説明

水性二液ウレタン塗料の供給方法

【課題】 水性二液ウレタン塗装において塗装を中断している間に主剤と硬化剤が硬化するのを防止する。
【解決手段】 主剤と硬化剤を交互に共用供給路11に投入し、スタティックミキサ13(混合装置)で混合して得られた水性二液ウレタン塗料を塗装ガン14に供給する。塗装を中断するときは、主剤を共用供給路11に投入し終えた時点で、塗装ガン14に対する塗料の供給を停止する。塗料の供給停止状態では、停止直前に共用供給路11に最後に投入されたのが主剤であることから、共用供給路11内は主剤によって占められ、少量の主剤と大量の硬化剤が接触したまで停滞することがなく、主剤と硬化剤が短時間で硬化することが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性二液ウレタン塗料の供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主剤と硬化剤からなる塗料を塗装ガンに供給する手段として、この液剤を二液混合装置へ交互に供給し、その二液混合装置内で2つの液剤を混合することによって得られた多液塗料を塗装ガン側へ送り出す方法が開示されている。
従来、この種の塗料としては油性の二液ウレタン塗料が用いられ、主剤の硬化剤を混合する手段として、主剤と硬化剤を交互に供給しつつ撹拌するスタティックミキサが用いられていた。
【特許文献1】特開2004−141800公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年は自然環境保護を考慮して、水性の二液ウレタン塗料の使用量が増えつつあるが、水性の二液ウレタン塗料の混合手段としてスタティックミキサを用いると、次のような不具合が生じる。
水性二液ウレタン塗料は、主剤と硬化剤が適切な混合比で混合されたときには比較的長時間(数時間)に亘って液体状を維持するが、主剤の量が少なくて硬化剤の量が多い状態で両剤が接触すると、短時間(例えば、20分程度)で急速に硬化するという特性がある。そのため、スタティックミキサ内における上流端、即ち撹拌度が低い領域においては、塗装を中断したときに大量の硬化剤と少量の主剤が接触したままで停滞し、塗装中断の間に硬化してしまう。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、水性二液ウレタン塗装において塗装を中断している間に主剤と硬化剤が硬化するのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、主剤と硬化剤を所定量ずつ交互に共用供給路に投入し、前記共用供給路の下流端に設けた混合装置により主剤と硬化剤を混合して得られた水性二液ウレタン塗料を塗装ガンに供給する方法であって、塗装を中断する際には、主剤を前記共用供給路に投入し終えた時点で、前記塗装ガンに対する水性二液ウレタン塗料の供給を停止するところに特徴を有する。
【0005】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、1投入サイクルで前記共用供給路に投入する主剤の量を、前記共用供給路の容積とほぼ同じ量かそれよりも多い量とするところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0006】
<請求項1の発明>
塗装ガンに対する水性二液ウレタン塗料の供給を停止している状態では、停止直前に共用供給路に対して最後に投入されたのが主剤であることから、共用供給路内は殆ど主剤によって占められる。したがって、共有供給路内において少量の主剤と大量の硬化剤が接触したまで停滞することがなく、主剤と硬化剤が短時間で硬化してしまうことを防止することができる。
【0007】
<請求項2の発明>
1回に共用供給路に投入する主剤の量を、共用供給路の容積とほぼ同じ量かそれよりも多い量としたので、塗装を中断した状態では、共用供給路内における硬化剤の残留量が殆どゼロとなり、主剤との硬化剤の硬化をより確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1乃至図3を参照して説明する。本実施形態の塗料供給装置は、主剤と硬化剤を混合して得られた水性二液ウレタン塗料を塗装ガン14に供給するものであり、主剤専用の主剤用供給路10Aの下流端と硬化剤専用の硬化剤用供給路10Bの下流端が、共用供給路11の上流端に設けた切替装置12に接続され、共用供給路11の下流端に主剤と硬化剤を混合するためのスタティックミキサ13(本発明の構成要件である混合装置)が設けられ、スタティックミキサ13の下流側に塗装ガン14が接続されている。
【0009】
主剤用供給路10Aの上流端には、必要に応じて主剤と洗浄剤のいずれかを圧送するための周知構造の主剤用圧送装置15Aが接続され、主剤用供給路10Aの途中には、流量計16Aが設けられている。硬化剤用供給路10Bの上流端には、必要に応じて硬化剤と洗浄剤のいずれかを圧送するための周知構造の硬化剤用圧送装置15Bが接続され、硬化剤用供給路10Bの途中には、流量計16Bが設けられている。塗装を行う際には、主剤と硬化剤が所定の比率で交互に共用供給路11に投入され、投入された主剤と硬化剤がスタティックミキサ13内を移動する間に撹拌されて水性二液ウレタン塗料となる。
【0010】
次に、切替装置12について説明する。
