説明

水性顔料分散液及びその製造方法

【課題】 サーマル方式のインク原料としてに適用されたときの吐出特性、耐水性および耐光性に優れた特性を示す、水性顔料分散液を提供する。
【解決手段】 (A)スチレンモノマー及び(B)酸基を有するモノマー成分を含む共重合樹脂と、水溶性有機溶剤と、顔料とからなる水性顔料分散液において、前記共重合樹脂の酸価に対する中和率が40〜120モル%となるアルカリ剤を含有し、前記共重合樹脂中の(A)スチレンモノマーと(B)酸基を有するモノマー成分との質量比率が(A):(B)=9:1〜6:4であり、かつ前記水溶性有機溶剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール等から選ばれる多価アルコールであって、25℃で該樹脂が該水溶性有機溶剤と、重量比で1:4になるように混合されたとき膨潤状態を示すような樹脂と水溶性有機溶剤の組み合わせを用いる水性顔料分散液、その製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水性顔料分散液及び、該水性顔料分散液の製造方法に関し、特にインクジェット記録用水性顔料インク組成物の製造に適した水性顔料分散液、および水性顔料分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水を主成分とする液媒体中に顔料を分散して成る水性顔料分散液は、顔料、水、有機溶剤、樹脂、アルカリ剤を配合し分散機を用いて分散処理を行うのが一般的である。例えば、顔料の分散方法としては特開平1−204979号公報が挙げられ、ペン先乾燥性に優れたインクの検討例が、また、特開平1−249869号公報には顔料インクを使用したインクジェット記録方式が記載されている。さらに、特許平5−25413号公報には不溶性樹脂粒子を含むインクジェット記録用インクが記載されており耐擦過性、分散安定性を改良した顔料インクが提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の水性顔料分散液の分散安定性は不十分であり、インクジェット記録用インクとして用いた場合、特にサーマル方式での吐出特性は満足出来るものではなかった。また、インクの耐擦過性、耐光性および耐水性に関しても、満足な結果を与えるものではなく、依然、改善する試みがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−204979号公報
【特許文献2】特開平1−249869号公報
【特許文献3】特許平5−25413号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解決した、分散安定性、長期保存安定性に優れた水性顔料分散液であって、特にインクジェット記録用インクの原料として使用され、特にサーマル方式のインク原料としてに適用されたときの吐出特性、耐水性および耐光性に優れた特性を示す、水性顔料分散液、およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、少なくとも水と非水溶性モノマーを含む樹脂と水溶性有機溶剤と顔料で得られる水性顔料分散液において、水溶性有機溶剤が25℃において前記非水溶性モノマーを含む樹脂と重量比で4:1になるように混合した場合(水溶性有機溶剤:非水溶性モノマーを含む樹脂樹脂=4:1)、膨潤状態を示すような樹脂と水溶性有機溶剤の組み合わせを用いることにより分散安定性、耐光性および耐水性に優れた水性顔分散液が得られることを見出した。
【0007】
非水溶性モノマー成分を有する樹脂、顔料および25℃において樹脂と重量比で4:1になるように混合した場合(樹脂=1 水溶性有機溶剤=4)、膨潤状態を示すような樹脂と水溶性有機溶剤を含む系では、顔料への樹脂の吸着が、樹脂が顔料表面を包み込み、安定な皮膜を形成するように効果的に行われ易い。一方、樹脂が水溶性有機溶剤に完全溶解し、溶剤中に非局在化する場合には、本願発明のような効果的な吸着は進みにくい。また、この顔料分散液中に水が加わると、顔料と樹脂の親和性および樹脂と水との親水性を効果的に引き出すことが可能となる。このため分散安定性、長期保存安定性に優れた水性顔料分散体を実現できる。このような水性顔料分散液中では、顔料は樹脂に内包された状態で水媒体中に安定に存在する。このため分散安定性、長期保存安定性に優れ、且つ耐水性、発色性が極めて良好な水性顔料分散液を実現出来る。
