは、多層基板2の中央側に位置する底部に比べて、多層基板2の端部2C側に位置する開口部の方がY軸方向の幅寸法が大きくなっている。即ち、切欠き部42Aは、多層基板2の端部2C側に向かうに従ってテーパ状に拡開している。
【0069】
また、水平方向放射アンテナ41を平面視したときには、放射素子6および無給電素子9は、切欠き部42Aの内部に配置される。そして、切欠き部42Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部43が形成されている。このコ字状枠部43は、切欠き部42Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部43Aと、切欠き部42Aの奥部側に位置して2つの腕部43Aを連結する連結部43Bとによって構成されている。このとき、2つの腕部43A間の離間寸法は、多層基板2の端部2C側に向かうに従って徐々に大きくなっている。
【0070】
また、複数のビア12は、切欠き部42Aを取囲んでコ字状枠部43の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板42と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0071】
かくして、第4の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第4の実施の形態では、コ字状枠部43を形成する切欠き部42Aを台形状に形成したから、切欠き部42Aの形状に応じてY軸方向に対する放射パターンの広がり特性を調整することができる。
【0072】
次に、図11は本発明の第5の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、2個の水平方向放射アンテナを幅方向に並べて配置し、アレーアンテナを構成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0073】
第5の実施の形態によるアレーアンテナ51は、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べることによって形成されている。このとき、2個の水平方向放射アンテナ1には、放射素子6に対してマイクロストリップ線路7を通じて給電を行う。これら2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相は、相互に変化可能にする。これにより、2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相に応じて、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0074】
かくして、第5の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第5の実施の形態では、水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べてアレーアンテナ51を構成したから、2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相を変えることで、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0075】
なお、前記第5の実施の形態では、2個の水平方向放射アンテナ1を用いてアレーアンテナ51を構成したが、3個以上の水平方向放射アンテナを用いてアレーアンテナを構成してもよい。また、前記第5の実施の形態では、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を用いる構成としたが、第2ないし第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ21,31,41を用いる構成としてもよい。
【0076】
また、前記各実施の形態では、中間接地導体板10,34,42には放射素子6および無給電素子9,22,32,33を取囲むコ字状枠部11,35,43を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図12に示す第1の変形例のように、Y軸方向に対して一様な中間接地導体板62をもった水平方向放射アンテナ61を形成してもよい。この場合、中間接地導体板62は、多層基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置して、放射素子6および無給電素子9とは対向せずに、ストリップ導体8と対向した位置に配置されている。また、中間接地導体板62には、接地導体板5との段差部分に複数のビア12がY軸方向に並んで設けられている。
【0077】
また、前記各実施の形態では、水平方向放射アンテナ1,21,31,41を多層基板2に形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図13ないし図15に示す第2の変形例のように、単層の基板72を用いて水平方向放射アンテナ71を形成してもよい。この場合、基板72には、例えば厚さ寸法の大きな導体板73を埋め込み、該導体板73の表面によって中間接地導体板74を形成する。また、導体板73の端面によって中間接地導体板74と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成する。さらに、導体板73には、第1の実施の形態による切欠き部10Aとほぼ同様な形状の切欠き部73Aを形成すると共に、該切欠き部73Aを取囲んで2つの腕部75Aと連結部75Bからなるコ字状枠部75を形成してもよい。
【0078】
また、前記各実施の形態では、給電線路としてマイクロストリップ線路7を用いた場合を例に挙げて説明したが、例えばストリップ線路等を用いる構成としてもよい。
【0079】
また、前記各実施の形態では、60GHz帯のミリ波に用いる水平方向放射アンテナを例に挙げて説明したが、他の周波数帯のミリ波やマイクロ波等に用いる水平方向放射アンテナに適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,21,31,41,61,71 水平方向放射アンテナ
