説明

水性粘着剤組成物及び粘着剤塗工物

【課題】 本発明の課題は、特にグラビア方式により水性粘着剤を塗工する場合において、塗工表面のカスレやハジキなどがなく、かつ平滑な塗工表面を得る事ができる水性粘着剤組成物とその塗工方法、およびそれにより得られる粘着剤塗工物を提供する事にある。
【解決手段】 エチレン性不飽和単量体(A)を、乳化剤、重合開始剤及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有し、25℃雰囲気下においてBL型粘度計を用いて測定した粘度が1000mPa・s以下であり、またレオメーターを用いて測定した時の、せん断速度1.0×10-2(1/s)における粘度が2.0×10-1Pa・s以上7.0×101Pa・s以下であり、かつ1.0×103(1/s)における粘度が2.0×10-2Pa・s以上9.0×10-2Pa・s以下である事を特徴とする水性粘着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性粘着剤組成物に関するものである。詳しくは優れた塗工性を有する水性粘着剤組成物に関する。さらに詳しくは特にグラビア方式による塗工装置を用いて塗工する場合において、塗工表面のカスレやハジキなどがなく、かつ平滑な塗工表面を得る事ができる水性粘着剤組成物に関するものである。
さらに、本発明は、上記水性粘着剤組成物の塗工方法に関する。
また、本発明は、上記塗工方法により得られる粘着剤塗工物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年安全衛生および環境問題に対する配慮から脱溶剤化が進行し、粘着剤においても溶剤型から水性型への移行が望まれている。その用途は多岐にわたり、紙やフィルム等の基材上に粘着剤層が設けられ、さらにその上に剥離性シートが貼り合わされた形態で、粘着テープや粘着ラベルなどの粘着剤塗工物として流通しており、使用時に剥離性シートを剥がして被着体に貼り付けるのが一般的である。
【0003】
上記の粘着剤塗工物を得る際、基材上に直接粘着剤を塗工、乾燥した後、粘着剤層に剥離性シートを貼り合わせる方法と、剥離性シート上に粘着剤を塗工、乾燥した後に粘着剤層に基材を貼り合わせ、貼着時に粘着剤層を基材上に転移させる方法がある。
いずれの方法によっても粘着剤塗工物を得る事ができるのであるが、基材上に粘着剤を塗工する場合、基材の種類によっては、特にフィルム基材を使用した場合、粘着剤を塗工した後の乾燥工程において熱により基材が変形するという不都合が生じやすい。そのため特にフィルムを基材とする場合には、剥離性シート上に粘着剤を塗工する方法が一般に採用されている。
【0004】
剥離性シートは、セパレーターとも称されるものであり、紙やプラスチックフィルムの少なくとも一方の面がシリコン等により剥離処理されてなるものである。即ち、剥離性シートは剥離処理面の表面エネルギーが低く、剥離性シートの剥離処理面は、水性媒体では濡れにくいという欠点がある。その結果、溶剤型粘着剤に比べて水性粘着剤は、剥離性シート基材に塗工する際にハジキやカスレが発生したり塗工面にスジが現れたりする等の欠陥を生じやすいので、一般に良好な塗工表面が得られにくい。そして、粘着剤の分野ではこれが原因となって溶剤型から水性型への移行が速やかになされていないのが実状である。
【0005】
特に凹版を用いるグラビア方式によって塗工する場合、コンマコーター、スロットダイコーター、リップコーター等の方式とは異なり、粘着剤がグラビア版の溝の中に一度充填され、しかる後に溝の中から脱離して、基材あるいは剥離シート上に転着するという特異的な過程を経る。従って、前記の他の塗工方式とは異なった特性、例えば最初にグラビア版の微細な溝の内部に粘着剤が十分に侵入し得るための要件を具備する事などが粘着剤に必要とされる。
そのため前記の他の方式において良好な塗工性が得られる粘着剤組成物が、グラビア方式で塗工された場合、必ずしも良好な結果が得られるとは限らず、特にグラビア方式を用いる場合にはそのための流動特性に関する必要条件の把握およびそれらを最適化せしめる制御手段を得る事が望ましいのであるが、これまでグラビア方式による粘着剤塗工においてその塗工性を実用に供せられるまでに向上させ得る有用な流動特性については十分に把握されていなかった。
【0006】
さらに、粘着剤の塗工速度については、従来はたかだか100m/分程度までの速度にておこなうのが一般的であったが、今日生産性向上や生産コスト低減を目的として塗工の速度を速める事が求められるようになって来ており、塗工速度が速くなればなるほど上記の塗工欠陥はますます生じやすくなってしまうため、高速塗工に十分適応できる水性粘着剤が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特にグラビア方式により水性粘着剤を塗工する場合において、塗工表面のカスレやハジキなどがなく、かつ平滑な塗工表面を得る事ができる水性粘着剤組成物とその塗工方法、およびそれにより得られる粘着剤塗工物を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者はグラビア方式による水性粘着剤の塗工において、グラビア版の溝内部への粘着剤の十分な追従性の付与、および塗工後の粘着剤塗膜のレベリングによる塗膜表面の平滑化という二つの点に特に着目し、鋭意検討をおこなった。
グラビア方式により塗工をおこなう場合、塗工時には粘着剤はグラビアロールとの間で高せん断速度を受ける事となるが、この条件下においてグラビア版の溝の内部に粘着剤が侵入し、十分に溝が充填される事がまず必要となり、それに適する適正な粘度を有している必要がある。すなわち高せん断速度下における最適な粘度範囲が存在する。
一方、粘着剤が塗工された後、すなわちグラビア版の溝より粘着剤が脱離して基材あるいは剥離シート上に転着された後にはせん断速度はほとんど掛からないのであるが、この条件下での粘着剤の粘度が適正でないとハジキが生じたり、あるいは塗膜がレベリングして広がる事ができずにグラビア版の溝の模様がそのまま残ってしまう、いわゆる版目残りという現象を引き起こして平滑性が極めて劣る塗膜となってしまう。すなわち前記の高せん断速度下に加えて、低せん断速度下における最適な粘度範囲も存在するのである。
