説明

水性プライマー塗料組成物及び塗膜形成方法

【課題】素材に対する密着性及び耐ガソホール性を両立できるとともに、高圧洗浄による洗車時における複層塗膜の剥離抑制及び耐湿性も両立でき、塩素を含まないポリオレフィン系樹脂を用いた水性プライマー塗料組成物を提供する。
【解決手段】水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性エポキシ樹脂(C)及び内部架橋アクリル粒子エマルション(D)を含む水性プライマー塗料組成物であって、上記(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、上記(A)の含有量が15〜60質量%、上記(B)の含有量が10〜50質量%、上記(C)の含有量が20〜50質量%、上記(D)の含有量が5〜20質量%であり、上記(A)は、その結晶化度が35〜55%で、かつ、重量平均分子量が50000〜200000である水性ポリプロピレン系樹脂である水性プライマー塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性プライマー塗料組成物及び塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車バンパーやモール等に用いられるプラスチック素材は、一般に塗料の濡れ性が悪く、密着性等に劣る。特に、プラスチック素材がポリプロピレン樹脂等である場合には、これらの樹脂が化学的に不活性であるために、上塗り塗料と素材の密着性が悪い。このため、上塗り塗料の塗装前にプライマーを塗装することが従来から一般的になされている。それらのプライマーとしては種々の溶剤型プライマーが検討、使用され、ここ数年は、環境配慮から有機溶剤を用いない水性プライマーが提案され、一部使用されつつある。
【0003】
プライマーには、上塗り塗膜と素材との間に優れた密着性が得られることや形成した複層塗膜に優れた耐ガソホール性を付与することが要求されるが、従来の水性プライマーでは、これらの性能を両立することは一般的に困難であった。また、近年、高圧洗浄による洗車がなされる場合があるが、従来の水性プライマーを適用した自動車を高圧洗車した場合、バンパー等のプラスチック素材において、プライマーとプラスチック素材の間から複層塗膜が剥離するという問題が生じていた。更に、耐湿性も必要とされているが、高圧洗車時の複層塗膜の剥離抑制と耐湿性を両立することも困難であった。
【0004】
従来の水性プライマーとして、水性塩素化ポリオレフィン樹脂、水性アルキッド樹脂及び水性ノボラック型エポキシ樹脂を含むもの(特許文献1)、水性塩素化ポリオレフィン樹脂、水性ポリウレタン樹脂、水性エポキシ樹脂及び有機強塩基及び/又はその塩を含むもの(特許文献2)が開示されている。
【0005】
しかし、耐湿性や耐ガソホール性の更なる性能向上が必要であり、高圧洗車時の複層塗膜の剥離という問題もあった。また、塩素化ポリオレフィンを使用するものであるため、塩素化された樹脂の燃焼処理時の発生ガスヘの懸念から非塩素系樹脂への転換も近年では要請されてきた。
【0006】
特許文献3には、水性ポリオレフィン樹脂、水性アクリル樹脂、水性ポリウレタン樹脂に、オキサゾリン系硬化剤、エポキシ系硬化剤等の硬化剤を添加した水性プライマーが開示され、水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂を用いた具体例として、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体と無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂を併用して水性樹脂化した例が挙げられている。
【0007】
しかし、ここで記載されているプライマーを用いてプラスチック素材に複層塗膜を形成した場合、素材に対する密着性及び耐ガソホール性の両立や高圧洗車時の複層塗膜の剥離抑制及び耐湿性の両立が困難であった。
【特許文献1】特開2001−139875号公報
【特許文献2】特開2004−2801号公報
【特許文献3】特開平6−336568号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、素材に対する密着性及び耐ガソホール性を両立できるとともに、高圧洗浄による洗車時における複層塗膜の剥離抑制及び耐湿性も両立でき、塩素を含まないポリオレフィン系樹脂を用いた水性プライマー塗料組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性エポキシ樹脂(C)及び内部架橋アクリル粒子エマルション(D)を含む水性プライマー塗料組成物であって、上記(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、上記(A)の含有量が15〜60質量%、上記(B)の含有量が10〜50質量%、上記(C)の含有量が20〜50質量%、上記(D)の含有量が5〜20質量%であり、上記(A)は、その結晶化度が35〜55%で、かつ、重量平均分子量が50000〜200000である水性ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする水性プライマー塗料組成物である。
【0010】
上記樹脂(A)は、メタロセン触媒を用いて得られたものであることが好ましい。
上記樹脂(A)は、乳化剤を使用することなく水性化させた水性ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0011】
上記エマルション(D)は、エチレン性不飽和単量体及び架橋性単量体からなるモノマー組成物を乳化重合することによって得られるものであり、上記エチレン性不飽和単量体を重合して得られる非架橋ポリマーのガラス転移温度が50〜140℃で、かつ、上記架橋性単量体の含有量が上記モノマー組成物100質量%中0.1〜50質量%であること好ましい。
【0012】
本発明はまた、上述の水性プライマー塗料組成物を基材に塗装する工程及び上塗り塗料を塗装する工程を含むことを特徴とする塗膜形成方法でもある。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性エポキシ樹脂(C)及び内部架橋アクリル粒子エマルション(D)を特定配合で含むもので、かつ、上記樹脂(A)が結晶化度35〜55%、重量平均分子量50000〜200000の水性ポリプロピレン系樹脂である。非塩素化ポリオレフィンを使用した場合、得られた複層塗膜において、密着性と耐ガソホール性を両立することは極めて困難であったが、本発明は上記構成を有しているため、これらの性能を両立することができる。また、高圧洗浄による洗車時において、得られた複層塗膜の剥離を抑制することと、耐湿性を両立することも可能である。上記水性プライマー塗料組成物は、樹脂成分として塩素を含まない樹脂のみを用いたものであることが好ましい。
