説明

水性インキ組成物

【課題】 インキ中の顔料による沈殿層の形成による撹拌性低下の問題をインキ成分の配合面から解決するとともに、インキ塗布面上に鉛筆等による筆記を可能にするインキ組成物を提供すること。
【解決手段】 色材としての顔料、溶剤および樹脂を含有する水性インキ組成物において、天然繊維または化学繊維から選ばれる、長さ0.1nm〜1mmの繊維をインキ全量に対して5.0〜40.0重量%添加した水性インキ組成物。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、インキ組成物に関し、より詳しくは、筆記具用、スタンプ用、記録計用、プリンター用、印刷用等として利用可能な水性インキ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、修正液等の塗布面の隠蔽性が高いインキにおいては、多量の酸化チタン等の顔料粒子をインキ中に分散させ、その顔料粒子の厚い層によって塗布面の隠蔽性を保持している。このようなインキを長時間保管した場合には、顔料粒子が沈降するため、使用に際してインキの撹拌が不可欠となっており、現実の製品においても、インキの撹拌手段として、鋼球、撹拌棒などの攪拌子が備えられている。しかし、インキ中に酸化チタン等の顔料を多量に含む結果、保管中に顔料粒子が堆積してハードケーキを形成してしまい、攪拌子による撹拌が困難となることがあった。
【0003】一方、顔料分による堅固な沈殿層形成を防止するため、インキ成分自体を工夫した技術として、インキ中にアスベストを添加する方法が知られている(特公昭52−40256号公報等)。しかしながら、アスベストは周知のとおり人体に対して有害な作用を及ぼす物質であり、筆記具等への使用は慎重にならざるを得ない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記のとおり、インキ中の顔料による沈殿層の形成による撹拌性低下の問題をインキ成分の配合面から解決するためには、新たなインキ成分として人体に無害な物質を利用する必要がある。また、前記のインキによる塗布面は、光沢度の高い平滑な表面となっているため、この塗布面上に筆記具によって描画を行うと、インキの載りが悪かったり、鉛筆等の黒鉛による描画がほとんど不可能であるといった問題があった。従って、鉛筆等のように被筆記面表面の細かい凹凸によって筆記を行う筆記具を用いた場合でも、インキ塗布面上に筆記を可能にする技術が求められていた。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を行った結果、酸化チタン等を分散させた水性インキ中に、所定の天然繊維または化学繊維を添加することにより、インキの攪拌が容易で人体に対する安全性も高く、しかも鉛筆等による塗布面への筆記が可能なインキ組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち、本発明は、色材としての顔料、溶剤および樹脂を含有する水性インキ組成物において、天然繊維または化学繊維から選ばれる、長さ0.1nm〜1mmの繊維をインキ全量に対して5.0〜40.0重量%添加した水性インキ組成物に関する。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる天然繊維は、例えば、木、草、蚕糸、綿花等を原料として得られた繊維であり、具体的には、紙粘土(固形分)、絹糸(切断・粉砕したもの)、脱脂綿(粉砕したもの)等を例示することができる。これらの繊維の切断や粉砕は、例えば、紙などを製造する際の叩解工程で使用されるリファイナーを利用して行うことが好ましい。また、本発明に用いられる化学繊維は、人工的な重合反応によって得られる繊維であり、具体的には、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維等を例示することができる。上記天然繊維または化学繊維は、単独もしくは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0008】本発明インキ組成物に配合される上記天然繊維または化学繊維の長さは、インキを使用する製品の種類によっても異なるが、0.1nm〜1mm程度とすることが好ましい。特に形状がペンタイプで、そのペン先が、通常のマーカーに使用されるような繊維束芯または細いパイプ状の形となる製品のインキとして使用する場合には、添加する繊維の長さを0.1nm〜200nmとすることがより好ましく、0.1nm〜100μmとすることが望ましい。また、特に形状がペンタイプで、そのペン先が直液式のマーカーに使用されるようなバルブ式のペン先である製品のインキとして使用する場合、または形状がインキを刷毛により直接塗布するボトルタイプの製品のインキとして使用する場合には、添加する繊維の長さを0.1nm〜1mm程度とすることがより好ましく、10nm〜5μmとすることが望ましい。
