説明

水性液の硝酸除去方法及び飲料の製造方法

【課題】 野菜搾汁液のような様々な成分を含有する水性液の風味や他の成分を損なうことなく硝酸イオンを選択的に除去可能な硝酸除去技術を提供する。
【解決手段】 硝酸イオンを含有する水性液に両性イオン交換体を用いたクロマトグラフィ処理を施して水性液の硝酸イオンを他の成分から分離することにより水性液から硝酸を除去する。植物組織の抽出物又は搾汁液を含む飲料原料を調製し、硝酸除去方法を用いて飲料原料から硝酸を除去し、これを用いて飲料が調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硝酸イオンを含む複数種の成分を含有する水性液から硝酸イオンを選択的に分離除去可能な水性液の硝酸除去方法及びこれを用いた飲料の製造方法に関する。より詳しくは、野菜搾汁等の植物由来成分を含有する水性液に適用して硝酸イオンを選択的に除去でき、硝酸を除去した飲料の簡易且つ経済的な製造を可能とする水性液の硝酸除去方法及びこれを適用した飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販されている容器詰野菜ジュースは、野菜の搾汁液やピューレを利用して製造され、その栄養性から健康飲料としての認知が高いが、配合等に工夫がなされ、おいしい風味を実現するに至って、多くの人々に愛飲されている。ジュースは、栄養摂取を容易にする面で優れているが、もし有害成分が含まれていれば、その成分もまた多量に摂取することになる。
【0003】
硝酸イオンは、体内で発ガン性物質である亜硝酸やニトロソアミンの生成に関与することが危惧されている成分であり、硝酸イオンの摂取は健康上好ましくない。このため、飲料水ではその含有濃度に制限値が設けられている。硝酸イオンは、青果では野菜にも含有されており、国によっては制限値、目標値などが設定されている。野菜ジュースには、野菜を起源とする硝酸イオンが含まれる可能性があり、野菜ジュースの摂取によって硝酸イオンを多量に摂取するのを防止する必要性が出てきた。従って、野菜搾液やピューレを用いた飲料等についても硝酸イオンの含有濃度の制限規定を設ける必要が論議され、飲料製造において硝酸イオンを低減する処理を施す検討が進められつつある。
【0004】
野菜ジュースによる硝酸摂取を防止するためには、原料となる野菜の硝酸値を栽培段階で低減する方法と、野菜から得られる搾汁液から硝酸を除去する方法が考えられるが、搾汁液から硝酸を除去する方法は、野菜の流通状況等に影響されることなく確実に実施できる点で好ましく、これを実施する技術の確立が望ましい。
【0005】
硝酸イオンを除去する方法としては、陰イオン交換樹脂を用いる方法が知られている。例えば、下記特許文献1では、無機陰イオンに対する対イオンとして有機酸を予め植物汁中に共存させて結合させてから、陰イオン交換樹脂で処理している。又、下記特許文献2では、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いて人参ジュースから硝酸を除去している。下記特許文献3も、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いており、野菜汁を処理した後の陰イオン交換樹脂は、水酸化ナトリウム水溶液による再生処理を行い、塩化ナトリウム水溶液を通液させている。
【0006】
又、下記特許文献4では、稲科植物の緑葉の搾汁液をOH型陰イオン交換樹脂を用いて処理することにより塩素及び硝酸を低減させている。
【特許文献1】特開2000−354475号公報
【特許文献2】特開昭59−31678号公報
【特許文献3】特開平11−290041号公報
【特許文献4】特開平5−7471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1、3及び4の方法では、対イオンが必要であり、処理コストが高くなる。特許文献2では対イオンについては不明であるが、他の文献と同様に必要と考えられる。又、特許文献2〜4の場合には、液中の陰イオンが塩素に置換されたり、脱塩されるなどによって風味が変化するため、処理後に風味を再調整する必要が生じる。更に、何れの特許文献の方法においても、イオン交換樹脂の再生処理が必要であるので、ランニングコストが高くなると共に全体操作が複雑になり、硝酸の除去に充当できる時間が制限される。
【0008】
本発明は、特別に成分を添加することなく、硝酸イオン以外の成分の組成をできる限り維持しつつ、高濃度の硝酸イオンの除去低減を可能とする水性液の硝酸除去方法を提案することを課題とする。
【0009】
又、本発明は、野菜搾汁液のような様々な成分を含有する水性液に適用して、風味や他の成分を損なうことなく硝酸イオンを選択的に除去可能な硝酸除去技術を確立することを課題とする。
【0010】