【0014】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂(A)を含むものである。上記樹脂(A)の骨格は結晶部分と非晶部分が適度に存在しているため、結晶部位を残したまま融点の制御を可能とし、素材への密着性と耐ガソホール性を高い次元で両立させることができる。上記樹脂(A)は、塗膜のマトリックスを形成する成分であり、熱によって溶融させることができる。
【0015】
上記樹脂(A)の含有量は、上記樹脂(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、15〜60質量%であり、20〜40質量%であることが好ましい。15質量%未満であると、付着点の不足による基材との付着性不良が生じるおそれがある。60質量%を超えると、極性差による上塗り(ベース)との付着不良が生じるおそれがある。
【0016】
上記樹脂(A)は、結晶化度が35〜55%である。上記結晶化度が35%未満であると、耐ガソホール性、高圧洗車性に劣り、密着性も不充分となるおそれがある。55%を超えると、溶融性が低下し、素材との密着性が劣るおそれがある。
本明細書において、上記結晶化度の測定方法は、以下のとおりである。
【0017】
(結晶化度)
ポリプロピレンの立体規則性[mmmm]は、NMR装置(日本電子(株)製、400MHz)にて13C−NMRスペクトル測定法により測定した。試料350〜500mgを、10mmφのNMR用サンプル管中で、約2.2mlのオルトジクロロベンゼンを用いて完全に溶解させた。次いで、ロック溶媒として約0.2mlの重水素化ベンゼンを加え、均一化させた後、130℃でプロトン完全デカップリング法により測定を行った。測定条件は、フリップアングル90°、パルス間隔5T以上(Tは、メチル基のスピン格子緩和時間のうち最長の値)とした。プロピレン系重合体において、メチレン基及びメチン基のスピン格子緩和時間はメチル基のそれよりも短いので、この測定条件では、すべての炭素の磁化の回復は99%以上である。20時間以上の積算を行い測定した。
【0018】
ケミカルシフトは、頭−尾(head to tail)結合からなるプロピレン単位連鎖部の10種類のペンタッド(mmmm,mmmr,rmmr,mmrr,mmrm,rmrr,rmrm,rrrr,rrrm,mrrm)のうち、メチル分岐の絶対配置がすべて同一である、すなわち、mmmmで表されるプロピレン単位5連鎖の第3単位目のメチル基にもとづくピークのケミカルシフトを21.8ppmとして設定し、これを基準として他の炭素ピークのケミカルシフトを決定する。この基準では、例えば、その他のプロピレン単位5連鎖の場合、第3単位目のメチル基にもとづくピークのケミカルシフトはおおむね次のようになる。すなわち、mmmr:21.5〜21.7ppm、rmmr:21.3〜21.5ppm、mmrr:21.0〜21.1ppm、mmrm及びrmrr:20.8〜21.0ppm、rmrm:20.6〜20.8ppm、rrrr:20.3〜20.5ppm、rrrm:20.1〜20.3ppm、mrrm:19.9〜20.1ppmである。
【0019】
このポリプロピレン主鎖は、上記mmmmで表されるペンタッドに帰属されるピークのピークトップのケミカルシフトを21.8ppmとした際に、19.8ppmから22.2ppmの範囲に現れる上記のペンタッド、すなわち、mmmm,mmmr,rmmr,mmrr,mmrm,rmrr,rmrm,rrrr,rrrm,mrrmのすべてのペンタッドに属するピークの総面積Sに対する、21.8ppmをピークトップとするピークの面積Sの比率(S/S)を結晶化度と定義した。
なお、本願明細書では上記で述べた方法で結晶化度を測定するため、プロピレンと他のモノマーとの共重合体の結晶化度は、樹脂中のポリプロピレン部分の結晶化度を意味する。
【0020】
上記樹脂(A)の重量平均分子量は50000〜200000である。重量平均分子量が50000未満であると、塗膜の凝集力低下により密着性が低下し、耐ガソホール性、耐湿性、高圧洗車性が低下するおそれがある。重量平均分子量が200000を超えると、樹脂の水性化が困難となり、水性樹脂製造に支障をきたすこととなる。
本明細書において、上記重量平均分子量の測定方法は、以下のとおりである。
【0021】
(重量平均分子量)
はじめに試料20mgを30mlのバイアル瓶に採取し、安定剤としてBHTを0.04質量%含有するオルトジクロロベンゼン20gを添加した。135℃に加熱したオイルバスを用いて試料を溶解させた後、孔径3μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)フィルターにて熱濾過を行い、ポリマー濃度0.1質量%の試料溶液を調製した。次に、カラムとしてTSKgel GM H−HT(30cm×4本)及びRI検出器を装着したウォーターズ(Waters)社製GPC150CVを使用し、GPC測定を行った。測定条件としては、試料溶液のインジェクション量:500μl、カラム温度:135℃、溶媒:オルトジクロロベンゼン、流量:1.0ml/minを採用した。
分子量の算出に際しては、標準試料として市販の単分散のポリスチレンを使用し、該ポリスチレン標準試料に換算した分子量とした。
【0022】
上記樹脂(A)は、水性非塩素化ポリプロピレン系樹脂である。上記水性非塩素化ポリプロピレン系樹脂とは、塩素化されていない水性ポリプロピレン系樹脂である。本発明は水性非塩素化ポリプロピレン系樹脂を使用したものであるが、低温焼付け乾燥での密着性に優れている。上記水性非塩素化ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体、プロピレンとプロピレンと共重合可能な塩素不含の単量体(エチレン等)との共重合体が挙げられる。
【0023】
上記樹脂(A)は、構成モノマーの90質量%以上がプロピレンであるポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。上記ポリプロピレン系樹脂において、プロピレンが90質量%未満であると、樹脂の結晶化度部分が少なくなり、耐ガソホール性、高圧洗車性が劣るおそれがある。
【0024】
