説明

水性エマルジョン型組成物

【課題】 接着力や塗膜性能を損なうことなく、適用される基材の力学強度を高める又はこれに他の機能を付与することを可能にする組成物を提供すること。
【解決手段】 100nmより大なる平均粒径を有する第1のエマルジョン粒子と、100nm以下の平均粒径を有する第2のエマルジョン粒子であって、好ましくは第1のエマルジョン粒子の平均粒径の2/3以下の平均粒径である第2のエマルジョン粒子とを配合してなる、接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤又は塗料に用いる水性エマルジョン型組成物に関し、詳しくは、接着力や塗膜特性を損なわずに、適用に伴って基材の強度等の力学特性を向上させ又はこれに特定の機能の付与をすること可能にするマルジョン型組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
接着剤や塗料の分野において、水性エマルジョン型のものは、樹脂を溶解させた有機溶剤型のものに比べ、作業性がよく、また媒体が水であることから引火性、毒性の点で安全で、環境保護の観点からも優れているため、広範囲に用いられている。接着に関しては、例えば、紙工用、木工用には、酢酸ビニル系樹脂水性エマルジョンがよく用いられている。合板にパターン紙を貼着してなるラミネート化粧板にも、酢酸ビニル系樹脂水性エマルジョンが知られている。また、木質フロアー等の床材には、合成ゴムラテックスが用いられており、ビニル床タイルやカーペットの接着には、アクリル酸系水性エマルジョン接着剤が用いられている。塗装に関しては、例えば、乾性油の水性エマルジョンであるエマルジョン油ペイント、樹脂ワニス、合成樹脂ワニス、油ワニス等のエマルジョンワニス、エマルジョンラッカー、酢酸ビニルエマルジョン塗料、スチレン・ブタジエン系エマルジョン塗料、アクリル系エマルジョン塗料等があり、紙、木材、合板、布を初めとした種々の基材に用いられている。
【0003】
様々な接着剤が存在する中で、より高い接着力に加え、耐熱性その他多様な機能が接着剤に要求されるようになってきた。更には、例えば紙管用接着剤では、初期接着性に加え紙管の対圧縮強度が要求されるが、これに対し、接着剤の弾性率を高めることで接着剤自体の強度を高める方向での対応が模索されている。
【0004】
初期接着と耐圧縮強度という2つの相反する性質を具備した接着剤として、多くの提案がなされている。例えば、無機充填剤やホウ酸を添加する方法(特許文献1参照)がある。また、弾性率を高めるため、高いガラス転移温度を有するアクリル系エマルジョンを添加する方法(特許文献2参照)がある。その他、アクリル系のエマルジョンにケイ酸ソーダを混和する(特許文献3参照)、グラフト化する(特許文献4参照)、酢酸ビニルを共重合するときの保護コロイドに酢酸ビニル−エチレン共重合体の鹸化物を用いる(特許文献5参照)等である。
【0005】
これら従来の方法は、接着剤樹脂の開発の基本である無機物の添加、樹脂の弾性率の向上、保護コロイドの改良、架橋といった方法を用いている。ガラス転移温度、弾性率等の諸性質の改良を求めるのはごく自然な方向であり、樹脂の設計の基本を応用したものである。このように、初期接着性と強度(すなわち高い弾性率)という、相反する性能を両立させる努力がなされているが、それらは接着剤層自体の性能の改善であり、満足な結果は得られていなかった。
【0006】
例えば、紙管の耐圧縮強度の改良をしようとする際、従来は、高いガラス転移温度のアクリル系エマルジョンが、弾性率の向上のために添加されてきたが、この高いガラス転移温度を有する樹脂の影響を接着層が受けて、初期接着力が低下するという欠点があった。
【0007】
他方、エマルジョン塗料に関しても、従来の方法では、密着性や下地調整のための塗装、下塗り、中塗り、上塗りと、性能が異なる塗料を何度も塗布する必要があった。このため、手間と費用がかかるという問題があり、できるだけ少ない塗布回数で塗装を完了できる塗料が求められていた。
【特許文献1】特開平5−125341号公報
【特許文献2】特開平5−163472号公報
【特許文献3】特開平6−136335号公報
【特許文献4】特開平6−240219号公報