又、水性液から硝酸イオンを選択的に除去する技術を用いて、簡易な工程により、風味を損なわずに硝酸濃度を低減した植物由来飲料や飲料水を低コストで製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、両性イオン交換体を用いて水性液をクロマトグラフィ処理することによって硝酸イオンを選択的に低減除去可能であることを見出し、本発明の硝酸除去技術を成すに至った。
【0012】
本発明の一態様によれば、水性液の硝酸除去方法は、硝酸イオンを含有する水性液に両性イオン交換体を用いたクロマトグラフィ処理を施して前記水性液の硝酸イオンを他の成分から分離することを要旨とする。
【0013】
又、本発明の一態様によれば、飲料の製造方法は、植物組織の抽出物又は搾汁液を含む飲料原料を調製する工程と、上記水性液の硝酸除去方法を用いて前記飲料原料から硝酸を除去する工程と、硝酸を除去した前記飲料原料を用いて飲料を調製する工程とを備えることを要旨とする。
【発明の効果】
【0014】
両性イオン交換体を用いて、野菜搾汁液や飲料原水等の水性液をクロマトグラフィー処理することにより、他の成分から遅延溶出する塩素イオンまでを基本的に回収し、更に遅れて溶出する硝酸イオンを廃棄・除去することにより、選択的に硝酸イオンが除去でき、野菜搾汁液や飲料水の製造に適用することにより風味を維持した硝酸低減が可能になる。硝酸イオンは遅延溶出するため、樹脂の再生に特別な液を必要とせず、操作が簡易であり、ランニングコストも低下するので、野菜搾汁液や植物抽出液を原料とする飲料、食品の加工製造において極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
両性イオン交換体は、陽イオン交換部位及び陰イオン交換部位の両方を有するイオン交換体であり、高いpHでは陽イオン交換性が、低いpHでは陰イオン交換性が優勢になり、その境界は両交換部位の解離定数による。
【0016】
両性イオン交換体を成分分離に用いた従来例としては、目的成分の化学合成後に混在する未反応物質の除去や、脱塩装置の塩回収液における電解質の再利用、パルプ製造におけるアルカリ回収液における不要成分の除去などが主で、ある程度推測可能な範囲での成分夾雑における夾雑物の除去を目的としているが、野菜搾汁液のような、不特定多数の無機・有機成分群からの特定成分(硝酸イオン等)の除去を試みた例は見あたらない。
【0017】
両性イオン交換体を固定相として水性液のクロマトグラフィを行うと、陽イオンと陰イオンとが対になって固定相と作用し、塩素イオンが他の陰イオンより遅れて溶出すること、陰陽両イオンが対になった塩と夾雑する酸との混合物から酸が分離されることなどが解っている。硝酸イオンに関しては、硝酸鉄又は硝酸アンモニウムと硝酸との混液から硝酸を溶出遅延させて分離できることが解っているが、硝酸イオンを更に低減し除去することが可能か否かについては本願発明者の調査では本願出願時には解っていなかった。また、硝酸イオンと塩素イオン又は有機酸イオンとが混在する塩溶液から硝酸イオンを分離できるか否かも不明である。
【0018】
本発明では、様々な有機・無機成分を含んだ水性液の液体クロマトグラフィ処理において用いる分離床について検討を重ね、両性イオン交換体からなる分離床を用いることが有効であることを見出した。以下、両性イオン交換体による液体クロマトグラフィについて詳細に説明する。
【0019】
両性イオン交換体の陽イオン交換部位には、カルボキシル基、イミノジ酢酸基、スルホン酸基、リン酸基、リン酸エステル基等があり、陰イオン交換部位には、4級アンモニウム基、3級アミノ基、2級アミノ基、1級アミノ基、ポリエチレンイミン基、第3スルホニウム基、ホスホニウム基等があり、両方の交換部位を共有する基として、ベタイン基、スルホベタイン基等の両性イオン交換基がある。一般に入手可能なものとしては、弱酸性陽イオン交換部位(カルボキシル基等)と弱塩基性陰イオン交換部位(アミノ基等)とを有する弱酸・弱塩基型の両性イオン交換体と、弱酸性陽イオン交換部位(カルボキシル基等)と強塩基性陰イオン交換部位(第4級アンモニウム基)とを有する弱酸・強塩基型の両性イオン交換体とがあるが、本願では弱酸・強塩基型の両性イオン交換体が有効であり、式:−(CH−N(R)(R)−(CH−COOで示されるベタイン型の両性イオン交換基[式中、R及びRは、各々、炭素数1〜3のアルキル基を個々に示し、m及びnは、各々、1〜4の整数を個々に示す。]を有する弱酸・強塩基型の両性イオン交換体が好ましい。これはスネークケージ樹脂として知られている。特に、R及びRがメチル基であり、m及びnが1であるものが好適である。弱酸・強塩基型の両性イオン交換体を分離床とした時、イオンリターデーション作用を示して電解質が非電解質より遅れて溶出する。
【0020】
