説明

水性塗料廃液の処理方法

【課題】水性塗料を含む廃液を、大型設備を導入することなく、簡便に、短時間かつ低コストで処理することができ、環境への負荷も低減することができる水性塗料廃液の処理方法を提供する。
【解決手段】水性塗料を含む廃液に、有機溶媒及び酸を添加して酸性にした後、分液する工程と、前記工程で得られた水層に、前記有機溶媒及び活性炭を添加した後、ろ過及び分液する工程と、前記工程により得られた水層に、アルカリを添加して中和する工程とを備えた処理方法において、前記有機溶媒として、炭化水素系、エーテル系及びエステル系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒と、ケトン系及びハロゲン系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒との混合溶媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車塗装の材料として使用される水性塗料の廃液を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車製造等の塗装工程においては、従来、有機溶剤を使用した塗料が用いられてきた。
しかしながら、環境保全の観点から、揮発性有機化合物(VOC)の排出削減が求められるようになり、近年、有機溶剤を使用しない、あるいはまた、有機溶媒の使用量を大幅に減らして水で代替した、水性塗料を使用することが一般的になってきている。
【0003】
水性塗料を使用した自動車ボディーの塗装においては、品質の一定化のために、ロボットによる自動塗装が行われている。このロボット塗装における塗料の色替えの際には、ロボット配管内等の系内から残存塗料を洗浄除去した後、新たな色の塗料を導入しなければならない。
従来は、前記洗浄除去は、系内に純水を送入し、残存塗料を溶解して排出することにより行われており、排出された廃液は、塗装ブース内から回収後、そのまま焼却処分されていた。
【0004】
なお、上記のような焼却処分以外の有機性廃水の処理方法としては、例えば、廃水中に含まれる油脂等のヘキサン抽出物質を酵母に吸着させて処理する方法(特許文献1参照)や、微生物を用いて分解処理する方法(特許文献2参照)等も知られている。
また、特許文献3には、アルカリを混合することにより水性塗料の廃液を処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−200191号公報
【特許文献2】特開平8−197086号公報
【特許文献3】特開2006−231269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、水性塗料を含む廃液を焼却処分する場合、該廃液中には不燃性の水が多量に含まれているため、大量の燃焼材中に廃液を少量ずつ混合させ、高温で燃焼させなければならず、焼却効率に劣り、また、CO2排出量等の点で環境に対する負荷も大きいものであった。しかも、処理コストは、有機溶剤系の塗料に比べて高額であるという課題も有していた。
【0007】
そこで、本発明者は、前記水性塗料廃液を低コストかつ効率的に処理すべく、水性塗料廃液から廃水のみを分離浄化し、一般の工場廃水として廃棄するための処理方法について検討を重ねた結果、上記特許文献1〜3に記載されている処理方法とは異なる抽出方法による処理方法を見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、水性塗料を含む廃液を、大型設備を導入することなく、簡便に、短時間かつ低コストで処理することができ、環境への負荷も低減することができる水性塗料廃液の処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る水性塗料廃液の処理方法は、水性塗料を含む廃液に、有機溶媒及び酸を添加して酸性にした後、分液する工程と、前記工程で得られた水層に、前記有機溶媒及び活性炭を添加した後、ろ過及び分液する工程と、前記工程により得られた水層に、アルカリを添加して中和する工程とを備え、前記有機溶媒として、炭化水素系、エーテル系及びエステル系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒と、ケトン系及びハロゲン系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒との混合溶媒を用いることを特徴とする。
このような方法によれば、効率的に抽出処理を行うことができ、連続操作が可能であり、しかも、抽出溶媒のコスト削減を図ることができ、短時間かつ低コストで廃液を処理することができる。