上記ポリプロピレン系樹脂において、プロピレン以外の構成モノマーとしては、例えば、炭素原子数2又は4〜20のモノ又はジオレフィン類、例えば、ブテン、ペンテン、ヘキセン、オクテン、デセン、ブタジエン、ヘキサジエン、オクタジエン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、スチレン及びこれらの誘導体が挙げられる。本明細書において、樹脂を構成するモノマー含有量は、樹脂の製造に用いる各モノマー量により求めることができる。
【0025】
上記樹脂(A)は、メタロセン触媒を用いて得られるものであることが好ましい。これは一般にメタロセン触媒が、リガンドのデサインによりミクロタクティシティーを制御できること、すなわち得られたポリプロピレン主鎖が、アタクチックポリプロピレンとは異なり、結晶化可能な連鎖長のアイソタクチックブロックを含有することを意味し、アイソタクチックブロックが存在するということは、言い換えれば、立体特異性(stereospecificity)が乱れたシークエンスからなるブロックも同時に主鎖に存在することを意味する。即ち、メタロセン触媒を用いて重合されたポリプロピレン主鎖中には、結晶性を有するブロックと非晶性のブロックとが共存し、かつ結晶性を有するブロックが、比較的長い平均連鎖長を有するアイソタクチックブロックから形成され、アイソタクチック性に富む構造になっているという特異な構造となったものである。このような特長から、メタロセン触媒を用いて重合されたポリオレフィンを用いた塗料は、100℃以下であっても得られる塗膜において、本発明の効果を良好に得ることが可能となるためである。
上記メタロセン触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、特開2004−115712号公報([0021]〜[0052])記載のもの等が挙げられる。
【0026】
上記樹脂(A)は、不飽和有機酸又はその酸無水物によって変性されたもの(以下、変性ポリプロピレン系樹脂ということがある。)であることが好ましい。上記不飽和有機酸又はその酸無水物によって変性されたものとしては、例えば、上記ポリプロピレン系樹脂の主鎖に、炭素原子数3〜25の不飽和カルボン酸又はその酸無水物をグラフト反応させて変性したものを挙げることができる。このグラフト反応は常法によりラジカル発生剤を用いて行うことができる。
【0027】
グラフトさせる不飽和カルボン酸又はその酸無水物としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、シトラコン酸、クロトン酸、アリルコハク酸、メサコン酸、アコニット酸、及びこれらの無水物等が挙げられ、なかでも、マレイン酸及びこの無水物等が好ましい。
【0028】
本発明に用いることができる変性ポリプロピレン系樹脂の不飽和カルボン酸又はその酸無水物の付加率(変性ポリプロピレン系樹脂中の不飽和カルボン酸又はその酸無水物の含有割合)は1〜10質量%、好ましくは1.5〜5質量%である。付加率が1質量%未満であると、得られる水性プライマー塗料組成物の分散粒子の粒子径が大きく分散安定性が不良となりやすく、10質量%を超えると、塗膜の耐水性が悪化する傾向となる。この付加率は、赤外分光スペクトル分析法により、カルボニル基の吸収強度を、付加率(含有量)既知のサンプルに基づいて作成した検量線と対比することにより測定できる。
【0029】
不飽和カルボン酸又はその酸無水物を付加する方法としては、ラジカル発生剤の存在下で、ラジカル発生剤の分解条件に付すことによりグラフト反応させる方法が一般的であり、例えば、ポリプロピレン主鎖を有機溶媒に溶解し、不飽和カルボン酸又はその酸無水物とラジカル発生剤を添加し、撹拌下で加熱することにより付加を行う方法、各成分を押出機に供給して加熱混練しながら付加を行う方法等が挙げられる。
【0030】
使用されるラジカル発生剤と不飽和カルボン酸又はその酸無水物とのモル比(ラジカル発生剤と不飽和カルボン酸又はその酸無水物との比率)は、通常1/100〜3/5、好ましくは1/20〜1/2であり、反応温度は、特に制限はないが、通常50℃以上、好ましくは80〜200℃である。反応時間は、通常2〜10時間である。
【0031】
グラフト反応に用いられるラジカル発生剤としては、通常のラジカル発生剤から適宜選択して使用することができ、例えば有機過酸化物等が挙げられる。有機過酸化物としては、ジイソプロピルパーオキシド、ジ(t−ブチル)パーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、クミルヒドロパーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサノンパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシカルボナート、ジシクロヘキシルパーオキシカルボナート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート等が挙げられる。これらの中でも、ジ(t−ブチル)パーオキシド、ジクミルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナートが好ましい。
【0032】
グラフト反応を溶解又は含浸状態で行う場合に用いられる有機溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族系炭化水素、トリクロロエチレン、パークロルエチレン、クロルベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられ、これらの中でも芳香族系炭化水素及びハロゲン化炭化水素が好ましく、特にトルエン、キシレン、クロルベンゼンが好ましい。
【0033】
また、不飽和ジカルボン酸モノエステルを変性成分として有する変性ポリプロピレン系樹脂を製造する場合は、不飽和ジカルボン酸モノエステルをポリプロピレン主鎖に上記のようにグラフト反応させる方法の他、不飽和ジカルボン酸又はその無水物を、ポリプロピレン主鎖にグラフト反応させた後、脂肪族アルコールを用いてカルボキシル基の1つをエステル化したり、酸無水物基をモノエステル化したりする方法によって製造することもできる。
【0034】
上記樹脂(A)は、融点が50〜100℃であることが好ましい。上記融点が50℃未満であると、非晶成分が多くなり、耐ガソホール性、耐湿性、高圧洗車性等が低下するおそれがある。100℃を超えると、溶融性が低下し、素材との密着性が劣るおそれがある。本明細書において、樹脂(A)の融点(℃)の測定方法は、以下のとおりである。
【0035】
(融点測定方法)