2 多層基板
2C 端部
5 接地導体板
6 放射素子
7 マイクロストリップ線路
8 ストリップ導体(導体パターン)
9,22,32,33 無給電素子
10,34,42,62,74 中間接地導体板
10A,34A,42A,73A 切欠き部
11,43,75 コ字状枠部
12 ビア
51 アレーアンテナ
72 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばマイクロ波やミリ波等の高周波信号に用いて好適な水平方向放射アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術による水平方向放射アンテナとして、非特許文献1には、誘電体基板の表面に給電線路、不平衡−平衡変換器電極(以下、バラン電極という)、放射素子、無給電素子等が形成されると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板が形成された構成が記載されている。
【0003】
また、特許文献1には、誘電体基板の表面に給電用のマイクロストリップ線路と導電体カバーを設けると共に、誘電体基板の裏面に接地導体板を設けた構成が記載されている。この場合、マイクロストリップ線路の先端部は、誘電体基板の端部側に位置して接地導体板に電気的に接続されている。また、導電体カバーは、一端側が開口した箱状に形成され、マイクロストリップ線路の先端部を包囲すると共に、その周辺部は複数の導体ピンによって接地導体板と電気的に接続されている。そして、導電体カバーは、接地導体板の端縁と協働して誘電体基板と平行な方向に1/2波長の長さのスロットを構成している。
【0004】
さらに、特許文献2には、誘電体基板の表面に端部側が開口した切欠き部を有する接地電極を設けると共に、該接地電極の切欠き部内に給電電極を設けた構成が記載されている。この場合、給電電極の外周縁と接地電極の内周縁とによってスロット線路を形成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】W.R.Deal, N.Kaneda, J.Sor, Y.Qian, and T.Itoh, "A New Quasi-Yagi Antenna for Planar Active Antenna Arrays", IEEE Trans. Microwave Theory Tech., June 2000, Vol.48, No.6, pp.910-918
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−204734号公報
【特許文献2】特開2007−311944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、非特許文献1によるアンテナでは、給電線路にバラン電極が形成されているのに加え、バラン電極が給電線路の延びる方向に対して直交した方向に広がる2つのU字形状電極によって構成されている。このため、バラン電極を形成するためのスペースを確保する必要があり、アンテナ全体が大きくなり易い傾向がある。
【0008】
また、特許文献1によるアンテナでは、誘電体基板とは別個に導電体カバーを設ける必要がある。このため、誘電体基板の厚さ方向に対してアンテナが大きくなるのに加え、構造が複雑化して製造コストが上昇するという問題がある。さらに、導電体カバーの周辺部は複数の導体ピンによって接地導体板と電気的に接続されているが、給電線路となるマイクロストリップ線路が通過する位置には導体ピンを配置することができない。このため、導体カバーのうちマイクロストリップ線路の周囲部分から電力が漏洩するという問題もある。
【0009】
また、特許文献2によるアンテナでは、誘電体基板の表面に給電電極と接地電極とを設けるのに加え、誘電体基板の裏面にも接地電極を設ける構成としている。しかし、誘電体基板の内部には、電磁波の伝搬を阻害する構成が設けられていない。このため、表面側の接地電極と裏面側の接地電極との間に平行平板モードの電磁波が形成され、該電磁波が誘電体基板の内部を伝搬することによって、電力の漏れが生じるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、小型で電力の漏洩を抑制することができる水平方向放射アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明による水平方向放射アンテナは、絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ該接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射導体と並列に延びると共に前記接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、前記基板には、前記給電線路と対向した位置で前記接地導体板よりも前記基板の表面側に位置して前記接地導体板との間に段差が形成され、グランドに接続された中間接地導体板を設け、該中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、前記接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成としている。
【0012】
請求項2の発明では、前記中間接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えている。
【0013】
請求項3の発明では、前記給電線路は、前記導体パターンが前記基板の表面に設けられたストリップ導体からなるマイクロストリップ線路によって構成している。
【0014】