【特許文献5】特開2000−119621号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の背景の下で、本発明の一目的は、接着剤の弾性率を高めることに依存せずに、別の一層有効なメカニズムによって、優れた接着性と接着された基材の力学強度の向上という、相反する性質を両立させることのできる接着用組成物を提供することにある。
本発明の別の一目的は、接着強度を損なうことなく、被着材の耐水性、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性等の化学・物性的性質を向上させ、又は防黴その他の機能の付与を付与することのできる接着用組成物を提供することにある。
本発明の更なる別の一目的は、塗膜の性能を損なうことなく、密着性を向上し、且つ、塗装される基材の力学強度を向上させることを可能にするコーティング用組成物を提供することにある。
本発明の尚も更なる別の一目的は、コーティング膜(塗膜)の性能を損なうことなく、塗装される基材の耐水性、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性等の化学・物性的性質を向上させ、又は防黴その他の機能の付与を付与することのできるコーティング用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水性エマルジョン型の接着用及びコーティング用組成物において、接着層や塗膜を構成するためのエマルジョン粒子に、該エマルジョンより粒径の小さい、100nm以下の平均粒径のエマルジョン粒子(以下、「ナノエマルジョン粒子」という。)を配合することにより、接着強度や塗膜特性を損なうことなしに、該ナノエマルジョンによって接着層の付着性、浸透性を制御し且つ被着材の強度の向上やその機能を付加を達成できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は、次のものを提供する。
(1)100nmより大なる平均粒径を有する第1のエマルジョン粒子と、100nm以下の平均粒径を有する第2のエマルジョン粒子とを配合してなる、接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物。
(2)第2のエマルジョン粒子の平均粒径が第1のエマルジョン粒子の平均粒径の2/3以下である、上記1の水性エマルジョン接着剤。
(3)第1及び第2のエマルジョン粒子がポリマー粒子である、上記1又は2の水性エマルジョン型組成物。
(4)該ポリマーが、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、合成ゴムラテックス、アクリル酸エステル系ポリマー、酢酸ビニルホモポリマー、及び酢酸ビニルコポリマーよりなる群より選ばれるものである、上記1ないし3の何れかの水性エマルジョン型組成物。
(5)第2のエマルジョン粒子が、5nm以上の平均粒径を有するものである、上記1ないし4の何れかの水性エマルジョン型組成物。
(6)第1のエマルジョン粒子/第2のエマルジョン粒子の重量比率が、5/95〜95/10である、上記1ないし5の何れかの水性エマルジョン型組成物。
(7)第2のエマルジョン粒子が、アミノ基、及び/又は窒素、リン又はイオウ原子を含んでなる電子吸引性の官能基を含むモノマーを共重合したアクリル系のエマルジョン粒子であることを特徴とする、上記1ないし6の何れかの水性エマルジョン型組成物。
(8)紙、木材、合板、布又はモルタル用であり、第1のエマルジョンが酢酸ビニル系ホモポリマーエマルジョン、酢酸ビニル系コポリマーエマルジョン又はスチレンブタジエンゴム系エマルジョンである、上記1ないし6の何れかの水性エマルジョン型組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、接着強度やコーティング膜(塗膜)性能を損なうことなく、水性エマルジョン型組成物の適用によって、基材の接着又はコーティングと同時に、基材の圧縮強度、引張強度等の力学的性質の向上のほか、耐水性、耐薬品性、耐熱水性、耐熱性等の化学的、物性的性質の向上を達成し、又は防黴その他の機能を付与しうる接着剤又はコーティング剤(塗料)を提供することができる。