示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC5200(セイコー電子製)にて以下の工程により測定した値を用いた。すなわち、昇温速度10℃/minにて20℃から150℃に昇温する工程(工程1)、降温速度10℃/minにて150℃から−50℃に降温する工程(工程2)、昇温速度10℃/minにて−50℃から150℃に昇温する工程(工程3)において、工程3の昇温時の図1のチャートの矢印で示される温度を融点とした。
【0036】
樹脂(A)の水性化方法としては、特に限定されず、従来公知の方法で製造することができる。例えば、上記で製造された酸無水物変性ポリプロピレンにトルエンを加えて100℃くらいで溶かした樹脂溶液とし、その後界面活性剤を加えて、50〜60℃くらいの状態で強制攪拌しながら、50℃くらいのイオン交換水を滴下して転相乳化し、トルエンについては、その後減圧除去する方法が挙げられる。また、テトラヒドロフラン等の溶剤で60℃くらいで上記酸無水物変性ポリプロピレン樹脂を加熱して溶解し、上記樹脂のカルボキシル基を過剰のアミンで中和した後、60℃くらいのイオン交換水を、強制攪拌しながらこの樹脂溶液に滴下し、相転移して乳化し、その後、減圧にて溶剤を除去する方法が挙げられる。更に、上記溶解溶液に乳化剤及びアミンを併用して混合し、60℃くらいのイオン交換水を強制攪拌しながら滴下して乳化し、その後溶媒を減圧除去する方法もある。上記手順とは逆に、アミン等の中和剤及び/又は界面活性剤等が溶解した温水中に上記加熱溶媒で溶かした酸無水物変性ポリオレフィン溶液を水中で強制攪拌しながら滴下し乳化後、溶媒を減圧除去する方法等も挙げられる。
【0037】
上記樹脂(A)は、乳化剤を使用することなく水性化させた水性ポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。乳化剤を使用しないことにより、得られる複層塗膜の耐湿性をより向上させることができる。
【0038】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、水性ポリウレタン樹脂(B)を含むものである。上記(B)を使用することにより、得られる複層塗膜において、優れた耐溶剤性及び耐ガソホール性を得ることができる。上記樹脂(B)は、塗膜のマトリックスを形成する成分である。
【0039】
上記樹脂(B)の含有量は、上記樹脂(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、10〜50質量%である。10質量%未満であると、耐ガソホール性不良が生じるおそれがある。50質量%を超えると、高圧洗車性不良が生じるおそれがある。
【0040】
上記樹脂(B)としては、多官能イソシアネート化合物、一分子中に2個以上の水酸基を有するポリオール、及び、ジメチロールプロパンジオール又はジメチロールブタンジオール等の水酸基とカルボン酸基を共に有する親水化剤をジブチル錫ジラウレート等の触媒の存在下、イソシアナート基過剰の状態で反応させて得られたウレタンプレポリマーに、アミン類等の有機塩基又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基によりカルボン酸を中和した後、イオン交換水を加えて水性化した後、更に鎖伸長剤により高分子量化したウレタンディスパージョン;カルボン酸を含有しないウレタンプレポリマーを合成した後、カルボン酸、スルホン酸、エチレングリコール等の親水基を有したジオール又はジアミンを用いて鎖伸長した後、上記塩基性物質で中和して水性化し、必要により更に鎖伸長剤を用いて高分子量化したウレタンディスパージョン;必要により乳化剤も併用して得られたウレタンディスパージョンを挙げることができる。
【0041】
上記多官能イソシアネート化合物としては1,6−ヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物及びこれらのアダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等の多官能イソシアネート化合物等を挙げることができる。
また、上記ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボナートポリオール等を挙げることができる。
【0042】
上記鎖長延長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、フランジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の低分子量ジオール化合物及びこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加重合させたポリエーテルジオール化合物;上記低分子量ジオール化合物と(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)フタル酸等のジカルボン酸及びこれらの無水物から得られる末端に水酸基を有するポリエステルジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、キシレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン化合物;水、アンモニア、ヒドラジン、二塩基酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0043】
上記樹脂(B)は、市販のウレタンディスパージョンを使用することもできる。上記市販のウレタンディスパージョンとしては特に限定されず、スーパーフレックス150、スーパーフレックス420、スーパーフレックス460(以上、第一工業製薬社製)、バイヒドロールVP LS2952(住化バイエルウレタン社製)、VONDIC 2260、VONDIC 2220、ハイドランWLS210、ハイドランWLS213(以上、大日本インキ化学工業社製)、NeoRez R9603(アビシア社製)等を挙げることができる。
【0044】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、水性エポキシ樹脂(C)を含むものである。上記樹脂(C)を使用することにより、耐水性、耐湿性を向上させることができる。
上記樹脂(C)の含有量は、上記樹脂(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、20〜50質量%である。20質量%未満であると、ゲル分率低下による耐水、耐湿性不良が生じるおそれがある。50質量%を超えると、造膜不良による耐水、耐湿性不良が生じるおそれがある。