請求項4の発明では、前記基板は、複数の絶縁層が積層された多層基板からなり、前記接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、該多層基板の厚さ方向に対して互いに異なる位置に配置し、前記接地導体板と中間接地導体板は、これらの間に位置する前記絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する構成としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、放射素子と並列な状態で無給電素子を設けたから、無給電素子が誘導器の役割を果たす。このため、放射素子からみて無給電素子の方向に向けて指向性を持たせることができ、基板の端部側から基板と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。また、放射素子を接地導体板と対向した位置に設けるから、バラン電極を用いることなく放射素子に給電することができる。これに加えて、導体カバーを用いることなく電磁波を放射することができる。このため、バラン電極や導体カバーを用いた場合に比べて、アンテナ全体を小型化することができる。
【0016】
また、接地導体板との間に段差が形成された中間接地導体板を設けると共に、中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成とした。このとき、給電線路側に比べて放射素子側の方が、電磁波が放射し易くなる。これに加え、接地導体板との間に段差が形成された中間接地導体板を設けたから、これらの段差部分が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子からみて無給電素子が配置された基板の端部側への放射特性を向上することができる。さらに、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分で電磁波を反射することができるから、基板の内部への電力の漏洩を防止することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、中間接地導体板は基板の端部側が開口した状態で放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備える構成としたから、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部が開口した基板の端部側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部が開口した幅方向両端側への電磁波の広がりを抑制することができる。これにより、放射素子からみて無給電素子の方向への放射特性を向上することができる。
【0018】
請求項3の発明によれば、給電線路は高周波回路で一般的に用いられるマイクロストリップ線路によって構成したから、高周波回路とアンテナを容易に接続することができる。
【0019】
請求項4の発明によれば、接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、複数の絶縁層が積層された多層基板に設ける構成とした。このため、例えば多層基板の裏面に接地導体板を設け、多層基板の表面に放射素子を設けると共に、絶縁層の間に中間接地導体板を設けることによって、厚さ方向に対して、接地導体板と放射素子との間に中間接地導体板を容易に配置することができる。これに加え、接地導体板と中間接地導体板はこれらの間に位置する絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する。このため、接地導体板と中間接地導体板との間の段差部分に複数のビアを配置して、これらのビアによって基板の内部に向かう電磁波を反射することができる。また、絶縁層に導体パターンの形成やビア加工等を行い、複数の絶縁層を積み重ねることによってアンテナを形成することができるから、量産工程に容易に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図2】図1中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図3】水平方向放射アンテナを図2中の矢示III−III方向からみた断面図である。
【図4】水平方向放射アンテナを図2中の矢示IV−IV方向からみた断面図である。
【図5】第2の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図6】図5中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図7】図5中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図8】第3の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図9】図8中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【図10】第4の実施の形態による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図11】第5の実施の形態によるアレーアンテナを示す平面図である。
【図12】第1の変形例による水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図13】第2の変形例による水平方向放射アンテナを示す斜視図である。
【図14】図13中の水平方向放射アンテナを示す平面図である。
【図15】図13中の水平方向放射アンテナを示す図3と同様な位置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態による水平方向放射アンテナとして60GHz帯で使用するものを例に挙げて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0022】
図1ないし図4は第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を示している。この水平方向放射アンテナ1は、後述する多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9、中間接地導体板10等によって構成されている。
【0023】
多層基板2は、互いに直交するX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向のうち例えばX軸方向およびY軸方向に対して平行に広がる平板状に形成されている。この多層基板2は、幅方向となるY軸方向に対して例えば数mm程度の幅寸法を有し、長さ方向となるX軸方向に対して例えば数mm程度の長さ寸法を有すると共に、厚さ方向となるZ軸方向に対して例えば数百μm程度の厚さ寸法を有している。