【0010】
上記処理方法においては、抽出効率や操作性の観点から、前記有機溶媒として、エステル系/ケトン系の混合溶媒を用いることが好ましい。また、前記エステル系/ケトン系の混合溶媒は、エステル系/ケトン系の混合比が1以上であることが好ましい。
【0011】
前記エステル系/ケトン系の混合溶媒は、特に、酢酸イソブチル/メチルイソブチルケトン(以下、MIBKという)の混合溶媒であることが好ましい。
このような混合溶媒を用いることにより、後工程でのろ過性を向上させることができ、処理工程において新たに水を添加することなく、廃液の浄化処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る水性塗料廃液の処理方法によれば、抽出工程の改善により、大型設備を導入することなく、簡便に、処理時間の短縮を図ることができ、かつ、低コストで、廃水を浄化することができる。
また、本発明によれば、廃液を焼却処分する際のコスト削減及びCO2排出量の抑制も図ることができ、環境に対する負荷を軽減することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る廃液処理の概要を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る水性塗料の廃液処理方法の処理工程の概要を図1に示す。
図1に示すように、本発明に係る処理方法は、水性塗料を含む廃液に、有機溶媒及び酸を添加して酸性にした後、分液する工程(第1工程)と、前記工程で得られた水層に、前記有機溶媒及び活性炭を添加した後、ろ過及び分液する工程(第2工程)と、前記工程により得られた水層に、アルカリを添加して中和する工程(第3工程)とを経るものである。
そして、前記第1及び第2工程において用いられる有機溶媒が、炭化水素系、エーテル系及びエステル系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒と、ケトン系及びハロゲン系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒との混合溶媒であることを特徴とする。
【0015】
上記のように、本発明に係る処理方法は、廃液を含む系を酸性にした後、所定の有機溶媒での抽出工程を経て、最後に中和して、廃水を浄化することを特徴とするものである。
【0016】
以下、本発明に係る処理方法を、各工程順に詳細に説明する。
まず、第1工程においては、廃液に、有機溶媒及び酸を添加して酸性にする。
ここでいう廃液は、水性塗料が含まれているものでよく、前記水性塗料は、特に、自動車塗装用の水性塗料に限定されるものではない。
前記有機溶媒の添加量は、廃液500gに対して10〜5000gであることが好ましく、50〜1000gであることがより好ましい。
前記添加量が10gより少ない場合、有機溶媒が廃液に溶解するおそれがある。一方、前記添加量が5000gを超えると、廃液中の水が有機溶媒中に多く溶解し、有機廃液(有機層)の処理が困難になり、廃液処理のコストアップにつながるおそれがある。
【0017】
前記有機溶媒は、混合溶媒として用いることが好ましく、トルエン、キシレン等の炭化水素系、テトラヒドロフラン(THF)、メチルターシャリーブチルエーテル(MTBE)等のエーテル系、酢酸エチル、酢酸イソプロピル等のエステル系の溶媒から選ばれた少なくとも1種と、MIBK、メチルエチルケトン(MEK)等のケトン系、クロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系、メタノール、エタノール等のアルコール系の溶媒から選ばれた少なくとも1種との混合溶媒を用いる。
ケトン系やハロゲン系、アルコール系の溶媒は、水との親和性が高く、水層と有機層とに2層分離せず、抽出操作が困難となるため、これらの溶媒と、上記のような炭化水素系やエーテル系、エステル系の溶媒との混合系として用いることが好ましい。
なお、例えば、炭化水素系のトルエンや、エステル系の酢酸イソブチルを単独で、前記有機溶媒として添加する場合は、抽出操作時に2層分離させるためには、酸だけでなく、廃液の1/5程度の量の水を添加する必要があり、浄化廃水の収率の低下や廃液処理のコストアップとなるため好ましくない。
【0018】
上記の混合系の中でも、エステル系/ケトン系の混合溶媒がより好ましく、また、特に、エステル系溶媒の中でも、コスト、環境の観点から、水性塗料に混合して用いられている酢酸イソブチル/ケトン系の混合溶媒が好ましい。
また、エステル系/ケトン系の混合溶媒を用いる場合は、上述したような溶媒特性に鑑みて、エステル系/ケトン系の混合比は、1以上であることが好ましい。