両性イオン交換体は、イオン交換基が母体に結合したもので、母体は、通常のイオン交換樹脂等の場合と同様に、比表面積の大きい粒子、繊維、透過膜等の形態に構成することができる。母体の材質も特に限定する必要はなく、ポリスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等のポリ(ハロゲン化オレフィン)、ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系ポリマー、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、ビニルベンジルクロライド−ジビニルベンゼン共重合体等の各種ポリマーから適宜選択でき、ポリマー原料の重合過程において常法に従って上記イオン交換基を導入したポリマーを調製し、所望の形態に成形加工すればよい。市販されている両性イオン交換樹脂から適宜選択して用いてもよく、例えば、三菱化学社製(商品名:ダイヤイオンAMP01,DSR01)、ダウケミカル社製(商品名:DOWEX Retardion 11A8)、北越炭素工業社製(商品名:KS30)の製品などが挙げられる。
【0021】
本発明においては、硝酸イオンを含有しない水、実用的にはイオン交換水を移動相として、硝酸イオンを含む種々の塩の水溶液を両性イオン交換体からなる分離床に通液する。これにより、塩素イオン及び硝酸イオンは、有機酸イオンを含む他の成分より遅れて分離床から溶出し、しかも、硝酸イオンの方が塩素イオンより遅れて溶出する。従って、野菜搾液のような様々な成分を含んだ水性液を被処理液として、被処理液及び水を連続して分離床に通液すると、硝酸イオンは他の成分より遅延して溶出し、硝酸イオンより前に溶出する成分を含有するフラクションを回収することによって、被処理液の含有成分から硝酸イオンを分離することができ、硝酸イオン以外の成分の量にさほど影響を与えることなく硝酸含有量を選択的に低減させた液が回収できる。従って、回収液を原料として、風味を損なうことなく硝酸値の低い野菜ジュースの製造が可能になり、植物原料由来の硝酸を低減した各種加工食品の製造が可能になる。
【0022】
前記両性イオン交換体からなる分離床を固定層としてクロマトグラフィ処理する際、分離床の容積に対して1回に処理する水性液の容積の割合(容量比)が小さいほど、又、処理する水性液の各成分の濃度が小さいほど、硝酸と他の成分との分離性が向上するので、処理する水性液に含まれる硝酸イオン濃度、必要とされる硝酸除去率及び他の成分の回収率に応じて適宜水性液の濃度及び処理容量比を設定する。1回に処理する水性液の容積は、分離床の容積の4倍以下であることが望ましい。水性液の容積が分離層の容積の4倍を越えると、排出フラクションにおける硝酸イオンと他の成分(特に塩素イオン)との重なりが大きくなり、好適に分離しない。好ましくは、分離床の容積の2倍以内とする。水性液の濃度(固形分)は、0.3g/ml以下となるように調整すると好ましい。
【0023】
本発明の硝酸除去方法は、一般的なカラムクロマトグラフィのような固定層方式だけでなく、移動層方式や擬似移動層方式で実施してクロマト分離を連続的に行ってもよい。本発明では、硝酸イオンは他の成分から遅延して溶出するのみであって分離床に吸着固定されるわけではなく、分離床を再生するための溶離液を特別に必要としないので、操作の管理が容易であり、経済的に有利である。特に擬似移動層方式において実施する場合、溶離液が不要であるため装置構造が簡素になり、被処理液の供給、硝酸イオンの排出及びその他の成分の回収のタイミング調整が行い易くなるので有利な方法であり、効率よく連続処理を実施できる。
【0024】
上述の硝酸除去方法は、植物搾汁液や植物抽出液、ミネラル類を含有する飲料原水等の様々な飲料・食品製造原料に適用して、原料の風味を損なうことなく硝酸イオンを低減・除去することができる。飲料・食品原料となる水性液は、必要に応じてクロマトグラフィ処理に適した濃度に調整した後に、上述に従って両性イオン交換体を用いたクロマトグラフィ処理を施して硝酸を除去し、得られた回収液は、必要に応じて濃縮・乾燥等の濃度調整や、調理・調味、殺菌、容器封入等を施して所望の飲料・食品に加工すればよい。
【0025】
以下に、本発明の実施例を参照してさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものでない。
【実施例1】
【0026】