【0024】
また、多層基板2は、裏面2B側から表面2A側に向けてZ軸方向に積層した2層の絶縁層3,4を有している。各絶縁層3,4は、例えば比誘電率が4程度の絶縁性の樹脂材料を用いて薄い層状に形成されている。このとき、多層基板2の厚さ寸法は、例えば700μm程度に設定されている。なお、多層基板2の絶縁層3,4は、樹脂材料に限らず、絶縁性のセラミックス材料を用いて形成してもよい。
【0025】
接地導体板5は、例えば銅、銀等の導電性の金属薄膜によって形成され、グランドに接続されている。この接地導体板5は、絶縁層3の裏面に位置して多層基板2の略全面を覆っている。
【0026】
放射素子6は、例えば接地導体板5と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、接地導体板5と間隔をもって対向している。具体的には、放射素子6は、絶縁層4の表面に配置されている。この放射素子6と接地導体板5との間には、絶縁層3,4が配置されている。このため、放射素子6は、接地導体板5と絶縁された状態で、接地導体板5と対面している。
【0027】
また、放射素子6は、図2に示すように、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L1(例えば、L1=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L2(例えば、L2=1450μm)を有している。この放射素子6のY軸方向の幅寸法L2は、長さ寸法L1よりも大きい値になると共に、電気長で例えば使用する高周波信号の半波長となる値に設定されている。
【0028】
さらに、放射素子6には、Y軸方向の途中位置に後述のマイクロストリップ線路7が接続されている。そして、図4に示すように、マイクロストリップ線路7からの給電によって、放射素子6にはY軸方向に向けて電流Iが流れる。このとき、放射素子6のうちY軸方向の両端側と接地導体板5との間には、電界Eが形成される。
【0029】
マイクロストリップ線路7は、図1ないし図4に示すように、放射素子6に対する給電を行う給電線路を構成している。具体的には、マイクロストリップ線路7は、絶縁層4の表面に設けられた導体パターンとしてのストリップ導体8と、絶縁層3,4の間に位置して絶縁層4の裏面に設けられた中間接地導体板10とによって構成されている。そして、ストリップ導体8は、例えば接地導体板5と同様の導電性金属材料からなり、X軸方向に延びる細長い帯状に形成されている。また、ストリップ導体8の先端は、放射素子6のうちY軸方向の中心位置と端部位置との間の途中位置に接続されている。具体的には、ストリップ導体8の先端は、Y軸方向の中心位置から例えば550μmオフセットした位置に接続されている。
【0030】
無給電素子9は、例えば放射素子6と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみてX軸方向の先端側となる多層基板2の端部2C側に配置されている。この無給電素子9は、放射素子6との間に隙間が形成されると共に、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。そして、無給電素子9は、放射素子6、接地導体板5および後述の中間接地導体板10と絶縁されている。
【0031】
また、無給電素子9は、X軸方向に数百μm程度の長さ寸法L3(例えば、L3=450μm)を有すると共に、Y軸方向に数百μm〜数mm程度の幅寸法L4(例えば、L4=1150μm)を有している。この無給電素子9のY軸方向の幅寸法L4は、長さ寸法L3よりも大きい値に設定されると共に、放射素子6のY軸方向の幅寸法L2よりも小さい値に設定されている。
【0032】
なお、無給電素子9および放射素子6の大小関係やこれらの具体的な形状、大きさ等は、上述のものに限らず、水平方向放射アンテナ1の使用周波数帯、放射パターン、多層基板2の比誘電率等に応じて適宜設定されるものである。そして、無給電素子9は、放射素子6と電磁界係合を生じ、誘導器として機能する。
【0033】
中間接地導体板10は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板10は、例えば導電性の金属薄膜によって形成され、後述する複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板10は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0034】
また、中間接地導体板10は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板10とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法D1に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法D2の方が大きくなっている。
【0035】
また、中間接地導体板10には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部10Aが形成されている。水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、放射素子6および無給電素子9は、切欠き部10Aの内部に配置される。そして、切欠き部10Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部11が形成されている。このコ字状枠部11は、切欠き部10Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部11Aと、切欠き部10Aの奥部側に位置して2つの腕部11Aを連結する連結部11Bとによって構成されている。このとき、連結部11Bは、多層基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置している。
【0036】