また、本発明によれば、ナノエマルジョン粒子が、基材に速やかに浸透することにより、100mmより大なる平均粒子径を有するエマルジョン粒子(以下、「マイクロエマルジョン粒子」という。)から相分離するため、マイクロエマルジョン粒子の接着性能や塗膜性能に実質的影響を及ぼさない。また、本発明によれば、ナノエマルジョン粒子が基材中に浸透し基材内部においてこれを構成する繊維や無機物粒子等の間を埋めて結合することにより、基材の力学強度を高めることができる。従って、接着層自体又は塗膜自体の弾性率を高めることなく接着又はコーティング後の基材自体の強度を高めることができる。このため、接着剤としては、初期接着力に悪影響を与えることなしに接着後の材料強度を向上させることが可能である。また、ナノエマルジョン粒子と、マイクロエマルジョン粒子とは完全には相分離しないため、基材表面で相互に入り込む。こうして、一般的な濡れのメカニズムとは異なったメカニズムで基材表面に結合し、このため接着力や塗膜の剥離強度も強化される。また、ナノエマルジョン粒子は、その多くが基材中に移行するため、防黴その他の、ナノエマルジョン粒子に持たせた機能を基材に移転することができると共に、これに際し、接着層や塗膜の性能に実質的な悪影響を及ぼすことがない。また、ナノエマルジョンの性質が接着層やコーティング層自体に実質的に影響を与えないため、ナノエマルジョン粒子の選択に際しその面からの制約が少なく、ガラス転移温度の高いものや低いものを、基材物性の改善の目的に応じて、適宜に選択することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の水性エマルジョン型組成物は、接着層又はコーティング層を形成する組成物部分(マイクロエマルジョン粒子)と、水性エマルジョン型組成物の適用対象である基材中に浸透して機能を発揮する組成物部分(ナノエマルジョン粒子)とを含んでなる。
【0013】
マイクロエマルジョン粒子としては、従来水性エマルジョン型接着剤や水性エマルジョン型塗料に用いられているエマルジョン粒子をそのまま用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、合成ゴムラテックス、アクリル酸エステル系ポリマー、酢酸ビニルホモポリマー、及び酢酸ビニルコポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
ナノエマルジョン粒子としても、例えば、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、合成ゴムラテックス、アクリル酸エステル系ポリマー、酢酸ビニルホモポリマー、及び酢酸ビニルコポリマー等を用いることができる。そのような樹脂よりなる平均粒径100nm以下の粒子や、それらを構成するモノマーに、目的に応じ各種の機能を付与するモノマー、例えば1〜3級アミノ基や、窒素原子、リン原子又はイオウ原子を含んだ電子吸引性の官能基(例えば、ニトロ基、ニトロソ基、ホスホノ基、スルホ基、スルフィノ基、メタンスルホニル基、ベンゼンスルホニル基等)を含むモノマーを共重合して製したナノエマルジョンも用いることができる。電子吸引性の官能基を持たせることにより、浸透したナノエマルジョン粒子と基材との接着性が高まる等の効果が得られる。
【0015】
本発明の水性エマルジョン型組成物において、それが接着用である場合、ナノエマルジョン粒子が配合される組成物の例としては、ポリウレタン系水性エマルジョン接着剤、エポキシ系水性エマルジョン接着剤、合成ゴムラテックス(エマルジョン)接着剤、アクリル酸エステル系水性エマルジョン接着剤、酢酸ビニルホモポリマー系水性エマルジョン接着剤、酢酸ビニル系コポリマー水性エマルジョン接着剤、その他、天然、合成若しくは半合成の樹脂(例えば、天然ゴムラテックス)や、有機若しくは無機(例えば、金属ペースト)の水性エマルジョン接着剤、有機無機ハイブリッド(例えば、エポキシシリシリコーン樹脂)接着剤を挙げることができる。
【0016】
また本発明の水性エマルジョン型組成物において、それがコーティング用である場合、ナノエマルジョン粒子が配合されるコーティング剤の例としては、エマルジョン油ペイント、樹脂ワニス、合成樹脂ワニス、油ワニス等のエマルジョンワニス、エマルジョンラッカー、酢酸ビニルエマルジョン塗料、スチレン・ブタジエン系エマルジョン塗料、アクリル系エマルジョン塗料等が上げられる。