表1に示す濃度で各種無機塩及び有機酸塩を含有する調製液(pH6.8)を作成した。両性イオン交換樹脂(商品名:AMP−01、三菱化学社製)を60ml充填したカラムに、上記調製液240mlを空間速度4/hrの下降流で通液した。調製液の後に連続してイオン交換水を通液してカラムから排出される流出液における調製液成分の有無を調べ、調製液成分の排出開始以後の流出液を15ml毎のフラクションとして回収し、各フラクション中のイオンの分析を行って排出される各イオンの破過状況を調べた。破過状況は、フラクション中のイオンの濃度が処理前の濃度(つまり調製液の濃度)の10%以上となった場合にそのフラクションについて破過が起こっていると判断した。又、フラクション中のイオンの分析は、電気伝導度計を用いたイオンクロマトグラフィによって下記の条件で行った。陽イオンの破過状況を図1、陰イオンの破過状況を図2に示す。
【0027】
[陽イオンの分析条件]
カラム:TSKgel IC-Cation I/II HR、4.6mmI.D.×10cm
ガードカラム:TSKguard column IC-Cation I/II HR、4.6mmI.D.×5mm
移動相:2mM HNO
流 速:0.8ml/min
[陰イオンの分析条件]
カラム:Shim−packIC-A1、4.6mmI.D.×10cm
ガードカラム:Shim−packIC-GA1、4.6mmI.D.×1cm
移動相:1.2mMフタル酸水素カリウム/アセトニトリル(95/5)
流 速:1.5ml/min
図1によれば、陽イオンについては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンはフラクション1から破過が起こり、フラクション19までにほぼ全量を回収できた。マグネシウムイオン及びカルシウムイオンは、フラクション1〜24で破過が起こっていた。
【0028】
図2によれば、陰イオンでは、有機酸はフラクション1から破過が起こり、さらにその排出が終了するのがフラクション18であり、硫酸イオンではフラクション1から17までで破過が起こった。塩素イオンについては、これらの陰イオンよりも遅れて破過し、フラクション3〜21においてその排出が見られた。硝酸イオンは更に遅れ、フラクション8から31までその排出が続いた。
【0029】
上記において、硝酸イオンは、明らかに塩素イオンを含む他のイオンよりも遅れてカラム外に排出されており、以上の結果から、両性イオン交換樹脂の充填容量の4倍容量の調製液を通液した時に、硝酸イオンを遅延溶出させて他のイオンから分離除去できることが明白である。
【0030】
更に、上記の方法において、塩素イオンの回収率が80%以上で、硝酸イオン除去率が50%以上となる分離を達成できるフラクション回収が可能か否かを検討した。その結果、フラクション1〜16を回収することにより、前述の条件を満たすことが解った。フラクション1〜16の回収による各イオンの回収率を表2に示す。
【0031】
フラクション1〜16を回収すると、硝酸の回収率が48.9%となるのに対して、陽イオンではいずれも85%超える回収率である。有機酸及び硫酸イオンでは、いずれも90%を超える高い回収率である。これに比べて、フラクション15までの回収では、硝酸イオン除去率は高まるが、塩素イオンの回収率が80%を下回る。
【0032】
このように、両性イオン交換体を用いたクロマト分離において回収するフラクションを適切に設定することによって硝酸イオンの選択的除去が好適に達成されることが確認された。
【表1】


【表2】

【実施例2】
【0033】
両性イオン交換樹脂(商品名:AMP−01、三菱化学社製)を60ml充填したカラムに、実施例1と同じ調製液90mlを空間速度4/hrの下降流で通液した。調製液の後に連続してイオン交換水を通液してカラムから排出される流出液における調製液成分の有無を調べ、調製液成分の排出開始以後の流出液を15ml毎のフラクションとして回収し、各フラクション中のイオンの分析を行って排出される各イオンの破過状況を調べた。破過状況は、フラクション中のイオンの濃度が処理前の濃度(つまり調製液の濃度)の10%以上となった場合にそのフラクションについて破過が起こっていると判断した。又、フラクション中のイオンの分析は、電気伝導度計を用いたイオンクロマトグラフィによって実施例1と同様の条件で行った。陽イオンの破過状況を図3、陰イオンの破過状況を図4に示す。
【0034】
図3によれば、陽イオンについては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、フラクション1から破過が起こり、フラクション19までにほぼ全量を回収できた。マグネシウムイオンは、フラクション2〜14、カルシウムイオンは、フラクション2〜15で破過が起こっていた。
【0035】
図4によれば、陰イオンでは、有機酸は、フラクション1から破過が起こり、その排出が終了するのがフラクション8又は9であった。硫酸イオンの排出は、フラクション2からフラクション7までであった。塩素イオンは、これらの陰イオンよりも遅れて破過し、フラクション4〜10においてその排出が見られた。硝酸イオンは、更に遅れてフラクション8からフラクション19までその排出が続いた。
【0036】