【0045】
上記水性エポキシ樹脂(C)は、エポキシ基を分子中に1個以上有する水性樹脂で当該技術分野で公知のものを使用することができる。例えば、フェノールノボラック樹脂にエピクロヒドリンを付加して得られるノボラック型エポキシ樹脂を乳化剤で強制的にエマルション化した、長瀬ケムテック株式会社製デナコールEM150やジャパンエポキシレジン株式会社製エピレッツ6006W70や5003W55や東都化成株式会社のWEX−5100等を挙げることができる。また、ビスフェノールに同様にエピクロヒドリンを付加して得られるビスフェノール型エポキシ樹脂を乳化剤で強制乳化した長瀬ケムテック株式会社製デナコールEM101、EM103やジャパンエポキシレジン株式会社製エピレッツ3510W60、3515W6、3522W60、3540WY55等が挙げられる。更に、ソルビトールやペンタエリスリトールやグリセリン等のポリオールにエピクロヒドリンを付加したアルキルタイプのエポキシ樹脂として長瀬ケムテック株式会社製デナコールEX−611、EX−614、EX−411、EX−313等が挙げられる。
【0046】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、内部架橋アクリル粒子エマルション(D)を含むものである。上記エマルション(D)を使用することにより、高圧洗浄による洗車時において、複層塗膜の剥離を良好に抑制することができる。
【0047】
上記エマルション(D)の含有量は、上記樹脂(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、5〜20質量%である。5質量%未満であると、硬度不足による高圧洗車性不良が生じるおそれがある。20質量%を超えると、造膜不良による耐水、耐湿性不良が生じるおそれがある。
【0048】
上記エマルション(D)は、架橋構造を有するアクリル樹脂からなるエマルションである。上記エマルション(D)としては、特に限定されず、例えば、エチレン性不飽和単量体及び架橋性単量体を用いて得られる架橋構造を有するアクリル樹脂からなるエマルションを挙げることができる。上記エマルション(D)の平均粒子径は、0.1〜1.0μmであることが好ましい。
【0049】
上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アルリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記架橋性単量体としては特に限定されず、例えば、分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体、相互に反応し得る基をそれぞれ担持する2種のエチレン性不飽和基含有単量体等を挙げることができる。
【0051】
上記エマルション(D)の製造に使用することができる分子内に2個以上のラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する単量体としては特に限定されず、例えば、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリレート、1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリメタクリレート等の多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレート等の多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼン等の2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
上記相互に反応し得る基をそれぞれ担持する2種のエチレン性不飽和基を有する単量体に存在する相互に反応する官能基の組合せとしては特に限定されず、例えば、エポキシ基とカルボキシル基、アミン基とカルボニル基、エポキシ基とカルボン酸無水物基、アミン基とカルボン酸塩化物基、アルキレンイミン基とカルボニル基、オルガノアルコキシシラン基とカルボキシル基、ヒドロキシル基とイソシアネートグリシジルアクリレート基等の組合せを挙げることができる。なかでも、エポキシ基とカルボキシル基の組合せがより好ましい。
【0053】
上記エポキシ基とカルボキシル基の組合せによる2種のエチレン性不飽和基を有する単量体としては、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有エチレン性不飽和単量体と、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体の組合せ等を挙げることができる。
【0054】
上記エマルション(D)は、エチレン性不飽和単量体及び架橋性単量体からなるモノマー組成物を乳化重合することによって得られるものであり、上記エチレン性不飽和単量体を重合して得られる非架橋ポリマーのガラス転移温度が50〜140℃で、かつ、上記架橋性単量体の含有量が上記モノマー組成物100質量%中(上記エチレン性不飽和単量体及び架橋性単量体の合計量100質量%中)0.1〜50質量%であることが好ましい。この場合、本発明の効果を良好に得ることができる。
【0055】
上記において、非架橋ポリマーのTgが50℃未満であると、粒子の硬さが低く、塗膜を硬くする効果が小さく、その結果、高圧洗車性が低下するおそれがある。また、架橋性単量体の含有量が0.1質量%未満であると、粒子架橋度が低く、結果的に粒子の強度と硬さが低く、塗膜を硬くする効果が小さくなり、その結果、高圧洗車性が低下するおそれがある。
上記において、非架橋ポリマーのTgが140℃を超えると、架橋粒子が石のように硬くなりすぎ、結果として、塗膜が硬くなりすぎ、凝集破壊しやすくなる。
【0056】
本明細書において、ガラス転移温度(Tg)は、上記融点測定方法と同一の方法により得られる工程3の昇温時のチャートから得られる値である。即ち、図2で示されるチャートの矢印で示される温度をTgとした。
【0057】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、上記必須の各成分(A)、(B)、(C)、(D)に加え、必要に応じ、他の水性樹脂を適宜配合することもできる。他の水性樹脂としては水性アクリル系樹脂、アクリル系エマルション、アミノ樹脂エマルション等が挙げられる。なお、これらの水性樹脂は、後述の顔料分散剤として用いられることがある。