【0017】
本発明において、マイクロエマルジョン粒子とナノエマルジョン粒子の配合比率は、重量比(樹脂固形分)で5/95〜95/5であることが好ましく、10/90〜90/10であることが更に好ましい。
【0018】
本発明の接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物は、従来慣用のそれら組成物と同様、可塑剤、増粘剤その他の添加剤を配合し、密着性向上のためのアミド系ポリマーを混和又はアミド系モノマーとグラフト化し、及び/又はコロイダルシリカやケイ酸ソーダ等の無機物、中空フィラー等の充填剤、無機酸、イソシアネート等の架橋剤をブレンドし若しくは反応させることによって、改質することができる。本発明において、マイクロエマルジョン粒子の平均粒径は100nmより大であることが必要であり、平均粒径は、好ましくは150nm以上、より好ましくは300nm以上、更に好ましくは600nm以上である。なお、粒子を破壊しない程度であれば、有機溶剤の添加もできる。
【0019】
本発明の接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物は、従来と同様にして、接着層又は塗膜自体に導電性等の追加機能を付与することもできる。
【0020】
本発明において、接着用水性エマルジョン型組成物には、粘着剤、シーラー、アンカー、感熱接着剤、感圧接着剤が包含される。
【0021】
本発明において、ナノエマルジョン粒子の平均粒子径は、100nm以下である。これは、粒子径が100nm以下のときには、紙、木材、合板、布、モルタルその他、水性エマルジョン型組成物が適用される基材への高い浸透性が得られるからである。ナノエマルジョン粒子の平均粒径は、より好ましくは75nm以下、更に好ましくは50nm以下である。また、ナノエマルジョン粒子の平均粒径は、5nm以上であることが好ましい。これは、粒径が余り小さいと、ナノエマルジョン粒子が基材に速やかに浸透し過ぎマイクロエマルジョン粒子と分離し過ぎる場合があるからである。但し、平均粒径5nm以上のナノエマルジョン粒子を含有している場合には、平均粒径5nm未満の粒子が更に含有されることは排除しない。そのような粒子は、平均粒径5nm以上のナノエマルジョン粒子とマイクロエマルジョン粒子との相分離には影響を及ぼさないからである。
【0022】
本発明の接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物を塗布により適用するのに適した基材は、少なくとも表面にナノエマルジョン粒子の平均粒径より大きな穴や隙間を有するものである。そのような基材に本発明の組成物を適用したとき、ナノエマルジョン粒子が基材の穴又は隙間に浸透し、これを埋めて基剤表面の力学強度を高め或いはナノエマルジョン粒子に付された防黴性その他の機能が基剤に移転される。このようにナノエマルジョン粒子の相当部分が基材側へ移行することにより、マイクロエマルジョン粒子を構成する樹脂とナノエマルジョン粒子を構成する樹脂とが殆ど相分離する。そのため、後者の樹脂が有する物性が前者の樹脂の接着性や塗膜性能に影響を及ぼすことが、実質的に避けられる。また基材表面では、ナノエマルジョン粒子構成樹脂とマイクロエマルジョン粒子構成樹脂とがそれぞれ連続相となりつつ相互に入り込むことから、両者間に強い結合が達成される一方、基材内では、浸透したナノエマルジョン粒子から形成される連続層が、基剤内部においてこれを構成する繊維、粒子の隙間を埋めて基材と広範囲に一体化する。こうして、ナノエマルジョン粒子から形成される連続層を介して、基材と接着層又は塗膜が強固に結合する結果、剥離強度が増大する。
【0023】
マイクロエマルジョン粒子とナノエマルジョン粒子との相分離を促進するには、ナノエマルジョン粒子の平均粒径は、マイクロエマルジョン粒子の平均粒径の2/3以下であることが必要であり、より好ましくは、1/3以下、更に好ましくは1/5以下、特に好ましくは1/10以下、取り分け好ましくは、1/12以下である。
【0024】