【発明の効果】
【0008】
本発明の水性顔料分散液の製造方法によれば、分散安定性、長期保存安定性に優れたインクを提供可能であり、水性インク、記録液等に好適に用いることができる。インクジェット記録用インクにした場合、特にサーマル方式に適応した場合、吐出安定性に優れ、耐水性および発色性が極めて良好なインクとなる。また、本発明の製造方法によって得られる水性顔料分散液は筆記具、他の一般的な印刷方法、水性塗料等の色材としても使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における非水溶性モノマーを含む樹脂としては、特に(A)スチレンモノマー成分と(B)酸基を有するモノマー成分とを含む共重合樹脂であることが好ましい。またさらに酸基を有するモノマーが水溶性モノマーであることがより好適である。酸基を有するモノマー成分としては、例えば(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等が挙げられるが、本発明では、特に(メタ)アクリル酸に由来する構造を有しているものが好ましい。
【0010】
本発明においては、非水溶性モノマー成分として、少なくともスチレンモノマーと酸基を有するモノマー成分とを含む共重合樹脂がより好適に使用できるが、樹脂の顔料への吸着力および顔料の分散安定性の点からすれば、共重合樹脂中の〔(A)スチレンモノマー+(B)酸基を有するモノマー成分〕の含有率が50〜100質量%であり、かつ、(A)スチレンモノマーと(B)酸基を有するモノマー成分との質量比率が(A):(B)=9:1〜1:9であることが好ましい。さらに擦過性および耐水性性の点からすれば共重合樹脂中の〔(A)スチレンモノマー+(B)酸基を有するモノマー成分〕の含有率が80〜100質量%であり、かつ、(A)スチレンモノマーと(B)酸基を有するモノマー成分との質量比率が(A):(B)=9:1〜6:4であることが好ましい。
【0011】
また、長期的な保存安定性の点からは、樹脂の酸価は60〜300mgKOH/gが好ましく、特に100〜180mgKOH/gの範囲が好ましい。酸価が60より小さいと分散効果が小さく、良好な分散液が得られない。一方、酸価が300より大きいと顔料の凝集が発生しやすい。なお酸価とは、樹脂1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mgKOH/gで表す。また水溶性有機溶剤としては、1、5−ペンタンジオールもしくはジエチレングリコールが好ましく、特にジエチレングリコールを用いると、水性顔料分散液中の顔料の体積平均粒径を小さくすることができるためさらに好ましい。
【0012】
25℃において前記共重合樹脂と重量比で4:1になるように混合した場合、樹脂が膨潤状態を示すような水溶性有機溶剤は、樹脂に応じて適宜選択することができ、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびそれらの誘導体のようなグリコールと、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、および同族のジオールのようなジオールと、ラウリン酸プロピレングリコールのようなグリコールエステルと、エチレングリコールモノブチルエーテル、カルビトールのようなジエチレングリコールエーテル、ジエチレングリコールモノエチル、ブチル、ヘキシルの各エーテル、プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブのようなモノグリコールエーテルおよびジグリコールエーテルと、ブチルアルコール、ペンチルアルコール、および同族のアルコールのような長鎖アルコールとスルホラン、エステル、ケトン、γ−ブチロラクトンのようなラクトン、N−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンのようなラクタム、およびグリセリンおよびその誘導体のような他の溶剤を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
これらの水溶性有機溶剤は樹脂に応じて1種類もしくは数種類を適宜選択し、併用してもよい。
【0014】