【0019】
また、添加する酸は、一般的な無機酸を用いることができ、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸等が挙げられる。酸の濃度は、安全性やpH調整の容易性等の観点から、希酸を用いることが好ましい。
前記酸は、廃液を酸性にするために添加されるものであり、廃液に有機溶媒を添加して、よく撹拌しながら、滴下していき、pH1〜6程度に調整することが好ましい。このように、廃液を酸性にすることにより、2層分離させることができる。
なお、酸の添加により、廃液の発熱が大きくなるおそれがある場合は、前記有機溶媒を添加した廃液を、0〜10℃程度に、予め冷却しておくことが好ましい。
【0020】
前記酸を滴下後、廃液中の樹脂塗料成分を十分に溶解し、2層分離を促進するため、廃液を加熱することが好ましい。
加熱温度は、30〜100℃が好ましく、40〜80℃であることがより好ましい。
前記加熱温度が低すぎる場合、2層分離しないおそれがあり、一方、高すぎると、有機溶媒が揮発しやすくなり好ましくない。
【0021】
上記のように加熱する場合、加熱時間は、20〜120分間が好ましく、30〜60分間とすることがより好ましい。
加熱時間が短すぎる場合、2層分離しないおそれがあり、一方、長すぎると、有機溶媒の揮発量が多くなり、作業性、安全性、環境負荷の点で好ましくない。
【0022】
上記のようにして、酸性化された廃液は、静置して2層分離させた後、分液し、回収した水層を、次の第2工程に供する。
なお、分液された有機層は、次の第2の工程で回収される有機層と併せて廃棄されるが、焼却の燃料として用いることができる。
【0023】
次に、第2工程では、前記第1工程で回収された水層に、有機溶媒及び活性炭を添加して、活性炭による吸着ろ過処理を行う。
前記有機溶媒及び活性炭を添加した水層は、よく撹拌し、前記水層中に残存している有機固形物の微粒子を活性炭に十分に吸着させる。
【0024】
ここで添加される有機溶媒は、前記第1工程で添加された有機溶媒と同様のものが用いられ、また、添加量も同等でよい。
このような有機溶媒を用いることにより、後のろ過工程におけるろ過時間が短縮され、ろ過性の向上を図ることができる。
【0025】
前記活性炭は、その種類や形状等は特に限定されるものではないが、例えば、粒径0.1〜100mm程度の破砕状、粒状、粉末状等の植物質、石炭質又は石油質等の原材料からなるものを用いることができる。
前記活性炭の添加量は、添加される水層の量に対して0.05〜50%であることが好ましく、0.5〜25%であることがより好ましい。
前記添加量が0.05%未満の場合、前記水層中に残存している有機固形物の微粒子が十分に吸着されないおそれがある。一方、前記添加量が50%を超える場合、それ以上の添加量に見合った吸着効果は得られず、コスト高になる。
【0026】
上記のようにして吸着処理を行った後の活性炭は、分別除去する。この分別除去は、ろ過により行うことができ、例えば、金網等の粗めのろ材を用いて2回程度ろ過した後、ろ紙を用いて1回ろ過する等の工程を経て行うことができる。
【0027】
ろ過後、回収したろ液を静置し、2層分離させた後、分液し、回収した水層を、次の第3工程に供する。
なお、分液された有機層は、先の第1工程で回収された有機層と併せて廃棄されるが、焼却の燃料として用いることができる。
【0028】
次の第3工程では、前記第2の工程で回収された水層に、アルカリを添加して中和する。
ここで添加するアルカリは、一般的な無機アルカリを用いることができ、特に限定されるものではなく、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ等が挙げられる。これらは、安全性やpH調整の容易性等の観点から、水溶液を用いることが好ましい。
上記のようにして、有機物が除去処理された廃水は、一次工場廃水として廃棄することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
水性塗料を含む廃液500gに、酢酸イソブチル/MIBK混合溶媒(混合比7/3)500gを混合し、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、2.0mol/L硝酸5.5gを滴下し、pH1とした後、50℃まで昇温した。30分間撹拌した後、放冷して2層分離させ、水層594.9gを得た。
この水層に、前記混合溶媒500gと活性炭25gを混合した。2時間撹拌後、200メッシュの金網で3.5時間かけて2回濾し、さらに、ろ紙で2.5時間かけてろ過した。静置後、水層を分液し、50%苛性ソーダ水0.09gにて中和し、水層(精製された廃水)236.9g(収率47.4%)を得た。