本発明において、マイクロエマルジョン粒子とナノエマルジョン粒子との「配合」は、それぞれ別に製造されたマイクロエマルジョン粒子とナノエマルジョン粒子とを混合することによって行ってもよく、また、同一の重合工程中で条件を適宜調節して両エマルジョン粒子を製造することによって行ってもよい。また、ナノエマルジョン粒子を含んだエマルジョン中でマイクロエマルジョンを製造することによってもよい。マイクロエマルジョン粒子及びナノエマルジョン粒子の製造方法は、当業者に周知である。
【実施例】
【0025】
以下、実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが、本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0026】
〔試験基材〕
基材として、約10.8×20mmに裁断した厚み約0.9mm、坪量約660gのC級紙管原紙(王子製紙社製;以下「紙管原紙」と略す。)、約9.8×20mmに裁断した厚み約0.26mm、坪量約210gのライナー紙、約10×20mmに裁断した厚み約3mmの中密度(中質)繊維板(ネルソン・パイン・インダストリーズ社製;以下「MDF」と略す。)、約10×10mmに裁断した厚み約16mmのパーティクル・ボード(カイハツボード社製;以下「パーティクル・ボード」と略す。)を用いた。
【0027】
〔実施例1〕
水性のマイクロエマルジョン接着剤として、酢酸ビニルエマルジョン(高圧ガス工業社製251R;平均粒径約950nm)を用いた。これに、アクリル系ナノエマルジョン(高圧ガス工業社製LH−5238;平均粒径約40nm)を、種々の比率でブレンドして次のハイブリッド水性エマルジョン(製剤1ないし5)を作製した。両者の樹脂重量分の比率(酢酸ビニル系エマルジョン/アクリル系エマルジョン)は、各製剤に括弧書きで示す。また、製剤6として、カチオン型の水性樹脂(高圧ガス工業社製アクリル樹脂;K 186)を用いた。エマルジョン全体に対する樹脂分は、15%に統一した。
(a)製剤1(30/0)
(b)製剤2(20/10)
(c)製剤3(15/15)
(d)製剤4(10/20)
(e)製剤5(0/30)
(f)製剤6(カチオン型の水性樹脂のみ)
【0028】
<紙管原紙での試験>
上記各製剤を、紙管原紙の上に2gずつ滴下した。25℃の室内に24時間静置し、浸透の状態を観察した。製剤1のエマルジョンは、殆ど浸透しないまま乾燥してしまい、浸透がないため本発明の目的に沿わないことが確認された。製剤6の溶液は、約11分後に基材の裏面に滲み出したが、浸透し過ぎるため、本発明の目的にやはり沿わないことが判明した。製剤5のエマルジョンは、約20分後にはもう基材の裏面に僅かに滲み出していた。この製剤は、浸透性が大き過ぎ、樹脂が基材表面に残らないため、接着性が悪い。製剤3のエマルジョンでは、24時間後に基材裏面に少量滲み出しており、製剤1及び5の中間の性質を示した。製剤2のエマルジョンは、製剤1及び3の中間の性質を有し、製剤4のエマルジョンは、製剤3及び5の中間の性質を示した。このように、ナノエマルジョンの重量比が大きいほど、拡散速度と拡散量は増加した。これらの製剤において、マイクロエマルジョンからの酢酸ビニルは、基材表面に止まった。本実施例により、マイクロエマルジョン粒子に対するナノエマルジョン粒子の重量比が、少なくとも20/10〜10/20の範囲のときには、非常に好ましい効果が得られることが判明した。
【0029】
<ライナー紙での試験>
上記各製剤を、ライナー紙の上に1gずつ滴下した。25℃の室内に24時間静置し、浸透の状態を観察した。製剤1のエマルジョンでは、水分のみが裏面まで拡散し、接着剤である樹脂分は、表面に残った。乾燥した樹脂は、円形の一つの相で均一に残っていた。製剤2のエマルジョンでは、表面上に樹脂が円形に残ったのに加えて、その外周に沿って紙内に帯状の樹脂層が形成されていた。この外周のものは、ナノエマルジョンによるものであった。これより内側の部分は、酢酸ビニルエマルジョンに富んだ部分であった。製剤3のエマルジョンでは、外周部分の面積が増え、外周部分に対する内側部分の面積比がほぼ1:1に近づいた。製剤4のエマルジョンでは、外周部分の面積の方が内側部分より拡大しており、外周部分の成分は、裏面まで浸透していた。製剤5のエマルジョンでは、単一相であり、かなりの量が裏面まで浸透し、表面には殆ど残らなかった。マイクロエマルジョンとナノエマルジョンとを混合した製剤2、3及び4では、ライナー紙上24時間後には、厚み方向に相分離し、表面側がマイクロエマルジョンより形成された接着層、内部の基材表面側がナノエマルジョンより形成された層となっていた。