本発明の水性顔料分散液の製造方法においては、25℃において樹脂と重量比で4:1になるように混合した場合(樹脂=1 水溶性有機溶剤=4)、樹脂が膨潤状態を示すような水溶性有機溶剤を必須成分として、共重合樹脂と顔料を混合、粉砕又は分散して水性顔料分散液を得るのであるが、この工程における作業効率の点、樹脂の溶解性若しくは膨潤性の点からいえば高沸点、低揮発性且つ高表面張力の多価アルコール類が好ましい。とくに前述したように1、5−ペンタンジオールもしくはジエチレングリコールが好ましく。分散液中の顔料の小粒径化の点でジエチレングリコールがさらに好ましい。
【0015】
但し、これらの添加量の増加は酸基を有するモノマー成分の過溶解、過膨潤を引き起こし、また、水性顔料分散液粘度を増大させることから、このような水溶性有機溶剤の含有量としては共重合樹脂中の(A)スチレンモノマーの含有率によっても若干異なるが、(C)顔料と(D)水溶性有機溶剤の比率が(C):(D)=1:1〜1:10であることが好ましく、より好ましくは(C):(D)=1:1〜1:3である。
【0016】
上述のようにして得られる水性顔料分散液は酸性を示すことから、通常インクとして用いる場合には、インク容器あるいはインク使用部材に対する腐食等を防止するために、樹脂溶液の一部又は全部を中和させる。このような中和操作を行うには、水性顔料分散液製造後にアルカリ剤を用いてもよいが、水性顔料分散液の製造工程において水分散と同時にアルカリ剤を添加する事が好ましい。こうすることにより、共重合樹脂はスチレンモノマーのような非水溶性モノマー成分に内包された顔料を核に水溶液中で効率良くミセル化または高分子配向を生じるのである。
【0017】
酸基を有するモノマー成分を中和するアルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミン等の塩基が使用可能である。
【0018】
樹脂の酸価に対するアルカリ剤による中和率は、顔料の粒子径と分散安定性から30〜200モル%相当が好ましく、特に40〜120モル%が好ましい。中和率が30モル%より小さいと分散効果が少なく顔料粒径が充分に小さくならない。一方中和率が200モル%より大きいと分散安定性が悪化し、長期放置においてはゲル状に変化することもある。ここで中和率は下記の式によって計算された値である。
【0019】
【数1】

【0020】
樹脂の分子量範囲は特に制限はないが、重量平均分子量で、2000以上10万以下の分子量範囲が好ましい。低分子量樹脂は初期的な分散性が優れているが、長期的な保存安定性の点から4000以上が好ましく、樹脂の溶解性の点から考えると、樹脂の分子量は2万以下が好ましい。
【0021】
本発明に用いられる非水溶性モノマーを含む樹脂は、好適には、非水溶性モノマー成分としてのスチレンモノマーと酸基を有するモノマー成分とを含む樹脂であるが、スチレンモノマーに代わって、その他の非水溶性モノマー成分を使用しても良いし、スチレンモノマーと他の非水溶性モノマーが併用されていてもよい。このような非水溶性モノマー成分としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートの如き(メタ)アクリル酸アルキルエステル類およびその誘導体;フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニルエチル(メタ)アクリレートの如き(メタ)アクリル酸アリルエステル類およびその誘導体等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いられることのできる顔料は特に制限はなく、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。
【0023】
顔料を分散させる方法としては、メディアを使った分散方装置が効果的であるが、公知公用の分散装置を用いることが出来る。例えば、超音波ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、ナノマイザー、アジテーターミル、プラネタリ等が挙げられる。
【0024】
このようにして製造された本発明の水性顔料分散液は、分散安定性に優れ、長期保存安定性に優れるものである。
【0025】
なお、本発明の水性顔料分散液をインクとして用いる場合、特にインクジェット記録用インクとして使用する場合は、前記の25℃において樹脂と重量比で4:1になるように混合した場合、樹脂が膨潤状態を示すような高沸点の水溶性有機溶剤はインクの乾燥防止剤としても機能するものである。また、必要に応じて更に乾燥防止性や浸透性を有する有機溶剤を加えて調整し、均一に攪拌、調整後に所望の粒径のフィルターで濾過すればよい。