本発明者はグラビア方式による粘着剤塗工において、良好な塗工表面が得られるための高せん断速度下及び低せん断速度下における適正な粘度の範囲を見出すと共に、ある特定構造の化合物を添加剤として用いる事により上記の適正な粘度範囲を容易に満足し得る水性粘着剤組成物を得られる事を見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、第1の発明は、エチレン性不飽和単量体(A)を、乳化剤、重合開始剤及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有し、25℃雰囲気下においてBL型粘度計を用いて測定した粘度が1000mPa・s以下であり、またレオメーターを用いて測定した時の、せん断速度1.0×10-2(1/s)における粘度が2.0×10-1Pa・s以上7.0×101Pa・s以下であり、かつ1.0×103(1/s)における粘度が2.0×10-2Pa・s以上9.0×10-2Pa・s以下である事を特徴とする水性粘着剤組成物に関する。
【0010】
第2の発明は、エチレン性不飽和単量体(A)を、乳化剤、重合開始剤及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体と、アセチレンジオールの三重結合部に水素添加してなる化合物(B)及び/又は一般式[I]で表される構造を有する化合物(C)とを含有することを特徴とする上記第1の発明に記載の水性粘着剤組成物に関する。
【0011】
【化1】

【0012】
第3の発明は、上記いずれかの発明に記載の水性粘着剤組成物をグラビア方式により塗工する事を特徴とする水性粘着剤組成物の塗工方法に関し、
第4の発明は、塗工速度が50〜600m/分である事を特徴とする上記発明に記載の水性粘着剤組成物の塗工方法に関する。
【0013】
第5の発明は、上記いずれかの発明に記載の塗工方法を用いて塗工した粘着剤塗工物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の水性粘着剤組成物は、従来特に高速での塗工が困難とされていたグラビア方式による塗工において、粘着剤塗膜のカスレやハジキ、チヂミ、あるいはグラビア版の版目残りといった表面不良を引き起こさず、平滑性に優れた均一な塗膜表面を得る事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明で得られる水性粘着剤組成物は下記の粘性特性を有するものであり、ここに本発明の特徴がある。すなわち、25℃雰囲気下においてBL型粘度計を用いて測定した粘度が1000mPa・s以下であり、またレオメーターを用いて測定した時の、せん断速度1.0×10-2(1/s)における粘度が2.0×10-1Pa・s以上7.0×101Pa・s以下であり、かつ1.0×103(1/s)における粘度が2.0×10-2Pa・s以上9.0×10-2Pa・s以下である。
なお、ここで言うBL型粘度計を用いて測定した粘度とは、BL型粘度計により、#3ローターを使用して60rpmの回転数で測定した時の粘度を示す。
またレオメーターによる粘度とは、Rheometric Scientific社の「Dynamic Stress Rheometer RS−200」により、Couette型の測定治具を使用して以下の条件で測定した時の粘度を示す。(ボブの直径=29.5mm、ボブの長さ=44.1mm、カップの内径=31.5mm。測定方式:Steady rate sweep、Sweepmode:log、Point per decade:10points、Mesurement time:10sec、測定範囲:1.0×10-3〜1.0×103(1/s)。)
【0016】
粘着剤組成物の、BL型粘度計を用いて測定した粘度が1000mPa・sを超えると、塗工速度が高速になった場合、例えば100m/分以上の速度で塗工をおこなった場合に塗膜表面に筋引きが発生しやすくなるため好ましくない。
【0017】
また、レオメーターを用いて測定される粘着剤組成物の粘度が、1.0×10-2(1/s)において2.0×10-1Pa・s未満では、塗工後の塗膜のハジキや塗工面の端部にチヂミが発生しやすくなり、7.0×101Pa・sを超えると塗膜のレベリング性が不足し、版目残りを引き起こして塗膜表面の平滑性が悪くなるという問題を生じる。
さらに、1.0×103(1/s)における粘度が、2.0×10-2Pa・s未満の場合は、グラビア版の溝に一旦充填された粘着剤が、基材又は剥離シート上に転着する前に溝から離脱していまい、ミストとなって周辺部に付着して塗工欠陥、および塗工装置周辺の汚染を引き起こす原因となる。また1.0×103(1/s)における粘度が、9.0×10-2Pa・sを超えるとグラビア版の溝の中に粘着剤が十分に充填されず、所望の塗膜厚さが得られにくい、あるいは塗工面にカスレが発生するという不都合を生じる。
【0018】
次に、本発明で使用する粘着剤用樹脂組成物水性分散体について説明する。
本発明に用いられるエチレン性不飽和単量体(A)として、(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、[メチルアクリレートとメチルメタクリレートを併せてメチル(メタ)アクリレートと表記する。以下同様。]、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖または分岐脂肪族アルコールのアクリル酸エステル及び対応するメタクリル酸エステルなどが例示できる。なかでも、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、70〜99.5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0019】
