説明

水性液体精製方法及び含フッ素ポリマー水性分散液製造方法

【課題】 水性液体から有機酸化合物を効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】 水性液体に含まれる下記一般式(I)
−Z (I)
(式中、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される有機酸化合物を特定化合物の存在下に除去することよりなる水性液体精製方法であって、
前記特定化合物は、前記有機酸化合物と水不溶性塩を形成する陽イオンからなる無機イオン化合物、又は、前記有機酸化合物と水不溶性塩若しくは水不溶性配位物を形成する塩基性有機化合物であることを特徴とする水性液体精製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性液体精製方法及び含フッ素ポリマー水性分散液製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーの乳化重合における乳化剤として、従来から、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕、パーフルオロオクチルスルホン酸〔PFOS〕等の含フッ素有機酸が用いられている。これら含フッ素有機酸は、乳化剤として優れているが、除去が困難という問題がある。
【0003】
カルボン酸やスルホン酸の同定並びに分離に用い得る化合物として、S−ベンジルイソチオウレア塩酸塩(例えば、非特許文献1参照。)、S−(p−ニトロベンジル)イソチオウレア塩酸塩及びS−(2,4−ジニトロベンジル)イソチオウレア塩酸塩(例えば、非特許文献2参照。)等が提案されている。
これらの化合物については、しかしながら、同定・分離する対象として炭化水素系化合物のみが提案されており、含フッ素有機酸は提案されていなかった。
【非特許文献1】Donleavy,“J.Am.Chem.Soc.”,Vol.58,1004頁(1936年)
【非特許文献2】T.Momose and H.Tanaka, “Pharmaceutical Bulletin”,Vol.2,152−154頁(1954年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、水性液体から有機酸化合物を効率的に除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、水性液体に含まれる下記一般式(I)
−Z (I)
(式中、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される有機酸化合物を特定化合物の存在下に除去することよりなる水性液体精製方法であって、
上記特定化合物は、上記有機酸化合物と水不溶性塩を形成する陽イオンからなる無機イオン化合物、又は、上記有機酸化合物と水不溶性塩若しくは水不溶性配位物を形成する塩基性有機化合物である
ことを特徴とする水性液体精製方法である。
【0006】
本発明は、水性液体に含まれる下記一般式(I)
−Z (I)
(式中、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される有機酸化合物を下記一般式(II)
−Y−C(−NH)=NH・HX (II)
(式中、Rは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表し、Yは、O又はSを表し、Xは、Cl又はBrを表す。)で表されるイソ(チオ)ウレア化合物の存在下に除去することよりなる
ことを特徴とする水性液体精製方法である。
【0007】
本発明は、精製工程を経て含フッ素ポリマー水性分散液を製造することよりなるものであって、上記精製工程は、含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含む水性液体について上記水性液体精製方法を行うことからなるものであることを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液製造方法である。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の水性液体精製方法は、水性液体に含まれる上記一般式(I)で表される有機酸化合物を特定化合物の存在下に除去すること(本明細書において、以下、「除去処理」ということがある。)よりなるものである。
【0009】
上記一般式(I)において、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表す。
一般式(I)におけるRは、該記載のとおり、炭化水素基、F又はHを表し、なかでも、炭化水素基である場合、直鎖若しくは分岐の炭化水素基であってもよいし、ヘテロ原子を有している炭化水素基であってもよいし、炭化水素基が有するHがFに置換されたものであってもよい。
上記Rで表される上記炭化水素基としては、例えば、H(CF−、又は、F(CF−(nは、1〜12の整数を表す。)であってもよい。上記nは、好ましい下限が4であり、好ましい上限が8である。
本明細書において、「ヘテロ原子」は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びリン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。上記Rとしての炭化水素基がヘテロ原子を有するものである場合、該ヘテロ原子としては、酸素原子及び/又は窒素原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。上記Rとしての炭化水素基が有し得る酸素原子としては、エーテル結合及び/又はエステル結合を構成する酸素原子であることが好ましい。上記Rとしての炭化水素基が有し得る窒素原子としては、アミノ基又は置換アミノ基を構成する窒素原子であることが好ましい。