【0026】
インクの調整は、例えば、前記乾燥防止剤や浸透性を有する有機溶剤の添加、濃度調整・粘度調整の他、pH調整剤、界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加する。
【0027】
またインクにおける浸透性は、記録媒体へのインクの侵透性や記録媒体上でのドット径の調整を行うために必要な特性である。浸透性を示す水溶性有機溶剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0028】
本発明の製造方法によって得られた水性顔料分散液を適宜調製することにより、オンデマンド方式、例えばピエゾ方式、サーマル方式等の公知慣用のインクジェット記録用インクに好適に使用することができ、各方式のプリンターにおいて極めて安定したインク吐出が可能となるのである。
【実施例】
【0029】
以下実施例によって更に詳細に説明する。本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0030】
(実施例1)
スチレン(72部)・アクリル酸(10部)・メタクリル酸(13部)、酸化=150mgKOH/g、重量平均分子量7200、からなる樹脂(I)と25℃において重量比で4:1になるように混合した場合、膨潤状態を示すジエチレングリコールを水溶性有機溶剤として実施。
【0031】
樹脂(I)20質量%、水酸化ナトリウム2.14質量%と水からなる樹脂水溶液(II)を用いて。
・樹脂水溶液(II):20部
・カーボンブラック#960(三菱化学株式会社製):10部
・ジエチレングリコール:10部
・精製水:10部
・ジルコニアビーズ(1.25mm径):400部
の組成の仕込みを行った後、ペイントシェーカーを用いて3時間攪拌を行い水性顔料分散液(III)を得た。この水性顔料分散液の体積平均粒径は78nmであった。この水性顔料分散液(III)について60℃、72時間の加速安定性試験を行ったところ、体積平均粒径は76nmであった。粒径変化の粗大化、凝集、および沈降物は認められなかった。
【0032】
次に、水性顔料分散液(III)20部にグリセリン5部、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル5部、精製水70部を加え混合した後、0.5μmメンブランフィルタでろ過し、インクジェット記録用水性顔料インクとした。得られた水性顔料インクは凝集もなく良好な分散性を示した。このインクは60℃、72時間による加速安定性試験後も粒径の粗大化、凝集および沈降物は認められなかった。
【0033】
サーマル方式インクジェットプリンタ(HP社製DesignJet 2500CP)を用いた印刷試験では、製造直後および加速安定性試験後のいずれのインクでも、ノズル目詰まりはなく安定しており、吐出の不安定も見られなかった。また、インク500gによる連続印字試験後もノズル目詰まりなく、吐出の不安定も見られなかった。
【0034】
(実施例2)
スチレン(72部)・アクリル酸(10部)・メタクリル酸(13部)、酸化=150mgKOH/g、重量平均分子量7200、からなる樹脂(I)と25℃において重量比で4:1になるように混合した場合、膨潤状態を示すジエチレングリコールと1、5−ペンタンジオールを水溶性有機溶剤として実施。
【0035】
樹脂(I)20質量%、水酸化ナトリウム2.14質量%と水からなる樹脂水溶液(II)を用いて。
・樹脂水溶液(II):20部
・カーボンブラック#960(三菱化学株式会社製):10部
ジエチレングリコール:5部
1、5−ペンタンジオール:5部
・精製水:20部
・ジルコニアビーズ(1.25mm径):400部
の組成の仕込みを行った後、ペイントシェーカーを用いて3時間攪拌を行い水性顔料分散液(IV)を得た。この水性顔料分散液の体積平均粒径は84nmであった。
【0036】
この水性顔料分散液(IV)について60℃、72時間の加速安定性試験を行ったところ、体積平均粒径は83nmであった。粒径変化の粗大化、凝集、および沈降物は認められなかった。
【0037】