【0009】また、上記天然繊維または化学繊維の太さは、インキがその流路を滞りなく通過できるようにするなどの観点から、例えば断面の直径を0.1nm〜10μm程度とすることが好ましく、0.1nm〜1μm程度ならばより好ましい。
【0010】本発明インキ組成物中における上記天然繊維または化学繊維の配合量は、インキ組成物全量に対して、5.0〜40.0重量%(以下、単に「%」と記す)程度が好ましく、10.0〜30.0%がより好ましい。
【0011】本発明インキ組成物における他の必須成分である、色材としての顔料、溶剤および樹脂としては、一般にインキに使用されるものであれば特に制限なく使用することが可能である。
【0012】色材としての顔料としては、酸化チタン、樹脂顔料、中空樹脂顔料、樹脂エマルジョン等が例示される。溶剤としては、例えば、水や、エタノール、メタノール等のアルコール類のほか、前記アルコール類と水との混合溶剤として、例えば、2−プロパノールと水とをそれぞれ5:95の割合で混合した混合物等を好適に使用することができる。
【0013】樹脂としては、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ビニル樹脂等が例示される。
【0014】本発明インキ組成物を修正液や白色のマーカー等として使用する場合には、ほとんど着色剤は使用しなくてもよいが、隠蔽性の高いマーカーのインキを得る場合においては別に着色剤を加えることが好ましい。着色剤としては、従来水性インキに用いられている染料および顔料(前記以外のもの)ともに制限なく使用可能である。ここで、好ましい染料としては、例えば、アイゼンブリムラレッド4BH、アイゼンブリムラエローGCLH(以上、アイゼン社製)等の直接染料、アイゼンボンソーRH、アイゼンオパールピンクBH、アイゼンオパールブラックWHエクストラコンク(以上、アイゼン社製)、オリエントソルブルブルーOBX、オリエントソルブルブルーOBB(以上、オリエント化学社製)等の酸性染料、タートラジン、アシッドレッド、フロキシン(以上、アイゼン社製)等の食料染料等が挙げられる。また、好ましい顔料としては、例えば、カーボンブラック、酸化鉄などの無機顔料、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料等の無機顔料や有機顔料、硫化カルシウム等の無機蛍光顔料、その他の有機蛍光顔料などが挙げられる。着色剤は、単独で、あるいは二種以上を組合せて使用でき、インキ組成物全量に対して0.1〜40.0%程度配合することが好ましい。
【0015】また、本発明のインキ組成物においては、酸化チタン等の顔料を用いるため、分散剤を使用することが望ましい。分散剤としては、例えばジョンクリルJ−62、ジョンクリルJ−450(以上、ジョンソン社製)、ジョリマーAT−210、ジョリマーSEK−101(以上、日本純薬工業社製)等の水溶性樹脂や、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤など、インキ組成物に一般に用いられているものを制限なく使用できる。
【0016】本発明インキ組成物には、以上の成分のほかに、例えば、安息香酸ナトリウム(和光純薬工業社製)、バイオデン−18、アモルデン−HS、アモルデンBT−50、アモルデンFS−14D(以上、大和化学工業社製)、プロキセルBDN、プロキセルGXL、プロキセルTN(以上、ゼネカ社製)などの防菌剤を少量添加することができる。また、pH調整剤として、例えばアミノメチルプロパノール、トリエタノールアミン(以上、和光純薬工業社製)等を添加することもできる。さらに、ボールペン先端のチップのための防蝕剤、潤滑剤などを制限なく使用できる。
【0017】本発明の水性インキ組成物は、以下に例示する方法によって製造できる。顔料インキまたは顔料と染料を併用するインキの場合には、上記必須成分および任意成分を、公知の分散機(例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、フローミル、ダイノーミル、アトライタ等)を用いて攪拌混合または混合粉砕する。次に、撹拌混合または混合粉砕して得られた中間物を、必要に応じて濾過、遠心沈降等の方法で処理し、粗大粒子やゴミを除去することにより、容易に本発明の水性インキ組成物が得られる。
【0018】本発明の水性インキ組成物は、例えば、筆記具用、スタンプ用、記録計用、プリンター用、印刷用、塗装用等のインキとして好適に利用でき、特に、例えば修正液、顔料マーカー等の筆記具用のインキとして最適な特性を有するものである。
【0019】