上記単量体(a)は、(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体と共重合する事が好ましい。
(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0020】
(a)、(b)以外の単量体としては、必要に応じて配合する架橋剤の種類に応じて、(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体や(d)カルボニル基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体が用いられる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、イソシアネート化合物、チタンやジルコニウムなどの金属のアルコキシド化合物等が挙げられる。
【0021】
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、好ましくは4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトンなど)、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリレート−アセチルアセテート等が例示できる。
これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、アミン類、ヒドラジド化合物等が挙げられる。
【0022】
その他の単量体としては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ−(2−ヒドロキシエチル−α−クロロ(メタ)アクリレート)アシッドホスフェート、ビニルブロックトイソシアネート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−トリブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルエステル、ビニルピリジン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレンなどが例示できる。これらは必要に応じて、30重量%以下で含有することができ、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0023】
さらに、本発明で使用する粘着剤用樹脂組成物水性分散体中の分散粒子は、粒子内架橋構造を有していてもよい。
粒子内架橋剤としては、フタル酸のジアリルエステルや多官能アクリル系単量体等の各種多官能単量体を用いる事ができる。
フタル酸のジアリルエステルとしては、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のジアリルエステルが、
また、多官能アクリル系単量体としては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらはエチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.1〜3重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事もできる。
【0024】
本発明で使用する粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得る際に用いる乳化剤としては、反応性乳化剤、非反応性乳化剤などが、単独であるいは2種類以上併用して用いることができるが、耐水性などを考慮すれば、反応性乳化剤を用いる方が好ましいのであるが、これに限定されるものではない。
【0025】
反応性乳化剤としては以下の化合物を例示することができる。
アニオン系乳化剤としてはノニルフェニル骨格の旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSE−10N」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンHS−10、HS−20」等、長鎖アルキル骨格の第一工業製薬株式会社製「アクアロンKH−05、KH−10」、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSR−10N」等、燐酸エステル骨格の日本化薬株式会社製「KAYARAD」等が例示できる。
ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類等の分子末端あるいは中間部に不飽和二重結合を有し、単量体と共重合するものであり、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープNE−10」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンRN−10、RN−20、RN−50」、日本乳化剤株式会社製「アントックスNA−16」等が例示できる。
【0026】
また非反応性乳化剤としては、以下の化合物を例示する事ができる。
アニオン系乳化剤としてはステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類等が例示できる。
ノニオン系乳化剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類等が例示できる。
【0027】
本発明に用いられる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩またはアゾビス系カチオン塩または水酸基付加物質などの水溶性の熱分解型重合触媒、またはレドックス系重合触媒を用いることができる。レドックス系重合触媒としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤との組み合わせ、または過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウムなどの組み合わせ、過酸化水素水とアスコルビン酸の組み合わせなどが挙げられる。