ビア12は、絶縁層3を貫通した内径が数十〜数百μm程度の貫通孔に例えば銅、銀等の導電性金属材料を設けることによって柱状の導体として形成されている。また、ビア12は、Z軸方向に延びて、その両端が接地導体板5と中間接地導体板10にそれぞれ接続されている。このとき、隣合う2つのビア12の間隔寸法は、電気長で例えば使用する高周波信号の1/4波長よりも小さい値に設定されている。そして、複数のビア12は、切欠き部10Aを取囲んでコ字状枠部11の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板10と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0037】
そして、複数のビア12は、接地導体板5と中間接地導体板10の電位を安定させると共に、切欠き部10Aから多層基板2の内部に向かう高周波信号を反射する反射器として機能する。このため、ビア12は、高周波信号が多層基板2の内部に漏洩するのを抑制している。
【0038】
本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0039】
まず、マイクロストリップ線路7から放射素子6に向けて給電を行うと、放射素子6には、Y軸方向に向けて電流Iが流れる。これにより、水平方向放射アンテナ1は、放射素子6の幅寸法L2に応じた高周波信号を送信または受信する。
【0040】
このとき、放射素子6と並列な状態で無給電素子9を設けたから、放射素子6および無給電素子9は互いに電磁界結合し、無給電素子9にもY軸方向に向けて電流Iが流れる。このため、無給電素子9は誘導器として機能し、放射素子6からみて無給電素子9の方向に向けて指向性を持たせることができ、多層基板2の端部2C側から多層基板2と平行な水平方向に向けて電磁波を放射することができる。
【0041】
また、本実施の形態では、接地導体板5と対向した位置に放射素子6を設けたから、接地導体板5がある状態での放射となる。このため、非特許文献1に記載されたバラン電極が必要なく、水平方向放射アンテナ1は、給電方向(X軸方向)に対する長さ寸法を数mm程度(例えば2mm程度)短縮することができ、小型化を図ることができる。
【0042】
また、特許文献1のアンテナでは、導体カバーを用いるため、構造が立体的になっている。これに対し、本実施の形態による水平方向放射アンテナ1は、接地導体板5、絶縁層3、中間接地導体板10、絶縁層4、放射素子6、無給電素子9等を順次積み重ねることによって多層基板2に平面状に形成できる構造であるため、構造が簡単である。
【0043】
また、接地導体板5との間に段差が形成された中間接地導体板10を設けると共に、中間接地導体板10とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法D1に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法D2の方が大きい構成とした。このとき、マイクロストリップ線路7側に比べて放射素子6側の方が、電磁界の閉じ込め効果が弱くなり、電磁波が放射し易くなる。これに加え、接地導体板5との間にビア12によって段差が形成された中間接地導体板10を設けたから、これらの段差部分が反射器の役割を果たす。この結果、放射素子6からみて無給電素子9が配置された多層基板2の端部2C側への放射特性を向上することができる。
【0044】
さらに、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分で電磁波を反射することができるから、多層基板2の内部への電力の漏洩を防止することができる。これに加えて、中間接地導体板10は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と絶縁層4を挟んで対向すると共に、厚さ方向に対してストリップ導体8と反対側に位置する接地導体板5に対してビア12を用いて電気的に接続されている。このため、特許文献1によるアンテナと異なり、ストリップ導体8と対向した位置にもビア12を配置することができる。従って、ストリップ導体8の周囲部分でも、多層基板2の内部に向かう電力の漏洩を阻止することができる。
【0045】
また、中間接地導体板10は多層基板2の端部2C側が開口した状態で放射素子6および無給電素子9を略コ字状に取囲むコ字状枠部11を備える構成としたから、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分も略コ字状に形成される。このため、コ字状枠部11が開口した多層基板2の端部2C側に向けて電磁波を放射することができるのに加え、コ字状枠部11が開口した幅方向(Y軸方向)の両端側への放射パターンの広がりを抑制することができる。これにより、放射素子6からみて無給電素子9の方向への放射特性を向上することができる。
【0046】
また、高周波回路で一般的に用いられるマイクロストリップ線路7を用いて放射素子6に給電する構成としたから、高周波回路とアンテナ1を容易に接続することができる。
【0047】
また、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9および中間接地導体板10は、複数の絶縁層3,4が積層された多層基板2に設ける構成とした。このため、多層基板2の裏面2Bに接地導体板5を設け、多層基板2の表面2Aに放射素子6を設けると共に、絶縁層3,4の間に中間接地導体板10を設けることによって、厚さ方向に対して、接地導体板5と放射素子6との間に中間接地導体板10を容易に配置することができる。これに加え、接地導体板5と中間接地導体板10はこれらの間に位置する絶縁層3を貫通する複数のビア12を用いて電気的に接続した。このため、接地導体板5と中間接地導体板10との間の段差部分に複数のビア12を配置して、これらのビア12によって多層基板2の内部に向かう電磁波を反射することができる。また、絶縁層3,4に導体パターンの形成やビア加工等を行い、複数の絶縁層3,4を積み重ねることによって水平方向放射アンテナ1を形成することができるから、量産工程に容易に適用することができる。
【0048】
次に、図5ないし図7は本発明の第2の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、厚さ方向に対して無給電素子と放射素子とを異なる位置に配置する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0049】