上記において、硝酸イオンは、明らかに塩素イオンを含む他のイオンよりも遅れてカラム外に排出されており、以上の結果から、両性イオン交換樹脂の充填容量の1.5倍容量の調製液を通液した時に、硝酸イオンを遅延溶出させて他のイオンから分離除去できることが明白である。
【0037】
更に、上記の方法において、塩素イオンの回収率が80%以上で、硝酸イオン除去率が50%以上となる分離を達成できるフラクション回収が可能か否かを検討した。その結果、表3に示すように、フラクション1から回収を始めてフラクション8〜11の範囲で回収を終了することで要件を満たすことが可能であった。いずれの場合でも、陽イオンでは、ナトリウムイオン及びカリウムイオンはいずれも95%を超える高い回収率であり、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンも回収率は80%を超える。有機酸及び硫酸イオンは、いずれも100%もしくはそれに近い高い回収率である。上記に比べて、フラクション7以前に回収を終了すると、塩素イオンの回収率が低く、フラクション12以後まで回収を続けると、硝酸の除去率が50%を下回る。
【0038】
このように、両性イオン交換体を用いたクロマト分離において、通液する調製液の容量を両性イオン交換樹脂の充填容量の4倍容量より少なくすると、硝酸イオンの分離度が向上し、回収するフラクションの設定に幅を持たせることができるので、必要に応じて硝酸イオンの除去率又は成分回収率をより高めることができる。
【表3】

【実施例3】
【0039】
両性イオン交換樹脂(商品名:AMP−01、三菱化学社製)を60ml充填したカラムに、実施例1の調製液を2倍に希釈した希釈調製液90mlを空間速度4/hrの下降流で通液した。
【0040】
希釈調製液の後に連続してイオン交換水を通液してカラムから排出される流出液における調製液成分の有無を調べ、調製液成分の排出開始以後の流出液を15ml毎のフラクションとして回収し、各フラクション中のイオンの分析を行って排出される各イオンの破過状況を調べた。破過状況は、フラクション中のイオンの濃度が処理前の濃度(つまり調製液の濃度)の10%以上となった場合にそのフラクションについて破過が起こっていると判断した。又、フラクション中のイオンの分析は、電気伝導度計を用いたイオンクロマトグラフィによって実施例1と同様の条件で行った。陽イオンの破過状況を図5、陰イオンの破過状況を図6に示す。
【0041】
図5によれば、陽イオンについては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、フラクション1から破過が起こり、フラクション19までにほぼ全量を回収できた。マグネシウムイオンはフラクション2〜15で、カルシウムイオンはフラクション2〜17で破過が起こっていた。
【0042】
図6によれば、陰イオンでは、有機酸は、フラクション1から破過が起こり、排出が終了するのがフラクション8であった。硫酸イオンの排出は、フラクション2からフラクション7までであった。塩素イオンは、これらの陰イオンよりも遅れて破過し、フラクション4〜10においてその排出が見られた。硝酸イオンは、更に遅れてフラクション9からフラクション20までその排出が続いた。
【0043】
上記において、硝酸イオンは、明らかに塩素イオンを含む他のイオンよりも遅れてカラム外に排出されており、以上の結果から、調製液を2倍に希釈して実施例2と同様に両性イオン交換樹脂の充填容量の1.5倍容量で通液した時に、硝酸イオンを遅延溶出させて他のイオンから分離除去できることが明白である。
【0044】
更に、上記の方法において、塩素イオンの回収率が80%以上で、硝酸イオン除去率が50%以上となる分離を達成できるフラクション回収が可能か否かを検討した。その結果、表4に示すように、フラクション1から回収を始めてフラクション8〜13の範囲で回収を終了することにより要件を満たすことが可能であった。いずれの場合でも、陽イオンでは、ナトリウムイオン及びカリウムイオンはいずれも95%を超える高い回収率であり、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンも回収率はほぼ80%を超える。有機酸及び硫酸イオンは、いずれも100%もしくはそれに近い高い回収率である。上記に比べて、フラクション7以前に回収を終了すると、塩素イオンの回収率が低く、フラクション14以後まで回収を続けると、硝酸の除去率が50%を下回る。
【0045】
このように、両性イオン交換体を用いたクロマト分離において、通液する調製液の成分濃度を減少させると、硝酸イオンの分離度が向上し、回収するフラクションの設定に幅を持たせることができ、必要に応じて硝酸イオンの除去率又は成分回収率をより高めることができる。
【表4】

【実施例4】