次に、水性顔料分散液(IV)20部にグリセリン5部、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル5部、精製水70部を加え混合した後、0.5μmメンブランフィルタでろ過し、インクジェット記録用水性顔料インクとした。得られた水性顔料インクは凝集もなく良好な分散性を示した。このインクは60℃、72時間による加速安定性試験後も粒径の粗大化、凝集および沈降物は認められなかった。
【0038】
サーマル方式インクジェットプリンタ(HP社製DesignJet 2500CP)を用いた印刷試験では、製造直後および加速安定性試験後のいずれのインクでも、ノズル目詰まりはなく安定しており、吐出の不安定も見られなかった。また、インク500gによる連続印字試験後もノズル目詰まりなく、吐出の不安定も見られなかった。
【0039】
(実施例3)
スチレン(72部)・アクリル酸(10部)・メタクリル酸(13部)、酸化=150mgKOH/g、重量平均分子量7200、からなる樹脂(I)と25℃において重量比で4:1になるように混合した場合、膨潤状態を示す1、5−ペンタンジオールを水溶性有機溶剤として実施。
【0040】
樹脂(I)20質量%、水酸化ナトリウム2.14質量%と水からなる樹脂水溶液(II)を用いて。
・樹脂水溶液(II):20部
・カーボンブラック#960(三菱化学株式会社製):10部
・1、5−ペンタンジオール:10部
・精製水:20部
・ジルコニアビーズ(1.25mm径):400部
の組成の仕込みを行った後、ペイントシェーカーを用いて3時間攪拌を行い水性顔料分散液(V)を得た。この水性顔料分散液の体積平均粒径は86nmであった。
【0041】
この水性顔料分散液(IV)について60℃、72時間の加速安定性試験を行ったところ、体積平均粒径は84nmであった。粒径変化の粗大化、凝集、および沈降物は認められなかった。
【0042】
次に、水性顔料分散液(V)20部にグリセリン5部、ポリオキシプロピレングリセリルエーテル5部、精製水70部を加え混合した後、0.5μmメンブランフィルタでろ過し、インクジェット記録用水性顔料インクとした。得られた水性顔料インクは凝集もなく良好な分散性を示した。このインクは60℃、72時間による加速安定性試験後も粒径変化、沈降物は認められなかった。
【0043】
サーマル方式インクジェットプリンタ(HP社製DesignJet 2500CP)を用いた印刷試験では、製造直後および加速安定性試験後のいずれのインクでも、ノズル目詰まりはなく安定しており、吐出の不安定も見られなかった。また、インク500gによる連続印字試験後もノズル目詰まりなく、吐出の不安定も見られなかった。
【0044】
( 比較例1)
樹脂(I)と25℃において重量比で4:1になるように混合した場合、溶解性示し均一な樹脂溶液となるプロピルプロピレングリコールを水溶性有機溶剤として実施例1と同工程で水性顔料分散液(VI)を得た。体積平均粒径は90nmであった。この水性顔料分散液(VI)は60℃、72時間の加速安定性試験後に沈降物が認められた。体積平均粒径は108nmであり粒径変化が認められた。
【0045】
次に、実施例1と同処方でインクジェット記録用水性顔料インクとした。このインクに60℃、72時間の加速安定性試験後を行ったところ沈降物が認められた。体積平均粒径は98nmであった。サーマル方式インクジェットプリンタ(HP社製DesignJet 2500CP)を用いた印刷試験は、製造直後のインクでの画像特性は良好であるものの、加速安定性試験後のインクでは吐出は不安定で画像均一性に劣る画像であった。
【0046】
( 比較例2)
実施例1で用いた水溶性有機溶剤ジエチレングリコールと重量比で4:1になるように混合した場合、均一な溶解性を示す樹脂ジョンソンポリマ社製樹脂J682(St/AA/α−メチルスチレンの共重合体)酸価=235mgKOH/g、重量平均分子量=1600を用いて、実施例1と同工程で水性顔料分散液(V)を得た。体積平均粒径は326nmであった。この水性顔料分散液は60℃、72時間の加速安定性試験後に凝集および沈降物が認められた。
【0047】
(比較例3)
実施例1で用いた水溶性有機溶剤ジエチレングリコールと重量比で4:1になるように混合した場合、均一な溶解性を示す樹脂ジョンソンポリマ社製樹脂J680(St/AA/α−メチルスチレンの共重合体)酸価=215mgKOH/g、重量平均分子量=3900を用いて、実施例1と同工程で水性顔料分散液(V)を得た。体積平均粒径は118nmであった。この水性顔料分散液(VII)は60℃、72時間の加速安定性試験後に沈降物が認められた。体積平均粒径は124nmであり粒径変化が認められた。