上記一般式(I)におけるRとしての炭化水素基は、ヘテロ原子を有しないものであることが好ましく、水素原子がフッ素置換されているものが好ましい。
上記Rとしての炭化水素基は、炭素数が4〜20であることが好ましく、5〜12であることがより好ましい。
上記Rは、HがFに置換されたアルキル基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0010】
上記一般式(I)において、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表す。
本明細書において、「リン酸由来基」は、リン酸〔HPO〕に由来するリン酸残基ともいい得る基であり、−PO、−POHM、−PO、−OPO(OM、−O(PO1/2及び−O(PO)1/3よりなる群から選ばれる少なくとも1種である。
は、H、NH、Na又はKを表す。
は、NH、Na又はKを表す。
上記リン酸由来基においてM又はMがそれぞれ1分子中に2つ以上ある場合、該2つ以上のM又は該2つ以上のMは、相互に異なるものであってもよいが、通常、同一のものである。
上記一般式(I)は、Zがリン酸由来基である場合、下記式
[R−(O)−]PO(OM3−x
(pは、0又は1の整数を表し、xは、1〜3の整数を表す。R及びMは、上記定義のとおり。(3−x)個のMは、相互に同一のものであってもよいし異なるものであってもよい。)で表すことができる。
上記Zとしては、−COOM(Mは、上記と同じ。)であることが好ましく、−COONaであることがより好ましい。
【0011】
上記一般式(I)で表される有機酸化合物としては、平均分子量が1000以下であるものが好ましく、除去容易である点で、平均分子量が500以下であるものがより好ましい。
上記有機酸化合物は、炭素数が4〜12であるものが好ましい。
上記有機酸化合物は、上記一般式(I)で表されるものであれば、水性液体中に1種のみ含まれるものであってもよいし、2種以上含まれるものであってもよい。
上記有機酸化合物としては、例えば、含フッ素界面活性剤が好ましく、パーフルオロオクタン酸又はその塩がより好ましい。本明細書において、「パーフルオロオクタン酸又はその塩」を包括的に「PFOA」と略記することがある。
【0012】
本発明において、上記一般式(I)で表される有機酸化合物は、除去処理を行う際に水性液体中に含まれている必要がある。
上記有機酸化合物は、除去処理を行う際、合計で、水性液体の0.001〜2質量%であることが好ましい。
上記有機酸化合物は、除去効率の点で、水性液体の0.05質量%以上であることがより好ましく、また、0.1質量%以下であることがより好ましい。
本明細書において、上記有機酸化合物の量は、19F−NMR(測定機器AC300P、Bruker Biospin製)から求めた値である。
【0013】
本発明における水性液体は、少なくとも上記一般式(I)で表される有機酸化合物を含むものであり、所望により更に後述の含フッ素ポリマー及び/又は添加剤類(これら水性液体に含まれる有機酸化合物その他のものを、本明細書において、「溶質/分散質」ということがある。)をも含むものであってもよい。
上記水性液体としては、水溶液であってもよいし、水性分散液であってもよい。
上記水性液体は、上記溶質/分散質を含有する場合、水溶液であれば、水性媒体に上記溶質/分散質が溶質として溶解してなるものであり、水性分散液であれば、水性媒体に上記溶質/分散質が分散質として分散してなるものである。
【0014】
上記水性液体は、含フッ素ポリマー粒子からなる水性分散体や組成物であってもよいし、該水性分散体や組成物の調製、適用等に伴い生じる廃液であってもよい。
上記水性液体は、上記水性媒体に加え、例えば、含フッ素ポリマー粒子を含むものであってもよいし、更に、上記含フッ素ポリマー粒子製造時に添加する上記有機酸化合物以外の公知の界面活性剤、及び/又は、連鎖移動剤、ラジカル捕捉剤等の公知の添加剤等、含フッ素ポリマー粒子からなる水性分散体や組成物の配合物を含むものであってもよい。
【0015】
上記水性液体を構成する水性媒体としては、水を含む液体であれば特に限定されず、例えば、水そのものであってもよいし、水及び水と相溶性をもつ有機液体の混合物であってもよい。
上記「水と相溶性をもつ有機液体」としては、例えば、アルコール、エーテル、ケトン、パラフィンワックス等のフッ素非含有有機溶媒及び/又はフッ素含有有機溶媒をも含むもの等が挙げられる。
【0016】
水性液体は、上述したように、含フッ素ポリマー粒子をも含むものであってもよい。
本発明における水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に有機酸化合物を含むものであって、該含フッ素ポリマー粒子は、該水性液体の5質量%未満であるものであってもよい。
【0017】
本明細書において、上記「含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に・・・該含フッ素ポリマー粒子は、水性液体の5質量%未満である」とは、含フッ素ポリマー粒子が水性液体の0質量%を超え、5質量%未満である範囲において存在するか又は含フッ素ポリマー粒子が存在しないことを意味する。
本明細書において、水性液体は上述した成分からなるので、水性液体の質量は、水性媒体、有機酸化合物、並びに、所望により含有していてもよい含フッ素ポリマー粒子及び/又は添加剤類の合計質量である。
【0018】
上記含フッ素ポリマー粒子を水性液体の0質量%を超え、5質量%未満である範囲において有する水性液体としては特に限定されないが、例えば、含フッ素ポリマーを得るための重合反応後、濃縮、凝析等により生じる廃水等が挙げられる。
【0019】