【0046】
両性イオン交換樹脂(商品名:AMP−01、三菱化学社製)を60ml充填したカラムに、実施例1と同じ調製液60mlを空間速度4/hrの下降流で通液した。調製液の後に連続してイオン交換水を通液してカラムから排出される流出液における調製液成分の有無を調べ、調製液成分の排出開始以後の流出液を15ml毎のフラクションとして回収し、各フラクション中のイオンの分析を行って排出される各イオンの破過状況を調べた。破過状況は、フラクション中のイオンの濃度が処理前の濃度(つまり調製液の濃度)の10%以上となった場合にそのフラクションについて破過が起こっていると判断した。又、フラクション中のイオンの分析は、電気伝導度計を用いたイオンクロマトグラフィによって実施例1と同様の条件で行った。陽イオンの破過状況を図7、陰イオンの破過状況を図8に示す。
【0047】
図7によれば、陽イオンについては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、フラクション1から破過が起こり、フラクション17までにほぼ全量を回収できた。マグネシウムイオン及びカルシウムイオンはフラクション2〜12で破過が起こっていた。
【0048】
図8によれば、陰イオンでは、有機酸は、フラクション1から破過が起こり、排出が終了するのがフラクション6であった。硫酸イオンの排出は、フラクション2からフラクション5までであった。塩素イオンは、これらの陰イオンよりも遅れて破過し、フラクション4〜8においてその排出が見られた。硝酸イオンは、更に遅れてフラクション8からフラクション17までその排出が続いた。
【0049】
上記において、硝酸イオンは、明らかに塩素イオンを含む他のイオンよりも遅れてカラム外に排出されており、以上の結果から、両性イオン交換樹脂の充填容量に対し等倍容量の調製液を通液した時に、硝酸イオンを遅延溶出させて他のイオンから分離除去できることが明白である。
【0050】
更に、上記の方法において、塩素イオンの回収率が80%以上で、硝酸イオン除去率が50%以上となる分離を達成できるフラクション回収が可能か否かを検討した。その結果、表5に示すように、フラクション1から回収を始めてフラクション7〜11の範囲で回収を終了することで要件を満たすことが可能であった。いずれの場合でも、陽イオンでは、ナトリウムイオン及びカリウムイオンはいずれもほぼ100%の高い回収率であり、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンも回収率はほぼ80%を超える。有機酸及び硫酸イオンは、いずれも100%の高い回収率である。上記に比べて、フラクション6以前に回収を終了すると、塩素イオンの回収率が低く、フラクション12以後まで回収を続けると、硝酸の除去率が50%を下回る。
【0051】
このように、両性イオン交換体を用いたクロマト分離において、通液する調製液の容量を両性イオン交換樹脂の充填容量の4倍容量より少なくすると硝酸イオンの分離度が向上し、1回当りの処理容量の減少は特に硝酸イオン除去率の向上に有効であることが実施例2との比較によって理解される。
【表5】

【実施例5】
【0052】
ニンジン濃縮汁(Brix36.6)500gに180mM硝酸カリウム水溶液100gを添加混合して、高硝酸ニンジン汁のモデルサンプル(Brix30.8)を調製した。ニンジン濃縮汁及びモデルサンプルに含まれる各種イオンの濃度を、実施例1と同様の分析条件で電気伝導度計を用いたイオンクロマトグラフィによって予め分析した。
【0053】
両性イオン交換樹脂(商品名:AMP−01、三菱化学社製)を60ml充填したカラムに、モデルサンプルのニンジン汁90mlを空間速度4/hrの下降流で通液した。モデルサンプルの後に連続してイオン交換水を通液してカラムから排出される流出液におけるニンジン汁成分の有無を調べ、ニンジン汁成分の排出開始以後の流出液を15ml毎のフラクションとして回収し、各フラクション中のイオンの分析を行って排出される各イオンの破過状況を調べた。破過状況は、フラクション中のイオンの濃度が処理前の濃度(つまりモデルサンプルの濃度)の10%以上となった場合にそのフラクションについて破過が起こっていると判断した。又、フラクション中のイオンの分析は、イオンクロマトグラフィによって実施例1と同様の条件で行った。陽イオンの破過状況を図9、陰イオンの破過状況を図10に示す。
【0054】
図9によれば、陽イオンについては、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは、フラクション2から破過が起こり、フラクション8までにほぼ全量を回収できた。マグネシウムイオン及びカルシウムイオンは、フラクション2〜7とフラクション9〜15以降とにおける2段階の破過が起こっている。
【0055】