切替装置12は、硬化剤用供給路10Bを共用供給路11に連通させる状態と、硬化剤用供給路10Bを共用供給路11から遮断する状態とを切り替えるためのものであって、水性二液ウレタン塗料の硬化剤であるイソシアネートが水分との接触によって硬化するという特性を考慮し、硬化剤が外気中の水分と接触することを回避できるようになっている。
【0011】
切替装置12は、主剤用供給路10Aを通して供給される主剤と硬化剤用供給路10Bを通して供給される硬化剤を合流させるためのものであって、開閉弁機構21とシリンダ機構34とから構成される。
まず、開閉弁機構21について説明する。
複数の部材からなるブロック体22内の下端部には、共用流入室23と硬化剤流入室24が上下に並んで且つ互いに連通して形成されている。ブロック体22の外周面には、筒状の主剤投入ポート25と同じく筒状の硬化剤投入ポート26が取り付けられ、主剤投入ポート25の中心の主剤投入孔25aが共用流入室23の上端部に連通され、硬化剤投入ポート26の中心の硬化剤投入孔26aが硬化剤流入室24の下端部に連通されている。各投入孔内25a,26aには、ブロック体22の外部から内部への流体の移動は許容するが、ブロック体22の内部(共用流入室23及び硬化剤流入室24)からブロック体22の外部への流体の移動を規制する逆止弁25b,26bが設けられている。また、ブロック体22の外周面には、筒状の流出ポート27が、その中心の流出孔27aを共用流入室23の下端部に連通させた状態で取り付けられている。この流出孔27aには、共用供給路11が接続されている。
【0012】
ブロック体22の内部には、共用流入室23の上端に連通する取付孔28が形成され、取付孔28内には、軸線を上下方向(共用流入室23と硬化剤流入室24の並び方向と平行な方向)に向けた筒状の支持体29と、同じく軸線を上下方向に向けたパッキン30が、上下に並んで取り付けられている。そして、支持体29の中心孔29aとパッキン30の中心孔30aには、軸線を上下方向に向けた円形断面のロッド31が上下方向の移動を可能に貫通されている。ロッド31の外周面にパッキン30が密着することにより、共用流入室23内の流体(主剤及び硬化剤)が支持体29側へ漏出することが規制されている。
【0013】
共用流入室23の下端と硬化剤流入室24の上端の境界には、テーパ状の弁シート32が形成されている。また、上記したロッド31の下端部は、硬化剤流入室24内に突出しており、このロッド31の下端部には、弁シート32に対して当接・離間可能とされた弁体33が固着されている。弁体33が上方へ移動して弁シート32に当接した閉弁状態では、硬化剤流入室24と共用流入室23との間における流体の流通が遮断され、弁体33が下方へ移動して弁シート32から離間した開弁状態では、硬化剤流入室24から共用流入室23への流体の流通が許容される。
【0014】
次に、シリンダ機構34について説明する。
ブロック体22内の上端部には、ピストン35によって上下に仕切られた第1加圧室36Aた第2加圧室36Bが形成され、上記したロッド31の上端部がピストン35に固着されている。第1加圧室36Aには第1流体ポート37Aが接続され、第2加圧室36Bには、第2流体ポート37Bが接続されている。第1流体ポート37Aから第1加圧室36Aに空気が供給されるとともに、第2加圧室36B内の空気が第2流体ポート37Bから外部へ排出されると、ピストン35とロッド31が下降して、弁体33が弁シート32から離間する開弁状態となる。また、第2流体ポート37Bから第2加圧室36Bに空気が供給されるとともに、第1加圧室36A内の空気が第1流体ポート37Aから外部へ排出されると、ピストン35とロッド31が上昇して、弁体33が弁シート32に当接する閉弁状態となる。
【0015】
さて、塗装を行う際には、図3に示すように、主剤と硬化剤を所定量ずつ交互に切替装置12に投入する。主剤が投入されるときには、開閉弁機構21が閉弁状態となって硬化剤流入室24と共用流入室23とが遮断され、硬化剤流入室24内の硬化剤が共用流入室23内へ流れ込むのが規制される。この状態で、主剤が主剤投入孔25a、共用流入室23、流出孔27aを順に通って共用供給路11に流れ込む。硬化剤が投入されるときには、開閉弁機構21が開弁状態となり、硬化剤が、硬化剤投入孔26a、硬化剤流入室24、共用流入室23、流出孔27aを順に通って共用供給路11に流れ込む。また、硬化剤が共用流入室23に投入されたとき、共用流入室23内の液体が主剤用供給路10A側へ流れ込みむことは、主剤投入ポート25の逆止弁25bによって阻止される。
【0016】
そして、切替装置12に交互に投入された主剤と硬化剤は、共用供給路11内を移動してスタティックミキサ13内に送り込まれ、スタティックミキサ13内を通過する間に撹拌、混合されることにより、水性二液ウレタン塗料となる。この水性二液ウレタン塗料は、塗装ガン14へ圧送されて図示しない被塗物に向けて吐出される。
【0017】
さて、塗装を一時的に停止する際には、切替装置12に対し1サイクルの投入量の主剤が投入され終わった時点で、塗装ガン14に対する水性二液ウレタン塗料の供給、即ち塗装ガン14からの水性二液ウレタン塗料の吐出を停止する。この塗装停止状態では、共用流入室23内及び共用供給路11内が殆ど全て主剤によって占められるので、少量の主剤と大量の硬化剤が接触したまで停滞することがない。