【0028】
本発明で使用する粘着剤用樹脂組成物水性分散体は、エチレン性不飽和単量体(A)を重合する際に、分子量や分子量分布を制御するための連鎖移動剤として、メルカプタン系、チオグリコール系、βメルカプトプロピオン酸などのチオール系化合物などを用いることができる。添加量は、エチレン性不飽和単量体(A)の総量100重量部に対して0.01〜10.0重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましい。
【0029】
次に、本発明の粘着剤組成物について説明する。
本発明の粘着剤組成物は、上記粘着剤用樹脂組成物水性分散体に必要に応じて粘着付与樹脂、架橋剤、消泡剤、可塑剤、充填剤、中和剤、着色剤、シランカップリング剤、防腐剤、レベリング剤、粘性調整剤などを添加してなるものであり、好ましくはアセチレンジオールの三重結合部に水素添加してなる化合物(B)及び/又は一般式[I]で表される構造を有する化合物(C)を添加してなるものである。化合物(B)、(C)は、それぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0030】
樹脂組成物水性分散体の粘度は、低せん断速度においては一般に高く観測され、せん断速度の増加に伴って低下する傾向を示し、せん断速度に対する粘度の依存性が非常に大きい。そのために本発明で特定する、高せん断速度下及び低せん断速度下におけるそれぞれの好ましい粘度範囲は両立させにくいのであるが、上記の化合物(B)および化合物(C)は、特に粘着剤組成物の低せん断速度下における粘度を低下させる効果を奏し、本発明で特定する流動特性を得やすいので、好ましく用いる事ができる。
【0031】
アセチレンジオール化合物は水素添加されていない構造のものであっても上記のような効果も一応は得られる。しかし、分子構造中に三重結合が存在すると該化合物が水に極めて溶解ないし分散しにくいので、前もって有機溶剤に溶解して、あるいは乳化剤を用いて水分散物として添加する必要があり、安全衛生および環境面において、あるいは生産コスト増加につながるため好ましくない。そこで、本発明では、アセチレンジオールの三重結合部に水素添加してなる化合物(B)が好適に用いられる。
アセチレンジオールの三重結合部に水素添加してなる化合物(B)としては、例えばエアープロダクツ・アンド・ケミカルズ社製「エンバイロジェムAD01」などが例示できる。
【0032】
一般式[I]で表される構造を有する化合物(C)としては、例えば日本乳化剤(株)製「DMH−40」(式中のm+n=4)などが例示できる。
【0033】
化合物(B)及び/又は化合物(C)の含有量は、水性粘着剤組成物100重量%中に0.01〜10重量%が好適であり、より好ましくは0.05〜5重量%である。
【0034】
本発明の粘着剤組成物を、コンマコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアコーター、カーテンコーター等の各種塗工装置により、紙またはフィルム基材、もしくは剥離性シート上に塗布し、乾燥することによって、粘着シート、粘着ラベル等の各種粘着塗工物を得ることができるのであるが、特にグラビア方式のコーターを使用して塗工する事が好ましい。
ここで言うグラビア方式のコーターとは、パンフィードグラビアコーター、ダイフィードグラビアコーター、アークグラビアコーター、オフセットグラビアコーター、グラビアチャンバーコーター等を包含するが、これらに限定されるものではない。
【0035】
上記の塗工装置により基材又は剥離性シート上に粘着剤組成物を50〜600m/分で塗布した後、80℃〜120℃で乾燥することが好ましい。乾燥温度が80℃以下では乾燥しにくく、乾燥に長時間を要する。他方、120℃よりも高温で乾燥すると、基材または剥離性シートの熱劣化を生じ、好ましくない。
紙またはフィルム基材上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に剥離性シートと貼り合わせることにより、また剥離性シート上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に紙またはフィルム基材と貼りあわせることにより、どちらの手法によっても各種粘着塗工物を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下に実施例によって本発明を説明するが、これに限定されるものではない。実施例中にある部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ示す。
(実施例−1)
2−エチルヘキシルアクリレート22.2部、ブチルアクリレート70部、メチルメタクリレート7部、アクリル酸0.7部、ジアセトンアクリルアミド0.1部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して反応性アンモニア中和型アニオン性乳化剤として第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計および上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を74部、アクアロンKH−10を0.1部仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温し、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.15部添加した。5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.45部を別の滴下口から3時間かけて滴下した。