【0058】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、塗料として通常添加される他の配合物、例えば、顔料、界面活性剤、中和剤、安定剤、増粘剤、消泡剤、表面調整剤、レベリング剤、顔料分散剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、シリカ等の無機充填剤、導電性カーボン、導電性フィラー、金属粉等の導電性充填剤、有機改質剤、可塑剤等を必要に応じて配合することができる。
【0059】
上記増粘剤としては、例えば、会合型ノニオン系ウレタン増粘剤やアルカリ膨潤型増粘剤や無機系の層間化合物であるベントナイト等が挙げられる。
上記顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、酸化クロム、紺青等の無機顔料やアゾ系顔料、アントラセン系顔料、ペリレン系顔料、キナクリドン系顔料、インジゴ系顔料、フタロシアニン系顔料等の有機顔料等の着色顔料;タルク、沈降性硫酸バリウム等の体質顔料;導電カーボン、アンチモンドープの酸化スズをコートしたウイスカー等の導電顔料;アルミニウム、銅、亜鉛、ニッケル、スズ、酸化アルミニウム等の金属又は合金等の無着色あるいは着色された金属製光輝材等を挙げることができる。
【0060】
上記顔料分散剤としては、水性アクリル系樹脂;ビックケミー社製のBYK−190等の酸性ブロック共重合体;スチレン−マレイン酸共重合体;エアプロダクツ社製のサーフィノールGA、サーフィノールT324等のアセチレンジオール誘導体;イーストマンカミカル社製のCMCAB−641−0.5等の水溶性カルボキシメチルセルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。これらの顔料分散剤を用いることで、安定な顔料ペーストを調製することができる。上記消泡剤としては、例えば、エアープロダクト社製のサーフィノール104PA及びサーフィノール440等が挙げられる。
【0061】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、上記で説明した(A)〜(D)と必要に応じて用いられる他の成分を混合して製造される。特に、顔料を含む水性プライマー塗料組成物を製造する場合、顔料及び顔料分散剤を含む顔料分散ペーストを予め調製しておいて水性プライマー塗料組成物を製造する方法は、製造効率が高い。
【0062】
本発明の塗膜形成方法は、上述した水性プライマー塗料組成物を基材に塗装する工程及び上塗り塗料を塗装する工程を含む方法である。
上記基材としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のポリオレフィンのほか、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、塩化ビニル(PVC)、ポリウレタン(PU)、ポリカーボネート(PC)等のプラスチック素材及びこれらの成形品を挙げることができる。
【0063】
上記水性プライマー塗料組成物を基材に塗装する方法は、特に限定されず、エアースプレーやエアレススプレー等のスプレー塗装、ベル塗装、ディスク塗装、カーテンコート、シャワーコート、刷毛塗り等で塗布し、その後、得られたプライマー塗膜の乾燥を行う方法等を挙げることができる。上記乾燥は、自然乾燥及び強制乾燥のいずれで行ってもよいが、塗装効率の面からは強制乾燥を行うことが好ましい。強制乾燥としては、例えば、温風乾燥、近赤外線乾燥、電磁波乾燥等のいずれで行ってもよい。乾燥温度は、基材の熱変形が起こらない温度範囲で選択され、素材温度が100℃以下であることが好ましく、90℃以下であることがより好ましい。なお、乾燥時間は、通常、乾燥温度及び乾燥炉内の風速に依存し、エネルギー効率を考慮して適宜設定される。
【0064】
上記水性プライマー塗料組成物の乾燥膜厚は、好ましくは5〜30μmである。乾燥膜厚が5μm未満であると、薄すぎて連続な均一膜を得られない傾向がある。30μmを超えると、耐水性等が低下する傾向がある。
【0065】
上記水性プライマー塗料組成物の塗装工程で得られたプライマー塗膜上に、上塗り塗料を塗装する工程を行う。上塗り塗料としては特に限定されず、例えば、一液メラミン焼付塗料、二液ウレタン塗料、一液ラッカー塗料等が挙げられる。上記上塗り塗料の塗装方法は特に限定されず、水性プライマー塗料組成物と同様の方法で塗装することができる。
【発明の効果】
【0066】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、上述した構成を有しているため、得られた複層塗膜において、密着性と耐ガソホール性を両立すること、高圧洗浄による洗車時において、得られた複層塗膜の剥離を抑制すること及び耐湿性を両立すること、が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0067】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。
【0068】
製造例1 ポリプロピレンAP−1の製造
1000ml丸底フラスコに、脱塩水110ml、硫酸マグネシウム・7水和物22.2g及び硫酸18.2gを採取し、攪拌下に溶解させた。この溶液に、市販の造粒モンモリロナイト16.7gを分散させ、100℃まで昇温し、2時間攪拌を行った。その後、室温まで冷却し、得られたスラリーを濾過してウェットケーキを回収した。回収したケーキを1000ml丸底フラスコにて、脱塩水500mlにて再度スラリー化し、濾過を行った。この操作を2回繰り返した。最終的に得られたケーキを、窒素雰囲気下110℃で終夜乾燥し、化学処理モンモリロナイト13.3gを得た。
【0069】
得られた化学処理モンモリロナイト4.4gに、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(0.4mmol/ml)20mlを加え、室温で1時間攪拌した。この懸濁液にトルエン80mlを加え、攪拌後、上澄みを除いた。この操作を2回繰り返した後、トルエンを加えて、粘土スラリー(スラリー濃度=99mg粘土/ml)を得た。
【0070】
別のフラスコに、トリイソブチルアルミニウム0.2mmolを採取し、ここで得られた粘土スラリー19ml及びジクロロ[ジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−5,6,7,8−テトラヒドロ−1−アズレニル)ハフニウム131mg(57μmol)のトルエン希釈液を加え、室温で10分間攪拌し、触媒スラリーを得た。
【0071】