【0030】
<MDFでの試験>
上記各製剤のエマルジョンを、MDF上に2gずつ滴下した。25℃の室内に24時間静置し、カッターナイフで断面を切り出し、浸透の状態を観察した。製剤1のエマルジョンでは、MDFを構成する木の繊維が手で簡単にほぐれたが、製剤2、3、4及び5のエマルジョンでは、木の繊維が接着し、簡単にはほぐれなくなった。ナノエマルジョンの割合が大きくなるほど、強度は増大したが、表面に残る接着層はそれとともに減少した。
【0031】
<パーティクル・ボードでの試験>
上記各製剤のエマルジョンを、パーティクル・ボードの上に2gずつ滴下した。25℃の室内に24時間放置、電動ノコギリとカッターナイフで断面を切り出し、浸透の状態を観察した。製剤1のエマルジョンでは、パーティクル・ボードを構成する木片が手で簡単にほぐれたが、製剤2、3、4及び5のエマルジョンでは、木片が接着し、簡単にはほぐれなくなった。ナノエマルジョンの割合が大きくなるほど強度は増大した。
【0032】
〔実施例2〕
水性のマイクロエマルジョン接着剤としてエチレン酢酸ビニルエマルジョン(クラレ社製OM−4200NT;平均粒径700nm)を用いた。これにアクリル系ナノエマルジョン(高圧ガス工業社製LH−5238;平均粒径約40nm)を、種々の比率でブレンドして次のハイブリッド水性エマルジョン(製剤21〜25)を作製した。両者の樹脂重量分の比率(エチレン酢酸ビニルエマルジョン/アクリル系エマルジョン)は、各製剤に括弧書きで示す。エマルジョン全体に対する樹脂分は15%に統一した。
(a)製剤21(30/0)
(b)製剤22(20/10)
(c)製剤23(15/15)
(d)製剤24(10/20)
(e)製剤25(0/30)
【0033】
<ライナー紙での試験>
上記製剤21〜25の各エマルジョンを、ライナー紙の上に1gずつ滴下した。25℃の室内に24時間静置し、浸透の状態を観察した。製剤21では、滴下した円形のエマルジョンの樹脂は広がらず、水分のみが拡散した。水分が拡散した円形領域の直径は、元の樹脂直径の2倍以上であった。紙中への樹脂の浸透も殆ど見られなかった。製剤23では、樹脂による2重の円が形成されていた。大きい方の円はライナー紙に浸透したナノエマルジョン構成樹脂よりなるものであり、内側の円形領域は、紙の表面上に残ったマイクロエマルジョン構成樹脂によって形成されたものであった。外側の円は、こうして、樹脂は2相に分離した状態で、接触面で結合していた。製剤22及び24についても同様であった。外側の円の大きさは、製剤22、23、24の順に拡大した。外周の大きさは、実施例1におけるライナー紙でのものより幾分小さかった。これは、実施例1に比して本実施例では、マイクロエマルジョン粒子とナノエマルジョン粒子との粒子径の差が小さいためと思われる。製剤25では、エマルジョンの殆どが浸透し、紙の表面には樹脂が残っていなかった。
【0034】
上記製剤21〜25の各エマルジョンを、紙管原紙の上に2gずつ滴下した。25℃の室内に24時間静置し、浸透の状態を観察した。製剤21では、殆ど浸透が見られなかった。製剤25では、殆どが浸透して、紙の表面に接着剤は残らなかった。製剤23では、紙の表面にエチレン酢酸ビニル樹脂が残り、且つ、製剤25の半分程度の大きさの浸透領域が裏面に見られた。
【0035】
〔実施例3〕
ナノエマルジョンを、実施例1のアクリル系ナノエマルジョン(LH−5238)において2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸を2%共重合させたものに代えた以外は、実施例1と同様の実験を行った。浸透性に関しては、実施例1と同様の結果が得られた。樹脂分の重量比率でマイクロエマルジョン/ナノエマルジョン=50%としたものは、MDFやパーティクル・ボードがほぐれ難くなり、それらの強度が実施例1の場合と同様の配合よりも一層増大していた。