内温を80℃に保ったまま、上記乳化物および3%過硫酸カリウム水溶液滴下終了30分後に、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.06部を2回に分けて30分おきに添加した。
さらに撹拌しながら80℃にて2時間熟成した後冷却し、アンモニア水にてpH=7.5に調整して固形分45%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
【0037】
この混合物100部に対して、粘性調整剤としてローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製「プライマルASE−60」0.6部、および旭電化工業(株)製「アデカノールUH−420」0.4部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。
得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は530mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において4.8Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.044Pa・sであった。
【0038】
得られた水性粘着剤組成物をパンフィードグラビアコーターにより300m/分の速度で紙を支持体とする剥離性シート上に乾燥塗膜量が15g/m2になるように塗工し、120℃の乾燥オーブンで乾燥させ、厚さ50μmのPETフィルムとラミネートして巻き取り、粘着剤塗工物を得た。
【0039】
(実施例−2)
実施例−1で得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
この混合物100部に対して、粘性調整剤としてサンノプコ(株)製「SNシックナー613」0.5部および旭電化工業(株)製「アデカノールUH−540」0.8部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は760mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において34Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.034Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0040】
(実施例−3)
2−エチルヘキシルアクリレート26.1部、ブチルアクリレート65部、メチルメタクリレート8部、アクリル酸0.8部、ジアセトンアクリルアミド0.1部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。以下、実施例−1と同様にして固形分45%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
【0041】
この混合物100部に対して、化合物(B)としてエアープロダクツ・アンド・ケミカルズ社製「エンバイロジェムAD01」0.4部、さらに粘性調整剤として「プライマルASE−60」0.9部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。
得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は310mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において0.90Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.065Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0042】
(実施例−4)
実施例−3で得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
この混合物100部に対して、化合物(C)として一般式[I]で表され、(m+n)=2なる化合物を0.6部、さらに粘性調整剤として「プライマルASE−60」0.7部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は220mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において0.53Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.056Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0043】
(実施例−5)
2−エチルヘキシルアクリレート91.2部、メチルメタクリレート8部、アクリル酸0.7部、ジアセトンアクリルアミド0.1部、これら全エチレン性不飽和単量体100部に対して「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加えて攪拌して乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。以下、実施例−1と同様にして固形分45%の粘着剤用樹脂組成物水性分散体を得た。
得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
この混合物100部に対して、化合物(C)として日本乳化剤(株)製「DMH−40」(一般式[I]で表され、(m+n)=4なる化合物)を0.4部、さらに粘性調整剤として「プライマルASE−60」0.5部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は180mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において0.38Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.048Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0044】