次いで、内容積24リッターの誘導攪拌式オートクレーブ内に、トルエン11L、トリイソブチルアルミニウム3.5mmol及び液体プロピレン2.64Lを導入した。室温で、上記触媒スラリーを全量導入し、67℃まで昇温し重合時の全圧を0.65MPa、水素濃度を400ppmで一定に保持しながら、同温度で2時間攪拌を継続した。攪拌終了後、未反応プロピレンをパージして重合を停止した。オートクレーブを開放してポリマーのトルエン溶液を全量回収し、溶媒並びに粘土残渣を除去したところ10.9質量%のポリプロピレントルエン溶液を11kg(1.20kgポリプロピレン)得た。得られたポリプロピレンAP−1の重量平均分子量Mwは300000(Pst換算値)、PP部の結晶化度は45%であった。
【0072】
製造例2 ポリプロピレンAP−2〜AP−6の製造
重合条件を表1に示したように変更した以外は、製造例1と同様にしてポリプロピレンAP−2〜6を製造した。
【0073】
製造例3 無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPM−1の製造
還流冷却管、温度計、攪拌機の付いたガラスフラスコ中に、製造例1で得られたポリプロピレンAP−1400gとトルエン600gとを入れ、容器内を窒素ガスで置換し、110℃に昇温した。昇温後無水マレイン酸100gを加え、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカルボナート(日本油脂社製、パーブチルI(PBI))30gを加え、7時間同温度で攪拌を続けて反応を行った。反応終了後、系を室温付近まで冷却し、アセトンを加えて、沈殿したポリマーを濾別した。更に、アセトンで沈殿・濾別を繰り返し、最終的に得られたポリマーをアセトンで洗浄した。洗浄後に得られたポリマーを減圧乾燥することにより、白色粉末状の無水マレイン酸変性ポリマーAPM−1が得られた。この変性ポリマーの赤外線吸収スペクトル測定を行った結果、無水マレイン酸基の含量(グラフト率)は、3.7質量%(0.37mmol/g)であった。また重量平均分子量は140000であった。
【0074】
製造例4 無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPM−2〜APM−7の製造
使用するポリプロピレン、配合を表2に示したように変更した以外は、製造例3と同様にして無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPM−2〜APM−7を製造した。
【0075】
製造例5 水性無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPMW−1の製造
還流冷却管、温度計、攪拌機の付いたガラスフラスコ中に、製造例3で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPM−1(重量平均分子量140000、無水マレイン酸グラフト率3.7%)100g及びテトラヒドロフラン150gとを入れ、65℃に加熱して溶解させた。次いでジメチルエタノールアミン5.8g(2化学当量)加え、温度を65℃に保ちながら、60℃のイオン交換水400gを滴下し、転相させた後、酸化防止剤としてハイドロキノン0.1gを加え、ゆっくり温度を上げてテトラヒドロフランを留去し、乳白色の分散体を得た。この分散体の固形分をイオン交換水を加えて20質量%に調整した。この水分散体の粒径は0.1μm以下であった。
【0076】
製造例6 水性無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPMW−2〜7の製造
配合量を表3に示したように変更した以外は、製造例5と同様にして水性無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPMW−2〜7を製造した。
【0077】
製造例7 水性無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPMW−8の製造
攪拌羽根、温度計、滴下装置、温度制御装置及び冷却管を付けた反応装置に、製造例3で得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレンAPM−1 100g、トルエン250gを加え、100℃に昇温して溶解し、70℃まで冷却した。その後、ノニオン性界面活性剤エマルゲン220(花王社製、HLB=14.2、固形分100%)15g及びノニオン性界面活性剤エマルゲン147(花王社製、HLB=16.3、固形分100%)15gを加えて溶解し、50℃まで冷却した。温度を50℃に保ったまま、イオン交換水520gを少しずつ加えて、転相乳化した。その後、室温まで冷却して2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールを加えてpH=8に調整した後、減圧下で脱トルエン操作を行い、若干のイオン交換水で調整し、固形分20%(AMP固形分15.4%、乳化剤固形分4.6%)のポリプロピレン水分散体を得た。ポリプロピレン水分散体の平均粒径は0.38μmであった。
【0078】
実施例1 塗料の製造
攪拌機の付いた適当な容器に、スーパーフレックス150(第一工業製薬社製、水性ポリウレタン樹脂)12.03部、エピレッツ5003W55(ジャパンエポキシレジン社製、水性エポキシ樹脂)7.47部、上記で得られたAPMW−1 25.27部、内部架橋アクリル粒子エマルション6.02部、顔料ペースト27.77部、脱イオン水19.28部、消泡剤のダイノール604(エアプロダクツ社製)0.72部、増粘剤のASE−60(ロームアンドハース社製)1.44部、ジメチルエタノールアミン(キシダ化学社製)0.01部を順に滴下し、1時間攪拌後目的の塗料を得た。
【0079】
実施例2〜13及び比較例1〜10
表4〜5に示した塗料配合で原料を配合した以外は、実施例1と同様にして塗料を製造した。
【0080】
なお、上記で使用した顔料分散ペースト、内部架橋アクリル粒子エマルションは、以下の方法で製造した。
(顔料分散ペーストの製造)
攪拌機の付いた適当な容器に、水性アクリル樹脂(固形分酸価:50mgKOH/g、重量平均分子量:30000、不揮発分:30質量%)11.75部、サーフィノールT324(エアープロダクツ社製顔料分散剤)2.07部、サーフォノール440(エアープロダクツ社製消泡剤)1.61部、脱イオン水38.5部、カーボンブラックECP600JD(ライオン社製導電カーボン)2.54部、タイピュア−R960(デュポン社製酸化チタン顔料)37.64部、ニプシール50B(ニホンシリカ社製のシリカ)5.89部を順に攪拌下で添加し、1時間攪拌後、ラボ用1.4リットルのダイノミルにてグライドゲージで20μ以下になるまで分散を行い、顔料分散ペーストを得た。