図10によれば、陰イオンでは、有機酸及び硫酸イオンでは、フラクション2から破過が起こり、その排出が終了するのはフラクション6であった。塩素イオンは、これらの陰イオンに対して若干遅れて破過し、フラクション3〜7においてその排出が見られた。硝酸イオンは、更に遅れてフラクション6からフラクション14以降まで多くのフラクションに跨って排出が続いた。
【0056】
上記において、硝酸イオンは、明らかに塩素イオンを含む他のイオンよりも遅れてカラム外に排出されており、以上の結果から、両性イオン交換樹脂の充填容量の1.5倍容量のニンジン汁を通液した時に、硝酸イオンを遅延溶出させて他のイオンから分離除去できることが明白である。
【0057】
更に、上記の方法において、塩素イオンの回収率が80%以上で、硝酸イオン除去率が50%以上となる分離を達成できるフラクション回収が可能か否かを検討した。その結果、表6に示すように、フラクション1から回収を始めてフラクション6〜7の範囲で回収を終了することで要件を満たすことが可能であった。いずれの場合でも、陽イオンでは、ナトリウムイオン及びカリウムイオンはいずれも85%の回収率が確保され、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンは65〜80%の回収率となった。有機酸及び硫酸イオンは、いずれもほぼ100%の高い回収率である。上記に比べて、フラクション5以前に回収を終了すると、塩素イオンの回収率が低く、フラクション8以後まで回収を続けると、硝酸の除去率が50%を下回る。
【0058】
このように、両性イオン交換体を用いたクロマト分離によって、実際にニンジン汁から硝酸イオンを選択的に分離除去することが可能である。
【表6】

【0059】

上記で原料として用いたニンジン濃縮汁、高硝酸ニンジン汁のモデルサンプル、上述のクロマト分離で排出されるフラクション1〜6からなる回収物、及び、フラクション1〜7からなる回収物の各々について、イオン交換水で希釈してBrix6.0に調整したものを評価試料A〜D(A:ニンジン濃縮汁、B:モデルサンプル、C:フラクション1〜6、D:フラクション1〜7)として用いて、官能品質を評価し、硝酸イオン濃度及び官能品質の評価結果に基づいて総合評価を行った。官能品質における甘味及びボディー感は、ニンジン濃縮汁を希釈した試料を基準としてこれとの比較により強弱を判断し、官能品質の評価及び総合評価は、「良好」、「可」、「不可」の3段階評価とした。結果を表7に示す。
【0060】
評価に用いた試料は何れも希釈によりBrixを調整されているので、評価試料C,Dにおける塩素イオン及び硝酸イオンの見かけの減少率は、クロマト分離後の回収物における減少率とは異なる。このため、評価試料Cでは、塩素イオンの見かけの減少率は10%未満におさまり、硝酸イオンの見かけの減少率は95%に至る。評価試料Dでは、塩素イオンの見かけの減少率はわずか1.5%で、硝酸イオンの見かけの減少率は70%を超える。評価試料C,Dの何れも、硝酸イオンが選択的に除去されたニンジンジュースとなっている。
【0061】
官能品質については、甘味は、評価試料C,Dのいずれも評価試料Aと同等であった。ボディー感においては、評価試料Dが評価試料Aと同等であり、ニンジンジュースとして良好な官能品質であるのに対し、評価試料Cはボディー感がやや弱く、ニンジンジュースとしての官能品質としては評価試料Aに比べると劣るが、許容範囲内である。
【0062】
評価試料Cは、硝酸イオン濃度は非常に低いが、官能品質のレベルが可であったため、総合評価としては、硝酸イオン濃度及び官能品質とも良好である評価試料Dの方が優れていると判断できる。
【0063】
世界保健機関による硝酸イオンの摂取制限として、1540mg/人・週という値が示されており、1日当りに換算すると、220mg/人・日、つまり、約3.5mM/人・日となる。1日の野菜ジュース摂取量を500mlと想定し、この摂取量で摂取制限値の50%に到達する場合のジュースの硝酸イオン濃度を計算すると、3.5mMとなる。この値を基準とすると、表7の結果は、ジュース原料を両性イオン交換体によるクロマト分離処理して得られる回収物から、硝酸イオン濃度が基準を越えず、風味も良好なジュースを調製できることを示していると理解できる。
【表7】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1のクロマト分離で得られる各フラクションにおける各陽イオンの濃度を示すグラフ。
【図2】実施例1のクロマト分離の各フラクションにおける各陰イオンの濃度を示すグラフ。
【図3】実施例2のクロマト分離で得られる各フラクションにおける各陽イオンの濃度を示すグラフ。
【図4】実施例2のクロマト分離の各フラクションにおける各陰イオンの濃度を示すグラフ。