(比較例−1)
実施例−1で得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
この混合物100部に対して、粘性調整剤として「プライマルASE−60」1.8部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は1150mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において105Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.069Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0045】
(比較例−2)
実施例−1で得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えた。
この混合物100部に対して、粘性調整剤として「アデカノールUH−420」1.5部を加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は820mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において4.8Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.180Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0046】
(比較例−3)
実施例−1で得られた粘着剤用樹脂組成物水性分散体に、架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.1部加えてよく攪拌し、水性粘着剤組成物を得た。得られた水性粘着剤組成物の25℃でのBL型粘度計による粘度は80mPa・sであり、又レオメーターによる粘度は、1.0×10-2(1/s)において0.11Pa・sであり、1.0×103(1/s)において0.012Pa・sであった。
以下、実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0047】
[評価方法]
得られた塗工物の表面を目視観察し、以下の項目を評価した。表1に評価結果を示した。
1)塗工面の筋引き
○:筋引きなし。
×:筋引きあり。
【0048】
2)塗工面のカスレ
○:カスレなし。
×:カスレあり。
【0049】
3)塗工面の版目残り
○:版目残りなし。
×:版目残りあり。
【0050】
4)塗工面のハジキ
○:ハジキなし。
×:ハジキあり。
【0051】
5)塗工面端部のチヂミ
○:チヂミなし。
×:チヂミあり。
【0052】
6)ミストによる汚染
○:汚染なし。
×:汚染あり。
【0053】
【表1】

【0054】
比較例−1に示されるように、本発明で特定する粘度範囲を逸脱し、レオメーターでの測定による1.0×10-2(1/s)における粘度が高すぎる場合、塗工後の塗膜のレベリング性不良に起因するグラビア版の版目残りが認められ、平滑性の悪い塗膜となってしまっている。さらにBL型粘度計による粘度も高すぎるため、表面に筋引きが見られる。また比較例−2に示されるように、1.0×103(1/s)における粘度が高すぎる場合、塗工表面にカスレが発生して不均一な表面となっている。さらに比較例−3に示されるように、1.0×10-2(1/s)における粘度および1.0×103(1/s)における粘度が低すぎる場合、塗工表面にハジキが発生しているのみならずチヂミが発生し、粘着剤塗膜の端部が厚く盛り上がってしまっている。さらに塗工装置の周辺がミストにより著しく汚染されている。
これに対し本発明で特定する水性粘着剤組成物を用いた場合、塗工後の塗膜に筋引きやカスレ、版目残り、ハジキ、チヂミは認められず、均一な粘着剤塗膜となっており、かつミストの発生による塗工装置周辺の汚染や塗膜の欠陥を生じる事なく、良好な粘着剤塗工物が得られている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン性不飽和単量体(A)を、乳化剤、重合開始剤及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体を含有し、25℃雰囲気下においてBL型粘度計を用いて測定した粘度が1000mPa・s以下であり、またレオメーターを用いて測定した時の、せん断速度1.0×10-2(1/s)における粘度が2.0×10-1Pa・s以上7.0×101Pa・s以下であり、かつ1.0×103(1/s)における粘度が2.0×10-2Pa・s以上9.0×10-2Pa・s以下である事を特徴とする水性粘着剤組成物。
【請求項2】
エチレン性不飽和単量体(A)を、乳化剤、重合開始剤及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる粘着剤用樹脂組成物水性分散体と、アセチレンジオールの三重結合部に水素添加してなる化合物(B)及び/又は下記一般式[I]で表される構造を有する化合物(C)とを含有することを特徴とする請求項1記載の水性粘着剤組成物。
【化1】

【請求項3】
請求項1または2記載の水性粘着剤組成物をグラビア方式により塗工する事を特徴とする水性粘着剤組成物の塗工方法。
【請求項4】
塗工速度が50〜600m/分である事を特徴とする請求項3記載の水性粘着剤組成物の塗工方法。
【請求項5】
請求項3または4記載の塗工方法を用いて塗工した粘着剤塗工物。


【公開番号】特開2006−16511(P2006−16511A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196378(P2004−196378)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】