本発明における水性液体は、また、含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含むものであり、該含フッ素ポリマー粒子は、該水性液体の5〜70質量%であるものであってもよい。
上記含フッ素ポリマー粒子を水性液体の5〜70質量%の範囲において有する水性液体としては特に限定されないが、例えば、含フッ素ポリマーを該範囲にて含む水溶液又は水性分散液等が挙げられる。
上記含フッ素ポリマーの水溶液又は水性分散液は、通常、含フッ素ポリマーを得るための重合反応後、所望の含フッ素ポリマー濃度とするため必要に応じて希釈、濃縮等を行って得られるものである。
本明細書において、上記含フッ素ポリマーの含有量は、試料約1g(Xg)を100℃にて1時間で加熱した加熱残分(Yg)、更に、該加熱残分(Yg)を300℃にて1時間加熱した加熱残分(Zg)より、含フッ素ポリマーP=(Z/X)×100(%)の関係に基づき算出した値である。
【0020】
上記「含フッ素ポリマー粒子」を構成する含フッ素ポリマーは、炭素原子に結合しているフッ素原子を有している重合体である。
上記含フッ素ポリマーとしては、例えば、エラストマー性含フッ素ポリマー、非溶融加工性含フッ素ポリマー、溶融加工性含フッ素ポリマー等が挙げられる。
【0021】
上記エラストマー性含フッ素ポリマーとして、TFE/プロピレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン[HFP]/エチレン共重合体、HFP/エチレン/TFE共重合体、VDF系重合体等が挙げられる。
なお、上記VDF系重合体は、共単量体の種類及び/又はその量等により、エラストマー性含フッ素ポリマーに相当するものであってもよいし、溶融加工性含フッ素ポリマーに相当するものであってもよい。
【0022】
上記非溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン[PTFE]が挙げられる。
本明細書において、上記PTFEは、TFE単独重合体のみならず、変性ポリテトラフルオロエチレン[変性PTFE]をも含む概念である。
本明細書において、上記「変性PTFE」とは、TFEと、TFE以外の微量単量体との共重合体であって、非溶融加工性であるものを意味する。
上記微量単量体としては、例えば、パーフルオロオレフィン、フルオロ(アルキルビニルエーテル)、環式のフッ素化された単量体、パーフルオロ(アルキルエチレン)等が挙げられる。
変性PTFEにおいて、上記微量単量体に由来する微量単量体単位の全単量体単位に占める含有率は、通常0.001〜2モル%の範囲である。
本明細書において、「全単量体単位に占める微量単量体単位の含有率(モル%)」とは、上記「全単量体単位」が由来する単量体、即ち、含フッ素ポリマーを構成することとなった単量体全量に占める、上記微量単量体単位が由来する微量単量体のモル分率(モル%)を意味する。
【0023】
上記溶融加工性含フッ素ポリマーとしては、例えば、エチレン/TFE共重合体[ETFE]、TFE/HFP共重合体[FEP]、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体[TFE/PAVE共重合体]、PVDF、PVD系共重合体、ポリフッ化ビニル[PVF]等が挙げられる。
上記TFE/PAVE共重合体としては、TFE/パーフルオロ(メチルビニルエーテル)[PMVE]共重合体[MFA]、TFE/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)[PEVE]共重合体、TFE/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)[PPVE]共重合体等が挙げられ、なかでも、MFA、TFE/PPVE共重合体が好ましく、TFE/PPVE共重合体がより好ましい。
【0024】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、パーフルオロポリマーであることが好ましく、PTFEであることがより好ましい。
【0025】
含フッ素ポリマー粒子は、平均一次粒子径が50〜500nmであることが好ましい。含フッ素ポリマー粒子は、上記範囲内の平均一次粒子径を有する場合、分散安定性がよいので、有機酸化合物の除去処理の際、凝析等が生じにくい。
上記「平均一次粒子径」とは、重合上がりの重合体の平均粒子径であって、重合後、凝析、濃縮等の後処理をしていない重合体の平均粒子径を意味する。
上記平均一次粒子径は、含フッ素ポリマー濃度を0.22質量%に調整した水性分散液の単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真における定方向径を測定して決定された平均粒子径との検量線をもとにして、上記透過率から決定したものである。
【0026】
上記含フッ素ポリマー粒子は、懸濁重合、乳化重合等、公知の方法にて含フッ素ポリマーの重合を行うことにより調製することができる。
上記各重合において使用するフッ素含有単量体、フッ素非含有単量体、乳化剤、及び、重合開始剤、連鎖移動剤等の添加剤として、適宜公知のものを使用することができ、また、乳化剤として、上記一般式(I)で表される有機酸化合物を使用することもできるし、上記有機酸化合物以外の公知の界面活性剤を使用することもできる。
上記重合は、例えば、上述した範囲内の平均一次粒子径を有する含フッ素ポリマーを製造する場合、10〜120℃の温度にて行うことが好ましく、また、通常0.5〜10MPa、好ましくは1.0MPa以上、より好ましくは6.2MPa以下の圧力にて行うことができる。
上記重合から得られる重合上がりの水性分散液は、含フッ素ポリマー濃度が5〜40質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましい。