【図5】実施例3のクロマト分離で得られる各フラクションにおける各陽イオンの濃度を示すグラフ。
【図6】実施例3のクロマト分離の各フラクションにおける各陰イオンの濃度を示すグラフ。
【図7】実施例4のクロマト分離で得られる各フラクションにおける各陽イオンの濃度を示すグラフ。
【図8】実施例4のクロマト分離の各フラクションにおける各陰イオンの濃度を示すグラフ。
【図9】実施例5のクロマト分離で得られる各フラクションにおける各陽イオンの濃度を示すグラフ。
【図10】実施例5のクロマト分離の各フラクションにおける各陰イオンの濃度を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸イオンを含有する水性液に両性イオン交換体を用いたクロマトグラフィ処理を施して前記水性液の硝酸イオンを他の成分から分離することを特徴とする水性液の硝酸除去方法。
【請求項2】
前記両性イオン交換体は、強塩基性陰イオン交換部位と弱酸性陽イオン交換部位とを共有する弱酸・強塩基型の両性イオン交換体である請求項1記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項3】
前記両性イオン交換体は、式:−(CH−N(R)(R)−(CH−COOで示される両性イオン交換基[但し、式中、R及びRは、各々、炭素数1〜3のアルキル基を個々に示し、m及びnは、各々、1〜4の整数を個々に示す。]を有する請求項1又は2記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項4】
前記R及びRは、各々、メチル基であり、前記m及びnは、各々、1である請求項3記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項5】
前記両性イオン交換体は、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体を母体とする両性イオン交換樹脂である請求項1〜4のいずれかに記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項6】
前記水性液の他の成分は、無機陽イオンと、無機陰イオン及び有機酸の少なくとも一方とを含む請求項1〜5の何れかに記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項7】
前記無機陽イオンは、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン及びカルシウムイオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、前記無機陰イオンは、塩素イオン及び硫酸イオンのうちの少なくとも1種を含み、前記有機酸は、乳酸、リンゴ酸及びクエン酸からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む請求項6記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項8】
前記クロマトグラフィ処理は、前記両性イオン交換体を固定相とする分離床に移動相として水が供給される液体クロマトグラフィ処理であり、前記クロマトグラフィ処理によって前記固定相から前記他の成分より遅れて硝酸イオンが流出する請求項1〜7の何れかに記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項9】
前記クロマトグラフィ処理は、前記両性イオン交換体を装顛した分離床に前記水性液を通液する工程と、前記水性液に続いて水を前記分離床に通液する工程とを有し、前記分離床に通液する前記水性液の容積は、前記分離床の容積の4倍以下である請求項1〜8の何れかに記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項10】
前記水性液は、植物組織の抽出物又は搾汁液を含む飲料原料あるいは飲料用水である請求項1〜9の何れかに記載の水性液の硝酸除去方法。
【請求項11】
植物組織の抽出物又は搾汁液を含む飲料原料を調製する工程と、請求項1〜10の何れかに記載の水性液の硝酸除去方法を用いて前記飲料原料から硝酸を除去する工程と、硝酸を除去した前記飲料原料を用いて飲料を調製する工程とを備えることを特徴とする飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−87973(P2006−87973A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−273122(P2004−273122)
【出願日】平成16年9月21日(2004.9.21)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】