この顔料分散ペーストは不揮発分52質量%で粘度は60KU(20℃)であった。
【0081】
(内部架橋アクリル粒子エマルションAC−1〜6の製造)
脱イオン水220部にペレックス−SSH(花王社製、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム)5.0部を加えた溶液に、表6に示した配合のエチレン不飽和単量体混合物100部をゆっくり加え、乳化物を作成した。
次に、冷却器、温度計及び攪拌器を備えたガラスフラスコに、脱イオン水100部を入れ、80℃に加熱した。その後、上記乳化物及び脱イオン水15.0部と過硫酸アンモニウム0.03部からなる開始剤水溶液を3時間かけて滴下し目的の架橋アクリル粒子エマルションを得た。また、各エマルションの架橋性単量体を除いたアクリルのガラス転移温度(Tg)は表6に示した通りであった。
【0082】
〔評価〕
得られた塗料を、中性洗剤で洗浄したポリプロピレン素材(大きさ:70mm×260mm×3mm)にスプレー塗装(乾燥膜厚10μm)し、80℃で10分乾燥した。冷却後、溶剤系2液メタリックベース塗料(日本ビー・ケミカル株式会社製)を乾燥膜厚15μm、続いて、溶剤系2液クリアー(日本ビー・ケミカル株式会社製)を乾燥膜厚30μmになるようにスプレー塗装し、80℃で30分乾燥してテストピースを作製した。
得られたテストピースについて、以下の方法により、碁盤目剥離試験、耐湿試験、耐ガソホール試験、高圧洗車性試験を行った。結果を表4〜5に示した。
【0083】
(碁盤目剥離試験)
JIS K5400に準拠して、碁盤目セロテープ(登録商標)剥離試験を行った。2mm角の100個の碁盤目を用意し、セロハンテープ剥離試験を行い、剥がれなかった碁盤目数を数えた。評価基準は以下の通りである。
○:0/100(剥離なし)
△:1/100〜50/100(50%以下剥離)
×:51/100〜100/100(51%以上剥離)
【0084】
(耐ガソホール性試験)
塗装後のポリオレフィン基材片(3cm×3cm)を、レギュラーガソリンにエタノールを10容量%添加して得られるガソホールに浸漬した後、塗膜の剥離が端部が2mmに達するまでの時間を測定し、30分以上を○、それ未満を×とした。
【0085】
(耐湿性試験)
塗装後のポリオレフィン基材を50℃、湿度98%の雰囲気下で10日間放置した後、上記碁盤目剥離試験及び外観評価を行った。上記耐湿試験で行った外観評価の評価基準は以下の通りである。
○:初期(耐湿試験前)と比較して異常がない場合
△:初期(耐湿試験前)と比較して塗膜に少しの膨れや艶引けが見られる場合
×:初期(耐湿試験前)と比較して塗膜に膨れや艶引けがある場合
【0086】
(高圧洗車性試験)
塗装後のポリオレフィン素材において、カッターナイフにより素材に達する切れ目を7cmの長さで入れ、このポリオレフィン素材を水平に置いて固定し、20℃、水圧70kg/cmの高圧水を、プライマー塗膜面から30度の角度で、20cmの距離から30秒間噴射した。ポリオレフィン素材からプライマー塗膜が浮き上がった長さを測定し、浮き上がりが全く生じなかったものを○、極小の浮き上がりが生じたもの(1mm以上2mm未満)を〇△、少し浮き上がりが生じたもの(2mm以上5mm未満)を△、浮き上がりが5mm以上生じたものを×とした。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
【表3】

【0090】
【表4】

【0091】
【表5】

【0092】
【表6】

【0093】
表4から、実施例で得られたテストピースは、すべての性能に優れていた。よって、密着性及び耐ガソホール性の両立、高圧洗車性及び耐湿性の両立が可能であることが明らかとなった。一方、表5から、比較例では、すべての性能を満たすものは得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の水性プライマー塗料組成物は、種々のプラスチック基材及びこれらの成形品等に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】樹脂の融点測定方法を示した概略図である。
【図2】樹脂のTg測定方法を示した概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性非塩素化ポリオレフィン系樹脂(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、水性エポキシ樹脂(C)及び内部架橋アクリル粒子エマルション(D)を含む水性プライマー塗料組成物であって、
前記(A)、(B)、(C)及び(D)の合計量100質量%中、固形分換算で、
前記(A)の含有量が15〜60質量%、
前記(B)の含有量が10〜50質量%、
前記(C)の含有量が20〜50質量%、
前記(D)の含有量が5〜20質量%であり、
前記(A)は、その結晶化度が35〜55%で、かつ、重量平均分子量が50000〜200000である水性ポリプロピレン系樹脂である
ことを特徴とする水性プライマー塗料組成物。
【請求項2】
樹脂(A)は、メタロセン触媒を用いて得られたものである請求項1記載の水性プライマー塗料組成物。
【請求項3】
樹脂(A)は、乳化剤を使用することなく水性化させた水性ポリプロピレン系樹脂である請求項1又は2記載の水性プライマー塗料組成物。
【請求項4】
エマルション(D)は、エチレン性不飽和単量体及び架橋性単量体からなるモノマー組成物を乳化重合することによって得られるものであり、
前記エチレン性不飽和単量体を重合して得られる非架橋ポリマーのガラス転移温度が50〜140℃で、かつ、
前記架橋性単量体の含有量が前記モノマー組成物100質量%中0.1〜50質量%である請求項1、2又は3記載の水性プライマー塗料組成物。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の水性プライマー塗料組成物を基材に塗装する工程及び上塗り塗料を塗装する工程を含むことを特徴とする塗膜形成方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−56914(P2008−56914A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196263(P2007−196263)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【Fターム(参考)】