【0027】
上記含フッ素ポリマー粒子は、上記重合の後、適宜、希釈、濃縮等の後処理を行い得られたものであってもよい。
上記後処理において、含フッ素ポリマー粒子を安定に分散させるため、上記一般式(I)で表される有機酸化合物を使用してもよいし、ノニオン性界面活性剤等、上記有機酸化合物以外の公知の界面活性剤を使用してもよい。
本発明における水性液体は、含フッ素ポリマー粒子を含むものである場合、除去処理による含フッ素ポリマー粒子の凝集を防止する点で、ノニオン性界面活性剤を含むものであってもよい。
該水性液体が含み得るノニオン性界面活性剤としては特に限定されず、例えば、本発明の含フッ素ポリマー水性分散液製造方法に用いる後述の水性液体Aが含有し得るノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0028】
本発明は、水性液体に含まれる上記一般式(I)で表される有機酸化合物を特定化合物の存在下に除去することよりなるものである。
上記特定化合物は、上記有機酸化合物と水不溶性塩を形成する陽イオンからなる無機イオン化合物、又は、上記有機酸化合物と水不溶性塩若しくは水不溶性配位物を形成する塩基性有機化合物である。
上記特定化合物としては、何れか1種を添加するものであってもよいし、2種以上を添加するものであってもよい。
【0029】
上記無機イオン化合物は、上述の有機酸化合物と水不溶性塩を形成する陽イオンからなるものであれば特に限定されず、例えば、多価金属塩等が挙げられる。
上記多価金属塩を形成する多価金属としては、Al、Ca、Mg等が挙げられる。
上記無機イオン化合物としては、なかでも、Al(OH)、Al(SO、CaCl等が好ましい。
【0030】
上記塩基性有機化合物は、上述の有機酸化合物と水不溶性塩若しくは水不溶性配位物を形成するものであれば特に限定されない。
本発明における塩基性有機化合物としては、例えば、分子構造中に−C(−NHR)=NHを有する有機化合物等が挙げられる。−C(−NHR)=NHで表される基本骨格を有する化合物は、酸塩であってよいが、存在する環境の液性により、上記基本骨格における二重結合の位置が移動し得るものであってよい。上記式中、Rは、下記定義のとおりであり、即ち、Hが置換されていてもよい炭化水素基又はHを表す。
【0031】
本発明における塩基性有機化合物としては、例えば、下記一般式(i)
Q−C(−NHR)=NH (i)
(式中、Qは、RS−、R12O−、R1314N−又はR−を表し、R及びR12は、H又はRを表し、R13及びR14は、同一若しくは異なって、H又はRを表し、Rは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表す。)で表される化合物又はその酸塩が挙げられる。
上記一般式(i)で表される化合物は、上記一般式(i)におけるQがRS−である場合、イソチオウレア化合物、QがR12O−である場合、イソウレア化合物、QがR1314N−である場合、グアニジン化合物、QがR−である場合、アミジン化合物ということがある。
【0032】
上記一般式(i)で表される化合物の酸塩を形成する酸としては、例えば、HX(Xは、Cl又はBrを表す。)、HSO等が挙げられる。
上記アミジン化合物の酸塩は、通常、
Q−C(−NHR)=NH・HX 又は
[Q−C(−NHR)=NH]・HSO
と表すことができる(Q、R及びXは、上記定義のとおり。)。
【0033】
上記一般式(i)において、上記QがR12O−又はRS−である場合、本発明は、水性液体に含まれる上記一般式(I)で表される有機酸化合物をイソ(チオ)ウレア化合物の存在下に除去することよりなるものであってもよい。
本明細書において、「イソ(チオ)ウレア化合物」は、「イソウレア化合物又はイソチオウレア化合物」を総括する概念を表すが、このことは、後述の一般式(II)においてYがO又はSを表すと定義していることから明らかである。
【0034】
本発明に用い得るイソ(チオ)ウレア化合物は、一般に、−Y−C(−N)=Nで表される基本骨格を有する化合物であり(Yは、上記定義したものと同じ。)、酸塩であってよいが、存在する環境の液性により、上記基本骨格における二重結合の位置が移動し得るものであってよい。
【0035】
本発明に用い得るイソ(チオ)ウレア化合物としては、下記一般式(II)
−Y−C(−NH)=NH・HX (II)
(式中、Rは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表し、Yは、O又はSを表し、Xは、Cl又はBrを表す。)で表されるイソ(チオ)ウレア化合物であってもよい。
本明細書において、上記一般式(II)で表したイソ(チオ)ウレア化合物としては、例えば、
【0036】
【化1】

【0037】
等が挙げられる。上記式におけるR及びXは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表す。
【0038】
上記一般式(II)におけるRは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表す。
上記Rとしての炭化水素基は、炭素数が1〜25であることが好ましい。
上記Rとしての炭化水素基は、アリール基を含む炭化水素基又は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、アリールアルキル基又はエチル基であることが好ましい。
上記Rに含まれ得るアリール基としては、少なくとも1個、通常1〜2個のHが置換基に置換されているものであってもよく、該置換基としては、例えばニトロ基等が挙げられる。
上記Rは、−CH−Ar(式中、Arは、置換基を1〜2個有していてもよいフェニル基を表す。)又はエチル基であることが好ましい。該フェニル基が有し得る置換基としては、ニトロ基が好ましい。上記Rは、−CH−Ph(Phは、フェニル基を表す。)であることがより好ましい。