第2の実施の形態による水平方向放射アンテナ21は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子22、中間接地導体板10等によって構成されている。
【0050】
無給電素子22は、第1の実施の形態による無給電素子9とほぼ同様に形成されている。このため、無給電素子22は、例えば放射素子6と同様の導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみて多層基板2の端部2C側に配置されている。また、無給電素子22は、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。
【0051】
但し、無給電素子22は、絶縁層3,4の間に位置して多層基板2の内部に設けられている。この点で、無給電素子22は、多層基板2の表面2Aに設けられた第1の実施の形態による無給電素子9とは異なる。そして、無給電素子22は、放射素子6、接地導体板5および中間接地導体板10と絶縁されている。また、無給電素子22は、放射素子6と一緒に、水平方向放射アンテナ1を平面視したときには、切欠き部10Aの内部に配置されている。
【0052】
かくして、第2の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、厚さ方向に対して放射素子6と異なる位置に無給電素子22を配置したから、例えば厚さ方向に対する無給電素子22の位置に応じて、水平方向放射アンテナ21の指向性を厚さ方向に対して調整することができる。
【0053】
なお、第2の実施の形態では、無給電素子22は、放射素子6よりも多層基板2の裏面2B側に設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば無給電素子は、放射素子よりも多層基板の表面側に設ける構成としてもよい。この場合、例えば放射素子を覆う絶縁層を設けると共に、この絶縁層の表面に無給電素子を設ける構成とすればよい。また、無給電素子は、厚さ方向に対して中間接地導体板と異なる位置に設ける構成としてもよい。
【0054】
次に、図8および図9は本発明の第3の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、複数の無給電素子を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0055】
第3の実施の形態による水平方向放射アンテナ31は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子32,33、中間接地導体板34等によって構成されている。
【0056】
第1の無給電素子32は、第1の実施の形態による無給電素子9とほぼ同様に形成されている。このため、第1の無給電素子32は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、放射素子6からみて多層基板2の端部2C側に配置されている。また、第1の無給電素子32は、放射素子6との間に隙間が形成されると共に、放射素子6と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6と並列に配置されている。そして、第1の無給電素子32は、放射素子6、接地導体板5および中間接地導体板34と絶縁されている。
【0057】
第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32とほぼ同様に形成されている。このため、第2の無給電素子33は、例えば導電性金属薄膜を用いて細長い略四角形状に形成され、第1の無給電素子32よりも多層基板2の端部2C側に配置されている。また、第2の無給電素子33は、第1の無給電素子32との間に隙間が形成されると共に、第1の無給電素子32と平行な状態でY軸方向に延び、放射素子6および第1の無給電素子32と並列に配置されている。そして、第2の無給電素子33は、放射素子6、接地導体板5、中間接地導体板34および第1の無給電素子32と絶縁されている。
【0058】
中間接地導体板34は、第1の実施の形態による中間接地導体板10とほぼ同様に形成されている。このため、中間接地導体板34は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板34は、複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板34は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0059】
また、中間接地導体板34は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板34とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法の方が大きくなっている。
【0060】
また、中間接地導体板34には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略四角形状の切欠き部34Aが形成されている。水平方向放射アンテナ31を平面視したときには、放射素子6および第1,第2の無給電素子32,33は、切欠き部34Aの内部に配置される。そして、切欠き部34Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および第1,第2の無給電素子32,33を取囲むコ字状枠部35が形成されている。このコ字状枠部35は、切欠き部34Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部35Aと、切欠き部34Aの奥部側に位置して2つの腕部35Aを連結する連結部35Bとによって構成されている。
【0061】
また、複数のビア12は、切欠き部34Aを取囲んでコ字状枠部35の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板34と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0062】