そして、塗装を再開する際には、硬化剤の投入を開始する。この硬化剤の投入に伴い、スタティックミキサ13から塗装ガン14に対して水性二液ウレタン塗料の供給が再開されるとともに、塗装ガン14からの水性二液ウレタン塗料の吐出が再開される。
【0018】
また、上記の切替装置12において、取付孔28と第2加圧室36Bとの間に形成されている中間室38内には空気が存在し、この中間室38には、下端部を硬化剤流入室24内に突出させているロッド31が貫通している。つまり、ロッド31は、硬化剤が流通する空間(共用流入室23及び硬化剤流入室24)と、空気が存在する空間(中間室38及び第2加圧室36B)との間を貫通している。ここで、硬化剤であるイソシアネートが水分との接触によって硬化するという特性に鑑みると、ロッド31の貫通部分、即ちロッド31の摺動部分(パッキン30の中心孔の内周とロッド31の外周との隙間)において、硬化剤が水分との接触により硬化し、それが原因となってロッド31の摺動に支障を来すことが懸念される。しかし、本実施形態では、硬化剤流入室24とパッキン30(ロッド31の摺動部)との間に共用供給路11を介在させているので、パッキン30の中心孔30aとロッド31との隙間の空気が硬化剤流入室24内の硬化剤と接触する虞はない。
【0019】
また、硬化剤流入室24から流出孔27aに至る硬化剤の流路とパッキン30との間には、主剤用流入室から流出孔27aに至る主剤の流路が形成されているので、共用流入室23内が一時的に硬化剤で満たされたとしても、硬化剤の投入完了後、速やかに主剤が投入されることにより、共用流入室23内に硬化剤が残留することがなく、硬化剤と空気との接触が防止される。
【0020】
上述のように本実施形態においては、塗装を中断する際に、主剤を共用供給路11に投入し終えた時点で、塗装ガン14に対する水性二液ウレタン塗料の供給を停止するようにしている。つまり、塗装ガン14に対する水性二液ウレタン塗料の供給を停止している状態では、停止直前に共用供給路11に対して最後に投入されたのが主剤であることから、共用供給路11内は殆ど主剤によって占められる。したがって、共用供給路11内において少量の主剤と大量の硬化剤が接触したまで停滞することがなく、少量の主剤と大量の硬化剤が接触することに起因して短時間の間に硬化してしまうことを防止することができる。
【0021】
また、本実施形態では、1投入サイクルで共用供給路11に投入する主剤の量を、共用供給路11の容積とほぼ同じ量かそれよりも多い量とした。したがって、塗装を中断した状態では、共用流入室23内及び共用供給路11内における硬化剤の残留量が殆どゼロとなり、主剤との硬化剤の硬化をより確実に防止することができる。
【0022】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施態様も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
(1)上記実施形態では共用供給路の下流端に設ける混合装置をスタティックミキサとしたが、本発明によれば、スタティックミキサに代えて、水性二液ウレタン塗料の供給が停止している状態でも主剤と硬化剤を撹拌できる撹拌装置を設けても良い。
く、この撹拌装置をスタティックミキサよりも上流側に設けてもよい。
【0023】
(2)上記実施形態では混合装置をスタティックミキサのみとしたが、本発明によれば、スタティックミキサの上流側に、水性二液ウレタン塗料の供給が停止している状態でも主剤と硬化剤を撹拌できる撹拌装置を設けても良い。
(3)上記実施形態では、1投入サイクルで共用供給路に投入する主剤の量を、共用供給路の容積と同じ量かそれよりも多い量としたが、本発明によれば、1投入サイクルで前記共用供給路に投入する主剤の量を、共用供給路の容積よりも少ない量としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態1の全体構成図
【図2】主剤と硬化剤の投入を切り替えるための切替装置の断面図
【図3】主剤と硬化剤の投入サイクルをあらわすグラフ
【符号の説明】
【0025】
11…共用供給路
13…スタティックミキサ(混合装置)
14…塗装ガン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主剤と硬化剤を所定量ずつ交互に共用供給路に投入し、
前記共用供給路の下流端に設けた混合装置により主剤と硬化剤を混合して得られた水性二液ウレタン塗料を塗装ガンに供給する方法であって、
塗装を中断する際には、主剤を前記共用供給路に投入し終えた時点で、前記塗装ガンに対する水性二液ウレタン塗料の供給を停止することを特徴とする水性二液ウレタン塗料の供給方法。
【請求項2】
1投入サイクルで前記共用供給路に投入する主剤の量を、前記共用供給路の容積とほぼ同じ量かそれよりも多い量とすることを特徴とする請求項1記載の水性二液ウレタン塗料の供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−44631(P2007−44631A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232424(P2005−232424)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(000117009)旭サナック株式会社 (194)
【Fターム(参考)】