【0039】
上記一般式(II)におけるYは、O又はSを表すが、Sであることが好ましい。
【0040】
上記一般式(II)で表されるイソ(チオ)ウレア化合物としては、ベンジルイソチオウレア塩酸塩〔CCHSC(NH)NH・HCl〕、
【0041】
【化2】

【0042】
で表されるS−(p−ニトロベンジル)イソチオウレア塩酸塩、
【0043】
【化3】

【0044】
で表されるS−(2,4−ジニトロベンジル)イソチオウレア塩酸塩等が好ましく、中でも、ベンジルイソチオウレア塩酸塩がより好ましい。
【0045】
上述の一般式(i)におけるRとしての炭化水素基は、上記一般式(II)におけるRと同じく、炭素数が1〜25であるものが好ましく、アリール基を含む炭化水素基又は炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましい。該「アリール基を含む炭化水素基」としては、アリール基のみであってもよいし、アリールアルキル基(アラルキル基)であってもよい。
上記一般式(i)において、上記Rとしての炭化水素基における置換基としては、該炭化水素基がアルキル基である場合、例えば、F等のハロゲン、酸素等のヘテロ原子等が挙げられ、炭化水素基が上記「アリール基を含む炭化水素基」である場合、例えばニトロ基等が挙げられる。
【0046】
一般式(i)において、QがR12O−であり、該R12が上記Rである場合、上記一般式(II)(但し、YがOである場合。R及びXは、上記定義のとおり。)で表されるイソウレア化合物等が挙げられる。該一般式(i)におけるR12としてのRは、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基がより好ましい。
上述の一般式(i)において、QがR1314N−である場合、R13及びR14におけるRとしては、アリール基又は炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、フェニル基、メチル基がより好ましい。
上記一般式(i)において、QがR−である場合、該Rとしては、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基がより好ましい。
上記一般式(i)において、上記Qは、R12O−、R1314N−、R−であることが好ましく、R12O−、R1314N−であることがより好ましい。
【0047】
本発明に用いる特定化合物としては、上述のイソチオウレア化合物の他に、1,1−ジメチルグアニジン硫酸塩[(CHNC(−NH)=NH]・HSO、グアニジン塩酸塩(NH=C(NH・HCl)、1,3−ジフェニルグアニジン(CNHC(−NHC)=NH)等のグアニジン化合物(R1314NC(−NHR)=NH);アセトアミジン塩酸塩(CHC(−NH)=NH・HCl)等のアセトアミジン系化合物(RC(−NH)=NH);O−メチルイソウレア硫酸塩(CHOC(−NH)=NH・1/2 HSO)等のイソウレア化合物(R12OC(−NH)=NH)等が好ましい。
【0048】
本発明において、水性液体に含まれる有機酸化合物をイソ(チオ)ウレア化合物その他の特定化合物の存在下に除去することは、
(1)水性液体に含まれる有機酸化合物をイソ(チオ)ウレア化合物その他の特定化合物の存在下に沈殿させることよりなる沈殿工程、及び、
(2)上記沈殿工程により生じた沈殿を水性液体から取り除くことよりなる除去工程
を含むものであることが好ましい。
【0049】
上記(1)沈殿工程は、実際には、有機酸化合物を含む水性液体にイソ(チオ)ウレア化合物その他の特定化合物を添加し、必要に応じて適宜攪拌することにより行うことができる。
上記イソ(チオ)ウレア化合物その他の特定化合物の添加と攪拌は、水性液体の液温0〜80℃にて行うことが好ましく、例えば15〜30℃の室温にて行うことができる。
【0050】
本発明において、イソ(チオ)ウレア化合物その他の特定化合物は、除去対象有機酸化合物を除去したい等量添加すれば十分である。添加量はその対象物質の除去目標によって決定されるが、除去効率の点で有機酸化合物に対し過剰量を添加することが好ましく、特定化合物の添加量としては、有機酸化合物1モル当り1〜20モルの割合であることが好ましく、1〜10モルの割合であることがより好ましい。
上記特定化合物が無機イオン化合物である場合、その添加量は、有機酸化合物1モル当り1〜20モルの割合であることが好ましい。上記特定化合物が塩基性有機化合物である場合、その添加量は、有機酸化合物1モル当り1〜20モルの割合であることが好ましい。
【0051】
上記(1)沈殿工程において、水性液体にイソ(チオ)ウレア化合物を添加したのち攪拌する場合、該攪拌の方法としては特に限定されず、通常、沈殿が目視により増加しなくなるまで適宜行えばよく、5〜60分間程度、スターラーを使用する、容器に入れて振り混ぜる等により行うことができる。
【0052】
上記(2)除去工程としては特に限定されず、例えば、上記(1)沈殿工程により生じた沈殿物を濾過、デカンテーション等により水性液体から取り除く等、公知の方法を用いることができる。
【0053】
上記(2)除去工程の後に水性液体中に残存する有機酸化合物の量は、例えば、水性液体の10ppm以下、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.1ppm以下、更に好ましくは0.01ppm以下とすることも可能である。
【0054】
上記(2)除去工程の後に水性液体は、有機酸化合物の含有量が低いので、例えば、含フッ素ポリマー粒子を含む場合、塗装、含浸、キャスト製膜、成形加工等に用いる際に、耐熱性、耐薬品性等の含フッ素ポリマーの物性が有機酸化合物に影響されることがない。