【0036】
〔実施例4〕
ナノエマルジョン粒子の平均粒径を60nmにした以外は、実施例1と同様の実験を行った。その結果、実施例1と同様の傾向が得られたが、浸透性は、実施例1に比して幾分低下していた。
【0037】
〔実施例5〕
樹脂重量分のマイクロエマルジョン/ナノエマルジョン比率を、5/95、10/90、15/85、85/15、90/10、95/5として実施例1及び2と同様に実験を行った。その結果、5/95では、基剤表面に残った酢酸ビニル樹脂の量は接着には足りる程度であったがやや少なく、10/90では十分な量まで増えた。また、95/5では浸透や補強効果は見られたがやや少なく、90/10では十分な浸透及び補強効果が見られた。
【0038】
〔実施例6〕
紙管原紙に酢酸ビニル系接着剤単独と、ナノエマルジョン(LH−5238)を20重量%(樹脂分)ブレンドしたものを、1m2あたり60g塗布し、内径16mm、外径82.6mm、肉厚3.3mm、長さ80mmの4プライ平巻紙管を作成し、耐圧縮試験を行った。酢酸ビニル系接着剤単独により接着したものは、30kgfで破壊した。これに対し、ナノエマルジョンをブレンドしたハイブリッドエマルジョンで接着したものは、35kgfまで耐えた。
【0039】
〔実施例7〕
アクリル樹脂エマルジョン塗料(スズカファイン社製:ラントンEMエナメル)にナノエマルジョン(LH−5238)を20重量%(樹脂分)加えて試験用モルタルに塗布した。その結果、ナノエマルジョンはモルタル内部に浸透してこれを補強し、塗料は表面に残存していた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、紙、木材、合板、布、モルタル等の基材の力学強度を増大させつつ又は他の望ましい性質若しくは機能を基材に付与しつつ、これに対し塗装や接着を行うことが可能となるため、紙製品、布製品、建材、内外壁塗料その他の分野に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100nmより大なる平均粒径を有する第1のエマルジョン粒子と、100nm以下の平均粒径を有する第2のエマルジョン粒子とを配合してなる、接着用又はコーティング用水性エマルジョン型組成物。
【請求項2】
第2のエマルジョン粒子の平均粒径が第1のエマルジョン粒子の平均粒径の2/3以下である、請求項1の水性エマルジョン接着剤。
【請求項3】
第1及び第2のエマルジョン粒子がポリマー粒子である、請求項1又は2の水性エマルジョン型組成物。
【請求項4】
該ポリマーが、ウレタン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、合成ゴムラテックス、アクリル酸エステル系ポリマー、酢酸ビニルホモポリマー、及び酢酸ビニルコポリマーよりなる群より選ばれるものである、請求項1ないし3の何れかの水性エマルジョン型組成物。
【請求項5】
第2のエマルジョン粒子が、5nm以上の平均粒径を有するものである、請求項1ないし4の何れかの水性エマルジョン型組成物。
【請求項6】
第1のエマルジョン粒子/第2のエマルジョン粒子の重量比率が、5/95〜95/10である、請求項1ないし5の何れかの水性エマルジョン型組成物。
【請求項7】
第2のエマルジョン粒子が、アミノ基、及び/又は窒素、リン又はイオウ原子を含んでなる電子吸引性の官能基を含むモノマーを共重合したアクリル系のエマルジョン粒子であることを特徴とする、請求項1ないし6の何れかの水性エマルジョン型組成物。
【請求項8】
紙、木材、合板、布又はモルタル用であり、第1のエマルジョンが酢酸ビニル系ホモポリマーエマルジョン、酢酸ビニル系コポリマーエマルジョン又はスチレンブタジエンゴム系エマルジョンである、上記1ないし6の何れかの水性エマルジョン型組成物。

【公開番号】特開2006−104414(P2006−104414A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296541(P2004−296541)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000168632)高圧ガス工業株式会社 (17)
【Fターム(参考)】