【0048】
次に、実施例1と同処方でインクジェット記録用水性顔料インクとした。このインクに60℃、72時間の加速安定性試験後を行ったところ沈降物が認められた。体積平均粒径は121nmであった。サーマル方式インクジェットプリンタ(HP社製DesignJet 2500CP)を用いた印刷試験は、製造直後のインクでの画像特性は良好であるものの、加速安定性試験後のインクでは吐出は不安定で画像均一性に劣る画像であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレンモノマー及び(B)酸基を有するモノマー成分を含む共重合樹脂と、水溶性有機溶剤と、顔料とからなる水性顔料分散液において、
さらに前記共重合樹脂の酸価に対する中和率が40〜120モル%となるアルカリ剤を含有し、
前記共重合樹脂中の(A)スチレンモノマーと(B)酸基を有するモノマー成分との質量比率が(A):(B)=9:1〜6:4であり、
かつ前記水溶性有機溶剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキサンジオールからなる群から選ばれる多価アルコールであって、
25℃で該樹脂が該水溶性有機溶剤と、重量比で1:4になるように混合されたとき膨潤状態を示すような樹脂と水溶性有機溶剤の組み合わせを用いる
ことを特徴とする水性顔料分散液。
【請求項2】
前記アルカリ剤はアルカリ金属の水酸化物である請求項1に記載の水性顔料分散液。
【請求項3】
酸基を有するモノマー成分が水溶性モノマーであることを特徴とする請求項1または2に記載の水性顔料分散液。
【請求項4】
共重合樹脂中の〔(A)スチレンモノマー+(B)酸基を有するモノマー成分〕の含有率が50〜100質量%であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水性顔料分散液。
【請求項5】
共重合樹脂の酸価が60〜300mgKOH/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の水性顔料分散液。
【請求項6】
前記水溶性有機溶剤がジエチレングリコールまたは1,5−ペンタンジオールである請求項1〜5のいずれかに記載の水性顔料分散液。
【請求項7】
水溶性有機溶剤の存在下で、(A)スチレンモノマー及び(B)酸基を有するモノマー成分を含む共重合樹脂、及び前記共重合樹脂の酸価に対する中和率が40〜120モル%となるアルカリ剤を用いて顔料を水中に分散させてなる水性顔料分散液の製造方法において、前記共重合樹脂中の(A)スチレンモノマーと(B)酸基を有するモノマー成分との質量比率が(A):(B)=9:1〜6:4であり、前記水溶性溶剤が多価アルコール類であり、かつ25℃で該樹脂が該水溶性有機溶剤と重量比で1:4になるように混合されたとき膨潤状態を示すような樹脂と水溶性有機溶剤の組み合わせを用いて分散を行うことを特徴とする水性顔料分散液の製造方法。
【請求項8】
前記水溶性有機溶剤がエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、及びヘキサンジオールからなる群から選ばれる多価アルコールである請求項7に記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項9】
前記水溶性有機溶剤がジエチレングリコールまたは1,5−ペンタンジオールである請求項8記載の水性顔料分散液の製造方法。
【請求項10】
請求項7〜9記載の製造方法により製造される水性顔料分散液を用いて製造されたことを特徴とする、インクジェット記録用水性顔料インク組成物。

【公開番号】特開2013−10959(P2013−10959A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−174910(P2012−174910)
【出願日】平成24年8月7日(2012.8.7)
【分割の表示】特願2001−263667(P2001−263667)の分割
【原出願日】平成13年8月31日(2001.8.31)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】