本発明の方法は、極めて簡便な方法により有機酸化合物を効率良く除去することができ、除去処理後の有機酸化合物の含有量が低いので、環境への影響が少なく、含フッ素ポリマー重合又はその後工程等により生じる廃水の処理を効率的かつ容易ならしめ、作業安全性を高め、環境への負荷を低減することができる。
【0055】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液製造方法は、精製工程を経て含フッ素ポリマー水性分散液を製造することよりなるものであって、上記精製工程は、上述の含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含む水性液体について、上述の水性液体精製方法を行うことからなるものである。
本明細書において、「含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含む水性液体」を、「水性液体A」ということがある。
【0056】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液製造方法において、上記精製工程は、含フッ素ポリマーの重合を行うことにより得られた重合上がりの水性分散液(含フッ素ポリマーからなる一次粒子を含む)について行うものであってもよいし、該重合上がりの水性分散液を希釈、濃縮等の後処理を行った後に行うものであってもよいし、含フッ素ポリマーの重合の後、公知の精製方法を行った後に行うものであってもよい。
【0057】
本発明の含フッ素ポリマー水性分散液製造方法において、使用する水性液体Aは、上述の含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含むものであれば、特に限定されないが、上述の水性液体精製方法に関し説明した範囲内で、含フッ素ポリマー粒子及び有機酸化合物を含有するものであることが好ましい。
【0058】
上記水性液体Aは、更に、得られる水性分散液における含フッ素ポリマーの分散安定性の点で、ノニオン性界面活性剤を含有するものであることが好ましい。
上記ノニオン性界面活性剤としては、例えば、下記一般式(i):
−O−A−H (i)
(式中、Rは、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数8〜19、好ましくは10〜16のアルキル基;Aは、炭素数8〜58のポリオキシアルキレン鎖)
で表されるポリオキシアルキレンアルキルエーテルからなるもの、下記一般式(ii):
−C−O−A−H (ii)
(式中、Rは、炭素数4〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基であり、Aは、炭素数8〜58のポリオキシアルキレン鎖である。)により表されるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルからなるもの等が挙げられる。
【0059】
本発明において、上記ノニオン性界面活性剤は、含フッ素ポリマー100質量部に対し15質量部以下であることが好ましい。含フッ素ポリマー100質量部に対し15質量部を超えると、存在量に見合った効果が得られない場合があり、また、目的とするノニオン性界面活性剤濃度に低減する必要がある場合、除去処理が煩雑となる。
上記ノニオン性界面活性剤濃度は、より好ましい上限が含フッ素ポリマー100質量部に対し10質量部、更に好ましい上限は5質量部であり、上記範囲内であれば、ノニオン性界面活性剤を存在させる効果を得る点で、0.5質量部以上であってもよい。
【0060】
本発明から得られる含フッ素ポリマー水性分散液は、有機酸化合物を、例えば、含フッ素ポリマーに対し1000ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下、更に好ましくは1ppm以下に相当する量とすることも可能である。
上記含フッ素ポリマー水性分散液は、有機酸化合物の含有量が低いので、例えば、塗装、含浸、キャスト製膜、成形加工等に用いる際に、耐熱性等の含フッ素ポリマーの優れた物性を活かすことができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の方法によれば、水性液体から有機酸化合物を簡便な処理により除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
実施例1
攪拌機及び冷却管を備えた25ml容量のフラスコに、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕1質量%水溶液1g(pH5.86)と、ベンジルイソチオウレア塩酸塩〔CCHSC(NH)NH・HCl〕2質量%水溶液10gとを加え、室温にて5分間攪拌した。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。攪拌後、110nm濾紙を用いて濾過した。得られた水溶液について19F−NMR(測定機器AC300P、Bruker Biospin製、検出限界20ppm。PFOA濃度測定について、以下同じ。)により測定したところ、PFOAに由来するピークは観測されなかった。
【0064】
実施例2
25ml容量のビーカーへ、ベンジルイソチオウレア塩酸塩1質量%水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加え、室温にて5分間撹拌したところ、白色の浮遊物が確認された。攪拌後、110nm濾紙を用いて濾過した。濾過したサンプルを19F−NMRで測定したところ、PFOAは検出限界以下であった。
【0065】
実施例3