【0030】
[実施例2]
水性塗料を含む廃液500gに、酢酸イソブチル/MIBK混合溶媒(混合比9/1)500gを混合し、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、2.0mol/L硝酸4.1gを滴下し、pH1とした後、50℃まで昇温した。30分間撹拌した後、放冷して2層分離させ、水層(精製された廃水)616.2gを得た。
この水層に、前記混合溶媒500gと活性炭25gを混合した。2時間撹拌後、200メッシュの金網で5.5時間かけて2回濾し、さらに、ろ紙で10時間かけてろ過した。静置後、水層を分液し、50%苛性ソーダ水0.09gにて中和し、水層(精製された廃水)277.5g(収率55.5%)を得た。
【0031】
[比較例1]
水性塗料を含む廃液500gに、トルエン600gと水100gを混合し、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、2.0mol/L硝酸5.5gを滴下し、pH1とした後、50℃まで昇温した。30分間撹拌した後、放冷して2層分離させ、水層801.0gを得た。
この水層に、トルエン500gと活性炭25gを混合した。2時間撹拌後、200メッシュの金網で10時間かけて2回濾し、さらに、ろ紙で24時間かけてろ過した。静置後、水層を分液し、50%苛性ソーダ水0.42gにて中和し、水層(精製された廃水)264.8g(収率44.7%)を得た。
【0032】
[比較例2]
水性塗料を含む廃液500gに、酢酸イソブチル600gと水100gを混合し、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、2.0mol/L硝酸6.1gを滴下し、pH1とした後、50℃まで昇温した。30分間撹拌した後、放冷して2層分離させ、水層856.4gを得た。
この水層に、トルエン500gと活性炭25gを混合した。2時間撹拌後、200メッシュの金網で15時間かけて2回濾し、さらに、ろ紙で10時間かけてろ過した。静置後、水層を分液し、50%苛性ソーダ水0.35gにて中和し、水層(精製された廃水)144.7g(収率28.9%)を得た。
【0033】
[比較例3]
水性塗料を含む廃液500gに、MIBK600gと水100gを混合し、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、2.0mol/L硝酸6.2gを滴下し、pH1とした後、50℃まで昇温した。30分間撹拌した後、放冷したが、2層分離しなかった。
さらに、MIBK200gと活性炭25gを混合し、2時間撹拌した。静置後も、2層分離しなかった。
【0034】
上記実施例及び比較例の結果から、廃液に、酢酸イソブチル/MIBK混合溶媒を混合した場合(実施例1及び2)は、短いろ過時間で、高い収率で、浄化された廃水を得ることができることが認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性塗料を含む廃液に、有機溶媒及び酸を添加して酸性にした後、分液する工程と、前記工程で得られた水層に、前記有機溶媒及び活性炭を添加した後、ろ過及び分液する工程と、前記工程により得られた水層に、アルカリを添加して中和する工程とを備え、
前記有機溶媒として、炭化水素系、エーテル系及びエステル系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒と、ケトン系及びハロゲン系のうちの少なくともいずれか1種の溶媒との混合溶媒を用いることを特徴とする水性塗料廃液の処理方法。
【請求項2】
前記有機溶媒として、エステル系/ケトン系の混合溶媒を用いることを特徴とする請求項1記載の水性塗料廃液の処理方法。
【請求項3】
前記エステル系/ケトン系の混合溶媒は、エステル系/ケトン系の混合比が1以上であることを特徴とする請求項2記載の水性塗料廃液の処理方法。
【請求項4】
前記エステル系/ケトン系の混合溶媒が、酢酸イソブチル/メチルイソブチルケトンの混合溶媒であることを特徴とする請求項2又は3記載の水性塗料廃液の処理方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−50920(P2011−50920A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204447(P2009−204447)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】