かくして、第3の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第3の実施の形態では、放射素子6よりも多層基板2の端部2C側には第1,第2の無給電素子32,33を設けたから、第1,第2の無給電素子32,33の配置、形状、大きさ等に応じて水平方向放射アンテナ31の指向性を調整することができる。
【0063】
なお、前記第3の実施の形態では、2個の無給電素子32,33を設ける構成としたが、3個以上の無給電素子を設ける構成としてもよい。
【0064】
次に、図10は本発明の第4の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、コ字状枠部を形成する切欠き部を、基板の端部側に向けて広がる台形状に形成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0065】
第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ41は、多層基板2、接地導体板5、放射素子6、無給電素子9、中間接地導体板42等によって構成されている。
【0066】
中間接地導体板42は、第1の実施の形態による中間接地導体板10とほぼ同様に形成されている。このため、中間接地導体板42は、絶縁層3,4間に位置して多層基板2の内部に設けられ、接地導体板5と対面している。この中間接地導体板42は、複数のビア12によって接地導体板5に電気的に接続されている。このため、中間接地導体板42は、接地導体板5と同様にグランドに接続されている。
【0067】
また、中間接地導体板42は、マイクロストリップ線路7のストリップ導体8と対向した位置で接地導体板5よりも多層基板2の表面2A側に位置し、接地導体板5との間に段差が形成されている。このとき、中間接地導体板42とマイクロストリップ線路7のストリップ導体8との間の離間寸法に比べて、接地導体板5と放射素子6との間の離間寸法の方が大きくなっている。
【0068】
また、中間接地導体板42には、多層基板2の端部2C側に位置してX軸方向の先端側が開口した略台形状の切欠き部42Aが形成されている。この切欠き部42Aは、多層基板2の中央側に位置する底部に比べて、多層基板2の端部2C側に位置する開口部の方がY軸方向の幅寸法が大きくなっている。即ち、切欠き部42Aは、多層基板2の端部2C側に向かうに従ってテーパ状に拡開している。
【0069】
また、水平方向放射アンテナ41を平面視したときには、放射素子6および無給電素子9は、切欠き部42Aの内部に配置される。そして、切欠き部42Aの周囲には、略コ字状をなして放射素子6および無給電素子9を取囲むコ字状枠部43が形成されている。このコ字状枠部43は、切欠き部42Aを挟んでY軸方向の両側に配置されX軸方向に向けて延びる2つの腕部43Aと、切欠き部42Aの奥部側に位置して2つの腕部43Aを連結する連結部43Bとによって構成されている。このとき、2つの腕部43A間の離間寸法は、多層基板2の端部2C側に向かうに従って徐々に大きくなっている。
【0070】
また、複数のビア12は、切欠き部42Aを取囲んでコ字状枠部43の縁部に沿って配置されている。これにより、複数のビア12は、中間接地導体板42と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成している。
【0071】
かくして、第4の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第4の実施の形態では、コ字状枠部43を形成する切欠き部42Aを台形状に形成したから、切欠き部42Aの形状に応じてY軸方向に対する放射パターンの広がり特性を調整することができる。
【0072】
次に、図11は本発明の第5の実施の形態を示している。そして、本実施の形態の特徴は、2個の水平方向放射アンテナを幅方向に並べて配置し、アレーアンテナを構成したことにある。なお、本実施の形態では、前記第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0073】
第5の実施の形態によるアレーアンテナ51は、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べることによって形成されている。このとき、2個の水平方向放射アンテナ1には、放射素子6に対してマイクロストリップ線路7を通じて給電を行う。これら2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相は、相互に変化可能にする。これにより、2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相に応じて、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0074】
かくして、第5の実施の形態でも第1の実施の形態と同様の作用効果を得ることができる。特に、第5の実施の形態では、水平方向放射アンテナ1をY軸方向に2個並べてアレーアンテナ51を構成したから、2個のマイクロストリップ線路7への給電の位相を変えることで、電磁波の放射方向を変化させることができる。
【0075】
なお、前記第5の実施の形態では、2個の水平方向放射アンテナ1を用いてアレーアンテナ51を構成したが、3個以上の水平方向放射アンテナを用いてアレーアンテナを構成してもよい。また、前記第5の実施の形態では、第1の実施の形態による水平方向放射アンテナ1を用いる構成としたが、第2ないし第4の実施の形態による水平方向放射アンテナ21,31,41を用いる構成としてもよい。
【0076】
また、前記各実施の形態では、中間接地導体板10,34,42には放射素子6および無給電素子9,22,32,33を取囲むコ字状枠部11,35,43を設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図12に示す第1の変形例のように、Y軸方向に対して一様な中間接地導体板62をもった水平方向放射アンテナ61を形成してもよい。この場合、中間接地導体板62は、多層基板2の端部2CよりもX軸方向の基端側に位置して、放射素子6および無給電素子9とは対向せずに、ストリップ導体8と対向した位置に配置されている。また、中間接地導体板62には、接地導体板5との段差部分に複数のビア12がY軸方向に並んで設けられている。