ベンジルイソチオウレア塩酸塩0.1質量%水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は実施例2と同様の操作を行った。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0066】
実施例4
ベンジルイソチオウレア塩酸塩100ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、850ppmのPFOAが確認された。
【0067】
実施例5
エチルイソチオウレア臭酸塩0.4質量%水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は実施例2と同様の操作をした。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0068】
実施例6
エチルチオウレア臭酸塩500ppm水溶液11gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は実施例2と同様の操作をした。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。得られた水溶液において、180ppmのPFOAが確認された。
【0069】
実施例7
エチルチオウレア臭酸塩40ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、770ppmのPFOAが確認された。
【0070】
実施例8
ベンジルイソチオウレア塩酸塩100ppm水溶液10gを塩酸を用いてpHを1.2とした後、PFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をした。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0071】
実施例9
ベンジルイソチオウレア塩酸塩100ppm水溶液10gをアンモニア水を用いてpHを10とした後、PFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をした。攪拌後、白色の浮遊物が確認された。得られた水溶液において、100ppmのPFOAが確認された。
【0072】
実施例10
ベンジルイソチオウレア塩酸塩10ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、930ppmのPFOAが確認された。
【0073】
実施例11
1,1−ジメチルグアニジン硫酸塩6500ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0074】
実施例12
1,1−ジメチルグアニジン硫酸塩730ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0075】
実施例13
グアニジン塩酸塩2800ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、840ppmのPFOAが確認された。
【0076】
実施例14
HClでpHを1.3に調整した1,3−ジフェニルグアニジン3800ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、PFOAは検出限界以下であった。
【0077】
実施例15
HClでpHを1.3に調整した1,3−ジフェニルグアニジン600ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、140ppmのPFOAが確認された。
【0078】
実施例16
アセトアミジン塩酸塩3200ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、450ppmのPFOAが確認された。
【0079】
実施例17
O−メチルイソウレア硫酸塩6000ppm水溶液10gにPFOA1質量%水溶液1gを加える以外は、実施例2と同様の操作をしたところ、得られた水溶液において、140ppmのPFOAが確認された。
【0080】
実施例18
PFOA1500ppm水溶液40gに硫酸アルミニウム27質量%水溶液0.9gを加え撹拌後、溶液中のPFOA濃度を測定すると730ppmであった。
【0081】
実施例19
HCl水溶液でpHを3に調整したPFOA1500ppm水溶液40gに硫酸アルミニウム27質量%水溶液0.9gを加え撹拌後、溶液中のPFOA濃度を測定すると800ppmであった。
【0082】
実施例20
NH水溶液でpHを10に調整したPFOA1500ppm水溶液40gに硫酸アルミニウム27質量%水溶液0.9gを加え撹拌後、溶液中のPFOA濃度を測定すると250ppmであった。
【0083】
実施例21
PFOA1500ppm水溶液40gに塩化カルシウム5質量%水溶液1.6gを加え撹拌後、溶液中のPFOA濃度を測定すると1400ppmであった。
【0084】
実施例22
PFOA1500ppm水溶液40gに酢酸マグネシウム2.5質量%水溶液2.0gを加え撹拌後、溶液中のPFOA濃度を測定すると1400ppmであった。
【0085】
比較例1
25mlビーカーに、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕水溶液10g(PFOA濃度:1100ppm)と、尿素〔HNCONH〕0.4g(14mmol)とを加え、室温にて5分間攪拌した。攪拌後、30分間静置した。得られた水溶液について、下記条件にてHPLCを行い、PFOA濃度を測定したところ、1070ppmであった。
また、上記攪拌を4時間行った後に濾過して得られた水溶液について、同様にPFOA濃度を測定したところ、1070ppmであった。
【0086】
比較例2