【作用】本発明の水性インキ組成物において、顔料を配合しているにもかかわらず良好な攪拌性が維持される理由は未だ解明されていないが、酸化チタン等の顔料の分散液中に繊維を混在させることにより、顔料が沈降堆積する際、堆積層の間に繊維が入り込んで顔料による密な堆積層の形成が妨害され、その結果、ガラスボール等の攪拌子によるインキの再撹拌が容易になるものと推測される。また、インキ中に繊維を配合することにより、インキの塗膜面に紙面と類似の微細な凹凸が形成され、このことによって、この塗膜上での鉛筆等による筆記が可能になり、例えば、ボールペン、マーカーなどによる筆記が容易になると考えられる。
【0020】
【実施例】次に、実施例、試験例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに制約されるものではない。
実施例1 白色インキ:(組 成) 配合量(重量部)
水 41.70 酸化チタン(デュポン社製) 38.00 ジョンクリル62(ジョンソン社製) 10.00 アミノメチルプロパノール 0.10 バイオデン−18(大和化学工業社製) 0.20 紙粘土(固形分) 10.00(製 法)上記各成分を混合粉砕した後、濾過することにより白色インキを得た。
【0021】
実施例2 青色インキ:(組 成) 配合量(重量部)
水 36.71 酸化チタン(デュポン社製) 35.00 青色有色顔料(大日精化社製) 6.80 ジョンクリル62(ジョンソン社製) 11.13 トリエタノールアミン 0.13 プロキセルBDN(ゼネカ社製) 0.23 切断・粉砕した絹糸 10.00(製 法)上記各成分を混合粉砕した後、濾過することにより青色インキを得た。
【0022】
実施例3 赤色インキ:(組 成) 配合量(重量部)
水 30.87 酸化チタン(デュポン社製) 35.00 アイゼンブリムラレッド4BH(アイゼン社製) 1.80 ジョリマーAT210(日本純薬工業社製) 12.00 プロピレングリコール 10.00 アミノメチルプロパノール 0.13 アモルデン−HS(大和化学工業社製) 0.20 粉砕した脱脂綿 10.00(製 法) 上記各成分を混合粉砕した後、濾過することにより赤色インキを得た。
【0023】
実施例4 赤色インキ:(組 成) 配合量(重量部)
水 19.77 酸化チタン(デュポン社製) 35.00 アイゼンブリムラレッド4BH(アイゼン社製) 3.77 アイゼンブリムライエローGCLH(アイゼン社製) 0.23 プロピレングリコール 30.00 トリエタノールアミン 0.01 安息香酸ナトリウム 1.22 紙粘土(固形分) 10.00(製 法)上記各成分を混合撹拌した後、濾過することにより赤色インキを得た。
【0024】比較例1〜4上記実施例における紙粘土、絹糸および脱脂綿の代わりに、水を添加した以外は上記実施例1〜4と同様にしてそれぞれインキ組成物を得た。
【0025】試験例実施例1〜4、比較例1〜4で得られたインキを修正ペン容器(三菱CLP301;三菱鉛筆社製)に充填し、紙面にインキを展開させた。インキを乾燥後、塗膜の上より鉛筆等を用いて筆記および描画を行った。その結果、いずれの比較例においても、従来の修正液と同様に光沢のある塗膜面で、やや筆記が困難であったのに対し、いずれの実施例においても鉛筆等で筆記し易い塗膜面が得られた。
【0026】また、上記の修正ペン容器に充填したインキを用い、製造後1ヶ月後に手指により再撹拌のための振動を加え、インキ収納室に内蔵されたガラスボールが動き始めるまでの振動回数を測定した。その結果を表1に示す。
【0027】
【表1】


【0028】表1から明らかなように、いずれの比較例においても従来の修正液と変わりのない振動回数でガラスボールが動き始めたのに対し、いずれの実施例においても更に少ない回数でボール動きが開始された。
【0029】
【発明の効果】本発明の水性インキ組成物は、顔料を再撹拌するための性能に優れ、かつ、重ね描きが可能な良好な塗膜面を有するものである。また、本発明水性インキ組成物に配合される繊維は、人体への安全性が高いので、日常的に使用される筆記具等への使用に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 色材としての顔料、溶剤および樹脂を含有する水性インキ組成物において、天然繊維または化学繊維から選ばれる、長さ0.1nm〜1mmの繊維をインキ全量に対して5.0〜40.0重量%添加した水性インキ組成物。
【請求項2】 溶剤が、アルコール類またはアルコール類と水との混合溶剤である請求項1記載の水性インキ組成物。

【公開番号】特開2001−226620(P2001−226620A)
【公開日】平成13年8月21日(2001.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2000−33655(P2000−33655)
【出願日】平成12年2月10日(2000.2.10)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】