【0077】
また、前記各実施の形態では、水平方向放射アンテナ1,21,31,41を多層基板2に形成した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば図13ないし図15に示す第2の変形例のように、単層の基板72を用いて水平方向放射アンテナ71を形成してもよい。この場合、基板72には、例えば厚さ寸法の大きな導体板73を埋め込み、該導体板73の表面によって中間接地導体板74を形成する。また、導体板73の端面によって中間接地導体板74と接地導体板5との間の段差部分の壁面を形成する。さらに、導体板73には、第1の実施の形態による切欠き部10Aとほぼ同様な形状の切欠き部73Aを形成すると共に、該切欠き部73Aを取囲んで2つの腕部75Aと連結部75Bからなるコ字状枠部75を形成してもよい。
【0078】
また、前記各実施の形態では、給電線路としてマイクロストリップ線路7を用いた場合を例に挙げて説明したが、例えばストリップ線路等を用いる構成としてもよい。
【0079】
また、前記各実施の形態では、60GHz帯のミリ波に用いる水平方向放射アンテナを例に挙げて説明したが、他の周波数帯のミリ波やマイクロ波等に用いる水平方向放射アンテナに適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1,21,31,41,61,71 水平方向放射アンテナ
2 多層基板
2C 端部
5 接地導体板
6 放射素子
7 マイクロストリップ線路
8 ストリップ導体(導体パターン)
9,22,32,33 無給電素子
10,34,42,62,74 中間接地導体板
10A,34A,42A,73A 切欠き部
11,43,75 コ字状枠部
12 ビア
51 アレーアンテナ
72 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ該接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射導体と並列に延びると共に前記接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、
前記基板には、前記給電線路と対向した位置で前記接地導体板よりも前記基板の表面側に位置して前記接地導体板との間に段差が形成され、グランドに接続された中間接地導体板を設け、
該中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、前記接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成とした水平方向放射アンテナ。
【請求項2】
前記中間接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えてなる請求項1に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項3】
前記給電線路は、前記導体パターンが前記基板の表面に設けられたストリップ導体からなるマイクロストリップ線路によって構成してなる請求項1または2に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項4】
前記基板は、複数の絶縁層が積層された多層基板からなり、
前記接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、該多層基板の厚さ方向に対して互いに異なる位置に配置し、
前記接地導体板と中間接地導体板は、これらの間に位置する前記絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する構成としてなる請求項1,2または3に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項1】
絶縁性材料からなる基板と、該基板の裏面側に設けられグランドに接続された接地導体板と、前記基板の表面側に設けられ該接地導体板と間隔をもって対向した細長い放射素子と、前記基板の表面側に設けられた導体パターンからなり該放射素子に接続された給電線路と、前記放射素子よりも前記基板の端部側に位置して前記基板に設けられ前記放射導体と並列に延びると共に前記接地導体板および放射素子と絶縁された少なくとも1つの無給電素子とを備え、
前記基板には、前記給電線路と対向した位置で前記接地導体板よりも前記基板の表面側に位置して前記接地導体板との間に段差が形成され、グランドに接続された中間接地導体板を設け、
該中間接地導体板と給電線路の導体パターンとの間の離間寸法に比べて、前記接地導体板と放射素子との間の離間寸法の方が大きい構成とした水平方向放射アンテナ。
【請求項2】
前記中間接地導体板は、前記基板の端部側が開口した状態で前記放射素子および無給電素子を略コ字状に取囲むコ字状枠部を備えてなる請求項1に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項3】
前記給電線路は、前記導体パターンが前記基板の表面に設けられたストリップ導体からなるマイクロストリップ線路によって構成してなる請求項1または2に記載の水平方向放射アンテナ。
【請求項4】
前記基板は、複数の絶縁層が積層された多層基板からなり、
前記接地導体板、放射素子および中間接地導体板は、該多層基板の厚さ方向に対して互いに異なる位置に配置し、
前記接地導体板と中間接地導体板は、これらの間に位置する前記絶縁層を貫通する複数のビアを用いて電気的に接続する構成としてなる請求項1,2または3に記載の水平方向放射アンテナ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−191317(P2012−191317A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51492(P2011−51492)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]