25mlビーカーに、パーフルオロオクタン酸〔PFOA〕水溶液10g(PFOA濃度:1100ppm)と、アニリン〔CNH〕0.2g(2mmol)とを加え、室温にて5分間攪拌した。攪拌後、30分間静置した。得られた水溶液について、比較例1と同じ条件にてHPLCを行い、PFOA濃度を測定したところ、1100ppmであった。
また、上記攪拌を3時間行った後に濾過して得られた水溶液について、同様にPFOA濃度を測定したところ、1100ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の方法によれば、水性液体から有機酸化合物を簡便な処理により除去することができる。本発明から得られる含フッ素ポリマー水性分散液は、有機酸化合物の含有量が低いので、塗装、含浸、キャスト製膜、成形加工等に用いる際、耐熱性等の優れた含フッ素ポリマーの特性を発揮することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体に含まれる下記一般式(I)
−Z (I)
(式中、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される有機酸化合物を特定化合物の存在下に除去することよりなる水性液体精製方法であって、
前記特定化合物は、前記有機酸化合物と水不溶性塩を形成する陽イオンからなる無機イオン化合物、又は、前記有機酸化合物と水不溶性塩若しくは水不溶性配位物を形成する塩基性有機化合物である
ことを特徴とする水性液体精製方法。
【請求項2】
無機イオン化合物は、多価金属塩である請求項1記載の水性液体精製方法。
【請求項3】
多価金属塩を形成する多価金属は、Al、Ca又はMgである請求項2記載の水性液体精製方法。
【請求項4】
塩基性有機化合物は、下記一般式(i)
Q−C(−NHR)=NH (i)
(式中、Qは、RS−、R12O−、R1314N−又はR−を表し、R及びR12は、H又はRを表し、R13及びR14は、同一若しくは異なって、H又はRを表し、Rは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表す。)で表される化合物又はその酸塩である請求項1記載のノニオン性界面活性剤水性組成物製造方法。
【請求項5】
塩基性有機化合物は、一般式(i)におけるQがR12O−、R1314N−又はR−(R12、R13、R14及びRは、前記定義のとおり。)である化合物又はその酸塩であり、
前記酸塩を形成する酸は、HX(Xは、Cl又はBrを表す。)又はHSOである請求項4記載の水性液体精製方法。
【請求項6】
水性液体に含まれる下記一般式(I)
−Z (I)
(式中、Rは、直鎖若しくは分岐でヘテロ原子を有していてもよくHがFに置換されていてもよい炭化水素基、F又はHを表し、Zは、−COOM、−SO又はリン酸由来基を表し、Mは、H、NH、Na又はKを表す。)で表される有機酸化合物を下記一般式(II)
−Y−C(−NH)=NH・HX (II)
(式中、Rは、Hが置換されていてもよい炭化水素基を表し、Yは、O又はSを表し、Xは、Cl又はBrを表す。)で表されるイソ(チオ)ウレア化合物の存在下に除去することよりなる
ことを特徴とする水性液体精製方法。
【請求項7】
は、−CH−Ar(式中、Arは、置換基を1〜2個有していてもよいフェニル基を表す。)、又は、炭素数1〜3のアルキル基である請求項4、5又は6記載の水性液体精製方法。
【請求項8】
有機酸化合物は、平均分子量が1000以下である請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の水性液体精製方法。
【請求項9】
有機酸化合物は、炭素数が4〜12である請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の水性液体精製方法。
【請求項10】
有機酸化合物は、パーフルオロカルボン酸又はその塩である請求項1、2、3、4、5、6、7、8又は9記載の水性液体精製方法。
【請求項11】
水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在又は非存在下に有機酸化合物を含むものであり、
前記含フッ素ポリマー粒子は、前記水性液体の5質量%未満である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の水性液体精製方法。
【請求項12】
水性液体は、含フッ素ポリマー粒子の存在下に有機酸化合物を含むものであり、
前記含フッ素ポリマー粒子は、前記水性液体の5〜70質量%である請求項1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載の水性液体精製方法。
【請求項13】
含フッ素ポリマー粒子は、平均粒子径が50〜500nmである請求項11又は12記載の水性液体精製方法。
【請求項14】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、パーフルオロポリマーである請求項11、12又は13記載の水性液体精製方法。
【請求項15】
含フッ素ポリマー粒子を構成する含フッ素ポリマーは、ポリテトラフルオロエチレンである請求項11、12又は13記載の水性液体精製方法。
【請求項16】
精製工程を経て含フッ素ポリマー水性分散液を製造することよりなる含フッ素ポリマー水性分散液製造方法であって、
前記精製工程は、請求項12、13、14又は15記載の水性液体精製方法により行うものである
ことを特徴とする含フッ素ポリマー水性分散液製造方法。

【公開番号】特開2006−206866(P2006−206866A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182665(P2005−182665)
【出願日】平成17年6月22日(2005.6.22)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】